転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
雲一つない青空が広がるD.U.地区の空。時折の銃声が響くぐらいで呆れかえる程平和……かもしれないキヴォトス。
(今頃、マルクト達どこにいるのかな)
当番でシャーレに訪れ、先生の仕事を手伝うようにキーボードを叩きながら、先日エリドゥから発ったマルクト達の事を考えるモルフォ。マルクト達はこのキヴォトスを巡るために旅立つことを好意的に受け取っているようで、楽しそうに出て行った。その後の事は今は聞いていないが、いずれ風の噂にでも聞こえてくるだろうし、もし何もなかったら戻ってきた時に何をしていたか聞いてみればいい。そんな風にぼんやり考えながらモルフォは書類を一枚手に取る。
(次はこいつを埋め込ん……ん?)
書類を処理するためファイルを開き、数字を埋め込む。これ名前違うだけでほぼExcelみたいだよなぁなんて呑気なことを考えながら作業を進めていたのだが、ここで異変が起きる。本来、最初に数字さえ入れれば後は勝手に計算されていくはずのファイル。だが、その計算が全く行われない。
「……おかしいな。前当番で来た時は普通に使えたはずだけど」
「?ねーねー、どうしたのー?」
「……うわ、最悪……って、ん?」
嫌な予感をひしひしと感じとる。どうかそんなこと起こらないでくれと思いながら調べ始めるモルフォの隣に、金髪金目の小さな少女が近づいてくる。腰からはゲヘナに多い人間らしく悪魔のような羽が生えており、さらに尻尾も生えている。
「あー……誰かにマクロ壊されちゃってね……」
「うわー、大変だね?」
「本当に壊したの誰だっての……とりあえず直していかないとな……先生、このファイルの元ってあります?」
「えっと、も、元?そんなのあったかな……」
「……あの、バックアップとか……これが破損した時用の奴とか……ないんですか?」
「わ、わからない……」
「困るんだよねぇ、そんなことやられると……犯人を潰しにいかなきゃ……」
こてんと可愛らしく首を傾げるその少女の視線の先では先生が冷や汗を流しながらサーバーの中をひっくり返す勢いでデータを探し始める。そんな中、モルフォはどこがやられているのか一通り探して回っていた。
「……はい!モルフォお姉ちゃん、これ!」
「……いやこれ、関数ぶちこんでるだけで言う程複雑じゃないな……この程度なら……ん?」
幸い、手動で数字を上書きして記録するとんでも操作を行われたファイルに使われているのは単純な関数の数々だったため、そこさえ間違えずに当てはめれば修復は簡単であった。前の人は電卓で一々計算でもしたのかと呆れていると、金髪の少女が幾つかの数字を書き込んだ紙をモルフォに手渡す。
「イブキ、これは?」
「この紙の答えだよ!モルフォお姉ちゃん、困ってたからイブキが書いたんだ!」
「本当に?ありがとう、早速動くか確かめてみるよ」
「どういたしまして!」
モルフォに紙を手渡しニコニコと笑うイブキと呼ばれた少女。彼女の名は丹花イブキ。僅か11歳でありながらゲヘナ学園に入学しており、万魔殿に身を置く一年生だ。その愛らしさや可愛さもあって万魔殿の皆からも可愛がられている彼女もまた、シャーレの当番で一緒に来ていた一人であった。モルフォから見た彼女は、良い意味でゲヘナらしくない子だな、というものであった。
「……うん。大丈夫……ふう、ちゃんとファイルは合ってるな。これで次の人も問題はなし、と。ありがとう、イブキ。よくわかったね?」
「えへへ、イブキ役に立てた?」
「もちろん。ちゃんとファイルが使えるかどうかわかったよ。それで先生。見つかりました?」
「ごめん、こっちは何も……」
「じゃあ、こいつをコピーしてそっちをバックアップに残しておいてください。一体こいつに直で数値を打ち込んだ阿呆は誰なんだ……」
イブキがニコニコと笑う横で珍しく怨嗟の色を顔に浮かべるモルフォを見ながら、先生は苦笑する。ちらとタブレットに見たスケジュールには、おそらく犯人と思われる、まぁこの子達なら機械とかソフトの扱いは経験ほとんどなくて苦手であろうなとも思える昨日の当番も映っているのだが、先生はそれを彼女達の名誉の為に見なかったことにする。
「でもモルフォお姉ちゃん凄いね!このファイル、すぐに何の関数が使われてるかわかって直しちゃうんだもん」
「まあ部活でデータとか資料纏めるために簡単なものは作るからね……この関数も何かに使えないか興味があって調べてたものもあるし。まあ丁度いい機会だったといえばそうなるのかな?」
マネジメントなんてやってればスケジュールやら予算やらについてのファイルは幾らでも作るし編集する。もうすっかり手慣れたものだなと言いながらモルフォは思わず内心苦笑してしまう。
「あ、そういえばイロハ先輩も褒めてたよ?」
「イロハさんが?」
「うん!ゲーム開発部ってところでゲームも作っているんでしょ?」
「そうだよ、ゲームを作ることも多いけど、ゲームを作るために遊んだりすることもある場所でね、皆優しくて楽しい場所だよ」
「へえー。イロハ先輩がね、モルフォお姉ちゃんと一緒だとやる気が出てくるって!」
「そんなこと言ってくれてたんだね」
そこまで買われる要素はあっただろうかちょっと考えてみるが、彼女がそう言っているのならきっとそうなのだろうと納得する。
「ねえねえ、イブキも一緒に遊びたいな!」
「いいよ、そのために残ってる仕事を―――」
「それなら、私がやっておくから大丈夫だよ」
「え?」
イブキが向ける笑顔を見て、モルフォも笑いながらそう答える。自分達も高校生ではあるが、イブキは特に年齢だけで言えばまだ小学生、やはり子供なのだろう、まだまだ遊び盛りなようで一緒に遊んでくれないかと頼んできた彼女の頼みを快く受けつつも、シャーレの当番としてきた役目は果たそうと手を動かし始めるのだが、ここで先生が声をかけてくる。
「後の仕事は私一人でも大丈夫だからさ」
「そういうわけにもいかないですよ。シャーレの当番として来ているわけですし―――」
先生はイブキとモルフォに仲良くなってもらいたくてこのように提案してくれているのだろうが、だからといってはいそうですかと素直に頷くのも少々憚られる。ちらとイブキの顔を見たモルフォは一回頷くと、
「じゃあ皆で仕事を終わらせて先生も一緒に遊びましょうよ。イブキも二人より三人で遊んだほうが楽しいと思うでしょ?」
「うん!皆で遊んだほうがイブキは楽しいよ!」
「……うん、わかった。じゃあ、皆で頑張って仕事を終わらせようっか」
そう言いイブキに笑いかける。それを聞いたイブキもモルフォだけでなく先生とも遊ぶ方が楽しいと思ったのだろう、満面の笑みで頷いたのを見ると、先生も表情を緩ませながらそう頷き、先ほどよりもやる気を出して仕事に取り組み始めるのだった。
★
やる気を出して仕事を終わらせた先生を筆頭に三人で協力して仕事を終わらせると、何か遊べそうなものがないか探しに先生がオフィスから出て行く。その後を駄菓子を食べながらモルフォとイブキは待っていた。
「……これ、粉ジュースじゃん。こんなものまで買ってたんだ」
「イブキ知ってる!これに水を入れてジュースにするんだよね!」
「そうだね。それが普通なんだけど……これはこう使うんだよ」
シャーレにはいろんな生徒も来るためか、いつの間にか当番で来た生徒が摘まむ駄菓子やらも豊富になってきた気がする。先生曰く百鬼夜行の方にいい駄菓子屋があり、見ているとどうも懐かしくて通販で取り寄せていると言っていたとのことだが。なお、紹介したのはユカリらしい。
「え!?粉ジュースにゼリー入れちゃうの?」
「そっ、グミの表面に粉とかが付いててサラサラしてるやつだと駄目なんだけど、こうやってちゃんと粉が付くお菓子なら……」
グレープ味の粉ジュースの中に、ラムネ味のグミを入れる。そして粉ジュースをグミの表面に付けて取り出すと、そこにはグレープ味の粉をまぶしたグミが出来上がり、それを口の中に入れる。
「グレープラムネ味になる……ってね」
「わー!イブキもやるやる!」
粉ジュースにはグレープ味以外にもコーラ味やらオレンジ味やらパイン味やらやたら豊富にある。それらの粉をグミに付けて口の中に放り込むと粉ジュースのザラザラ感と酸味と果実の甘みが丁度いい感じのアクセントになってグミの甘さをより引き立てるようになる。
「美味しい!これ今度皆に教えてあげようっと!教えてくれてありがとうモルフォお姉ちゃん!」
「いいっていいって。楽しい事や美味しい食べ方なんて皆知っていていいものだからね」
「うん!ねえねえ、他は?他に何かある?」
「他かぁ……他というと……このヨーグルトっぽいお菓子に、この小さいラムネ状の駄菓子を入れるとかも中々……」
「あ、これ美味しい!ラムネの触感がいいね!」
(これ……あの駄菓子っぽいけど、もしそうならこれヨーグルトじゃないんだよね……)
モルフォの記憶にある駄菓子。それは一見ヨーグルトのように見えるし、実際風味などもそれっぽいのだが、実際はヨーグルトではなく、主原料としてグラニュー糖やショートニングを加え、香料やら酸味料を入れて調整したお菓子だったはずだ。少なくとも味はそんな感じだ。だからこそ、そこにラムネを入れてアレンジするだけでもさらに美味しくなる。
「うーん、美味しいー!これも後でイロハ先輩に教えてあげようっと!」
駄菓子と駄菓子を組み合わせることで行われるアレンジという新たな道をイブキが開拓させられていると、先生が箱を持ってくる。先生はイブキが粉ジュースの中にグミを入れている様子を見ると、昔を思い出したのか懐かしむような表情を浮かべる。
「凄く懐かしいね……やっぱり子供って皆その食べ方をするのかな」
「あ、先生!先生もやってたの?」
「あはは……実はね。カツ……まあ実際に豚肉を使ってるわけじゃなくて魚なんだけど、カツっぽいお菓子があってね。それを小さなカップラーメンがあるんだけどそのスープに浸して……」
「おお……」
「っとそうだ、色々持ってきたんだけど、どうかな?」
「結構種類ありますね。マンカラとかも入ってますけど。先生買ってきたんですか?」
箱の中を見ると以前イロハとやったマンカラを始めとしたアナログゲームが色々と入っていた。大半は先生が面白そうと思ったり懐かしいと思ったりで買ったものでラインアップが増えてはいるのだが、一応理由としては色々な要因で生徒達を待たせることも多々あるために彼女達の時間つぶしや交流も兼ねてで用意しているものらしい。
「先生、これなーに?」
「……ルービックキューブ?」
「ああ、ムービックキューブだよ」
「「ムービックキューブ?」」
ムービックキューブ……もといルービックキューブとは、異なる六色で構成され、各面がを九マスに分割された立体パズルである。任意の各列を回転させることで分割されたキューブが動き、それによって各面を同一の色に揃え、六面全てをそれぞれ一色に揃えることを主な目的としている。
なお、ルービックキューブの起源はハンガリーの建築学者が考案したものとなっており、この名称も登録商標となっているためなのか、キヴォトスにおいてはムービックキューブなる存在に成り代わっているようである。
「凄いカラフルだけどこれ……あれ?一面だけ色が同じ!」
「あ、はは……これは……」
「先生、一面だけ揃えて力尽きましたね?」
「うう、面目ない……」
このパズルの最終目的は六面全部をそれぞれ一色に染め上げることだが、そこに辿り着くまでが中々に難しい。手慣れた人ならば高速で組み立てていくのだろうが、その境地に辿り着ける人は決して多いわけではない。むしろ、一面を組み立てるだけでも初心者からすれば大分健闘したと言えるだろう。
「うーん」
イブキがキューブを手に持ち、全体を見ていく。そして一分程見ていると、唐突にパズルを動かし始める。
「イブキ、わかるの?」
「えーとねー、これでいけるはず!」
「……あー、そこそういう動きだったっけ」
イブキの手の中でパズルがどんどん組み立てられていく。途中途中でちゃんと色が揃っているかどうかチェックしながらゆっくり、着実にラインが、色が揃っていく様子が先生の目から見てどんどんわかる。そして数分が経過し、イブキの手の中に完成されたキューブが収まる。
「できたよ、先生!」
「凄い!凄いよイブキ!」
「おめでとう、凄いねイブキ」
「じゃあ次は、モルフォお姉ちゃんの番!」
「え?私?」
イブキからムービックキューブを渡されたモルフォはなんとかやれるかなと少し不安になりながらイブキが揃えた色を崩していく。そして一通り崩し終えた後、色を揃えていく。
「えーと、まずは一面揃えてから……右下が空いている時は……確かこういう感じでねじ込んで……よし、まずは一面」
「は、速い……!私の時は数時間苦労したのに」
「案外手は覚えているもんですね」
ある程度ぎこちない動きになりつつもちゃんと一面を揃えたモルフォの動きに先生も感嘆の声を漏らす。
「さて、こっからは確か……一面とその側面一段目を揃えるのがいいんだったかな」
一面を揃えると、その色と隣接する色はバラバラになっている。なので、その色を入れ替えて、一段目の色を揃えていく。
「モルフォ、よくわかるね……」
「多分私はどういう動きしてどこ行って……みたいなのは覚えてないですよ。こう動けばここのはここにいく、ってのを覚えていてそうするにはどう動くのかを手が動いてるだけって感じで。ちょっと昔、攻略法調べて動かしまくってた時期があったんですよね」
段々手がキューブの解き方を思い出したのか、今度は真ん中の段のマスを埋め始める。先生はよく見てみると、動き方がある程度固定されているという事実に気付く。
「あれ……動き方が一緒?」
「そうだよ?揃ってる面はそのままにしながら、まだ埋まってない所を入れ替えるように動かしていくから、動きは一定になるんだよ」
「多分ここら辺は調べれば普通に出てくると思いますし、こういうパズルはわからないなら一回調べて叩き込んでからやってみるのもいいかもしれません。いくら考えてわからないものまであれこれ躍起になるのもそれはそれで楽しいですが割り切りもありだと思いますよ……っと。ここまで来たら今度は最初に作った面の反対側を作っていくっと……」
これで、残るは最初に揃えた面の向かいにある面と、その面が接する一段だけだ。だがここでもモルフォは基本的に同じ動きを行い、全く揃っていなかった面に十字に固まった色を生み出す。と、ここでモルフォはその十字ができた面と接する一段目を注意深く見ていく。
「今度はどうしたの?」
「ここ。展開図次第で動かし方が変わるはずなんですよ。展開図の方はまあ問題ないんですが、これはどういう動かし方だったか……えーと……」
ある程度動かして、これは違うなと逆に動かして元に戻す。それを何回か繰り返していく内に、やがてこれではないか、という手を見つけたのだろう。ゆっくりと、動きを確かめるようにキューブを回していく。それを繰り返していくこと約五分程。
「いよし、これで二面完成」
「お、おお……!!」
遂にモルフォは二面を揃えることに成功する。先生がぐっと手に汗を握りながらモルフォの成果を見ている中、モルフォはまだ残っている一段目を見る。それを見て先生も、ここからは特に大変そうだなと考えながらモルフォが横四面の一段目を見る様子を見る。イブキはニコニコと笑いながら、モルフォの様子を見ていたが、先生はイブキが確信を持ってモルフォを見ていることに気付く。
「……うん、思い出してきたぞ。ここは、確かこんな感じでこう動かしていけば……で、ここからちょっと向きを整えてあげれば……よし。これで……一段目の真ん中以外全部揃ったと」
「四隅が埋まった……後は、この四か所だけだね」
それぞれ四面の一段目の中間が抜けている状態。だが、ここまで来たモルフォの手の動きは早かった。ここも覚えているのか迷うことなく手を動かして回転させていく。そして一分程が経ち、回転を止めたモルフォが最終チェックをするように六面を全て見ていく。そして、完成したキューブを机の上に置く。
「……完成です!」
「すごいすごーい!!」
「おめでとうモルフォ。いや凄いよ……私なんて一面でギブアップだったのに」
汗を拭い、やり切ったという達成感を胸に拳を突き上げるモルフォ。イブキや先生が満面の笑みを浮かべてそれを祝福していたが、モルフォは今度は先生の番だと言わんばかりにムービックキューブを先生の下へと動かす。
「え、えっと?」
「いやぁ、イブキに私と来たら先生もやるのが筋では?」
「大丈夫!わからなかったらイブキが教えてあげる!」
「まあ、原理が分からなかったら動かし方は今ので大体面白かったので教えられますよ」
「え、えっとモルフォ、わからなくても大丈夫なの?」
「公式はですねぇ……仮に意味がわからなくても正しく数字入れれば正しい答えが出てくるんですよ……自分が常用するのはさすがに知ってますけどね」
ムービックキューブを受け取りながら、苦笑を浮かべる先生。おそらくその脳裏には過去の激闘が思い出されているのだろう。ムービックキューブという強敵を前に、今度は頼りになる生徒二人と共に挑まんとする先生。
なお、途中で回し方を間違えてぐちゃぐちゃになってしまい最初からやり直す、といった目に何回か遭ってしまったが故に先生が無事にムービックキューブを組み立てるまで一時間ほどを要することになるのだった。