転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「へー、氷海なんて行くんだ」
「そうなんだよね、まあやることはただの荷物運びだけど……でも旅としては悪くないよ」
「……そういう風にできたら少しは楽しく登れたのかな」
「?」
「ああ……ちょっと雪山登山した時にね……」
今となっては無駄とまでは言わないが随分な苦行をしたものだと畳の上でだらしなさそうに寝転びながらアヤメが言う。クズノハとシロコ*テラーが会った時の話もモルフォは聞いているし、半分導いたのもモルフォだが正規の手順で会おうとするととんでもないことになるようだ。
(まああの時はTASどころの話じゃないチートツールでごり押してたからノーカンだろうけども)
それに、今のアヤメはクズノハに関する興味は完全に失っているようで、ポチポチと携帯ゲームを操作している。
「氷海って何かあるの?あそこ文字通り氷と海しかないでしょ」
「……巨大ロボット?」
「……えぇ……あれ?」
「多分アヤメが想像してるのとは全然違う」
アヤメの想像しているのは最強一角ライオンGだろう。だがデカグラマトンの預言者はそんなデザインはしていなかったはずだ。少なくとも過去にケイやトキから見せられたことがあるホドやケセドは生物的な見た目とは完全に無縁な無機質な姿をしていたからだ。
「ミレニアムって大変だね」
「大変な人は本当に大変だよ。リオ会長やヒマリ先輩とかずっと現地にいるし」
「……任せっきりにしてもいいんじゃないの?」
「専門家に任せるために私達が荷物を送り届けるんだけどね。まあAMASと千年の守護者を大量に持っていけば戦力としては十分でしょ……」
「いいなぁロボット。百鬼夜行にもたくさんロボット出してほしいよ」
一瞬だけ目を細めつつ、ゲームをプレイする手を止めてモルフォを見るアヤメ。しかしモルフォのさらっと言われた言葉に元の表情に戻ると、羨ましそうに言いながらゴロゴロする。こんなだらしない姿を百花繚乱の面々に見せたらどう思うのだろうかと考えて、別にぶちまけてしまってもいいのではないか?なんてことも考える。というかセイアには半分知られているような状態である。
(……セイアさんも来てくれたら楽しそうなんだけどな)
「……あ、そうだ。多分今モルフォがいるから夜なんだろうけど……昼間に歌が聞こえたんだよね」
「歌ぁ?」
一緒に寝る以外の方法でセイアを夢に入れるにはどうすればいいか考えていると、思い出したようにアヤメが口を開く。歌とはどういうことなのか。もうモルフォはここで歌は歌ってない。当時はもう歌わないの?なんてどこかつまらなさそうに言われもしたが、モルフォ自身は歌いたい時に歌うことはあれど、歌わなきゃいけないから歌うということは正直したくないタイプである。そんなことよりゲームしようでその時は普通に終わったのだが。
「昼寝してないよね?」
「してないしてない。え?歌ってどういうこと?」
「いや、昼寝してたら歌が聞こえてきて……気になるし覗いてやろうと思って見に行ったらさ」
「うん」
謎に溜めるアヤメにさっさと先を促す。まだ時間に余裕はあると思うが、起きるまでに気になることは聞いておきたいのだ。
「……一瞬モルフォに似てる気がしたんだよね、あの女の子。でも髪長いし」
「え?」
「でもあのセイアって子みたいに他の人が入ってくるパターンもあるからそうなのかなとも思ったんだけど……でも声は似て……いや似てたけどモルフォよりめっちゃ歌がうまいし……でもちょっとだけあの時とも似ているような」
「ほーん……どんな歌?」
「えっと……こんな感じの……」
モルフォに似ている歌がうまい女の子。それを聞いた時点で心当たりなど一人しかいないのだが、念のために聞いてみる。これで今の所自分しか知らない歌が出てくれば確定だが、
(しっ、知らなぁい……)
その歌の大半が残念ながら知らない曲だった。おそらくアヤメもできるだけその歌に近づけるように歌っているのだろうが、アイドルか何かの歌だろうか。アニメとかゲームなら強烈な印象が残ってる奴ならば覚えているのだが、残念ながらアイドル系は疎い。しかし、辛うじてこれじゃないか?と思えるフレーズが飛び出してくる。アヤメの真似した歌い方をモルフォも呟いて再現しながら考えていく。そして、
(ああ……境界なき
やっと該当する曲を引っ張り出す。ガンヴォルトシリーズの一つ、
(よくここまで声寄せたな私……そんな七色の声なんて私持ってないんだが?)
「……あれ聞いちゃうとちょっと下手っぽく聞こえるね。モルフォも十分上手……?なんだろうけど」
「……あれ多分私なんだよ。シロコ先輩に会ったでしょ?あの人、この世界の砂狼シロコっていう人がちゃんとアビドスにいて、アヤメが会った方が並行世界の砂狼シロコ。多分昼間にアヤメが見た女の子は並行世界の私なんだよ」
「まじで?同じ人だから夢に入ってきたの?」
「それもあるかもしれないけど」
今まで掠りも何もしていなかった彼女が自分が起きている間はアヤメの夢の中に現れた。だとすると、
「……あれ?私がいる時どこにいるんだ?」
「さあ?」
今、彼女はどこへいるのだろうか。そんなことを考えながら、モルフォは首を傾げるのだった。
★
「み、見たんです!モルフォの傍に……もう一人のモルフォが居たのを!!」
「アリスは嘘を言っていません。確かに私も見ました」
「それも歌っていたんです!でも何も聞こえませんでした!」
「あれは……不気味でしたね」
翌朝。少し早めに起きたモルフォが皆を起こして回っていると、何故かケイの体が動かなくなっており、アリスの中に戻っていることに気付く。何故……と思ったがその理由はもう一人のモルフォが幽霊のような姿で現れたことだった。そのせいでアリスが恐怖を感じてしまいケイが一緒の体に入って眠っていたようだった。お化けなんて……と一瞬思ってすぐにユスティナ聖徒会や怪異を思い出し、まあありえるかと納得してしまう。
(それにしてもそこにいたのか……無意識なんだろうけどあんまり皆をビビらせないでくれよ……)
昼間はモルフォが現実にいるから彼女は夢の中にいる、ならば夜はその逆で彼女は現実側に弾かれたのかもしれないと考える。モモイ達を起こし、起きてる人が増えたことでアリスもやっとケイを移動させ、六人は朝食にする。そこでアリス達の話を聞いていたモモイ達も半信半疑ではあったが、
「まあ……そういうことなら夜はさっさと寝た方がいいんじゃない……?モルフォも害があるとかそういうわけじゃないんだよね?」
「まあね……」
「起きてるなら色々話とかしたいし遊びたいけどね~」
「そうなんだけどそれができたら苦労はしないよね……でも、やっぱり段々起きそうにはなってるってことなのかな?」
とりあえず信じた上で悪くない兆候じゃない?と納得し合う。そして移動を開始し、再びの夜。アリスとケイは前日の反省からかさっさと眠りについており、モルフォも寝るベッドを就寝スペースの一番奥に変更した。だが、また悲劇が起こってしまう。
「……はぁ。朝の話を聞いたせいでトイレにも行きづらくなっちゃった……なんでこんなタイミングで急に行きたくなるかな……ちゃんとしたのに」
トイレから出てきたのはミドリ。と、就寝スペースに忍び足で戻ると、謎の明かりが自分のではないべッドから漏れていることに気付く。ミドリが冷や汗を流しながら恐る恐るといった感じでベッドに近づき、布団をめくると、そこにはスマホを手にゲームをしているモモイの姿があった。
「!?み、ミドリ……!?」
「……何やってるの、お姉ちゃん」
「えっとぉ……デイリー取るの忘れて……まだ日付変わってないからギリギリ間に合うかなって」
「……警戒して損した」
まさか、と思ったが予想以上に下らない理由に溜息を吐いてしまう。さっさとベッドに戻って寝てやろうと考えたその時だった。
「……」
「?どうしたの?ミド……」
目の前のをそれを見て絶句してしまう。モモイもミドリの様子を見て何事かと彼女の視線の先を見ると、そこには半透明の人が浮いていた。
「「……」」
青い光の蝶の翼を生やしたもう一人のモルフォが、この世界のモルフォの傍を浮遊していた。時折、目に光が戻って景色を視認しているかのような仕草を見せており、首を傾げたりもしている。しかし依然として声は出せないのか無言のままであったが。ふともう一人のモルフォの視線がモモイとミドリの方に向けられ、丁度目に光が戻って二人を射抜く。
「「……!!」」
ミドリは即座にモモイのベッドに潜り込んで二人で狭いベッドを占領する。そして翌朝、
「見たもん!もう一人のモルフォ見たもん!!」
「なんかトレーラーの天井とか壁とか凄い見てた!私達も見てた!!」
「なんで最近になって急激に元気になってるんだよえーっ!?」
モモイとミドリの絶叫を聞かされモルフォは困惑の声を漏らしていた。あれこいつ思ったより元気だな?とぼんやり考え始めながら朝食を終え、再び出発する一行。そしてある程度経ってからモルフォはケイを見ると、
「ここまできたらもう起こせない?」
「そうですね……一応昨日からその方法自体はある程度考えていたのですが……」
ここまで怪奇現象を引き起こしてしまうのならいい加減かつてのケイのような状態になってもらい、意思疎通ができるようにしてほしい。そんなモルフォの言葉を聞いたケイは自分の時のようにはいかないのか少し難しそうな顔をする。と、そんな時だった。車内に機械音声が流れ、氷海に辿り着いたことを告げる。
「うわー!見て見て、外が真っ白!」
「遠くに海が見えます!あっ、氷が浮いてます!」
「流氷かぁ……初めてみるや」
「随分呑気ですね……さっきまで怪奇現象どうのこうので騒いでいたのに」
やっと目的地の氷海に辿り着いたことで全員が景色を見る。が、好奇心の目を向けていたのも少しの間だけ。すぐに真っ白な世界で代り映えしないことを悟り、先ほどまで話していた話題も今答えは出せないとケイが言ったためか、六人はすぐさま気持ちを切り替えてテーブルゲームに興じていた。
「……で、これが矢倉だね。穴熊にも派生させることができると……」
「うわ……色々あるんだね……」
そんな中、六人が遊ぶ、もとい学んでいたのは将棋であった。将棋とは二人で行うボードゲームの一種であり、前世ではチェスなどと同様、古代インドのチャトランガが起源であると言われている。現在キヴォトスで普及しているのは俗に言う本将棋と呼ばれる9×9の81マスと合計40枚の将棋駒を使用するものとなっている。
駒の種類には周囲八マスに移動できる王将と玉将、上下左右に制限なく移動できる飛車、斜めならば自由に移動できる角行、斜め後ろのマス以外の六マスに移動できる金将、左右と後ろ以外の五マスに移動できる銀将、ニマス前の左右に間の駒を飛び越えて移動する桂馬、前方にしか移動できないが何マスでも移動できる香車、前一マスしか前進できない歩兵の八種類が存在している。これらの駒を、下から縦列三段目に歩兵が九枚配置され、二列目に左右の端から一マス空けた形で右側に飛車、左側に角行、そして一番下に端から香車、桂馬、銀将、金将、王将(玉将)という形で合計20枚ずつ配置していく。
そしてお互いに駒を一つずつ動かしていき、相手の駒が自分の駒の移動先にある場合、その駒を将棋盤の外に出し、自分の駒にできる。こうして手に入れた持ち駒は将棋盤の駒を動かす代わりに自分の駒として一個だけ投入することができる。
そして駒を進めていく際、相手側が駒を配置した下から三段目まで、つまり自分から見て奥から縦に三段目の領地に駒を移動させた際に成ることが可能となる。これにより、金将と王将(玉将)以外は駒を裏返すことで成駒へと変化する。歩兵はと金、銀将じゃ成銀、桂馬は成桂、香車は成香となり、金と同じ行動範囲になる。そして飛車は竜王、角行は竜馬となり、通常の行動範囲に加えて周囲八マスへの移動が可能となる。なお、駒が絶対に動けなくなる場合は強制的に成ることになる。
他には四回同一局面が現れた場合、最初から指し直しになる千日手や自分の歩を同じ縦列に二枚置いてはいけない(と金ならば可)二歩などの禁じ手などもあるが、基本的にはいろんな駒の動きを利用し、相手の駒を一つ一つ引っぺがしたり無力化したり、動かせなくして相手の王を追い詰め、王手の連続で詰みに持っていくゲームである。
「なんかこう……適当に突っ込ませていくだけのゲームじゃなかったんだね」
「お姉ちゃんほんとこう……頭悪い突っ込ませ方してたよね、角も飛も桂も歩も全部中央に集めて中央突破って」
「いやぁ……何かしら戦略あるとは思ってたけど全然わかんないし……」
「まあ初めてやるならこんなものだよね……というか美濃囲いなんて初めて聞いたんだけど。全然知らないなぁ」
モルフォも多少ゲームで触ったりはしていたがそこまでガッツリ遊んでいるわけではない。なので囲いと呼ばれる防御陣形の存在は知っていたし、特に有名な、王を角に引き込ませてそれを片側の香、銀、桂、そして金二枚で囲み、歩兵で最前線をカバーするという穴熊しか知らなかった。しかし、こうして皆で調べてみると矢倉、美濃囲い、銀冠、舟囲い、中住まい、金無双など中々に種類があることに気付き、ゲーム開発部の面々は感心していた。
「あっ、見てモルフォ。ミレニアムなんて囲いがある」
「えっ、そんなのあるの」
その中でも特にゲーム開発部の関心を攫ったのはミレニアムと呼ばれる囲いだ。これは2000年頃に流行した囲いの為にミレニアムと呼ばれるのだが、そのことをモルフォ達は知らない。とりあえず名前から興味を持ってその内容を調べ始める。
「王の上下左右を乗、銀二枚で囲んでさらに右斜め上に金二枚、金と歩兵で上下左右を挟み、王を入れられるように桂を一回移動させてどかして、歩五枚で壁を作る囲い……」
「これは、強いの?角筋からは外れているってあるけど」
「うーん……作るのに時間かかりそうだよね。反対側から銀を持ってくることになるわけだし……そうなると金を持ってくるだけで済む穴熊の方が手堅いのかな?まあ状況次第だけど」
それぞれの囲いに長所と短所がある。どの囲いを選択するかも対局を制するには大事なことなのだろう。
「……でもなんか頭痛くなってきたし、なんか別のをやろうよ」
「別のって?」
「じゃあマグネットじゃなくて普通の木の駒使って将棋崩しでもやる?今は床が平らっぽいのかあんまり揺れてないし……一応衝撃吸収用のマットも敷いておこうか」
「はい!将棋崩しなら簡単です!」
そして、囲いやら戦術やらについて色々調べていたモモイ達だったが、ここで本将棋の方は一旦やめておこうと腕を伸ばしてリラックスしながら言う。他の皆も、実際に試すのはまた頭を休めてからでいいだろうと考え、頭からっぽでできる将棋崩しをやることにする。将棋崩しは板の上に駒を山に積んで行う。大体は駒を入れている箱をそのまま逆さまに将棋盤に置いて、そのまま持ち上げることで丁度いい感じに重なった山が作られるので、それを用いることが多いだろう。
「ふふん、私これ強いよ~」
「よく言いますよ、結構よく鳴らすくせに」
「うっ」
将棋崩しのルールは簡単だ。積み上げた山から順番に一本の指で駒を動かしていく。この際、音を立てたり持ち上げたらその時点で失敗となり、次の人に順番が回る。一方、音を立てずに駒を将棋盤の外まで滑らせればその駒を手に入れられる。ルールによっては音が鳴るまで何度でも挑戦できるというルールもあるが基本的には一回挑戦のルールだ。
「まずは端っこの駒を……」
「まあまずはフリーになってる駒から取っていくべきですね」
「じゃあこれでー」
「あ、お姉ちゃんそれ狙ってたのに……あーもうあんまりいいの残ってないよ……ここはまだ崩しやすそう……」
「アリスはここを抜きます……成功です!」
「アリスちゃんのおかげでここは取れそうだね」
早速と一個ずつ取っていく。別にここまで急ぐ必要はないのだが、トレーラーがでかい段差だったりを踏むとその衝撃吸収マットでも殺しきれない衝撃で山が崩れてしまうので、その前に山を削り切る必要があったのだ。
「山、半分ぐらい削れたかな?」
「多分?」
「ここはアリスが一気に駒を手に入れ……あっ」
「アリスちゃん鳴っちゃったね……でも駒がばらけたから一個貰おうかな」
「あ、私も」
「私ももらいます」
「うわーん!皆アリスがぶちまけた駒をどんどん持っていきます!!」
誰かが山を崩したり、音を鳴らしたりしながらもワイワイ盛り上がりながら将棋崩しをしていた一行。と、ここでトレーラーがブレーキをかけたことで山が完全に崩れてしまう。
『ベースキャンプを確認。目的地に到着しました』
「?止まった?」
「どうやら目的地に着いたようですね」
崩れた駒を箱にしまいながら、窓の外を見る。そこには、先生達がいるベースキャンプが確認でき、モルフォ達は防寒具に着替え始める。そしてヘッドフォンのイヤーカフを防寒仕様に換装してトレーラーの外に出た時、
「「……あ」」
アリスとケイは、モルフォに重なって見える、長髪のモルフォの姿を一瞬だけ確認するのだった。