転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「これは……春菊じゃないですか?」
「え?わ、わかるの?」
一枚のカード。それに写る植物の写真を見て、一目でその名前を見抜いたのは伊草ハルカ。かつてアビドスで奇妙な対立から共闘するに至ったゲヘナの学生で、便利屋68に所属する平社員である。
「は、はい……」
アビドスの一件の後、風紀委員会はシャーレの部員として登録されているが、便利屋68も同様に所属するようになった。社長のアル曰く、「シャーレは今後、もっと大きくなっていく。そこと伝手があり、共に戦ったという実績のある便利屋68もまた、今後、大きな仕事がどんどん来るに違いないわ!互いに利用し合う、危ないビジネスの関係……これぞアウトローよ!」とのこと。
「私は全然わかんなかったよ。凄いね、ハルカ」
「!そ、そうですか……えへへ、ありがとうございます」
一目でその植物を春菊と見抜いてみせたハルカを賞賛する先生。ハルカもまんざらでもないと言った様子で照れた顔を見せる。
「それにしても、そういう神経衰弱もあるんだね、モルフォ」
「あはは……まさかこうなるとは思いませんでしたが」
モルフォも、少し驚いたようにハルカの姿を見ていた。今回、モルフォが持ち込んだのは、「マジで草。」という神経衰弱用のカードゲームである。
「いや、本当に驚いたよ……確かに神経衰弱のルールを考えれば絵柄は何でもいいんだよねうん……」
カードに描かれた、野菜を見て、苦笑する先生。先生だって野菜の種類ぐらいはわかるが、かといってぱっと出されたらこれなんだっけ?と言いかねないものが多かった……というより、似たものをいくつも並べられたら迷ってしまう。
「名前はなんかギャグみたいな感じなのかと思ってたけど……」
「実際は結構な難易度ですよ、分からない人からしたら」
このゲーム、マジで草。それは名前だけ見れば真面目そうなゲームには見えないだろう。しかし、その実態は、十種類の野菜の写真を使った神経衰弱であり、ほうれん草やチンゲン菜といった、まだわかりやすいものもあれば、そんなのどうやって見分けるんだ?みたいなものもあったりする。その内モモイ達とやってみたら阿鼻叫喚になるだろうなぁと思って用意してはみたが、その前に一旦、知識が豊富そうな先生を交えてやってみようと、当番の日を利用して、休憩時間に誘ってみたのだ。
そして、この日、一緒に当番をやっていたハルカはカードを見て一瞬でその種類を見抜くというまさかの芸当を見せて、二人を脅かせていた。
「けど、どこでこんな知識を……」
「えへへ、草とか……結構詳しいんですよ。雑草とか……野菜も、バイトで……」
(雑草……)
植物が好きなのかと思いきや、その中でも雑草が好き、なのだそうだ。その過程でこういった野菜とかそういうのもある程度知るようになったのかもしれない。モルフォの記憶の中の彼女は店を爆発させたりといった荒っぽい印象が強かったが、まさかこんな好みがあったとは、正直意外だった。
「あ、そ、その……植物が詳しいとか、言って……すみませんすみませんすみません!」
「そんなことないよ。ハルカの長所じゃないか」
「そうそう、そんな卑下しなくたっていいよ、私、植物の名前なんて碌に知らないし」
それと同時に思い出す。アビドス高校に逃げ込んだ際には彼女はひたすら謝り倒していたことを。あの時は、自分が一連の騒動の引き金を引いてしまったことを後悔しているのだと思っていたが、実際は彼女自身の性格なども相まってのことだったらしい。
「だからこれ、私がやる時は絵柄を見比べて多分似てるってやってたりしてるから……名前で覚えられる人って本当に凄いんだよね」
「確かに。私もこれをやろうとしたらちょっと怪しかったからハルカがいてくれて助かったよ」
「!ほ、本当ですか……?」
とはいえ、凄いことは本当に凄いのだ。モルフォと先生から賛辞の声をもらったハルカの表情が緩んでいく。
「よし、折角だし皆でやってみない?この神経衰弱を」
「い、いいんですか?」
「もちろん!むしろ人数が増えた方が楽しいよ!」
先生とモルフォに誘われ、おずおずとハルカも一緒にシャッフルされるカードを前にする。草や葉っぱをイメージしたような緑色の模様が入った柄の裏面が並んでいく。順番をじゃんけんで決めて一番手になったモルフォがカードを捲っていく。
「えーとこれは確か……チンゲン菜だ。さすがにこれぐらい膨らんでるのは他と違うからまだわかる……」
「そうですね。この形はチンゲン菜ですね」
「これは……な、なに?」
「モロヘイヤだと思いますが……」
二枚目に捲ったカードが全く分からない。作る過程でプリントしたりは確かにしたが、改めて見せられるとびっくりするほどわからないものはわからない。それを一目で見抜いたハルカの知識にモルフォの表情が思わず引き攣っていく。
「……もしかしてハルカ、バイトって青果コーナーとかやってたり……?」
「あ、はい……すみません、私だけわかってしまって……」
「そんなことないよ、むしろわかる人がいてくれてほっとしてる。そうかこれがモロヘイヤか……」
とはいえ、表情が引き攣っていたのも、決して負の感情が、というわけではなくハルカが強すぎて凄い、という尊敬と感嘆の思いから来るものだが。選んだ二枚は違っていたのでもモルフォは表にした二枚を元に戻していく。
「じゃあ、次は私の番だね。これと、これは……」
「は、はい……これは春菊……これは、わさび菜ですね……」
「……こうして見比べてみればわかるんだけど、ね……」
先生もじっくりと見比べて、それでやっと画像の違いが分かる、というものだ。しかし、名前までは先生もわからない。ハルカがいてやっと、という状態だろう。
(そういう意味じゃ企画倒れになりかねなかったなこれ……)
ゲーム開発部でこれをやろうものなら、どんな惨状が生まれていたかわからない。本当にそれで合っているかどうかをてんやわんやしながら確かめたりして楽しむのもある意味醍醐味ではあるが、グダグダになってゲームが全く終わらない、みたいな状況を招いてもおかしくなさそうだった。
「これは……ほうれん草と……みず菜ですか……やっぱり、揃いませんでした……」
次はハルカの番になるが、今回も揃わなかった。しかし、20枚ある中の六枚が明らかになったことで、まだ見えていない植物は四種類だけとなる。そして、それ以外のカードが捲れれば、すぐにでもカードを取れるといった状況だ。そんな中、二回目のモルフォのターンに入る。
「じゃあ私のターンですね。選ぶのはここ……これ、は確か……ほうれん草だったはず!さっき先生が捲ってたのはこれだから……よし、多分一緒!……ですよね?」
「うん、一緒だと思うけど……」
「……どっちもほうれん草ですよね……?」
どうにか、ほうれん草のカードを捲ってみせたモルフォ。しかしすぐに自分で捲った奴が本当に正しかったのかの審議タイムが挟まる。先生、ハルカのチェックが通ってやっと二枚を手に入れたモルフォは、続けてカードを捲る。
「……これは?」
「イタリアンパセリだと思います」
「わ、わからん……!」
「あ、あはは……」
一か八かで捲って失敗して公開情報を増やすのもなと思い、一番最初に捲ったチンゲン菜のカードを捲り直してお茶を濁し、元に戻していく。続けて先生がまだ見ぬカードを捲ると、イタリアンパセリが出てくる。
「これは、イタリアンパセリ……」
「うげっ」
(?)
ハルカが何か違和感を感じたように首を傾げる。先生は先ほど確認したイタリアンパセリを捲り、二枚を取ろうとする。
「あ、ま、待ってください……」
「え?どうかしたの?」
「え、えっと……これ、違いますよ……?」
「「え?」」
しかし、先生がイタリアンパセリのカードを捲ってはっきりとその違和感に気付いたハルカが制止する。モルフォと先生が困惑しながらそれぞれのカードを見ると。
「「……あ!?」」
微妙に、本当に微妙に。カードを並べて注意して見てやっとわかるほどの差があった。それは、この二つが別種の植物であるということ。
「こっちはパクチーです……」
「……あ!?」
このゲームに収録されている植物のカードの種類を思い出し、その正体に辿り着くモルフォ。それは、パクチーであり、完全に別種である。見せられたところでわかるか!と誰もが叫びそうだが。
「あー……言われてみればそんなものもあったようななかったような……」
「まず気にしませんよねそういうこと。よ、よくわかったね……私も先生も全然気づかなかったよ」
「うん、ハルカがいなかったら大変な事になってたよ。気付いてくれてありがとうね」
「え、えへへ……」
それに気付いたハルカのおかげで何とかゲームになっていた。先生は二枚のカードを元に戻す。そして次にカードを捲ったハルカは、
「これはパクチーですね……で、あれば」
「一緒だね」
「次は……これはイタリアンパセリですね」
一組、二組とハルカが次々とカードを捲っていき、回収していく。これまでに得た情報と、新しく捲ったカード、それらの情報から自分のカードを増やしていくと。そして三回目。
「これは、わさび菜……確か、わさび菜は……」
再び、一枚は既に捲れているカードが出現した。それまでに捲られていたカードの事を思い出し、三組目のカードの回収に成功するハルカ。これで、八枚のカードが回収された。残るカードは十二枚。後二組をハルカが回収すれば、自動的に勝者が決まることになる。そのままのペースで、チンゲン菜やモロヘイヤも回収していき、ハルカの手持ちのカードは八枚、場に残るカードは残り十枚になる。
「こ、これって……もしかして……いける……?」
「今、ハルカが八枚持っているから、ここで後二枚を手に入れたらハルカの勝ちだね」
「……」
一枚だけ明らかになっているカードがある。それを引ければハルカの勝利は確実となるだろう。しかし、それを見つけるには九分の一を引かなければならない。ハルカ自身、そこまで自分の運勢が良いとは思えず、それを引けるとは思わなかった。
「……う、これは……」
「見たことのないカードが……ハルカ、これは?」
「三つ葉ですね……」
「み、三つ葉……」
よりにもよって、まだ出てこないカード。これでは全くのノーヒントでカードを捲る必要がある。どれを捲るか、迷うように、カードに触れようとして、でも離すといった行動を繰り返していたが、やがて決心がついたのだろう、意を決して一枚のカードを捲る。そして出てきたのは、二枚目の三つ葉のカード。
「そ、揃った……!」
「す、凄い……五連続で成功させるなんて!」
「これじゃ続けても私達じゃ勝てないね。君の勝ちだよ、ハルカ」
「あ、ありがとう、ございます……でも、ゲームを終わらせちゃって……」
「そういうゲームなんだから気にしない気にしない!なんならもう一回やればいいだけの話だしね」
ハルカの知識により、ゲームを有利に進めたこと。カードを絵だけでなく、名前でも覚えられたことでより、効率的に記憶することができた。そして最後の勝負所で正解を掴んでみせた勝負強さ。それが今回のハルカの勝因だろう。
「えへへ……」
楽しそうな表情を浮かべるハルカを見ていると、モルフォも顔に笑みが浮かんでくる。せっかくならと、モルフォはまとめたカードをハルカに渡す。
「気に入ったなら、これ、渡しますよ」
「え……?い、いいんですか?受け取っちゃっても……」
「大丈夫!使ってるカードが野菜になってるだけの神経衰弱だし、神経衰弱自体は他のカードでもできるからね。むしろ、これは一番楽しんでくれた人が使ってくれるのがこの子のためにもなるよ!」
「そ、そうですか?あ、ありがとうございます……」
申し訳なさそうな様子を見せるハルカだったが、モルフォの笑顔を見て受け取ることを決める。二人が仲良くしている様子を見て、先生も笑顔を浮かべる。
「折角だし、便利屋の皆とやってみたらどうかな?きっとアルや皆も喜ぶんじゃないかな?」
「!そ、そうですね!アル様も喜んでくれますよね!」
モルフォと先生の言葉を聞き、大喜びするハルカ。これだけ彼女が慕うのだから、アルという人物、そして彼女が率いる便利屋68という組織も大したものだ。モルフォが関わりがあったのはアビドスの一件での共闘が最後であったが、他の人達とも遊んでみたい、そう考えるのだった。
その後、ハルカが持ち帰った、マジで草。それを便利屋でプレイしてみたところ、当のアルが(こんなのぱっと見てわかるわけないでしょおおおお!?)と内心叫ぶことになるのだがそれはまた別の話。