転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする   作:popoponpon

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アビドス生徒会とアビドス廃校対策委員会

「例えば―――こんなシチュエーションがあったとします」

 

地下生活者の嬉々とした声が聞こえてくる。先生という邪魔者を葬った地下生活者。彼からすればここから先の旅路は全てウイニングランに過ぎないのだろう。

 

「アビドスの生徒達は二分されます。具体的には小鳥遊ホシノと後輩達に」

「……?」

 

いきなりの宣言にモルフォは訝しむような表情を浮かべる。アビドスが真っ二つ、そんなことが本当に可能というのか。それも、ホシノと後輩とは。

 

「ありえない……そう思いですか?残念ながら、小生の力ならば可能となるのですよ。それこそが言わば―――強制介入という力なのですからね。この力は登場人物の思考すら歪ませます。過去の事象と照らし合わせれば、ここでそうなるのであれば過去のこの時はそれを踏まえた動きにならないのはおかしいだろ、そんな矛盾した行動であっても強制介入なら成し遂げられるのです……まあ、普通の手榴弾を爆発させようとして実はこれが世界を滅ぼす兵器でした、なんてその状況下では絶対に起こりえないことは起こせませんが。この空間ならまだしも……肝心なのは人の精神は不確かで揺らぐ存在なので、精神上不可能でも身体上可能ならばいくらでも精神という芯を歪ませて実行させることが可能というわけです」

 

地下生活者が指を鳴らすと、アビドスの地図が地面に出現する。その上に、それぞれの生徒を模ったような木彫りの駒が並んでいく。

 

「さて、そもそもこのような状況に至るには理由が必要です。横断鉄道の契約。それ自体は確かにユメが遺したものではありますが、二年間存在すら知らなかった、アビドスから見ればあってもなくても関係ないものなのです。そんなもの、権利が切れたら私募ファンドのものになると言われたところで、それならばいっそ手放しても問題ないという判断もできてしまう。そう判断してしまえば、最悪学校でただ呑気していればいいのですからね。故に、タイムリミットを設けるのです」

 

そう言うと同時に、スオウを模ったような駒が出現する。ノノミの駒が校舎から出てスオウと遭遇すると、ノノミの駒が倒れてスオウと共に総会会場へと移動してしまう。直後、無数のヘルメット団と思わしき大量の駒や戦車、ヘリの駒が総会会場を中心に出現し、会場を取り囲むように包囲網を作り上げていく。

 

「そのためにスオウには十六夜ノノミを攫ってもらいます。これは後にシェマタの下に辿り着くために必要な、そしてシェマタを起動させるためにも必要なゴールドカードの奪取というフラグを建ててもらいます。そして、総会に出席し、砂漠横断鉄道の権利を手放すと宣言しなければこのまま十六夜ノノミはアビドスから消え、ハイランダーへと強制的に転入させると脅しをかけるのです。これにより、対策委員会は最悪欠席して権利を失ってもいい状況から、十六夜ノノミを助けるために一手を打たなければならない状況に追い込まれてしまうのです。ついでにシェマタの情報についてもアビドスに事前に告げておくのもいいですね。そうすれば、十六夜ノノミの件を抜きにしてもシェマタという問題について対応を迫られることになる」

 

これでは総会に行くのも一苦労だ。ビルの四方を取り囲む軍勢。その内一点をホシノ達は食い破って総会に出席しなければならないのだから。

 

「ですが、これだけでは弱い。しかもモルペウスの加護で小鳥遊ホシノの心を歪ませるには弱い。これだけでは四人で行くということになるだけです。なのでもう一手いれます。その鍵は未覚醒のアヌビス……砂狼シロコ。彼女の短気さを利用し、周りを巻き込んで無理矢理彼女の芯を、心を歪ませ定めた事象に従った行動に収束させます」

 

校舎の一室の中に存在する四つの駒。その内、シロコを模った駒がホシノの駒へと突撃していく。

 

「十六夜ノノミが連れ去られた。その状況は小鳥遊ホシノにとっては予想外であり、同時に相手が誘拐、拉致といった手段も辞さない強硬手段の使い手であることを認識せざるを得ない相手となります。そうなったとき、後輩達を同行させる際に考慮するべきリスクは何か……そう、後輩が新たな人質となりこちらを不利にすること。後輩達の身を案じ、危険から遠ざけ守る手っ取り早い方法はなにか?人質になることはないだろうという実力、十六夜ノノミ以下の実力者の足切りを行うことです。その上で残す後輩達を守るには相応の力を持つ者も必要になる。つまりは人質になることもなく、交渉に立ち会える立場にある自分だけが赴く、砂狼シロコは後輩達を守るために置いていくということです」

「……」

 

そんなことになるわけがないだろう、こんな状況だ。アヤネ達だってホシノを一人で行動させないようにするだろうと。そうモルフォは言いかけて、地下生活者がやった介入がもたらしたシャーレの爆破、そして誘拐された自分という結果を思い出してその言葉を呑み込む。地下生活者の能力に抗う術は今の自分にはない。ぎゅっと、拳を握りながらモルフォは無言のまま、目の前で動く駒の数々を見るしかない。

 

「ですが、ここで砂狼シロコの短気さが牙を剥きます。本質を見極めず、噛みつくことで話し合いを終わらせる……いや、終わらせてしまうことで、この対立は決定的なものとなってしまう。小鳥遊ホシノの中で、唯一人質にならないだけの実力があると判断でき、説得できたはずの砂狼シロコは自らその権利を投げ捨てたわけです。だってそうでしょう?砂狼シロコは、交渉を途中で中断して相手を攻撃する、という大人の集団である企業を相手にするにしてはあまりにも致命的すぎる欠点を晒してしまったのですから」

 

企業とは私兵との戦いだけで終わりではありませんからね、そう言いながらホシノの周りにいた後輩達三人の駒を倒していく。おそらくはシロコに後輩達が便乗してホシノを一人で行かせようとするのを止めようとしていた、ということだろう。

 

「実力面で三人は足切りされ、交渉というテーブルを蹴り飛ばした砂狼シロコはその権利を失った。少なくとも小鳥遊ホシノであれば意見を違えようとも交渉が決裂するまでは待ちますからね。学生同士の対話であればともかく、企業相手に話を途中で打ち切って殴りかかったのと、最後まで話したけど平行線だったから対立した、はあまりにも話が変わってきます……ま、こういう感じにしておけば比較的容易に精神を歪ませて分断させられるでしょう」

 

後輩達と別れ、ホシノは一人、総会の会場へと向かっていく。その様子を見ていた地下生活者はどうでもよさそうに次の言葉を続ける。

 

「その結果、辿り着くことができるのか否か……まあ、そこはどうでもいいのですが」

「……?」

「大事なのは絶望させること。彼女は動き、選択したが何も得られなかった……むしろ、失ってしまった。その結果が大事なのです。過程は大事ですが、結果が伴ってさえいるのならばどうでもよいのです。どうせこの総会はシェマタを手に入れようと目論むカイザーがネフティスと私募ファンドを纏めて潰し、その権利を奪い取った……ところをさらにスオウにひっくり返される流れにしますから。ここに小鳥遊ホシノが現れてどんな行動を取らせようと、スオウをシェマタの方へ行かせますからあまり意味はありません……まあ、ここはかなり相手に好意的に解釈して進めていきましょう。最悪を想定して動かせば、イレギュラーな事態が起こった時に対応しやすくなりますから」

 

生徒達の動きをただの駒としか見ない地下生活者。ここまでの全ての筋書きを、地下生活者はこの人物なら、このキャラなら性格上、この状況であればこう動く、というやり方で回していない。自分はこう望んでいるからこう動かす、そう言わんばかりの、まさに話でキャラを動かすという逆転現象だ。この話をモモイやシュロ、ミヨあたりが聞けば全力で地下生活者にシャイニングウィザードでも叩き込んでくれるだろう。というかしてくれねえかと思いながらも、モルフォは話を垂れ流す地下生活者を見ることしかできない。

 

「無事防衛線を突破し、途中でカイザーが差し向けたジェネラルとその配下の部隊も食い破り総会に辿り着けた小鳥遊ホシノ。後輩達も彼女がボロボロにした防衛線を通過することで辛うじて会場に辿り着けたという仮定で話を進めていきましょう。さて、スオウはここから大オアシス駅へ向かい、そこから生徒会の谷へと向かいます。そこにシェマタがあるからですね」

 

対策委員会の駒が全て総会のビルに移動され、スオウの駒がそこから遠く離れた駅へと一旦移動する。そこからシェマタと思わしき巨大な戦車の像の下へと移動させられる。

 

「この時、スオウは小鳥遊ホシノに来なければシェマタをアビドスの外へ出すと警告しました。それを聞いてしまった小鳥遊ホシノはスオウの誘いを受けざるを得なくなり、一人で向かうことになる。ま、別に人数は指定されていないし、相手は企業ではなくスオウ個人になったので後輩達が捕まったり交渉することもないので一緒に行ったところで何も問題はないのですが……まあそれでは不都合なので小鳥遊ホシノには皆は無関係、過去の因縁は一人で全部解決するんだとか色々理由をつけてもらって一人で先走ってもらいます」

 

ホシノはスオウの後を追うように移動し、シェマタの前でスオウと対峙する。その後を対策委員会の四人の駒が追いかけるように移動を始める。

 

「スオウは因縁を持っているようでしたので、まあここは戦わせてあげるとしましょうか。それぐらいのお遊びは許されるでしょうし、小生の操り人形として振る舞い続けていたことに対する対価としては十分です。まあスオウ程度で勝てるとは思いませんが……」

 

スオウの駒がその場で倒れ転がっていくと共に後輩達の駒が辿り着く。それを見て地下生活者は少しだけ考え込むが、やがてこれでいいかと頷くと、

 

「さて、ここで……まあ、追いつけるとは思いませんがとりあえず方法はおいといて追いついたことにしておきましょう。小鳥遊ホシノに追いついた後輩達はシェマタを壊そうとする先輩を止めます。一人で壊させ、責任を取らせるわけにはいかないと……まあ、そんな身内同士の争い、先に危険物のシェマタを壊した後にいくらでも小競り合えばいいだけですし、争い自体本来は発生するわけがないのでここも介入して、シェマタを破壊する前にこのイベントをずらしましょう」

 

再び、ホシノの駒だけが残り、後輩達の駒が倒れていく。が、その間にスオウの駒が起き上がり、シェマタへと向かっていく。そしてシェマタと共にスオウが走り出してしまう。

 

「この戦いの時間を利用し、スオウには復帰してもらってシェマタを動かしてもらう……後はアビドスを吹き飛ばし、小鳥遊ホシノの前で次々と大切なものが壊れていく様子を見せつければ大体なんとかなるでしょう。どの程度の影響が出るかわかりませんが他の学園も壊してもいいですし」

 

シェマタの動きに連動するかのように、キヴォトスの地図のあちこちが燃え上がっていく。それによって全てが燃え尽きた後、再び駒と地図が修復されていき、場面はホシノ達が総会のビルにいる所まで戻る。

 

「続けて後輩達がスオウを追いかけようとするホシノを説得できた場合のパターン……といってもまぁ、これは考察するだけ無駄ではありますが。スオウを動かし、後輩達と合流した時点でシェマタを稼働させ、彼女達が追いつく前にアビドスを滅ぼす。そしてホシノに一人で来ればスオウがこんな凶行に出ることは、アビドスが滅びることはなかったという事実を突きつけさせればいいわけですからね。ただ一人で来てくれた方が刻めるのでこちらの方が好ましいのですが」

 

結局の所、誰がどんな判断をしようが間違いにできるし、誰も正しくないのだからどうしようもない。地下生活者は嘲笑いながら、いつの間にやら昼まで時間が経過し、ヴァルキューレの生徒達が捜査を進めている主亡きシャーレのビルを見る。

 

「ただまあ、この対立構造を一瞬で解消し、第三の選択を提示できる可能性があります。それこそがシャーレの先生が持つ鬼札。故にシャーレの先生は小生の対戦相手足り得るのであり、この鬼札によってアビドスの分裂という小生の描くシナリオの根幹要素の一つを潰されてしまうからこそ、始末する必要があったわけですね……そう、既に先生はゲヘナに協力を依頼しているという鬼札を持っているのですから」

 

自分の判断は大正解であったと自画自賛するようにうんうんと頷く地下生活者。ゲヘナの協力、それが地下生活者の手によって分断されたアビドスをどう修復するというのか。

 

「両者の対立、その根本はアビドスの中でどう責任を取るか。そのやり方の相違でしかないのです。何も後輩達はスオウを止めることもシェマタを壊すこと、それ自体は否定してはいないのですからね。ですが先生が生き延び、両者が対立するその中で現れてしまうとゲヘナもシェマタに関する責任を取りに来ると言ってしまえばその前提が崩壊してしまう。先程小生が介入したシェマタの前で責任云々の小競り合いも同様ですね。先生が先にシェマタを壊して問題を解決してからどうするか考えよう、の一言でも言えば何も問題ないわけで……いやまぁ、ゲヘナの事を知っていて伝えない理由がないのだからそもそもこういうこともあり得ませんか……やっぱり始末して正解ですね恐ろしすぎます。やはり先生は悪だ……!」

 

その疑問に対し、地下生活者は先生を何故先に抹殺しておく必要があったのか、その理由を力説するかのように両手を上げて説明していく。そしてひとしきり説明を終えると、

 

「……さて、仮定の話はそろそろいいでしょう。そろそろ現実に戻る時です……さあ、小生のキャンペーンも、いよいよ後半戦ですよ……!」

 

不敵な笑みを浮かべながら、眼下の景色に目を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

夜。市街地の裏路地に立つスオウの手に、一枚のカードが握られていた。それは、ノノミが持っていたゴールドカード。ノノミはこの時、この一件に関わる実家の執事に呼び出されていた。明かされたシェマタの情報、しかしそれよりもまずは翌昼の総会。それを控え、行方不明となった先生の情報を集めるも不作に終わる中、ノノミはスオウと執事に呼ばれ、彼女達を説得しようと試みていた。だが、その結果はこの有様。執事とスオウに裏切られた彼女は意識を奪われ、スオウに担がれていた。

 

「……これで」

 

ノノミから奪ったそのカードを無感情のまま見つめるスオウ。と、カードを見つめたまままるで意識が飛んでいたかのように立ち尽くす彼女を現実に引き戻すかのように、執事のアンドロイドの男性がホログラムと共に出現し、声をかける。

 

『では、お連れしてください』

 

執事の声を聞きながら、スオウは様々な思惑が絡み合うこの総会の情報を頭の中で整理していた。アビドスの債権をネフティスだけでなく私募ファンドと共に買うことで一蓮托生となった両者。この両者はシェマタが欲しく、そのために砂漠横断鉄道の権利を独占したい。それ故に対策委員会には鉄道の権利を更新してほしくないということを。私募ファンドはそのために大量の兵士を用意した。だがネフティスはさらに別の狙いがあった。

 

シャーレと私募ファンドの激突によって疲弊したタイミングを狙い、漁夫の利を得る。そうすればシェマタも、鉄道も。全てをネフティスが独占し、復活への兆しとなる。が、それはシャーレの先生が対策委員会に合流し、私募ファンドと正面から戦ってくれるという前提での話。その先生が行方不明となり、おそらくは爆発で粉微塵に吹き飛んでしまった現状、ネフティスの計画は成立しない……そう思われた。ノノミをこの場に一人で誘い出したのは、ネフティスにとっても賭けであり、そしてネフティスは勝ったのだ。

 

ノノミという人質を得たネフティスは、対策委員会を脅迫する。総会に出席しなければノノミはハイランダーに消えるということ、そして総会に出席した際は、砂漠横断鉄道を契約したアビドス生徒会に生徒会組織としての実態がなかったことを主張させることで契約を無効にしろと。シャーレの先生がいなくともノノミというカードがあれば、彼女達は私募ファンドと戦い戦力を減らし合うだろう。仮に突破したところで契約が無効になるため列車砲シェマタはネフティスのものに。対策委員会が負ければ残った私募ファンドの兵はネフティスが蹴散らして独占する。どう転ぼうと、列車砲シェマタはネフティスのものとなる。

 

「……ふん……」

 

少し不満げにスオウが溜息を吐く。そして歩き出したその時。何かを感じて咄嗟にスオウがノノミを抱えたままその場から走り出す。直後、彼女が立っていた場所に一筋の光と共に弾丸が撃ち込まれる。

 

「……!?ライフル!?いや違う、これは……!?」

『な、どこから!?』

「ちっ……スコープで遠くから見ていたのか……!?」

 

銃身に弾かれて飛んだ弾。それがエネルギー弾であることに気付き、舌打ちをしながら走る速度を上げる。ライフル弾は狙撃者が陣取っているであろう屋上から、光と共に次々と放たれる。

 

(狙撃手……だが、誰だ?アビドスに狙撃手なんかいない。とすると、アビドスに味方する何者か?いや、それこそありえない)

 

アビドスと関連のある人物を脳裏にピックアップしながら走り抜ける。だが、狙撃手のリストはすぐに全滅する。その理由は、この光を帯びた弾だ。

 

「まさか、私の把握していないアビドスの人間?…………まさか、いや、ありえないな……情報で知る限り、奴はスナイパーライフルなんて使っていない。そもそも生きてすらいないしな……じゃあ誰だ……?」

 

やがて、弾が飛んでこなくなる。狙撃手の射程から逃れたようだ。それを確認したスオウは溜息を吐き、ノノミを背負い直す。この行動を起こした狙撃者には礼をしたいところだが、生憎と今はその暇はない。狙撃者は命拾いをしたなと内心呟きながらスオウは再び歩き始める。

 

「……」

 

その様子を、スコープ越しに見ていた一人の少女は溜息を吐きながら構えていた銃を背中にかける。

 

「……駄目だ、あの子ほどじゃないけどここまでスナイパーライフルを使えるように頑張ってきたのに。このままじゃ、繰り返されちゃう。もうこんな時間になっていたなんて……でも、繰り返しちゃいけない……いけないんだ……皆……」

 

ぎゅっと、制服を硬く握りしめながら、その少女は闇の中に自らの姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「……」」」」

 

アビドスに残っていた四人の下に、ネフティスからメッセージが届けられていた。賢い選択をすることを祈ってます、そう上辺だけは取り繕った言葉を残して通信を切った執事。部屋は無言が支配していた。

 

「……そんな、どうしたら……」

「……アヤネ、先生は来れそうにない?」

「……駄目です。シャーレが爆破されて、それ以降何の情報もありません……先生は、生きているのかどうかも……」

「でも、あの爆発に巻き込まれたんじゃね……もし、生きてるのなら絶対連絡はしてくるはず。あの時みたいにね」

 

シャーレの爆破。それが地下生活者の仕業によるものだと微塵も知らず、ノノミという人質を取られた対策委員会。総会の会場に向かうには、今から出発しないと間に合わない。だが、ノノミの身に起こった出来事は、対策委員会にさらなる混乱を与えていた。

 

「はい、行方不明ということは死んだと決まったわけじゃありません……今はちょっと連絡を取れないだけでこちらに向かっている可能性も考えられます」

「ん……確かに先生なら、きっと大丈夫」

「そ、そうよね……こういう時、きっと先生ならふらっと現れるはず」

「……そんな時間はないんじゃない?」

「……え、ホシノ先輩、何を言って……」

 

そんな中、アヤネ達は先生を待つことにする。ノノミが攫われる最悪の状況、人手も戦力もない今、これを打開して総会に出席するには先生の力が必要だ。幸い、シャーレの爆発で先生が死亡した、といった連絡はまだ入っていない。つまり生きている可能性もあるし、それに賭ける価値は十分あると。だが、後輩達の話を聞いたホシノは頬を掻きながらそれは悪手だろうと言うかのようにゆっくりと口を開く。

 

「さっきも言ったけどさ、こっちに向かってきてるなら爆発に巻き込まれたんだから連絡の一つぐらいするよね?確かにカイザーに誘拐された時みたいに連絡が取れないだけって可能性もなくはないけどさ……さすがにそれは楽観的に考えすぎじゃない?」

「……でも」

「じゃあ、他の学園に連絡を取ればいいじゃない!ほら、列車砲なんてやばい代物、それこそミレニアムに言えば……!」

「……もうやったよ」

「そ、そんな……」

 

先生に頼る選択を選ぶには、今はあまりにも分が悪い。それならミレニアムはどうだとセリカが聞く。ウトナピシュティムの本船を破壊した時、もしアビドスに他にやばい兵器が眠っていたら教えてほしいという約束。それを果たすためにもホシノは既に連絡は取っていたのだが。

 

「口約束とはいえ、やばそうな危険物があったらミレニアムと協力して対処するっていう契約だからね。だから守らないといけないし、それでリオちゃんに連絡しようとしたんだけど、繋がらなかったんだよねぇ……ネルちゃんもだし」

「モルフォちゃんは?」

「リオちゃんに取り次いでもらえないかなーって思って送ったんだけどねぇ……電話もモモトークも両方未読無視だよ」

「……何か、あったのかな……」

 

シャーレの先生が行方不明になり、連絡も取れないまま時間が経過したタイミングでホシノも既にリオに協力を願えないか申し出てはいたのだ。列車砲という明らかにやばい兵器を前にすればリオも反応を示さざるを得ないはずだと。だが、ミレニアムと連絡を取ることはできなくなっていた。おそらくミレニアムもミレニアムで何か、大変な事態に巻き込まれておりアビドスに手を回す余裕がないのだろう。そう判断せざるを得なかった。

 

「だからこれはもう誰にも頼れない。いつ来るかわからない先生を待ってたら、最後まで来ないかもしれない。来たとしても、総会に間に合わずノノミちゃんを失うことになるかもしれないんだったら、もう待つ意味がない」

「……でも、先生もいないのにどうやってあの敵の数を……」

「そうだね。だから、私が一人で行く。それしか道はない」

「はい!?」

「え!?」

 

先生も、他の学園も頼れない。アビドスの面々だけで戦うしかない。そこで、ホシノが下したのはなんと、一人で総会に向かうという選択肢。シロコ達はその宣言に驚き、セリカがすぐに食って掛かる。

 

「無理でしょ!?あんな数、いくらホシノ先輩が強くても一人じゃ……」

「勝てるよ、私なら。まあ、総会に行くだけだから全部は相手にしないけどね。邪魔な奴だけ倒すだけだし」

「だったら、私達も……!」

「それじゃ駄目だよ」

「なんで!?」

「……先生が行方不明だからだよ。もしかしたら本当に来るかもしれない、だとしたら誰かが残らないといけない、でしょ?それに、先生が指揮してくれるならまだしも、先生抜きでこの四人で行くなら私は皆を守りながら行くことになる、でもそれだと行軍スピードが遅くなる。時間をかければかける程、戦力は他からなだれ込んでくる。でも一人ならすり抜けていくだけだからもっと速く行ける……皆、見てると思うけど」

「……ん……」

 

ホシノの対策委員会での役割はタンクだ。後輩達が後方で構え、前方で盾を構えて敵の攻撃を受ける。集団戦ではそう立ち回るしかない。だが、ホシノの本領の一つはその俊敏性だ。かつて、エリドゥでケイとの戦いでネルとコンビを組んで戦ったあの時、ホシノが見せたそのスピードは、間違いなく対策委員会の今の役割、フォーメーションを用いた戦闘では使用できないものだ。何せ、後ろにいる後輩達の前で高速で動き回られたら後ろにいる人たちは照準を定めるどころの話ではないのだから。

 

「だからさっさと行って、シェマタをネフティスに渡してノノミちゃんを連れて帰ってくる」

「……それでいいんですか?シェマタをあいつらに渡したら……!」

「でもノノミちゃんには代えられないよ。これで兵器より後輩を選んだことに文句言ってくるようならリオちゃんはぶん殴るしかないかなぁ……」

「……ノノミを助けたら、どうするの?今度は私募ファンドとネフティスと戦うつもり?」

 

ホシノの実力は垣間見ている。だからこそ、一人なら行けるという言葉には確かに説得力があった。だが、今度はシロコが静かに問いを投げる。

 

「んー……まあ、そうなっちゃうよねぇ?さすがに放っておくわけにはいかないし。でもまあ、後の事は気にしなくてもいいよ。これはアビドス生徒会の問題であって対策委員会には何の責任もないし」

「そ、それってどういう意味!?」

「どういう意味も何も、そのままの意味だよ。さっきも言ったけどみんなはここに残ってさ……」

「……」

「責任取れるのはアビドス生徒会の副会長であるおじさん以外いないからね。他の皆じゃそういう立場にそもそもいない。だからおじさんが出席するわけで……それにまあ、シェマタだってこのままにするつもりもないし、総会が終わったぐらいの時間になればさすがに繋が……」

「ホシノ先輩」

 

ホシノの発言を途中で打ち切るかのように、シロコがホシノに鋭い言葉を向ける。突然のシロコの声音の変化にホシノも少し驚いたような視線を向ける。

 

「ホシノ先輩の言うみんなって?」

「?対策委員会のみんなだよ。シャーレの認可を受けた本当の生徒会組織……まあ、権利も移行したし、あってもなくても問題ないならと思ってたけど、こうなったらアビドス生徒会も未練がましく残しておく必要もないだろうし……」

「……!」

 

そして。シロコはアサルトライフルをいきなりホシノへ向けると、いきなり引き金を引く。放たれた数発の弾丸が先ほどまでホシノがいた場所を通過し、窓ガラスを割る。

 

「ちょっ!?シロコ先輩!?」

「……ちょっと、危ないでしょシロコちゃん」

「……勝負しよう、先輩」

「ちょっ!?」

「勝負!?」

「シロコちゃん?そういうことしてる暇ないんだけど……今から出発しないと総会に間に合わないって言ってたのシロコちゃんだよね……?」

 

この行動はさすがに予想外だったのか、思わずホシノも呆れながらシロコを見る。だが、ギラギラと闘志を漲らせ、アサルトライフルを握るシロコの目は、一切笑っていない。

 

「ホシノ先輩は一人で全部抱え込もうとしてる……私達だって同じアビドスの生徒なのに……」

「うへ……だからおじさんを倒すの?」

「そう。ホシノ先輩に勝ってここに留める。そして先生を待つ。先生が来れば皆でどうにかなる。私達が先生の為に待つならホシノ先輩も待つべき」

「そのどうにかなる方法を聞きたいんだけど……というか参ったなぁ……おじさんに勝つって言われると、おじさんも本気でいくからもし負けたらもう身動き取れないぐらいコテンパンになるわけで……そうしたら絶対ノノミちゃんを助けられなくなるから負けるわけにはいかなくなっちゃったよ」

「大丈夫。その時はホシノ先輩を置いて私達三人で先生と行くから」

「いやぁそれはさ……!」

 

参ったなぁと苦笑しつつうへうへと笑っていたホシノ。しかしその表情が急に引き締められ、扉の方に向けられる。

 

「?やる気になっ―――」

「人が来る。四人」

「「「!!」」」

 

ホシノの言葉に、シロコ達に緊張が走る。すぐに扉から離れ、それぞれ銃を構えて扉へと向ける。バタバタと廊下を走る四つの足音。そして、

 

「皆、大丈―――ひっ!?」

 

扉を勢いよく開け放ち、便利屋68が姿を見せる。直後、シロコが反射的に撃った弾が、本能的に首を傾けたアルの顔のすぐ横を通過し、アルは冷や汗をだらだらと流し始めるのだった。

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