転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
(……何故だ)
一斉攻撃を受け、再び宙を舞うデカグラマトン。その身には決して小さくない傷痕が無数に刻まれており、装甲の一部すら吹き飛んでいる。そこに、オレンジ色の光が傷を埋めるように集まる中、デカグラマトンは頭の中で呟く。
(何故無駄な抵抗を繰り返す。足掻けば足掻くほど、汝らの苦痛が増えるだけだというのに)
デカグラマトンの身体が浮遊感を持ち、ゆっくりと地面に着地する。直後、空が突然晴れていく。
「え……?」
「鋼鉄大陸が……!?」
「慌てないでください」
だがそこは、夕暮れ時の空ではない、薄明の白い空に機械のリングが宙に浮かぶような空間となっていた。いうなれば、デカグラマトンがエネルギーを展開して作り出した、仮想領域のような場所だった。
「……エネルギーを遮断できたようですが、それでも一瞬だけ、ですか……まさかこんな領域を作るとなんて」
「あいつを倒せば元に戻る?」
「ええ」
エイミの指摘にケイが頷く。コユキやリオ達の活躍でデカグラマトンのエネルギーを遮断し、大ダメージを与えることにはできたが、それも一時的なもの。まだこんな隠し玉を用意していたことまでは予想していなかったのか、ケイは苦々し気な表情を浮かべる。
「つまり、この領域の中はデカグラマトンのために構築された空間ってことね……」
「……文字通りあいつの庭ってことか」
この空間がどういう場所なのかはまだわからない。しかし、デカグラマトンがわざわざ展開して自分達を閉じ込めた場所だ。碌な場所じゃないことだけは確かだろう。デカグラマトンがどんな行動をしてきてきても対応できるように十人はもう一度陣形を整え始める。
「……まずいですね。クリフォトとの通信が途切れました」
「なんだって!?」
「うーん、結構まずいかも?」
が、そんな中でさらなる悪い報せが入る。なんと、クリフォトからのリオ達との通信が途切れてしまい、データによる支援を受けることができなくなってしまったのだ。加えて、デカグラマトンもまた動きを見せ始める。
「絶対制圧装置、アツィルトの帯―――起動」
その声と共に、機械の構造物が動き始める。
「あれは……?」
「その命を召すことはしない。自ら跪かんとし、醜き姿を見せた汝に免じて、それだけは約束しよう。鍵の身体を通じて、九つのセフィラの力が集まった。これより―――無機物に限られていた変換を、すべての元素に拡張する」
「すべての元素!?」
「っ……!」
デカグラマトンの言葉にケイの表情が歪む。ここにマルクトが戦闘に参加していれば、デカグラマトンは全てのセフィラの力を手に入れていたことだろう。それだけは阻止できたことは僥倖だったが、デカグラマトンの干渉を一時的に弾いたケイのセフィラの力を強制的に利用する手段まで持ち合わせていたとは。
「このアツィルトの帯のもと、お前たちは鋼鉄大陸の一部となり、新しい身体と魂を授かり、私の使徒として生まれ変わるだろう」
「皆!デカグラマトンを!!」
その言葉と共に、デカグラマトンが両手を広げる。デカグラマトンが何か行動を起こそうとしている。それも致命的な何かを。警戒して相手の出方窺っていた先生だったが、この行動をさせてはまずいと判断して攻撃を指示する。だが、撃ち込まれる弾丸はデカグラマトンの身体に命中しては弾かれてしまい、まるでダメージにならない。そして、
「「「きゃあああ!!」」」
膨大なエネルギーの奔流が生徒達を纏めて押し潰す。みしみしと全身が悲鳴を上げ、先生も地面に叩きつけられていた。シッテムの箱がミシミシと悲鳴を上げつつも先生の身体を何とか守ろうとしている。そんな中、モルフォ達は体から力が抜けていく感覚に見舞われていた。
「んだよ、これ……力、が……」
「なんだろ……力、生命力?ってのを奪われてる感じ……?」
「なんか、全てを変えてしまいそうな感じなのかな……」
「生まれ変わるって、こういうこと、なのか……?」
「さあ、どうなんでしょうね……生まれ変わるって、経験ありませんから……」
「これが、狙いってこと……!戦いながら裏では儀式進めるなんて、狡い手を使う……!」
徐々に生徒達のヘイローの光も徐々に薄くなり始める。アツィルトの帯による生命体の再構築が始まろうとしているのだ。それによって、彼女達はデカグラマトンが言っているように使徒として作り直される、謂わば転生を迎えるのだろう。
「……まだ、だ……」
『違う……こんな、形で生まれ変わる、なんて……絶対に、嫌だ……!』
生命力を奪われながらも、モルフォ達が膝をついて立ち上がる。その表情は苦しそうだが、それでもまだ、二人は諦めてはいない。
「こんな、押し付けられる形で、転生なんて……」
『転生、しても虚無しかない世界なんて……』
「モルフォ……」
他の皆が倒れる中、最後まで立ち続けようとするモルフォ達。もう一人のモルフォの身体がバチバチと火花を放ち、青とオレンジ色の光の蝶の羽が浮かび上がる。最早それが、ホログラムなのか現実なのか、二人の力によるものなのかの判断すら先生にはわからない。デカグラマトンはモルフォ達を一目見て何かを感じ取ったのか僅かに目を細めるも、それだけだ。このまま放っておけばいずれ押し潰されるとわかりきっているのだろう。
「くそぉ……!」
「モルフォ……ケイ……皆さん……お願い、します……」
力がどんどん抜けていく中、アリスが縋るように呟く。絶対に負けてはいけない戦いに負けようとしている。ここで負ければ全員がデカグラマトンの使徒となり、その意識は、心はどうなってしまうかわからない。ここだけではない。クリフォトにいる皆も、このキヴォトスに生きる人たちも全員、デカグラマトンの支配下に置かれるだろう。それだけは、認めるわけにはいかない。
「まだ、アリスにできることがあれば……!?」
両手を硬く握りしめ、悔しそうな声を漏らした次の瞬間。アリスは自分を押さえつける力も、自分から力を吸い取ろうという感覚も、全てから解放されてしまう。空は夜空へと変わり、水平線の果てまで伸びていく。周囲には誰も存在しておらず、アリスはゆっくりと立ち上がると、隣にケイがいることに気付く。
「え……?」
「ここは……?」
ケイもこの場所は知らないようで、二人は周囲を見渡す。足元は円形の足場が歯車のように繋がっている不思議な光景だったが、どこか神秘的にも見える。
『ついに、辿り着きましたね』
「「!?」」
困惑している二人の耳に、柔らかい声がかかる。その声の主を探すように二人は辺りを見渡すも、どこにも声の主は見えない。まるで、声だけがこの空間に響いているかのような感覚であった。
「誰……ですか?ここは一体……それより、先生は!?他の皆さんも……」
「そ、そうです!このままでは、皆が!」
『理解しています。どうかご安心ください。この時間、向こうのことは私が保証します。まず、この話からしましょうか―――全ての始まりについて、考えたことはありますか?』
「!?」
何が起こっているかわからない。しかし、自分達の意識がこの謎の空間に突然飛ばされたことだけは確かだ。となると、元の場所には皆がまだいるし、戦いは終わってすらいないのだ。どうにかして戻らないといけない。そう焦る二人に、その声の主は大丈夫だと安心させるように言うと、ある問いを投げかける。
『我々はどこから来たのか?我々の目的は何なのか?我々はどこへ向かうのか?』
「……ともすれば神とは、従う者たちへの規律なのかもしれません」
『覚えていたのですね。よかったです』
この鋼鉄大陸での戦いの中で。この声の主から投げかけられた言葉。アリスはそれだと気付いて驚き、ケイはその続きを口にする。
『大事なのは、彼方たちが誰なのか、そしてこれからどんな選択をするのかです。名もなき神々の王女アリス、そしてその侍女であり鍵のケイ』
「……アリスは確かに、名もなき神々の王女ではあります。ですが―――」
『知っています。私は、改めて彼方の本来の姿とその資格について話さなければならないようです』
「……?」
謎の声の主が告げる、アリスの本来の姿。それは名もなき神々の王女であり、その使命ではないのか。そう思いながら首を傾げるアリスに、謎の声の主は言葉を続ける。
『現代の言葉を借りれば、彼方はある種の中継器であり、増幅器でした』
「……?」
が、どうやら謎の声の主が告げる内容はそれとは少々異なるようだ。中継器であり増幅器。その話はアリスも初めて聞いた話だ。
『あの司祭たちによって、彼方は名もなき神々の王女として準備されました。
「世界を戻すために……
「……ちっ」
元々、アリスは記憶がない。そのため、名もなき神々の王女についての話は主にケイから聞いた話しか知らない。それ故、所謂このキヴォトスをリセットするための力を行使する、ぐらいの印象しかなかった。しかし、よくよく考えてみれば初期化した後のこの世界は誰がどうするのか、ということを考えればその先の真意があるのも当然である。この謎の声にそれをばらされたことにケイは少しだけ不満そうに舌打ちする。
『その計画は実行されませんでした。彼方はその座に座ったまま、この世界を愛することに決めたのですから。そして鍵は、王女と同様、この世界を愛することを決めました。ですが、大切なのはここからです。今、二人には本来の使命を取り戻すという選択肢があります』
「取り戻す……?」
「まさか……」
『そうです。今のキヴォトスには、鋼鉄大陸という巨大な特異現象が発生しています。私がこのような形で二人と会話できるのも、その影響でしょう。鋼鉄大陸が存在している限り。アリス、彼方は本来の役割であった中継器や増幅器を凌駕し―――名もなき神、そのものになることができます』
「は?え……?アリスが、神に?ですか……?そうすると、どうなりますか?」
声の主はアリス達に、名もなき神々の王女として、当初の役目を遂行するという選択肢を提示する。しかし、それを行うことでアリスはこの状況下であれば神にすらなれるのだという。が、アリスにはその意味がわからない。
『言葉通り、彼方は神になれます。真の姿に還り、全知全能の力のもと、数多の事を成し遂げることができます。名もなき神々の力とは本来、可能性の力を意味しているのですから。だからそれは、さほど特別なものではありません。今を生きる誰しもが、少しずつ己の中に秘めている力でもあります。とはいえ―――非力なわけではありません。デカグラマトンのような神の模倣品など、指一本で最初から存在しなかったものにできるのですから。そして彼方の友人、ケイ、ひいては先生をも、資格や規律を越えて楽園へ導くことができるでしょう。その力を得るためには、犠牲は必要ないのです。彼方はただ、受け入れればいい。可能性の光を歌という形に変え、運命を塗り替えた、彼方の友人のように』
謎の声の話は、途方もない話だ。ただ一つ言えるのは、この力を受け入れ、行使するということこそが、声の主が言う通り、文字通り神となることなのだろう。それで全てを救えるというのであれば、それ自体は悪い選択肢ではないように思える。だが、一つだけ懸念があった。
「でもその場合……今のアリスはどうなりますか?」
『気が付いたようでね。ええ、彼方が本来の姿に、神に還れば―――今の天童アリスという可能性は、存在しなくなります』
「!!」
「……」
『ですが、天童アリスとは偶然の産物です。それを対価に楽園を実現できるとすれば、十分に価値のある選択だと思いませんか?』
「……皆は、先生は……アリスが消えてしまったら、多分悲しむと思います」
『憂うことはありません。皆から彼方に関する記憶だけを消してしまえばいいのです』
「そ、それは……」
「何を言ってるんですか!?」
そして、その懸念通り、アリスは消滅する。しかも声の主は、それに対する補填として、皆の記憶を弄ればいいというとんでもない解決策を提示してくる。これにはアリスは当然としてケイも黙ってなどいられない。
『最初から存在しなかったものに、感情を抱くことはできません。皆を幸せにすることこそ、彼方の目標だったのではありませんか?』
「でも―――」
「……必要ありません。そんなのは、必要ありません」
「アリス!」
そしてアリスは、確かめたかったことを確かめられたと言わんばかりに、はっきりとした声音でそれを拒否する。少しの間の後、驚いたようにその声の主が再び語り掛ける。
『驚きました。理由をお聞きしても?』
「楽園は、自分達の力で辿り着く場所です。絶対的な力も、奇跡も必要ありません。万が一、楽園に辿り着くことができなかったとしても……全ての人々が、悲劇的な結末を迎えることになったとしても……それが、私達の結果であれば、受け入れるべきだと。先生ならばきっと、こう言うでしょう。そして、その結果が出るまで、アリス達は足掻き、藻掻いて、戦うんです。生き抜くために」
「その通りです、アリス!」
アリスの言葉を聞き、ケイが嬉しそうに笑う。ケイの顔を見てアリスも表情を緩ませると、天を見上げる。その声の主はそこにいるかはわからない。だが、なんとなくそこにいてこちらを見ている気がした。
「キヴォトスを以前の世界に戻すことは、確かに凄い事かもしれません。皆がそれぞれの姿を取り戻すのも、きっと凄い事だと思います。ですがそれは、私達の力で叶えたわけではありません。チートでステータスを上昇させるのと同じです。このゲームのデザインは……そんな風にはなっていません。こつこつとレベルを上げて、慎重にスキルポイントを振り分けて、少しずつ成長していく―――そうやって初めて、面白さを感じられるようになっています」
『……』
「ですからアリスもまた、今すぐではなくても、いずれはそこに到達できると信じています。何より、その過程に価値があると考えています。簡単に手に入れたものは、簡単に失ってしまいます。それでは何も学べませんし、長続きすることもありません」
『しかしその考え方は、彼方がゲームで世界を学習したから習得したものなのでは?』
「そうです。だからアリスは、運が良かったと思います」
そう言うと、アリスは一旦目を瞑ってゲーム開発部の皆を思い浮かべる。モモイ、ミドリ、ユズ、モルフォ。目覚めてすぐ、先生とゲーム開発部と出会ったことは、間違いなく幸運であった。だが、もしもボタンが掛け違えていたら。その一つの答えとして、アリスは見ている。もう一人のモルフォという存在、そしてあの日出現したアトラ・ハシースの箱舟という形で。
「……ずっと、考えていたことがあります。あのアトラ・ハシースの箱舟はどうやって生まれたのか。だから―――作ったのでしょう。おそらく向こうの世界のアリスとケイが。それを、プレナパテスとシロコさん、もう一人のモルフォが使っていたのでしょう」
『……』
「……アリスも知っています。願っても叶わないことがあると。現実が何なのか、今はもう知っています。信じられないような残酷なことがあるのも、知っています。ですがゲームはそうじゃありません。そうは作られていません。何故ならゲームには、美しい世界を、好きな世界を思い描く人の希望や思いが込められていますから。そして、世界が美しくなるよう願う人がいる限り、希望は絶えません。努力が実を結び、皆から尊敬され―――レベルアップしていけば、いずれ成長を実感できるという希望です。たとえ今はそうじゃなくても、いつか辿り着くその場所では、必ずです。何故ならアリスは―――その全てを愛しているからです」
「アリス……」
「先生も、キヴォトスの人々も、ミレニアムの皆も、そしてゲーム開発部の皆も、心から愛しています―――でも!」
「アリス?」
「力は使わせてもらいます!!」
「アリス!?」
良い感じの事を言っているはずなのに、神になるつもりはないが力は別だと言わんばかりのアリスの様子に思わず唖然となるケイ。声の主は少し間を置いて語り掛ける。
『面白いことを言いますね。彼方はすでに、自身の本質を拒んでいたのでは?』
「いいえ!確かに王女としての本来の使命は拒みますが……王女の力を否定はしません!それに気付いたんです!鋼鉄大陸がある今ならば、アリスはアリスの本来の権利を主張できるということを!そして……それはあなたでも邪魔できないということを!」
「……!そういうことですか……」
『……もうそこまで理解できるようになったのですね。ですが―――わかっていますか?あなたが行使しようとしている力は、過去に名もなき神々の力の一端を使用しただけの時とは話が違います。これほどの力、王女としての力を行使することで神になる権利を捨てた今、あなたは王女としての資格を捨てて力を行使することになります。その結果は、ご存じだと思いますが―――それでもなお、彼方はその選択をするのですか?』
「はい。何度聞かれても、アリスの選択は変わりません」
だが、力だけでも持ち帰らないといけない理由は確かにあった。今のままではデカグラマトンには勝てないからだ。そして、それ自体は確かに可能であった。
『その選択をすれば、この先の彼方は、ただ平凡な生徒になり果ててしまいます。さらに、自身に残されたすべての可能性を使い切ることになります。彼方がこの場所で見聞きし、気付いた全てを忘却するという意味です。忘却は、彼方たちが
「知っています」
『彼方は成長するでしょう』
「はい!アリスは成長します!」
『彼方は苦しみを抱えることになります』
「それはちょっと怖いですが……できるだけ我慢してみます!」
『彼方はより良い存在から、不完全な存在へと成り下がることを受け入れなければなりません』
「アリスはそれを不完全だとは思いません。すべての可能性と栄光よりも、アリスにとっては今この瞬間が。ケイと他の皆が、先生が―――かけがえのない、大切なものなんです。奇跡や力なんて重要ではありません。そんなものより、お互いを信じて前へ進める一歩が、大切なんです」
「そうです、アリス!よく言いました!」
声の主の言葉に、はっきりと自分の意志と言葉をぶつけるアリス。その上で、宣言する。
「だから使います。最初で最後の、アリスの権能を!」
『……わかりました。やりたいようにやってごらんなさい。そして、私にも見せてください。奇跡を拒むことで奇跡に辿り着くという奇跡を。愉快です。ええ、実に愉快です。こんなにも楽しくて、愉快な結論が王女―――いえ、アリスの……妄想や徒労にならないことを、私にも見せてください。彼方が話していたように、皆との歩みで、地平線に辿り着けることを証明してください……さて。一度限りの彼方の権能で、彼方は何を叶えたいのですか?』
「―――与えます。アリスの友達に」
『……成程。神秘は神秘を持たない存在には介入できない。蘇らせることも、初めからやり直すことも当然できません。ですが―――』
「そこには心があります。意識があります。ならば―――それぞれに適した容れ物を作り出すことはできるはずです」
アリスがやろうとしていること。それは、友を救うための必然。それを聞いた声の主は、どこか愉快そうに声を明るくしながら言葉を続けていたが、そろそろ潮時かと別れの挨拶を切り出していく、
『成程。よくわかりました』
「名も知れぬ方、ありがとうございます。おかげでアリス達は、辿り着けます。アリス達の目指す―――ハッピーエンドに」
『どういたしまして。私も楽しかったです。ですが。そろそろお別れの時間ですね。これで、私と彼方が会うことはないでしょう。追従する者達が、彼方を永遠の裏切り者だと呪うことになったとしても。私はこのすべての過程を、心から楽しみました。さようならアリス。彼方の旅路に、幸運があらんことを』
「さようなら!アリスも頑張ります!」
『そして……私の正体に気付いているケイも』
「……まあ、ここでの話は私の奥底にしまっておきますよ」
『ええ。理解してくれているようで安心しました。では、これでお別れです。大丈夫です、心配することはありません。また再会することがあれば……思い出話でもしましょうか』
その言葉を最後に、声は完全に聞こえなくなっていく。そして、二人の周囲の景色が徐々に消え、光に変わり始める。
「行きましょう、ケイ!アリスは……勇者としてみたら確かに見習いです。何かが特別得意というわけでもありません。でも、皆と一緒に勇気を出して、地平線の向こうまで旅に出る、それがお仕事です。だからアリスは最後まで諦めません。だって」
「ええ、私も……諦めません。だから最後まで……生き抜きましょう。私達には」
「「皆がいますから!!」」
お互いに決意を口にし、頷き合う。それを最後に光が空間を完全に満たし、二人の意識を現実へと引き戻す。そこは、時が経過しておらず、まだ皆は生きていた。だが、そこにアリスとケイは立っていた。この二人は何故立ち上がれたのか。デカグラマトンが疑問そうに二人を見る。
「……?」
「アリス……?ケイ……?」
「はい!アリスは大丈夫です!それにケイも!これからきっと、何もかも、全部大丈夫です!皆さん、もうちょっとだけ耐えてください!私達が何なのか、はっきりと見せてやりましょう!」
「!?これは……!?この神聖、この神秘……!!」
アリスとケイを中心に、力が舞い始める。デカグラマトンが狼狽えるように後ずさる中、アリスはケイへ問いかける。
「ケイ、何になりたいですか!」
「!」
「想像してください!ケイだけじゃありません!もう一人のモルフォもです!」
『え!?わ、私!?』
「……いいんじゃない?好きにやってみなよ。アリスの言うように」
「そうです!なりたい自分、最強の自分、なんでも構いません!誰にも恥ずかしくない……自分だけの姿を、想像するのです!」
『わ、私は―――!』
ケイと、言われるがままもう一人のモルフォがそれを想像した瞬間。二人の身体を光が覆っていく。ケイの纏っていた白い装束が、徐々にミレニアムの黒い制服へと再構築されていく。再構築されていくのは、服だけではない。その身体も。
「可用リソースを検索。可用リソース領域の拡大。完了、構造物、鋼鉄大陸全ての情報体。欠陥品の供物、千年の守護者。構造変更及び変換開始」
「ミレニアムの勇者、アリスがここに宣言します!私達は手を取り合って前に進み、限界まで進み続けます!たとえ、理解されなくたって、アリスは平気です。アリスは、アリスが正しいと信じることを、これからもずっと続けていくだけですから。これこそが―――アリスの自己証明です!!」
瞬間。激しい閃光が仮想領域の中を包んでいく。その光は仮想領域を超え、鋼鉄大陸中に広がっていき、鋼鉄大陸を、クリフォトを包み込んでいく。その中で、アリス達は一瞬、垣間見た。オレンジと青、それだけではなく無数の色の蝶がバラバラの場所へ向かって飛んでいく姿を。そして光が晴れた先にいたのは―――
「「「「……」」」」
アリスの横には、制服姿で以前までの無機質な白い肌から生物的な薄肌色の肌へと変わったケイが。そしてモルフォの隣に、アビドスの制服に身を包んだ、確かな実体を持つもう一人のモルフォが立っていたのだった。