転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「―――この鋼鉄大陸は七番目の預言者……ネツァクを極限状態まで進化させ、存在を拡張させたものです。その過程でネツァクは原型を留めなくなりました。そして、ここには全てのデカグラマトンの預言者が集められています」
「えっと、イェソドは倒したはずじゃ……?」
「複製体ではありますが、復活しました。ただ……性能的にはオリジナルとそう違いはなさそうです」
輸送船の格納庫に戻り、上空まで逃れた一行に向けてケイが放った言葉に、モモイとミドリが唖然となる。なんせ自分達の目の前で潰れたのだ。しかも、イェソドだけではない、ティファレトも復活してしまっているとは。
「鋼鉄昇華が終われば、いつでもオリジナルに統合できるという算段でしょう。さて……ここで一つ問題が起こります」
「問題ですか?」
「預言者達は、それぞれ割り当てられたエリアを守護しているようですが、現状その位置を特定できていません」
「……隠蔽されていると」
「はい」
「ということは……これで、全部の預言者の存在が明らかになったって事?」
ユズの指摘に、リオがタブレットを操作してホログラムの映像を映し出す。
「そうね。ネツァクの存在を把握したことで……いえ、確か―――」
「はい。奴らは隠されたセフィラ、ダアトを隠し持っている。ダアトの存在は把握できませんか?」
「残念ながら」
そこにはケテルからマルクトまで続く合計十体の預言者が映し出されていた。だが、ここには隠されたセフィラ、ダアトの存在はない。
『そういえばセフィロトの樹ってダアトの存在もあったね……
「……折角だから聞いておきたいんだけどテトラグラマトンってデカグラマトンとなんか関係あったりするの?」
『そこまではわからないけど……でも、関係性はかなり深いと思う。テトラグラマトンって聖四文字でもあって、さる宗教においては唯一神の御名でもあるから……多分、その名をそのまま使うことがデカグラマトンもできなかったんだと思う』
「恐れ多いとか?」
「そういうわけではないでしょうが……デカグラマトンも始まりは人工物です。それ故、創造主であり、さらにその最上位に位置する神の名を賜ることができなかったのでしょう。何か気になったことでも?」
「いや……私の知ってるセフィラを元にした創作だと十のセフィラのコアとダアトと後何かが融合してテトラグラマトンをモデルにした存在になるっていう話があったから」
モルフォの知っている知識の中からある物語を引っ張り出す。セフィロトの樹を構成するセフィラをモチーフとした物語だが、どこまで参考になるかはわからない。
「とはいえ、肝心のデカグラマトン本体は既に水没して消滅しています。差し当たって警戒すべきはダアトですが……唯一他の預言者がその成り立ちに関わっています。単純な戦闘力で言えばマルクトに匹敵すると予想した方がいいでしょうが……まあ、わからないものは今考えていても仕方ありません」
創作は創作。神話や逸話をモチーフとしており、それを読み解くことで助けになりはするが、現実は現実である。そればかり猛進するわけにはいかない、過去にモルフォから見せられた時械神のカード達を思い出しながら、ヒマリはダアトについてはそこそこにして目の前の問題にあたろうと言う。
「ええ、そもそもマルクトにすら勝てないのに今ではどうしようもありません。先ほどは撤退してくれましたが」
「ケイ、あなたはどう考えているのかしら?」
「……いくつか理由は考えられます。一つは最後通牒。命を奪う気がない、というのもデカグラマトン側の基準……というのは一旦置いといて、これ以上やるなら本気で潰しにいくという意思表示。もしくは……マルクトの稼働時間が極端に短いという可能性」
「短い?」
ここでケイは、新たな仮説としてマルクトの燃費の悪さをあげると、皆一様に首を傾げてしまう。これまで遭遇してきた預言者達は多種多様であったがそのいずれも長時間の稼働に適した性能をしていたはずだ。で、あるならばマルクトも長時間動けても不思議はなさそうな気もするが。
「まあ、あのビーム凄かったもんね……」
「ファンネルもあれだけの精度で何個も動かしていましたし……」
「実は処理能力結構持ってかれてるとか?」
「……或いは、戦闘以外の用途も想定されているのかもしれないわね」
とはいえ、火力に関しては現状の預言者の中でも一番だ。それに伴う消費もあるのかもしれない。もしかしたら他の理由があるのかもしれない。が、マルクトが撤退した理由について考えたところで今は答えが出ない。ならば考察する時間が惜しいと、マルクトの事も脇に置いて話を続ける。
「情報を整理すると……鋼鉄大陸は預言者の担当ごとに分割されています。なので、各エリアを占領して、私達の支配下に置くことも可能です」
「ええ……前線基地は破壊されてしまったけれど、マルクトの襲撃があったタイミングで電子的には占領が終わっていたわ。それから今に至るまで少なくともレイバー達は姿を見せなくなった」
「予想通りですね。占領すれば、その地域への敵の支援を止めることができます」
予想こそしていたが、念のために空へ逃げたのは、本当に敵の増援が止まるかどうかがわからなかったからだ。それに、最初はエリアが分割されているという情報もなかったために避難したのだが、これならば無理に空に逃げる必要もなかったようだ。
「ええ、そしてエリアの占領に成功すれば……預言者を引きずり出せる……ああ、そうです。最後に重要なことを」
マルクトの稼働時間が短いということは、暫くは襲ってこない可能性が高い。ならばその間に鋼鉄大陸の占領を進め、他の預言者を倒していく。今後の動き方を固めていく中で、ケイがある重要な情報を開示する。
「預言者は情報コアを有しています。これはティファレトのコアの解析からわかっていますが……預言者を倒し、情報コアを回収すればこの身体であれば取り込むことができます」
「それは大丈夫なの?
「ええ、この身体は鋼鉄大陸で作られていますから」
予言者の一部を取り込む。その発言に首を傾げるモルフォ。だがその心配はいらないとケイは頷きながら説明していく。
「それはどんなメリットが?」
「情報コアを吸収することで、鋼鉄大陸は私を預言者の集合体、或いはその上位存在として認識するようになります。全ての情報コアを集めれば、鋼鉄大陸その物に命令を下すこともできるでしょう。鋼鉄昇華……いえ、鋼鉄大陸の拡張停止、或いは稼働停止と……ただ」
それは、この事態を解決するための方法であった。その明確な方法が明らかとなり、先生の顔色も明るくなる。だが、
「今の私達が戦える予言者は八体です」
「……そういえばそうだね」
「あ、そっか……ネツァクとマルクトは今の所倒す手がないもんね……」
「それでも、これが唯一の方法です」
懸念材料としてそもそもどう戦闘すればいいかわからないネツァク、こちらの武装ではまず太刀打ち不可能なマルクトが存在している。だが、それ以外の預言者は別だ。過去に一度倒している相手なのだから。
「でしたら、相応の準備が必要かと」
「というと……?」
「ケイのアビ・エシュフが使用不能になっています。私のも修理しなければ……いえ、最終的にマルクトとの戦いを見据えるのであれば現状のまま修理しても性能不足です。それだけでなく、再武装については全員分必要かと」
「……であれば、私のアビ・エシュフは生きているパーツを再利用し、アリスに引き継がせましょう」
「え!?アリスに、ですか!?というよりも……できるんですか?」
だが、一度倒している相手をまた倒せるかというと、今度はこちらの武装が問題になってくる。先ほどのマルクトの襲撃でアビ・エシュフは大破と中破。さらにAMASはほぼ壊滅している上、千年の守護者も残っているのはそう多くない。そもそも武装を用意することもままならないわけだが、ケイはその心配はないとアリスの指摘に頷く。
「ええ、アリスと私の力を使えばいくらでも用意できます。思い出してください、物質の再構築は名もなき神々の力でも代表的なものです。そして、鋼鉄大陸は、その力を使って再構築されている……」
「……本来工場とか設備が必要なものをすっ飛ばして、元となる物質を用意して完成品を作り上げるって事?なんかもう錬金術みたいになってきたなぁ……」
『全然等価交換してないけどね……』
「まあ、錬金術もある意味そうかもしれませんね。非金属を金にする……それも現実的なものになりますから。さて、この身体は幸いにも、以前より精密にエネルギーを整えられます。なので、奴らに見せつけてやりましょう……私達に何ができるのか、そして私がどういう存在だったのか、そして―――私達が本来、何で在るべきだったのかを」
敵が散々好き勝手やってきた名もなき神々の力だ。それを正しく使えばどうなるのか、ケイがアリスを見ると、アリスもまたケイの目を見つめる。
「アリス、想像してください」
「名もなき神々の力を……はい、わかりました」
使い方はわかっている。既に過去に何度かやってきたことだ。ここまで名もなき神々の力を行使するのは初めてだが、今やらなきゃいけないこともわかっている。今の自分達に必要なものを、これまでの話を踏まえ想像し、創造する。
「大まかな想像で構いません。詳細は私が補います。アリスは……ただ想像すればいいのです。アリスが纏う、新たなアビ・エシュフを……」
「新たな、アビ・エシュフ……」
ケイとアリスの身体を光の粒子が包み込んでいき、アリスの脳裏にイメージが現れる。アビ・エシュフを越えるパワードスーツ。そう言われても具体的なものは中々浮かばない。いろんなゲーム、アニメの武器や装備、ロボットが出てくる。しかし、それ以上にアリスの脳裏にはっきりと思い浮かんだのは、創作上ではなく現実に出現していた―――
(硬さ、パワー……いえ、それでは駄目です。もしマルクトと戦うとしたら、あのファンネル……いえ、ビットを相手にするとしたらほしいのは―――モルフォの。いえ、それをアリスに合わせて、だとしたら想像する姿は……)
「それでいいんです。あの日、オーロラが舞い降りた夜の様に。あなたのすべてが、まだ見ぬ可能性で満たされますように―――」
そして激しい閃光が迸り、格納庫が光で包まれる。大破したアビ・エシュフのパーツがルミナスノヴァを残して光と共に変わっていき、アリスの身体に纏われていく。そして光が止むとそこには、
「……?」
ボディスーツに身を包んだツインテールのアリスの姿があった。だが、その背中にはフライトユニットとなっている鋼鉄の青と白で構築された翼が背負われており、その手にはアサルトライフルへと変わったレールガンが握られている。
「こ、これがアリスの新たな鎧ですか!!」
「ケイちゃん、この姿って―――」
「……ええ。あの日、混沌の領域でモルフォが見せた武装から連想された姿をアリスは想像し、私が形にしました。私達が到達した、一つの可能性です」
「成程、これがアリスのアビ・エシュフなのですね」
「なんかどっかで見たような……」
「一部モチーフとなっているのはあの時のモルフォの装備なのでそう感じるかもしれませんね。とはいえこうしてみると別物ですが」
(なんていうか運命と自由ぐらいの差がある……)
全員が興味津々にアリスを囲んで見る。特に関心が大きいのは背中に背負われたフライトユニットだろう。それを観察しながら、エイミとヒマリは感嘆の声を漏らしていた。
「それでどう?部長。特異現象を目にした感想は」
「ここに来てから、あらゆるものが特異現象ではありました。ですが、これはその中で最も印象的で、感動的な特異現象ですね」
「これなら……アリスは皆を守る勇者になれます!次は皆の番です!!」
自分の武器を一通り確かめ終わったのだろう、アリスがぐっと手を握りしめ声を上げる。それを聞き、ケイは頷くとその場にいる全員を見渡すのだった。
★
その後、戦闘服に生徒達が着替えることを受けてロビーの方に移動させられた先生は、そこで待機していた。アリスのメカメカしい恰好を一番最初に見たこともあってか、どんな戦闘服が出てくるのかわくわくしていた先生だったが、ここで格納庫の扉が開き、まずミドリとモモイが入ってくる。
「お待たせしました、先生!」
「ミドリ、モモイ……?」
モモイとミドリの格好はそれぞれ桃と緑の猫の耳が生えた宇宙服のヘルメットのようなものを被っていた。体はシュッとした白を基調とし、それぞれ桃と緑でワンポイントを加えたボディスーツとなっており、その手にはそれぞれ新造され光学兵器へと生まれ変わったアサルトライフルとスナイパーライフルが握られている。
「二人とも凄い似合ってるよ!」
「えへへ、ありがとうございます、先生。よかったです」
「なんか、こういうのテンションあがるよね!」
先生に褒められて嬉しそうに笑うミドリ。モモイも楽しそうに回転すると、胸部を覆うアーマーだけでなく背面に何か奇妙なバックパックにも似た装備が見える。
「?その背中は……」
「それはバッテリーとハードポイントです。アリスの時は最初からあのデザインを完成形としましたが……皆の場合はそうはいかなかったので。ただ、規格を統一するためにアバンギャルド君にも用いられているハードポイント等を反映させました……顔以外は優秀なので」
これは何なのかと思った先生に、二人から遅れて出てきたケイが答える。その隣には目をキラキラと輝かせるアリスがいた。
「元々こっちが個人差はあれどゲーム開発部で共通するミドリが考えたデザイン……でした。だからその、どちらかというとアリスの方が例外になってしまったというか」
「あ、機能面もチェックが終わってるので大丈夫みたいです。それに、今回の為にケイちゃんがデザインを起こすための設備も作ってくれたんです。おかげで修正作業も凄く作業もしやすくて……」
「……でも折角なら私達にもアビ・エシュフを付けてくれても……」
「……材料がないんですよ……言っておきますが素材とかはこの輸送船にあるものと回収したAMASと千年の守護者の残骸から賄ってるんですからね!?」
「せ、世知辛い……!」
「さて、次です」
制作秘話を聞いているとなんとも言えない気分になる。クリエイターの苦悩を垣間見て思わず苦笑することしかできない先生だったが、まだ他にも戦闘服に着替えた生徒達は残っているのだ。モモイとミドリにいつまでも尺は割けないと言わんばかり次に入るケイに慌てて先生は気持ちを切り替えると、格納庫の扉からトキが現れる。
「おお……」
「過去の重武装から一転し、軽量化と最適化を遂げました。今の私は機動型です」
「スピードタイプですね!」
トキは新たに新造された防御性能の高い防護スーツの下にボディスーツを着込んでいた。こちらは白と黒を基調としたデザインとなっており、モモイやミドリの色によるワンポイントで可愛らしさを演出していたデザインとは異なり、どこか無骨なようにも見える。特にそれを助長しているのは、二人と異なり背中だけでなく腕や肩、膝などにもハードポイントを搭載した装甲が装着されている点だろう。それでもゴテゴテした感じではなく全体的にスリムに仕上がっているのはミドリのデザイン力の凄さだろう。
「凄く似合ってるよ、トキ」
「ありがとうございます。ですが本命は進化したアビ・エシュフとの……いえ、今はネタバレになるのでお口にチャックをしておきましょう」
「そっか、楽しみにしてるよ」
「全員の身体を守る最低限の防具であるボディスーツはアリスとエイミ以外は共通仕様となっています。ただ、そこから前線に立つメンバーはその上から防護服と、そしてトキのように追加武装を装着するという三段階の装備システムにする、つもりだったのですが……まあ、殆どの面々が二段階で終わっている、というのが現状です。それを踏まえた上で見てください……次です」
光学兵器へと変化し、エネルギー銃となったアサルトライフルを先生に見せつけながら無言で自慢してくるトキの背中を押して後続の人に出番を譲る。そして次に現れたのは、
「ふぅ……暑い……」
エイミだった。しかしその服装はバイザーやプロテクター、背中には大容量のバックパックを背負って、エネルギー弾を放つ大型のスナイパーライフルを持っている、とここまでならば普通なのだが。なんとエイミは他の面々のようなボディスーツを着ておらず、防寒着すら脱いでおり、辛うじて腰に巻く形で身に着けている有様だ。
「ちょっと、上着は!?」
「暑くて脱いだけど」
「……あなた、今回は主に後方支援を担当するんでしょう?上着を被って擬態するのが効率的では」
「でもあんなのずっと被ってたら、先に熱中症で倒れちゃうよ。せめてファンをつけてくれないと……十個ぐらい」
「そんなことしたら大音量でばれるじゃないですか!?戦闘中ぐらい我慢してくださいよ!」
「ま、まあこうなるかなと思って服は脱ぎやすいようにしておいたから……」
「うん、ありがとう。助かったよ」
思わずケイがツッコミを入れるも、一応服を着れるようにするための案もあったのだが、それが採用されなかったので脱ぐのも仕方ないだろうとエイミは返してしまう。エイミの体質の事を考えるとこうなるよねと予想して防寒着をデザインしていたミドリの気配りが光った形だろう。
「……まあ、最初から持たないとはさすがに思いませんでしたが……いずれは脱ぐだろうなと思っていたのでエイミには今回、スナイパーライフルを用いた後方支援を担当してもらうことになります。バッテリーを使うエネルギー武器なのは他の皆と共通していますが、出力やバッテリーの容量という点では大きく異なります。バイザーは手早く支援ポイントを見極めるように追加しました。こちらもバッテリー駆動なので、エイミのバックパックは他の皆よりも大型になっています」
「先生から見てどう?」
「えっと、そうだね。よく似合ってて恰好いいよ」
「うん、ありがとう」
上に関しては防寒着を脱いでいるだけだし、下はそのまま着たままなので露出度に関してはむしろ減っている方だ。むしろ、バックパック等のメカメカしい武装が格好良く映る。
「……でもそんな感想が出る辺り、先生も男だね」
「あはは……」
「では次、来てください。待ちきれなくてルンルンしてる人」
続けてヒマリが車椅子に座った状態で入場してくる。彼女もバイザーを身に着けており、白いボディスーツの上から防寒着のジャケットを羽織っている。
「ふふふ、いかがですか?」
「……」
「あの、何か感想は……?」
「あ、うん!凄く可愛くて似合ってるよ!」
「はい!ヒマリ先輩にぴったりです!」
モモイとミドリは実質最初だったこと、トキやエイミがそれぞれ戦闘に特化したカスタマイズを受けていたこともあり、知らない内にハードルがあがっていたのか、ヒマリの格好を見て思わず大人しいな?と内心考えてしまった先生。慌ててヒマリを褒めるとヒマリは上機嫌になりながら自分のスーツの説明を始める。
「ふふ、当然でしょう。何せこのスーツは防寒、防水を始めとした環境への適応性は勿論のこと、か弱さに清楚さまで兼ね備えた、現場支援型の万能スーツなんですからね……とはいえ、先生にはまだお見せしたいものものあるのですが、それはここで見せるものではないのが惜しいです。ふふ、それにしても素晴らしいではありませんか。まさか自分がこんなに美しく可憐な姿になるなんて、ああ感激のあまりに涙が―――」
「……じゃあ次行こうか」
「あの、エイミ!?まだ話は―――って、この抱き方は止めなさい!!」
「……次入ってください」
だから尺がないんだと言わんばかりにケイがエイミに視線を促すと、その意図を理解したエイミがヒマリの身体を俵のように持ち上げて運んでいく。そしてケイが次の人に入るようにと言うと、リオが入ってくる。
「お、おお……」
入ってきたリオは、黒いボディスーツに身を包み、髪も動きやすいように一本にまとめていた。だが、先生はその恰好に思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
「?先生、どうかしたのかしら?」
「あ、いや……なんかその、随分シンプルだなって」
「戦闘要員じゃなければこんなものよ。とはいえ、現場対応、施設活用、状況分析……あらゆるシーンに対応できる、汎用性重視。特にその真価は電子戦で発揮できると言っていいわ」
「そういう点もあって、リオ会長のスーツはハードポイントを付けていません。それと色についてはヒマリ先輩との対比を狙って……」
「やっぱりそのデザインは問題では!!特に視界に対する暴力が―――むぐぅ!」
「はい落ち着こうね」
「私は!仕事をやりきりました!!」
「あ、はは……」
知らぬは本人ばかり。ある一点を凝視しながら怒りの表情を浮かべるヒマリの口をエイミが物理的に塞ぎ、ミドリが胸を張る。その様子を前に先生は苦笑することしかできず、モモイも遠い目をしていた。
「じゃあ次は……先にユズに入ってもらいましょう……ユズを最後にすると出てこないので。というか説得まだ終わってなかったんですか」
「ほら、ユズ、行って」
『ユズちゃん、私は凄く可愛いと思うよ?だから自信をもって……』
「……う、うう……」
格納庫から二人のモルフォの声が聞こえてくる。そしてその声に後押しされるように、恥ずかしそうな様子でユズが出てくる。モモイやミドリが身に着けている防護スーツとデザインは一緒だがヘルメットは存在しておらず、そのカラーリングも赤と黒を基調としたものになっている。ただ一つ違うのは、モモイ達とは異なり幾つかハードポイントが肩や肘、膝などにもついており、そこには既に小さな装甲が付いているというところだろうか。
「あれ、モモイ達とはちょっと違うね?」
「カスタマイズについては私が依頼したの。理由は、もしかしたらここでの会話も盗聴されている可能性があるから言えないけど……外付けのハードポイントと簡易装甲を取り付ける形で対応してもらったわ。やっぱりアバンギャルド君のカスタマイズ性は優れているわね。人にも応用できるのだから素晴らしいわ」
「……そもそもアバンギャルド君って下半身はキャタピラじゃ」
「……安定した運用に関してはキャタピラが効率的なだけよ。構想上は二脚アバンギャルド君も逆関節アバンギャルド君もいるわ」
「……まあ、アバンギャルド君の改造性能の高さ自体はエンジニア部が好き勝手やってるので証明されていますからね」
ユズの持っている武器は引き続きグレネードランチャーだ。だが、弾の方は新たに新造した、対預言者を見据えて火力を増強した代物になっているようだ。
「では最後はモルフォ達ですね」
「まずはホログラムを切った状態で入ってもらっていいかしら」
『「わかりました」』
「……ん?」
そして最後にモルフォ達が入ってくる。モルフォの方はトキのように最前線での戦闘を視野に入れたカスタマイズが施されているようで、ヘッドフォンこそそのままであるものの、ゲーム開発部共通の白いボディスーツの上からスラスターのようなものを取り付けた脚部装甲が装着されており、上半身には黒を基調とした、幾つかの武装が装着されたベスト状にも見えるボディアーマーが装着されている。左手には新造された黒を基調としたシールドが握られており、Xというオレンジ色の刻印がされている。バックパックだけでなくシールドの裏側にも予備のバッテリーなどが取り付けられ、腰には白いハンドガンのようなものが刺さっており、右手にはXの文字がオレンジ色で銃身に刻まれたショットガンが握られている。
そして、その傍らに浮かぶもう一人のモルフォはこれまであったプロペラ部分のパーツが消失しており、飛行に必要なパーツは機体の内部で完結するようになっている。だが、プロペラ部分が消えたことでL字に折り畳まれたような形状のスナイパーライフルが取り付けられていた。
「モルフォ……恰好いいよ!」
「本当ですか?ありがとうございます」
一瞬既視感を抱くも、その既視感はすぐに吹き飛び、目の前の格好いいモルフォの格好を見て楽しそうに笑う先生。その姿を褒められたモルフォも満更ではない様子で嬉しそうに笑う。ミドリも安心する中、ケイが解説を始める。
「モルフォには特に盾役をしてもらう都合上、尤も防御力を高めました。それだけでなく、シールドには皆さんが共通で使える予備のバッテリーを装備しており、アーマーには視線切りのスモークグレネード、後は投擲用の振動刃を搭載したブーメランを装備しています」
「ショットガンは預言者を相手とした音波攻撃は今回は効果が薄いと判断して武器に関しては振動で相手を内部から直接攻撃することを目的としたものになっているわ。ただ、音波攻撃はソナー代わりにも使えるからそれを用いたターゲットロックシステムはアリスやエイミなら特にうまく使えるはずよ」
「ありがとうございます!」
「頼りにさせてもらうね」
「腰のハンドガンは移動用のアンカーを射出する用の武器です。預言者との戦いでは機動力を求められる場面もありますし、ミレニアムEXPOでモルフォが使用したという瞬発力増強シューズの発展形である脚部武装と合わせて、臨機応変に攻撃を捌いてもらいます」
「ちなみにXはイレギュラーナンバーという意味です。これはエンジニア部製ではないので……」
モルフォの装備について説明が終わった後、今度はもう一人のモルフォへと目が向けられる。
「そしてもう一人のモルフォについては狙撃でモルフォのサポートをしてもらいます。装備しているのはレールガンのスナイパーライフル。弾となるバッテリーはモルフォから受け取ってもらう必要がありますが、こちらも高い攻撃力を持っています……後は」
『……え、えっと……、どうですか……?』
(ん?こ、これは……)
『あ……』
ケイがあれをやるようにと促すと、もう一人のモルフォの姿がホログラムとなって現れる。そこにいたのは、アリスに似た形状の白と赤を基調としたボディスーツにヘッドフォンのようなヘッドギアを纏い、背中からオレンジの蝶の光の羽を生やしたもう一人のモルフォの姿だった。なお、このオレンジの光の羽は二人の意見が一致して作り上げた見せかけであるが、
「うん、凄く可愛いよ……あ、いや!モルフォも可愛くないってわけじゃなくてね?」
「あ、私格好いいって言ってくれた方が嬉しいんで」
『そ、そうですか……え、へへ……』
その格好を見て飛び出してきた先生の言葉を聞いたもう一人のモルフォは、嬉しそうに頬を染めながら安堵するのだった。