転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「遂に新作ゲーム、アークティック・アドベンチャー・ファイナルが発売されましたね!」
「ここまで長かったね……」
シャーレに赴いていたモルフォとアリス。今回、彼女達がシャーレに赴いていた目的は新作ゲームの体験版を持っていくところであった。これでシャーレに来た生徒達に体験版をやってもらい、そこからゲームの購入に持っていけるようにする窓口にするための仕掛けだが、これがまた意外と馬鹿にならない成果を挙げている……とモルフォ達は考えている。
「あの戦いの前と後で大分別物になりましたね!」
「まあ、うん……そこはしょうがないかなぁ……」
そんなことを喋りながらシャーレに入る。部屋に向かう前に先生の所に挨拶に向かうと、
「先生、こんにちは」
「こんにちはー!」
「あ、モルフォ、アリス、いらっしゃい。話は聞いてるよ」
「……あら?」
そこにはシャーレの当番で来ていたのだろうか、桃色の髪に赤い目の少女がいた。悪魔のような角を生やしているところや服装を見るにゲヘナの人間だろうか。そんなことを考えていると、こちらを見ていたその少女は席を立ちあがるとモルフォ達の近くまで来てアリスをじっと見つめる。
「……」
「あ、あの?アリスがどうかしましたか?」
「あ、ううん、なんでもないわよ?あなたが噂の天童アリスちゃんなんだなって思って」
「はい!アリスは天童アリスです!あなたは?」
アリスはニコニコと笑ってその少女に笑いかける。その発言を聞いた少女は一瞬驚いたような表情を浮かべると、すぐに笑ってアリスに反応を返す。
「京極サツキよ、よろしくね」
「よろしくお願いします!」
「で、そっちは……夢見モルフォちゃん、ね?」
「はい、そうですけど。知ってるんですか?」
「勿論」
しかしすぐにモルフォに視線を移し直すと、サツキと名乗った少女はじっと観察するようにモルフォの全身を見つめる。顔や手、脚などを見つめていたその仕草にモルフォが困惑していると、
「ふーむ……」
「何か?」
「……実はね、モルフォちゃん。あなたには聞かなければいけないことがあるの。そう、万魔殿の人間としてね」
「万魔殿って……そんな人が何を?」
険しい表情を浮かべ、モルフォの顔をじっと見ながら静かに声をかけていく。その重々しい雰囲気にモルフォも真剣な表情を浮かべながら次の言葉を待っていると、
「マコトちゃんがね、凄く怒っていたわ。そう―――あなたがイブキちゃんにいけないことを教えたって」
「……はい?」
かけられた言葉に思わず拍子抜けして力が抜けてしまう。何故そこにイブキが出てくるのか。しかもいけないこととは、
「駄菓子と駄菓子を組み合わせて食べるとか、カップラーメンに駄菓子のカツを一緒に居れて食べるとか―――」
「カップラーメンの方は先生ですね……」
「先生……」
「サツキ、これは誤解なんだ……!!」
「駄菓子と駄菓子の組み合わせってなんですか?興味があります!面白そうですしケイにも教えないといけません!」
「それは後で教えるよ……」
先日モルフォと先生が教えたことのようだ。全部をモルフォのせいにされるのも困るので先生が教えた部分は先生がやったのだと白状すると、サツキが困ったような表情を先生に向ける。どうやらサツキたちが問題視しているのは駄菓子の組み合わせよりもカップラーメンにカツの駄菓子を入れたりしている方だったようだ。別にそれぐらい美味しいんだからいいじゃないかと、カップラーメンにポテトチップスなどを付け合わせとして食べたりしているゲーム開発部の面々をたまに見ているモルフォからすると思ってしまう。とはいえ、これで怒ったりしているというマコトや、この場にいるサツキの様子を含めて見てみると
(……なんか、万魔殿ってイブキに対して過保護な親みたいな組織みたいだ……)
イロハと話をしていた時は彼女からそんな雰囲気は微塵にも感じてはいなかったのだが。万魔殿は思ったよりアットホームな職場なのかもしれない。
「先生~マコトちゃん怒ってたわよ~?お菓子をカップラーメンに入れて食べるとは何事だ!ってね。私もちょーっと思うところはあるけれど」
「ま、マコトにしては正論だから反論できない……!!」
「……まあ、それはそれとして」
「?」
と、ここで気を取り直したかのようにサツキがモルフォの目の前にコインをぶら下げる。そしてそれをペンデュラムのように左右に揺らし始める。
「……?」
「あなたはだんだーん……」
(……な、なんだこの古典的な催眠術……)
最初はその軌道を見ていたモルフォだったが、サツキが呟き始めた言葉を聞いて凄く古典的な催眠術をしているなと段々白け始めたのかコインを見る気も起きなくなっていた。その横ではアリスが興味深うにコインを目で追っているが、別に追っているだけで特に催眠を喰らったりといった雰囲気は見えない。単純な人ならもしかしたらがあるかもしれないが、少なくともモルフォ達にこういうのは通用しないようだ。
「……」
「……あの?サツキさん?」
段々、サツキの方も無言になっていく。今ではただ五円玉を振り続ける装置となってしまった彼女に向かってモルフォが手を振っていたが、まるで反応が見えない。その様子を見ていたアリスがあることに気付く。
「もしかして……サツキさんが催眠術にかかったのでは!?」
「うっそだろ」
「……なんてね?」
「あ、やっぱり嘘でしたか」
困惑した様子でサツキを見るモルフォ。そして先生の方を見ると、先生も苦笑するばかり。すると、サツキはすぐになんてことはないと言ったように笑う。どうやら催眠にかかったふりをして先生が反応するかどうか見ていたようだ。まあ、先生の方は演技だろうなと見抜いていたのだろう、だからこそ苦笑していたのだろうが。
「……それにしても効かなかったなんて……マコトちゃんには効いたのに」
「効いた人いるんだ……」
「うーん、そもそもコインを見てくれないと話にならないのは欠点ね……動いてるものは見ると思ってたから目で追ってくれないとは思わなかったわ……」
(にしても随分と古典的というか)
彼女のどこか脱力した表情を見ていたが、こうやってあまり効果の無い催眠を突き詰めているところを見ると、なんとなくミレニアムにも似たようなことをやっている人がちらほらいるなぁと思い出す。一見、何故それを……?となるような研究テーマを掲げている人も多いが、それも突き詰めればいい感じにいく人も多いのだ。以前まではゲーム開発部のゲーム開発もそちら側の側面があったのは否定できないのでモルフォとしてはこういうのは頑張ってくださいね、としか言えないが。
「もし催眠にかかったらその状態状態はどのようにすれば直りますか?叩けば直りますか?」
「いや、それはちょっと」
「テレビじゃないんだからやめなって……」
「そうそう、あんまり痛いのは止めましょう?」
思わずビクッ、と肩を震わせるサツキを見ながらアリスの提案を止めておく。痛いのはあまりお好きではないようだが、その感性はよくわかる。モルフォも撃たれたり爆発を喰らったりするのは基本的にはごめんだからだ。
「それで、サツキさんはシャーレの当番で来ていたんですか?」
「ええ、そうよ?もう一人いたんだけど……お昼を食べにどこかに行っちゃったみたいね?」
「そうだね……午後が始まるまでには戻るんじゃないかな。サツキはお昼は……」
「もう食べ終わってるから大丈夫よ。それより二人は何の用事で来たのかしら?」
「ああ、そうだ。とりあえず体験版を差し替えに来たんです。ちょっと行ってきますね」
そう言い、アリスと共に部屋に向かう。そして数分後、作業を終えたモルフォ達がオフィスの方に戻ってみると、そこではサツキが性懲りもなく先生に催眠術をかけようとして失敗している様子があった。
「……駄目だこりゃ」
「まだやってるんですか?」
「ふふ、今日の失敗は後程の改良に繋がるわ。これが私が考案したNKウルトラ催眠。その素晴らしさと、この催眠術の製作者の名をこのキヴォトスに広めてあげるから。是非とも、このNKウルトラ催眠の開発者である京極サツキの名前をちゃんと覚えてね」
(随分と強調するな……)
催眠術を作り上げた自分の名を知らしめるのはそれはそれでデメリットしかないように思えるが、彼女からすればそうではないのだろう。まあ、それはそれとしてと言わんばかりに先生が手を叩いて皆の注目を集める。
「そうだ。折角二人も来てくれてるし、今は私達も休憩時間だし、一緒に遊ばないかな?」
「はい!いいですよ!モルフォ、昨日皆でやったあれやりましょう!!」
「あれ……ああ、ザ・マインド?でもあれ持ってきて……」
「アリスが持ってきました!先生と遊ぶために!」
「あ、そっか……」
(……ザ・マインド?)
ザ・マインドとはカードゲームの一種であり、1から100までの数字のカードを使って行われるアナログゲームだ。最初に各プレイヤーに一枚ずつ手札を配り、場の中央には手裏剣、ライフ、レベルのカードを配置していく。レベルは最初は1となっており、それぞれのプレイヤーが手札から数字の小さいカードの順番に場にカードを出していき、全ての手札を消費すれば勝ちという内容になっている。この時、場に出ているカードよりも小さいカードの数字を出すとライフカードが一つ消えてしまい、ライフカードがない時に小さいカードをだしてしまうとゲームはそこで終了となってしまう。
「要するに数合わせゲームみたいな感じなのかな?」
「まあ傾向としては近いのかもしれませんね?」
「ふむふむ……ゲヘナではあんまりやっちゃいけないゲームね……」
「そうなんです?」
「皆自由だからねぇ~こういう歩幅合わせてみたいなのって合わないのよ。まあ、ゲーム程度なら話は変わってくれるかもしれないけど。でも別に一番小さい数字を出せばいいんだから話し合えば……」
「あ、話し合うのは禁止なんですよ」
「あら、そうなの?」
「相談は一切しないで協力して数字を出していくゲームですね」
ルールを聞いていく内に少しサツキも不穏な表情を浮かべるが、すぐに気を取り直す。協力系のゲームといえばこういうのもあるだろう。
「喋るのも禁止?」
「はい。無言で出し合います。なんかそういう空気で自分が一番小さいなみたいな感じでカードをだし合います」
「おおう……」
「まあまあ、サツキもやってみようよ。もしかしたら楽しいかもしれないよ?」
「ま、まあ先生がそう言うなら……」
ライフは参加する人数分。よって、初期ライフは4となる。そして最初はレベル1なので、四人はそれぞれ手札を一枚ずつ保持することになる。テーブルを囲んで四人で手札を持つのだが、
(1、なら……)
早速モルフォが一番最初に数字を出す。この数字を出す時に、全プレイヤーが合意すれば手裏剣カードを使うことで全員が手札の一番小さな数字を捨てることが可能となる。これにより、全員のプレイヤーが手札に何を抱えているか、その最低ラインを知ることで相手の手札を予測する材料になる。
(モルフォが1、それなら……待てよ)
先生が5の数字を出そうとする。しかし、ここで少しだけ悩む。もしアリスかサツキが2から4の数字を持っていたとしたら。
(……先生、出そうとして躊躇ったわね……モルフォちゃんが出した1は誰がどう考えても最低の数字だから悩む意味がないから判断する必要はないとして……先生の場合は、1に続けて出せる短い数字ということ。だけど、その下にも数字はないわけじゃないから他のプレイヤーが持っていた場合はライフを失うことになる、と……)
「……」
サツキは先生が躊躇した瞬間を見たものの、自分の手札を見てこれは出せないと判断する。アリスも動かず。二人が動かないのを見た先生は、いけるのかどうか不安になりながらも5の数字を出す。
(……もうちょっと上の数字で悩んでほしかったわね……)
せめて10から20で悩んでほしかったと思いつつ、サツキはアリスの反応を見ながら26の数字を出す。そして最後にアリスが89を出したことで無事、レベル1はクリアとなる。
「やった!これで全員カードをだせたね!」
「ええ、結構単純だけど意外と悪いものじゃないわね?協力とは言うけれど意外と推理要素もあるし……無理に纏まったりする必要もないから気が楽ね」
「楽しんでくれて何よりですよ。ともかく、これでレベル1はクリアですね」
「レベル1……そういえばレベル10まであるのよね」
「クリアしたらライフが一つ増えて、次のレベルに上がります。そして配られる手札も増えます」
次のレベルは2。レベル2になったことで、配られる初期手札は二枚になる。これがレベル3になれば三枚、レベル4なら四枚といった風に、どんどん手札が増えていくため、ゲームの難易度も自然と上がっていくことになる。
(まずは……うーん、こういうとき1や連続した数字があると消費しやすいのだけれど……)
(この手札は中途半端ですね……)
(どうしようかなこれは……)
(……)
お互いの手札を間などで察したり推理しながらカードをだし合い、ライフも削りながらも順調にレベルを上げていった四人。そんな中、レベルは中盤の6にまで差し掛かり、残りライフも2となる中、合計24枚の手札を消費する中々に大変な状況になっていた。
(……誰も出さないわね。まさか……誰も一桁持ってない?)
(……誰も動かないなら、アリスが動きます!)
「あっ」
アリスが一番小さい数字である13を繰り出す。それを見た先生の口から小さな声が漏れる。そして皆が先生の顔を見ると、先生は申し訳なさそうに11の数字を繰り出す。
「せ、先生それは……」
「ごめん……」
会話は禁止のため、それだけの短い返答の後、残る二枚の内一枚のライフカードを消していく。これで失敗が許されるのは後一回だけ。しかし、ここでモルフォが14と15のカードを連続して消費していく。
(ラッキーね)
それを見たサツキも16を出して一枚消費。先生はそこで少し待ってから20を出し、さらに待ってから22を出す。サツキが26、アリスが35を出し、モルフォが37、38、サツキが40、45と順調にカードをだしていく。
(……ここはアリスが出します)
そこから少し長い溜めの後にアリスは55を出す。モルフォとサツキが沈黙する中、先生が65を出す。
「……手裏剣カード使いませんか?」
「ええ?」
「手裏剣カードって……一番小さいカードを捨てるカードだったわね。いいと思うわよ?」
「あ、アリスは使った方がいいと思います!」
「皆がそういうなら私は構わないけど……あ、これって……」
それを見たモルフォが即座に手裏剣カードを使うことを提案する。その反応と、手札を見ながらサツキとアリスも同意したことで先生も何かを察したのか、手裏剣カードの使用に同意する。そしてモルフォが61、アリスが63、サツキが70を捨てていく。先生も80を捨てる中、モルフォとアリスがそのまま出したら残る一つのライフカードを失うだけでなくそのままゲームオーバーになっていたことが明らかになる。
「……ごめん」
「ま、まあ捨てられてよかったわね……これは。それで、ここからまたお喋り禁止ね」
「ええ、そうですね。ま、これで何となく残りの手札も予想できるようになったと思うので頑張っていきましょう」
モルフォの言う通りだ。これで、モルフォの残る一枚は62以上、アリスの二枚は64以上、サツキは71以上、先生は81以上が確定となる。
(まず、モルフォちゃんとアリスちゃんの動きを見る。残る手札に私よりも低いカードがあるなら出してくるはずだけど……その気配はない。となると―――)
その情報を元に推理し、サツキは72のカードをだす。それを皮切りに、モルフォが76を出すと、アリスが80と82を連続して出す。残る100のカードを先生が出したことで、無事にレベル6をクリアする。
「なんとかクリアできたね……」
「ふう、あの時は焦りましたが、手裏剣カードのおかげでなんとかなりましたね」
「ええ……でも、ここから手裏剣カードは使えないのよね?これでレベル7は……いけるのかしら?」
「まあ、行けるところまで行ってみましょうよ」
「はい!昨日はレベル7をクリアできなかったのでここをクリアしたら昨日を越えられます!」
手裏剣カードのおかげでライフを一つ温存した状態でクリアできたので、このクリアでライフが二つに増えた状態でゲームが始まることになる。そして一人七枚、合計28枚の手札を消費するレベル7が始まることになる。
「……アリス、それ出されると私が」
「あう……す、すいません……!!」
一枚、また一枚と手札を消費していく。しかし、その中でも細かいミスが重なっていき、ライフも一枚、そしてもう一枚と消えていく。そしてライフが完全になくなってしまった中、全員が楽しそうに笑みを浮かべながらも必死に頭を動かしてレベル7を越えようとしていくのだが。
「―――ご、ごめんサツキ……私このカードが……」
「ええ……ちょっと先生それ持ってたならもうちょっと早く出してほしかったのだけれど……」
さすがに厳しかったのか最終的にはゲームオーバーになってしまう四人の姿があったのだった。