転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「……うーむ」
モルフォのモモトークに入ってきた先生からの質問。それは、シロコにやらせていいゲームはないだろうか?という内容だった。先日、先生に風花雪月をやらせる際に、シロコもその場にいたため、興味が湧いたままだったのだろう。風花雪月自体は先生の判断で面白かったのは間違いないけどこれを生徒にやらせるのはなぁ、という判断が下ってしまったので残念ながらモルフォに返却されてしまっている。そんな先生も今は口直しにペルソナ4をやって楽しんでいるのだが。
「強盗できるゲームとか言ってたけど、さすがになあ……」
無法なゲームというといくつか思い当たるのだが、それを参考に銀行強盗とかを本当にやってもらってはたまったものではない。ゲームと現実の区別がつかなくなる、というほどではないはずだが、問題はシロコがそれに関係なくやりかねない、とモルフォも感じてしまったところにある。現実の強盗の参考にゲームを利用する、とかやられたらたまったものではない。となると、彼女の要望を満たしつつ、現実に活かしようのないゲームを勧めるといいと判断する。
「……じゃあ、あれかな?」
ある候補が浮かび、うんと頷くと、先生にその旨を送信。モルフォの能力については先生の方からシロコに伝えておく、ということでこの日のモモトークでの会話は終わるのだった。
★
翌日。シャーレの一室にモルフォとシロコの姿があった。シャーレはかなり広く、オフィス以外にもこういう、なんてことのないただの部屋もある。事前に先生がテレビを移動させてくれていたため、そこにゲーム機を接続していくモルフォ。その姿をシロコはそわそわしながら見ていたが、接続を終えたモルフォが最後にちゃんと繋がっていることを確認して頷くと、
「シロコさん、準備ができました」
「ん、ありがとう。これはどういうゲームなの?」
シロコにコントローラーを手渡す。どういうゲームをやらせようとしているのか、期待するようにシロコが質問すると、モルフォはそのゲームの名前を口にする。
「このゲームは……風来のシレンです」
風来のシレン。不思議のダンジョンシリーズの一作であり、ローグライクゲームに分類されているもので、毎回姿が変わり、ランダムに生成されるダンジョンをプレイヤーが踏破していくゲームである。ダンジョンの姿、落ちているアイテムの位置や種類、出てくる敵の状況など、様々な要因が重なり、同じダンジョンを攻略することはない。それ故、「1000回遊べるダンジョンRPG」と称されることもある。早速ゲームを起動すると、オープニングが流れ始める。
「……」
まずはそのオープニングを見ていく。黄金のコンドルが棲むところ、そこには幻の黄金郷があるという。その噂を聞きつけ、黄金郷を求める風来人達は、物語の舞台であるテーブルマウンテンへと向かう。主人公のシレンもまた、その一人。テーブルマウンテンを登頂し、黄金郷があるという太陽の大地へと向かうため、彼もまた、この地に足を踏み入れたのだ。
「……このゲームって銃は出ないの?」
「主人公のシレンが使うことはないですね……今作には出ないかな……」
シレンは語りイタチのコッパと共に旅をしており、無口なシレンの代わりに会話をするという役回りを担っている。実際はシレンが喋ろうとすることをコッパが代わりに喋っているためにシレンが喋る必要がなくなり、無口になっているだけなのだが。
「武器は剣と盾なんだ?」
「矢が拾えれば弓も使えるんですけど、装備するものは腕輪も含めるとそれが全部ですね。後はおにぎりや草、壺、杖、巻物もあってそれらを駆使して進めていくことになります」
近接戦闘用の剣に防御力を高める盾、遠距離攻撃用の弓に特殊な能力で恩恵を与えてくれる腕輪。後は回復や攻撃など様々な能力を持つ草や杖、巻物にアイテムの保存や変化などを行ってくれる壺。そして満腹度を回復してくれるおにぎり。こういった多種多様なアイテムがシレンの冒険を支えることになる。とはいえ、序盤はそこまで難しいわけでもない。ターン制の戦闘をこなしつつ、目の前に現れた敵を倒しながらレベルを上げていく。そんな形で順調にシロコは最初の町である竹林の村へと到着する。
「店があるけど、何か買えるの?」
「買えますよ?途中でギタンを拾ってるはずです」
店の中に入ると店員と思われる男性が壺をひっくり返してアイテムをばら撒いてしまう。それも売り物のようでそれらを拾い集めていく。入れ替えるようにいらないアイテムを置いて売った後は暫くは手持ちのギタンというこのゲームにおける金と相談しながら選んでいたのだが、ここで何を思ったのか、突然手持ちのアイテムを全て売ってギタンを稼ぐと、店売りの全てのアイテムを回収し始める。
(……あれ?まさかもう気付く?)
「……これ、泥棒できる」
「えっ、もう気付くんですか?」
どういう嗅覚してるんだこの人!?と思わず困惑している横で、シロコはさも当然のように杖を店主に振る。その杖の名は、ふきとばしの杖。魔法弾の当たった相手を前方に吹き飛ばすという単純な効果かつ、このゲームにおいてはとても強力な効果を持っている。それを使って店主を吹き飛ばすと、シロコは一切躊躇することなく店から飛び出していく。すると、BGMが泥棒状態専用のものに変わり、「泥棒!」という店主のメッセージと共に逃走を開始する。
「ん、欲しいアイテムが全部買えないなら仕方ない。奪い取るしかない」
「……敵が来ましたよ」
「こんな犬一匹に負けるわけが―――」
泥棒を行ったシレンの前に一匹の犬が現れる。たかが犬如きに負けるものかとシロコが意気揚々と挑んだ次の瞬間。その犬から大ダメージを貰い、シレンは一撃で倒れてしまい、初めての泥棒は大失敗に終わってしまう。
「……?????」
倒されたシレンはリスポーン地点である渓谷の宿場に戻される。泥棒に失敗したばかりかここまで稼いできた経験値もお金もアイテムも全て失い戻されたシレンの姿を前に、シロコが思わずモルフォに視線を向ける。
「これ、どういうこと?」
「そりゃ倒されたからとしか……泥棒するとああいう感じでめっちゃ強い敵が湧いてぼこぼこにしてきます。めっちゃ強い装備を揃えたらあいつらとは殴り合えるようになりますが……」
「むぅ……うまくいかない……」
無論、強い装備を揃えて無理やり殴り倒して泥棒するというテクニックも当然ある。あるのだが、道具を駆使すればいくらでも簡単に泥棒ができる。というかモルフォもあの手この手で有用アイテムを盗みまくってきたクチだ。しかしこういうのは本人が気付くから面白いところもある。それに、初見で泥棒ができると気付くシロコの嗅覚なら近いうちに気付きそうだと思い、見守ることにした。
「……よし、山頂を越えた……」
「まずは序盤の壁を突破ですね」
道中、亡霊武者という敵をレベルアップしてしまうモンスターによってレベルアップした黒い蛇のような頭部と背中の人型モンスター、ニシキーンにぼこぼこにされてやりなおしたりするアクシデントに襲われつつも、遂に竹林の村の次の町である山頂の町を越え、山下りを開始する。
「……なんかこいつ強い……!」
「火炎入道は火力が高いので注意が必要ですよ」
炎の人型モンスター、火炎入道に苦しんだり、遠距離攻撃をしてくるコドモ戦車を対処したり進んでいく。そんな中、どこからか砲弾が飛んできて火炎入道ごとシレンが爆発に巻き込まれてしまう。直後、
「爆発で増えた!」
「爆発を受けると分裂するので注意です。特にオヤジ戦車の同行は別の意味で―――」
「でもこいつはまだ遅いから大丈……」
オヤジ戦車なるモンスターが出現。その攻撃は砲弾であり、砲弾によって引き起こされる爆発が命中した次の瞬間、火炎入道が増殖してしまう。増えたモンスターたちに囲まれては一瞬でHPが溶けてしまうと慌てて通路の方に逃げ込む選択肢をシロコは選ぶ。直後、オヤジ戦車の放った砲弾がモンスターを一匹倒したかと思うと、突然レベルアップの音と共にオヤジ戦車の体が青くなり、ガンコ戦車になる。さらにガンコ戦車の砲弾が敵を巻き込んで倒すとその体が赤くなり、イッテツ戦車へとレベルアップしてしまう。直後、
「は?」
倍速行動という特性を持つイッテツ戦車の連続射撃によってシレンは消し飛んでしまい、再び渓谷の宿場へと戻されてしまった。あんまりにもあんまりな理不尽ポイントが存在する……それが不思議のダンジョンというものだが、その洗礼を浴びたシロコの反応はどうなのだろうかと顔色を確認する。シロコの表情を覗き込んで確認してみると、不満げな顔を浮かべていたが、
「次はクリアする……!!」
次こそはクリアしてみせるというモチベーションにすぐに変わっていた。この負けん気ならば風来のシレンを勧めて正解だったなと考えながら、次第にゲームに慣れ始め、遂に後半戦であるテーブルマウンテンに差し掛かるシロコの雄姿を見つめる。
「くぅ……!手持ちのアイテムがなくなっていく……!」
しかし、テーブルマウンテンの難易度はこれまでとは違う。強くなっていく敵、思ったように入らない経験値。窮地を乗り越えるためにどんどん消費していくアイテムたち。途中、地下水脈の村にというテーブルマウンテン唯一の休息スポットで多少のアイテムの補充こそ行えたものの、それでは十分とは言えず。最終的にガイコツまおうというモンスターに睡眠、鈍足状態にされて身動きが取れないところを二回行動できる死神に囲まれてフルボッコ、敢え無く倒れてしまう。
「ん……!」
「ガイコツまおう……ここからですね」
「テーブルマウンテンに入ってからモンスターが強くなってきてる……!経験値が足りない」
「マスターチキンを倒せないのがきついですね。あれをそのまま倒せると一気に経験値が400入るんでかなり稼げるんですけど」
「……そうなの?」
テーブルマウンテンに入ってから、手に入れる経験値は確かに増えた。増えたがテーブルマウンテン突入時のレベルと比べれば明らかに数値が渋い。結果、かなり低いレベルで登るという事態になってしまい、さらに苦戦の要因になるという悪循環に陥ってしまっていたのだ。それを解決する方法の一つがマスターチキンというテーブルマウンテンに出現するモンスター。これの経験値は他のモンスターと比べて明らかに高く、こいつを効率良く狩るだけでレベル問題は大体解決するとモルフォは考えている逸材なのだが、こいつは一定以下のHPになるとチキンというモンスターへと変化してしまう特性を持っている。そしてチキンの状態で倒してしまうと経験値は一気に渋くなってしまうため、シロコは完全にマスターチキンを外れモンスター扱いしていたのだ。
「パワーアップの巻物を残しておくと、マスターチキンのまま倒しやすくなりますね。そうなると一気に楽になります」
「ん、試してみる」
それ故に、モルフォの助言はまさに目から鱗だった。パワーアップの巻物はとりあえず強いやつを確実に倒すために使うものだと思っていたが、稼ぎに使うものだとは思わなかったのだ。無論、シロコの使い方も想定された使い方ではあるのだが、不思議のダンジョンではそう使えるなら何だって正しい使い方なのだ。その差に気付いたシロコはシレンジャーとして完全に覚醒したかのようにテーブルマウンテンまで順調にサクサク進んでいく。物資も可能な限り保持した上でそこそこの装備も揃え、いよいよテーブルマウンテンに突入。温存したパワーアップの巻物を使い、チキン狩りを敢行する。
「おお……!これは、大漁……!」
明らかに効率が違う。レベルがサクサク上がっていく。当然レベルが上がれば上がるほどHPも攻撃力も上がっていき、ダメージが増えていく。持っているアイテムの使い方一つ変えるだけでこれだけ楽になるとは。
「道具は使い方……この思考は大事。当然戦闘においても」
「確かにそうですね……まあ、これはゲームですけど」
「ん、さらに楽しくなってきた」
前回の苦戦がなくなるだけで爽快感がまるで違う。加えて今回は前回の死因となったモンスターの存在も知っている。ガイコツまおうや死神といった危険なモンスターも的確に対処し、遂にシレンは太陽の大地。テーブルマウンテンの頂上へとたどり着く。
「ここが、頂上?でもこれは……」
そこは黄金都市と呼ばれているものの、モンスターによって滅ぼされた都市となっていた。不穏な気配を感じつつも奥へ進み、最終階層である滝壺の洞窟へ入る。そこには、グラフィックが他よりも二回りほどは大きい巨大な蟲、魔蝕虫というボスが他のモンスターたちを引き連れる形で現れ、シレンへと襲い掛かってくる。
「何こいつ……まさかこいつがボス?」
「はい。そいつがボスですね。ここを乗り越えればクリアですよ!」
「ん、アイテムはそこそこある、温存してきたものを全部使って奴を倒す」
ここまで温存してきた全体攻撃用の巻物を始めとするアイテムの暴力を行うシロコ。先にHPの低いモンスターたちが倒れ、魔蝕虫だけになる。しかし、その攻撃力を警戒したシロコはバクスイの巻物と呼ばれるモンスターを眠らせる巻物を使用してその動きを封じ、一度も攻撃させることなくボスを倒してしまう。
「倒した……でも体力が多いだけでそこまででもないような」
「ステータスは高めなだけっていうモンスターですからね魔蝕虫って。アイテムでごり押すならそこまで強くなかったりします。そういうゲームなんですけど」
「……でも、これで終わりじゃないの?階段とかなさそうだけど……」
「あー、奥の壁の方に向かってください」
「わかった」
作品によってはちゃんとしたボスが出ることもある風来のシレンだが、この魔蝕虫に関してはどちらかというと強いモンスターという印象が強い。だからこそ、倒した実感を倒し方によっては得られにくい、というのはあるのかもしれない。シロコの場合はそうだったようで、モルフォのアドバイスに従って奥の壁に隣接するように歩いていると、突然奥への道が開かれる。その先へ進むと、繭があり、それにシレンが刃を入れると、繭の中から黄金のコンドルが出現。シレンは黄金のコンドルと共に黄金都市から飛び立ち、エンディングが始まる。
「……終わっちゃった……なんかあっという間だった……でも凄く楽しかった」
「気に入ってくれたようで何よりです。でも、まさか一日でクリアしちゃうとは……」
「これで終わりなの?」
「いえ、まだまだダンジョンはいっぱいありますよ」
「ん、それは楽しみ。このゲームは面白い、いろんな道具を使ってやりたい放題できるし……今度は強盗を成功させてみせる」
「そ、そうですか……」
泥棒はある意味必須テクニックではあるのだが、シロコの場合は含みがあるように見えてならない。とはいえ、風来のシレンをこれほど楽しんでくれたことにモルフォも嬉しさを感じてくる。
「もっとこのゲームの事教えてほしい、私はこのゲームを通じて色々極めたい」
「あ、はは……極めるの意味は聞かないでおきますけど、でもいいですよ。私ももっと、シロコさんにはこのゲームを楽しんでもらいたいので!」
目を輝かせるシロコと笑うモルフォ。結局、この日は先生が様子を見に来るまで二人は風来のシレンをやりこむことになるのだった。