転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
アイン、ソフ、オウルとの初遭遇になるゲーム開発部。三人は人数が増えていることを軽く見渡して気付いたものの、別に関係ないかと言わんばかりに自分達の要件を口にしていく。
『こ、こん、にちは!そして気を付けて、ください!わ、私達はこれから―――と、とっても怖いことを、します!』
『……怖いこと……?』
もう一人のモルフォが困惑気味に首を傾げる。アインのたどたどしい言葉にオウルは若干呆れたように溜息を吐くと、アインに続くように口を開く。
『はぁ、私はこの通信の必要性を疑っていますが……まぁ、いいでしょう』
『そう、私達は……あんた達に宣戦布告をしにきたの!!』
「せ、宣戦布告!?」
宣戦布告。いきなりの宣言にミドリが驚いたような反応を見せる。しかし、ソフの発言を聞いたヒマリは冷静に、
「なるほど、遂にネツァクを完成させたということですか」
『『『!!』』』
そう指摘する。するとわかりやすくアイン達は狼狽えてしまい、アインは慌てて口を開く。
『ち、違いますよ!?ね、ネツァクちゃんはずっと前に完成してました!』
『そう!私達はネツァクが鋼鉄大陸になるまで、見つからないように守っていただけ!』
『ああ、これがどれほど素晴らしい偉業なのか、理解できていないのでしょうが。はぁ……最早落胆すら通り越して同情してしまうくらいです。なんてもったいない』
『鋼鉄大陸……?え、預言者が大陸……何それ……』
「まあ誰も知らない人に私達こんな凄い事したんだよってマウント取られたところで滑稽なだけだし……」
『はい!?』
ちんぷんかんぷんな様子のもう一人のモルフォを筆頭に、彼女達が何を誇っているのか全くわからない。よくないことなんだろうな、ということだけは辛うじてわかるがそれだけだ。それ故にさらっと飛び出してきたユズの言葉に思わずソフが目を見開く。
『こ、こいつなんか何も考えてなさそうな顔してるくせに……!』
『落ち着きなさいソフ』
『え、えっと鋼鉄大陸っていうのはね、ネツァクちゃんの進化した姿そのもので……禁じられた力を使って、触れた物質を変換し、領域を広げる金属の大陸なんです……!』
「拡大する金属の大陸……!?」
『……名もなき神々の力をそういう方向に使ってきましたか……』
『物質変換による浸食変換……つまり鋼鉄昇華……』
「鋼鉄昇華だって!?」
『『『……』』』
通信だけは開いているので、格納庫からアイン達と先生達の会話を聞いていたアリス達が思わずそう口にする。こちらの通信はアイン達には届いていないが、アリスが口にした言葉を思わず先生が口にしたのを聞いたアイン達三人は少々無言になって何かを考え合うように互いに顔を見合って頷くと、
『そう……ネツァクちゃんはこの世界を鋼鉄昇華するんです!』
『鋼鉄大陸に触れたものは全て大陸の一部になっていく……そう、まさに無敵の大陸!』
『何の準備もせずに足を踏み入れてしまえば―――』
『一瞬で……ネツァクの一部になってしまいますよ?』
ネツァクがどれほどの脅威なのか、先生達に告げる。名もなき神々の力を用いた物質の再構築。それを応用することによって、周囲の物質に接触した鋼鉄大陸は触れたものを自らと同じ成分へと変えていき、自らの一部とする。それにより、全ての大地が鋼鉄大陸となれば、今のキヴォトスの生活は完全に崩壊するといっても過言ではない。先生達が冷や汗を浮かべ始める中、
『我にお手伝いできることはありませんか?』
一人の女性の声が聞こえてくる。映像の向こうから聞こえてくる。それを聞いたアイン達は驚いたような表情を浮かべると、
『お、お姉様!?いえ、大丈夫です!お姉さまは気にしなくても大丈夫です!私達が全部やりますから!』
『そうだ!あれがどこまで増大するのか気になりませんか?一緒に観察しましょう!』
『鋼鉄大陸……ネツァクちゃんの鋼鉄昇華の限界は、私達にもよくわかってないので……』
『どこまで大きくなるんだろうね。楽しみだなぁ……私達のネツァクは文字通り無限に周囲を食らい尽くしていくんだからね』
『そしてゆくゆくはキヴォトス全土を飲み込む……ふふっ、凄いですよね?驚いて言葉も出ませんよねぇ!?』
お姉様と呼ばれる存在。その名を聞いたアイン達がどこか人懐っこく自慢するような口ぶりになる。その様子に違和感を覚えつつも、先生は三人のことを知るためにある質問を投げかける。
「一つ聞いてもいいかな?」
『……ん?ああ、いいよ。特別に答えてあげる』
「キヴォトスを鋼鉄大陸にする目的は何かな?もしかして、消えたデカグラマトンの復活を……?」
『っ……あの方の名を軽々しく呼ぶな!それは、あんたが口にしてはいけない神聖な十文字の名前なんだよ!』
だが、先生の質問を聞いたソフが急にむっとなって怒りの声を張り上げる。ヒマリ達からすればAIを預言者へと感化させた存在だが、彼女達にとってはまさに創造神にも等しい存在だ。そんな相手の名をこうも何気ない存在かのように呼ぶ先生の姿はあまり良いようには映らないのだろう。オウルも呆れたような様子を見せると、皮肉を口にする。
『……本当に凄いですね、シャーレの先生。色々な意味で』
『そ、そのうちに、誰もあの方の事を話せなくなる世界がくるでしょう』
『そう!「信じない」を「信じたくない」に変えるんだから!』
『その時になって後悔しても遅いんですけどね?キヴォトスは、私達の計算通りであれば……』
だが、すぐにそんなことなど無意味であると言う。そして三人は笑みを浮かべ非情な結末を口にする。
『『『後三日で鋼鉄昇華されるのだから』』』
そう言い残し、ホログラムが消え、通信が途切れる。アイン達の宣言に先生達は暫く言葉を失っていたが、やがてヒマリがゆっくりと口を開く。
「普段であれば、ただの誇大妄想と放って置くところですが……デカグラマトンのエンジニアが言うのであれば、聞き流すわけにはいきません」
「でも、具体的にどうするの?あの話が本当なら……」
「近づいただけで鋼鉄大陸にされてしまう……これじゃ打つ手が……」
「いえ、そこは問題ないと思います。鋼鉄大陸になるのは無機物だけでしょうから」
アイン達の目的である鋼鉄昇華。それを阻むにはどうすればいいのか、そもそも鋼鉄大陸の特性が事実ならどう対処すればいいのか。そう考えていたところで格納庫の方に移動していたケイとアリスが戻ってくる。
「あれは名もなき神々の力の劣化版に過ぎません」
「そうなの?」
「そもそも私達は名もなき神々の力の上限値がどこなのかすら知らないので」
「……要するに、ネツァクは名もなき神々の力を使い、波動と粒子の関係を根本から変化させているのですが……無機物の情報値を変換しているだけなのです。まあ、問題は規模が大きすぎるということですが……ええ、彼女達からすればまさに勝利宣言に等しいでしょうね」
あれは、名もなき神々の力の使い方としては、かつてケイ達がアトラ・ハシースの箱舟を掌握した時よりも力の練度や質は劣っているという。だが、例え質が劣化していたとしてもここまで規模が大きいとなれば十二分に脅威だ。
「……もっと前に鋼鉄大陸の事を知れていれば……たった三日、いえ……実際は進行形で鋼鉄昇華が起こる以上、そのタイムリミットはもっと短いと考えた方がいいわ。しかも、私達が用意していた戦力はそのほとんどが駄目になったと言っていい」
「AMASは勿論ですがアビ・エシュフも使えないでしょう。千年の守護者は不明ですが……今のケイの体の方も心配です」
「あ、あの……無機物が駄目ってことは銃や服も……」
「え!?近づいたら私達裸になっちゃうの!?」
「……?何の問題が?」
「そう思っているのはあなたくらいですよエイミ……?」
しかも、鋼鉄大陸の無機物の変換能力を考えると、対デカグラマトンの預言者用に用意していたAMASなどは一瞬で鋼鉄大陸に取り込まれてしまうことになる。勿論、銃や服だって立派な無機物だ。近づけば裸になる、それを聞いた全員の顔に羞恥の色が浮かび、慌て始める。
「……困るな……服の繊維だけっていう話なら武器を服にするとかそういうのやれるんだけど……まあそれでも上はない状態で戦うってなっても最悪……」
『女の子なんだからそこは恥じらい持った方がいいかな……?それにその、別人だけど私の裸を皆や、特に先生に見られるのは……』
「これは……チャンスでは?」
「何の?」
モルフォにもう一人のモルフォが顔を真っ赤にしながら肩を掴もうとするがホログラムの手なので透過してしまう。そんなモルフォ達を見てトキがにやりと一瞬笑ったのを見てモルフォが思わずツッコんでいたが、その様子を見ていたヒマリがこのままでは話が進まないと咳払いを入れる。
「こほん……この極寒の地で清楚系病弱美少女の身体を晒すなんて、確かに問題ですが……それ以前に根本的な問題を忘れていませんか?私達はまず、多次元バリアを突破しなければいけないのですよ」
「こういう時、裏技みたいなものがあればいいんですが……」
「あ、そうそう。それだよ……コクマーが集めていたっていう大量の資源。あれの通り道も多次元バリアで覆われているんです?」
「!そっか、物理的なバックドア……!」
アイン達のもたらした事実によって鋼鉄昇華の方に話題が持ってかれていたが、そもそもの問題として話し合っていたのは多次元バリアの突破方法だ。そこでモルフォが指摘したのはコクマーなどが集めていたという資源の運搬ルート。それを聞き、そこが物理的なバックドアになることに思い至ったユズの発言を受け、リオが二つの座標データの座標を照らし合わせる。
「……確かに、採掘された資源は、ネツァクと同じ座標に運ばれているわ」
「鉄道と施設を作って資源を加工してたよね?」
「それを守るために眷属も配置していました」
「……ネツァクが全ての無機物を鋼鉄大陸に変換できるなら、資源を集める必要性はありません」
「そうね、鋼鉄昇華が進めば使えるリソースが増えるのだから」
「えっと……つまりネツァクの進化素材に資源が必要だったってことですか?」
ネツァクのいる場所に運び込まれた資源。それがネツァクを進化させるために必要だったのでは、ここまでの話を聞いてそう思い至ったモモイが聞くと、ヒマリも同様の結論だったのか嬉しそうに笑みを浮かべながら頷く。
「その仮定が事実とするならあるはずよ。物質変換の影響を受けないバックドアが……そこからの突入ならば、多次元バリアを通過したり、破壊したりする必要はない」
「となれば、資源の搬入ルートを探るため、凍原地帯を調査するべきでしょうね」
「……今から支援要請ってできないの?」
「……一度は考えたけれど、駄目ね……時間が足りないわ」
「……ネル先輩やウタハ先輩、チヒロ先輩達が来れるなら大分話は変わりそうなんですけどね……」
調査するのはいい。しかし、この戦力で預言者達を相手取れるのか。エイミも戦力的な不安を覚えたのか増援を呼ぼうと提案するも、リオの表情は硬い。時間という制約だけはどうすることもできないのだ。ゲーム開発部ですら、ここに来るのにトレーラーで四日ほどかかっている。どれほど急いでも三日程度はかかるだろう。つまり、他の面々が辿り着けたところでその時点で決着がつく。
『あ、あの!それならシロコ先輩に運んでもらうのは……むしろ、場所さえわかるならシロコ先輩にワープさせてもらえば一気に本拠地に……』
「ここの座標知ってるのシロコ先輩……?あの人のワープってワープ先の座標がわからないと転移できないんじゃなかった?」
『……それは』
「……正直な所、協力は難しいでしょう。この辺りには名もなき神々の力が他の場所よりも満ちています。この力は、取り扱いには注意しなければならないもの……座標を教えても、彼女の持つ神秘が名もなき神々の力と干渉しあった結果、転送座標がずれて海中の中、ということもあり得るかもしれません」
「じゃあ途中まで移動してもらうのは?」
「ここに来る途中の旅路でもここほどではありませんが名もなき神々の力は広がっていました。おそらく現在進行形で広がっています。この状況では彼女のワープ自体がリスクを背負っているといいでしょう」
シロコ*テラーのワープもそこまで万能じゃないと言われて遠い目をするもう一人のモルフォ。
「……とはいえ、鋼鉄大陸のことはミレニアムの方に伝えておいた方がいいでしょうね……もし、私達が失敗した場合、デカグラマトンに太刀打ちできる可能性があるのは、無機物の鋼鉄昇華を避ける方法を確立させるという前提ではあるけどエリドゥだけなのだから。彼女のワープも使えるかどうかはその時に確かめることになるでしょうね……それで成功できれば、中枢を一気に叩くことも可能なのだから」
「それは私達が負ける前提の作戦ですがね」
「保険をかけるのは大事なことよ」
そしてリオはゲーム開発部を見ると、六人の意思を確認するように質問する。
「……こうなってしまった以上、あなた達にも協力してもらうわ。この世界を守るために……とはいえ、強制はしない。もし戻りたいのなら今すぐになってしまうけれど、トレーラーに戻りなさい。デカグラマトンのエンジニア達も、ここから去る者をわざわざ追いはしないでしょうから」
「リオ会長……さすがにここで退く気はありませんよ」
だが、モルフォの言葉を皮切りにモモイ、ミドリ、ユズが頷く。アリスとケイも、デカグラマトン側は名もなき神々の力を使ってることもあってか最初から退く気はなかったようで無言で頷く。
「……というわけで一緒に地獄に付き合ってもらうんでよろしく」
『えっ!?……いや、全然放っておくわけにはいかないって思ってたからついていく気だったけど……でも、今の状態だと何もできないと思うよ……?』
そして、もう一人のモルフォも連れて出発の準備を進めるのだった。
★
凍原地帯。リオがここへ来る際に使用した輸送船から鉄道の痕跡を発見した一行は実際に地上に降りて調査を行っていた。
「なんだか寂しい風景ですね……」
「まあ、誰もいないし」
「それもそうでしょう。長らく忘れられていた土地に鉄道を作り、資源回収が終わったら施設を放棄したのですから」
そこに広がっていた鉄道の痕跡について調べるため、車を下ろして地上から探索を開始するトキ達。ゲーム開発部が乗ってきたトレーラーはそのままベースキャンプに放置されており、小回りが利く車を下ろして移動していた。空は完全に暗くなり、時刻は夜を告げていた。車の走る音だけが聞こえてくる車内、窓の外を見ながらユズがぽつりと呟く。
「随分移動した気がしますが……一体どこまで続いているのでしょうか……」
「しかしまぁ……なんか静かですねぇ」
「今の所、仕掛けられている、という感じはありませんね……あ」
「何かあったの?」
ユズに続くようにモルフォとトキも口を開く。だが、ここでトキが車を止めてしまう。リオが何かを見つけたのかとトキに問いかけるが、トキは首を横に振ると、
「いえ、線路がここで途絶えています」
「……道標が消えちゃってるって事?」
「じゃあ、一旦戻るの?」
「……それだけではありませんね。悪い知らせがもう一つあります」
「部長?」
道がなくなっていると告げる。全員が車を降り、トキはリオと共に地面を確認しているが、痕跡は全く見えない。なら戻るべきかと、ミドリが聞くのだが、それを聞いたヒマリも少し険しい表情を見せながら首を横に振る。
「……GPSの信号が失われています。おそらくは少し前から……」
「!皆、伏せてください!!」
どうしたものかと考え始めた直後、大きな揺れが先生達を襲い、ケイの声と共にその場にいた全員がその場に伏せたり、姿勢を屈める。しかし、身体の方は何もないことに気付き、恐る恐るといった様子で顔を上げたリオが端末を取り出すと、
「……!?電子機器が……使えなくなっている……!?」
「EMPの対策はしていたはずなのに……」
「アビ・エシュフも駄目ですね……どっちもうんともすんとも言いません。EMPや電磁波対策も万全にしていたからこそ火山地帯に入った時は問題なく使用できていたのですが……」
なんと電子機器が使えなくなっていることに気付く。使えないのは端末だけでない、アビ・エシュフも、車の中に数機積まれていたAMASも同様だ。電子機器が使えなくなっているこの状況、もし襲撃など受けようものならひとたまりもないだろう。と、
「「「「……」」」」
ふとモルフォ達の視界をもう一人のモルフォが通過する。電子機器については完全に専門外なため完全に黙り込んで浮いていたがそれを見たモルフォ達四人がもう一人のモルフォを同時に指差す。
「「「「使えてるじゃん!」」」」
『えっ!?』
「……成程、これも名もなき神々の力を使用したEMPに似た攻撃ということですか。つまり実際にEMP攻撃によって電子機器が破壊されているわけではなく―――」
「ええ、回路などが壊れたりしているわけではありません。名もなき神々の力を発射して力場を作り出し、一時的に電子機器を使用不能の状態にしているだけです……ふぅ、本当にEMP対策すら上回る攻撃でなくてよかったです」
もう一人のモルフォを見て、ヒマリも敵の攻撃の種に気付く。直後、車の中から出てきたケイが安心した声を漏らす。万が一電子機器が壊れていたらという可能性を危惧して調べていたようだが、ケイは次にアリスを見ると、静かに告げる。
「アリス」
「なんですか?」
「いい加減、私も堪忍袋の緒が切れました。奴らにわからせてやりましょう……誰に喧嘩を売っているかをね」
「え?」
「アリス、あなたもここに来るまでに感じているはずです。私の目を見て……力をより感じるんです。それが、道標になります」
ケイに言われるがままにアリスはケイの目を覗く。その直後だった。その場にいた二人以外誰も動かなくなってしまい、空にオーロラが現れる。
「……あ、あれ!?皆が動かなくなってしまいました……!これでは、まるでホラーゲームの導入みたいです……」
「落ち着いてください、アリス……いえ、王女。何も恐れなくて平気です」
「ケイ、これは一体……」
慌てて周りを見渡すアリスだったが、ケイから王女と呼ばれたことで慌てて向き直る。ケイはアリスのことを王女と呼んだ、それはつまり、名もなき神々の王女としての力が必要ということなのだろうと。
「……先程、大量のエネルギーが発射され力場を形成されました。空に見えるオーロラは、王女と私だけに見える名もなき神の力の構造です。この状況は、私達にとって好都合……このエネルギーが満ちている環境下であれば何だってできますから。このように意識の接続を一時的に行えば……こうなるわけです」
そう言いながらケイは他の面々を見る。アリスも他の皆を見て納得したように頷く。
「……でも、王女と呼ばれるのはなんか、寂しいですね……」
「……今はその役割が必要な時ですから」
「必要……」
空を見上げていたケイが、動きが止まった二人のモルフォへと視線を向ける。
「……私達にも、きっといくつもの可能性があったのでしょう。名もなき神々の王女として、この世界に終止符を打った可能性、私が死んだ可能性、他にも様々な可能性が……そしてアリス、あなたは選びました」
「はい。確かにアリスは名もなき神々の王女です、ですがアリスは勇者でもあります。勇者とは勇気ある者……ですが、一人で戦う者ではありません。皆と一緒に進むことで一人では届かない場所に辿り着く者……勇者として、皆の一歩前に立ち、戦う者です。ですが、その隣には、そして後ろには共に助けてくれる仲間達がいる……アリスが選んだのは、この道です」
「……ええ、その通りです。そして私も選びました。天童ケイという新たな道と、名もなき神々の王女の侍女、その両方という可能性を……そして、私達が捨てずにいた役割が、意味を持ちます」
別れた可能性、それには自分達が該当するだろう。だが、モルフォ達にもそれが当てはまるはずだ。自分達という存在に影響を与えたのは、ゲーム開発部、先生、ミレニアムの生徒達、他にも多くいる。その中でアリスは勇者として、ケイは天童ケイとして歩いてきたのだから。もしかしたら捨てる可能性もあったかもしれない。だが、二人はそれを手放しはしなかった。
「あのデカグラマトンのエンジニア達は私達の存在に気付いていないでしょう。最初は格納庫にいたおかげで視認されずに済みましたが、その後は感知されないように私が妨害しているので。まあ……本当に名もなき神の力を使いこなせているのならこの程度の妨害はすぐに乗り越えているでしょうが」
「では、アリスはどうすればいいのでしょうか?」
「胸を張り、世界に宣言してください。自分こそがその主であり、正当な継承者であると。力を使うのはあなたの自由なんです」
「……勇者として道を切り拓くことも、この世界を正すことも、何でもできるということですか?」
「ええ、それを止める神は、もう存在していないので……さて、もう気付いていますね?」
ケイの言葉にアリスが頷くと目を閉じる。何をすればいいのか、それを探り、そしてその形をアリスは見つけ出す。そしてアリスとケイが目を開くと、そこには心配そうに自分達を見つめる皆の姿があった。
「あ、アリス、大丈夫?」
「大丈夫です、モモイ。何秒ぐらいアリス達はぼーっとしていましたか?」
「えっと……二秒ぐらい?」
「わかりました。では皆さん、アリスとケイがこの力場を破壊します。リオ会長、承認を」
「!」
「破壊ってどうや……まさか」
「名もなき神の力の利用……そういうことね。わかったわ……それしか方法がないのなら」
『アリスちゃんとケイちゃんの力って承認制だったの……!?』
アリスとケイは解決法を示し、リオが頷く。安全の為に全員がアリス達から少し離れて見守る中、ケイがアリスに声をかける。
「アリスは力の本当の持ち主が誰なのか、証明すれば良いだけです」
「わかりました!いきますよ、ケイ!」
そう声をあげ、アリスがスーパーノヴァを天に掲げる。直後、完全に機能が停止していたスーパーノヴァから光が溢れ出し、大空を切り裂いていく。文字通り夜空を二つに割った光が無数の爆発を引き起こし、同時に二人にしか見えてなかったオーロラが他の皆にも見え始める。
「これは、オーロラ……!?」
「綺麗……」
「オーロラ……ありえないわけではありませんが、これは」
「!部長、機器が……!」
「ええ……正常に動作し始めましたね」
直後、止まっていた電子機器が復活していく。完全に力場を破壊したことで復活した空を見上げながら、アリスは上手くいったことに安堵しつつ、ケイと顔を見合わせて笑い合うのだった。