転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
砂嵐も夜明けが近いアビドスの街の中。そこに、一台の車が到着する。その中から現れたのは、他のオートマタと比べても立派なスーツを着ている大柄なロボットだった。スーツの上から砂嵐を受け止める外套を纏って車を降りたそのロボットは、展開されている部隊の指揮官の下へ向かう。
「首尾はどうだ」
「理事。準備は万全です。部隊も三十分前に全ての戦力が到着しました。砂嵐もじきに完全に収まるでしょう。陽が昇り次第、攻撃を開始。アビドスの校舎を跡形もなく消し飛ばし、立て籠もっている生徒達を全て捕獲します」
「それでいい」
理事。そう呼ばれたそのロボットは、ここに展開されている部隊が所属している民間警備会社カイザーPMCの代表取締役を務めている存在でもあった。親会社でもあるカイザーコーポレーションの幹部でもあり、そんな重要な立場に就いているはずの彼がここにいる理由は一つだけだった。
「理事、砂嵐が収まり次第写真を」
「ああ」
自分達の治める土地にて騒動を起こした生徒達を逮捕する。そして、その正当な戦いは理事自ら現場に赴き行われたというアピールをするためだ。理事自らが精力的に動き、裁きの鉄槌を下す。そのアピールをすることで、カイザーコーポレーションに対する愚かな反抗の芽を前もって抑制する動きに繋げられる。
「それにしても笑いが止まらんな。我らの土地で騒動を起こした責任を取ってアビドスは廃校。ゲヘナは便利屋、そして実力者と名高い風紀委員長を倒したという箔が付く。ミレニアムの生徒は交渉材料として使い、ミレニアムが独占している技術を得る手助けになる……そして、シャーレといったか……連邦生徒会も、子供の考える小細工程度でカイザーをどうにかできはしないと悟ることだろうな。そしてアビドスから一人も生徒がいなくなれば、心置きなくあれを探せるというわけだ」
「いやはや、うまくいきすぎて逆に怖いぐらいですよ」
一緒に車に乗ってきたお付きのオートマタと笑い合う理事。元々はアビドスを廃校にするために様々な手を打っていた。そのためにヘルメット団に借金の返済費用を用いた援助を行い、武力的にアビドスを陥落させようとしていた。しかしアビドスの抵抗は強く、シャーレが来たことで状況は一変。度重なるヘルメット団の襲撃によって底をつこうとしていた弾薬や物資が補給され、ヘルメット団は瞬く間に殲滅。そのため、便利屋を代わりに用いてアビドスを陥落させようとしたのだ。
「全くだ。馬鹿で幼稚な子供がいてくれたのは幸運だったよ。その子供のおかげで全てが終わるのだからな」
そんな最中だった。突然、カイザーの土地に存在するラーメン屋をゲヘナの生徒に爆破された、しかもゲヘナの風紀委員がそこで争っていてアビドスの生徒も来て大変な戦闘になっている。助けてほしいという電話が来たのは。通報してきたミレニアムの生徒の要請を受け、正義のためにカイザーPMCは民間人を守るべく出動。今回の事件を引き起こしたゲヘナとアビドスの生徒を拘束するために。しかし、途中でミレニアムの生徒にも原因があることが判明したためそちらも拘束する、とでも適当な名目をつけてその場にいた全生徒を捕まえようとしたのだ。
結局、生徒達を取り逃してアビドスの校舎に籠られてしまったが、一夜という時間はカイザー側が準備するのに十分すぎる時間を与えてくれた。
「神を信じることはないが、こういうことがあるならば今度から願掛けをしてみるのも悪くないかもしれんな」
「日頃の行いですよ、きっと」
「くくく、かもしれんな」
世間話をするかのように話し合う理事達。周囲に展開しているカイザーの兵士たちの雰囲気も、戦闘の始まりを前としたピリピリとした感じとは違い、どこか余裕があるようにも見える。いや、実際余裕なのだろう。相手には何人か実力者こそいるものの、だからといってこの場に揃った戦力の前ではいずれ倒れるはずだ。弾や体力といった限界は誰にでもあるのだから。
「砂嵐が止みました!」
「陽も上がってきました!」
「よし……攻撃開―――!?」
そして、遂にその瞬間が訪れる。圧倒的な火力によってアビドスの校舎を吹き飛ばすべく、指示を出そうとしたその時。
「た、大変です!後方から砲撃が!?」
「何だと―――ぐああああ!?」
「理事!こちらに!一旦避難を!」
「く……!?一体どこから……!」
砲撃はカイザー達の背後から放たれた。オートマタ達の間に放り込まれた砲撃による大爆発の最中、どうにか逃げ出す理事達。オートマタ達は砲撃から逃れるように散開しつつ、砲撃してきた相手を確認する。遠い場所に展開していたその部隊は、
「な……ゲヘナの風紀委員会だと!?」
「なんで奴らが―――ぐあああ!?」
「ど、どうした!?」
「さ、さらに別方向から砲撃が!?」
「せ、戦車が!?戦車がどんどん破壊されています!ああ、パワーローダーも!?」
なんと、ゲヘナの風紀委員会だった。まさか、アビドスにいる風紀委員長を救うために現れたというのか。しかも、カイザーを襲うのはそれだけではない。さらに別の場所からも砲撃が放たれ、それがカイザーの部隊を襲う。今度はどこから攻撃されたというのか。だが、カイザーの部隊にはそれを気にする余裕も残されていなかった。
「ヒフミさん!」
教室に残ったアヤネと先生の目の前に、ホログラムから一人の少女が現れる。何故か目元に穴を空けた紙袋をつけていたが、彼女の正体はヒフミだった。モルフォもこの場にいればおそらく声で気付けただろう。そんな彼女が何故紙袋をつけていて、アヤネがファウストと呼び直したかというと、モルフォたちが合流する前にブラックマーケットでカイザーの不正の証拠を入手するために変装して銀行強盗をアビドスとヒフミがやらかしたという事件があったのだが、その件が明るみになることはないのだろう。
『わ、私はヒフミではありません!覆面水着団のファウストです!そして、こ、これは……トリニティの早朝演習です!ティーパーティーから早朝演習を行うようにという指示を受けました!』
(……ゲヘナも支援しているし、トリニティもそれを知って慌ててそれに合わせたって形か……でも覆面水着団って何……?)
トリニティの名目としてはあくまで軍事演習。たまたまカイザーPMCが巻き込まれてしまったが、元々人気のない自治区を選んでやっていただけだと後で押し通すという思惑があるのだろう。尤も、カイザーにそこを追及されたところで、トリニティもまた、カイザーの黒い話は知っている。
そこを触れられたらカイザーの方が困るだろうから、迂闊にこの事をカイザーが追及するわけにもいかないし、第一それを追及しようとすればその波はゲヘナにも向かう。となれば、トリニティはゲヘナと歩幅を合わせる形でカイザーに共に抗議も可能となる。そうなれば、ゲヘナとトリニティが共同で行動を取ったという結果も残すことが可能となる。それが、ティーパーティーの狙いなのだろう。
それとして覆面水着団とかいう珍妙な名前は何なんだと、思わずカリンが思ってしまうのもある意味当然だった。
(まあ、とにかく……エデン条約……本当に面倒くさいな……)
『―――突撃!』
先生の声が響く。それを合図としたかのように校舎から次々と生徒達が飛び出し、次々とオートマタをなぎ倒していく。
「こ、今度は校舎から生徒達が―――な!?C&Cがいます!?」
「馬鹿な!?俺達が展開している中を通ってどうやって校舎にぐあっ!?」
「え?別にそんなの、見られてないところ通ればいいだけでしょ?」
しかも、その中に何故かミレニアムのC&Cがいるのだから堪ったものではない。どうやって事前にアビドスの校舎に入ったのか。その当然の疑問に対し、オートマタの頭を撃って吹き飛ばしながらアスナが何のことはないといったように言う。だがその声には普段の彼女らしからぬ怒気が含まれていた。
「く……囲め!撃て!奴らを止め……ぐ!?」
「す、スナイパーだ!校舎にスナイパーが……がっ!?」
校舎からはアルとカリンが次々とオートマタ達をスナイプしていく。その後ろでアヤネと先生が皆のサポートをする中、最前線では三つの影が大暴れしていた。
「な、なんだこいつら……!」
「悪いが今、腹の虫の居所が悪くてよぉ……ま、てめえらの自業自得だ!」
「ああいうこと言われちゃうとさぁ……おじさんも結構イラっとしちゃうんだよね。しかもそこまでしてアビドスを潰そうとした目的がよくわからないものを探すため、なんてね」
「予想はしていたけれど……案の定、碌でもない目的だったわね」
「ま、待て!?なんでそれをお前達が知って、がは!?」
最前線で次々とオートマタ達を屠っていくホシノ、ヒナ、ネルの三人。その暴れっぷりは、後方に控える他の生徒達の元にカイザーが近づけない勢いとなっていた。そんな中、一人のオートマタが砂が巻き上げられたことで置かれていたあるものに気付く。それは、いつの間にか置かれていた盗聴器。
「な、なんだこれは!?」
「あら、やっと気付いたようですね。その盗聴器に」
「ど、どうやって置いて……ぐあっ!?」
「砂嵐でまともに視界が利かない中ですから、設置は簡単でしたよ。こちらは絶対見つからない方法もあるので」
昨日の内に、丁度いい位置を狙って設置していたのだ。特に砂嵐が酷いタイミングで配置していたため、ある程度砂嵐が収まってから集結しようとしていたカイザーの軍勢も、設置のタイミングではまだ揃ってはいなかった。だからこそ、昨日の内にアカネ達も設置することが容易であり、そのままカイザーの警戒網を突破して校舎の中へと入りこむことができたのだ。そして、盗聴器があるということは、つまり、あの理事の会話も聞かれていたということ。
『……子供が大人を頼ろうとしたのに、その意思を踏み躙るような行動は、許すわけにはいかないな』
ぽつりと、先生の声が通信越しに漏れる。今、先生の表情を確認できるのは教室に残ったアヤネとアルとカリンだけだが、確認するまでもなく先生の顔には怒りが浮かんでいることだろう。そして、怒りを露わとしているのは当然先生だけではない。ネルたちも完全に怒りに燃えていた。
「この!」
「く……なんだあのガキ、地味だけど鬱陶しい!」
最前線で戦っている三人に交じるモルフォ。とはいえ彼女のこの場での立ち回りは、ネルたちがリロードするまでの間、一時的に敵を抑える役割だ。敵の横やりを防ぎ、リロードする一瞬の時間を稼ぎながら、彼女たちが攻めやすくなるように場を軽く整え、素早く戦線に復帰させる。圧倒的な実力者と、それに及ばずとも手堅いサポーターの組み合わせは、カイザーが容易に崩せるものではなく、時間が経てば経つ程にその兵力も減っていってしまう。
「くそ、せめて一人だけでも……!」
「四人の中で一番弱いのはあの銃を撃ってない奴だ!奴を囲め!」
「っ!」
モルフォに狙いを定めたオートマタ達が近づいてくる。だが、
「モルフォはやらせない!」
「逃げて、モルフォちゃん!」
「助けるよ……!」
それにいち早く気付いたモモイ達がオートマタ達を倒していき、モルフォへの接近を止める。その隙をついてモルフォが敵の包囲網を突破して距離を取り直してから再び皆のサポートのために切り込んでいく。そして遂に、
「て、撤退ー!!」
「くそったれ!こうなるなんて聞いてねえぞ!!」
『逃げるようだね。追撃はしなくていいよ』
カイザーは部隊としては完全に壊滅してしまい、戦う力を失った兵達が這う這うの体で撤退を余儀なくされる。彼らを深追いはしなくていいと先生が指示を出し、這う這うの体で逃げ出すカイザーの兵士たちの背中を見ながら、生徒達は勝利の喜びを分かち合うのだった。
★
「あー……やっと帰れるよー」
「大変な二日間だったね……」
アビドスの駅にくたくたになった様子のモモイ達がいた。その近くには全く疲れを見せていないC&Cの姿があり、彼女たちの前には見送りに来てくれたアビドスの生徒達の姿があった。便利屋はどさくさに紛れて姿を消しており、ヒナや風紀委員会達は既にゲヘナの自治区へ戻っている。さすがに長時間ゲヘナの自治区を空けるのは色々と問題があったらしいのと、部下たちに今回の一件についての処罰を受けさせるために。
「ま、これで奴らも大人しくなるだろうよ。あいつら本当に鬱陶しくてしょうがなかったからな」
徹底的に所有していた戦車などの兵器を次々と破壊され、兵達も大損害を受けた今のカイザーPMCでは撤退するだけで精一杯だった。待機している兵力も存在せず、完全にカイザーPMCが沈黙したため、暫くは動くこともままならない。武力で暴れる時間は終わり、後は先生に任せる形になった。先生へと渡った情報が明らかとなれば、カイザーも動くことができなくなるし、その中でアビドスに再攻撃をしようものならどうなるかは火を見るよりも明らかだ。
「うへぇ、ほんと助けられてばっかりだねぇ……まさかこうなるなんて思わなかったよ……ねえ、モルフォちゃん」
「ごふっ……あの迂闊な行動については弁明のしようもない……」
ホシノにそう言われ、縮こまるモルフォ。結果オーライと言えばそうだが、間違いなく事態を悪化させたのはモルフォの迂闊な行動なのは間違いない。皆がフォローしてくれたりはしているものの、やはり自責の念は消え切ってはいないようだ。
「いやいや、おじさん結構君には感謝してるんだよ?だからさ、あんまり自分を責めなくていいと思うな」
「そう言ってくれると嬉しいです……はい」
「……」
「え、何その目?ネルちゃん凄いおじさんのこと睨んでない?」
「いんや、そのうち機会があったらお前と戦いてえって思っただけだ」
「うへ、疲れるから断らせてもらうね」
「リーダーに目をつけられちゃったね」
そして、校舎での小競り合いやカイザーとの戦いでその実力を見てネルに目をつけられ、やんわりとホシノが断っている中、モモイが何かを思い出したような顔をする。
「あれ、そういえばミドリ、砂漠の撮影してなくない?」
「あ、完全に忘れてたよ……ゲームの資料に撮ろうと思ってたのに」
「そういえばゲーム開発部って言ってたわね。どういうの作ってるの?」
「ん、興味ある」
「え、えっと……」
「ごめんね……?まだ新作は……ちょっとできてなくて」
その言葉でセリカ達も彼女たちがゲーム開発部という部活動だと思い出したようで、どういうゲームがあるのか聞いてくる。とはいえ、今ゲーム開発部が作ったゲームは実のところ一つだけであるし、新作も作らなきゃとは思いつつも全く進んでいないのが現状である。
「そっか、残念」
「ちょっと興味があったんだけど……もしできたらさ、やってみたいんだけどいいかしら?」
「それはもちろん!期待して待っててよ!」
「そのためにもまずお姉ちゃんシナリオ書かないと……」
「新規ファンを確保できたんだからもうやるしかないねぇ」
「ふぐっ……い、いいもん!どうせ作るつもりだったし!作らないとちょっと面倒なことになっちゃうし!」
どのみち現状のゲーム開発部では新作ゲームを作らないといけない事情があるのだ。作らなきゃいけない理由がいくら増えようとそこは問題ない。とはいえこの話を長々と続けるとちょっと痛いところを突かれ続けるようにも思えたのか、モモイは先生にあることを聞いてみる。
「そういえば先生ってこれからどうするの?」
「まだやることはあるからね。対策委員会の正式な認可も取らないとだし、皆がくれたカイザーの不正の証拠も発表しないとだし、それに……」
ゲマトリアの黒服と話をしなければ。内心、そう締めくくりながら少し遠い目をする先生。彼が言葉にしなかったその台詞は、ホシノだけが気付いていたのだった。