転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
ミレニアムの自治区の中を駆けるいくつかの影があった。一人は、ミレニアムの制服を着た少女。そして残りは、黒を基調とした改造制服に身を包んだ不良生徒達だった。
「おらクソガキ!痛い目見たくなかったら金出しやがれ!」
「それは嫌じゃい!!」
不良の集団に追い回されていたのは、オレンジの髪の少女、モルフォ。街の中を疾走する彼女へ向けて、不良達は追いかけっこはここまでだと言わんばかりにアサルトライフルを構える。
「ならくたばりやがれ!」
「うわーっ!?」
緊急回避と言わんばかりに横っ飛び。路地裏に入るのと同時に、先ほどまで彼女がいた場所に弾丸が次々と叩き込まれていく。
「アブなぁ……私そんな戦闘得意じゃないんだけどなぁ……今日はツイてないなぁ……っと!」
襲われたなら仕方ない。普段から所持している銃を取り出す。それは、ショットガンだった……のだが。何故か先端が左右に膨らんでいるし、銃身そのものも一回り太い。そしてグリップ部分はというと、テープが巻かれており、握りやすくなっているのが確認できる。
「逃がすか!」
「この先は行き止まりだ!もう袋のネズ「なんとぉー!!」ぐぼぉ!?」
不良達が路地裏に顔を覗かせようとした瞬間。その不良の頭部に勢いよく、ショットガンの先端が叩きつけられる。そう、これはただのショットガンではない。エンジニア部の魔改造を受け、鈍器として運用することが可能な存在へと生まれ変わった逸品である。
「落ちろよー!!」
「ぎゃー!?」
さらに銃から左手を離して折り畳み式のシールドを展開。そのままシールドバッシュの要領で別の不良を殴りつける。
「こ、こいつ、どうなってやがる!」
「なんか普通に強いぞ!?つーか殴ってきやがるのかよ!?」
「弾がもったいなくてさぁ!悪いねぇ!」
嘘である。前世で染みついた感性からか、人に実弾を向けるという行為が嫌なだけである。無論、彼女自身あまり射撃自体が得意ではないのも理由としてあるが。そんな彼女が、エンジニア部に頼んで作ってもらったのが、彼女のメインウェポンであるショットガンハンマーであった。
「こ、このや―――ぐぇ!?」
「ん?」
そのままハンマーを振り回し、不良達を一人一人と倒していく。そして残り数人となったところで、不良の一人が発砲音と共に倒れる。
「あはは、モルフォちゃん!楽しそうな事やってるね?」
「アスナ先輩、これが楽しそうに見えますか?」
彼女の声を聴いて発砲音に安心したモルフォが、突然の乱入者に驚き動きを止めた不良の胴体にハンマーをめり込ませ、次々と吹っ飛ばしていく。
「ふぅ、一丁上がり、と……」
「凄いね、その銃」
「ええ、エンジニア部には感謝ですね……それで、アスナ先輩はなんかの帰りですか?」
「そうだよー?任務が終わって暇になったからさ、こっちに来たら面白いことがあると思って」
モルフォが意識を失った不良達からアスナと呼んだ乱入者へと視線を移す。そこにはアッシュグレーの長髪に水色の瞳をした少女、一之瀬アスナの姿があった。
「そしたらモルフォちゃんがいたんだー。ねえねえ、なんか面白いものとかない?」
「急に言われても困るんですけどね……えーと……まあ、場所変えましょうか……」
「面白いものがいっぱいあるなら皆に広めてもいいのにね」
「私が考えたものじゃないですからね。アスナ先輩には隠せないと思ったので言っちゃってますけど」
アスナは、先日秘密を知ったユズよりも前から、モルフォが異世界の遊びをしていることを知っている人物だ。その理由は、彼女のその直感にある。私の知らない面白い遊びを知っていると思った、と言われていきなり接触された時点で、前々から何となく聞いていた彼女の直感の噂と合わせて誤魔化すのは無理と悟ったモルフォは他の人にばらさないでほしいと念押ししつつ自分の秘密を教えていたのだ。そして彼女もそのことを明かしていないということは、まだばらす時ではない、広める時ではないと悟っているのかもしれない。
「それで、何をやろうとしてるのかな?」
「うーん……」
その場から歩き始めながら何をやろうかと考えるモルフォ。アスナはそんなモルフォの両肩に手を乗せながら楽しそうに揺らしてくる。
「そういえば、あれがあったかな……」
「えー、何々ー?」
ぐいっと顔を近づけるアスナ。彼女の綺麗な顔がモルフォのすぐ近くまで迫ってくるが、何度かやられているためさすがに慣れてきていた。
「それは、トレジャーガウストですよ」
「???」
★
「あはは、なにこれ!カッコいいじゃん!」
モルフォの部屋に上がったアスナの目の前にあったのは、少し大きめの携帯端末のような形をした玩具だった。オレンジを基調としたカラーリングのそれには、リールのようなパーツがついており、端末の下部には何かをはめ込むスペースが存在している。
「スマホもいいけどさ、こういうデザインの携帯があると仕事でも使えそうだよねー」
「見た目は確かに格好いいですけど……結構個性的じゃありません?」
液晶画面に映るメニューを適当に弄りまわしたり、リールをグルグル回したりして遊ぶアスナ。しかし、このホビーの真価はここからである。
「じゃあ、とりあえずストラップハンターの使い方を教えますね」
「へー、ストラップハンターって言うんだ」
一通りの説明をアスナは受ける。このストラップハンターはトレジャーガウストという釣りゲーの中で出てきた機種の一つである。トレジャーガウストとは、ガウストと呼ばれる生命体を釣り上げるというゲームであり、このストラップハンターはガウストを釣るために必要な釣竿といったところだろう。ガウストというのは確か幽霊みたいなものではなかったかとモルフォは記憶しているが、そこは割愛しておく。
「……という感じでガウストを釣ってみてください」
「オッケー、それじゃあやってみるよ!」
そして一通りの使い方を聞かされたアスナは、モルフォからストラップを受け取ると、それをストラップハンターに接続する。それからストラップハンターを開き、周囲を見渡し始める。これはハンターモードという、ガウストを探している状態のことだ。ピロン、ピロンとガウストを探している音が鳴る。
「おっ、見つけた!」
「フッキングを!」
見つけたガウストを捕まえるべく、針をかける。画面にHITの文字が出現し、無事にガウストを捉えたようだ。しかし本番はここから。今回のバトルで使用するパートナーガウストを選ぶ。それは、アスナが釣りを始める前にストラップハンターに接続していたストラップのガウスト、ヘルロッドだった。
ヘルロッド自体は、U字磁石のようなものを取り付けた刺股を持つ、外套に身を包んだドクロのガウストであり、どういう存在なのかとかは全く分からない。とりあえずモルフォも目についたからこれでいいだろうぐらいの感覚で渡しただけだ。
「よーし、それじゃあ始めるよ!」
そう言うと、逃げるガウストに画面を合わせるようにクルクルと回り始める。そして対象を捕捉する。ガウストが足を止めた瞬間にグルグルとリールを巻き始めていき、相手のゲージを減らしていく。体力ゲージ代わりのこのゲージが完全になくなれば、ガウストを捕獲できるというわけだが、ガウストだってそう簡単には捕まるつもりはない。相手のガウストもまた、こちらの釣り糸を破壊しようと攻撃してくる。
「おっと?」
だが冷静にアスナはストラップハンターを左右に振って攻撃を避けると、再びガウストに画面を合わせる。ここで、事前に選んでいたパートナーガウストの必殺技によるサポートが挟み込まれ、釣りをサポートする。その繰り返しによって体力を減らしていく敵ガウスト。そして遂に、アスナはガウストの捕獲に成功する。
「やった、捕まえたよモルフォちゃん!」
「おめでとうございます。使ってみた感じはどうですか?」
「うーん、こういう釣りって楽しいね!」
部屋の中をぐりぐり回転しながらストラップハンターを動かし、ガウストを探し、リールを巻いていくアスナの姿を見ると、全力で楽しんでいるのは明白だろう。無論、本当の釣りとは違うのではあるが、釣りをこういう形で昇華したアイデアは作った人達の事を考えると、何を食べてたらこんなことが思いつくんだろうとは常々疑問である。もしかしたら頭の作りが根本から違うのかもしれない。
「いやー、面白かった!」
「少し休憩します?お菓子とか用意しますけど」
「じゃあお願いしようかな」
それから数匹のガウストを釣り上げて、一しきり満足したアスナ。モルフォが用意した座布団に座って、キッチンに向かうモルフォを待つ。冷蔵庫を開けてオレンジジュースの缶を取り出し、冷蔵庫の上に置いた箱の中からクッキーを取り出す。
(他にも色々あったなー、チャイドランとか)
トレジャーガウストについて覚えてることを少しずつ思い出しながらお菓子を用意したモルフォと一緒にアスナは小休憩を挟む。クッキーを食べながらも、アスナの視線は部屋の中を見渡すように動いている。
「えーと、なんかありましたか?」
「ああ、気にしないで!モルフォちゃんの部屋、見てて飽きないなって思ってただけだから!」
「あはは……ユズにも同じこと言われましたよ」
「あ、他にも人が来たんだ」
ホビーをまとめたケースや、ゲームのパッケージが収められた棚。後色々書き殴ったり書き殴らなかったりしているノートの数々。部屋の隅で稼働しているエンジニア部特製の3Dプリンターなどなど。ちょっと日を空けてくると大体新しいものが増えているのだ。
「じゃあ、モルフォちゃんの秘密を知っている人が増えたってことだね。いいことじゃん」
「そうですね……大っぴらに遊べる人が増えるのは嬉しいです」
モルフォの肩を抱きながらクッキーを口に入れるアスナ。こうやって元の世界のゲームや遊びに興味を持ってくれるのは大変いいものだ。そのうちユズを呼んでアスナと三人で一緒に遊ぶのもいい気がする。
「可能ならもっと普及したいんですけどね……そのハードルも高そうです」
「うーん、じゃあばれても問題ない人を連れて来ればいいの?」
「えーと……そういうことになりますかね?そこらへんはアスナ先輩に任せちゃいます」
「オッケー!今度連れてくるねー!」
そしてどうやら、アスナは口が堅い……かどうかまではわからないが、この事をばらしても問題ない人物に心当たりがあるようだ。アスナの直感は超直感超えてるだろとモルフォが突っ込みたくなるレベルなので、そこは心配していない。それに、アスナの知り合いが来るならもっと皆で楽しめるだろうから。
「……そういえばこれさ、今度連れてこようかなって思ってる人とか好きそうだなって思うんだよね。特に絶対刺さると思う」
と、アスナが指差したのは、テレビの横に飾ってあるプラスチックで作られたロボットだった。白を基調としたデザインで青い装甲の装飾が見えるその機体は、俗にいうガンプラと呼ばれるプラモデルであった。
「確かに格好いいですけど、そういうのが好きな人なんですか?」
アスナの言葉にモルフォもちょっとだけ驚く。というのも、確かに格好いい系が好きな人はキヴォトスにもいっぱいいるが、こういうロボット系の……所謂男の子が好きそうな格好良さが好きな人は、全体でみるとやはり少ないのではないか、と個人的に考えていたからだ。しかし、アスナがこういう系統が好きな人がいる、というのであればその人物に対する興味も湧いてくる。
「それにこれさ、名前もすっごいぴったりじゃん!偶然なんだよね?」
「えーと、偶然?いやまぁ、飾ってるガンプラは割と適当に決めてるので、アスナ先輩が来た日にたまたま飾ってるっていう意味では偶然かと」
さらにその機体を見つめながら、アスナはどこか興奮した様子を見せている。一体この機体に何を見出しているのだろうか。さすがにネタばらしが欲しいなと思い、モルフォが口を開こうとした時だった。
「だって、これ!」
そう言いながら、アスナはその機体の前に飾られていたネームプレートをモルフォに見せる。そこに書かれていた機体名。それは、
「ガンダムダブルオースカイメビウス……」
「そっ!ダブルオーだよ!」
「……あっ、そっかぁ……」
アスナが誰を呼ぼうとしているのかを理解し、モルフォは納得したように呟くのだった。