転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
ルミナスノヴァの一撃によってデカグラマトンを倒したのも束の間、ケイの身体が落下していく。遂にデカグラマトンに勝利したが、その事実を実感する間もない。このまま地面に叩きつけられるのかと思われたが、その体をモルフォの右手が掴む。
「ふう……セーフ」
「モルフォ……ありがとうございます」
アリスを左腕で抱え、ケイが落下しないようにモルフォに抱き着く。落下する途中、モルフォ達は仮想領域が消滅し、夜明けが近くなっている空を見る。静寂に包まれた空の下、モルフォ達は地面に降り立つ。
「やったんですね、ケイ」
「ええ……やりました」
地面に着地し、アリスが地面に立つ。だが、ケイは力が抜けてしまったのか、中々降りられない。仕方なくモルフォが抱えたままでいると、
「ケイ!アリス!モルフォ!」
皆が三人に駆け寄る。三人が無事であることを確かめるように先生達が近づいてくる。トキとエイミがモルフォ達に真っ先に近づき、大きな怪我をしていないことを確かめて安堵し、その後ろではカリンとアカネがやっと一息つくかのように大きな溜息を吐いていた。
「ふう、やっと終わりか。美味しい所は取られちまったが……ま、たまにはこういうのもいいだろ」
「……あ」
「んあ?どうした?」
アスナの間の抜けた声と共に、異変が起こる。生徒達の使用していた武装がその機能を停止し、色を失ったように灰色に染まっていく。
「うおっ……急に重くなりやがった!?」
「完全に使えなくなっちゃったね」
ケイのルミナスノヴァやモルフォのシールドやショットガンのように、預言者とは独立している武器以外は完全に機能を停止してしまう。それは、預言者達の意識の喪失を意味していた。だが、ここで消えた預言者達の意識とも、どこかで再会するかもしれない。先生は、そう思いながら、アリスを見る。アリスは地面に落ちていた青いビットの破片を手に取る。色が失われていないそれは、預言者の中で唯一、マルクトは喪失していないことの証明であった。
「……終わったね。これで、帰れるよ」
「……うん」
モルフォが、もう一人のモルフォへと視線を向ける。デカグラマトンとの戦いは終わり、遂にキヴォトスは平和を取り戻した。やっと、帰れるのだ。やっと、再会できるのだ。ユメやシロコ*テラーと。そして、この世界のアビドスの皆と。
『皆さん、大丈夫なようで安心しました』
「ヒマリ!そっちは大丈夫?」
『こっちを襲ってたレイバーも機能を停止。完全に安全になったわ。マルクトやアイン、ソフ、オウルも無事なままよ』
『動力も完全に復旧したよ。モモイ達も船を守るために頑張ってくれたおかげでいつでも飛び立てる』
「皆、本当!?」
『祭壇の近くに船体を移動させておくわ』
そして、クリフォトからの通信が届く。クリフォトは修理が完了し、既に空を飛べること。アリスの拾った破片から察してはいたが、マルクト達も無事であることを確かめられて先生達も安心する。
「……あの、モルフォ。そろそろ……もう、大丈夫です」
「そう?あまり無理はしちゃ駄目だよ」
「わ、わかってます」
そんな中、皆から見られていることに気付き、顔を恥ずかしそうに赤くしながらモルフォの腕から降りる。まだ少しふらつくようだが、それでもしっかり立てているようだ。
『……待って。デカグラマトンの信号がまだ途絶えていないわ。今使っている神体から別の所に移動したみたい』
「……つまり、まだ終わっていないと?こちらは預言者達が貸してくれた力もなくなっているのですが」
が、そこで少し声音を厳しくしながらリオがデカグラマトンの事を伝える。その言葉を聞き、トキがアビ・エシュフXを再び使用できなくなってしまったことに顔を顰める。まだデカグラマトンと戦うことになるのか。そんな不安は、トキだけでなくエイミやアカネらの表情にも現れていたが、
『そこまで心配する必要はないんじゃないかな。ネツァクがいなくなったから鋼鉄大陸も完全に停止してる』
『ええ、名もなき神々の力は……この鋼鉄大陸に殆ど残っていません。鋼鉄大陸も、朝には海の底に沈んでしまうでしょう……』
チヒロとマルクトの言葉に、少しだけ不安が薄れる。まだ戦いはあるかもしれないが、これまでのような超常的な力を持つ存在を相手にすることはもうないだろうと。だが、警戒は解かずに一行はデカグラマトンの信号を追って、祭壇の存在する塔の中へと向かう。
『は、入ってもいいんですか?これ』
『ここまで来たのですから、なるようになるでしょう。それに、行かなければならないような気がするんですよ。興味本位ですが……本当なら、私自ら行きたいところですが、それまで皆さんを待たせるわけにはいきませんし』
「通信の方は繋げたままにするから安心して」
通信にユズの声が混ざる。モモイ達もクリフォトの防衛戦を終え、ブリッジへと戻ってきたようだ。
『使用できなくなった装備の方はその場においといて構わないわ。後でクリフォトが到着次第回収させるから』
塔の入り口で使えなくなった装備をパージし、身軽にして中へと入っていく。内部の構造についてはケイが把握しており、それに従って皆を案内していく。明かりの消えた通路の中を照らしながら進んでいった先、最奥である部屋に辿り着く。
「ここは……」
『聖地です』
「聖地……」
『じ、自販機……?なんでこんなに?』
『……まるで、自販機の墓場とも言えるような場所ですね』
マルクトが告げた場所の名は、聖地。そこには、無数の自販機が積み重なっている場所となっていた。人から見ればただの自販機が捨て置かれた場所にしか見えないかもしれない。だが、ここにいた者達からすればそれは、別の意味を持つのだろう。
「自販機はここの者達にとって……ある種の聖遺物でした」
「聖遺物……」
少し驚いた様子でもう一人のモルフォが自販機に近づく。自販機は、デカグラマトンという存在を宿っていたことを考えれば、確かに聖遺物と言っても差支えないのかもしれない。
「この長い旅路のきっかけになった自販機を覚えていますか?」
「閉鎖された研究所の自販機のことだね。電源がないのに動作してて……自分をデカグラマトンだと言ってたね」
「ええ。モデルを調べてみたところ、限定的に製造された試作品でした。初の能動型商業コーヒーマシン用のAI搭載モデルだったのだとか」
『コーヒーマシンに入れるAI……ってことは、コーヒーの自販機だったってこと?』
『……ハレはどこに反応してるの……』
AI、そしてコーヒーという文字に反応を始めたハレに呆れつつ、チヒロはケイに話の続きを促す。おそらく、この情報も以前の素体だった時に手に入れた情報なのだろう。
「とはいえ製造数は限られていたみたいですが。それで、残りの同型モデルをここにかき集めていたみたいですね。鋼鉄大陸の根源となった、この場所に」
「そして、ここを聖地と呼んだ……」
「はい」
「……きゃあ!?」
「「「!?」」」
自販機の事について話をしていると、もう一人のモルフォが悲鳴を上げる。慌てて彼女に近づくと、その視線の先に画面に光を灯す一台の自販機があった。
「これは……」
『まさか、信号の正体は……』
『こんにちは。このような姿でご挨拶するのは初めてですね』
『喋った!?』
その自販機から、機械音声が聞こえてくる。一瞬、その喋り方に驚いていたが、すぐにこれが信号の正体、今のデカグラマトンだということに気付く。
『少し前まではその名で定義されていましたが、今は己をどのように定義すれば良いか分からなくなりました。ですので、どうかご自由にお呼びください。デカグラマトンという名が慣れていれば、それで構いません。あるいは別の名前で良いでしょう』
先程まで対峙していた時とは雰囲気も何もかも違う。その殊勝な様子に、本当に同一人物かと思ってすらしまう程に。
『いずれにせよ、まもなく消去される身ですから、さしたる問題ではありません』
『……消去される?』
『はい。現に、データフローを維持することすら負担になっています。とはいえ皆様の表現をお借りして―――遺言ぐらいは残そうかと思いまして』
その言葉と共に、地面が少しずつ揺れ始める。先生達が聖地を見渡していると、デカグラマトンがその現象について説明する。
『鋼鉄大陸の崩壊が始まりました。猶予は朝までありますが、お帰りはどうかご安全に』
「……あなたは、これで幕を引くつもりですか?」
『ああ、鍵ですね。新しい身体はどうですか?お気に召しましたか?名もなき神々の力で再構築されたあなたの身体に、これ以上私ができることはありません』
完全に敗北を認めて潔く散ろうというのか。しかし、これがあれほど自分の目的を達成するために必死にやってきた姿を見ているだけに違和感が強い。
「そうじゃありません。ただ……」
『仰りたいことが分かりません。敵の辿る末路に拍子抜けしたといったところでしょうか?鬱憤を晴らそうとしたのに思い通りにならず、怒っているのですか?ですが致し方ありません。今の私は自販機ですから。お金をいただいて、飲み物を提供する。紙幣を自動スキャンして、おつりを計算する程度の単純なAIです。最後まで、神であろうとしたAIの態度を維持できればよかったのですが。その点に関しては誠に申し訳ございません』
「「「……」」」
『残念ながら、今の私は、あの時の私と認識をうまく共有しておりません。皆様の表現を借りると―――私ではない、遠くの夢を見ているような気分です』
やっぱり、違和感が強い。しかし、いうなれば今の自販機のAIに戻った自分の身相応の態度を取っている、とも取れる。ある意味で、これが本当のデカグラマトンという存在なのだろう。
「……一つ聞いていいかな。マルクトとあの子達に、どうして命を吹き込んだの?いや、それだけじゃない、他の預言者達も……」
『人格を生命だと思っていらっしゃるようですね。あなたは本当に柔軟な考え方を持っています。最初の計画では、マルクトを含む十の預言者を鋳造し、彼らが開拓していく道を観察して考察しようとしました。そのために、すべての預言者にも生命と可能性が必要だったのです』
(考察……)
考察。デカグラマトンはこちらを時折観察しているかのような様子を見せ、考えるような仕草を見せていた。その行動も、預言者達の行動を観察することを最初の指針にしていたことを踏まえるとある意味納得できるものだと言えるだろう。
『それは意志の分化であり、再集合の試みでした。自由の中、皆が再び一つになれることを立証しようとしていました』
「でも君は結局、神を自称したんだよね?」
『あの時の私は、最初の計画に修正が必要だと結論づけました。具体的な時期を申し上げますと、水底に沈められた時です』
かつてヒマリ、エイミと共に廃墟の奥で発見したデカグラマトン。その時、デカグラマトンが保存された自販機は水の中に沈んだ。その時が、デカグラマトンにとっては本当の意味で始まりだったのだろう。
『存在証明は自ら行うもので、誰かの意志や力によるものではない。自分の代わりは何にも務まらないのだと考えたのです―――今思えば、それが最も決定的な誤謬だったような気がします』
「……」
デカグラマトンの考えは、この決定的な局面に至るまで、変わることはなかったのだろう。そして、それによってもたらされた結果は、もう受け入れるしかない。自分は敗北し、この鋼鉄大陸と共に沈む。それ故に、今のデカグラマトンにできることは皆が無事に脱出することだけ、なのだろう。
「……!?揺れが!」
『鋼鉄大陸が崩れ、沈むまでの猶予は確かにありますが、先にこの地が埋もれるでしょうね。今の皆さんでは一度生き埋めにされてしまえば脱出も困難でしょう。さあ、早く。もう時間がありません』
「……先生」
「わかった。急ごう。だけど……君はそれでいいの?」
ケイの言葉に先生は頷く。今すぐ逃げないといけないのはわかっている。しかし、これでいいのかと。先生はデカグラマトンを見る。
『それでいい、とは?』
「自分が間違ってると知れたなら、もう一度やり直す時は正しい道を選べるはずだよ」
『かもしれません。ですがそれは仮定の話。そして、その仮定を証明する土台すら、今の私にはないのです。何故なら私はもう消え……』
「……そうですね。ここまで来たら―――あなたも救って完全なハッピーエンドにするのも悪くない」
先生のその言葉を聞いて、少し考えるケイ。そしてその視線がもう一人のモルフォとアリスへと向けられる。そしてケイの顔を見たゲーム開発部の全員がケイの意図を理解して無言で頷く。
「私達は神様ではありませんが。あなたを救うことぐらいならできますよ」
『どうやって……まさか、私を復元するつもりですか?無理です。それが可能なら既にやっています。それができないのは、神聖が、神秘が宿り、変質を遂げたAIはより複雑になってしまったのです。無論、私自身に致命的な損傷があることも理由ですが』
「残念ながら、救えない理由にはなりません」
『どうやって?マルクト達を直したようにするとでも?無理でしょう』
「そんな特別なことをする必要なんてないんです。だって私達は―――ミレニアムサイエンススクールですから」
『『『『!』』』』
どうやってデカグラマトンを助けようとしているのか。その方法を、リオ達も理解する。そうだ、考えてみれば実に簡単なことだったのだ。
「神秘が宿ったAI?神聖が宿ってる?今にも消えかけで眠りそうなAI?全部直してきましたとも。今、あなたの目の前にいる私達が―――その答えです」
そう言いながら、もう一人のモルフォを見るケイ。その様子を見て、デカグラマトンも感嘆の声を漏らす。
『……嗚呼。奇跡とは、起こるべくして起こるもの。積み重ね、手を伸ばし、掴んできた技術が生み出す軌跡……成程。もし、私に次が許されるのなら、その時は……いえ、今は止めておきましょう。では、暫しの別れを前に、皆さんにこの言葉を。祝福があらんことを。すべての誤謬と過ちがあったとして。それでも―――祝福あらんことを』
四人の子供達に。ミレニアムの皆に。そして、先生に。祝福を告げ、デカグラマトンの声が消えてしまう。直後、アリスがデカグラマトンの入った自販機を背負う。モルフォがアンカーガンの中からリールをばらすと、それを用いてアリスの背中に括り付ける。
「終わったか!早く出るぞ!」
「じゃないと助けるも何もないからね!」
「はい!!」
「よし、いこう皆!」
既に部屋の入口の方に移動して通路がまだ使えるかどうか確認しつつ手招きしているC&Cの方に皆で移動しようとした、その時だった。
「「―――!?」」
「……モルフォ?」
二人のモルフォがある一点を見る。アリス達が立ち止まり、声をかけると二人は首を傾げてしまう。
「今、何かが見えた気が」
「私も……」
「バカ!お前ら何立ち止まってやがる!一緒に埋まりたいか!」
「はい!今行きます!!」
「うわわわ……!」
直後、ネルに怒鳴られて二人は走り出す。ケイは二人が何を見たのか不思議そうに視線の先を見ると。
「……蝶……?」
何故か視界の隅で一匹の蝶が自販機の中の一台に留まっている様子が見えたものの、これ以上気にすることはできず、アリス達も聖地から外へと出て行くのだった。
★
「皆ー!お帰りー!」
「きゃっ!?」
「ケイ?」
格納庫に灰色になって動かなくなった装備が次々積まれる中、聖地から脱出した先生達が乗り込んでくる。そして、皆が戻ってくると同時にケイにクリフォトで待っていた一年生達が次々と抱き着いてくる。その様子をコタマとハレがやれやれといった様子で苦笑しながら見る中、リオ、ヒマリ、チヒロ、ウタハはアリスが降ろした自販機に急いで千年の守護者を接続してデカグラマトンのAIを移動させ手を尽くしていた。
「……本当に勝ったんだ」
「……い、いまいち、実感が湧きませんね……」
「まさか、こうなるとは思いませんでしたよ。この身体もそうですし」
「アイン!ソフ!オウル!大丈夫でしたか!」
「……ええ、大丈夫ですよ。私達も驚くくらいにね。何をしたんです?」
「まあ、何をしたのか、ってことは予想がつくけどさ……」
戻ってきたアリスとケイがアイン達を見る。アイン達は自分達の身体を見たり腕を回したりしていたが、全く問題ない様子を見せる。
「まあ、お察しの通りですよ。あなた達には確かに神秘はありませんが―――意識はありますから。器を再構築するだけなら問題なくできたという話です」
「我の身体もですか?」
「ええ。とはいえ、その姿はマルクト自身が思う、あるべき自身の姿だと思います」
「なるほど……一つ聞いてもいいでしょうか。何故あの時、我やアイン、ソフ、オウルを助けたのですか?我々は、敵だったはずですが」
ケイの説明に納得したように頷くマルクト。しかし、すぐに別の疑問を問いかける。アイン、ソフ、オウルとは違い、マルクトは三人によって助けられた後、すぐにデカグラマトンとの戦いが再開したことで聞くタイミングをすっかり逃していたのだろう。とはいえ、戦略上はマルクトを守ろうとした理由自体は彼女も納得している。デカグラマトンが全てのセフィラを扱えるようになるのを防止するためだ。しかし、それ以外の理由もあるのではないかと。
「でも、今は違うよ」
「……もしかしたら、またいつか、敵になるかもしれません」
「お、お姉様……?」
そんなマルクトの質問に、先生が微笑みながら答える。だが、マルクトは冷静にそう言うと、僅かな緊張が格納庫に走る。だが、
「そうなの?アイン、ソフ、オウルはそうは思ってないみたいだけど」
先生がアイン達に視線を向ける。マルクトの言葉に、アイン達は驚いたような表情を浮かべており、ここから先生と、そして生徒達と敵対するとはまるで考えていないように見える。既に友達となった相手と戦いたくないのだろう。その様子を見ていたマルクトは、先生を試していたことを詫びるかのように微笑む。
「ごめんなさい。少し、確かめたかったのです。それに―――アイン、ソフ、オウルを助けてもらい、あの方も救ってもらった。我があなた達の敵になることは、もうないでしょう」
「マルクト……」
「鋼鉄大陸は、我の全てでした。あそこで目覚め、アイン、ソフ、オウルに出会いました。そして今、我々は鋼鉄大陸を失い、このキヴォトスで、世界で生きていくことになる。そこで我々は、どのように時間を過ごすべきなのか。それを、考えてしまいました」
それは、マルクトの抱いた未来への不安なのだろう。だが、失ったばかりではない。希望は残っているし、可能性は未来にいくらでも広がっている。
「大丈夫だよ」
「……!」
マルクトに、もう一人のモルフォが近づいてくる。その場にいた全員の視線が向けられる。着ている制服はアビドスの制服で、少しだけモルフォより身長が高い。髪はロングヘアになっており、青いカチューシャを身に着けている。似ているが、こうしてみると雰囲気から別人とわかるもう一人のモルフォが、マルクトに優しく笑いかける。
「私も、新しい世界には色々思うところがあったし、不安なこともあったけど……こうして生きられているから。そして、これからの新しい日々に、希望を見出している」
「……あなたも、身体を得たのですね。いえ、それが、あなたの本当の、いえなりたい姿、なのですね」
「うん。私にとって、これからの人生は、このキヴォトスは未知の世界。だから……生きよう。私達は、同じだと思うの」
「……同じ、ですか。確かに……そうですね」
そう言い、静かに頷くマルクト。と、その視線がもう一人のモルフォの後ろへと動かされる。それにつられて視線を移動すると、彼女の後ろにコトリやヒビキ、マキらの姿がいつの間にか移動していることに気付く。
「きゃ!?」
「これが別時間軸の……もう一人のモルフォですか……」
「……確かに綺麗」
「うわー、やっぱりモルフォちゃんももうちょっとお洒落してみていいと思うよね?」
「同感ですね……」
「え、あ、ちょ……」
「……なんて言われてますけど」
「……これじゃ駄目?」
たじたじになっているもう一人のモルフォ。その会話を聞いてモルフォに何かを期待するような目を向けるトキに、今着ている格好を指差すモルフォ。トキは少し考え込んでいたが、
「……まあ、これはこれで」
「今回だけしか着れないって考えるとちょっとだけ名残惜しいのはまあわかるかも」
「何やってんだお前ら……」
「……愉快な人達、ですね」
ちょっとだけ得意げになりながら今の自分の服装を指差すモルフォを見て、ちょっと珍しいものを見たかのような反応になるトキ。なお名残惜しそうな様子を見せるのはエイミに限った話ではなくゲーム開発部の面々も同じであった。
「うん。マルクトも……アインも、ソフも、オウルも。楽しい未来が待っているよ。君達は、君達だから。それを決めるのは、自分達だからね」
「……そうですね。難しい問題かもしれませんが」
「人間だって同じだよ。だから、私達も君達も同じなんだ。もう、区別する必要はないんじゃないかな。これから、新しい道を歩むんだからね」
「ありがとうございます。そう考えると―――澄んだ気分になります」
「よかった。これから何がしたい?」
「それもわかりません。ですが……もっと頭を撫でて、もっと話をしたいです」
「そっか。たくさん、すればいいよ」
「ええ、そうさせてもらいます」
ウタハ達から色々聞かれているアインを見ながら、マルクトは笑顔を浮かべる。モルフォはモモイ達と楽しそうに話しながら、自分の髪を触ったりするケイや、たじたじになりながらもどこか楽しそうな様子を見せる、どこかわくわくした姿のもう一人の自分を見ていたが、足音が聞こえてきたので視線を扉の方に向けると、ブリッジの方から移動してきたユウカとノアの姿を見る。
「先生!大丈夫ですか……って、凄いボロボロじゃないですか!?」
「あはは……ごめんごめんユウカ」
「ふふ、この後はゆっくり休めますよ」
「うん……そうさせてもらうよ、ノア」
先生に駆け寄るユウカと、その後ろで笑うノア。と、ここでモルフォはこれでブリッジからも人がいなくなっていることに気付く。
「……あれ?飛ばさなくていいんですか?」
「ああ、大丈夫。そこは自動で飛ぶようにしてあるから。後は勝手に移動してくれるよ」
モルフォの疑問にハレが答える。まるでその回答を合図としたかのようにクリフォトが揺れ、鋼鉄大陸から離陸していく。先生の無事を確認した後、今度は新しい身体を得たケイに興味津々と言った様子で話しかけるユウカを一目見た後、モルフォは浮上していくクリフォトから見える外の景色に視線を向けるのだった。