転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
光に呑まれ、塔へと叩きつけられるマルクト。勝利を確信し、アリスとケイが皆に笑いかけた次の瞬間。鋼鉄大陸中から光が放たれ、マルクトへと注ぎ込まれていき、その身体はそのまま塔の頂上まで上っていく。
「!?」
「何の光……!?」
「……これは、一体……!?」
「とにかく、武器を!」
何かが起こることを予感し、落下していたシールドをtype.Sに回収させ、持ち直すモルフォ。ネルもブレードを返してもらうと同時に、ケイが表情を歪ませる。体の中で何かが蠢いているような感覚。
(体内にある預言者の情報が、急に自我を……!?まるで……!?)
「ダメ―――!!」
ケイがその正体に気付いたのと同時。隠れていたアインが切羽詰まったような悲鳴を上げる。
「お姉様!!お姉様ぁ―――!!」
「!見てください!あそこにアイン達が……でも……!?」
もう隠れているつもりもないのか、アイン達は隠れていた瓦礫から出て絶望を浮かべたような表情で塔を見上げる。
「あぁ……もう、ダメだ……!」
「私達が……お姉様を……」
「……泣いている?一体、マルクトに何が……」
―――ここに器は成った やがて盃は満たされる―――
先生がアイン達の目に涙が浮かんでいる様子に気付く。マルクトが倒されたから、ではない。それ以上の何かが起ころうとしていることに気付いたところで声が響き渡る。
「どうか、お願いします!時間をください!お姉様は最後のセフィラなんです!すべてのパスを正しく歩めば……!」
「10分!いや、1分でもいい……だから……」
「……望みはわかっています。私達はそのために造られたのですから。ですが……!」
懇願するように三人が声を上げる。一体、何が起ころうとしているのか。ドローンを向かわせ、塔の周囲を改めて観察していたヒマリが予想を口にする。
『塔、光の筋を見るに……儀式のために創られた構造物のように見えますが……祭壇、と言うべきなのでしょうか?』
『祭壇……鋼鉄大陸に何が起こっているの……?』
「なるほど……ですが、我の身体は……」
塔の頂上、光を注がれ続けるマルクトは自身の身体に注ぎ込まれ続ける情報量を感じ取り、何が起こるのかを理解していた。だが、自分の身体は既にアリスとの戦いでボロボロ。一見、その目的に対して不適格ではないかと考えるも、逆に都合がいいのかもしれないと納得する。
「―――我は最後のセフィラ。祈る者の門、生命の樹の土台。すべてのパスを経て、□□□□へ成るための被造物。これが定められた道であるのなら―――」
マルクトは、自らの役目を悟ったのか、静かにその言葉を紡いでいく。その言葉は、塔から広がり、先生達の耳にも入ってくる。
「嫌、嫌、嫌!」
「あ、ああぁ……」
「うっ、うう……」
『……三人が鋼鉄大陸を作ったのは、もしかしたらマルクトを守るために……』
マルクトの紡いだ言葉と三人の反応。それを見たもう一人のモルフォがその理由の一端に気付く。しかし、もうマルクトと彼の者は止まらない。
「アイン、ソフ、オウル。為すべき事を為してください」
「「「!?」」」
「為すべき事って……」
「そ、それは……」
「お願いします!お願いします!どうか……お姉様を奪わないでください!!誰かが!犠牲になる定めなら私が代わりになるから―――!!」
「……アイン、ソフ、オウル、ありがとうございます。ですが―――それは不可能です」
マルクトの言葉にさらに三人の悲鳴が上がる。特にアインの半狂乱ぶりは凄まじく、ソフとオウルが取り押さえる程だ。ネルやトキがアスナの方を見るが、アスナは険しい表情を浮かべるばかり。
「おい、犠牲になるってどういうことだ!?」
『……わからない。マルクトが別の何かに上書きされる、ということなのだろうか……』
『ただ一つ言えるのは、マルクトに鋼鉄大陸中からエネルギーが向かってるってこと……何かに成ろうとしているのなら、それが犠牲に繋がるって事……』
『『……!?まさか、デカグラマトン―――』』
輸送船の中から、ウタハとチヒロも苦々しい表情を浮かべるばかり。誰も、何もできないまま、マルクトはナニカに成り代わろうとしていた。
―――それは能わず 汝らには神秘が与えられていない―――
「……!」
そして、再びその声が聞こえてくる。アイン達の望みを、言葉を否定するように。
「じゃあ、私達をこのように造ったのは……」
「最初から、全部……」
「……今一度、考えてください。我々の目的、我々がここにいる理由を」
マルクトの声が、徐々にノイズ交じりに変わっていく。そして、三本の黒い剣が塔の最上階に出現する。
「ひっ……」
「燔祭の剣が……」
「……この時が、訪れてしまったんですね」
「……お願いします。我が義務を果たすために―――手を貸してください」
ソフとオウルの口から、諦めにも似た呟きが零れる。そしてアインも悲しさの声を張り上げながら、三人は儀式を行うことになってしまう。
「アイン、ソフ、オウル。ありがとうございます……ごめんなさい。さようなら―――」
マルクトの呟きと共に、三人の目から光が消え、感情が消えていく。詠唱するためだけの人形となり、三人は無機質な声を紡ぎ始める。
「第一の聖痕をここに刻まん。これは「掟」となるもの」
「第二の聖痕をここに刻まん。これは「証」となるもの」
「第三の聖痕をここに刻まん。これは「契約」となるもの」
「「「汝の意のままに為し給へ。我らはそれを喜ばむ。その思し召しが天にも地にも行われ―――ここに、汝の王国が訪れる。器は用意された。やがて盃は満たされる」
鋼鉄大陸自体が揺れる。アイン達の必死な様子と今の様子から何か、三人にとって不都合な何かが起こっていることはわかるがどうするべきか。エイミは少し考えて口を開く。
「……これ、止めた方がいいよね?でも、どうやって?」
「あの三人の口を塞ぎますか?」
「……おそらく無意味でしょう。あれは確かに発声していますが、本質はそこではないはずです……」
『……あの子達は、何を呼び出そうと』
『……事実だけを述べるなら、マルクトに収束していたエネルギーの流れが安定化したわ。ケイ、あなたなら何かわからないかしら?』
「……いいえ。随分と狂信的だなという感想くらいしか。それよりも、あの真意は―――!?」
次の瞬間。突然地面が揺れ始めたかと思うと、地面から壁が生えてくる。
「うわー!?」
「じ、地面から壁が!!」
「それよりなにこれ!?大地震!?」
「落ち着いて皆!揺れている時こそ落ち着いて!」
「だが、壁が……」
「カリン先輩!壁なんてエリドゥでも生えてきます!!」
「……いやまぁそうだが!?」
『むしろモルフォは落ち着きすぎだと思いますが……』
『……まあ、揺れは正直』
『あなたは浮いてるよね……?』
その巨大な揺れに混乱するモモイ達を宥め、大きな揺れに慣れていないのかさすがに冷や汗を流すC&Cと共に壁がどこから現れるか注意しながら揺れが収まるのを待つ。揺れが収まったところでモルフォが辺りを見渡すと、壁で他の生徒達と分断されていた。
「……分断された……」
モルフォと一緒にいたのは、もう一人のモルフォ、先生、アリス、ケイ、ネル、アカネといった面々。
「とりあえず合流しよう」
『位置ならこちらから伝えられる。Type.Sで壁を伝って乗り越えていけば合流も簡単だと思う』
「ええ、ネル先輩とアカネ先輩はアンカーで引っ張ればいいですね。アリスと私の分のtype.Sを投下してもらえますか?」
『わかった。すぐに投下するよ。準備するから待ってて』
「では、エンジニア部が準備を終えるまで……あら?」
「アカネ?何があった?」
ひとまず他の皆と合流するまで待つことにする。だが、そんな中アカネが遠くの方を指差す。
「……あっちの方から、泣き声が……」
「……誰のだ?」
「壁を越えていきましょうか」
声が聞こえてきた方角へ向かい、Type.Sとアンカーを組み合わせたり、もう一人のモルフォの身体に他の人物を掴ませる形で壁の上に登っていく。そして辿り着いた方角には、泣き崩れるアイン、ソフ、オウルの姿があった。
「え……?」
「どうして、あんた達がここに……!」
目の前に降り立ったモルフォ達を見たアイン達は一瞬驚くも、ソフが泣きながらも怒りを露わに襲い掛かってくる。しかし、そこまで戦闘力もないのか、冷静さを欠いているのか単調な攻撃ばかり。
「モルフォ!」
「……」
「あんた達さえ……あんた達さえ!ここに来なければ―――!!」
背後に次々と降りてくる生徒達と先生。モルフォは一瞬だけ後ろに意識を向けながらも冷静にソフの拳を手で受け止めていく。だが、そのあまりの力の無さにモルフォは内心驚いていた。これではまるで年端もいかない少女も同然だ。
「そしたら!そしたら!お姉様は……」
「……」
「なんとか言えよ!お前たちが……」
「やめてください!!」
「っ!!」
そんなソフの八つ当たりにも似た攻撃は、ソフに抱き着いたアインの声で止まる。ソフはアインの方を見る。
「どうして止めるの……?」
「……今更、何をしても変わりませんよ……わかってるでしょう?」
「……うっ、うう……うわあああああん……」
少し落ち着いたソフに諭すようにオウルが言う。それを聞いたソフは膝から崩れ落ち、泣き始める。それが引き金となったように、アインとオウルもその場に座り込んでしまう。
『アイン、ソフ、オウル……』
「お姉様は、死にました」
「わ、私達が……殺したんです」
「わた、私……達が……この手で……殺したんだ……!刺して!壊して!滅茶苦茶にしたんだ!何もかも!人格もデータもだ!!」
「全部、呪いなんです。考えられることも、感じられることも。ましてや……誰かを好きになるなんてことも……感情なんて、最初から無ければよかったのに……見て、聞いて、話す力なんて……何の役にも、立たないのに。いっそ何もできなければ……傷つくこともなかった」
後悔と絶望からくる思い。それが、三人の口から零れ始める。三人の本音を前に、ネルとアカネは顔を見合わせ、アリスとケイも思うところがあるのか複雑な表情を浮かべてしまう。
「どうして私達は……生まれてしまったのでしょうか」
『どうしてって……』
「そ、それで……何かご用ですか?い、今更私達にできることなんて……」
「……」
「知っていますか?私達にはヘイローがありません。つまり神秘や崇高、奇跡、秘密……それらは最初から与えられていないのです。そのくせ、感じることも、考えることも、己で判断することもできるんですから……やるせないですよ。いっそ恐怖に身を委ねられたなら、また別の結果になったのかもしれませんね」
「で、でも……何とか耐えることはできました。何も与えられていなくても……何も備わっていなくても……お姉様さえ、いれば……お姉様と一緒に、いられたら……」
『……そっか。ただマルクトと一緒に過ごせれば、それだけで良かったんだ……』
アイン達がどうしてこんな凶行に出たのか。その根底にあったのは、マルクトと過ごす時間を守りたかった。それだけなのだろう。だからこそ、マルクトが動かずに済む、故に限界に至るまでマルクトを戦わせなかったのだろう。ある意味で、彼女達の事情をここまで悪化させたのは、先生達と言えてしまうのかもしれない。
「あんた達さえいなければ……お姉様は、死ななくてよかったんだ……いつまでも、平穏に暮らせたはずだったんだ……」
「……もうどうでもいいです。私達の事は好きにしてください。できる限りの事をやって、この結末に辿り着きました。これは、そういう物語だったというだけの話ですから」
「……あなた達の目的はデカグラマトンを神にすることのはず。そのためにマルクトが犠牲になったということは……」
「もしかして、マルクトの身体にデカグラマトンが……?あれ、でもそれだと……」
「……お姉様の身体を器にして、あの方が神の座に就くという計画は、たくさんあるうちの一つだった。だからこそ、お姉様を失わないための方法が必要だった」
しかし、それではデカグラマトンを神として君臨させるという最終目的と大きく矛盾する。が、本来はマルクトを犠牲にしないプランを取るつもりだったのだ。
「あの方が全てのセフィラを経て、全てのパスを正しく歩むことで神に成ろうとされた……あの時から、わ、私達の計画は始まったんです」
「私達が進言した。キヴォトスを鋼鉄大陸で覆い尽くしてみせると」
「この方法でも、あの方は世界の調停者として神に成れたはずですから」
「そうなると、キヴォトスの住人はどうなるの?生き物は鋼鉄昇華されないけど……」
そのための鋼鉄大陸による鋼鉄昇華だったのだ。しかし、そのために鋼鉄大陸に全てを変えられるキヴォトスの人間からすればたまったものではない。
「鋼鉄大陸に適応して生きていけばよかったんだ」
「私達の使命は、あの方を、本人の希望に沿って神にすること。手段は定められていませんでした。なので私達の計画が上手くいっていれば……お姉様が犠牲になることもなかったでしょう……」
「……」
「リーダー」
戦闘の意志はなさそうなので先程からアビ・エシュフXをバイクに戻してそれに寄りかかりながら腕を組んでいたネルが人差し指で自分の腕を何度も叩き始める。その様子を見てアカネが両肩を掴みながら宥めていたが、その間にも三人の話は続く。
「それじゃあ君達は、マルクトを生かすためにキヴォトスを鋼鉄大陸に?」
「……はい」
「えっと……そこまでする必要はあったんでしょうか……?」
「……必要?じゃあ何!?あんた達は先生が死ぬってわかったら!何もしないの!?」
「するけど分別はつけるよ」
「……だよな」
ここまでする必要はあったのか。アリスの問いに噛みつくソフだったが、それをモルフォが一蹴する。その後ろでネルが少しだけ溜飲が下がったかのように頷く中、モルフォは言葉を続けていく。
「使えるもの、できることを尽くして目的を成そうとすることが悪いとは思わない。それだけなら私も良くやるし。だけどさっきの話で言うなら―――多くの人は適応なんてできないよ。憎悪、悲しみ、怒り……そういった負の感情は。必ずマルクトに向く」
「はあ!?なんでさ、実行したのは私達なのに―――」
「結局はマルクトのためだろ。そのマルクトがいるからこうなったって考える奴は幾らでも出るぞ?大体、鋼鉄大陸に適応っていうが、無機物全部金属に変えられて生き物が生きていけるのかよ?まともに植物も育たなさそうだが」
「食料問題もですが、金属の汚染被害とかも出そうですし、金属アレルギーの人なんて生き地獄……いや即死するのでは?」
「「「……」」」
モルフォの発言に援護射撃を飛ばし始めるネルとアカネ。ネルは当然として、アカネも物申したい気持ちはあったのだろう。三人が反論もしきれずに気まずそうに顔を見合わせる中、ケイが咳ばらいを入れる。
「こほん……まあ、その。あなた達はマルクトより先に目覚めたはず。何故、会ったことも話したこともない彼女をここまで大切に?」
「……その口ぶりからするとあなたは王女と同時に、もしくはその後に作られたというところでしょうか?まあ、単純な話。私達は、お姉様を愛するように設計されている、というだけです」
「それって……」
「私達は作られた。最初に設定されたとおりに活動する……経験を通して、性格と人格が形成されることもない」
「私達はお姉様を誰よりも愛するように設定されています」
「理由は聞いていませんが、察しはつきます。それが、もっとも合理的で効率的だったから。お姉様は生贄、私達は道化。全て始めから用意された、くだらない物語。まあ―――私達が思いのほか執着心が強く設定されすぎていた、というのはイレギュラーかもしれませんが。何せ本来の筋書きに鋼鉄大陸は存在していなかった」
目的のためだけに作られた三人。その執着心が鋼鉄大陸を生み出したというのは確かにイレギュラーと言えるのだろう。そして、三人にはそれしかやれることがなかった。
「……そもそも、生まれてこなければこんな辛い思いをすることもなかったかもしれないの……に……?」
悲しそうな目をする三人に先生が近づく。そして屈んで三人と目線を合わせると、
「……頑張ったね」
『先生……』
そう言う。これには三人も突然のことに涙も思わずすっこんでしまう。
「え、ええ!?」
「ば、バカじゃないの!?キヴォトスが鋼鉄昇華されるところだったのに!?」
「でも誰も死なないようにしてくれていたんだよね?」
「……ま、まあできる限りの工夫はしましたけど……でも、それも結局意味はないって……大体、先生がなんでそんなことを。あなたにとって私達は―――」
「消えるべき、敵なのでは……?」
「それでも、私は君達に生きてほしい。何があったとしても。最後は、君達も幸せになってほしいんだ」
先生は一瞬、もう一人のモルフォを見てから、アイン達にそう語り掛ける。その言葉に一瞬揺れるも、アイン達の顔はまだ暗い。
「でも、お姉様は……もういません。お姉様のいない世界なんて―――」
『……まだ、そうと決まったわけじゃないと思う』
「え……?」
その理由は、もうマルクトがいないことだ。マルクトへの執着がモチベーションだったからこそ、もう取り戻せないと悟ってしまった。だが、そこに待ったをかけたのはもう一人のモルフォだった。
『マルクトの情報コアさえ手に入れられれば……デカグラマトンの脅威から脱することができれば……時間はかかっても、目覚めさせることができるかもしれない』
「そんなことが、本当に……?」
「可能です。オリジナルのマルクトのデータが、一片でもあれば。私もかつて、殆どデータが残ってない状態から自分を復元しましたし、モルフォも己の身体を電子的な存在に変え、二人の人間を乗り継いで最終的にあるデバイスの中で自らを修復していました。ならばマルクトにそれができない道理はありません。だって、マルクトのパスは生きているはずでしょう?」
「「「……」」」
もう一人のモルフォの言葉に同調するようにケイも付け加える。それを聞いた三人の顔に、明るさが戻り始める。
「……うん、明るくなったね。マルクトを、助けよう。皆で」
「……なんで、そんなことが言えるんですか?」
「単純ですよ、この人はそういう人ですから」
「だな」
「確かに」
アインの言葉に、先生はこういう人間なんだと言うケイ。それを聞き、他の面々も顔を見合わせて笑ってしまう。その様子を見ながら、先程よりは軟化した様子でアインが首を傾げる。
「て、でも、私達は結局、プログラムされた通りにやっているだけ。お姉様を愛しているということも、偽りかもしれないんですよ……?」
「大事なのは、愛することだよ。マルクトの為に動いたこと。その行動が君達を証明してくれているんだ」
アイン達がやったことは、確かにとんでもないことと言えるだろう。しかし、その根底にあったのはマルクトへの想いだ。彼女達自体に悪意があったわけではない、背後にデカグラマトンという存在があり、それ故に取れる手段としてこれを選ぶしかできなかった。だからこそ大事なのは、やり直すことだと。まだ、手遅れでないのなら、いくらでもやり直せるのだと。先生は説いていく。
「アイン、ソフ、オウル。アリス達と友達になってください」
「「「……!?」」」
そして、三人に手を差し伸べるようにアリスが話しかける。唖然となる三人に、アリスは笑う。
「アリスは皆さんと友達になりたいんです。そして……マルクトとも。だから、マルクトを助けるために、友達になりませんか?」
「友達……」
『助けよう、マルクトを。どんな手を使っても助けたいって思ったのなら……絶対に諦めちゃ駄目だよ。大丈夫、きっと取り戻せる。マルクトがこのままいなくなってしまうのが本来の定めなら……その絶望の未来を覆すことはきっとできる』
「そうだよ。未来は変えられる。こうして、本来交わらなくて、友達になることすらありえないって思ってた私達が、これから友達になるように」
そこに、二人のモルフォも手を伸ばしながら語る。本人しか知らないことだが、本来死ぬはずであったユメの死を覆し、この世界へと辿り着かせたもう一人のモルフォ。混沌の領域からの強制介入という、運命すら揺さぶる力で流れを変えたことがあるモルフォ。だからこそ二人は信じているのだ。運命は変えられるということを。
「友達……」
「アリスはまだ見習い勇者です。未熟で、弱くて、自分でも悲しくなる時があります。でも……隣にいる皆に手を伸ばすことだけは、どんなことがあっても諦めません。それが、今のアリスにできる最善ですから」
「最善……」
「アリスは悲しい気持ちになりたくないからこそ、他の誰かが悲しんでいる姿も見たくありません。人は誰かの幸せな姿を見て、自分も同じ気持ちになれます」
ここで言葉を区切り、モルフォを見る。モルフォはアリスの顔を見て頷くと、アリスはまたアイン達に向き直る。
「運命は、簡単には覆せません。だからこそ、お互いに支え合って立ち向かうんです。アリスが幸せなのと同じくらい、あなた達も幸せになるんです。
「……嗚呼。これが、王女の言葉なんですね」
「違いますよ。これは王女としての言葉ではなく、アリスとしての言葉です」
アリスの言葉を聞きながら、三人はどこか安らいだ様子を見せる。確かにアリスは王女ではあるが、この言葉は違うのだとアリスは訂正しようとするも、アイン達はそれはわかっていると笑う。
「は、はい。分かっています」
「私達が言ってるのは、言葉そのものが力を持ってるってこと。聞く側が自然と耳を傾けるような……外から与えられたものじゃなくて、内から生まれる権威のこと」
「それ故に、絶対的な力を持っていると言えます」
「……でも、幸せですか。それが何なのか、まだよくわかりませんが……」
「……お姉様を何とかしない限りは、残ってるかどうか怪しいのは確かだね」
「ですね。まあ、これをやるということは……かなり大変なことをやることになりますけど。なんせ―――あの方に我々は叛逆をするのですから」
「……創造主に造られた目的に叛逆する意思に目覚めた……まさにイレギュラー、ですか」
「イレギュラー……はは、なんか、悪くないかも……!?」
アリス達の言葉に勇気づけられたのか、どこか解き放たれたような気分で笑い合う三人。
「そうだね。じゃあ友達の証……あ、そうだ。これ、あげるよ」
「……え?これって」
そんなソフ達の姿を見て、モルフォがヘッドフォンを外してソフに渡す。ソフも、パーツとして自分もイヤーカフのパーツをつけているという意識があるからか、モルフォが常にヘッドフォンをアクセサリーとして愛用しているという認識があった。それを自ら手放すなんて本当にいいのだろうかと首を傾げていると、
「いいよ。私の事は気にしないで受け取って。代わりのものはまぁ、後でエンジニア部に新しいの作ってもらうし。私達の和解の証……っていうと、渡せそうなものを渡してるだけでちょっと大げさだけどさ。これから、一緒にマルクトを助けようっていうメッセージとしてさ」
「……あ、うん……」
「あーあー、照れちゃって」
「オウル!!」
どこか嬉しそうにヘッドフォンを受け取り、自分のイヤーカフを触り始めたソフ。その様子をオウルがからかい始めてソフが怒ろうとしたその時だった。ある異変が起こったのは。
「あ、脚が……!?」
突然倒れ込む三人。慌てて先生が三人を支えるのだが、アイン達の表情は疲弊の色が強い。
「大丈夫!?」
「……あーあ、搾りカスまで持っていこうとするんだ」
「ええ、役目を終えた道具は捨てられるものですから……はは。これじゃあ叛逆どころじゃありませんね……」
「どういうことですか……」
「た、単純な話です……」
「預言者も私達もこのための道具だったから。目的が達成されれば、用済みになるの」
「……どうなるんでしょうね」
「このまま機能を止められるか、吸収されて分解されるか……そんなところじゃないですか?」
「まだ色々……お姉様と話したいこと、遊びたいこと、たくさんあったのに……」
それは、自分達の命の灯がもうすぐ消えようとしているという言葉。創造主からも切り捨てられそうになっている彼女達を見て、モルフォがブリッジの方に通信を取る。
「リオ会長、ヒマリ先輩!この子達が……」
『既に解析を進めているわ』
『必ず何とかしてみせますとも。こういう電子的なあれこれは―――このキヴォトスにおいて、ミレニアムの右に出る者はいませんですからね』
「わかりました、そっちは任せます!三人を輸送船に運びましょう!」
「うん、二人やエンジニア部、ヴェリタスに見てもらって―――!?」
そして輸送船に近づいてもらい、彼女達を輸送船に乗せて対処してもらおうとする。そのために行動を起こそうとした、その時だった。
先生の足元が消滅し、落下してしまったのは。