転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
セミナー室。一仕事終わり、休憩時間を取るユウカとノア。お茶菓子を口にしながら休み、談笑をしていた二人だったのだが、突然セミナー室の扉が開かれる。
「ユウカ先輩!!」
「……どうしたのよコユキ?」
「その顔は……コユキちゃん、負けてきたみたいですね?」
「ぐぬぬ……た、たまたまです!!」
そこにはコユキの姿があった。部屋に入ってきた彼女の不満げな顔を見たノアは、またゲームに負けたのだと気付く。たまたまだとコユキは図星を突かれたように悪態を吐くが、こういうのはよくある光景だ。元よりコユキはゲームにおいて安定志向ではなく博打を打つ傾向が多い。しかも気軽に安全マージンなどを取らずにツッパして痛い目を見ることも多々あるのでボロ負けすることも多いのだ。無論、それがハマって大勝利するパターンもないわけではないのだが。
「で、でも今度こそは……」
「まあ、大体予想はつきますね」
「ええ……大方、ゲーム開発部に負けたから私達を相手に特訓でもして次こそはってところじゃないかしら……」
ユウカの発言にコユキが肩を震わせる。ゲームに負けたコユキは次の対戦相手にユウカ達を要求しようとしたのだ。だが、ユウカはともかくノアは以前こっ酷く負けたばかりだとは思うのだが。
「……正直コユキはもっと堅実な手を打てるようになるだけでも全然勝率は上がる気はするのだけど」
「まあまあ、むしろこれがコユキちゃんの長所だと思いますよ?ゲームに関しては振れ幅が思いっきり出てしまうのはまぁ事実ですが」
「そうやって調子に乗っていられるのもそこまでです!まずはユウカ先輩を落として、ノア先輩に勝てるようになればユズやモルフォにも……!」
(この調子だとおそらくノアには勝てなさそうね……)
セミナー室に入る時にコユキが持ち込んだ紙袋の中にはモルフォを説き伏せて持ち出してきたゲームが入っているのだろう。モルフォもユウカやノアが相手ならば構わないかと納得しているだろうしそこは問題ないと考えている。二人は今は休憩時間だし、それならばとどういうゲームをやっていたのか気になる様子でユウカは、コユキが紙袋の中からカードの束を取り出す。
「なにこれ?」
「裏面が照準のようになっていますね」
「えーと、確か……クイックショットっていうゲームですね」
ルールなどを記した紙も取り出し、読んでいく。クイックショットでは1~8までのカードが各五枚ずつ存在しており、それぞれの数字毎に特殊な効果が記されている。この合計40枚のカードを使ってこのクイックショットをプレイすることになる。
まず、それぞれのプレイヤーは手札を五枚ずつ配られる。この時、人数が四人以下の場合、五人になるようにNPC役が用意され、頭数を補充されることになる。NPCを含めた全員分手札を配り終えたら、残ったカードの中から四枚をランダムに選んで山札にする。そして最初のゲームメイカーを決めて最初のラウンドを開始するのだ。
「これは……確かに楽しそうですね」
「……ゲームメイカーはコユキ、あなたが最初にやったら?やってたんでしょ?」
「む……まあ、そうですね。そうした方がスムーズですか」
最初のゲームメイカーになったのはコユキ。ゲームメイカーはラウンドの最初に山札から一枚引き手札に加える。その後、手札からカードを一枚、表向きで場に出すことになる。この時、数字だけを見るなら8が一番強いことになる。
「では私が最初に出すのは……こいつですよ!」
「……いきなり8……」
「コユキちゃんも冒険しますね」
最初にコユキが出したのは数字だけ見るならば最大の数値である8。そしてゲームメイカーがカードを表向きで出したことで、残るプレイヤーはそれを参考にしつつ自分のカードを選び、裏向きで場に出すことになる。この時、ゲームメイカー以外のプレイヤーは山札からカードを引くことはできない。
「……じゃあ、私はこれで」
「私はこれにしますね」
ユウカとノアがカードを裏向きで場に出す。その後、残る二人分のNPCの手札を適当にシャッフルし、一番上のカードを裏向きで場に出す。
「えーと、全員分のカードが場に出たので……裏向きのカードを一回表向きに」
言われるままにユウカとノアがカードを表向きにする。残るNPCのカードも表向きにするのだが、
「えーと、私とノアが1、NPCが8と5ね……」
「確か、同じ数字が出てしまうと……」
「裏向きになって無効扱いになりますね……ただ、この時点ではまだラウンドから脱落していません。つまりは一番弱い効果なしのカードになる、っていうことですね」
この時、同じ数字のカードが二枚以上存在していると、そのカードは全て裏返しになる。そして裏返ったカードは数字と効果を失ってしまうため、余程の事が起こらない限りは敗北確定となる。
「そういうことね……NPCは完全に運になるから予想しにくくてやりにくいわね」
「これはこれで運否天賦で面白いですけど!」
「つまりゲームメイカーをわざと裏返す戦術もありってことですね。まあ今回は完全に運でコユキちゃんも重ねられてしまいましたが……」
ここがNPCを参加させる最大の特徴と言えるだろう。NPC相手に手札を読むということは困難を極める。便宜上NPCと呼称しているだけで実際は思考も何もなくランダムにカードを出しているだけなのだから。しかし、全員プレイヤーというゲームを既に経験しているコユキからすればこれはこれで面白いとも感じていた。
「そして私とユウカちゃんが同じ数字なのでカードを裏返すということですね。」
「で、残ったカードの中で低い数字のカードから効果を処理していく、と。今回残ってるのは5だけだけど」
そしてダブりのカードを裏返しにし終わった後でそれぞれのカードの効果処理に入っていく。このゲームに登場する1~8の持つそれぞれの効果は以下の通りとなる。
潜伏の1。その効果はこの数字を出したプレイヤーは脱落しないというもの。ただし、ユウカがやられたようにダブりで裏返す行為は効果を適用する前に行う処理なので回避できない。
トラップの2。これは4と5のカードを脱落させる。この効果で他のカードを脱落させた場合、このカードの数字を9として扱う。なお、脱落させられたプレイヤーはカードが裏向きになることもなく、そのラウンドから排除されることになる。
狙撃の3。これは数字の強さを逆転させるというもの。つまり、この効果が適用しているラウンドでは数字が低い方が強いという大富豪でいう革命状態になるのだ。
乱射の4。これは自分の手札を一枚捨てることでその数字をこのカードに足すことができるというもの。ただし手札を捨てないこともできる。
ボムの5。これは効果はカードが裏の人を脱落させるというもの。
突撃の6。これは最弱の人が脱落するという効果。
特殊弾の7。これは効果は最弱の人は手札を一枚選んで捨てさせるというもの。
砲撃の8。効果なし。
「……って、あれ?」
この場合、ここで処理を進めていく内にある事実に気付く。そう、このゲームに参加している四人のプレイヤー全員がカードが裏返しになってしまっているのだ。そしてそこに裏のカードのプレイヤーを脱落させるボムが炸裂したことにより、
「……全員脱落だけどこの場合どうなるの?」
「えっと……一応、効果処理後に一番強いカードを持つ人がゲームメイカーになってラウンドが終わるんですけど、このラウンドって四回まであって、最後にゲームメイカーになるか、この四回までの間に二回ゲームメイカーになるかで勝利が決まるんですよ。で、脱落条件にはカードの効果以外にも出せるカードがない人は強制脱落ってのがあるんですけど……ただこの場合は、プレイヤーが一人しかいないのでNPCの優勝ですね……」
「いやいやいや!?呆気なさすぎるでしょ!?」
「最初だからととりあえず安牌そうなカードを出したら見事に運が悪かったですね……」
NPCの一人勝ちというあまりにも虚しすぎる結果になってしまう。これにはユウカも唖然となってしまい、ノアも苦笑することしかできない。とはいえ、これは運の振れ幅が凄いせいでこうなったが巡り合わせによってはNPCのいないゲームでも起こりかねないということでもある。
「でも、確かにこれなら短い時間でもできそうですね。それに、こういう展開になるのもこれはこれで面白いですし」
「確かにカードとか見るに結構気軽に脱落していくから確かに一回一回は短そうだし休憩時間には丁度いいわね。本当によく色々出してくるというか……」
「……このままでは不完全燃焼ですよ!もう一回やりましょう!」
「まあ……時間的には大丈夫そうね」
「ふふ、いいですよ」
ユウカとノアもコユキと同様、さすがにこのままでは肩透かしもいいところだったので時間が許すならもう一戦やりたいと考えていたところだ。良くも悪くも先程の一戦で大体の流れはわかった。今度は先程のような展開にはならないだろうと考えていると、セミナー室の扉が開かれ、所用で外に行っていたリオが戻ってくる。
「……?三人とも何をしているの?」
「あ、リオ会長、お帰りなさい」
「ゲームしてるんですよゲーム!あ、そうだ!リオ会長もやりません?」
「……え?私?」
三人がクイックショットを広げている様子を見て一瞬疑問に思いながらも、カードゲームのようなものをやっていることを理解すると、コユキの返答を聞きながらそのまま席に戻ろうとする。が、後半の方でリオも誘われたことで驚いた様子で立ち止まってしまう。
「人数がもっと多い方が面白いんですよ。これでNPCが一人になれば多分さっきみたいな事故も減りますからね」
「NPC……?」
NPCということはAIか何かを使っているのだろうかとリオが机の上を見るが、そこには何らかの機器があるわけではない。そのことに気付いたのか、ノアが笑いながら説明する。
「NPCと言っても別にAIとかじゃありませんよ。ただ頭数を増やすというだけの話ですので」
「?え、ええ……一応理解はしたわ」
「ほらほら、会長も座ってくださいよー、どうせ今は暇でしょ!」
「暇って……コユキ……」
そして改めてリオを誘うコユキ。だが暇だからといってこんな言い方はないだろうとユウカが窘めるが、リオは気にしていない様子でじっとカードを見て、
「……わかったわ」
「さっすがぁ!ふふふ、これで……!」
「……」
ゲームに参加することを了承する。それを聞いてぐっとガッツポーズをとるコユキ。だがその内心は、
(ふふ、リオ会長はほとんどゲームなんてしないはず……つまり下手くそ!ユウカ先輩やノア先輩よりも弱いということは私が確実に勝てるということです!)
リオを食い物にする気満々であった。ルールを覚え始めるリオを見ながら、ニヤニヤ隠し切れない笑みを浮かべながらカードをシャッフルし始めるコユキ。はたしてうまくいくのだろうかと、コユキの考えを見抜き首を傾げるノアとユウカに再び五枚のカードが配られる。そしてルールを覚えたリオも手札を配られると、NPCの一人分の手札を用意する。そして、今度は先程のようなことにならないようにコユキはNPCを最初のゲームメイカーにして一枚のカードを表向きにする。
「……最初はいきなり5?」
「裏向きのカードのプレイヤーを全て強制的に脱落させるカード……いきなりこれは大変なことになりそうですね」
NPCの出すカードがわかれば、それが元で交通事故のようなことが起きはしないだろう。少なくともボムの5があるとわかれば2で無力化するか、数字被りを起こさないようにするといった対策だって取れる。それを踏まえてコユキ達はどのカードを出すのか考えていると、リオがすぐに一枚を裏向きで出す。
「……え?早くないです?」
「?そうかしら……ゲームメイカーが出している数字がボムの5、なのでしょう?ならこれを出すべきだと思ったから出したのだけれど……」
((これは……))
リオの迷うことなく出された一枚を見て、ユウカとノアはリオの出したカードを予測する。ここで一番考慮しなければならないのは、
((あれが2の可能性……))
リオがNPCを脱落させるために2を伏せている可能性だ。むしろ、ここでNPCを蹴落とせば自分を脱落させかねない脅威が一つ消えるのだから、リオでないとしても誰かが2を伏せて然るべき場面だ。そこに、何の躊躇もなく一番最初にカードを出したところを考えると、やはりリオの伏せたカードが2であると考える方が自然だ。
(だとしたら2は避けるべきね。ただ、コユキが2を重ねてくる可能性もあるから……ノアと被らないようにするべきね。というかリオ会長って腹芸できる人じゃないし……)
(コユキちゃんは……2を出してNPCを脱落させるよりはボムの影響を受けない高い数字を出して一気に勝ちを狙っていきそうですね。むしろボムの効果に皆の目が向いていると考えていそうです。となると、7か8……でしょうか。いずれにせよユウカちゃんと被らないようにする必要がありそうですね)
コユキが少し考えて一枚を出す。その後、悩んでいたノアとユウカも一枚ずつカードを出す。そして、四人が同時にカードを表向きにすると、
「……おっと?」
「えっ」
「あら」
リオは5。ユウカが6。ノアが3。そしてコユキが7であった。
「2じゃない!?リオ会長がここで2を出さないなんて……!!」
「え、そ、そんなに驚かれるのかしら……?」
(……これは……そもそも持ってない?それとも……NPCであっても迂闊に落としたくないと考えていたからなのか……ふふ、今は置いておきますか)
まさかリオがゲームメイカーと同じ数字を被せてくるとは思わず、驚愕するユウカ。リオも困惑する中、処理は進んでいき、リオとNPCのカードが裏向きになり数字と効果を失う。そして、ノアの3の効果が適用され強さが逆転。続けてユウカの6の効果により一番弱い人が脱落となる。コユキの7の効果も適用され、一番数字が弱い人物が手札を一枚失うのだが、その手札を失うコユキが脱落することとなるので全く意味がない。
「ちょお!?また私が脱落ですか!?」
「……成程、こうなるのね……」
「ふふ、運がなかったですねコユキちゃん」
「いや……びっくりしたわ……まさか5を出していたなんて」
(ユウカちゃんも6でリオ会長を脱落させようとしていたわけですが……まあ触れないでおきましょう)
コユキが脱落して頭を抱える。ノアが次のラウンドのゲームメイカーになる。そして一枚カードを引き、手札を見ていたが、
「……では私はこれで」
「え、ノア先輩1を出すんですか!?」
「1……脱落しないカードね」
「これは……勝ちを捨てるつもり?」
「さて、どうでしょうか?」
なんとノアが出したのは1であった。これが適用されればノアはこのラウンドで絶対に脱落しない。それを防ぐには残る三人が1を被らせたうえで5を発動させるぐらいしかない。だが、そううまくいくかというとそういうわけではない。NPCのカードを一枚場に出すと、ユウカとリオは手札のカードを見て考えていく。そして二人もカードを場に出すと、それを表にする。
「今度は……リオ会長が8、ユウカ先輩が7、NPCが5ですか……いやなんでまた5を?」
「この場合、脱落者はいませんね。リオ会長が次のゲームメイカーになりますが……私はユウカちゃんのカードの効果で手札を一枚捨てることになりますね」
第3ラウンドに入り、ノアとリオが一回ずつラウンドを制した状態となる。この状態で二人が勝てばその時点で勝負が決まるため、ユウカは二人を勝たせないようにする必要がある。リオは少しだけ考えると、狙撃の3を場に出す。
「い、いきなり逆転状態に……!?」
(……これは、そもそも他人を脱落させるカードをもうリオ会長が持ってないだけでは?)
3は可能なら自分がゲームメイカーじゃない時に不意打ち気味に出して盤面を掻き回しつつ、高めの数字を出している周りを出し抜くために使うのが自然だ。しかし敢えてそれを出したということは、
(残る手札は1か8みたいに勝てないか場合によっては負けかねないカードか。それとも4のように一発で脱落させられかねないカード……といったところでしょうか)
ノアも考えながらカードを出す。ユウカもカードを出し、NPCの分を出す。そしてカードをそれぞれ表にすると、ノアが2、ユウカが1、NPCが4となる。ノアのカードの効果でNPCが脱落し、ユウカが最後のラウンドのゲームメイカーになり、全員が王手をかけた状態となる。尤も、最終ラウンドを制した人物が勝つゲームでもあるのでこのラウンドに至ってはあまり意味はないのだが。
「……むむ、私は何を出すべきか……でも……よし、これにするわ」
「「!」」
そして最終ラウンド。考えていたユウカが出したのは乱射の4。これは手札を追加で一枚捨てることでその数字を加算できる、最大12までの数字が狙える強力なカードだ。その分、トラップの2で一撃で脱落させられる、3による逆転の影響をモロに受けるなどの弊害があるのだが、ここまでリオとノアが2や3を使っていた事実を踏まえ、それが出る可能性は低いと考えたのだ。
「……では、私はこれにしましょうか」
「私はこれでいいわ」
(ユウカ先輩、手札に何を持っているんでしょうね……)
コユキも無言のまま、カードを表向きにする二人を見る。最後のラウンドで決着をつける三枚のカード。そして明らかになったのはリオが8。そしてノアが、なんと3だった。
「……3!?ノア、まだ持ってたの!?」
「ふふ、残念ですが二枚持っていました」
「……やられたわね」
数字が逆転し、ノアの勝利でこのゲームは幕を閉じる。まさかノアが3をまだ抱えていたとは思わず、ユウカは脱力して背もたれに寄りかかる。リオは8のカードを見ていたが、今回は運がなかったと考えながらも笑みを浮かべる。そして、三戦目をユウカ達に要求するコユキを見つめるのだった。