転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
変化する世界(前編)
『これは―――シャーレの先生である「あなた」と「スマートウォッチ」に関する物語です。
あなたは不規則な生活を送っていますが、それでも早起きしようと努力していました。サイドテーブルに置かれたスマートウォッチが、あなたの起床を手伝う唯一無二のアシスタントです。』
「……アロナ……?シッテムの箱は……」
『どうやら、あなたはまだ眠りの中にいるようです。なぜなら、見つかるはずのないタブレットを探しているのですから。
あなたが連邦生徒会長からもらった電子機器は、シャーケードの杖と呼ばれるスマートウォッチだけだというのに。』
「シッテムの箱は、どこに……?」
『寝室を探し回りますが、見つからずに終わるでしょう。あなたは考えます。タブレットをどこかへ置いてきてしまったのではないかと。慣れた仕草でスマートウォッチをつけて、あなたは休憩室へ向かいます。
まだ明かりもついていない休憩室の中で、あなたはいつも通りコーヒーマシンの電源を入れて、エスプレッソを一杯淹れました。豆を挽く音が響き、黒い液体がカップを満たしています。香りがほどんとない安物ですが、眠気覚ましにはピッタリです。
一息に飲み干して、あなたは執務室に向かいます。執務室に着いたあなたは、別の異変に気づきました。普段ならいるはずの当番の生徒達がいません。しかし、遅刻することもあるだろう、と大して気にも留めませんでした。
……カーテンを開けるまでは』
「……え?」
『ようやく第三の異変に気づきます。世界がモノクロになっていたのです。輝きに満ち、鮮やかな色で彩られていたキヴォトスから色が抜け落ち、灰色に染まっていました。曇り空ではありません。世界の全てがモノトーンになっているのです。そして、人の気配が全くありません。まるで、あなただけを残していなくなってしまったかのように』
「……この声は、一体……?」
先生はここで気付く。自分の脳裏に少女の声のようなものが聞こえていることに。まるで、ナレーションのように、自分の行動を縛り、誘導しているかのようなその声に一度疑問を浮かぶと、途端に意識がはっきりしてくる。
『数々の異変に混乱するあなたは、頭の中に浮かぶ言葉にすら疑問を抱くようになります。ですがご安心を。これだけは異変ではありません。
物語を綴る時、感情描写の観点から一人称視点で書き始めたものの、物語の展開に行き詰って三人称視点へ切り替えてしまう。それは、初めて筆を執る人によく見られる現象です。』
「……?」
『……失礼。共感しづらい話題だったのかもしれません。
話を戻しましょう。あなたは上着を羽織って急いで病院へと向かいます。自分の身に何が起きているのか、明らかにしようとするでしょう。』
(この異常を、病院で―――いや、違う。行くべきなのは……連邦生徒会のビル!)
先生は執務室を飛び出し、外へ走り出す。だがその行き先は病院ではない。その様子を見て、ナレーションのような声はその語りを変えていく。
『……いえ、あなたは別の方法をとりました。』
駅に辿り着き、列車に乗り込む。その中も、声は止まらない。
『連邦生徒会へ向かっている間も、周りの景色は変わりません。揺れる車内も、色を忘れてしまったかのようにモノクロに染まっています。あなたは……以前目にした光景を思い出しました』
その声に連想されるかのように先生の脳裏にあの日。色彩が到来した時の事が思い出される。
『あの時、世界は鮮烈な赤に染まっていました。それでも―――生徒たちが共にいました。ですが―――今は違います』
列車から降りる。そういえば誰も人はいないはずなのに、何故列車が動いているのだろうか。これはハイランダーの生徒が動かしているはずなのに。そんな疑問は浮かんですぐに消えてしまう。それよりもまずは連邦生徒会だ。ビルに辿り着き、中に入る。しかし、
『連邦生徒会の建物に着いたあなたは隅々まで見て回ります。しかし、依然として人の気配はありません。小言を言いながらもあなたの面倒をみてくれたメガネの行政官も、いつも明太子味のポテトチップスを頬張っている桃色髪の役員も誰もいません』
そこは案の定無人であった。先生は走る、あの場所へ向かって。
『あなたは最後に、あの場所へ向かいます。まるで何かに追い立てられるように階段を駆け上がっていきます。すべてが始まった、あの場所へ』
先生が辿り着いたのは、連邦生徒会の執務室。そこには、一人の少女が座っていた。
「連邦生徒会長室の執務室。そこには、見知らぬ少女が―――いえ。どこか懐かしさを感じさせる少女が座っていました」
頭の中に聞こえてきた声が、その少女の口から語られた言葉として聞こえてくる。だがその少女の容姿はわからない。どこか、見覚えのある姿をしているのに初めて見る気がする。
「この声は……君が?」
「はい。ですが同時に……いいえ、でもあります。この世界は少女の回顧であり、あなたの夢」
「夢……?」
「あなたが少女を見ているように、少女もあなたを見ています」
「……君は、誰?」
ふと、先生の視界が大きく揺らいだ気がした。直後、目の前に座った少女の姿が、先ほどよりはっきり見えた気がした。が、その隣に小柄な少女が立っていることに気付く。
(……もう一人?)
「またお会いできて嬉しいです、先生。私は―――」
★
「……こ、ここは?」
先生は早朝に目を覚ましていた。先程まで夢を見ていたような気がする。しかし、その夢の内容がどういう内容かが思い出せない。もう一度眠ろうとするも目が冴えてしまって眠る気になれず、シッテムの箱を手にオフィスの方に移動する。すると、シッテムの箱の中からアロナ達が心配した様子で出てくる。
『先生、大丈夫ですか!?ずっと魘されていたので心配しました!』
「魘されていた……?それって」
『悪夢でも見たのでしょうか?』
「う、ううん。悪夢ではなかったけど……変な夢ではあったかな……」
『悪夢でないのは何よりですが……』
夢の内容を説明しようかとも思ったが、そもそも内容自体が朧気でうまく説明できなかったので説明するのを諦める。しかしプラナ達は心配そうな表情を先生に向け続けていた。
(あれ?そういえば)
そんな中、ふとある単語が脳裏に思い浮かぶ。知らないはずのその単語について聞いてみようと思い、アロナ達に質問する。
「二人は、シャーケードの杖って知ってるかな……?」
『……私のメモリには記録されていません』
『う、うーん……聞いたことがあるような……ないような……』
シャーケードの杖。あの少女はそう語っていた。もしかしたら二人が知っているのかもしれないと思って聞いてみるが、プラナは首を横に振ってしまう。アロナは難しそうな顔を浮かべなんとか記憶の底個からシャーケードの杖について引っ張り出そうとする。
『先生は一体どこで聞いたんですか?』
「私もよく思い出せなくて……」
先生の言葉に二人は困惑した様子で顔を見合わせる。先生はもう一度シャーケードの杖について考えてみるが何も答えが出てこなかったため、一旦諦めることにする。
「夢の事は後で考えるとして……ちょっと早いけど、今日の仕事を始めようか」
『まだ朝の四時ですよ!?』
『健康のためにも再び就寝することをお勧めしますが……』
『そうですよ!ベッドに戻ってください!寝付けないなら子守唄を歌いますよ!』
『であれば私にお任せを。私には歌唱プラグインが搭載されていますので』
『そ、そんなの初耳―――いえ歌ってましたねそういえば……』
「あ、はは……」
二人に強く言われ、先生はまたベッドに戻ることになる。そしてベッドの上に寝転がると、二人と話をしたおかげもあってか気分も落ち着いており、襲ってきた睡魔に身を任せるように先生は瞳を閉じるのだった。
★
昼。久しぶりに数十分落ち着ける時間が取れたので普通の弁当を購入して食べていた時だった。そこに珍しくカヤが同席してきたのだ。一体何の話なのかと思いながらも無言で食事をしていると、彼女が突然、小箱を取り出しつつ話を切り出してくる。
「……シャーケードの杖?」
「ええ。最近色々バタバタしていたじゃないですか。色彩の一件やその後始末で。それも落ち着いてきて良い機会だったので色々整理していたのですが、そしたら連邦生徒会長が失踪する直前に渡されたこれの存在を思い出しましてね」
「……はあ。それが?」
「まあ、中はただのスマートウォッチなんですが、あの人が残した記録によれば真実を見通せる能力あるのだとか」
「……杖なのに、スマートウォッチ?」
少し困惑したような表情を浮かべるリンにカヤも肩を竦める。カヤが小箱を差し出すとそれを受け取ったリンが開けようとするが、鍵がかかっていた。
「先生の持っているタブレット……シッテムの箱というオーパーツじゃないですか。今にして思えばこれもそういう類なのかとも思いましたが、うんともすんとも言わず……それに私が持っていても使いませんので、それならうまく使えそうな他の人に渡してしまおうかと考えまして」
「……なら先生に渡してしまえばいいのでは?」
カヤを見ながら、不審そうな視線を向けるリン。同じオーパーツの疑惑があるなら先生にさっさと渡してしまえばいいだろうと。が、カヤはその視線に対して溜息を吐くと、遠くを見ながら呟く。
「渡しにくいじゃないですか。私から先生には……」
「……ああ。公務をサボって何故かネットカフェだかで汗だくになって倒れてるところを先生に発見されて保護されて―――」
「事細かに言わなくていいんですよそんなことは!!」
リンが当時の事を思い出しながら呟いてしまったことでカヤが思わず大きな声を上げる。身から出た錆では?と内心思いつつも触れられたくない所をこれ以上突っついて脱線するのも嫌なので一応話の先を促していく。
「……先日、広報のために写真撮ったそうじゃないですか」
「ああ……ありましたねそんなこと。それが……ああ、これを使えということですか」
「一応あの人が残したものではありますからね。埃を被らせておくのももったいないでしょう?」
「……」
連邦生徒会長が使っていた品を身に着けておけば見栄えもよくなるだろう。そんな意図だと一見読み取れる。それ自体は決して嘘というわけではないのだろうが、どうにも怪しい。何か裏があるように見える。絶妙に取り繕っていて、一見そうは見えないが、体のいい厄介払いをしようとしていると。しかし、ここでリンがどう追求しようとこのシャーケードの杖に何が隠されているかカヤはおそらく明かさないだろうし、大体こういう時は案外ばれても問題ない下らないものだろう。
「……わかりました。これは私が受け取っておきます。真実を見通す、というのも気になる言葉ですし。カヤ防衛室長、あなたはどういう意味だと思っていますか?」
「私ですか?」
実際は先生がカイザーに攫われた時にFOX小隊をシャーレに突入させて確保させたものであったため、自分とFOX小隊の未来の為にその一件を忘却させ、最初から自分が連邦生徒会長から受け取っていたという体でリンに渡して後は知らぬ存ぜぬでいようと決めただけなのだが、当然リンがその事情を知るわけがない。
「……逃した魚を確実に捕えられていたら。もしあれを真実にできたら、とはちょっとだけ思いましたがね。まあ……何も起こらなかったのでそんなものかもしれませんよ。或いは……シッテムの箱のように先生でなければ扱えないのかもしれませんね。だとしたら渡す相手を間違えていると思いますが……まあ、シャーレは何度か占領されてもいましたし、リスクを考慮してのことかもしれませんが」
「……そういうことにしておきましょう」
「……ではこれで」
何気なく聞いたリンの言葉にそうカヤは答えると、席を立って防衛室へと戻っていく。そしてシャーケードの杖を受け取ったリンも再び仕事に戻り、その間は完全に存在を忘れていたのだが、シャーケードの杖を思い出したのはその日の夜。しまっていた小箱を手に取る。
「……シャーケードの杖、ですか。シッテムの箱といい、これにもオーパーツとしての力が……」
もし本当にそういう力があるのなら、先生に渡した方がいいだろう。そうでない、ただのスマートウォッチならカヤの言う通り、箔付けに使うのも一興か。そう思い、リンは箱を開けようとする。
「しかしこの箱は……こうしてみると随分と凝っていますね。しかしこの見たことのないマークは、一体……?これは、連邦生徒会長が残したものではない?それに、これは……?」
箱の方を見ると、そこには奇妙な文章が刻まれていた。リンはその文字を口にしていく。
「この者は―――汝らを楽園から導きし者だ」
『パスワード承認。アクセス者、現連邦生徒会長代行、七神リン行政官。アクセス権限確認。声紋照合―――99%一致……確認完了。聖櫃の封印を解除します』
箱。そうカヤは言っていた。しかし、実際には聖櫃とこの箱から流れるアナウンスは言っている。これも、彼女の隠そうとしているしょうもなさそうな事情に対する誤魔化しなのだろうと呆れつつも、中に入っていたスマートウォッチを手に取る。
「……普通のスマートウォッチにしか見えませんが。シッテムの箱といい、会長はどのような用途でこれを……?世界を完璧に制御できるのは、あの人のような超人だけなのでしょうけど……」
背もたれに身を預けながら、はぁと溜息を吐きつつ、リンは思いを馳せていく。
「それでも、先生のような大人でなければ、あなたが残した片鱗に近づくことすら許されないのでしょうか……会長。あなたのいない世界で……私は、あなたの役割を果たせる自信がありません。ああ……この声が聞こえたら、嘘でもいいですから―――大丈夫だよ、と。言ってください。私は……」
リンの意識が疲れと共に薄れていく。その瞬間、リンはかつて連邦生徒会長と交わした言葉を思い出す。
『―――私の役割なんて、そんなに大したことじゃないよ。でも、どんなに優秀な人でも、代われないものが、一つだけあるの。それは―――』
その言葉が脳裏を過った次の瞬間だった。
「……リン」
「……」
「リン、起きてください」
「う……」
「七神リン行政官!!」
「……?この、声は……?」
リンの耳に聞き覚えの無い声が届いてくる。うっすらと目を開けると、目の前に一人の少女がいた。
「……おはようございます。昨日は遅くまでお仕事をされていたんですか?頑張るのもいいですが、あまり無理をしては本末転倒だと何度もお伝えしていますよ」
「……?あなたは……誰ですか?どうやって、ここに……?」
見覚えのない少女。プラチナブロンドの長髪に薄紫色の目をしたその少女は、リンの言葉に虚を突かれたような表情を浮かべる。
「もう……私の事を忘れてしまったんですか?寂しいことを言わせないでください。それとも……寝ぼけているんですか?」
「……は?」
リンは慌てて起き上がり、一歩後ずさりながら少女の顔を見る。リンの困惑したその視線を受けながら、少女は笑顔を浮かべる。
「では、改めて自己紹介をしましょう。私はあなたの古い友人であり―――この学園都市、キヴォトスを管理する連邦生徒会の長。連邦生徒会長です」
「……あなたが、連邦生徒会長……?」
連邦生徒会長。そう名乗った少女を見たリンが唖然となる。そしてすぐに、怪訝な表情に変わる。
「……誰ですか、あなたは」
「……リン?まさか……急に姿を消したことをずっと気にしていたのですか?何を言っても言い訳にならないかもしれません。ですが……」
「言葉通りですが。初対面のはずです、私はあなたを知りません。顔、声、何もかも……私の知る連邦生徒会長はあなたでは―――」
「会長!?戻ってきたと―――」
そして連邦生徒会長に追及しようとするリンだったが、その背後からカヤの声が響く。リンが面倒そうな視線をカヤに向けるように振り向くと、カヤは部屋を見渡し、リン、そして会長の顔を見て首を傾げる。
「……おや、リン代行……いえ、会長が戻ってきたなら行政官ですか。連邦生徒会長が戻ってきたと聞きましたが。彼女はどこに?」
「あ、それならここに」
「……はあ、誰がそのような冗談を?ご覧の通りです。どこにもいませんよ」
「いや、だからここに―――」
「でしょうね。見ればわかります。はぁ……今日はエイプリルフールじゃないんですよ……全く、ぬか喜びも大概に……」
面倒臭そうな様子のリンと露骨にテンションが下がっていくカヤ。その二人に無視された連邦生徒会長がプルプルと震えると、勢いよく机を両手で叩いて二人の注目を無理矢理集めると、
「ここに!連邦生徒会長である私が!いるじゃないですか!!あなた達私がいない間に凄く仲良くなりましたね!?」
「「は?」」
涙目になりながら声を張り上げる。それを聞いたカヤは困惑しつつも連邦生徒会長を指差す。その意図を理解してリンは首を横に振る。
(これが連邦生徒会長?別人じゃないですか)
(別人ですよ。誰も知らない不審者です)
「無言で会話するの止めませんか!?せめて私も混ぜてください!」
「混ぜるも何も……とりあえずその席は代行か連邦生徒会長が座る場所ですので。勝手口はあちらですよ」
「いやここが私の席ですよ!?」
「違います。代行である私の席ですが」
「あなたはこれから行政官に戻るんですよ!?あーもう!二人ともどうしちゃったんですか!アオイを……財務室長を呼んでください。全く、行政官と防衛室長についてお話が……」
連邦生徒会長が痺れを切らして電話を取り出し、財務室に電話をかける。その様子をリンとカヤが困惑しながら見ていたが、アオイも否定するだろうし好きにさせようとそのままにする。少ししてアオイがやってくる。これで化けの皮が剝がれるだろうと、二人が安心しつつ見守っていると、
「あら、リン行政官、それに……カヤ防衛室長。二人もここに来ていたのね。それで……何の用かしら―――連邦生徒会長?」
「「……え?」」
アオイの口から聞こえてきたまさかの言葉に、二人は頭の中が真っ白になるのだった。