転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「「……」」
トレーラーから降りたアリスとケイが辺りを見渡す。
「これは……」
「ここまでくればアリスも感じますか。これは……名もなき神々の力……成程。多次元バリアと聞いた時から嫌な予感は感じていましたが……どうやら、予想以上に大事になっているようです」
「……じゃあ、モルフォのあれは……」
氷海に降り立った二人は直感的に感じるものがあったようだ。それが、リオとヒマリが解析したのと同様の、名もなき神々の力であることを感じ取った二人は事前に聞いていた話よりも事態は既に深刻なのだと理解する。そして、アリスがモルフォを指差すと、そこには遠くの景色を興味深そうに見ながらショットガンを担ぐ姿があった。だが、時折モルフォはもう一人の自分の存在を気にするようにヘッドフォンに触れたり軽く叩いたりしている。すると、それに応じたようにモルフォの姿と服装が一瞬ダブり始める。本人はこの現象の方は気付いていないようだがこれは、
「……ひとまず合流してからにしま―――ぶっ!?」
先生と合流してからこの事は話そうと思い、ベースキャンプに向かって歩き始めたその時。ケイの顔面に雪玉が叩きつけられる。
「……」
「け、ケイ?」
雪が顔面から落ちていく。アリスが雪玉が投げられた方角を見ると、そこには満面の笑みで雪玉を握りケイに投げつけるモモイの姿があった。それに気付いたケイはプルプルと体を震えさせていたが、足元の雪玉を握りしめるとそれをモモイに投げつける。
「……モモイ!!!」
「あぶな!?いやこれ結構硬く握ってるよね!?」
「お姉ちゃん何して……うわっ!?」
「まずは雪合戦ですね!アリスとケイは負けません!!」
「こ、このぉ!アリスちゃんがそのつもりならこっちも負けないんだから!」
さらにアリスもミドリに雪玉を投げつけ、お返しとミドリも投げ始める。その様子を乗り遅れたユズが遠巻きに見ていたが、モルフォがユズに先生達の下に先に行ってきてと伝えて行かせると、楽しそうに雪玉を投げるモモイとアリス、慌てながら雪玉を作るミドリ、モモイを仕留めてやろうと怒った顔で巨大な雪玉を作ろうとしているケイを溜息を吐きながら見る。そしてシールドを展開、それを少し硬めの雪で積まれた部分の四方に突き刺してハンマーで打ち、最後に下にシールドを刺してからハンマーで叩いてブロック状に取り出すと、
「まずは先生に会うのを先にしないか」
雪のブロックを勢いよくハンマーで打ちつける。直後、振動音と共に雪が砕け、粉々になって四人に襲い掛かる。
「「「「きゃああああ!!」」」」
四人が怯んで雪玉を落としたところでモモイの所に近づき、そのまま足払いをかけて尻もちをつきそうになった所で襟首を掴む。そしてモモイを引きずってベースキャンプへと向かうのだった。
「よーし、行くよみんなー」
「……はぁ、モルフォもああ言っている事ですし行きますか……トキ達を待たせるのもよろしくないですし……」
★
トキの手によってトレーラーがベースキャンプ内に停められ、改めてゲーム開発部に現在の状況と事情が説明される。
「つまり、私達もそのデカグラマトンの預言者と戦うって事?」
「ううん、違うよ。モモイ達を呼んだのは、多次元バリアについての話をアリスとケイから聞きたいのと、AMASや千年の守護者を連れてきてほしかったからなんだ」
「後はアビ・エシュフの予備機ね。これを今からエイミ用に改装すれば戦力としては……」
話を聞きながら、モルフォが視線を横に移す。そちらではAMASがリオがここに来るときに乗ってきたであろう輸送船に他のAMASや千年の守護者を積み込んでいる様子が見えた。確かに、ゲブラやコクマーを撃退できていることを考えれば、エイミがアビ・エシュフを使用できるようになれば大幅なパワーアップが見込めるだろう。だが、
「……そうですね。私達も最初は楽観的に考えていました。よもや物質再構築を使うとは思いませんでしたが……それだけならと。しかし、実際に予想を遥かに超えているといっていいでしょう」
「どういうことですか?」
「アリス、あなたにも見えていますね?」
「はい。力が……道となって見えています」
「それは……名もなき神々の力?」
ケイは残念ながらと首を横に振ってしまう。そしてリオの言葉に頷くと、ケイとアリスは空を見上げる。
「名もなき神々の力は、ある一点に向かっています。この氷海で遭遇した預言者は二体、そのどちらも名もなき神々の力の影響を受けており、さらに信号だけ観測された、その両者よりも強力で多次元バリアを作り出している個体も存在している……それでもなお、判明した預言者は合計六、いえ七体でしかない」
「セフィロトはえーと……マルクト、イェソド、ホド、ネツァク、ティファレト、ゲブラー、ケセド、ビナー、コクマー……後はえっと……「ケテル」……そんなのいたっけ……ん?」
なんで逆から言ったんですかとか、別にゲブラは伸ばす必要はないんですよとツッコミを入れようとしたヒマリの動きが固まる。それだけではない、アリスとケイ以外の皆も固まってしまっていた。
「どうしたの皆」
「いや、今自分でケテルって言ってたじゃん……?あれ、私が見たの幻覚かな」
「いえ……この反応を見るにおそらくは幻覚ではないと思います。モルフォ、今あなたは自分の口でケテルの名を口にしています」
「マジで!?」
「ええ、大マジです……ていうか何故そこだけ抜けてたんです?」
「セフィロトの樹を扱ったあるゲームでケテルだけ出てなかったから……ですかねぇ……」
エイミとトキが冷や汗をかきながら固まってしまった場を動かそうとしつつ、モルフォの様子を確かめるように話しかける。だが、幻覚と彼女達が言っている現象、それは。
「……モルフォ、よく聞いて。今、ケテルの事を言っていた時のモルフォは……もう一人のモルフォの姿をしていたんだ」
「なんですって?ちょっとちょっとどういうこと?」
「……それで意思疎通できるものなのかしら?」
先生の事を聞き、コンコンとヘッドフォンを指で叩きながらモルフォが言う。思わずリオが首を傾げてしまうが、モルフォとしてもコンタクトを取る方法がこれしかないのだから仕方ない、と。
「……おそらくですが、平時よりも名もなき神々の力に満ちているこの氷海に来た影響でしょう」
「……ふむ?」
何か反応を引き出そうとするモルフォと彼女を不安そうに見つめるモモイとミドリ、ユズを尻目にケイが説明を始める。リオとヒマリ、先生が集中して聞く中、ケイはアリスにあることを伝えてアリスにそれを持ってこさせてる間に説明を始める。
「もう一つの世界のモルフォは、プレナパテスと共にこの世界に魂だけの状態となってきました。それは所謂幽霊的な側面を持ちつつも、電子的な側面も併せ持つ異質の存在です。言わば肉体という枷を失ってるが故に神秘が剥き出しになっている状態……故に、名もなき神々の力の影響をより強く受けて急激な覚醒が起こり始めているんです」
「じゃあモルフォの体に起こっているのは……」
「おそらくは主導権の取り合いです。おそらくお互いにその気はないでしょうが……先程、モルフォが答えを求めている時にそれをもう一人のモルフォが持っている時、それを意識的か無意識的かはともかく口にしたのだと思います。その時に彼女はモルフォの体を一時的に乗っ取ってしまったのでしょう。これまで何かと出ていたのは氷海に近づいたからでしょうね」
「「……???」」
「……ケイ、モモイとミドリがショートしてる」
ヒマリ達程は理解できてはおらずとも話についてきていたエイミが、完全に頭から湯気を出し始めているモモイとミドリに視線を向ける。モルフォは神妙そうな顔でヘッドフォンを外してユズと共に見ていたが、それらの様子を見て溜息を吐く。
「要するに、もう一人のモルフォが起きそうなので距離を離すか、或いは私のように体を用意する必要があるということです。先ほども言ったように電子化された意識であればそのまま移動することが可能なはず……新しい体を用意してそちらに移動してもらい、モルフォと体の取り合いにならないようにする必要があります。ここはこれ以上悪影響を及ぼさないように本題の前に対策するべきかと」
「となると、名もなき神々の力の悪影響を受けない体が必要だと思うのだけれど……ならアリスの時のようにAMASに」
「あんなものにモルフォを入れないでください。彼女にはそれよりもぴったりな体があります」
ケイの説明にモモイ達がなんとか呑み込んで頷くと、早速とリオが体を用意しようとしてそれをケイが一蹴する。悲しみにリオが落ち込んでいると、千年の守護者を運んできたアリスが姿を見せる。
「はい!ケイ、持ってきました!」
「!なるほど……千年の守護者を人格の移動先にするのですね」
「ええ、後はもう少し外装とかも弄って……」
「それって、今すぐできるかな?」
これでもう一人のモルフォが完全に目を覚ましてくれるなら、先生としても嬉しいことだ。すぐに取り掛かれないかと言うと、ケイ達は頷くと、復活したリオから話の軌道修正を持ちかけられる。
「ええ、今は積み荷の整理もあるでしょうし……ただ、取りかかる前に話を一旦戻したいのだけれど」
「ああ、予想を遥かに超えているということですね。これは言葉通りですが……奴らは名もなき神々の力を使ってとんでもないことを考えています。今後、まだ姿を見せていない預言者との戦いになれば、今の私達の戦力では不十分になるでしょう」
「……じゃあ、援軍を呼ぶべきってこと?」
「しかし、移動日数を考えるとあまり現実的では……」
「でも報告だけはしておいてもいいのでは?向こうもこっちで何が起こったのか知りたいところはあるでしょうし」
必要そうなデータなどを用意しながらリオ達は話の続きをしていく。そしてこれ以上はここでできるような話ではなくなったのもあり、四人はモルフォを伴い、ベースキャンプの奥へと向かうのだった。
★
一時間ぐらいしてからだろうか。陽も暮れ始め夕暮れ時になる中、暇を持て余したモモイ達が雪だるまやかまくらを作り始め、それをぼーっとエイミが見守る中、トキが出してくれた温かいお茶を啜っていた先生だったが、ベースキャンプの奥から聞こえていた作業音が消える。
「!」
それに気付いて先生とトキが後ろの方を見ると、そこからモルフォ達が姿を現す。モルフォの手には一つのそこそこ大き目の球体があり、それはオレンジと青と白の三色で彩られていた。さらに黄色い二つの点のレンズがついており、まるで目のようにも見える。真下には浮遊用のプロペラが装着されている。
(待って、これは……)
それを見た先生は既視感を感じ取りつつ、シッテムの箱を見る。既にプラナの表情は少し歪んでいるが、それが見えていないモルフォ達はそれを机の上に置く。
「こ、これが……?」
「ええ、見た目は千年の守護者にカバーを取り付けたものとなっていますが……実際はホログラム機能を搭載しているので目に見える姿は違うと思います」
「もう起きてるのかい?」
「ええ、起きてますよ。今はホログラムやスピーカーをこちらでオフにしているので止まっているように見えていますが……では、点けますね」
ケイが装置を起動させる。すると音こそほとんど鳴らないがプロペラが回転し、球体が浮き上がる。直後、ホログラム発生装置が起動し、もう一人のモルフォの姿が映し出される。
『あ……!』
(……これは、まるで……)
千年の守護者が中心となり、ホログラムに包まれる。映し出されたもう一人のモルフォがオレンジの長髪を靡かせる。青いカチューシャが特徴的な彼女の服装はアビドスの制服であり、蝶の羽を思わせる腕の装飾や背中の光の翼は消えていた。正真正銘、能力の有無に限らないもう一人の夢見モルフォの姿。彼女が、優しそうな赤い瞳をゆっくりと開く。
『ここ、は……?』
その声を聞き、リオ達は安心したように胸を撫で下ろす。なんてことなしにやっているように見えるが、アリスの人格をゲーム機からAMASに移動させたときや割と自由にケイが人格を移動させているのとは完全に訳が違う。人の人格を移動させるとなれば目には見えずともリオやヒマリはかなり苦労していたのだろう。
「やあ、モルフォ。私の声が聞こえるかい?」
もう一人のモルフォに先生が話しかける。出てきたのは良かったもののこちらから声は聞こえるのかと不安だったが、先生の声を聞いたもう一人のモルフォは驚いたようにビクッと体を震わせて先生の方を振り向く。
『……先生?』
「……成功ね。ちゃんとこちらの声は聞こえているようね」
「はい、現時点において意志疎通に問題はないように思えます」
振り向き、先生を見てその名を呟く一人のモルフォ。と、防寒着を着こんでいる先生の姿を見て違和感に気付く。
『……?』
恐る恐るといった様子で視線を動かしていく。リオ、ヒマリ、トキ、ケイ、アリス、そしてモルフォ。全員が防寒着を着こんでおり、千年の守護者に搭載された温度センサーの情報がもう一人のモルフォに流れたことでこの場所が極寒の地であることを理解する。そして、ベースキャンプの外に広がる氷海を見て、
『……ここってどこ!?』
もう一人のモルフォは絶句するのだった。
★
目を覚ましたもう一人のモルフォに何故自分達がここにいるのか、どうやって今の状態になったのかについての説明を行う。それを一通り聞き、理解したもう一人のモルフォは項垂れたように空中に浮いた状態で座っていた。
(でも……なんでゲーム開発部まで氷海に……?というか多次元バリアをデカグラマトンが……?どういうこと……?)
ぶつぶつと誰にも聞こえないように呟きながら考え込むもう一人のモルフォ。彼女なりに今の状況を理解し、今すぐにシロコ*テラーやユメに会わせることはできないという事実も受け入れていた。
「先生……彼女が?」
「うん」
「……髪型と雰囲気以外はそっくりだね」
「まあ、私だからね」
「これで、モルフォの人格が混線する、といった事態はもう起こらないでしょう。やっと本題に入れますね」
そこにエイミやモモイ達も戻ってくる。そしてもう一人のモルフォを見て、無事に成功したことに安堵する。とくにエイミは名前しか知らない相手だったのもあり、初めて見るモルフォの姿に興味深そうな様子を見せる。
「それで、この後どうするの?多次元バリアって破れる?」
「ええ、破れますよ。前回以上の設備を用意すればね」
「……予想はしていたけど現実的じゃないわね」
「……一応、そういう準備をなしで破るのであれば私とアリスがかなりのリスクを背負う方法もありますが……」
「それは最終手段で」
「もちろんです」
とにかく目下の目的を達成したことで多次元バリアの突破についての話になる。専門的な難しい話になったことで話に混ざれないことを察したモモイとミドリとユズはもう一人のモルフォの方へと歩いていき、残った面々でどう突破するべきかを話し始める。
「……皆が作業している間に考えたんですが、コクマーが資源を採掘したってことは材料をその多次元バリアの中に運んでるってことなんですよね?そこに本拠地があるなら」
「ええ……しかし、そうなると予言者達はよく材料を輸送できましたね」
「というと……?」
『先生、多次元バリアというのは―――』
モルフォの切り出した声にリオ達は頷く。先生は疑問そうに首を傾げていたが、そこにプラナが補足を入れようとした、その時だった。突然地面が揺れ始める。直後、ベースキャンプ内に警報が鳴り響く。
「うわわ!?」
「地震……?」
「っ、これは!」
すぐに機材に駆け寄り、観測されたデータを確認し始めるリオとヒマリ。顔色が険しくなった二人を見て、トキが警戒の色を強める。
「リオ会長、ヒマリ先輩。情報の共有を」
「緊急事態です、皆さんは配置に戻ってください。ゲーム開発部の皆さんも万が一に備えて戦闘の準備を」
「結論だけ先に言うわ。新しい預言者の反応よ」
「ケイ、もし戦闘になるならアビ・エシュフの準備をした方がいいですよね?」
「ええ、私達は格納庫の方に移動しておきます。アリスは準備を手伝ってください」
観測された新たな預言者。その言葉を聞き、トキとエイミがいつでも武器を手に取れるようにする。ケイもアリスと共に格納庫へと消えていく。
「以前と違って信号を出し続けてくれているおかげで特定ができたわ。多次元バリアの確認地点と同じ座標で発現したこの預言者は……七番目の守護者、ネツァク……!」
『ネ、ネツァク……?』
「セフィロトの樹、七番目のセフィラ!」
二人が消え、モルフォ達も準備を進めていく。その様子を見てもう一人のモルフォが困惑していたが、万が一戦闘が起こって何かが起こってもまずいともう一人のモルフォの本体をモルフォが掴み引き寄せる。その直後であった。
「!部長、正体不明の通信が割り込んできたよ」
「!これは……!!」
ベースキャンプに突然何者かが通信を割り込ませてくる。直後、ホログラム発生装置を利用され、三人の少女がベースキャンプ内に現れる。
「この子達は……?」
「デカグラマトンのエンジニア……アイン、ソフ、オウルです」
「アイン・ソフ・オウル……」
『……なんか発音がおかしかったような……!?』
『まあそれはおいといて……どこで何をしているかと思ったらそんなところにいたんですね』
口に金属質なマスクをした物静かな白髪の少女、アイン。生意気そうな顔つきをしているショートヘアの白髪に耳にイヤーパッドを付けた少女、ソフ。長い白髪が特徴的で、目元を黒い布のようなもので隠している少女、オウル。三人の少女を見て、ベースキャンプ内に緊張が走るのだった。