転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「えーと……確か探すものは……」
春葉原のバス停。ベンチに腰掛けながらスマホを動かしていたモルフォは、ちょっとした買い物のために一人で来ていた。他の皆を誘おうかとも考えたが、今回は行ってちょっと買い物をしてすぐに戻るつもりだったので、それなら別にいいかと、ちょっとでかけてくるとだけ言い残してから外に出ていた。
「あー、そうそう。これとこれとこれ……」
今回買い物に来ていた備品の規格などについて調べつつ、これが売っている店はどこにあるかなと辺りを見渡す。そんな時だった。
「……ん?あれは……煙?」
視線の先で煙が上がってるのを確認する。また誰かが暴れているのだろうか。
「暇人だなぁ」
それはそれとして、買い物をしに歩き出そうとしたその時。煙が丁度上がっている方角にその店があることに気付く。
「……店、残ってたらいいんだけど」
幸い距離はそこまで遠いわけではない。最悪買い物は諦めて手ぶらで帰ることも視野に入れつつ現場へ向かってみると。
「おい、あいつどこ行った?」
「くそ、ゲヘナの奴一人だけだったから狙い目だったのによ……」
数人の不良がきょろきょろと辺りを見渡したり無差別に銃弾を撃ち込んで隠れている人物を炙り出そうとしている様子があった。モルフォも隠れながら不良達がゲヘナの人間を探しているという話を聞きながら、とりあえず店からは離れたところで騒いでいることに安堵していると。
(……ん?)
その視線が横転している車に向けられる。不良達が撃ち込んだ弾丸が車のエンジンなどにぶつかり、大爆発が起こる。幸い爆発から逃れるように転がってきたのは、
(あれは……確かチナツ?)
「ああ、いたいた」
「へへ、まさかゲヘナの風紀委員会が一人でいるなんて思わなかったから逃がさなくてよかったよかった」
「ゲヘナの風紀委員には酷い目に遭わされたからな……憂さ晴らしに付き合ってもらうぜ!」
「く……!」
なんとチナツであった。不良達はどうやらチナツが一人でいるところを発見し、こうやって追い詰めているようだ。チナツも抵抗はしたのだろうが、やはり多勢に無勢か。元々最前線に自分から出ていくようなタイプじゃないのもあり、苦戦は免れないようだ。
「……放っておくわけにもいかないし、どうにかしますか」
背中に背負っていた折り畳まれた物体とショットガンを手に取る。左手に握ったその物体が三つ折りだった状態から展開し、シールドとなる。その形状は鋼鉄大陸で使用していたものに酷似しているものの、それは見た目だけで材質は以前のものと同じものに差し替えられているため、強度に関しては大きな差がある。
「……よし」
マルクトとの戦いで喪失した二代目のシールド。その後、ミレニアムに帰ってきてから作られた三代目には、Xの刻印の代わりにミレニアムの校章が刻まれている。そしてこのシールドには投擲用のブーメランの形状をした閃光手榴弾や発煙弾が取り付けられている。普通の閃光手榴弾でいいのではないかとも新造された時にモルフォは突っ込んだりもしたが、鋼鉄大陸で思ったよりこの手の武器を扱えていたことや、偶然作ってるところを見たアスナの「面白そう!」という一声を理由に装備された。なお、普段は折り畳まれており、使う時に勝手に変形する他、手動で角度を調整したり二つのブーメランを接続して巨大なブーメランにするなど、エンジニア部曰く遊び心を取り入れている。
「……ん?何―――」
「うわっ!?」
「!?発煙弾!?でもあの形状は……!?」
モルフォがブーメランを投げると、それは回り込む形で不良達の目の前に投げ込まれる。一見手榴弾の類にはまるで見えない形状に不良達が困惑しているとブーメランから煙が噴き出し、不良とチナツの視界を塞いでいく。その中に静かに突入したモルフォはヘッドフォンをしっかり耳に付けて音をシャットアウトさせると、敵の真ん中でショットガンハンマーの引き金を引き、
「―――!?」
「ぐあああ!?」
「なんだこの音!?み、耳が!」
不良達の鼓膜を一気に攻撃する。この程度なら数分で元に戻るだろうと考えつつチナツを見ると、少し距離が離れていたおかげで破壊されずには済んだようだがとんでもない爆音を叩き込まれたのかしかめっ面を見せる。と、
「チナツ、であってるよね?大丈夫?ほら逃げるよ」
「っ誰で―――あ、あなたは!?ゲーム開発部の―――」
「温泉宿以来……って言ってもまぁわかんないか。あの時ユウカ先輩と話してたし。調印式の時にちょっと顔合わせたぐらいのはずだし……あいつらは今耳やられて目も見えないからさ、ほらさっさと行くよ」
「あ、ちょ、ちょっと……!」
その目の前にモルフォが現れたことに驚きつつ、彼女の手を取って急いでその場から立ち去る。そしてそのままモルフォの目当ての店の中に入ると、チナツはほっと胸を撫で下ろす。
「た、助かりました。モルフォさん―――」
「呼び捨てでいいよ。私一年生だし」
「あ、同学年でしたねそういえば……じゃあ、モルフォ。なんであんなところに?」
「買い物。そしたら暴れてる連中がいて、店壊れたら嫌だなぁって思ってたらチナツを見つけたの」
「は、はあ……そうだったんですか」
買い物をしに来たというモルフォに付き合う形で店の中を歩くチナツ。あの不良達にまた因縁を付けられてはたまったものではないので少し時間を潰そうと考えているのだろう。そのついでに折角助けてもらったということもあり、少しモルフォと交流もしようと考えているのかもしれない。
「何を買いに来たんですか?もしかして見ちゃいけないものだったり―――」
「いや?そういうわけじゃないよ。そんな大したものじゃないし。おっあったあった」
「……電源タップ?」
「うん、固定が甘かったアリスの銃が倒れたときに電源タップが砕け散ってね……」
モルフォは遠い目をしながら思い出す。数日前、どこかの部活が爆発事故を起こした時のことだ。モルフォ達はなんだただの爆発かと思っていたのだが、問題だったのが爆発が起こっていたのがかなり近い場所。そのため少し揺れたのだが、その揺れのせいで立て掛けられていたスーパーノヴァが倒れ、電源タップを粉々に破壊してしまったのだ。そのため、また今回のように破損した場合も考え予備も含めて買い物に来ていたのだ。
「た、大変そうですね……」
「チナツの方は?なんであんなのに絡まれて……ここゲヘナの自治区じゃないよね?」
「え、ええまあそうなんですが……ちょっと春葉原で薬や包帯のセールをやっているという情報を知って……風紀委員会は万魔殿の嫌がらせで無駄に予算を使わせられたり削られたりしているので……」
「おおう……」
マコトについての愚痴をセミナーが零していたのは聞いたことがあるが、身内のはずの風紀委員会に対してもこの有様のようだ。そういえば万魔殿についてのよからぬ話をセイアから聞いたような気がしなくもないとぼんやり考えながらチナツの話を聞いていくと、風紀委員会の予算節約のためにここまできていたようだった。
「……そしたらまあ、ちょっと面倒な人たちに絡まれてしまいまして。ゲヘナの外ならわざわざ戦う必要もないので適当な所で撒こうと思っていたらあんなことに……なので助かりました」
「ああ、気にしないで。見ちゃったからにはもう……ね。よし……ここまで来たんだし、折角ならそっちの買い物も付き合うよ?」
「え?でもそこまでしていただくわけには……」
「別にいいよ。顔は見られないように注意したつもりだけど、もしばれてたら私が一人でいるところ見つかったその時の方が面倒だし……それより二人で駅戻るまで動いた方が効率的じゃない?」
「……では、お言葉に甘えて」
ここで別れても問題はなさそうだが、あの不良達がしつこかった場合は万が一もある。二人で行動した方が確実だろうと考え、モルフォはチナツと暫く行動を共にすることにするのだった。
★
「……で、その時は本当にもう……まさかパンケーキがあんなことになるなんて予想できませんでしたよ本当に……」
「げ、ゲヘナって怖いところなんだな……」
「さ、さすがにあれは外れ値なので含めないでもらえると……」
「あはは、さすがにわかってるよ」
無事に二人の買い物も終わったのはいいが、そこで雨に降られてしまったため、小休憩も兼ねて近くのカフェに入る二人。モルフォの方からは学園内でどこの部活が何をやって爆破事故を起こしたりしたのか等、明かせる範囲で話したり、多忙故なのか色々溜め込んでいるチナツの愚痴を聞いたりして話に花を咲かせていた。そして一通り吐き出しきって落ち着いたのか、チナツは深い溜息を吐いて椅子に深く座り込む。
「ふう……ありがとうございます、結構楽になりました」
「吐き出せそうな相手って他にいたりしないの?」
「風紀委員会の皆さんは同じ苦労を味わってる人達ですからね……言っても傷の舐め合いみたいになっちゃうとまずいですし。それにこういうのはわざわざ相手に吐き出すようなことでもないですし、言いたい時はまぁ……皆同じ状況なので。先生には勿論言うわけにはいきませんし」
「先生とかむしろ受け止めてくれそうだけど……」
「……モルフォは凄いですね。愚痴とかって普通に先生に言うんです?」
「毒吐いたり割と言う時は言うと思うけど……そもそもあんまりそういうのと縁ないからなぁ……」
(ああゲームで発散してるからそういう機会自体あまりないんですね……)
どこか遠い目でモルフォを見つめるチナツ。尤もモルフォの場合は大体そういう目に陥れようとするモモイの魂胆をさっさと見抜いてしまったせいで逆にモモイがハメられるパターンも多く、そこまでダメージや苦労を負わないことが多いのだが。
「……しかし雨、止みませんね」
「通り雨とは言っていたんだけどな……意外とかかるね」
窓の外をふと見ると、雨はまだ止まない。その光景を見てモルフォは腕を組んで考えていたが、ふと思いついたようにトランプを取り出す。
「これは……トランプ、ですか?」
「愚痴とかもいいけどさ。雨が上がるまでもうちょっとありそうだし、どう?」
「それは構いませんが……何を?」
「うーん、ポーカーもいいけど……ブラックジャックとかはどう?」
「ブラックジャックですか」
その名を聞いてどういう遊び方でしたっけ……とチナツが一瞬頭にはてなマークを浮かべる。だがすぐに大体のルールを思い出す。
「……随分と久しぶりですねブラックジャックなんて」
「そんなに?」
「ええ……結構昔にやったことがあるようなないような……多分一回はやったことあると思うんですが……大体トランプって言うとババ抜きとか大富豪のイメージがありますし」
「ああー、確かに……大体ババ抜きか大富豪か、後は神経衰弱だもんね」
ブラックジャックは。トランプを使用するカジノゲームの一種である。そのため、賭け事という意味では盛り上がるゲームなのだが、そういうのが無い普段のパーティーゲームという意味ではやは他の遊び方に軍配が上がるのだろう。それ故、名前や大体のルールは知っていてもあまりやったことがない、という人がいても然程おかしくはないのかもしれない。
その対戦ルールは簡単で、ディーラーとプレイヤーで手持ちのカードの合計点が21を越えないようにしつつ、プレイヤーがディーラーより高い点数を取ることを目指すシンプルなゲームである。手持ちのカードの点数は2から10まではその数字通りとなり、J以上のカードも全て10として扱う。またAのみ1と11、どちらか都合のいい方で数えることができる。
例えば手札にAと10があれば、Aを11として扱い21として手札を出すことができ、A、10、10という手札ならばAを1として使い21に仕上げることができる、いったような感じだ。
「そういえばどっちも21になったら引き分けでしたっけ」
「そうだね、基本的には」
通常、プレイヤーは最初に
一方プレイヤーは、配られた二枚のカードとディーラーの表向きのカードを見ながら、次のカードを引くヒット。もしくはカードを引かずにその時点の点数で勝負するスタンドという選択を取ることになる。この時、プレイヤーは21さえ越えなければ何回でもヒットできるが、21を越えてしまうとバストとなり、そのプレイヤーは強制的に敗北になってしまう。
全てのプレイヤーがスタンドした後、ディーラーはホールカードを表にするのだが、この時ディーラーは自分の手が17以上になるまでカードを引かなければならない。そのため、二枚合わせても17未満であれば17以上になるまでカードを引き、17以上になったらそれ以上カードを引くことができなくなる。なお、ディーラーが21を越えた場合にはバストしていないプレイヤーは全員勝利となる。
「例外的なナチュラル21っていうのもあるけどね」
「それは初めて聞きましたね……」
「……まあ、ここまで詰めると面倒だし今回はいいか」
ナチュラル21とは、二枚の手札で21を作る手札である。ナチュラル21が生まれれば、相手は同じナチュラル21を作らなければ勝つことができず、通常の21を作っても敗北となってしまう。特殊ルールとしては他にも、スプリットやダブルダウン、サレンダー、インシュランスといったものが存在するのだが、これは賭け事としてブラックジャックをやる場合に主に使われるルールであるため、今回の遊びのカードゲームとしてやる場合は然程縁のないルールと言えるだろう。
「でも、これならさくっと終わりそうですしいいかもしれませんね」
実際に聞いてみると意外と細かいルールはたくさんあるとは思ったが、根幹となるルール自体は自分の認識と大差がないことに安心しながら、モルフォから配られた二枚のカードを受け取る。今回はディーラーに値する人間がおらず、プレイヤー同士の対戦のためモルフォも同じく二枚を引いて公開せずにキープしていく。
「……この手札なら、もう一枚引いた方がいいか……」
手を見て、少し微妙そうな雰囲気を見せながらもカードを引く。チナツは配られた二枚をじっと見つめる。
(Aと6……これなら今は17ということになりますが……)
ちらとモルフォの方を見る。モルフォは三枚でも不十分だと思ったのか四枚目を引いており、それ以降の動きはない。
(四枚も使ってるってことは小さな数字が固まってるってこと……それが相手だと17では……それに、仮にバストしたところでAを1にしてしまえば今の私の手札は実質7と捉えることもできる。そう考えれば一枚は確実に引けると考えていいですね……)
考えた末に三枚目を引くことにするチナツ。そして引いてきた数字は5。それを見たチナツは微妙そうな表情を浮かべてしまう。
(……一番来たくない数字が来ましたね……これでAを11としたら22になりバスト、だからAは1にせざるを得ないのですが、そうなると現在の数字は12……これでモルフォに勝てるとは正直思えないのですが……う、うーん)
さすがにこれでは手が弱すぎる。四枚も引いているのだからバストしているのではとも考えたいが、もし手が成立していたのならこれで12未満です、はあまりにも楽観的すぎる。かといって、四枚目を引きに行くのは正直憚られる。というのも、
(……10以上は全部10ってことは、一つのスートで10になるカードが四つ存在しているんですよね……)
10、J、Q、K。この四つが全部一律10という数字になるせいで52枚中実に16枚が10のカードになるという状態になっているのだ。つまり、10のカードは割とよく引くカードであり、その10のカードを引いてしまえばバストしてしまう状況に追い込まれてしまったチナツには追加の一枚を引くという行動がそこそこにリスクが高い行動になってしまっているのだ。
(……とはいえ、引かなきゃ手が成立していたらほぼ負け確定ですからね……)
だからといって引かない選択肢も残念ながらないわけで。チナツは恐る恐るといった様子で四枚目を引いていく。
(向こうも手札渋そうだな……)
(……う、うーん……)
そして引いてきた四枚目はなんと2。これでチナツの現在の点数は14となってしまう。五枚目を引けば8以上でバストというかなり危機的な状況なのだが、これで勝負を挑むのは不安だ。そもそもモルフォは四枚目で止めている以上、リスクを考慮してもなお、もうちょっと高い点数を持っていてもおかしくない。
(……いえ、ここまで来たらもう行くところまでいくしかありませんね……こうなったら五枚目です)
意を決して、さらに五枚目を引く。モルフォがそんなに引くの?と若干困惑しつつも五枚目を引いたチナツは、それを見てやっと安堵したような表情を浮かべると、
「……これでスタンドします」
「わかった。それじゃあ出していこうか」
モルフォと共にカードを出す。モルフォの手のカードはA、5、2、2で合計は20。対してチナツはA、6、5、2、7でなんと21。奇跡的に7を最後の一枚で引くことができたチナツはブラックジャックを見せつけていた。
「21……っていうか凄い手札」
「いや本当に焦りましたよ……五枚目引こうとした時なんて本当に大丈夫か不安でしたし」
「まあこれはシンプルにきついよねぇ……かといって引かなきゃかなり分が悪いだろうし」
この勝負にチナツが勝てたのは、やはり最後に賭けに出たのが大きいだろう。バストの危険を乗り越え最強の手を作り出して勝利を収めた彼女の健闘を称える。
「でも、案外楽しいものですね……ブラックジャックも」
「でしょ?何も賭けなくても楽しいものだよこれも。それじゃあ……次、やる?」
「ええ、そうですね。まだまだ雨は続きそうですし」
雨はまだ止まない。通り雨が過ぎるまで、もう一ゲーム興じる二人。その後、雨が晴れるまで、二人は勝ったり負けたりを繰り返しながら楽しむのだった。