転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする   作:popoponpon

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降臨(サモン)

 

「……プレジデント。準備が整いました」

 

陽が暮れ始めた時間帯。アビドスの郊外に存在する、まだカイザーの所有する土地に建てられた建物。そこに兵士たちに囲まれて座っていたプレジデントは部下からの報告に顔を上げる。

 

「揃ったか。アビドスを含めた連中は何をしている?」

「今、校舎の方に先生と共にいるようです。シェマタのある場所はおそらくわからないかと」

「ふむ……」

 

部下の報告にプレジデントは考え始める。シェマタのある場所がわかっていれば、アビドスは確実に壊すはずだ。それを壊しにいかないということは場所をまだ知らないと言うこと。実際はユメが意識を失っていたから行きようがないだけなのだが、それを知らないプレジデントはここでアビドスを先生諸共完全に潰し、シェマタという武力を手中に収めるという計画を考えていた。シェマタの場所はどこにあるかはまだわからないが、そこは決着がついた後は人海戦術で線路を調べ、シェマタに通じる路線を見つけ出せばいいだろう。そう考えながら用意してきた戦力をリストアップしたタブレットの画面を満足そうに見る。

 

「よし、それでは出撃といこうか。先生よ……我々をコケにし続けるとどうなるか、今度こそその身に味わうがいい」

 

その様子を、混沌の領域から観測されているとは知らずプレジデントは高笑いをし続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そういうことね」

 

深いため息を吐きながら、ヒナは状況を呑み込む。別時間軸から現れたユメの存在も驚きだが、今回の事件の背後に存在すると思われる地下生活者なる存在はとても無視できるものではなかった。

 

「まさか、先生が行方不明になったあの一件にこんな裏があったなんて。ゲマトリアは既に壊滅したと聞いていたけど」

 

地下生活者が混沌の領域から行う介入は厄介だ。今回のシェマタに関する騒動も、先生を始末し地下生活者が戦力を確保しようとするための布石に過ぎない。だが、それ以上にヒナは、自分のあずかり知らないところで既に大きな事態が動いていたという事実に険しい表情を浮かべていた。

 

「今のままじゃ地下生活者を直接取り押さえることはできないのね」

「うん。だからまずはシェマタをどうにかしようと思うんだけど……」

「あれを無力化させるのは骨よ。迂闊に壊そうとすれば逆に大爆発を起こして周囲が吹き飛ぶかもしれない」

「……」

「ユメ先輩」

「ひぃん……モルフォちゃんとシロコちゃんがいるからもうやらないよぉ」

 

元々ユメが一人でシェマタを破壊しようとしていた理由はこの世界におけるシェマタに関する問題を一挙に収束させると共に、自分のいた世界の後輩達が全員待っていると思われるあの世に逝くためだ。しかし、この世界にシロコ*テラー、そしてどこかにいるであろうもう一人のモルフォがいるとなれば話は別となる。それに、ユメ自身、地下生活者の話を聞いてあることを考えていた。

 

(もしかして、私のいた世界であんなことになっちゃったのも全部……その地下生活者の……)

『……!?先生!!』

 

と、その時だった。プラナが何かに気付き、鋭い警戒の声を発したその直後。その場にいた全員の脳裏に、一つの声が流れ込んでくる。

 

『―――初めましてですね、先生』

「!?今の声って……」

「まさか、これが……」

『地下生活者です!先生!!』

「……地下生活者……!」

『ええ、小生を知っていただけるとは光栄ですよ』

 

それと共に先生の脳裏に地下生活者の姿が浮かび上がる。他の皆には声だけしか聞こえないが、それでもその声に全員が表情を険しくしていく。先生だけに姿を見せた地下生活者と彼の存在する混沌の領域。だが、先生ははっきりと見た。彼の背後に、傷だらけで倒れるモルフォの姿が見えた。

 

「モルフォ!?地下生活者……彼女に何をしたんだ!?」

『「「「「!?」」」」』

 

先生の声にモモイ達の表情が険しくなっていく。やはり混沌の領域にモルフォは囚われていると。だが、先生の切羽詰まったような声でモルフォの身に危険が及んでいたことを知らされたネル達の雰囲気はさらに引き締まっていく。

 

『まあまあ、そんなことはどうでもいいじゃないですか。まあ、先生はこれでモルペウスの力を使えません。小生は存分に活用させていただきましたが』

「……この世界のモルフォちゃんが……」

「……」

 

地下生活者の声にユメが複雑そうな表情で手を握る。モルペウスの力を使ったと宣言した地下生活者の発言に、ホシノやヒナも嫌な予感を感じていた。先生がプラナに視線を向けるが、プラナは首を横に振るばかり。まだ地下生活者はこの世界に介入していないのだ。ただ空間を越えて声だけを届けている。それもまた介入ではあるのだろうが、あまりに介入の具合が弱すぎるのだろう。

 

『―――さて、先生。これから小生と勝負といこうではありませんか。小生はこれより、この世界にセトを降臨させます。幸い、オシリスとホルスという導線はある。そこに奇跡に等しい確率を引き当てれば小生はこの世界を破壊できます』

「……オシリス?」

 

ホシノが困惑した様子で呟く。オシリスが誰の事かこの場でそれを理解している人物は誰もいないだろうし、そもそも名前も知らない。P3Rにセトはいてもオシリスはいないのだ。

 

(でも、ホルスって)

 

地下生活者にだけわかっているようだが、それよりも地下生活者はセトと奇跡と言っていた。これは何を意味しているのか。

 

「……セト?何をしようとしているんだ?それに世界を破壊って―――」

『―――ここに三つのダイスがあります。これはそれぞれ百面ダイス。この三つのダイスを同時に振り、6を出した時。獣の数字が成立し、あらゆる時空、事象を越えてセトは降臨します』

「……百面ダイス……?」

「……TRPG……?」

 

地下生活者はこの世界のイベントをキャンペーンと称し、ゲーム感覚で介入をしていた。そこに、地下生活者はTRPGという概念を持ち込んだのだろう。だが、ダイスといった記述は黒服の資料にはなかった。となれば、これこそが地下生活者のいうモルペウスの力、それによって生まれた力なのだろう。

 

「……TRPGっていうのは?」

「テーブルトークRPG。紙や鉛筆、サイコロなどの道具を用いて、人間同士の会話とルールブックに記載されたルールに従って遊ぶ対話型のRPG。ただ……」

 

ユズが疑問を口にしたサキにTRPGについて説明する。だが、ユズの声がどもり始める。何故ならTRPGとはその名の通り、対話が要だ。だが、先生に対して勝負と言ったということは、地下生活者をゲームマスターとして先生をプレイヤーと仮定することができる。が、TRPGの基本である、GMとプレイヤーの意思疎通が全く行われていない。そればかりかプレイヤーにダイスすら振らせてもらえないのはあまりに不平等ではないだろうか。

 

「……プレイヤーやGMはダイスを振って、それによってスキルの成否や戦闘の処理を行うんだよ」

「乱数調整みたいなものかな」

「……成程。この場合は百面ダイス三つで6を出せばそのセトとやらが出てくるってことだね」

「……いや無理でしょ?」

 

ミドリとモモイの説明を聞き、アヤネは納得したように頷く。しかし、セリカが即座に否定する。だが、それも当たり前の事だろう。

 

「……三つの百面ダイスを振って固定の一つの目を出そうとした場合、その確率は百万分の一……出せるわけがありません」

『イヒヒ……』

 

ノノミの呟きにその場にいた全員が内心同意する。絶対に出ない、とは当然言えない。いくら憎き敵であってもこの一投で本当にそれを成し遂げて百面ダイスを揃えたというのなら逆に感心するレベルだ。だが、地下生活者がそんな、まともな勝負に応じるわけがなかった。

 

「!?な……それは」

『ええ。百面ダイスを三つ揃えればセトを呼び出せますとも……』

 

地下生活者が指を鳴らすと、空中に無数の小さな球体が現れる。否、それは、三個を一組とした無数の百面ダイスだ。微妙な色の違いで分けられたそれを前にした地下生活者は、先生達の予想を嘲笑う。

 

『なのでダイスを振らせていただきます。そうですね……確率通り百万回、ではちょっと少ないので念には念を入れてダイスを振らせていただきましょう……その数、一億組』

「なっ!?」

「一億って……」

「……ふざけていますね」

 

振らせるダイスは一回ではない。一億セットのダイスを投げつけるのだ。それだけ投げれば一回は何かしら出ることだろう。あまりに強引すぎる、そしてTRPGの定石を完全にかなぐり捨てた卑怯すぎる行動にカリンが絶句し、アスナですら呆れた声が出てくる。モルフォの力をこんなことに使ったのかとトキが憤慨する中、地下生活者は無数のダイスを無限に広がる混沌の領域の床へと次々落としていく。そして、全てが落下するとその中から三個のダイスが浮かび上がる。

 

『―――揃いました』

「……そんなの当たり前……!」

「そんなイカサマが通るわけがありません!!」

『フハハハハ!!イカサマ?残念ですが―――どんなダイスだろうが振ることが許されるのです。さあ、出ますよ?先生……もしあなたがセトを倒すことができたのなら―――その箱の力でこちらに来るといいです。来れたらいいですがね。もしセトを無視して直接こちらに来るような卑怯な手を使えば……わかっていますね?』

「ッ……!?」

 

地下生活者の高笑いと共に先生の脳裏から映像が消えていく。直後、その場にいた全員が地響きを感じ取る。そして窓の外を見ていたモエが、あることに気付く。

 

「先生!!砂嵐が―――」

「え!?」

「そんな、予報だと砂嵐は今日は来ないはずなのに―――」

 

急に天気が悪くなり、砂嵐が吹き荒れ始めたのだ。視界すらいとも簡単に塞ぐほどの砂嵐、それに加えて雷鳴も轟き始め、アビドスは完全に天変地異に見舞われていた。

 

「な、なんですかこの天気!?」

「これが、セトの……!?」

 

窓ガラスがガタガタと音を鳴らす。直後、あまりの風圧と、それによって巻き上げられた砂が窓ガラスを傷つけていく。ただでさえ視界が不明瞭だった外は、傷ついていく窓ガラスの傷跡によって完全に見えなくなってしまう。

 

「先生。とにかく、そのセトがどこに現れたのか見つけないと話にならない」

「そうだわ!屋上からなら見えるかも……」

「そうだね、皆屋上に」

 

先生の言葉に従い、皆が屋上へと上がる。途中で砂嵐用の外套を手渡され、ミドリ、カリン、アル、ミユといった面々が砂嵐の中で屋上に上がると、スナイパーライフルのレンズを使ってセトがどこに現れたのか東西南北それぞれの方角を探し始める。

 

「っ……駄目!何にも見えない!」

「参ったな……ここまで視界が不明瞭だと……」

「吹雪よりも目が細かすぎて無理……」

「……目が痛くなってきたわ……」

 

しかし、何かが見つかるわけがない。だが、ただ風が強いだけならばともかく、砂が舞う中ではなおさらだ。

 

「……参ったな」

「……この砂嵐じゃエンジニア部も来れねえだろうな。セトってのが見つからないなら先にシェマタをどうにかして止めてもいいかもしれねえけどそれも無理っぽいしな」

(セト……化け物……あれに砂嵐なんて力はなかったと思う……けど)

「……ユメ先輩?」

(もしかしたら―――)

 

と、ユメが屋上に出てくる。そしてレールガンライフルを構えると、ある方角に向けて照準を覗き込む。すると、

 

「……見えた」

「えっ」

「……生徒会の谷の方角……そっちの方から何かが空に向かって……なんで、シェマタのある方向に」

「何かって……というか生徒会の谷?シェマタってそこにあるの!?」

「あ、あの……見えるんですか?」

 

レンズを通してはっきりと見えた。生徒会の谷と呼ばれる場所、それが存在する方角から立ち上るエネルギーのようなものを。

 

「うん。このレンズは砂嵐があってもよく見える特注品で作ってもらってたから」

「モルフォの武器はミレニアムの」

「そちらのミレニアムは何を考えてそれを作ったんですか?いや、砂上戦仕様として見れば別におかしい話じゃ……」

「普通砂嵐の中で戦闘なんて基本的にしないけどね」

「うん。虚妄のサンクトゥムの時のように戦わざるを得ない日に砂嵐が被ってしまえばやるしかないけど……」

 

大方向こうのエンジニア部が色々悪乗りしたりしたのだろう。とはいえ、今の状況で役に立つのならば何も言うことはあるまい。

 

「……生徒会の谷……」

 

ホシノはその存在を知っているのだろう。実際に行ったことはないのだろうが、今ユメに言われてどこか納得したような表情をする。アビドス広しといえど、シェマタというとんでもないものが何故今まで見つからなかったのか。その理由は簡単だった。当時、雷帝と共にシェマタを作り上げたアビドス生徒会は生徒会の谷という秘境に保管したのだ。

 

「生徒会の谷、シェマタがある場所……その方角にセトが?でも、こんな偶然……」

「……シェマタに使われている雷帝のテクノロジー」

「……まさか、そのエネルギーを?でも、そんなこと……」

「……この世界をTRPGと定義する、そんなデタラメが通じるなら……なんでもありだと思います」

 

カヨコとヒナが考え込む。シェマタに使われている雷帝のテクノロジーが、どれほどのものかはわからない。だが、それがセトを呼び出せるかどうかというとそれは二人も首を傾げるしかない。しかし、ユズが言ったように地下生活者が持つ能力が今のこの地をTRPGのダイスのようにこじつけることさえできれば何でもありになる場所になるというのなら。

 

「理屈はわかりませんが……そのシェマタがセトを呼ぶのに必要なピースとして使われたのでしょう。おそらく……時空すら歪めうる程の膨大な質量エネルギーがある、或いは生まれる可能性があったのでしょう」

「「「「「……」」」」」

 

ケイの発言に便利屋とヒナの顔に冷や汗が流れる。雷帝の事を知っているのはヒナやカヨコぐらいで他三人は言われれば思い出すぐらいの時の人という認識ではあったが、それが作り出したものが原因で時空を歪めると言われれば、自分達の学園にはこれぐらいやばい生徒がいたのかと再認識させられる。

 

「……あそこに行くしか」

「だけど、この砂嵐じゃ……」

「乗り物は?」

「さすがにこの人数は……」

「うーん、風は強いけどどうにか雨雲号で……」

「すみません全部壊れました」

「えっ、いつの間に壊れたの!?」

 

シェマタすらも利用する地下生活者。そしてこの砂嵐の主であるセト。もう一刻の猶予もない。今すぐにでも出発しなければならない……のだが。アビドス全土に襲い掛かっているこの砂嵐の中を乗り物を使って移動することなど、できるわけが―――

 

「!?」

 

直後。砂嵐の中から雷が落ちる音が鳴り響く。それは、生徒会の谷とは別の方角へと落下し嵐の吹き荒れる音の中に混じって大爆発が引き起こされる。

 

「今の音って……雷?」

「……!?あれって……カイザーじゃない!?」

「「「えっ!?」」」

 

ユメが雷の落下地点を覗き込む。そこには、先ほどの一発を皮切りとして何発も雷が落ち始めている様子があった。そして、そこにいたのはカイザー達の軍隊。それが、次々と雷によって吹き飛び、蹴散らされていく。

 

「カイザーが……どんどんやられていく。でも、嘘……こんな簡単に」

「……セトがカイザーを仕留めている?」

「……でも、なんで……」

 

カイザーがこの場に持ち込めたであろう可能な限りの戦力。それがセトによって呆気なく蹴散らされる。その圧巻の戦力は先生達であっても全滅させるには骨が折れる程の量だったというのに。

 

「……あ」

「どうしたの、シロコ先輩!!」

「いや……カイザーがやられてる今なら……カイザーの戦車とか持ち出せるかなって」

「えっ」

 

そんな中、まさかの火事場泥棒を提案したシロコの発言にその場にいた全員が固まってしまう。いやそれは駄目だろとモエ以外のRABBIT小隊がジト目でシロコを見て、便利屋が面白そうな表情を浮かべる。C&Cが真面目にそれを考え始め、ゲーム開発部が互いに顔を見合わせる。そして、

 

「ありじゃない?」

「ぬ、盗みは―――」

「セトの所に行くための必要経費です。それにカイザーだって自分達に被害を与えたセトを潰しに行くために使われるんですから本望でしょう」

「えぇ……?」

 

ホシノがその火事場泥棒を認める。これにはユメも微妙そうな顔だが、今のアビドスにこのメンバーを全員連れていけるだけの乗り物は残念ながらないのだ。先生もそう判断したのだろう。よしと軽く頷くと、

 

「わかった。皆、すぐに準備をしてカイザーの所に行こう。まずはセトをどうにかしてからだ」

 

生徒達に準備を促す。生徒達が次々と校舎の中に入っていく中、トキが屋上からある方角を見る。そして先生に向かって口を開く。

 

「先生。使い捨てていい車両を一つアビドスに用意してもらえないでしょうか」

「?どうかしたの?」

「少し、取りにいきたいものがありまして。ケイにも付き合ってもらいます」

「?私……ですか?」

『ケイ、何か知っているんですか?』

「いえ……心当たりがありませんが。ですがこの砂嵐の中で分かれるのはあまりにリスクが高すぎませんか?」

「ならアスナを連れてけばいいだろ」

 

トキが中々建物の中に戻らないことに疑問を感じて戻り、話を聞いたネルがアスナを連れて行けという。確かにアスナの直感ならこの砂嵐の中でも迷わずに済むだろう。納得したようにトキは頷くと先生に確認を取る。

 

「先生、よろしいですか?」

「うん、わかったよ。三人とも、できるだけ早く戻ってきてね」

「はあ……何をしたいかはわかりませんができるだけ急ぎます」

「じゃあ早速行こうかー!」

 

そして少しして、アビドスから一台の車両が走り去っていく。トキ、ケイ、アスナ、そして砂嵐の中ということもあり、万が一に備えて土地勘のあるセリカも乗り込むことになり、四人はどこかへ走り去っていくのだった。

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