転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「……って、空に飛ばれたら攻撃しようもねえじゃねえか!?」
「……さすがに狙撃は厳しいな……」
アイン達が走りだし、身を隠す中、大空へと飛び上がったマルクト。当然、マルクトからすればわざわざ地上に降りてこちらの相手をする理由もないので、空戦を行うのは理に適っているのだが。カリンやエイミが苦虫を噛み潰したような表情でスコープから目を離す。
「……あれ、外せないんです?」
『外せはするけれど……エネルギーがないわ』
「……アリスが向かいます!今、マルクトと戦えるのは……アリスだけです!」
グレートアバンギャルド君からフライトユニットを外せない以上、残るのは唯一空中戦を行えるアリスのみ。その場にいた全員の視線がアリスへと向けられるが、それ以外に戦いようがもない。それを受け、モルフォがシールドをアリスに渡す。
「じゃあアリス、これを使って、空中だとアリスの身を守るものも必要でしょ?」
「モルフォ……!はい!ありがとうございます!」
受け取ったシールドをアバンギャルド君mkXのコンテナに積まれた武装ユニットの積載スペースに取り付ける。それを見たネルは少し考え込んでいたが、
「ほらよ、一本もってけ」
「!勇者の剣ですか!?」
「そんなもんじゃ―――まあ、そういうもんだろ。あの細かいの、一つ一つ撃つよりぶった切った方が潰しやすそうだしな。こいつが飛べりゃいいんだが、そういうわけにもいかねえだろ?」
自身のブレードを一振りアリスに投げ渡す。それを受け取ったアリスは嬉しそうにそれを武装ユニットの積載スペースへと乗せると、自身の腰と両腕に武装ユニットを装備して固定する。
「では皆さん……行ってきます!」
「アリス、気を付けてね」
「はい!」
「マルクトは強敵です……ですが、今のアリスと、アリスのために用意された皆の力ならばきっと勝てると信じています」
「ありがとうございます、ケイ!必ず、帰ってきます!」
そして武装ユニットとフライトユニット、両方のスラスターを吹かし、アリスは大空へと一気に急上昇。そのまま、空で待つマルクトの下へと飛び立つ。
「……それにしても不可解ですね」
「不可解って?」
「ええ、彼女達は私達の為、と謳いながらこのような行動に出ているようですが……ここまで窮地に追い込まれて尚、事情を何一つ話してくれません。それだけ、マルクトに自信がある、とも言えますが……」
「……もしかしたら何も考えてなかったりして」
「そんなバカなことはないでしょう……」
その背中を見送りながら、ケイはマルクトたちの事情を考えていた。鋼鉄昇華を目指す理由はこの世界の人々のためという一応の目的はあるようだが、そもそも何故鋼鉄昇華を行おうとしたのかについては全くわかっていないのだ。さすがにモモイが呟いたようなことはないとは信じたいものだが。
『……でも、あの子達にも絶対にやらなきゃいけない事情があってこういうことをやっているのなら……どうにか、できないのかな。もう、鋼鉄大陸の拡大も止まってるし……』
「うーん……まあ、とりあえず。ぶつかるやる気があるなら付き合って打ち倒してからでいいんじゃない?」
『そ、そんな脳筋な……』
「つーか先に殴ってきたのは向こうなんだから殴り返されて喧嘩になるのはそりゃそうだろ……」
「それはそう……というか何もすることないなら頑張ってユズを出すべきじゃない?」
『今、再起動を行ってるところです。再起動すればハッチが開けるのでもうちょっと待ってください』
マルクトを慕う三人の姿を見てほだされたのか、もう一人のモルフォが複雑そうな表情を浮かべる。しかし、彼女達と和解したり、本当の意味で話したりするには、まず向こうから挑まれたこの勝負を制するしかないようだ。であれば、その鍵はアリスに。改めてそのことを実感しながら、もう一人のモルフォは顔を上げるのだった。
★
「……アイン、ソフ、オウル。大丈夫ですか?」
上空に移動したマルクトはアイン達と話をする。身を隠しているアイン達の姿を確認すると、彼女達はどこか疲労困憊といった様子を見せていた。ここまで問題続きで、必死に頑張ってきたその疲れが現れた、というわけではとてもなさそうに見える。
『は、はい!』
三人は元気に返事を返すもその場に座り込んでしまう。三人は疲れただけなのを確認して安堵しながら、マルクトはあることを問いかける。
「鋼鉄大陸は、あなた達の意志でしたよね?」
『は、はい……それがどうかしましたか?』
「我はアイン、ソフ、オウルが自らの意志でこの鋼鉄大陸を作り上げたということを聞き、とても嬉しかったのです。ですが、どうして鋼鉄大陸を作ろうとしたのか。そこから何を得ようとしたのか……我はまだ知らないままです。鋼鉄大陸を拡張させ、キヴォトスを覆い尽くそうとする計画。我はその計画に、確固たる理由はないとお見受けしますが……」
『そ、それは……』
それは、鋼鉄大陸をそもそも作り上げた理由。マルクトの質問にソフが気まずそうに視線を逸らす。
「大丈夫です、あなた達を咎めるつもりで言ったわけではありません。ただ何のために、鋼鉄大陸を拡張させようとしていたのか。そしてその理由を、我にさえ話してくれないことについて……純粋に思うだけです。鋼鉄大陸に拘らなければ、これらも起こらなかったと思いますので」
『……ごめんなさい、お姉様。言えない理由があるんです。音として発音してはならないので……でも、信じてください。全てはお姉様のためなんです……いえ、お姉様と私達の為、ですから』
続けて、オウルが真剣な表情で話せないと告げる。その言葉を聞いたマルクトは疑問そうに首を傾げてしまう。
「?我の為に?」
『ねえ、お姉様』
「はい、ソフ」
『お姉様は……生きたい?』
「……はい?」
そして、ソフから逆に投げかけられた、生きたいかという問い。突然の質問にマルクトは固まってしまう。それから少しだけ考えていたが、
「ごめんなさい、質問の意図が理解できません……意識を得ている以上、それを継続したいと考えるのは当然のこと。そういう意味で……はい、我は生きたいです。ですが、アイン、ソフ、オウル。もう知っているのでしょう?」
『……うん、もちろんだよ。他の誰よりもずっと。それでも私達は……生きたい。お姉様と一緒に、いつまでも……生きていたい』
「それは……成程。まだ、完璧に理解することはできませんが、あなた達がそう願うのであれば」
ソフの、いやソフ達の願いを聞き、頷く。三人と共に、生き続ける。この鋼鉄大陸で生まれたマルクトが出会った三人の妹達と過ごす時間は、幸せの象徴ともいえるのだろう。それを守るために、生きたいと望むなら。
『ごめんなさい、お姉様……もう、私達は』
「……ええ、知っています。大丈夫、これからは我を信じてください。あの方のために、そして大切な妹達の為に―――」
そして、寂しそうなオウルへ確かな決意と共に返答すると、迫る反応を確認してマルクトは眼下に視線を向ける。そこにはこちらへ向かって飛んでくるアリスの姿があった。やはり、彼女だけで追ってきたようだ。
「―――あの者をお赦しください。自分が何をしているのか知らないのです」
アリスの持つ武装ユニットにはイェソドの戦いでは見られなかった装備が付いている。確か夢見モルフォと美甘ネルが使用していた武装だったかと考える。
「我々の罪をお赦しください。我々も、我々に罪を犯した者を赦しました」
唯一の戦力に可能な限り戦力を上げる。それが向こうにできる唯一の対策ということか。確かに空中に上がれば、唯一追えるアリスだけが来る。そのアリスにさえ勝てば、後は空中から一方的に蹂躙できる。尤も効率的な戦略だ。
「我々を誘惑に会わせないように守り、悪から救い出してください」
アイン達が語っていたことを思い出す。奴らから盗聴した会話の中で、遠くに浮かぶ巨大な戦艦にクリフォトと名付けたと。それは、セフィロトと対を成す、まさに悪の権化であるという。自ら悪の烙印を背負った彼女達から妹達を守るために。
「マルクト!勝負です!!」
マルクトの姿を捉えたアリス。その耳に機械音声による戦闘サポートシステムが作動したことを確認しながら接近し、両腕のダブルノヴァから光を放つ。だがマルクトはその攻撃を回避する。しかしアリスは右手をアームから引き抜くと積載していたネルのブレードを握りしめ、マルクトへと斬りかかる。マルクトはそれを浮遊ユニットの一基で受け止めながら距離を取ると同時にビットを射出し、アリスの周囲を取り囲んでいく。
「っ!?」
全力でスラスターを吹かし、高速機動でビットから逃れようとする。ビットから何発ものビームが放たれアリスを襲うが、なんとかそれを回避しつつブレードを仕舞い、再び右手をスーパーノヴァのアームに接続していく。それと同時にマルクトを捉えるようにベルトのタレットの照準を向けると、そこから実弾を連射していく。
「甘いですよ」
しかしマルクトは浮遊ユニットを盾にして受け止めると、その脇から出つつランスの先端をアリスに向け、ビームを発射する。回避しきれない一撃が左腕のアームに命中して爆発と共に吹き飛び、空中で装甲とルミナスノヴァが分離する形で落下していく。
「!?ルミナスノヴァが!!」
「余所見している暇がありますか?」
しかし、間髪入れずにマルクトがランスをアリスへ向けて突き出す。なんとかそれを身を捩って回避したアリスは左手でブレードを握り、マルクトへと振り下ろす。だがそれを浮遊ユニットで受け止めると、今度はランスを右腕に突き刺し、右のアームが爆発。スーパーノヴァが落ちてしまう。
「しまっ……!?」
「……王女よ、我は疑問を抱いています。あなた達はどうして、自ら苦痛を招くのですか?」
武装ユニットのメイン火力であったダブルノヴァをやられ、表情を歪ませるアリスに、もう勝負はここまでだと言わんばかりにマルクトが語り掛ける。まだ周囲をビットが取り囲んだままだが、アリスが戦闘の意志を見せなければこれ以上は攻撃しない、ということなのだろう。
「……自ら、苦痛を招く?」
「生きることは苦痛です。その事実から目を背けてはいけません。我々は我々の意志で生まれておらず、ただ何も知らぬまま、この世に放り投げられただけに過ぎません」
「マルクト、あなたは何を……!」
「……諦めないのですね」
「ッ!」
アリスは一旦マルクトに背を向けて最大速度で後退する。直後、アリスがいた場所、そして移動先へ向けて周囲を滞空するマルクトのビットが次々と光を放つ。アリスはそれを避け、避けきれない分はブレードとモルフォから渡されたシールドに持ち替えて受け止めてぎつつ、ビットによる包囲網を脱すると体勢を立て直す。
「我々は、我々の名前すらも、自らで決める権利を持ちません。人生とは、それ自体が矛盾と不条理に満ちており、だからこそ、理不尽な苦痛を受けているのです。我々はただ、その循環を断ち切ろうとするだけ。我々が、我々の名前すら決められない限り、その苦痛は続くしかありません」
「そうかもしれません!でも、それは……!間違っています!アリスは、そう思います!!」
ライフルからビームを放ち、マルクトを攻撃する。それを浮遊ユニットを盾にして防いだマルクトは再度ビットをアリスへ差し向ける。だが、すぐにライフルからブレードに持ち替えたアリスは、
「やああああ!」
「!!」
ビットの一つを切断し破壊する。さらにビットがアリスの周囲を取り囲み、スラスターだけとなった武装ユニットに着実に攻撃を当ててくる。本体への被弾こそ回避しているものの、武装ユニットへの損傷はやはり無視できない。それでも、アリスは確実に一基ずつビットを切り捨てていく。
「!?」
アリスが全力で振るうブレード。その純粋な腕力から放たれた一撃が、さらにビットを破壊しようとしたその時。ガギン!と硬い金属にめり込む音によって止められてしまう。
「なっ!?はああああ!」
ブレードを受け止めていたのは、マルクトの周囲を浮遊するユニットの一つ。刃は半分程めり込む形で止まっており、アリスは力づくでそれを両断して破壊することでブレードを自由にする。が、その一瞬の隙によって周囲を取り囲んだビットが武装ユニットを捉え、完全に破壊してしまう。
「っ……!!」
「……先程、間違っていると言っていましたね。その根拠をお伺いしても?」
「それは……!」
「答えずとも構いません。我は既に知っています。それは、生命体が生命体である限り―――解など存在し得ない問いだからです」
「っ!」
今のアリスを空で支えるのはフライトユニットのみ。アリスは腰部のタレットとビームライフルを手にひたすら弾を連射していく。マルクトはそれを浮遊ユニットで受け止めながらビットを縦横無尽に駆け巡らせる。
「まだ……まだです!人は……生命体はそんなものじゃありません!生きるということは……苦痛だけじゃないんです!!アリスには、アリスには答えがあります!」
すぐにビームライフルをフライトユニットに収納していたブレードに持ち替える形で入れ替え、シールドをもう片方の手に握り、マルクトへ向かって突っ込んでいく。武装ユニットがなくなったことで最大の速度こそ落ちたものの、逆に小回りが効くようになったこと、そしてマルクト自身の操るビットの数が減少したことが功を奏し、なんとかアリスは懐へ潜り込む。
「はああああ!!」
「っ!」
マルクトは再び浮遊ユニットで受け止める。シールドが再びめり込むと同時に、今度こそアリスを仕留めんと残るビットを集結させる。が、アリスは二度目は通じないと言わんばかりにシールドから持ち替えていたライフルをユニットの傷跡に突き刺して引き金を引く。
「「!!」」
ユニットが爆発し、ブレードが引き抜かれると共にその衝撃で二人は吹き飛んでいく。だが、アリスは吹き飛ばされながらもブレードを回転させてビットを数機破壊していく。
「……くっ」
ここにきてマルクトの表情が歪む。マルクトの周囲を浮いていた四基の浮遊ユニットは、マルクトが十全に空中戦を行うために必要な装備だ。盾としても使えるが、破壊されてしまえば当然空中での機動力は落ちる。そういう意味では、ある意味弱点も同然なのだ。
「ふっ―――!」
ビットが距離を取りつつ集まり、網目を作るかのようにビームを放つ。それをシールドで受け止めながらライフルで着実に撃ち抜くと、マルクトの背後に回り込むように移動し左手をシールドからブレードに持ち替える。
「そこです!!」
「!」
マルクトの動きが一瞬鈍る。浮遊ユニットを二基失った影響だ。咄嗟に残るビットをまとめて防御へ差し向けようとする。が、それを待っていたと言わんばかりにブレードをしまい、タレットとライフルを連射し、そしてシールドから取り出したグレネードを投げつけてマルクトを攻撃するようにしてまとめてビットを叩き落としていく。
「マルクトは言いました!循環を断ち切ると!でもそれは、可能性を閉ざすことなんです!アリスは名もなき神々の王女です。ですが天童アリスという名前を得ました!私達は、名前を変えることができます!それはケイも同じ!アリスには……王女としての可能性と、勇者としての可能性、その二つがあります!生きるということは……きっと、勇気を持つことで、無限のその可能性を選べることだと思うんです!」
「……生きる……っ!!」
さらにシールドに格納されていたバッテリーを投げつける。マルクトはこの状況でバッテリーをわざわざ投げるのには意味があるはずと理解して自身の身を守るために浮遊ユニットを盾にしつつ、ランスでアリスを狙う。直後、アリスがバッテリーを撃って誘爆させ浮遊ユニットをさらに一基破壊すると同時に、マルクトのランスから放たれたレーザーがアリスの右翼を破壊する。
「生きることを……」
「例えこの世界が矛盾と不条理に満ちていても!アリス達は選びます!それが苦しいことであっても……この世界で生きることだから!守りたい世界が、アリスと出会ったことを喜んでくれる友達が、仲間が!ここにはあるんです!!だからアリスは、アリスにできることをやり遂げてみせます!!全てを……尽くして!幸せになるために!」
片翼を失ったアリスに最後の浮遊ユニットだけのマルクト。お互いに飛行能力は限界であり、既に降下し始めている。アリスは最後の突撃を仕掛けるため、左翼のスラスターを吹かし、マルクトへと突っ込んでいく。最後の浮遊ユニットを失えば勢いよく地面に叩きつけられてしまうことを危惧したマルクトはランスでそれを受け止めるしかない。ブレードとランスが激突し、甲高い金属音が鳴り響く。
「我は―――!!」
「そしてそれは、アリス達だけじゃありません!きっと、あなた達も同じなんです!!」
「……!!」
ブレードの脅威さえ止めれば、まだ浮遊ユニットは使い道がある。マルクトはそれをアリスへと叩きつけようとした、その時だった。
「―――!?」
浮遊ユニットに何かがぶつかり、吹き飛ばされる。それは、モルフォのシールド。アリスはシールドを投げつけ、浮遊ユニットを吹き飛ばしたのだ。
「しまっ……」
「これが……皆と共に歩んで、見て、覚えたこと!道具の、武器の使い方です!アリスは、一人ではなく皆と戦っているんです!!そしてそれは―――あなたも!!」
「っ!」
マルクトの表情が初めて、大きく歪む。予想外の弾きによって、浮遊ユニットは強固な表面ではなく、裏側を見せている。精密機械が大量に積まれ、無防備な裏側を。そしてアリスは、ライフルの引き金を引く。それは浮遊ユニットを破壊し、大爆発を引き起こす。
「やっ―――」
「ただではっ……!!」
爆発し、浮力を失い落下していくマルクト。だが、寸前のところでランスから放たれたレーザーは、先ほどまで鍔迫り合いを行いながら強引に浮遊ユニットを狙い撃つという体勢のまま固まっていた一瞬の隙を突いてアリスのフライトユニットの左翼を破壊する。
「きゃあああ!!」
「……」
マルクトは空中でランスを撃ち、その反動で背後に聳える塔のような建築物に近づくと、塔にランスを突き刺して落下を止めてぶら下がる。だがアリスはその横を落下していく。
「アリス!!」
「アリスちゃんが落ちてくる!?」
「皆散って受け止めた方がいいよね?」
「……私!あんたならいけるでしょ!」
『!』
「そうです、もう一人のモルフォの身体なら!」
このままではアリスが地面に叩きつけられてしまう。それを防ぐためにもう一人のモルフォがアリスの下へ向かうと、アリスは彼女の体を掴む。それによって落下の衝撃が両手にかかるも、強力な腕力でそれを受け止め、落下を防ぐことに成功したアリスは安堵したように溜息を吐く。
「アリス!」
「アリスちゃん!」
「大丈夫?」
地面に降りたアリスに皆が駆け寄る。フライトユニットを破壊されたアリスの姿を見て心配するが、アリスは心配がないと笑いかけると、マルクトがいるであろう塔の方を見る。と、そこでアリスとケイの表情が険しくなる。
「アリス?」
「なんか気付いたのか?」
「あー……なんかやばい気がする?」
「ええ……私とアリスにしか見えていませんが……これは、情報を皆さんに共有できなくて良かったと思います」
「……皆さんはインベイドピラーの内側に移動してください。あのマルクトの相手は、アリスにしかできません」
ライフルを強く握りしめながら、アリスが塔から飛び降りてくるマルクトの姿を見る。今、アリスとケイにははっきりと見えていた。マルクトの全身に集まっていく、名もなき神々の力の奔流を。
「……どうやら嘘じゃなさそうだな」
「はい!皆さんはバリアの中に!」
「よし、急いで皆!アリスならきっと大丈夫!」
アリスの強い決意を見て、先生が皆に避難を呼びかける。モルフォ達が急いでバリアの内側に移動するのと同時に、マルクトが静かにランスをアリスに向ける。アリスもまた、一瞬ケイと目を合わせてからライフルをマルクトへ向ける。
「「……」」
無言で、お互いに引き金を引く。二人の持つ銃器へと名もなき神々の力が注ぎ込まれ、武器が悲鳴をあげながらも巨大な二つの光がぶつかり合う。
「なっ……」
『名もなき神々の力を、直接攻撃に転用してぶつけ合うなんて……』
『とんでもない規模ですね……確かにこれは、アリスにしか太刀打ちできません』
(これは……鋼鉄大陸が持つあらゆる可能性、それを成す名もなき神々の力をマルクトに収束させた……!プレナパテスの時にやったように……!今回は直前に、その力の流れをこちらで奪えるだけ奪い取って
マルクトの放つ黄色い光。アリスの放つ青い光。二つの光がぶつかり合うと共に発生した激しい余波がバリアを大きく揺らしていく。バリアで守られていない地面を融解させ、削り、吹き飛ばしていく。アリスとマルクト、二人がそれぞれ立つ場所以外が削り取られていく中、マルクトの耳に心地よい妹達の声が聞こえてくる。
『創造は原初の光より―――』
『知性と知恵を経て、美に至るまで』
『光輝と知恵、愛と慈悲、力と美徳―――そして勝利へと収束する』
「エホバツェバオト―――万軍の主よ。王座へ到達せし
「うっ……!?」
妹達の声に続けてマルクトが宣言する。ランスが一際大きく悲鳴をあげ始め、さらに光が強くなっていく。その光は、アリスのライフルから放たれた光を呑み込み始め、ライフルが悲鳴を上げるかのようにヒビが広がっていく。
(ち、力に、圧倒されてしまいそうです……だけど!これはアリスがやらないと……!もっと、もっと……!)
アリスの脳裏に皆の姿が浮かび上がる。皆のためにも負けられないのだ、この戦いは。ここでマルクトに打ち勝たなければ、自分達に待つ未来は一つしかないのだから。
「……大丈夫です、アリス」
その時だった。アリスの背後から、声が聞こえてくる。
「あなたはもう、一人ではありません。私が……他の皆がいます。あなた一人で背負う必要はありません、何故なら―――」
その声の主は、二本の白い腕を前方に回し、光で形作られた二丁のレールガンを、ライフルへと合わせる。それは、
「スーパーノヴァと……ルミナスノヴァ……」
「ケイ!!」
さらにその後ろではモモイ達がバリアの中から外へと駆け出したケイの姿を見て慌てふためいていた。だが、ケイもここは行かなければならないと、状況が悪くなったのを見て瞬時に悟ったのだろう。
「アリス、私達は成すべきことをやるためにここに来たのだから……そうでしょう?」
「……はい、勝ちましょう、ケイ……この、ダブルノヴァの、そしてここまでに紡いできた、全ての力で!」
地上に墜落し、回収されていたスーパーノヴァとルミナスノヴァがライフルと重なり、一瞬の光と共に新たな姿へと再構成されていく。二丁のレールガンが連結したかのような新たな形状となり、青と赤の光が混ざり合い、マルクトの光と真正面から拮抗し合う。
「……!?」
『そ、そんな……!お姉様の出力と、ほぼ同じレベルに!?』
『嘘……あの王女に、あれほどの力を引き出す手段がまだ……!?』
『な、何をしたんですか!?』
その様子を見てアイン達が絶句する。だが、その理屈は簡単だ。この鋼鉄大陸が持つ全ての動力、力をマルクトに集約させたように、ケイもまた、その身に宿したセフィラの可能性を、全てアリスへ宿しただけだ。無論、デメリットもある。既にケイの身体は悲鳴を上げているのだ。
(……容量オーバーですが、まだ耐えれます。いえ、ここは耐えなければならない……絶対に勝って、皆で戻るために……!)
アリスの身体を掴むケイの手に力が入る。ケイは、マルクトを見据え、呟く。
「まだです……まだやれます……!私達の奇跡は、まだ終わっていない……!」
「そうです……この奇跡が一瞬……短いものだったとしても!それこそが勇気がもたらすものであると!その一瞬は、永遠に続く光になるんです……!」
「奇跡……!」
「「やああああああ!!」」
マルクトが呟き、アリスとケイの叫びが、さらに光を大きくする。そして螺旋を描く大きな光が、マルクトの一撃を打ち破り、
「この、光は―――嗚呼……」
マルクトを呑み込む。それを見届けたアリスとケイがその場に崩れ落ち、連結されていたレールガンが二つに分かれ、スーパーノヴァとルミナスノヴァとなって地面に落ちる。
「「「アリス!ケイ!!」」」
「だ、大丈夫です……ちょっと、力が抜けちゃって……」
「ちょっとじゃないと思いますが……でも、なんとかなりました……」
慌てた様子でモルフォ達が二人に駆け寄る。モルフォやネルに抱えられながら、アリスとケイはマルクトに打ち勝ったことを喜ぶかのように皆に笑いかけるのだった。