転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
夜。砂嵐が来るとは思っていたが、それはアビドスの生徒達の予想以上に激しいものとなっていた。これだけの勢いならカイザーも仕掛けられないだろうと判断し、各々、翌日に始まるであろう戦いのために休息を取っていた。
「参ったな」
そんな中、夜の教室に一人の少女がいた。それは、ホシノだった。普段、後輩達や先生に見せていたユルそうな雰囲気はすっかり鳴りを潜めており、どこか自嘲の笑みを浮かべていた。
「これじゃあ、黒服の提案なんて受ける意味がなくなっちゃった」
「……黒服って?」
「!なんだ先生……いたんだ」
ふと、耳に届いた先生の言葉に少しだけ驚いたように振り向く。風の音で足音が聞こえなかったのかもしれない。或いは、それだけ自分が動揺しているのかもしれない。そんなことを考えながら、ホシノが先生を見ると、その手に一通の封筒が握られていることに気付く。
「……ああ、それ。何となく察してたけど見つけちゃってたんだ」
「ホシノ、この退学届は―――」
それは、ホシノの名前が書かれていた退学届だった。まだ印は押されていないが、それだけ受理されれば、ホシノはアビドスの生徒ではなくなるという書類。それをばつが悪そうに見ていたホシノは、首を横に振る。
「……それは使わない。ゲヘナとミレニアムも巻き込む大騒ぎになりかけてるし……それに、あの人……ミレニアムの会長ちゃんの言ってることが本当なら、あの契約の本当の目的ってこうだったんだなってわかっちゃったし」
「……契約って、ホシノを退学させること?」
「そうだよ……まあ、他の学校の人には話さないでほしいんだけどさ。先生はさ、ゲマトリアって知ってる?」
ホシノの言葉に首を横に振る。そういう存在がいることは初めて聞いた。
「キヴォトスの外から来たっていう大人……達なのかな?まあ、少なくとも私に取引を持ち掛けてた奴は大人だった。黒服って呼んで、あいつも何か気に入ったのかそう名乗るようになってる。私が学校を辞めて、カイザーに所属すれば借金の半額を無くすって。結構前からそういう誘いを受けてたんだよね」
「それは……!」
「昼間、私だけ来るの遅かったでしょ?その時もこの話をしてたんだよ。まあ、カイザーの連中がどこかへ向かってるのが見えたから話を切り上げたんだけど……」
ホシノから聞いた話に先生は驚いてしまう。まさか、カイザーがそのようなことをしていたとは。少なくとも、ゲマトリアの黒服なる存在はそういう取引をしていて、カイザー側もそれを了承していたようだ。
「でも、考えてみれば簡単なことだよね。カイザーは私達から受け取った金をヘルメット団や便利屋に流してアビドスを襲わせて廃校にしようとしてた。あいつらは学校が潰せればいいだけでお金なんかに最初から興味はなかった。私が学校から消えればどんな条件でもどうでもよかったんだ」
元々アビドスの借金返済能力に期待などしていなかったのだろう。借金全額と言わなかったのは黒服が取引をできるだけ怪しまれないようにという方便なのだろう。そして借金を半額肩代わりするというのも嘘ではないだろう。その直後に学校が消滅するから返済する必要がなくなるというだけで。
「……でも、私がいなくなったら学校自体が消える。その状況を作りたかった。これがカイザーと黒服の狙いだったんだよね……あはは、やっぱり私もモルフォちゃんのこと言えないなぁ、すっかり騙されちゃってた」
言いたいことを一通り言えたのだろう、その顔は普段見るようなユルい雰囲気に戻っていた。
「じゃあ、これはもう必要ないんだね」
「うん、それにこの状況で私が消えちゃったらミレニアムとゲヘナがアビドスに何するかなんてわかんないし。それ、きっとシロコちゃんが見つけちゃったんだろうけど、他の人に見られても困るし先生の方で捨ててもらえないかな」
「わかった」
そう言うと、先生は退学届をその場で千切ると、それを無造作にポケットにしまう。先生としても、偶然とはいえ手に入れてしまったホシノの退学届の使い道がなくなったことに安堵した様子を見せる。
「それにしてもミレニアムの会長ちゃんはしっかりしてて偉いよねぇ……痛いところをズバズバ言ってくれちゃってさ。おじさんとは大違いだよ。やっぱり皆の上に立つ人ってああいう感じなんだねぇ」
自嘲するように笑いながらホシノは、リオとの会話を思い出す。思うところは当然あったが、それでもリオの言葉を否定できるだけの材料はホシノ達には存在していなかった。だが、リオはそれらの情報を揃えた上でその先。この一件をどうすれば効率よく解決できるかを提示してみせた。その様子は、自分から見れば完璧な人間のようにも見えてしまう。
「ホシノも頑張ってるよ。確かに、こんな大事な事をずっと黙っていたことは悪いことだけど……でもホシノも、アビドスやシロコ達の事を考えて動いていたんだよね」
「うへ……そう言ってくれるんだ」
「リオとホシノは違うよ。どちらにも良いところはあるし、足りないところもあるんだ。それはホシノと他の対策委員会の皆だってそうだよ。だから、一人じゃなくて皆で解決しよう。今のアビドスがあるのは、間違いなくホシノがいたおかげだからさ。そこまで自分を卑下しなくてもいいんだよ」
「皆で……」
そんなホシノを窘め、諭す。ホシノだって頑張ってここまでやってきたのだ。それはリオと違うからこそ、このアビドスがここまで残っていた証なのだと。それを聞いたホシノの表情が明るさを取り戻す。
「……そっかぁ……へへ、ありがとうね先生……っ!?」
「ホシノ……?」
「誰かが校庭に入ってきた」
「っ!?」
どことなく感じた恥ずかしさから校庭へと視線を逸らしたホシノの目に、外套を纏った四人組が砂嵐の中を突破して校庭に入ってきた様子が目に入る。
「まさか、カイザーの……?」
「たった四人で……?いや、まさか校舎に何か仕掛ける気?」
「一旦皆を起こして―――」
「……待って、誰かが教室から出てきた」
砂嵐の勢いが先ほどよりは弱くなったからか、校内からの音も聞こえてきた。誰かが教室から出てきて、廊下を歩いている。二人が廊下に顔を出すと、モルフォが装備を背負った状態で階段を下りていく姿があった。
「まさか、モルフォちゃん……一人で奴らの相手を?」
「ホシノ、モルフォを止めてきて。私は皆を起こしてくる」
「わかった……先生、気を付けて」
二人は互いにやるべきことを話し合うと、分かれて行動する。そして先生が生徒たちが休んでいる教室に入る。
「皆、誰かが学校に来たみたいなんだ、もしかしたら敵かも―――」
「それなら大丈夫よ、先生。彼女たちは援軍だから」
「……え?」
敵襲を知らせようとする先生に、ヒナが静かに告げる。先生が驚いたような表情を浮かべていると、
「モルフォがそういう知らせを受け取った。だから迎えに行っている……それだけなんだけど……」
「じゃ、じゃあホシノは―――」
瞬間。下の階から何かが激突する激しい戦闘音が響き渡り、先生とヒナは顔を見合わせるのだった。
★
(どうしてこうなった!?)
廊下で激しい戦闘が行われている様子を見ながら、モルフォはシールドを構えながら唖然となっていた。目の前では盾とショットガンを持つホシノと、外套に包まれた少女が鎖で繋がれた二丁のサブマシンガンを使って激しい戦闘を行っていた。少女はサブマシンガンを乱射しながら果敢に接近戦をホシノに挑み、ホシノはそれを的確に捌きながら隙あらばショットガンを撃ち込んでいく。
「へっ……やるじゃねえか」
「そっちこそ……ただの侵入者がここまでやるとは思わなかったよ。随分骨があるんだね」
少女の方はホシノのガードが完璧だったのもあって有効打は与えられていないようだが、少女の方もダメージは今だにない。精々校舎の壁や床に弾丸の痕があるぐらいか。
(止めたいけど変に言ってどっちかが怪我されたらいやだし……)
というか、砂嵐から逃れるために外套を用意してきたのだろうが、あの身長と得物はネルしかありえない。それに、C&Cが校舎に到着したことを連絡してきたため、その迎えに来たのだから間違いなくこの四人がC&Cのはずなのだ。しかし、降りてきた自分を咎めようとしたホシノが腕を掴んできたところをネルたちに見られてしまった。
当然、ホシノとしてはモルフォが応戦しようとしているように見えたためそれを咎めようとしただけなのだろうが、そのホシノがネルとモルフォの間に割って入ったのを見て、ネルの方が後輩をどうにかしようとしている存在と見たのか。それともこれを建前に戦いたいと思ったのか。いずれにせよ、ホシノに喧嘩を売ってしまったのだ。
「……」
近くの教室に避難し、顔を出してネルとホシノの戦いの行く末を見守る三人を見る。三人ともどういう状況なのかわかっているだけに、ネルの好きにやらせようとしているのだろうが、モルフォとしてはたまったものではない。と、
(……アスナ先輩?)
外套を外したアスナがモルフォに笑いかける。それを見て、合図を出そうとしていることに気付いたモルフォは、じっとそのタイミングを待つ。そして、
「ヒナ!」
「モルフォちゃん!」
「うおおおおおお!!」
アスナの声と、階段を下りてきた先生の声が同時に響く。それを合図として飛び出したモルフォとヒナがホシノとネルの間に割って入り、ヒナが自分の銃でホシノのショットガンの銃口を逸らす形で止める。対してモルフォもネルの蹴りを盾で受け止め、同時にサブマシンガンの鎖部分にハンマーをひっかけてそのまま回転させて鎖を巻き取る。それによってネルの銃口が引っ張られてあらぬ方向を向き、それを合図としたかのように二人の動きも止まる。
「……風紀委員長ちゃん?何やってるの?」
「モルフォ、お前もちっとはやるようになったじゃねえか」
「冗談やめてくださいよネル先輩……これだってアスナ先輩が合図を示してくれてやっとなんですから。二回目は無理です……それに、なんでこんなことを……」
「ガン飛ばしてきたからな。喧嘩を売られちゃ買わなきゃ失礼だろうが」
「……」
ここでホシノも、目の前の少女たちがリオが派遣してきたC&Cのメンバーだと気付いたようだ。それを知っていた先生とヒナ、そしてアスナの合図でモルフォがどうにか止めに入ってきたというところか。
「ま、引っかかるところはちょいとあったがそれなりに楽しかったぜ?任務じゃない時にもっと自由に戦いたいもんだな、ホシノとか言ったか?」
「……はぁ。おじさんそんなバトルジャンキーじゃないんだけど……」
ネルの喧嘩に付き合わされたことを悟り、疲れたように呟くホシノ。ネルの獲物を見つけたような鋭い眼光がホシノとヒナに突き刺さる中、外套を脱いだアスナが先生に近づいてくる。
「ねえねえ、あなたがシャーレの先生でしょ?うわー凄い!本当に大人の人なんだ!」
「君達が……C&Cでいいのかな?」
「そうだよ!」
「初めまして先生。まずはお近づきの印にこちらを……」
続けて外套を外したアカネが先生にUSBメモリを手渡す。それを困惑した様子で見ていた先生だったが、
「い、今の音何……って、あ!?メイド部だ!!」
「ほ、本当だ……!助けが来てくれたんだ!」
「わァ……あ……!」
階段からモモイ達が顔を出し、ネルたちの姿を見つける。その様子を見て、やっとネルが視線を外したため、ホシノも武器を収めて溜息を漏らす。
「はあ、無駄に疲れた……」
「……同情するわ」
「……うん、ありがと……」
先程まで先生と大事な話をしていたことと、ネルとの戦いが茶番だと判明したことによって思ったより精神的に疲労を感じていたのか、ヒナからかけられた言葉に、何かを言い返す気力もなく、ホシノは頷くのだった。
★
その後、先ほどの戦闘で全員が目を覚ました教室に戻り、C&Cも含め自己紹介を一通り終えたところで、モモイとミドリがネルたちを見る。
「あの……私達、助かるんですか?」
「ええ、もう大丈夫ですよ。とはいえ、明日は事が終わるまでここに隠れてもらった方がいいと思いますが……」
「え!?朝になったらすぐ帰れるわけじゃないの!?」
「さすがに……砂嵐もないのにカイザーの目を盗んで移動はちょっと……」
「まあ、そうするよりこっちの方が面白そうだし!」
まあ言われてみれば当然なのだが、やはり帰れるわけではないようだ。しかし、アスナがこっちの方が面白そうと言ったのは、直感によるものなのか。それを考えていると、ネルがモルフォを見ていることに気付く。厳密には、モルフォの後ろに隠れているユズだが。
「……」
「そこの奴は何で隠れてるんだ……」
「リーダーが怖いからじゃない?」
「んだと!?」
「ま、まぁまぁ……ユズは人見知りな所もありますし、今はいっぱいいっぱいなので……」
(そ、そんな風に見えなかったけど……)
(やるときはやるタイプなんだろうね)
「……こ、これは!?」
そんなユズの様子を便利屋達が見ていると、先生から受け取ったUSBを解析していたアヤネが驚愕の声を漏らす。C&C以外の全員がアヤネを見る中、アヤネはC&Cがくれた情報を発表する。
「これは……カイザーコーポレーションが行っている不正の証拠の数々です……!でも、なんでこれを……」
「……それは先生に使ってほしいと会長に言われています」
「……成程ね。ミレニアムが発表するんじゃなくてシャーレが連邦生徒会に告発する形で発表してほしい、ということだね」
アカネが告げた、リオの計画。それはこのキヴォトスにおける全ての学園に対し、中立の立場を掲げるシャーレが企業の不正の証拠を告発するというものだった。連邦生徒会直属の組織であるシャーレがこの情報を明らかにすれば、連邦生徒会もカイザーコーポレーションに対して動かざるを得なくなる。それだけでなく、カイザーからミレニアムに向けられるヘイトもなくなるだろう。だがそれは、カイザーがシャーレを恨む理由になってしまい、いわばシャーレを人柱にするかのような行動でもあるのだ。だが、先生は一切躊躇うこともなく頷いてみせる。生徒達を守るために。
「わかった、この情報は私が預かるよ。だから君達がミレニアムに戻った後、リオに伝えてくれないかな。君が信じてくれた通り、やり遂げてみせるって」
「……そうか。ま、伝えといてやるよ」
「それなら先生。後でゲヘナの諜報部が掴んでるカイザーに関する情報も提供するわ。それも使ってちょうだい」
「……であれば、私達が掴んだカイザーの不正な金の流れも一緒に出せますね……」
そしてここぞとばかりにヒナも便乗し、その流れを見て、アヤネもアビドスが先日入手したというカイザーの不正の証拠を先生に託すことにする。これで、戦いが終わった後の準備はできたといってもいいだろう。
「……凄い大事になっちゃったね……」
「私達、ご飯食べに来ただけなんだけど……でも、大人しく待ってるしかないんじゃないかな……あの時は先生が指揮してくれたから動けたけど……」
「……それでいいのかな……」
「モルフォ?」
そんな中、ゲーム開発部とモルフォは話に置いていかれていたように座っていた。実際のところ、この四人は終始ただの被害者でしかなく、対策委員会やゲヘナ、そしてC&Cのように自分達から戦いに行くという理由もないのだ。だがモルフォは納得いかない様子だった。そして、
「……よし、決めた。ネル先輩、私にも何か手伝わせてください」
「お?」
「「「モルフォ(ちゃん)!?」」」
モルフォがネルに手伝いたいと申し出る。当然、モモイ達は驚きの表情を浮かべるのだが、モルフォの顔を見たネルは続きを促す。
「そもそもこの件がここまで大きくなった原因は私にあります」
「いや、別にあなたが悪いわけじゃ……」
「全部が全部そうじゃないかもしれませんけど、一端は間違いなくあります。そのケジメはつけさせてください」
「……だ、だったら!私もやる!」
「お姉ちゃん!?」
「モモイ!?」
すると、モルフォの言葉を聞いたモモイも少し考えて、自分も手伝うと立ち上がる。それに驚いたのはミドリとユズだ。だが、モモイは両手を握りしめながら声を上げる。
「モルフォは友達だし……それに、未来のゲーム開発部の部員なんだよ!その友達が危険な事に巻き込まれようとしてるのに、黙ってることなんてできないよ!」
「お姉ちゃん……うん、そうだよね。私も手伝います!手伝わせてください!」
「わ、私も……皆のために……!」
それを受けて、ミドリとユズも自分達の意思を示す。それを聞いたネルは面白そうに笑うと、今度は先生に視線を移す。
「おう、いいぜ。先生とやらもそれで構わねえだろ?これで守りを考える必要はなくなったわけだ」
「……四人は、それでいいんだね?」
先生が、改めて四人を確認する。そして、その表情が固いことを知ると、優しく笑いかけながら、その思いを受け止めるのだった。
「わかった。皆で一緒にやろう!」