転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする   作:popoponpon

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花岡ユズとロックマンゼロ

 

夜の寮。そこではモルフォが忙しない様子で自分の部屋の中を歩き回っていた。

 

「やっば、やっば……!」

 

顔を真っ青にしながら、自分の部屋をひっくり返していたモルフォ。彼女が探していたのは、ある物体。それは、本来この世界には存在しないはずのゲーム機。

 

「……アドバンスが、ない……!!」

 

声を震わせながら、モルフォは項垂れる。彼女が探していたのは、言わずと知れた神ハード(といってもこの世界では彼女しか知らないが)、ゲームボーイアドバンスSPだった。彼女が部屋に戻ってきて、さっそくゲームをやろうと思っていた時に、どこにもそれがないことに気付いたのだ。

 

てっきり、鞄の中に間違って入れてしまったのかと思ったが、そんなこともない。もし、もしも万が一、このゲーム機を外に持っていってしまい、誰かに見つかってしまったら。それは、非常にまずい。

 

「……も、モモイとミドリに見つかってないよね?まさかゲーム開発部に落としたことに気付かずに帰ってしまったなんてことは……」

 

彼女の脳裏に浮かんだのは、今日の夕方、ゲームガールズアドバンスSPというゲーム機をゲーム開発部に持っていってモモイ達と遊ぼうとしていた記憶だ。だがあの時、モルフォはそのゲーム機を忘れてきてしまった。それは何故かというと、名前の似ているゲーム機であるゲームボーイアドバンスを入れてきてしまったのだ。しかし、その時は確か、忘れてきちゃったといって別のゲームで遊んでいたはずだ。ゲーム機だって鞄に入れたまま。落ちているはずがない。そう、思いたかったが、

 

「……まさか、ね……」

 

鞄は開けた記憶はある。そのせいで、嫌な予感は、拭えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

たった一人だけの空間。そこで、赤髪の少女、花岡ユズは一心不乱にゲーム画面に集中していた。彼女の両手に握られているのは、藍色の折り畳み式のゲーム機。GAME BOY ADVANCE SPとゲーム機に書かれたそれを、黙々と動かしていく。

 

「……」

 

彼女の視界に映るゲーム画面には、ドットの世界が広がっていた。お世辞にも、今の時代によく使われる3Dモデルやアセットのようなものとは違う。一昔前のゲーム機によくあるキャラデザだったが、これはこれで味がある。何より、主人公が格好良かった。

 

「……ゼロ」

 

ユズの操作を反映し、敵であるロボット……いや、作中ではメカニロイドと呼ばれていたか―――を切り捨て、撃ち抜く。ダッシュやジャンプをするたびに金色の髪が揺れ、赤を基調としたそのレプリロイドと呼ばれるロボットがステージの奥へとその身を躍らせる。彼女がやっているゲームのタイトルはロックマンゼロ。封印されていたゼロと呼ばれる記憶喪失のレプリロイドを復活させたレジスタンスと科学者の少女、シエルが、ネオ・アルカディアに対し反撃していく……というアクションゲームだ。

 

「……ふぅ、100点……」

 

ステージをクリアし、ちゃんとリザルトが100点であることを確認する。ダメージを受けたり、敵を倒す数が足りなかったり、クリアまでに時間がかかったりするとこの点数が遠慮なく削れていくのだ。エナジードリンクを一口含んで水分補給をすると、部室を見る。そこには、モルフォが落としたと思われる、丁度ゲームボーイアドバンスSPが入るケースが置いてあった。

 

「……これ、見たことのないゲームだけど、モルフォはどこでこれを……」

 

モモイとミドリもいなくなって、ただ一人残ったユズ。このまま、部室で一夜を過ごそうと思っていた彼女は偶然、モルフォの落とし物を見つけたのだ。明日、モルフォが来たら返しておこうかと考えていた。しかしそれが、彼女も知っているあるゲーム機にそっくりだった。最初は偽物なのかと思ったが、カートリッジが刺さっていることに気付き、それを見たところ、それが彼女の知らないゲームであることに気付いたのだ。

 

「……後で聞こう。それよりも、こんな面白いゲームが、あったなんて……!」

 

確認するだけ。見るだけ。データの上書きとかはしないから。そんな気持ちでロックマンゼロを始めてみると、すぐにその世界観に引き込まれた。セーブデータも三つ保存でき、ノーマルモードとハードモードでそれぞれセーブデータが分けられているのを除き、一つだけ何も保存されていない空白のセーブデータを発見した瞬間。ユズの脳裏に悪魔がプレイしてもいいんじゃないかと囁いた。

 

そして、彼女はその誘惑に打ち勝てなかった。

 

「難易度は普通のアクションゲームにしては少し高め……でも、だからこそやり応えがある……爽快感もあるし、ストーリーも引き込まれる……」

 

カチャカチャと次のミッションに入り、画面内の主人公、ゼロを動かしていく。このゼロが一々、クールで格好いいのだ。キャラのアイコンもちょっと荒く見えるが、だからこそ、このレジスタンスの苦しい現状と、このディストピア感溢れるSFチックな世界観の演出に一役買っている。

 

「……このボス、ハメられる?」

 

ミッションを進めていく中、現れた一体のボスの挙動を見て、あることに気付いたユズは早速それを実践する。二本のセイバーを持つ緑色の人型レプリロイドが、ユズの予想通り、無事にハメられる様を見届けつつ、最後のライフを刈り取っていく。

 

「よし……成功」

 

ミッションはさらに続いていく。そんな中、ユズが取り出したのは、このゲームにおける基本武器であるセイバーとバスター以外の武器だ。このゲームではトリプルロッドと呼ばれる槍と、シールドブーメランという敵の弾を反射する盾。この四つの装備が、ゼロとユズの戦いを支えるのだ。特にトリプルロッドを真下に突いて敵に命中させると、ゼロの体がその体勢のままジャンプする。俗にいうホッピングというテクニックを使用すると、楽になる場面も多い。

 

「……終わった……」

 

熱中すること数時間。ユズは無事、このゲームをクリアしていた。ネオ・アルカディアを支配していた偽物のエックスなるレプリロイドを破壊し、戦いに疲れた友から想いを託される。そしてゼロは、自分を取り囲む敵の大軍を前にしてもその闘志は揺るがず、悩むことなく戦い続ける。

 

「楽しかったけど……CAPCOM?そんなゲーム会社、ないよね?」

 

ゲームを終えた達成感に一しきり浸った後。ユズが気になったのは、そのエンドクレジットだった。そこには、自分の知らないスタッフたちの名前が次々と流れていた。いや、そこは別に構わない。それよりも問題なのは、制作会社の名前だ。念のため、スマホでも調べてみるものの、同名の企業は全く出てこない。インディーゲームの製作者かと思ったが、そちらの線でも何も引っかからない。

 

「……どうなってるんだろう……なんでモルフォは、このゲームを……」

 

と、ここまで話してユズは、モルフォがモモイから勧誘を受けていた話を思い出す。その度にモルフォは、自分は作れる人間じゃない、という形で拒否してきていた。その理由がもし、このゲームにあるとしたら。

 

「……でも、こんなにゲーム、好きなのに……」

 

ユズがセーブデータの画面を開く。ユズがプレイした時間はまだ数時間だったが、モルフォがプレイしたと思われる二つのセーブデータはどちらも数十時間は遊びこまれていた。これは間違いなく、このゲームをモルフォが愛し、やりこんでいる証だ。

 

「……よし」

 

ゲーム開発部によく遊びに来て、皆と遊ぶ少女。自分が心を許せる数少ない友人の一人に、実際に話を聞きに行こうと、ユズは思い立つ。ついでに、勝手にゲームを遊んでしまったことを謝ろうと思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……ばれちゃったかー」

 

翌朝。モルフォの部屋まで足を運んだユズは、彼女から苦笑されていた。ユズを部屋の中へと上がらせ、ゲーム機を返してもらったモルフォは、ユズに自分の秘密を明かしていた。

 

「まあ、何となく気付いてるかもしれないけど、昨日ユズがやってたロクゼロも、ここにあるいろんなゲームもホビーも、本来この世界には存在しえない……私は、こういう別の世界にあるはずのゲームを作れる変な力がある」

 

遠い目をしながら呟くモルフォ。ホビーだけならそういう発想が出てきた、といえば話が通じるかもしれないが、ゲームともなれば話は別だ。特にゲーム開発部の存在するミレニアム、となれば。

 

「だからまあ……モモイもよく誘ってくれるのは嬉しいけどさ、私が何かやろうとしてもこうなるんだよね。ま、作らなくても別の世界のゲームだって楽しいのいっぱいあるし」

「それは……確かに、楽しかったけど……」

 

実のところ、モルフォは自分の意思でオリジナルの何かを作ったりする経験がほとんどない。理由はこの能力のせいだ。何かを作り出そうとすると、その類似品や参考に別の情報が混ざる。そうしたが最後、その情報は彼女の能力と結びついてそちらの作り方を参照し出してしまうのだ。

 

「まあ、そんなわけだから、この事は皆に黙っていてくれると嬉しいな」

「うん……わかった」

 

自分もゲームを世に送り出したのだから気持ちは少しわかる。これを彼女が作ったと、そう誤解されてしまうのはよくないのだと。エンドクレジットもおそらく、その別世界のゲームのままなのだろうが、普通にプレイしている人はそこまで気にしないし、エンディングまで行って初めて気付くのならタイミングとしては少し遅い。

 

「……でも、いつか、モルフォともゲームを作れたら、いいな……」

「……そうだね。そんな日が来たら、私もゲーム開発部に入ってもいいかもしれないね」

 

ユズの希望に、モルフォも笑顔を返しながら、一つのソフトケースを取り出す。ユズが気になりながらそのソフトケースを覗き込んで、そのラインナップに息を呑む。

 

「!?これって……」

「折角来たんだし、今日は休みなんだからさ……最後までやっていかない?」

「やる」

 

そこには、ロックマンゼロ2、3、4のカートリッジが入っていた。それを見た瞬間にユズの答えは決まっていた。がしっ、と力強くモルフォの腕を握り、目をキラキラさせながらはっきりと答える。

 

「オッケー、それじゃゲーム機を準備しようか」

「?こっちを使うんじゃ……」

「それでもできるけどゲームキューブを使えばテレビ画面でやれるよ」

「本当に!?」

 

あの終わり方ならやっぱり続編はあるだろうなとは思っていた。しかしまさか4まであったとは。1であれだけ面白かったのだからシリーズが進めばどんどんUIもブラッシュアップされていくはずだ。どんな進化をしていくのか、それが今からも楽しみで仕方ない。

 

「……ところでこのコントローラー……」

「ああ、対応するところしか使わないから実際は使うボタンあんまりないよ?」

 

テレビ画面にロックマンゼロ2の画面が表示されていく。GBAの画面をテレビサイズにしたことで味のあるドットがよく確認できる。早速GCコンを握ったユズは、ある程度使用感を確かめながら物語を始めていく。

 

「か、かっこいい……」

 

早速プロローグを始めると、前作の最後で敵の群れとの戦いに臨んだゼロが、荒地の中で追手と戦うシーンに入る。そこで外套を投げ捨てるゼロの1カットと振り向き顔に思わずユズも息を呑む。

 

「す、凄い、アイコンが小さくなってはっきりしてる」

「わかるわかる、進化凄いよね」

 

ユズの隣に座りながら、彼女がプレイしているところを見続ける。既に1をクリアしているだろうな、とは思っていたが、迷いのないその動きを見るにそれは間違いなかったようだ。ユズのゲームの上手さはモルフォだってよくわかっているので、そこは心配していない。

 

「ち、チェーンロッド……!これはまた使い方が大きく変わりそうだね」

「そうそう、チェーンロッドは結構好きな武器だったなー」

 

新たな武器にわくわくしたり。

 

「フォームチェンジ!?EXスキル!?凄い……カスタマイズ性もあるし戦闘の幅もより広がってる」

 

カラーリングの変わったゼロの新たな性能に歓喜したり、新技、EXスキルの演出に感動したり。

 

「でもサイバーエルフは使えないんだね……」

「それは3からだねぇ……」

 

使うとミッションの評価に影響を及ぼしてしまうサイバーエルフの使い道の見えなさにちょっとだけ不満を零したり。

 

「え、エックスが……そんな、このエルピスって人……!?」

「レプリロイドなんだけどね……」

 

終盤の展開にユズが唖然となったり。そんなこんなで無事にラスボスも倒して2もクリアしてみせたユズは、一旦小休憩を取ることにする。

 

「……案外ラスボス強くなかったね。前作の方が……」

「まあこの手のゲームで連戦の後でラスボス強くされるとアベレージきっついから……」

「そうだね……」

 

1はきっつかったなぁとぼやきながら、オレンジジュースを飲む。ユズはロックマンゼロの話を思い返しながら、ふとあることを口にする。

 

「そういえば……廃墟にもゼロみたいなレプリロイドっていたりするのかな」

「連邦生徒会が立ち入り禁止にしてるところだっけ?まさかぁ……そもそもこれ、別の世界のゲームだし」

 

ないない、と笑うモルフォに、それもそうと同じく笑うユズ。しかし、ロックマンゼロ3へとカートリッジを交換し始めるモルフォも、次回作を期待しながら待機しているユズも、この時は知る由もなかった。

 

後に似たシチュエーションで出会った仲間が、ゲーム開発部に入部することになるということに。

 

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