転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「そ、そんな……!?」
「よ、預言者達は後イェソドと、ネツァクと、お姉様、だけ……!?しかも、情報コアを抜かれてエリアを奪われたせいで、鋼鉄大陸の第一防衛線だけじゃなくて、第二防衛線まで……」
「……状況を整理しよう」
アイン、ソフ、オウルがいる部屋は真っ赤な光で満たされ、無数のアラートが鳴り響いていた。その原因は単純明快、ミレニアムの怒涛の攻勢によって七体の預言者を仕留められたせいだ。そのせいで鋼鉄大陸は七割を相手の占領下に置かれてしまっている。それを踏まえ、ソフが状況を分析して一旦冷静になろうと言う。
「は、はい……の、残りの預言者のエリアは、後二つだけです……」
「
「多分、突破されるだろうね……わざわざイェソドを後に持ってきたってことは、そういうことだろうし」
「うぅ……」
そして冷静になった結果、判明したのは自分達が徹底的に追い詰められているということだ。増援が来てから流れがおかしくなったことは間違いない。そして、まだ残っているエリアも、この調子では奪われてしまうことだろう。こちらに残るのは、マルクトだけになってもおかしくはない。
「アイン、落ち着いて。認めるものは認めないと……善後策を考えるためにも」
「ど、どこから……間違ってしまったのでしょう……や、やっぱり……私があの人たちを見くびったせいなのでしょうか……うう、ごめんなさい……」
「いや、それに関しては見くびったという問題ではないでしょう。というかあのまま落とせたはずなんですよ、あの増援さえなければ……なので見くびったというよりは、癪ですが向こうが上手だったのでしょう」
「……そうですね。大丈夫ですよ、アイン。アインは何も間違っていません」
アインは頭を抱えてしまうが、戦術的には完全に相手が上をいかれていると考えるしかない。この状況を揺るがす変数があまりにも多すぎたのだ。
「わ、私達が、鋼鉄大陸を、予定を早めて展開したせい……でしょうか……?」
「でも、あの時に展開していなかったら……こうしてお姉様と会うこともなかったと思いますよ」
「うん……」
「ええ、その点について、アイン、ソフ、オウルに感謝しています」
「お姉様……」
状況としてこんなことになってしまったが。それでもマルクトが生まれたのは三人のおかげがあってこそ。マルクトはアインを寄せた後、残る二人を手招きする。
「ソフもオウルも、こちらへ来てください。我が抱きしめてあげます」
「?」
「え、ええ……?」
一体この行為に何の意味があるのか。困惑するソフとオウルだったが、とりあえず言われるがままマルクトに近づくと。マルクトは三人を抱きしめる。
「これは、何かを打開できる行為ではありません。いわば、意味のない行為なのかもしれません。ですが……少し、心が落ち着きませんか?リラックスできれば、良いアイデアが浮かぶかもしれません」
「……うっ……うぇえん……」
「思いっきり泣いてください。ここには我々しかいません」
マルクトに抱きしめられたアインが思わず泣きだしてしまう。ソフとオウルも、何かしら思うところがあったのか、涙が浮かび始める。そんな三人を、マルクトはより強く抱きしめて優しく語り掛けるのだった。
「大丈夫です、我がいます。我はアイン、ソフ、オウルに出会えて本当に嬉しく思っています」
★
「ウタハ先輩ー、調整終わったよー」
「よし、これで……」
「ウタハ先輩、これは……」
クリフォトの格納庫。そこでは帰還したアリスがケイと一緒にウタハ達に呼ばれ、ある武器を作っているところを見ていた。それは、一つのブースターユニットのような形をしており、主な武器としてスーパーノヴァとルミナスノヴァが取り付けられていた。
「マルクトの戦闘力は圧倒的だからね。今はこちらもパワーアップしているけど……多分、実際の戦闘になったらアリスが一番の鍵になると思う」
「そうなんですか?ネル先輩とかなら……」
「……映像を見る限りだと、マルクトはおそらくだけど空中戦を行える可能性が高い。そうなると、地上戦を主とするアビ・エシュフXでは後れを取る可能性の方が高いんだ」
「飛べないんですか?モルフォが使ってたフライトユニットのようなものを他のアビ・エシュフXにも……」
「いや……モルフォを見て気付いたが、千年の守護者のサポートを込みでも飛行には難があるんだ。数を増やしてもいい的になるだけだ。例外は……初使用からここまででこれほど飛べるようになっているアリスだけだと思う」
ウタハから言われたのは、地形適性の観点から見た懸念であった。これまで戦ってきた、そしてこれから戦うイェソドは空中よりも地上での戦闘が主だ。唯一例外となるのがゲブラだったが、そのゲブラも地上と水中を行き来する戦い方をしていた。だがマルクトは違う。
「……それに、マルクトの戦い方ってオールレンジによるビット攻撃ですよね?モルフォだとそもそも近づけない可能性の方が高いんです」
「なるほど……そういえばマルクトが降下してくるとき、妙に落下速度が遅かったですね……落下の衝撃を殺すために、と思っていましたが、実は空を飛べるけど、行動時間が短いから最低限の行動をとっていたのかもしれないと……」
空中戦をメインとするなら、他の皆よりもアリスが優先される理由もわかる。だが、それならフライトユニットを持っているのはモルフォも同様なはずだ。しかし、調整を行っていたコトリがモルフォはマルクトとの戦闘に参加させるのんはあまりよろしくない理由を上げる。
「次のイェソドとの戦いではアリスにこれを使ってもらう。さすがにマルクトとの戦いでぶっつけ本番で動かすのはまずいし……だから試運転」
「大丈夫なんですか……?マルクトと比べれば確かにイェソドの脅威度は劣りますが……」
「問題ないさ。完璧に仕上げてみせようじゃないか、なんせ環境はこれ以上ないほど整っているんだからね!」
ケイの心配する声に、ウタハが自信満々に答える。皆が戦っている間に少しだけ休憩したおかげかすっかり気力を回復した三人を見て、ケイとアリスは苦笑しながら顔を見合う。と、
『実在と非実在の区別を問うことは、もう古いでしょう。両者の違いは、対象の受け取り方が異なる程度のことですから。何せ、両者に大きな違いはありません。例えば虚数は存在します。左右が反転し、時間が逆行する宇宙が存在する可能性があるのと同じように』
「「!?」」
その時だった。二人がはっと顔を上げる。また、あの声が聞こえてきたのだ。今度は、アリスだけでなくケイにもはっきりと。
「……聞きましたか?」
「は、はい……今回は内容もはっきりと……」
二人はエンジニア部の方を見る。エンジニア部はアリスのための新たな武器を作る作業に集中していたようだが、例の声には聞こえていないようだ。それを見たアリスがケイの方を見る。あの声を聞いていたのはケイだけだ。ならケイなら内容が。しかし、アリスは説明しようとしてもうまく説明できずにいた。そんなアリスの手を引き、格納庫から出ながら、ケイは話を続ける。
「……ケイ、あの内容は……」
「大丈夫ですよ、私も聞きましたので。多元宇宙に関する比喩でしたね」
「たげん……うちゅう……?」
「左右が入れ替わり、時間が逆行する宇宙のことです。おかしく思えますが、存在しないという証拠はありませんので……ということは?あの声の主はまさか……」
通路を歩いていたケイが立ち止まる。アリスが心配そうな様子でケイの顔を覗き込むが、ケイは難しい顔を浮かべるばかりだ。
「まるで見当がつかない、というわけではありません。ただ……だからといって、これを説明するわけにはいかないんです。すみませんアリス……これは、あなたには言えないことかもしれません」
「それは……アリスや先生、皆にやるべきことが変わってしまうからですか?」
「?それは違うと思います、ただ……」
言葉を濁すケイ。それは、何かを警戒するような、そんな素振りが見えた。しかし、ケイにも確かなことはまだ言えないのだろうとその様子からアリスは判断する。
「分かりました!ではアリスは、アリスのやるべきことをやります!今は分からないことを考えるよりも、ウタハ先輩達がアリスのために作ってくれる新しい装備の事を考える方が楽しいですから!」
「……そうですね。イェソドとの戦いは短時間で終わるだろうということですし、集中できるようにしっかり休んでおきましょうか」
そんなアリスの言葉を聞き、ケイも笑って頷くのだった。
★
アラートが消え、赤い光に包まれていた部屋も元に戻り、静かになっていた。そこで落ち着いた四人は、今後の事を考え始めていた。
「私達は鋼鉄大陸の統制権を奪われ続けてる」
「ですが、まだそこまで深刻な問題ではないとも言えます。あの鍵……ケイが使っている身体を取り戻せば、全て元通りです」
「け、結局……セキュリティレベルとアクセス権の問題ですから!」
「鋼鉄大陸の拡張は止まっちゃったけど、それも何とかできるはず」
「ネツァクの各エリアの統制権を取り戻せばいいからね!」
状況は確かに刻一刻と悪くなっている。が、それを逆転する方法もある。文字通り、その鍵となっているのはケイなのだから。ケイの使っている体は、取り込んだ情報コアの情報が記録されている。それさえ取り戻すことができれば。
「残りの戦力は二体の預言者。そして―――我、ですね」
「……」
「前は、我に与えられた力が強すぎるが故、身体が持ちませんでした。つまり
「それを解決するのは、私達の仕事ですね!」
「か、必ず完全な姿で、お姉様を羽ばたかせてあげます!!」
「ケイも自分の身体の重要性を理解し、あの母艦にいる……であれば、お姉様が戦力を全て倒してしまえば……」
二体の預言者ではどれだけ持つかはわからない。やはり鍵になるのはマルクトだろう。しかし、そのマルクトも全力で戦うためにはまだ準備がいる。それさえ終われば。だが、あまりのミレニアムの攻勢の影響もあってか、マルクトの調整が間に合うか不安だったのか、オウルが更なる案を持ち掛ける。
「一応、預言者を活用できる余地も、僅かにですが残っています」
「……本当にやるの?」
「ええ、人間達の言葉で、言霊、というものがあるようですのでね……お望みならばその通りにしてあげようと思いまして。アイン、説明をお願いします」
「えっと……元々、作り上げることはちょっと前から計画してはいたんですが、そのための材料も時間もどうにも用意できなくて……ケセドちゃんの工場が使えなくなってしまいましたから……ただ、鋼鉄大陸の外側にいた預言者達は残骸が残っていますよね?」
鋼鉄大陸の外側。即ちネツァクの上に存在していなかったゲブラとコクマーのことだ。今、この二体の残骸は、火山の噴火で打ち上げられたコクマーを含めて海中に沈んでいる。それを使って何かをしようとしていること、そして以前少しだけ触れた話から、ソフもアインがやろうとしていることに気付く。
「それって……まさか?え?できるの!?」
「ここまで運んでくれば、ですが……」
「……運搬はどうするの?そもそも海中に沈んだ残骸を引き上げるのも……それに運搬とかだってこっそりやらないとだし」
「……無謀でしょうか?」
「……いいや、仕事は難しいくらいが丁度いいよ」
が、それを乗り越えるには難関があまりにも多い。それを突破できるのかと様々な問題が次々と浮上してくる。しかし、それを聞いたソフは溜息を吐きながらも不可能ではないと言う。その言葉にアインとオウルが目を輝かせる。
「レイバーの生産にはまだ余力が少しあるからね」
「本当ですか!?じゃあ、私も……」
「ううん、アインは残ってて。これから凄く忙しくなるし……アインが一番重要だからね」
「え?わ、私が、ですか?」
「そうです。この先、アインがいないと私達は何もできませんので」
「……は、はいいいい!?」
そのために何をするべきか。そんな中、突然大役を任命されるアイン。アインは驚愕するも、ソフがアインに近づくと、
「アイン、よく聞いて。やってもらいたいことは大きく分けて二つあってね……」
そう言い、アインにやってもらうべき内容を説明していく。そして一通り、その内容を説明し終えた後にアインは暫く固まっていたが、やがてフリーズしたかのように倒れてしまう。
「アイン!?」
「……大丈夫ですか?」
「……プレッシャーが大きすぎましたかね。ですが……お願いしますよ。これの如何によって、私達の可能性は大幅に減ってしまいますから。マルクトお姉様の強化は、頑張れば私達でもなんとかできるかもしれませんが……もう一つはアインにしかできないのです」
「……わかりました」
しかし、オウルから語り掛けてきた言葉を聞きながらゆっくりとアインは起き上がると、静かに、だがはっきりとした呟きを漏らすと、やる気を漲らせる。
「……やってみます。いえ、やります。絶対に、必ず……!死ぬ覚悟で!いえ、死んでも!」
「いや落ち着いてよアイン……私達の中で誰一人そうならないためにやるんだから」
「うっ……そ、そうですよね。でも……それぐらい頑張ります!」
「まあ、さすがに例え話でしょうけど……」
言っていることはともかく、やる気は伝わってくる。ソフとオウルも苦笑する中、アインを静かに見守っていたマルクトが優しく話しかけるのだった。
「ありがとうございます、アイン。我の身体をよろしくお願いします」
「はい!!」
★
アリス達が戻って一時間程の小休憩と補給を経て。一行はイェソドが待つ鋼鉄大陸の外壁へと輸送船を用いて向かっていた。
「……今更だけど最後のイェソドだけ大人数だね……」
「た、確かに……」
「……つーか聞いている限りだと必要なのか?この人数」
その輸送船の中には、これまで三部隊に分かれていた面々が全員集まっている。これもイェソドがそれだけ警戒に値する存在だということの証左なのだが、残念ながらここに集まった面々はまともにイェソドと戦うつもりはあまりなかった。
『万が一よ。最後の手段として白兵戦を行わざるを得なくなった時、数を揃えてイェソドの動きを攪乱させることになるわ』
『そうなった場合はやられる前にやれ、ということになります。とにかく被弾しないように短期決戦で倒してください』
「ちなみに喰らったらぺちゃんこになるから……」
「……改めて言われると本当に殺意しか感じないな……」
その理由はイェソドの繰り出す高質量に身を任せた攻撃にある。その攻撃力に関してはある意味マルクト以上でもあるのだ。
『そういうわけだから皆、気を付けてね』
『降下地点に到着しました。皆さん降下してください』
ノアの声と共に、全員が外壁の上に着地する。アビ・エシュフXや追加バックパック、フライトユニット、アバンギャルド君mkX、千年の守護者type.S。それぞれが装備できる最大の武装を纏って降り立ったその軍勢は、まさしくミレニアムが用意できる最大の軍勢といえるだろう。
「そ、壮観だね……」
今回降り立った全員が、それぞれ射撃武器を持っている。近接装備のネルや、アサルトライフルを使うモモイやアスナといった、携行武器の火力が足りない面々は全員が手持ちのロケットランチャーのような武器を持っている。
「……イェソドがばっちりこっち見てるけど、あれ大丈夫?」
「うーん、大丈夫じゃない?」
「まあ、動けなさそうだもんな……」
イェソドは完全にこっちを睨みつけているかのようにこちらを見ているが、やはり外壁に上半身を付けているかのような姿をしているせいなのか、動くことができずにいた。近くに投げつけるものがあればまた話が変わっていたかもしれないが、イェソドの周囲にはそういうものもない。
『では皆さん、配置につきましたね。それでは……先生、お願いします』
『攻撃、開始!!』
『ケテルミサイル、発射!!』
ブリッジから攻撃開始の指示が飛ぶ。直後、ケセドのエリアで生産された大型ミサイルが発射され、イェソドへと襲い掛かる。突然の事にイェソドも驚いたように腕を振り上げてミサイルを薙ぎ払うが、潰しきれない攻撃が胴体に命中し、大爆発を引き起こす。その余波による風圧を感じながらも、ネルが声を張り上げる。
「今だ!ぶち込め!!」
ネルの声と共にロケットランチャーやスナイパーライフルなど、様々な攻撃がイェソドへと襲い掛かる。ミサイルも次々と叩き込まれていく中、ユズがアバンギャルド君mkXに持たせた二丁のビームライフルと二丁のグレネードランチャーで攻撃しながら、背中のコンテナを展開し、そこから小型スラスターを複数取り付けた武装ユニットが出現する。
「アリスちゃん、これを!」
「はい!」
武装ユニットが発進され、アリスがそれを空中で装備する。アリスの腰部がユニットによって固定され、両腕がダブルノヴァが接続されたアームユニットに接続して固定。そして武装ユニットの背面には小型スラスターが四基見えており、更なる空中機動力と戦闘力を確保した新形態になる。
「いきます……ダブルノヴァ!光になれ―――!!」
ダブルノヴァからこれまでを超える巨大な閃光が放たれる。その光はミサイルや皆の攻撃でダメージが蓄積されていたイェソドの胴体を破壊し、その巨体が自らの体重によって倒れてしまう。
「倒れた!?」
「後は情報コアです!」
「よし、場所を確認したよ」
どさくさに紛れて振動弾を撃ち込んだエイミの手によって情報コアの位置が判明し、倒れたイェソドから協力して情報コアを取り出す。
「……呆気なかったね」
「対策に対策を考えればこんなものではないでしょうか」
『その情報コアがあれば、さらに占領するエリアも増えます。ここまで占領するエリアが増えれば、残るエリアも僅か……ネツァクの情報コアの居場所もわかるでしょう。一旦帰還してください』
そしてケイの言葉と共に一行は呆気ない戦闘だがこんなものかという思いと、これも嵐の前の静けさなのだろうという確信を抱きながらクリフォトへと戻るのだった。