転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
昼時のシャーレ。まだまだ暑い日が続く中、雲一つない快晴の下。居住区にある一室に二人の少女の姿があった。
「うーむ、これは……」
「……なんだこれは……なんなんだこれは……!!」
目の前のそれを見て、サキは頭を抱えていた。向かい合っているモルフォも遠い目をしていた。その原因は、二人の目の前に広げられていた多くの裏返ったカードにある。
「神経衰弱ってもっとこう……簡単なゲームのはずだろ?なんでこんな……というかゲーム開発部もこういうのやるんだな……なんかもう諦めて投げ出してそうだと思ったが……」
「ゲーム開発部だからクソゲーと縁がないと言ったらそんなわけがないというか……むしろゲーム開発部だからこそクソゲーとは綿密な関係があるというか」
「そ、そうか……」
(むしろオリジンが世間的に見たらクソゲーの烙印押されちゃってるからねぇ……今だと文句なしのクソゲーではあるけど……みたいな評価になんか落ち着いてるけど……)
「さて、と……次は私か……はあ、捲ったとしても何が何なのかもうわかんないぞ……」
そう言いながら、サキが裏返ったカードを一枚めくる。そこに描かれていたどこかのお店のようなロゴが出てきたのを見て、また別のカードをめくる。
「それは違うかな……」
「どこがだ?」
「ここの部分が……ほら、このマスコットの表情が……」
「うわあああああ!またか!?またかぁ!?」
めくった二枚は同じような絵柄をしていたのだが、その微妙な違いをモルフォが指摘するとサキは頭を抱えて机に突っ伏してしまう。先ほどから何回か見られたその光景にモルフォは疲れたように苦笑する。
「大体何なんだこれは!?なんでこんな紛らわしいんだ!」
「とある店のポスターデザインを依頼されたワイルドハントの人が微妙な違いのイラストを複数作ってクライアントに見せたらこれを神経衰弱にしたらネタになるのでは?とか考えたようで」
「なんだその思い付きは!?神経衰弱なんだからもうちょっとわかりやすくしたっていいだろ!?」
「まあ実際思い付きとしてはインパクトは中々あるみたいだからね。調べたら案外話題性とかはあるみたいだよ?まともにクリアする気さえなければパーティーゲームとしては案外悪くないのかもしれないって」
「それでいいのか?」
一応神経衰弱ゲームなのにこれでいいのかと思わず困惑してしまうサキ。そんなサキの様子を見ながらモルフォも苦笑しつつ、ふと思いついた内容を口にする。
「これはこれで試験とかに使えるのでは?」
「苦痛にしかならなさそうだが……というかゲームで試験っていいのか?」
そもそも、何故二人がこの紛らわしい神経衰弱をやることになったのか。それは、シャーレの当番でたまたま二人が一緒になった時に先生から、以前ワイルドハントにある用事で向かった際、そこに通う生徒の一人からこの神経衰弱ゲームを貰ったのだという話を聞いたからだ。先生も挑戦してみたが、途中で断念してしまったため、先生が断念したゲームがどれほどのものか見ようとモルフォとサキが挑戦することにしたのだ。しかしその結果はこの有様だった。
「滅茶苦茶厳しい所では優秀な人を選抜するための試験でミルクパズルが使われるんだってさ」
「……ミルクパズルゥ?」
ミルクパズルと言うのは全面白一色という無地のパズルだ。他の言い方では牛乳パズルや宇宙パズルとも言われており、前世では宇宙飛行士の選抜試験にすら使われたという実績まである。通常のパズルでよくある絵柄と絵柄の繋がりというヒントが一切なく、ただただピースの形だけを見て、その微妙な違いで何がハマるかどうかを見出していくのだ。
「……ふーん、確かにむずいとか修行僧とか予測で出ては来るけど……そんなにやばいのか?」
「やったことはないけど、これに関しては鬼畜すぎてやらなくてもわかる類だからね……」
「まあ難しいのは間違いないだろうとは思うが……」
「案外SRTならできるかもね」
「そうかな……」
「まあ、無理してやらなくてもいいけど……」
「……いいや、やってみるさ。そこまで言われると気にもなる」
スマホを見ながら、案外挑戦してみるのも悪くないのかもしれないとぼんやりと考えるサキ。その様子を見ながら、ミルクパズルのやばさは何となくだが知っているモルフォはあまり無理はしないようにと念押しだけはしておくのだった。
★
「……で、買ってきたと」
「うわ、本当に一面真っ白じゃん……なんか地味でつまらなさそうなんだけど」
「いえ、これは確かに難しいというのもわかります。見るだけで精神力を持っていかれそうだということが……」
「ほ、本当にやるの……?」
そしてSRTが現在校舎として使用している建物に戻ってきたサキ。かつてアビドスにあったという現在の生徒達が使用している分校校舎よりもさらに小さな校舎。そこが今のSRTの校舎だ。教室もそこまで多いわけではなく、現在の用途はほぼ倉庫のような扱いだ。それでも、これでやっと本格的にSRT復興の目が出てきた、という意味では大事な場所であった。そんな場所、一応生徒会室として設けられた場所の中央にある机の上に広げられたミルクパズルにサキ以外の面々が三者三様の反応を見せていた。
「試験でも使えるとは言ってたぞ?」
「確かに使えそうではありますが……一応聞きますが、楽しむためにこれを買ってきたわけではありませんよね?」
「それはまあ、ちゃんとモルフォにそういう用途で買うなら普通のジグソーパズルを買ったほうがいいって釘を刺されたからな……」
「それならいいです。では、サキが折角買ってきてくれたことですし早速やってみましょうか」
「えっ、本当にやるの?」
「勿論です。これはいい鍛錬になりますよ……まあ、私も組むのは初めてですので皆でやりましょう」
若干モエが表情を引き攣らせている中、ピースをバラバラにして小さな小箱に入れて無くさないようにする。そして四人は早速と言った様子で組み始めるのだが。
「……と、とりあえず端っこは組めましたね……」
大体30分が経過した後。四人はひとまずミルクパズルの端っこ、枠だけは組み終わっていた。しかし、既にこれだけで四人の精神は限界を迎えつつあった。
「きっついんだけどもう……」
「ていうかこれさあ……何ピースあるの……?」
「……100ピースって書いてあるな……」
「100!?100もこれ組み合わせないといけないの!?なんてもの買ってきたのサキ!?」
「う、うう……まだ真ん中がぽっかりと……」
「……端っこはまだ分かりますが、こっからが果てしないですよね……」
枠の方は一辺、もしくは二辺が平になっているため、それを参考にすればある程度は問題ない。しかしここからは四辺全部が凹凸になっているため、一つ一つを見極めながら当てはめていくように入れていく必要があるのだ。
「……これは、ここ……いや違うな……」
「これも……入らない……」
「これ……あ、駄目……」
「……まあ入らないよねぇ……」
ぶつぶつと呟きながら頑張って一ピース、一ピースずつ入れていく。一つ入れるのに平気で数分は使う地獄のような状況を、四人は頑張って乗り越えていこうとする。
「お、おいミヤコ!これこっちに入ったぞ!?」
「私のもです!」
「一個でも数が減れば総当たりの数は減る……ふふ、ちまちましすぎて地味とは思ってたけど……この溜めて溜めてから見つかる感じは正直、悪くないかも……?」
「あ、二個連続で入った……!」
やがて一個、また一個とピースがはまっていく。だがピース一個入れるだけでも、かなりの重労働なのだ。まず外側を埋めるだけで36個のピースが使われるため、残りは64個となる。しかし、そこからピースを一つ一つ、凹凸に合わせるだけではなく、そこから向きも合っているかどうかも確かめることになるのだ。だからこそ、二辺が埋まっている四隅を起点に四人は埋めていたのだ。そしてその結果は少しずつだが実り始めており、一時間が経過する頃には半分を過ぎて残り48個程度にまでピースは減っていた。
「……もう無理ぃ……こんなのやってたら頭おかしくなるんだけど……」
「今回はモエに同感だな……こんなのやってたら頭が虚無になってくるぞ……」
「さ、さすがに疲れましたね……」
「うう……辛いよミヤコちゃん……」
「……100じゃなくて50ピースの方を買えばよかったな……」
「いきなり100は背伸びしすぎじゃないの……?」
が、ここでRABBIT小隊は完全にメンタルが限界を迎えてソファや椅子に突っ伏していた。頭を痛そうに抑えたりしていたサキ達だったが、
「つ、続きは明日からにしないか?」
「そうしようっか……でもその前に……」
今日はこれ以上やることなんてできないと判断して続きを明日からにする。その前にモエが瞬間接着剤を取り出す。
「……普通ののりとかないのか?」
「SRTに粘着力の弱いのりとかなんてありませんよ。この校舎も借り受けた時は中の備品なんてほとんど残ってませんでしたし」
「それで、何をするんですか?」
「合ってるピースをくっつけて固定するんだよ……」
「ばらしてやり直せなくなるぞ?」
「やりたい?」
「……」
モエの指摘にサキが視線を逸らす。だよねーと呟きながらモエが裏に接着剤を縫って枠に当てはめ始める。そうして一通りの作業を終えた翌日。犯罪者を捕まえてヴァルキューレに突き出したり備品の補充を行ったりと依頼や仕事をこなしたりし終わった後の空いた時間。生徒会室の扉の前でサキは複雑そうな表情を浮かべていた。
「……サキ、何やってんの?」
「いや……中に入ったら、またあれをやるんだろ?そう思うと、なんかこう……な。まだルドーの方がマシというか」
「あれはあれで時間かかりすぎて凄かったけどね。正式ルール?だっけ?6出ないと次の駒すら出せないっていう場合によっては泥沼必須な時間浪費ゲーだったけど」
「でもあれは駒さえ出てれば進んでるっていう感じはあるからな……」
そんなサキにモエが後ろから声をかける。とはいえ、今サキが入りたがらない理由自体は正直わからなくもない。またあのミルクパズルを組み立てなければならないのだから。しかもほぼ半分近くがまだ残っているのだ。
「……というかサキがあんなの買ってこなきゃそもそも……」
「うるさいな……こうなるなんて私も思ってなかったんだよ……こんなのを試験に使う奴らってどんな修行僧だ」
「むしろ矯正局とかの拷問で使えるレベルだよね……私達はまだ四人でやってるから途中で話したりとかして気を紛らわせられるけど、一人でやってるとそういうこともできないし」
「……あ、そうだ。ミヤコとミユは」
「もう中じゃない?」
「……行くか」
「行かないとねぇ……」
かといって、ここで止めるのもそれはそれで敗北した感じがして嫌だった。SRTがパズルに屈するわけにはいかない、という謎の意地を持ちつつも、あの時間を過ごすのかといまいちテンションが上がらないまま部屋の中に入ると、そこではパズルを相手にしかめっ面を浮かべるミヤコと、その隣で既に半分グロッキーになりかけてるミユの姿があった。
「どうだ?進んだのか?」
「……ああ、サキ、モエ。お帰りなさい。そうですね……5ピースぐらいは埋まりました」
「5ピースでも凄い大健闘してるように聞こえるのが凄いな」
「間違っても私達が別に致命的にパズルが下手ってわけじゃないもんね。単純にパズルがとんでもなく難しいだけで。いやはや、皆難しかったら投げちゃってもいいんだよ?」
「……ただでもらってきたならまだしもサキがわざわざ買ってきた以上最後までやらないとお金がもったいないじゃないですか」
「あっそういう……」
予想していた通り、パズルに向かい合うミヤコにモエが地獄から逃れようと助け舟を出そうとする。しかしミヤコから言われた言葉にモエも完全に黙り込んでしまう。確かにここでクリアしなければ代金分をドブに捨てることになってしまう。それだけは彼女としてもあまり好ましいとは思えなかった。
「しょうがないなぁ……お金には代えられないし私も手伝うしかないね」
「はあ……なんで買ってきたんだ私は……」
サキとモエも座り、数十分程無言の時間が経過する。すると、昨日のさらに半分ぐらいは減っていることにサキは気付く。
「あれ、昨日よりペースが早いんじゃないか?」
「まあ、ピースも段々減ってるからね。さっき私がやった奴も総当たりだったけどこの程度の数なら総当たりの時間も昨日より減ってるし」
「総当たりの時間が減ると前進している感じがあっていいですね……」
「……なあミヤコ、お前目覚めちゃいけない所に辿り着いていないか?」
「苦行が楽しくなる感じ……?」
「失礼な……私はそんな人間じゃありませんよ」
(私はもうやばいと思う)
感情の籠っていない声で話しながらピースを埋めていくミヤコについつい真顔になってしまうモエ。そんな中、ミユが残りのピースを数え始める。
「13……14……15……後、16個だよ皆……!」
「おお……最初は100個なんてとんでもない数だと思ってたけど、終わりが見えてきたんだな……!」
「ええ、この調子で最後まで埋めていきますよ」
「ふう……これで今日中に終わりそうかな……?」
100から残り16。ここまでよくぞ頑張った私達……!と妙な達成感が四人の心の中に湧き上がる。しかし、まだ終わりではない。後16個で、いや16個もあるのだから。
「このまま最後までやっていきましょう。これさえ終われば一皮剥ける気がします……」
「パズル程度で向ける皮があるとは正直思えないが……まあ、達成感はきっと凄いだろうな」
「ま、そこは完成してからの楽しみってことで……あ、これはここに……?おっ、いけたいけた」
だが終わりが見えてきたのは事実。それを把握した途端に四人の意識が覚醒し始め、元気が取り戻されていく。これまでよりもペースを上げてどんどんピースを埋めていく。そして時計の短針が12を指し始める頃。
「お……」
「「「「終わったー!!」」」」
四人は歓喜のあまり、拳を上へと突き上げて嬉しそうに声を上げていた。彼女達の視線の先には、完成されたミルクパズルが置いてあり、しっかりと接着がされている。もう二度と解体されることはないだろうが、四人は解体する気もないし、解体されたらもう一回というモチベーションもないのでこれで正解なのかもしれない。
「……なあミヤコ」
「なんですか?」
「……折角飾るんだったらもうちょっとちゃんとしたパズル飾らないか?」
「……ええ?」
早速接着も終わり、完成したミルクパズルを壁にかける。しかし、こうしてみると苦労して作ったパズルが真っ白というのは、あまりにも味気ない。そう思ったのかついぽろっと口にしてしまうサキ。
「まさかまたパズルやる気?」
「いや……普通に絵柄があるやつならこれより難しいなんてバカなことはないだろ?それに、見た時結構綺麗な風景画のパズルとかも色々あったからさ……そっちの方が飾るならぴったりだと思ってな」
「……まあ、これより難しいってこともないし、ちゃんと絵があるならまだ真っ当に楽しいか……っていうか最初にそっちをやるべきだったんじゃ」
「悪かったな!?先にミルクパズルを持ってきて!」
またミルクパズルをやろう、なんて言い出したら無言で退散するつもりであったが、ちゃんと絵柄がついているのならばこれほど難しいとは到底ならないだろう。形だけで向きを判別する必要があったミルクパズルとは違い、絵柄で判断できるので組み合わせやすい、なんならはめ込む前のピース同士を予め組み合わせて後で纏めて入れる、といったこともやりやすい。作りやすさに関しては段違いだ。
「で、でも……私、皆でパズルするの、楽しかったよ……途中辛いところも正直あったけど……」
「まあ、メンタルトレーニングとして定期的にパズルをやるのはありかもしれません。忍耐力は確実に鍛えられるでしょうからね……」
「まあ、それはあるか……」
「……で?どういうの選ぼうとしてるわけ?」
「それは決めてない。さっき思い付いたばかりだからな」
「じゃあさあ、こういうのは?」
スマホで何かを調べていたモエが通販サイトのあるページを見せる。そこには、巨大な建築物を爆発させて吹き飛ばしている様子を描いた風景画の大型パズルがあった。
「……単純に爆発してるからで選んだだけだよな……?」
「そうだけど?」
「欲望に素直な奴……」
「……まあ、そこは追々検討しません?私はさすがに今はパズルの話はあまりしたくありませんので……」
「それもそうだな……」
壁にかけるものとしては割とあり寄りではあるが、今疲れた状態で話すことでもないだろう。ミヤコの言葉にサキも同意するように頷き、また後日選ぶことにするのだった。