転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
新たな装備に身を包んだ生徒達。ケイの格好はそのままだが、彼女に関しては迂闊に前線に出るわけにもいかない立場だったため、仕方ないことだろう。
「……さて、結論から言えば預言者を倒す順番に関しては特に指定はありません。ただし、ビナーのエリアだけは最初に占領する必要があります」
鋼鉄大陸の全体図をホログラムで浮かべ、ビナーが潜むエリアを注目する。そこには大穴が開いており、そこにビナーの反応が強く出ている。
「ビナーの居場所がわかったってこと?」
「鋼鉄大陸は全体がネットワークで覆われています。ビナーのエリアにはそれを守るためのファイアウォールが設置されているんです」
「つまりビナーが事実上の門番ってことね」
「そういうことです」
鋼鉄大陸を占領するには、まずビナーを撃破する。それによってファイアウォールをどのような手段であれ解除する必要があるのだ。無論、これはただ占領の足掛かりになるだけではない。
「突破に成功すれば、残る預言者の位置もわかりやすくなるでしょう。そういう意味では、入り口だからビナーだけ見つけられた、とも言えますね」
「つまり、作戦遂行のためにはいち早くビナーの情報コアを確保する必要があるということね」
「成程……じゃあ、これで決まりだね」
最初のターゲットは、デカグラマトン三番目の預言者、ビナー。倒すべき敵を定め、輸送船の進路を設定する。
「……ふと思ったんだけど、アリスとケイでこの鋼鉄大陸を纏めて再構築するわけにはいかないの?」
「それを防止するためのセキュリティなんですよ。というかプレナパテスといいなんで皆ガンメタ張ってくるんですか、横暴だと思いません?」
「……封じなければ勝負の土台に立てないから、でしょうね……そういう意味だと向こうからしたらこっちの方が横暴だと思うのだけれど……」
「……環境が回ってるなぁ……」
さりげなく零されたモモイの疑問にケイが憤慨する一幕こそあれど、そこそこの移動時間の後に、ビナーが潜む大穴の近くまで輸送船が移動されると、
「それじゃあ、ビナー攻略戦を始めよう!」
先生の言葉と共にモルフォ達は現地へ降下するのだった。
★
「……これは」
「いやもう大穴だね」
「……シンプルすぎませんか?」
Type.Sに乗り、ビナーが潜む大穴の周囲まで移動するモルフォ達。輸送船には先生、ヒマリ、リオ、ケイの四人が残り、それ以外の面々が出撃している。トキは新たなアビ・エシュフを一旦格納庫に置いており、全員の新装備の性能を実戦で確かめることも兼ねて今回はType.Sで出撃。もし戦闘に問題があれば輸送船から即座にアビ・エシュフを投下する手筈となっている。
「じゃあどうする?タルタロスとでも名付ける?あれ一応奈落だし」
『なんかそういう風に名付けると変な特性が付与されそうだし普通に大穴でいいような気がする……』
大穴の周囲に移動してみたが、ビナーは全く出てくる気配がない。恐る恐る大穴に近づき、モモイが覗き込む。底が見えない程に深い大穴にはビナーが潜んでいるかどうかもわからない。
「でも、なんだろう……鈍い音が聞こえる……」
「……確かに。人工的な……何かの駆動音かな?」
『じゃあ、この下にビナーがいるってこと?』
『……おそらくは』
『はい、穴の下にビナーの反応があります。ですがこれは……信号が微弱になっていますね』
輸送船の方からビナーについて調べていたヒマリが微妙そうな顔つきを見せる。反応が微弱とはどういうことなのか、それを考えているとモモイが手を叩く。
「わかった!寝てるんじゃない?」
『その可能性もありますが……穴が大きすぎて検出できる信号が弱まっているのかもしれません』
『ビナーはなんで大穴の中に?』
『はっきりとした理由は分からないわ。でもビナーには他の預言者とは明確な違いがある……記録されている限り、ビナーはデカグラマトンの活動が本格化されるずっと以前から目撃されているの。何故ビナーがアビドス砂漠を彷徨っていたかということ自体が謎めいているのだけれど……こちらだと昔のアビドス生徒会が研究しているようなのだけれど、校舎移転の際に当時の資料を散逸してしまったそうよ』
モモイの言う可能性もありかナシかで言えば、あり得る範囲なのだろう。だが、そもそもビナー自他が特殊なデカグラマトンなのだ。
『何か知らないかしら?』
『ごめんなさい、私もビナーの事は……』
『そう……わかったわ。何か特殊性が分かればよかったのだけれど』
『いずれにせよ、この地形や配置にも、何か理由があるのかもしれません』
『……何はともあれ、ビナーを呼び出す必要があります』
「呼び出す……どうします?スモークグレネードでも投げ込みます?」
「……追い立て漁?」
そこはおいとくとして、まずはビナーをこの穴から出さなければ話にならない。ならばどうするかと考えていたが、ここでヒマリがある案を思い付く。
『ではユズ、今から角度と弾速をお伝えするので、その通りに榴弾を打ち上げてください』
「え?はい……でも、それでどうするんですか?」
『少しばかりビナーを刺激してみようかと。後はついでに穴の大きさと深さを測定するためです』
『適切な角度で初速を押さえて射撃した場合、榴弾は自由落下に近い状態にできる。爆発までの時間と爆発音の反響を計算すれば、穴の規模をおおよそ測定できるでしょう。大穴というのならそこまで複雑な構造じゃないでしょうし、構造が単純ならモルフォの銃よりも効率的なはずよ』
ヒマリの案を受け、リオが観測用のドローンを数機降下させる。それが到着次第、ユズが榴弾を大穴に撃つ。中々爆発音がしないなと思い始めると、少しだけ爆発音が聞こえてくる。そのあまりのタイムラグにモモイとアリスが冷や汗を流す。
「ふ、深すぎない?」
「これは落下したら即死になってしまいます……」
『想像以上ですね……!?』
『!?巨大な質量反応を確認!』
直後、大穴の周囲の地面が揺れる。Type.Sが爪を食いこませ、足を固定している生徒達のバランスが崩れないように姿勢制御の微調整を行う中、徐々にその揺れは大きくなっていく。
『ビナーが起きてきたのかな?』
『まあ、予想通りです。皆さん、気を付けてください……ビナー、来ます!!』
ケイの言葉と共に大穴から巨大な白い鋼鉄の蛇、ビナーが姿を現す。ビナーはまるで怒り心頭といった様子で咆哮を張り上げると、モルフォ達を睨みつける。
『散開して様子を見ながら攻撃を!』
先生の指示に従い、Type.Sを走らせる。ビナーは口から熱線を吐き出して攻撃するが、それを回避しながらモモイとトキが攻撃を加えていく。
「!これは……」
『攻撃が実弾から威力の高いエネルギー弾に変わったことで、預言者に対するダメージも増加していますね』
「……以前調査でビナーと戦った時は少なくとも実弾の方は蚊に刺されたぐらいだったんだけどね」
一番後方に下がり、ビナーの警戒から外れつつ狙撃タイミングを伺うエイミ。ビナーの注意からエイミが完全に外れたことを確認しながら、モルフォはミドリとユズに攻撃を指示する。
「このっ!」
「いけー!」
ユズの放った榴弾が命中し、ビナーの胴体が凹む。そこにミドリの放った貫通力に優れたエネルギー弾が突き刺さり、小さなヒビが入る。
「グォオオオ!!」
「うわ、怒った!?」
『ま、まずいよ!ビナーが薙ぎ払ってくる!』
「だったら!アリス!!上を任せた!」
「!は、はい!!」
それに怒ったビナーが口内に光を溜め込む。おそらく熱線で横一列に薙ぎ払い、生徒達を焼き払おうという算段だろう。それを知ったもう一人のモルフォの言葉に即座に反応し、モルフォはアンカーガンを取り出すと、そのアンカーをビナーのヒビに突き刺す。そして勢いよくType.Sを蹴り、シューズの力で勢いよく飛び上がりながら自分をビナーに手繰り寄せると、その勢いのままビナーの眼前に移動。シールドを掲げると、勢いよく熱線とシールドがぶつかり合い、脚部のスラスターからバッテリーを消費して噴出した前方への推進力で拮抗し合う。
「拮抗してる!?」
『本来は瞬発力を増強し、空中での高機動を補佐するためのスラスターよ。だけど、あれを使った飛行は想定されてないからこれが通用するのも少しの間だけど……』
「その間に、アリスが撃つ!」
「はい!―――光よ!!」
その間に、フライトユニットを用いてビナーの頭上を取ったアリスが、ビナーの口を撃つ。直後、ビナーの口がアリスの攻撃の衝撃によって閉じられたかと思うとビナーの口内で大爆発。それによってビナーは口を半壊させ、そこにある熱線の発射口も完全に溶解しながら大きく仰け反る。
『今だ、エイミ!!ビナーを吹き飛ばして地上に!!』
「任せて!」
爆発の衝撃をシールドに受け、後方に吹き飛ぶがそのモルフォをジャンプしたType.Sが回収し、空中でモルフォは両足を固定してもらい、そのまま地上に無事に着地する。それと入れ替わりになるようにエイミが先生の指示を受け、スナイパーライフルから放たれた巨大なエネルギー弾が口を破壊されたビナーを吹き飛ばし、そのまま穴の外へと追い出してしまう。
『……火力過多ね……』
『火力過多については向こうも同じです。あの熱線なんてモルフォのシールド以外じゃまともに受けられませんよ。それに、時間を考えると今後はもっと少ない人手で預言者を相手取る可能性もありますからね』
『とにかく、コアを抜き出します。モルフォ!ビナーの身体に振動を打ち込んでください!情報コアの位置を割り出します!』
「はあ!」
外に飛び出されたビナーは体を捩って迎撃しようとするがそれを回避してモルフォが勢いよくハンマーをアンカーが抜けたヒビ部分に叩きつける。ビナーの全身に振動が走り、ヒビも広がって砕けていく。そして、
『情報コアの位置を確認!情報を送ります!』
『皆、コアを抜いて!』
『もってけトリプルだ!!』
それによって判明した情報コアの位置。そこに向かい、ホログラムのモルフォがスナイパーライフルを握りしめ構える。直後、三発のエネルギー弾がコアの周囲を三角形を描くように突き刺さり、同時にもう一人のモルフォからバッテリーが三つ排出される。バッテリー内の電力を全て使うことで燃費こそ悪いものの、エイミのスナイパーライフルにも匹敵する威力を発揮する武装だ。モルフォはシールドからバッテリーを三個抜いて空中へ投げ、それをもう一人のモルフォが器用に回収する。
「見えた!情報コアだ!」
もう一人のモルフォが放った三点からヒビが広がり砕けていく。偶然にもエイミの攻撃で装甲自体が大きなダメージを受けており、そこにもう一人のモルフォの攻撃が入ったのが大きな原因だろう。そして砕かれた装甲の内側にあった情報コアにモルフォはアンカーを突き刺すと、それを一気に引き抜く。コアが繋がっているコードと共に引き抜かれるが、モルフォは冷静にブーメランを取り出すとそれを投げつけてコードを切り裂いて情報コアを引き寄せようとする。
「や、やった―――!!」
「か、勝った!?これ凄いよ!?こんな威力出るんだ……」
「後はモルフォがコアを回収すれば……あっ」
意外と大きく、重量のある情報コアを手繰り寄せるモルフォを、新装備での初勝利に湧き上がりながら見る皆。だが、コアを引き寄せようとしたところで途中でアンカーが抜けてしまい、コアが大穴の下に落下してしまう。
「……あっ」
『……そのアンカー、本来はコア摘出用じゃないんですが……』
「……いや、こういうのにも使えるのかと」
『……後で改良しておくわ。確かにこの用途を予想できなかったのはこちらの落ち度よ』
「えーと……コア、壊れたりしませんよね?」
『そこは問題ないわ。ひとまず……私達も降りる必要があるわね』
その様子を見ていたケイが少し複雑そうな表情を浮かべながら告げる。モルフォが冷や汗を流す中、リオとケイ、先生の三人が降りてくる。
「こうなったら穴を降りるしかありませんね。反応はこの底にありますから」
「素直に周り壊して手で引っこ抜けばよかったのかな……」
『いえ、先ほどの映像を確認し直してみたのですが……コアが独りでに大穴の方に移動して底に落下してきたようにも見えます。おそらくは本体に何かあった際にコアは大穴の底に落ちるようになっていた。そういうセキュリティだと考えた方がいいでしょう』
「ず、随分物理的なセキュリティですね……」
自分のやらかしのせいで面倒なことになってしまったとモルフォが唸っていると、ヒマリがモルフォが悪いわけではないことを伝えてくる。だが、どうやって大穴の底に降りればいいのか。
「アンカーを地上に引っかけて降りていく……いやでもアンカーの限界までいったら意味ないか……」
「それなら……」
『……?』
「もう一人のモルフォに降りてもらえばいいんじゃ」
『降りるのはいいけど、情報コアは拾えないよ?エイミちゃん……私、手はないから……』
あーでもない、こーでもないとモルフォ達が話し込んでいる中、ケイがリオを見る。
「で、本当にいいんですね?」
「ええ、ネットワーク経由ではファイアウォールを突破できないことが判明したでしょう?なら、現場で作業を行った方が合理的よ」
「……まあ、いいですが……確かに底がどうなってるかわからない以上、迂闊に降りるわけにもいきませんから。もしレイダーやデカグラマトンの兵がすし詰めになっていたりしたらとんでもないですし」
「……あれだよね。でかい石持ち上げたらその下でダンゴ虫やら大量の虫が蠢いてる―――」
『やめて!?』
嫌な場面を想像したのかその場にいたモルフォ以外の全員が鳥肌を覚える。とはいえケイが言いたいのはこういうことだ。そんな中に万が一降りてしまおうものならぼこぼこにされる前にショックで気絶しかねない。
「……こほん。とにかく、私がこのエリアのネットワークに接続するわ」
「?それは……私のとは違う?」
リオが手に持っていたのはバイザーだった。しかし、それはエイミが持っているものとは違う。
「視覚情報の入出力を利用してネットワークにダイブする
「わ、わかんない!なんか凄い説明されてもわかりません!」
リオが色々と説明をしてくれるが、モモイとミドリの頭ではわからない。だが、それを簡単に説明してくれる存在がいた。
『えっとね、モモイちゃん。ネットワークって現実からだと見えないからピンとこないけど、実際に入ってみるとちゃんとそういう電子的な世界として広がってるの。だから、リオさんはそこに意識をデータ化して入ろうとしているんだよ』
「な、成程!」
「……まあ、端的に言うとそういうことになります」
「はい!アリスもついていった方がいいですか?」
「いえ……アリスは私が無事に戻ってくるまで、周囲の防衛を頼めるかしら。私がダイブしている間は無防備になってしまうから。ケイは万が一の為にサポートをお願い」
「万が一って……」
モモイ達がリオに頼まれ、周囲の警戒のために散策に出てくる。Type.Sがあるため、移動に関しては多少融通が利く。そして皆がいなくなり、先生とリオとケイの三人だけになると、ケイはリオの持つHMDを見る。
「そもそもサポートしようにも、そのHMDは一つしかありませんが」
「だから……もしもの場合は貴女が引き継いでほしいの」
「……待ってください。あなた、変なことを考えていませんか?……はっ、生体電流の増幅……もし、失敗したらそれが増幅されてリオ会長の身体に跳ね返って……!?」
「ええ……失敗すれば、私の脳は丸ごと焼かれてしま―――!?」
「ちょっ、ケイ!?」
次の瞬間。リオの腹部にケイの拳がめり込み、リオは痛そうに呻きながらその場に蹲る。ケイはリオが落としたHMDを奪い取ると、
「バカなことを言わないでください!そりゃあ、あなたが失敗を前提に臨んでるわけではないことはわかります!成功率も決して低い場合ではないでしょうね!もしそうならヒマリ先輩が止めてるでしょうし!」
「だ、だから……ぐふ」
「でもね、私が死んだら~なんてバカなこと言うのは止めなさい!……それで本当に万が一があったらどうするっていうですか。そうならないために私達はここにいるんじゃないんですか」
私が言えた台詞じゃないですけど、と小さく呟きながら、ケイは手に持ったHMDをリオに再び渡す。リオは若干涙目になりながら体を起こしてそれを受け取る。先生はケイの言葉を受けてリオを見る。
「絶対に無事で戻ってくると約束してくれる?」
「……ええ、善処するわ。ただ、私の方でできる限り、ではあるけれど……」
「そういうの言わなくていいんですよ!……異常を感じたら、無理矢理にでも止めさせてもらいます」
「……わかったわ。では、行ってくるわね」
先生の言葉を受け、彼方ず戻ってくると約束してHMDを装着する。そしてHMDを起動し始めた彼女を見ていたケイは通信機を手に取ると、
「……ああ、そうだ。ヒマリ先輩、一つ思い付いたことがあります。ちょっと手伝ってもらっていいですか」
そう伝えるのだった。
★
HMDが起動すると同時、リオの視界に広がる景色が鋼鉄大陸の景色から電脳的な地平線が広がる空間に切り替わる。
(っ……!?眩暈が……情報量が多すぎて、流されてしまいそう……宙に浮いているような感覚、下手をすると座標を失って漂流しかねないわね……)
だが、リオの身体は地上にあたる部分に存在しておらず、空中に浮いていた。それだけではない、上下左右、どこにも移動することができない。だがこれは重力という概念がないからだと気付き、仮想重力の値を設定、それによってリオは地上に着地する。
「……これで少しはマシになったようね……それにしても凄まじい光景。これが、鋼鉄大陸のネットワーク空間……」
「ええ、その通りです」
「!!」
地上に着地したリオ。だが、彼女の耳に待ちくたびれたと言わんばかりに退屈そうな声が聞こえてくる。その声に手に持つハンドガンを構えながら振り向くとそこには、
「―――ようこそ、調月リオ」
巨大な黄色いオブジェのようなものに座るオウルの姿があったのだった。