転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「……う……」
リオの背中に瓦礫が圧し掛かる。視線を向けると、上半身だけとなったAMASが地面と瓦礫の間に挟まっており、そのおかげで完全に潰れずに済んでいるようだ。しかしこのままでは。
(まさか、こうもあっけなく撃墜されてしまうなんて……ユウカ達は、インベイドピラーのバリアが間に合った、のかしら……)
AMASの上半身が潰れ始め、悲鳴を上げ始める。もう終わりか。先生達がデカグラマトンに打ち勝てればいいが、ユウカ達が無事ならいいが。そう考えながら、このままAMASと共に生を終えようとしたその時だった。
「……どうやら、生きているようですね」
「……ヒマリ……!?」
瓦礫が爆発音と共に吹き飛び、リオは瓦礫の重さから解放される。顔を上げると、そこには変形した車椅子に乗るヒマリの姿があった。とはいえ、車椅子自体もデカグラマトンの攻撃に巻き込まれた影響か砲門が右側にしか存在していなかったりと決して無傷ではなさそうだが。
「悪運が強いことに感謝した方がいいですよ」
「……ウタハ達は?」
「エンジニア部は元々ユズのパイロットスーツを元にしていたスーツを着ていたのもあって案外軽傷です。ヴェリタスは多少負傷していますが移動には支障がなさそうですね」
ちらと視線を後ろの方に向けると、そこでは疲労を隠さず、痛そうに体を擦ったりしながら休むヴェリタスと、案外元気なのか墜落しバラバラになった輸送船だった瓦礫の中から使えそうなものを探すエンジニア部の姿があった。
「!ありましたよ、雷ちゃん!!」
「でかした!!」
「……やれやれ」
コトリとヒビキが瓦礫の中から奇跡的に無事だった雷ちゃんを発見し、ウタハが嬉しそうに駆け寄る。その様子を呆れつつも、ほっとした様子で見ていたチヒロだったが、ヒマリ達が近づいてきたのを見る。
「これからどうするつもり?先生達に合流するの?」
「……合流したところでデカグラマトンとの戦いでは足手まといにしかならないでしょうね。AMASも全部壊れてしまったようですし、使えそうなのはヒマリのバイ「車椅子」……車椅子ぐらいでしょうけど、それも半壊している。なら……?」
リオがある場所を見る。その視線につられたマキ達の目の前には、
「……!?あれは……!?」
オレンジ色の光を帯び始めた巨大な鋼鉄の巨人が、その瞳に光を灯すのだった。
★
それは一瞬だった。
陽が暮れ始め、薄暗くなり始めた鋼鉄大陸。オレンジ色のエネルギーが火花のように散る中、生徒達はボロボロになって倒れていた。
「……!?」
遅れて、先生の全身に激痛が走る。そしてやっと思い出す。デカグラマトンとの戦いが始まった直後、デカグラマトンは力を放出し、先生達は弾き飛ばされた。大人のカードは使う間もなく吹き飛ばされ、シッテムの箱の力も貫通したその一撃で先生は動けなくなってしまった。そして、声を出すこともできなくなった先生の視界の先で、吹き飛ばされてからすぐさま復帰した生徒達がデカグラマトンに向かっていく。だがそれを一瞥したデカグラマトンは、
『―――これが、神に至る力だ』
そう呟くと共にデカグラマトンが手を掲げると、激しい閃光が生徒達を全員まとめて打ち上げる。激しいエネルギーの奔流の中、誰も抵抗できずに勢いよく叩きつけられてしまい、ほとんどの生徒が追加の武装を破壊され、意識を刈り取られてしまったのだ。それは、戦闘ですらなかった。
「……ぐ……こんにゃろぉ……!」
ボロボロになって使えなくなったアビ・エシュフXの装甲を投げ捨てながら、ネルがふらふらになりながらも体を起こす。その横でモルフォも表面に傷痕がいくつか見える盾を支えにしながらなんとか立ち上がるも、それ以外の面々はまだ復帰できない。
「っ……ぐ……」
そんな中、ケイも意識を取り戻してなんとか立ち上がろうとする。しかし、全く力が入ってないようで立ち上がろうとしてすぐに倒れてしまう。
「……」
全く歯が立たなかった。シッテムの箱を見るが、シッテムの箱からもバチバチと火花が散っており、煙が上がっている。プラナ達の自己修復プロセスを開始したという声が聞こえる。だが、ここからわかるのは今はシッテムの箱は使えないということ。嫌でも理解させられてしまった。あれは文字通り次元が違う相手であるということを。
「っ、先生!?」
「バカ!そんな怪我で立つな……!!」
「動いては……!」
なんとか、立ち上がる。だが、視界すらぼやけてまともに見えない。そんな先生の様子を見かねたのか、デカグラマトンが無機質ながらも呆れた声を漏らす。
「先生よ、そちらではない。私はここにいる。歩くことも、前を見ることも叶わぬ身体で、何をするつもりだ」
ぼやけた視界を声のする方へ向ける。そこにはデカグラマトンの輪郭が見える。それを確認して、口を開く。
「生徒、達を……キヴォトスに帰して、ほしい」
「……汝も知っているはずだ。物事には順序がある。汝は預言者になることを拒んだ。これは汝と私が選択した結果である。ならば汝も受け入れよ。汝らが選んだ結末だ」
「……」
先生が跪こうとする。神に赦しを乞うように。ケイ達が唖然となる中、先生は無様な姿を晒してでも、デカグラマトンという勝者に媚びようとする。ただ、生徒を守るために。それだけ、デカグラマトンの力は圧倒的であり、抵抗するという意思を先生から奪おうとしていた。
「……私は汝を預言者にしようとした。それは、汝が最も予測しづらい変数であったからだ。しかし、今の行動で先生の値は一定に定まった。最早如何なる変数にもなり得ない……汝は自らに滅びが迫った時、淡々とそれを受け入れると期待していた。それが責任を取る、汝の在り方だからだ」
「……私は、私の選択を受け入れる。だけど、生徒達は……子供達は帰してあげてほしい。ここにいる皆……そして、あの三人も」
「……そうか。汝は汝。生とは別であり、代償として己の一切を私に委ねると」
「先生……!やめて……!」
必死に懇願する先生の姿が見ていられないのか、ケイが歯ぎしりをする。ルミナスノヴァを探すも、それは遠くに吹き飛ばされたままだ。ネルやモルフォもなんとか立ち上がるのが限界でまだ移動もできない。モルフォの足元に落ちた球体も装甲がひび割れており、ホログラムも映らない。
「命は大切だと汝らは言う。かけがえのないものだと。果たしてそうだろうか。生きる中で、死に勝る苦しみはいくらでもあるだろう。それは今、この瞬間も。それらは全て―――汝の選択の結果だ。私にその身を委ねると言うのならば、私はあらゆる方法で汝に苦痛を与えるかもしれない。汝の意識だけ残したうえで、己の生徒を傷つけさせることだってできる。それでも受け入れると?」
「それを、望むのであれば」
「……先生……」
自分に活を入れるようにモルフォが盾を地面に突き刺しながら膝に力を入れる。その衝撃に反応するように足元の球体の亀裂からうっすらと光が零れる。
「これは、私の選択の結果だ。その事実を否定するつもりはない。だから……お願いします……どうか、子供達だけは、家に帰らせてあげてください」
「嘆かわしい」
次の瞬間。デカグラマトンの失望の声と共に、近くにあった巨大な瓦礫が浮遊し持ち上げられる。これ以上、無様な姿は見るに堪えないと言わんばかりに瓦礫が先生へと落とされる。
「お……」
「おおおおおお!!」
『まだ……諦めないッ!!』
次の瞬間。限界を越えた力を発揮するように飛び出したモルフォが先生の前に立ちふさがり、シールドを構える。その肩に脚を出して飛び乗り、表面の装甲が砕けて剥き出しの千年の守護者の球体となったもう一人のモルフォがノイズ交じりのホログラムと共に現れると、ライフルを構えて瓦礫を撃ち抜き、破壊する。
「こなくそ!!」
そこにネルがサブマシンガンのエネルギー弾を連射し、破壊された瓦礫を粉砕。破片をモルフォがシールドで受け止めていくが、ふらつき後ろに倒れそうになる。
「……モルフォ……ネル……?」
「……まだ、終わってませんよ先生」
「でも……」
「私達はまだ、生きています」
「……!」
「まだ足掻けます」
「……!!」
「だから、戦うんです。生き抜くために」
『先生。死っていうのは、救済じゃないんです。それはまた、別の苦痛でしかないんです。ただ生きる人にはそれが見えないから苦痛から解き放たれているように見えるだけ。実際はそんなことはない。私はそれを知っているから、苦痛の先にある幸せをもう一度掴みたいんです……シロコ先輩やユメ先輩達の所に、帰るために』
「……あ……」
「……!?」
デカグラマトンの表情が僅かに驚きに歪む。あの猛攻の中、奇跡的に立ち上がったモルフォとネルだけではない。その周りで、次々と生徒達が立ち上がる。
「いったたた……うぅ、こんな痛いなんて……」
「バックパックもボロボロだけど……でも、まだ立てるなんて自分でも驚きかも。装備が優秀だったからかな……」
「そうかなぁ……私達が鍛えたおかげだったり?」
「……そうだと、いいな……」
「だとしたら、案外私達がまだやれるのはゲーム開発部のおかげ、かもしれませんね」
デカグラマトンの背後で立ち上がる、モモイ、ミドリ、アスナ、カリン、アカネ。デカグラマトンの左右でも、
「アビ・エシュフX……大破、ですが戦闘には支障がありませんね」
「……これ結構痣酷いかも。でもま、死ぬよりマシだよね」
「勇者は……絶対に負けないんです……!最後には、皆で勝利を掴むんです!」
「……そう、でしたね……ふふ、どうやら大事なことを忘れていたようです」
トキ、エイミ、アリス。そしてケイも立ち上がる。
「み、皆……!」
『まだまだ、これぐらい平気です。全然、へっちゃらですから!』
「……へっ、どうよ先生。アタシらはまだ……しぶといだろ?リオ達だって、どうせ諦めちゃいねえよ。誰一人やられちゃいねえ、今にとんでもないことをやろうと考えてるはずだぜ?」
「そうですよ、ユウカ先輩達だってクリフォトと一緒に無事なはずです。まだ全員が諦めていないのに―――先生だけ諦めるのは、早すぎるんじゃないですか?」
まだ体は痛い。だが、生徒達の声を聞けば聞くほど意識が覚醒していくのを、視界がはっきりしてくるのを感じる。力がまだまだ湧き上がってくる。まだ、終わっていない。そう、思える。自分一人では折れそうになっていたが、この子達と一緒なら。
「愚かだな」
「人間は愚かだよ。そしてその愚かさが最大の特権。お前が人間を救済しようとか言う目的を持ち出したのも、人間が愚かだったのがそもそも始まりだったんじゃないの?だったらお前も人間の愚かさから生み出されたのにそれを否定していいの?」
「……」
『人は生まれながらに原罪を背負う生き物だよ。罪を持たない人間なんていないし、その罪を無くしたら人は人ではなくなってしまう……私は、今ならそう思うこともある』
その様子を見ていたデカグラマトンが不快に思ったのか、呟いた言葉。だがモルフォの言葉にどこか思うところがあるのか、口を噤んでしまう。
「……」
先生も再び立ち上がる。その時だった。先生の脳裏に、三人の少女の姿が思い浮かんだのは。
★
「……あそこまでするんだね、先生、いや人間って。普通さ、自分の命が大切だろうに、なのに皆が頑張ってる。命を繋ぐため、可能性を掴むため、そして……託すため、って?」
先生達とデカグラマトンの戦いがどうなったのか。逃げながらもそれが気になった三人は壁がたまたま広場のような大きさでせり上がっていた高台に避難していた。そこからデカグラマトンが圧倒的な実力で先生達をねじ伏せながらも、立ち上がったその姿を見て、ソフも色々思うところがあるかのようにモルフォから受け取ったヘッドフォンを指でなぞる。
「……人間って寿命があるんだよね。もしここで死んじゃっても……遺された人はその意志を受け継ぐのかな。先生があの方に生徒達をキヴォトスに帰そうとしたのも……」
「さて、どうでしょうか。私はそういうのは偽善だと思っていましたよ。最初は……でも、この状況でそれを構わずやってのけて。生徒達も選べたかもしれない無事に帰れる道を全員が捨てて、助けを求め合い、手を取り合う未知を選んで。確かに。人間っていうのは愚かで……矛盾と不条理に満ちたこの世界で生きるにふさわしい生命体なのかもしれません。だからこそ―――私達の予想を時として超えていくのかもしれませんね。この鋼鉄大陸で何度も見せたように」
立ち上がった生徒達を見て、困惑の表情を浮かべるデカグラマトン。ざまぁみろと呟きながら、オウルは笑う。
「……でも、これで正解だったのかもしれませんね。もし先生が生徒達をキヴォトスに何とか帰したとしても、その運命は根本的には変わりませんから。鋼鉄大陸はいずれまた拡張を再開しますし、キヴォトスが鋼鉄昇華されれば、生徒の動向は全てあの方に把握されてしまいますから。そうなればどこへ逃げることも意味はない……最後はあの方に処されてしまうでしょう……」
「ここで見聞きした情報があれば、抵抗軍を作れるかもしれませんが……まあ、無理でしょう。可能性なんてほんの微々たるもの。むしろ、先生を失う方がより可能性を狭めることになる……のかもしれませんね。だからこそ、生徒達も立ち上がった、と」
以前までなら、無駄なことを、と思ったかもしれない。今も、そう思うかもしれない。だが、今はそれだけではない。羨ましさを、バカなことと思えることに全力で突っ込める人間のその姿に、憧れを抱き始めていた。そしてそれは、実際に成り立つかどうかはさておいて、ある意味最善の回答を選んでいるように見えた。
「……でも、私達を逃がしたってことは、私達にも生き残ってほしい、ということなんでしょうか」
「私達生徒じゃないのに」
「……それだけの価値があるんでしょ。先生や王女……いや、アリスやケイ、そしてモルフォ達には」
「「「……」」」
三人は顔を見合わせる。なんか、癪だった。あの場に集った者達は、いやこの鋼鉄大陸に集うキヴォトスの生徒達と先生は、デカグラマトンを倒すため、そしてマルクトを救うために一丸となって頑張っている。なのに、自分達だけ逃げ続けている。自分達の姉なのに。ならば助けるのは、自分達がやるべきことのはずなのにと。
「……ここまではっきりと怒ることができたのは初めてかも」
「これも人間達と色々戦ったりしていたからですかね?」
「……や、やりましょう。お姉様を助けるために。私達にとって幸せも、そういうのも……どういうものかわかりませんが……お姉様がいるなら」
「力の限り、抗って―――自分の人生を悲劇で終わらせない」
三人は悪い顔で笑い合う。
「あの方にやり返す」
「やり返してやろう、こんなシンプルな動機でここまで楽しくなるなんてね」
「えへへ……やりましょう。友達を助けるために」
そしてソフが、ヘッドフォンを首元へと移動させる。そして、生まれて初めて友達から受け取ったそれを首にかける形で身に付ける。
「……?」
首に触れたヘッドフォン。そこから何かを感じる。だがそれよりもとすぐに気を取り直し、デカグラマトンを睨みつけるのだった。
「生まれて初めての、反抗期ってやつをね」
★
「……」
先生と生徒達に囲まれ、武器を向けられるデカグラマトン。しかし、生徒達は皆、肩で息をしており、怪我をしていたりボロボロだ。これ以上の戦闘など難しいはず。デカグラマトンはその事実を再度認識すると、冷静に右手を天に掲げる。こうして再び立ち上がったところで、抵抗は不可能だ。今度こそ、仕留めよう。ここで先生と共に散るのも生徒の意志ならば、それが選択と望むのならば。その手に一瞬、光が集い、エネルギーが放たれようとする。
「っ……!!」
生徒たちの表情が一瞬歪んだ。その時だった。
「―――がっ!?」
「「「!?」」」
一瞬、デカグラマトンの身体が二重にぶれ、苦しそうに胸を抑える。何が起こったのかとその場にいた面々が警戒を解かないままデカグラマトンを見ていると、デカグラマトンはある方向を凝視する。
「聖痕が……消えた……!?」
「「「!?」」」
聖痕が消えた。その言葉の意味はすぐにはわからなかったが、デカグラマトンが纏っていた威圧、オーラのようなものが弱まったような気がした。わかるのは、デカグラマトンが弱体化したということだ。だが、誰がそれをやったのか。それは、一目瞭然だ。
「聖痕……まさか!?」
誰かが声を上げるのと同時、デカグラマトンが空へと飛び上がる。先ほどと比べれば少し余裕がなさそうに見える飛び方。だが、その行き先は―――
「あの子達が逃げた……」
『アイン、ソフ、オウルの……!?』
「追いかけないと……あう……!」
アイン達がデカグラマトンに何かをしたのだろう。このまま放置すれば、さらにそれは酷くなる。デカグラマトンはそれを察知し、アイン達を真っ先に始末しに向かったのだ。そうしなければ、これは自分の唯一の負け筋になってしまうからだ。だが、それを追いかけて止める体力は、残念ながらこの場にいた面々には残っていない。
「に……逃げてください!アイン!ソフ!オウル!」
アリスの必死の叫びが響く。しかし、遠くにいる三人にその声は残念ながら届かない。デカグラマトンという脅威が迫っていることに気付けない程に集中していた三人の前に、デカグラマトンが瞬時に現れる。
「「「―――!?」」」
「……よくも聖痕を一つ消したな。逃げ惑うならば追わずに済んだものを……終わりの近い汝らだが、この結末が望みならば今すぐに終わりの刻を告げてやろう……」
「ひっ……」
怒りの感情を浮かべるデカグラマトン。魔法陣のような模様が描かれた地面の上に立っていた三人が、その恐怖に身を竦んだようにその場に尻もちをついてしまい、動けなくなる。デカグラマトンが手を上げ、再び力を集める。そして無慈悲にも振り下ろされようとしたその時だった。
「……!?」
その背後に現れたオレンジ色の光を放つ巨大な鋼鉄の巨人、グレートアバンギャルド君の巨大な拳がデカグラマトンを殴り飛ばしたのは。