転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「……シミュレーションゲーム、ですか?」
「うん。何かおすすめがあったりしないかな?」
前々からタイミングを窺い、目途が立ったのでそれを先生に報告した翌日、昼休みの時間を狙い、先生におすすめのプラモを布教しに来ていたモルフォ。たっぷりイカロス・ゼロとイカロス・フォースの魅力を先生に伝え、先生のテンションと情緒を完全に破壊させた後に戻ってきたところで、先生がそのような話を切り出す。
「まあいくつかありますけど……好きなジャンルですか?」
「割とゲームは雑食気味ではあるけど……ただ、キヴォトスに来てからそういうのにある程度通じている方がいいのかなって」
「あー、先生は司令塔でもありますからね」
ゲームと現実は当然違う。それは大前提として、このキヴォトスでの戦い方がゲームにも表れるのは珍しい話ではない……と、モルフォは思う。ソロプレイならともかく、マルチプレイの場合はタンク役を担うことが多いモルフォに始まり、ゲーム開発部の面々もFPSであれば自分の武器を選択して行うことも多い。そういう意味では、キャラを動かす、という経験は全てが、というわけではないがある程度通ずるところがあるのかもしれない。
「それで、シミュレーションゲームですか……」
「……ゲーム開発部だっけ、やっぱり詳しいの?」
今日のシャーレの当番で来ていたシロコが、ここで話に入ってくる。お昼の休憩時間ということもあり、くつろいでいた彼女の近くにある、もう一人の生徒が座る椅子は空席となっている。本当はゲヘナの風紀委員会の生徒が来る予定だったのだが、ゲヘナの方で不良生徒達が暴れ出したということもあってシャーレに来ることができなくなり、シロコと先生で作業をやっていたのだ。
「まあある程度は……シロコさんはゲームは?後、私ゲーム開発部ではないんですよ」
「あまりやる方じゃない……けど興味はある。銀行強盗とか追剥ぎとかできるゲームってある?」
「……ぱっとは思いつきませんね……」
当然、そういう、ゲーム中に犯罪をすることこそが醍醐味みたいなゲームもあるにはあるが、今のシロコの発言から察するに絶対やらせちゃいけないものだと脳が警鐘を鳴らしていた。
「まあ、それはそれとして、シミュレーションゲーム……ですか。あ、あれなら……いやちょっとまずいか……」
「何かあるのかな?」
「一つは……でも正直、おすすめできないというか」
「……難易度が高いってこと?」
一つだけ、シミュレーションゲームが思い浮かぶ。とはいえ、これは先生にやらせていいものなのかと躊躇ってしまう。モルフォがそうなる原因を考えて口にする先生だが、モルフォは首を横に振る。
「難易度は調節できるのでそこは問題ないんですけど……その、なんていうか。先生が生徒達と共に戦うゲームなんですけど……」
「先生と同じ」
「……ちょっと展開が、ですね……重いというかきついというか。正直あんま……先生にやらせていいものかなぁと」
あんまりネタバレになるのもまずいが、それでもおすすめできない理由を何とか探して伝えようとするモルフォ。先生は少し考えていたが、
「ストーリーが重めってことだね。でもモルフォはゲームとしてはおすすめしたいってことだよね?」
「まあ、神ゲーなのは間違いないんですけどね……」
「私の心配をしてくれるなら大丈夫だよ。そのゲーム、やらせてもらってもいいかな?」
学園系のゲームは作風にもよるが、生徒の過去が重いみたいなゲームもちょくちょくあるので、そういう意味で勧めるのをちょっと悩んでいるのだろう。だが、先生だって大人だ。ゲームと現実を分けて考えるぐらいの思考はあるから心配しなくても大丈夫だと伝えつつも、やはりモルフォが勧める、即ち異世界のゲームの内容に興味があるのもまた事実であった。
「……まあ、でもゲームだし大丈夫か……わかりました。さすがに今は持ってないのでまた後日持ってきますね。ちょっとやばそうだったらすぐ言ってくださいね」
「……私も興味ある」
「このゲーム一人用なので……」
「一回私がやってみて面白そうだったらシロコにもお勧めするよ」
そんな二人の様子を見て、シロコも目を輝かせながら言うも、その前の言動、そしてアビドスに出張していた時、やたら銀行強盗を推す彼女の姿を思い出した先生の言葉にちょっとだけ残念そうな表情を見せるのだった。
★
「……さて、と」
翌日。仕事終わりのタイミングを狙ってゲームを届けてくれたモルフォから受け取った先生は、早速そのゲームを起動していた。彼女の知る異世界のゲームとは一体何なのだろうか。わくわくしながらゲームを起動すると、「FIRE EMBLEM 風花雪月」というタイトルが、玉座で女の子が眠っている一枚絵と共に表示される。
「学園ものと言っていたけど……どういう感じなのかな?」
主人公の性別と名前を決めながら、本編を始めていく。ここら辺はモルフォから、男ならベレト、女ならベレスというデフォルトネームがあると聞いていた。そのため、主人公をベレトに設定し、本編を開始する。傭兵だった主人公が、盗賊に襲われ逃げる少年少女達、エーデルガルト、ディミトリ、クロードの三人と出会い、この三人と父と共に盗賊を撃退するというプロローグが始まる。チュートリアルも兼ねた初戦闘を終えると、共闘していた少女に向かって放たれた斧の一撃を庇おうとするイベントが挟まる。
「!」
まさかこのまま攻撃を喰らってしまうのかと先生が息を呑む。だが斧が命中する直前に主人公は謎の空間に飛ばされており、主人公の性別や名前などを設定するオープニングに出てきていた緑髪の少女、ソティスが時を止めることによって救われる。さらに謎多き少女、ソティスの手によって時を巻き戻されたことでベレトは本来自分に命中するはずだった一撃を逆に弾き返し、盗賊を撃退することに成功する。
「……時を巻き戻す、って中々凄い能力だね……」
『……』
「アロナも興味ある?やってみる?」
『いえ、見ているだけで大丈夫です。それに、見ていても楽しそうですから!』
先生が隣を見ると、アロナもシッテムの箱から出てきて、じっとゲーム画面を覗き込んでいた。彼女も初めて見る異世界のゲームというものがどういうものなのか気になるのだろう。
「……学園ものって言うだけあって結構キャラが多いね」
その後、ベレトの父親がかつて所属していたというセイロス騎士団を擁するガルグ=マク大修道院へと向かう。そこに併設された士官学校の教師となったベレトは三つある学級、黒鷲の学級、青獅子の学級、金鹿の学級の内、一つを選ぶことになる。最初に出会ったエーデルガルト、ディミトリ、クロードはそれぞれの級長であり、彼等が率いる生徒を見ながら担当する学級を決めるのだが、これがまた中々魅力的なキャラが多くて困ってしまう。
「さて、誰を選ぼうか……」
これが普通のゲームなら第一印象でぱっと決めてもいいのだが、教師である身としては第一印象や好みで生徒達を比べるのは少し憚られた。最終的に、ゲーム画面から目を離した時に一番最初に入ってきた色が黄色だったので、金鹿の学級を選ぶことにする。
気さくな雰囲気だが飄々として掴みどころのない青年、クロードや彼をライバル視する貴族、ローレンツ。面倒くさがりだが頼り甲斐のある少女、ヒルダ。子ども扱いされるのを嫌う天才少女、リシテアなど、個性的な八人の生徒と共に学園生活を送りながら、毎月の課題である盗賊退治を行ったり、修道院の命令を受けて反乱分子を討伐しに向かったりとしていく。
(こうしてみると……案外シャーレと似ているのかな?)
風花雪月の舞台となるフォドラは、アドラステア帝国、ファーガス神聖王国、レスター諸侯同盟と呼ばれる三国が存在しており、ガルグ=マク大修道院が中央に存在している。士官学校の学級はそれぞれの出身地で学級分けがされており、先生が選んだ金鹿の学級はレスター諸侯同盟出身の生徒達で構成されている。だが、他の学級の生徒を勧誘して自分のクラスに引き入れることも可能になっていたり、毎月の課題として色々な場所に赴き生徒達と戦闘を行う点は今の自分達と共通する点が見えなくもない。
「この剣は……主人公の専用武器!こういうのもちゃんとあるんだね……!」
そんな中、ガルグ=マクで行われる、女神再誕の儀と呼ばれる行事を妨害する敵達との戦闘が挟まる。その中で主人公専用武器である天帝の剣を入手したのを見て、先生は楽しそうに目を輝かせる。キャラの専用武器と言われて嫌いにならないわけがないのだ。
「……おっと、もうこんな時間か……そろそろ寝ないと」
天帝の剣を入手し、ある程度の会話イベントを経た後、区切りもいいということで一旦中断する。不穏な影はちらつくが、楽しいゲームだなと満足そうに腕を伸ばすのだった。
★
『「……」』
それから日付も進み、ゲームもある程度進んでいた。その途中で地下に存在する第四の学級である灰狼の学級の存在に気付き、そちらのシナリオも進めるため寄り道したりしていたが、本編では不穏な影はプレイし始めた頃よりも濃くなっていた。そんな中、遂にその瞬間が訪れてしまう。それは、ベレトの父親が殺されるというイベント。当然、ベレトも時を巻き戻す能力、天刻の拍動を用いて父の死を回避しようと試みるも、まるで運命が収束するかのように別の要因によって父は殺されてしまう。死にゆく父の姿に涙を流すベレトを、先生とアロナは無言で見ていた。
「……まさか、こうなるなんてね……」
世界観などから、死というのはかなり近いところにあるゲームだとは思っていたが、味方ネームドから死者が出るとは。主人公の中に宿る存在、ソティスの力でも回避できない死を前に、さすがに先生も参ってしまっていた。
『先生……』
「あはは、大丈夫大丈夫。これはゲームだからね……重い展開もスパイスとして必要だろうし。でもまあ、モルフォが勧めづらそうにしてたのは確かにわかったかな」
アロナの複雑そうな視線が先生に向けられる。アロナも楽しくゲームを見ていただけに、色々思うところがあるのだろう。だが先生も、こういうものかと割り切ると、すぐにゲームを再開する。頼りになる父親を失ったのは確かに悲しいし辛い。思ったよりメンタルを殴りつけられたがそれでもゲームだ。幸い、作中のキャラ達も父を失ったベレトを気遣う台詞を多く見せており、その声のおかげもあって徐々にだがメンタルも回復していった。
そんな中、シナリオも進んでいき、聖墓にてこれまで襲撃してきた敵勢力の親玉と思われる、これまでも度々出てきていた炎帝と呼ばれる存在が襲撃。だがその戦闘で遂に炎帝の仮面が割れ、その下にある素顔が明らかとなる。それは、
「……え」
炎帝の正体はエーデルガルト。すなわち、一番最初にベレトと共闘した三人の内の一人であった。最初に出会った三人の中に裏切り者、もとい敵そのものがいたことに驚いたのもつかの間、エーデルガルトは帝国を率いて宣戦布告、ガルグ=マクへと侵攻を開始。戦争の火蓋が切られてしまう。そうなってしまえば、先生もモルフォが勧めにくそうにしていた本当の理由を嫌でも理解させられることになる。その理由とは、戦争による生徒達の殺し合いが起こるということ。
「……これは」
『どうなってしまうんでしょうか……』
その戦いによって崖下へと落とされてしまったベレトは五年の時を経て目覚める。既に誰もいなくなり、寂れたガルグ=マクへと戻ると、そこには五年を経て成長した教え子、クロードの姿が。ようやく、フォドラに夜明けが訪れると嬉しそうに言うクロードと共に、盗賊たちを蹴散らしていると、次々と金鹿の生徒達が駆けつけてくる。生徒達はそれぞれ頼もしく成長した姿を見せており、見ていて思わず表情がにやけてしまうが、五年という時間を経て完全に戦争状態に陥ったフォドラの惨状を知れば知るほどその表情も複雑なものになってしまうのだった。
★
「……そういえば世界観ってどうなってるんだろうね。中世っぽいって思ってたけど、ミサイルっぽいの飛んできたし……」
『……過去の文明はかなり栄えていたのかもしれませんね……』
また日付が変わり、続きをプレイする。本気で戦争をするかつての生徒達。学園生活をしていた時には姿をほとんど見せることのなかった大人達も参戦し、激しい争いを見せる中、全ての黒幕であろう存在、闇に蠢く者の存在が明かされる。過去の戦いによって地上を追われた彼らは地下に潜み、長年にわたって自らの野望を成就させるべくフォドラで暗躍していたのだ。彼らはベレト達を抹殺するために光の杭と呼ばれる魔導ミサイル兵器を用いる等、今のフォドラの世界観からすれば明らかなオーバーテクノロジーを感じさせる。
激闘の末、遂に闇に蠢く者を壊滅させることに成功したものの、ラスボスであるネメシスが太古の眠りから復活。残党らを引き連れ、最終決戦を開始することになる。そして死闘の末、遂に闇に蠢く者を撃破。それによってようやく争いは終わり、フォドラという大地に真の夜明けが訪れることになるのだった。
「……終わった……!」
『そうですね……あの、先生。こんな時に言うことじゃ、ないのかもしれませんけど……』
エンディングを見ながら、達成感を感じるように腕を伸ばす先生。きついところも多かったが、実際にやってみると凄く満足のいく作品だったと先生は思っていた。個性的な生徒を始めとしたキャラクター達、精神や情緒を揺さぶってくるシナリオ、そして騒乱の中でも足掻き続ける人々の意思など、こういうゲームをやれてよかったと思わずにはいられない。最初に選んだ学級でここら辺のシナリオも変わってくるのだろうか、特に黒鷲は級長のエーデルガルトがボスになるわけだ、あそこはどうなるのかなど、純粋に気になる部分も多い。そんな感じで風花雪月というゲームに思いを馳せていると、アロナから申し訳なさそうに声をかけられる。
「どうしたの?アロナ」
『……これはゲームですが……もし、ですよ。もしこのキヴォトスで戦争が起こってしまったら……先生はどうしますか?』
「止めるよ。戦争にならないように」
アロナからの疑問。それを聞いた先生ははっきりと、強い意思で答える。アロナはこのゲームを見て不安になってしまったのだろう。その不安を取り除くように笑いかけながら。
「ゲームと現実は違うからね。これはこういうゲームだから、って言われたらそういうものだと受け入れるけど、現実はそうじゃない。いくらだって、変えられる余地があるはずだよ。それに、生徒達は皆、優しいからね。私は皆を信じているよ」
『先生……はい。そうですね、きっと大丈夫ですよね!』
そんな先生の声を聞き、アロナも笑顔を浮かべながらそう答える。
「……ただ、ちょっとこのゲーム、二周目は時間空けさせてもらおうかな……」
『……ですね……』
それとして、このゲームは思ったよりヘビーだった。