転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「……はぁ」
シャーレに向かう列車の中。席に座っていたのは正義実現委員会の制服である黒いセーラー服を着た少女だった。シャーレの当番に向かおうとしていたところであり、それ自体は嬉しいことではあるのだが、
(なーんかいまいち乗り切れないなぁ)
どことなく燻ぶったものを感じていた。列車がD.U.地区に到着して街中に出ると、風が彼女の黒い長髪を揺らす。陽の光を細い糸目で見上げていた。
(セイア様やミカ様がデジタルゲームにハマってる……みたいな話もあるし、それもあってかトリニティでもゲーム流行ってるみたいだし、私も何かやってみても……でも、色々あって何やればいいかわかんないし……)
彼女の心の中のもやもやは、趣味探しがうまくいかないことにあった。これまで、様々な娯楽などに手を出しており、ゲームにも手を出していたのだが長続きはしなかった。
「……話題だから買ったゲーム、買ったのはいいけど途中で止めちゃったんスよねぇ……まあ後からクソゲーだってのを知ったんスけど……はぁ」
その時はゲームが悪かったのだと後から知ったのだが。その時の手痛い経験のせいで、興味はあるのにもう一度やろうという気持ちは中々湧いてこなかった。そのせいで余計にもやもやするのだ。
「そういえば今日、一緒の当番誰か確認してなかったっっすね」
シャーレの当番に来る日が決まったのはいいが、誰が来るかまでは確認しきれてはいなかった。昨日確認しようなんて思っていたが正義実現委員会の活動が忙しかったのだ。そのまま確認せずに寝てしまい、今日の朝も確認するのを忘れていた。
(ま、いけばわかるっすよね)
とりあえず相手が誰でもやることは変わらないだろう。ついでに何かしら話をして、新しい趣味への手がかりが見つかればいいな。そんなことを考えながら少女がシャーレのオフィスに入ると。
「……おや?あなたは……」
「……む」
そこにいたのは、なんとメイド服の少女、トキであった。イチカも話はしたことはないが、エデン条約の調印式の際にゲーム開発部の救援に現れていたこともあり、顔だけは知っている。風の噂ではあるがアリウススクワッドを滅多打ちにしたとかなんとかで、キレさせると怖いんだろうなぁという認識ができていた。
(……知らない相手なのにこんなこと考えちゃうのも失礼な話だけど)
「その制服、正義実現委員会ですか」
「ええ、仲正イチカっす。よろしくお願いしますね」
「飛鳥馬トキです。一年生ですが留年してるだけなので同年代として接してくれても構いませんよ」
「いや、それは色々無茶が……」
「あはは……とりあえず二人とも、仕事の方を手伝ってもらっていいかな?」
中々に個性が強いなこの子……でもどこも似たようなものかと考えながら、イチカが苦笑する。先生の言葉を受け、イチカとトキがそれぞれ慣れた手つきで仕事を始めていく。トキの方はミレニアムの生徒らしくパソコンの扱いも長けており、一方のイチカは書類仕事の方は慣れた手つきで行っている。正義実現委員会ではこういうこともよくやる機会はあるのだろう。
(……静かだなぁ)
特に話もなく、必要最低限のコミュニケーションで仕事をてきぱきと進めていく二人。イチカは飄々としている様子もあるが相手からアクションをぶつけないと大体こんな感じだし、トキは打てばちゃんと返してくれるか乗ってくれると判断した相手以外には中々自分から強く絡んでいくことはない。そんな組み合わせなため、別に悪いというわけではないがどこか事務的な風景が広がっていた。
「……む?ここの書類の数値……ちょっとおかしくないっすか?」
「少し計算し直してみましょうか……ふむ。確かに計算結果が変わっていますね。おそらく元データを入力した時にタイプミスで数値が変わってしまったのでしょう」
「手書きも手書きで面倒っすけど、こういうのあるからファイルでやるのも面倒っすよねぇ」
「そこは一長一短ですね。まあ、最後に確認するなどしてある程度ケアはできるのですが、それも決して完全ではありませんし」
こうして、とっかかりがあればある程度は話が膨らむので決して相性が悪いわけではないのだろう。無言の付き合いというものもあるし、それはそれでいいのだが、トキの方を見ると時折うずうずしているような、そんな様子が見える。なんとなくだが、遊びたがっているのではないかと先生は気付く。
(そうだ、あれなら……)
先生の脳裏に妙案が思いつく。その代償として自分の仕事量がちょっと増えることになるがその程度は必要経費だ。そう判断し、昼休憩になると手早く昼食をオフィスで取り始める二人に一言だけ告げて先生の寝泊りしている部屋から携帯ゲーム機を持ってくる。
「……?先生?」
「それは……ゲーム機っすか?でも、なんでいきなり」
「えっと……二人とも、これをやってみない?」
ゲーム開発部、そこに限らずいろんな人たちが様々な娯楽で仲を深めているように、先生もここは娯楽の力を借りることにする。ゲームに対して少し抵抗感のあるイチカがそれを受け取る。
「……メイトインワリア?」
メイトインワリア。それはモルフォの世界に存在する、メイドインワリオというゲームに酷似したゲームでシリーズ化もされている名作瞬間アクションゲームである。メイドインワリオにおいてはマリオシリーズに登場するワリオというキャラクターがワリオカンパニーを設立し、仲間達と共にゲームを作っていくという設定となっており、プチゲームと呼ばれる短時間で終了する簡単な操作のミニゲームを連続で行っていくだけのゲームである。このキヴォトスでも登場するキャラこそ変わっているがそれに似たゲームであるといえよう。
「……ああ、そういうゲームですか」
「うん、面白かったしさ。二人で交代しながらやってみたらどうかなって。結構仕事に熱中してるし、息抜きは必要でしょ?」
「……」
協力ゲームをやらせようと最初は思っていたが、それだと逆に友情破壊ゲームと化して悪化する可能性だってある。それならば一人用で途中での交代も簡単なゲームを選んで一緒の経験をしてもらう方がいいだろうと判断したのだ。
「「……」」
ちらと二人が先生を見る。先生は朝、仕事前にエンジェル24で購入したであろう菓子パンを食べ始めており、食事中に声をかけるのは憚られた。
(正直、そっちについてはあまり期待してもらわないでほしいんすけど……まあ、出されてやらないってのもそれはそれであれですしね……はあ。久しぶりのゲームがこんな形になるなんて)
「……では、イチカさんがお先にどうぞ」
「?いいんですか?」
「ええ、どうもゲームに対して拒否感みたいなものを持っていてあまりやっていないようなので。先生が勧めている以上クソゲーということもないでしょうし、それなら簡単な難易度の時から触れた方がいいのかと」
「……では」
トキの言葉を否定する材料も見つけられず、イチカはゲーム機を受け取って起動させる。そこにある黄色い帽子を被ったちょっと悪そうな顔の少女。彼女が主人公なのだろうかと考えながらゲームをスタートすると、ちょっとしたオープニングの後にいきなりゲームが開始する。
「えっ、ちょっこれは」
(ステージを選んで、とかそういうの抜きでいきなり始まるんですね……)
今作では様々なキャラクターが登場し、それぞれのジャンルに合わせたプチゲームを行う事になるのだが、ゲーム開始直後、ファイル作成後はいきなりワリアと呼ばれるキャラのステージが始まり、早速プチゲームを始めることになる。
「―――!」
そしてプチゲームの内容は簡単だ。「ダイヤをとれ!」「とめてぇ~!」「よけろ!」「かくじつにうて!」「シャツをきれ!」「やつをおえ!」といった、簡単なゲームクリアの条件と視覚的に分かりやすいゲーム画面が現れる。クリアの目的も合わせ、直感的にどう動けばいいかがプレイヤーにもわかりやすくなっており、十字キーとAボタンの二つだけを使い、それらを連続してこなしていくのが今作の基本的な動きとなっていく。
「……随分手慣れていますね?」
「まあこれがやりやすいゲームなのはありそうっすね」
「それは楽しみですね。こういうミニゲームがメインとなるゲームはちょくちょく皆とやりますが、一人で黙々とやるのも乙なものです」
(皆と……やっぱり、ゲーム開発部すかね……)
最初は驚きもありつつも順調にクリアしていく。その様子を見て少し感心したように声をかけるトキにゲームに集中しながら返答すると、最後のボスステージに辿り着く。通常のプチゲームは制限時間もかなり短いのだが、ボスステージに関しては制限時間もそこそこあるのだ。といってもその内容もそこまで複雑なものではない。ぶら下がった球を連続で殴りつけて破壊するだけという単純なものだ。それを含めた十のプチゲームを攻略するとステージがクリアになり、次のキャラのステージに挑戦することが可能となる。
「……次はそちらの番っすよ」
「では」
ステージを一つクリアしたのなら交代のタイミングとしては丁度いいだろう。そう判断し、ゲーム機をトキに手渡す。楽しそうにそれを受け取ったトキが画面を除くと、アフロが特徴的なキャラクターが映っていた。
「これがこのステージのキャラ、ジーミーですか……やたら責任がどうとか言ってるのが気になりますが、キャラ付けの一環ですかね」
ジーミーのステージで行うのはスポーツをモチーフにしたプチゲームとなっている。ゴルフではパターでボールをカップインさせる、ゲージを最大まで溜まった部分を見計らって瓦割ならぬ大木割を成功させる、スキージャンプを成功させる、一輪車でバランスを取る、テニスのラリーを続ける、縄跳びを跳ぶ、ハードルを跳ぶ、サッカーのPKを制する、スノーボードでゴールを目指す、フリースローを決めるといった様々なプチゲームが存在する。
(……よくこれ作ってた人達はこれだけのものを捻り出してきたものっすね……)
その画面を少しだけ距離を取って見ていたイチカは制作者達のアイデアの数々に驚いていた。ワリアのステージとはまるで違うプチゲームが、これだけある。しかもまだ二人が見ていないだけで一つのジャンルに対してもまだプチゲームの数はあり、なんならこの先にもそれはあるのだ。それを考えると尚の事このゲームを作った人たちの凄まじさを感じてしまう。
「……ここはステージ数は十で終わりではないんですね?」
「……そういえば」
そうしているうちにトキも前回のステージであればクリアしている十番目のプチゲームをクリアしたのだが。そこだけでは終わらずステージはスピードを上げながらまだまだ続いていく。このゲームではプチゲームをある程度クリアするとゲームスピードが上がり、難易度も変わっていく。そればかりか、プチゲーム中にもフェイントを入れられたり純粋に難易度が上がったりと歯応えも増していくのだ。
「……ふむ、15回目で終わりでしたか」
そして15番目のステージ。このステージのボスはここで登場するものとなっており、その内容はボクシングとなっている。といってもその内容は簡単で、相手の攻撃を避けてカウンターでパンチを叩き込むのを繰り返すだけとなっている。そのため、最初こそ何も考えずに攻撃して防がれたこと以外は簡単にゲームをクリアしてしまう。
「ま、ざっとこんなものですね。さあ、交代といきましょうか」
「……どうも……って、次はステージが三つ?」
「ああ、そういえば三つ出ると言っていましたね。まあ好きなのをやればいいのでは?」
「……じゃあ」
ジーミーの次は三人のキャラが出現し、それぞれに対応したジャンルのプチゲームをすることになる。その中でSFというジャンルのステージがあったので、他のジャンルがヘンナノだったりよくわからなかったので名前に惹かれてイチカはそれを選ぶことにする。
(そういえばプチゲームに入る前の画面も毎回違うんすね……)
プチゲームに入る前の画面には残機が表示されているのだが、それを含めた画面も毎回違う。最初のワリアのステージならラジカセ、ジーミーならガラケーの画面、そして今回でいえばタクシーといったように。
(……あれ、これは)
ふとイチカは、やっているプチゲームのラインナップに最初のステージでやっていたものがいくつか含まれていることに気付く。
「……一つのステージに限定しているわけではなくてプチゲームには複数のジャンルがあってそれぞれのステージに割り振られているということですか」
「そうみたいっすね」
イチカの疑問をトキも抱いていたのだろう、その疑問に対する結論を述べる。その答えにイチカも内心納得しつつも、空を飛ぶヒーローがビルの間を抜けたり、忍者が矢を避ける、バイクに乗ったヒーローが山を越えて着地したり、降り注ぐ爆弾を避けたりといった内容をこなしていくのだが、
(あれSFってもっとこう……宇宙とかそういう系じゃ……?)
ラインナップが思ってたSFと違うような気がし始めていた。とはいえ、そもそもSF自体は空想科学とかそういう類のものなので、こういうヒーロー系もあながち間違ってない場合が多いのだが。とはいえ、これはこれでわかりやすいしやっていて楽しいので深く考えずにどんどんステージをクリアしていく。
(それにしても長いっすね)
(さっきのステージを越えましたね……どこまで続くのでしょうか)
そしてこのステージはこれまでと比べてクリア数が多い。それもあってか、段々UFOを操作して障害物を回避したり、ロボットを合体させたり、宇宙空間の中射撃を行ったりと、イチカのイメージしているSFらしいプチゲームもちょっとずつだが出始める。そして最終ステージは何と25とこれまでで最長。
「こ、これは」
「シューティングゲームか、クリアできるかな?」
「舐めないでほしいっすね……これぐらい……!」
そして最後のボスステージは何とシューティングゲーム。自機を操作して敵を倒し、アイテムを入手して自機を操作することで弾を3WAYにして射程を広げたり、バリアを付けて安全を確保したりする。とはいえ、よくあるシューティングゲームのような嫌らしい敵が出てくるわけではなく、ボスも本体がバリアに覆われており、バリアをぶつけてダメージを与えようとするだけであるためそれを避けて安全にダメージを刻んでいけば簡単に倒すことができる。
「ふう、まあこんなものっすよ」
「だいぶ当たり判定胡散臭いですね。バリアにも当たり判定があるタイプのゲームだったとは」
「まあ、わざわざ突っ込んだこっちが問題といえば問題なんすけど……」
今度はトキがヘンナノというジャンルのプチゲームの数々をやってみることにする。
(これは……)
(確かに……)
((ヘンナノ……))
が、そこにあったのは歯を磨かせる、鼻の中に指を突っ込む、トーストをキャッチさせる、奇妙な生き物を掴む、消火活動を行うなど、言われてみると確かに変なものばかりだ。とはいえ、やってみて思わずクスリと笑みがこぼれてしまうものもそこそこ多い。
「む……ここは15回で終わりですね。ばらつきがあるようで」
「……私のが長かっただけみたいっすね」
ここの最後のミニゲームは釘打ち。タイミングを合わせて釘を打つだけという簡単なミニゲームである。サクサクとゲームをクリアし、再びイチカの番に。残ったステージは他の同社のゲームを元としたプチゲームの数々なのだが、その性質上、元のゲームを知らないとクリア条件はわかるが本当にこれで大丈夫かと迷ってしまい、そのせいで失敗して残機を失う場面も増え始める。それでも無事にクリアすると今度はリミックスされるステージが解放される。
「リミックス……」
「ここからはこれまでの混ぜ物になると」
さくっとトキがリミックスをクリアする。が、次に現れたのは新キャラと新ジャンルのステージ。イチカはリアルというジャンルに挑戦することになる。
(とはいえSFを見るにリアルと呼ばれても……って所はあるんすけどね)
ゲームでリアルとは何をするのかと多少身構えていたイチカだったが、リアル調なキュウリの絵柄を揃えたりステーキを斬ったり、光の反射を利用したりといった内容をこなすことになり、確かにこれはリアルだと納得する。他にも犬にお手をさせたりといったほっこりとする内容や、リアルな人間を動かしてスイカの落下を受け止めたりみたいなくすっとしてしまうものまで多種多様だ。
(これは……他のよりもちょっと笑えて面白いっすね)
ボスステージはディフェンスゲームのようになっていたが、何度か失敗しつつも無事にクリアし安堵する。
「今のは中々面白いステージでしたね。まあ、他のも楽しいのですが」
「まあ、そうっすね。本来のゲームの楽しさがこういうのであれば、見る目は変わりそうっす」
次の番を催促しているかのような動きを見せるトキにゲーム機を渡す。そんな二人が、ゲームを通じて話題が盛り上がっているところを見て先生も安堵する。この後は徐々に難易度が上がったりぱっと見てわかりにくかったりみたいなプチゲームも増え始め、失敗したりする場面も増えてくる。そんな中でも、二人は頑張ってエンディングを目指すことになるのだろう。
(セイア様が贔屓にしていると噂のゲーム開発部、か……その内、調べてみてもいいかもしれないっすね)
そうぼんやり考えているイチカだったが、お昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴り、二人は一旦中断して仕事の方へと取り掛かるのだった。