転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
輸送船が種子貯蔵庫の上に移動し、そこから千年の守護者が降下されていく。千年の守護者によって施設の中が探索される中、一旦戻ってきた先生達は毒ガスの影響が完全に体から抜けているかどうか検査を行っていた。それが終わり、千年の守護者達の探索結果が出るまではやることのないモルフォ達は待機することになっていた。
「……よし、こんなもんでいいか」
シールドの補修作業を終えたモルフォが溜息を吐く。仕込まれていた自爆装置だけでなくティファレトが付与した爆発する光弾によって生じた更なる爆発を食らい、一気にダメージを受けてしまった影響だ。待機状態への変形機能をオミットする形で補強材などを取り付けて処置を終わらせて立ち上がると、そこにはコンペと称してミドリを中心にあーだこーだ言い合うゲーム開発部の姿があった。
「……あれ?ケイは?」
「あっ、ケイならヒマリ先輩とリオ会長に呼ばれてたよ。なんでも輸送船を鋼鉄昇華させないための装置を作る必要があるって」
「モルフォは修理に集中してたし気付かなかったのかもね」
「ふーん」
その中にケイの姿はない。シールドの補強をやり始めた時はいたはずだがと首を傾げていたが、二人が呼んだということは向こうも忙しいということだろう。輸送船内の工房に籠る三人が入った扉を見ていたモルフォ。戻ってきてすぐにヒマリがあの謎のロボット……レイバーと呼ばれる存在の解析を行っていたはずだがそれもすぐに終わったようだ。とりあえずこちらは任せるとして、他の人の進捗はどうなってるのか気になり、少し様子を見てからまた戻ってくるとモモイ達に告げて冷蔵庫と缶ウォーマーから飲み物を取り出してからブリッジの方に行くと、そこではトキとエイミが作業を行っている姿があった。
「二人ともお疲れ。どう?調子は」
「ありがとうございます、そうですね……航路自体は既に定められています」
「調査も終わったから今、千年の守護者達を撤収させてるところ。一通り終わったら出発できるけど……問題なのはこっちじゃなくて向こうなんだよね」
温かいコーヒーをトキに、冷たい栄養ドリンクをエイミに渡しながら進捗を聞く。モルフォも温かいココアの缶を開けながら話を聞いていたが、二人の浮かない表情を見るにあまり余裕はなさそうだ。
(ティファレトを射出したということはティファレトをこちらに解析される前に鋼鉄大陸に輸送しようとしている……)
資材の搬入ルート、その軌道を解析することで多次元バリアを迂回する道筋を算出できる可能性が出てきたため、リオ達は急いでそのルートを算出しようとしていた。一応、多次元バリアを最もうまく扱えるアトラ・ハシースを使わずに多次元バリアを展開している以上、生成自体が難しい上に軸を追加する形で再定義することも本来は難しいのだとケイ達は言っていたが、理論上は可能であるということ。むしろタイムリミットの事を考えると向こうからすればそれを成功させるだけで勝利が決定することから強引にそれを成そうとしてもおかしくないことから、出発までの時間はそれほど残されてはいなかった。
「とはいえ、回収した残骸とかのおかげで鋼鉄大陸が物質を変換する仕組みがわかったのは大きいよ」
「鋼鉄大陸と預言者が発している特殊な波動。これを波動干渉装置によって対抗し、波動同士を対消滅させることで鋼鉄大陸でも無機物は活動が可能となりました。輸送船へ装備するような大型のものを作成した後、個人携帯できる形にまで縮小できないか考案されているところです」
「設計図はミレニアムの方にも送ったから……万が一、私達が駄目だったときにエリドゥも鋼鉄昇華させられて何もできずに、ってことはなさそうかな」
「……というか無機物全部鋼鉄昇華させられたら土も消えるから植物が息絶えて結局生き物全部死にそうなものだけど」
「それはそう」
波動干渉装置が完成すれば遂に出発することになる。この波動干渉装置の設計図もミレニアムに送信しておけば、自分達に何かあってもウタハやチヒロたちが運用してくれるだろうと。まるで死ぬことも視野に入れてるようなあれこれの報告に向こうはたまったものじゃないんだろうなと考えながら話を続けていると、ふとエイミが思い出したようにモルフォに質問する。
「っていうかいいの?ゲーム開発部は鋼鉄大陸の戦闘のための戦闘服のデザインを考えてるんじゃなかった?いいの?」
「いや、途中から参加するってのも……一応私のは決まってるらしいしある程度要望は実現できるかどうかはともかく伝えてはおいたけど……っと。そういえば先生、検査終わった後は私と一緒に調べに行ってたんだっけ?迎えに行ってくるよ」
「はい、よろしくお願いしますね」
エイミの質問に答え、軽く話すと飲んでたココアの缶をゴミ箱に入れて立ち上がり、先生達を迎えにモルフォは外に出て行こうとしたその時。
『た、たた大変だよぉ!!』
「え?」
もう一人のモルフォからブリッジに通信が入ってくる。一体何事かとエイミが取り次ぐと、
『コアが……ティファレトのコアが見つかったの!!』
「「「……え!?」」」
まさかの発見に三人は驚いたように顔を見合わせるのだった。
★
鋼鉄大陸。そこでは、種子貯蔵庫から射出されたコンテナの中にティファレトが存在せず、その分種が詰め込まれていることを知り、アイン達が悲しみに打ちひしがれていた。だが、ティファレトがした選択、自らよりも種を守るという選択を優先したその結果を、アイン達は尊重するしかない。何故ならそれが、彼女達の掟でもあるから。
「……このまま、あの人たちは来ることになるんですよね。そうなれば……イェソドちゃんと戦うことになるのでしょうか」
「……そうだろうね」
「あの子は最初から一貫して、多次元バリアの外に陣取っていますからね」
だが、このまま鋼鉄大陸に先生達が入れるかどうかというとそういうわけではない。まだアイン達にはイェソドがいる。鋼鉄大陸の門番であり、その力を象徴している預言者。だが、これまで多くの預言者を倒してきたことを考えると、イェソドであっても安心はできない。
「……ソフ、万が一ですが……」
「……言いたいことはわかってるから。今はこれ以上、不吉な話はしたくないかな」
「……ソフ。私は、ソフの言葉を聞きたいです」
最悪の可能性を考慮し、黙ってしまうソフに、アインが声をかける。オウルが大丈夫かとアインを心配するように見るが、アインは静かに言う。
「私も、イェソドちゃんが突破されないことを願っていますが……それでも、ちゃんと聞いておきたいんです。あの人たちが来て、ティファちゃんだけでなくゲブラちゃんもコクマーちゃんもやられてしまいましたから……だから、最悪を想定するべきだと思うんです」
「……」
「ソフ、我からもお願いします」
アインの言葉に気まずそうに視線を逸らすソフ。だが、マルクトの優しい言葉にソフもやがて静かに頷くと、ゆっくりと口を開く。
「……分かった。もしも、イェソドが突破された場合……多次元バリアを解除して、その動力を鋼鉄大陸の全システムに振り分ける」
「……まあ、そうなりますよね……」
「多次元バリアは維持するだけで、とてつもない動力を消耗する……しかも相手は一度、その多次元バリアを突破してきた連中だ。あの時は大量の演算装置を使った強引な突破方法だけど……逆を言えばここで強引に鋼鉄大陸を多次元バリアで完全に覆ったところで、やり方次第では突破できること。しかも王女と鍵が合流しているんだから猶更、多次元バリアの能力の信頼性は低くなっている……まあ、鋼鉄昇華が予定通りなら、この手に頼る必要もなかったんだけど……」
「まあ、二度目も想定するべきでしょうね。第一、こちらに向かってきているならその算段があると見ていいでしょうし……鋼鉄大陸の全システムと対峙させるんですね」
それは、リオ達が危険視していた多次元バリアを解除することで鋼鉄大陸の全力を以て相手するということ。リオ達は大きな障害として見ていたが、対するソフ達からすれば多次元バリアはことこの状況においては脆弱性が存在する上に維持コストも大きく嵩む欠陥システムになり果てていた
「うん、多次元バリアを捨て、リソースを鋼鉄大陸に集中させた方が勝算はあると思う……それに、預言者達も復活させることもできるし……」
「では、イェソドが突破された瞬間に―――」
「うん……鋼鉄大陸は、戦場と化す」
故に、多次元バリアを切り捨てる。ソフの言葉にアインとオウルも頷く中、マルクトが三人に声をかける。
「アイン、ソフ、オウル、少し外に出てみませんか?」
「外に、ですか……?」
「こういう時は、気分転換するものらしいですから」
「う、うん……お姉様がそう言うなら」
マルクトと共に施設を出る。そこには無数の鋼鉄の塔が立ち並ぶ鋼鉄大陸の景色が広がっていた。だがそれは、生き物が住んだり中で作業をしたり、みたいなことができる施設はあまり存在していない。中に入ることもできない、高さだけがあるような建造物ばかりが立ち並んでいた。だが、それは紛れもなく彼女達が辿り着いた境地であった。
「うわあ……」
「ここまで……来たんだね」
「……こんな気持ちでこの景色を眺めることになるとは、思いもしませんでした」
「えへへ、皆、ちゃんといますよ」
それを見て、感慨深そうな声を漏らす三人。この鋼鉄大陸には預言者達がいる。鋼鉄大陸の中にいる預言者達の位置を見ていく三人。鋼鉄大陸の中には他の預言者の縄張りに入らないようにしながら移動するケテルや大穴に鎮座するビナーを始めとした多くの預言者が存在している。ここに復活したティファレトを合わせれば、全ての預言者揃い踏みというわけだ。
「ケテルちゃんも、コクマーちゃんも、ビナーちゃんも」
「ケセドにゲブラ、ティファレトもいずれ……って、ゲブラは本当に氷が好きなんだね」
「ネツァクは……まぁ目に見える全てがネツァクですから。そしてあそこにはホドとイェソドが……そして……
オウルの言葉が途切れ、ここで三人がマルクトを見る。マルクトは静かに鋼鉄大陸の中を移動する預言者達を見つめていたが、三人の視線にやがて気付く。
「あ、あの、お姉様……どうして、外の景色を?」
「気分転換、ですよ。悩んだ時には、一度立ち止まって深呼吸することも必要です。自分達の目的に立ち返ることで、今何をすべきか自然と分かるようになるものですから」
「「「……!!」」」
「アイン。ソフ、オウル。あなた達と過ごした時間は、決して無駄ではありませんでした……いえ、言い方が違いますね。とても、感謝してします……だから、怖がらずに自信を持ってください。これは、あなた達が選び、掴んだ結果。あなた達の力で到達した場所です、そして……あの方の意を継ぎ、全ての約束が成就される場所でもあります。「だから、目を覚ましていなさい。あなた方は、その日、その時を知らないのだから」……この福音に従い、目を覚まし、その日を待つのです」
何故外に出たのか。その理由を答え、アイン達に語り掛ける。マルクトの言葉を黙って聞いていた三人は、やがて口を開く。
「……お姉様。何が起きたとしても……」
「……私達が何かを犯しても……」
「お姉様は、私達の傍にいてくれますか?」
「もちろんですよ。新たな天地が開かれ、この身が新しい契約を授かることになったとしても……我は、いつまでもアイン、ソフ、オウルの味方です。ですから怖がらずにいてほしいのです、せめてこの瞬間だけは、もっと楽しんでも良いと思いませんか?」
三人の言葉を聞いたマルクトは、新たな言葉を告げると、静かに笑いかけるのだった。
★
一方、輸送船では波動干渉装置の製作が終わり、ついに輸送船が出発する。少しして飛行も安定してきたため、リオ達とケイはもう一人のモルフォが見つけてきたコアの解析を行っていた。
「……駄目ですね。中にはデータはほとんど残っていません。完全に抜け殻になっていると考えた方がいいでしょう」
「……残されているのは、自分のデータを抹消した痕跡と、種子をコンテナに積みこもうという指示のみ。おそらくはコアを捨てて自分というデータを転送したと考えられます」
鋼鉄大陸に到着するまで数時間。それまでの間にコアの解析が終われば、預言者との戦いも有利にこなせるはずだ。だが、解析の結果はあまり好ましいものではなかった。
「……ですが、コアについての情報がわかったのは大きいです。ある意味、一番知りたかったのはコアの外郭などの情報……まあ、これは他の預言者と比べれば形状に差異はあるでしょうが」
「何をするつもりですか?」
「……そうですね」
だがケイは、もう一人のモルフォが見つけてきたこの情報に口角を吊り上げながら、外装についての情報を見ていく。
「これが可能になれば……預言者との勝負をある程度優位にこなせるかもしれません」
「……特殊な武器でも作るつもりですか?」
「……そうしたかったんですがね。現状では設備的に無理でしょうね……まあ、やれてコアの位置を割り出すセンサーなどを作るのが限界ですね」
ヒマリの指摘に溜息を吐くケイ。だが、コアの位置がわかるだけでも戦闘においては大きなアドバンテージだ。何せ預言者は弱点の位置をこちらに知られている状態で戦うことになるのだから。
「……?」
ふと、リオのタブレットに通知音が鳴る。一体誰からの連絡かと疑問そうに首を傾げながらタブレットでメッセージを確認したリオは、訝しんだような表情を浮かべる。
「どうしました?」
「いえ……ユウカからメッセージが来たのだけど、文字化けが凄くて……」
「……鋼鉄大陸に近づいてきていますからね。電波障害の影響も徐々に大きくなっているのでしょう。波動干渉装置などのデータは送信できているとは思いますが……」
「ええ、そちらは個人衛星を経由してエリドゥに送信済みになっていることは確認できているわ。ただこれからはそれも怪しいわね」
ユウカから何かのメッセージが送られていたようだが、文字化けだらけでまるで読み取れない。おそらくは色々こちらから送っている情報について色々言いたいことがあるのだろうが、何を言いたいのかさっぱりだ。
「……読めないものは仕方ないわ。それに、どんなメッセージが送られてきたとしても私達のやることは変わらないのだから」
何を言いたかったのかは気にはなるが、それを確かめるのは戻ってからでもいいだろう。ティファレトのコアの残骸へとリオは向き直るのだった。
★
日が暮れ始める時間帯。アイン達は鋼鉄大陸を見下ろしていた。
「ティファレトもあるべき位置へと戻りました。鋼鉄大陸は完璧な状態と言えるでしょう」
「お、お姉様は……?」
「私からお願いして、ゾーハルの依代で休んでもらってる」
「良い選択です。最悪の事態……最後のプロトコルを稼働させることになれば……」
「オウル」
鋼鉄大陸にティファレトも復活し、全ての預言者が揃った。だが、オウルが神妙な面持ちで言った言葉をソフが止める。オウルを止めたソフの言葉に、オウルもソフの言いたいことを理解しているように頷く。
「ええ、わかっていますとも。そうさせないために私達がいるのですから」
「……」
「私は、世界が憎いです。私達にはどうすることもできず、私達は選び取ることもできない。けれど、世界はそのようにできている……生まれながらに与えられた者達は無遠慮に振る舞い、それでも私達は、無抵抗に従う他ない。私達が持っていないものを、当然のように持っている誰かがいる。もし私達が消えたとしても、悲しむ者は誰一人とて存在しない……どれほど頑張ったところで、結果には小さな影響すら与えられない。神秘を与えられなかった私達にできることは、最初から限られている」
「だとしても、今はそれでいいんじゃないかな」
自らの想いを吐露するオウル。それをソフは宥めると、自分達がやってきたことを振り返りながら、それを選んだのは紛れもなく自分達なのだと言う。
「私達は鋼鉄大陸を作って、預言者を集めた……けど、ここまでする必要はなかった。あの方の計画はそもそも別物だったし……だから、これは私達の選択。他の誰でもない、私達の意志で追及して、成し遂げた。お姉様も言ってたでしょ?たとえ錯覚だとしても―――自由意志なくして、私達は生きられないんだから」
鋼鉄大陸。集まった全ての預言者。ここまでやって、このキヴォトスを鋼鉄昇華させることも本来は必要なかったのだ。だからこそ、ソフは自分達で判断してここまでやってきたことに誇りを持っているのだろう。
「私ね、たまに思うんだ。何もかもが滅茶苦茶になって、どうしようもない前提条件で躓くことになったとしても―――お姉様がいれば問題ない、って。そう思ってるんだ」
「そ、その通りです!もし、私達に何が起きたとしても……お姉様さえ生き残れば……わ、私はそれで満足です。で、でも……今は、そんな未来、考えたくありません。最後まで……考えたくないです。全てが嘘だったとしても、ここにお姉様がいたという事実だけは、残っておいてほしい……お姉様と一緒に過ごした記憶だけは……」
その気持ちはアインも同様だ。仮に自分達が死に、マルクトだけが生き残ることになったとしても、この鋼鉄大陸で自分達が生きた証だけは残したい、そんな小さな思いが彼女の中にあった。
「それと……いつか誰かが、私達を理解してくれて……頑張ってね、って言ってもらえたら……き、きっと、すごく嬉しいと思うんです……」
「……ええ、そうですね。どうして忘れていたんでしょう……ごめんなさい、アイン」
「い、いい、いえ!気にしないでください……!」
「それより……今この瞬間に、大事なことがあるでしょ?」
アインに言葉に同じ意見だとオウルも頷き、三人で喜びと思いを分かち合う。そしてオウルは地平線を見る。
「はい、また一日、新しい日が訪れます」
「じゅ、準備しておかないと……」
「そして、明日一日が無事に続くよう祈りましょう……時は来たれり。行動こそが私達の救済……もしかしたら、生と死は私達にとって無意味なのかもしれない……それでも、私達が私達でいるためには、この道しかないのですから―――」
明日。このキヴォトスが鋼鉄昇華されるか、それとも自分達が倒れ、鋼鉄昇華が終結するのか。全てが決まるその日を待つかのように、オウルは呟くのだった。