転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「……あれ?モモイとミドリ?ユズは?」
「あ、モルフォ、ちょっと待ってて……今日は報酬二倍だから……」
「ユズちゃんなら……あれ?さっきまでいたような」
ゲーム開発部に入ったモルフォは、部屋の中でそれぞれくつろぐモモイとミドリを見つける。その光景に疑問そうに首を傾げていたが、
「……どうしたの?皆」
「あれ?ユズ?え?皆いるの?」
「「え?」」
トイレから戻ってきたユズの姿を見て、さらに困惑してしまう。モモイはモルフォの言葉に反応していたが、今はゲームの方が大事と言わんばかりに視線を画面に戻す。
「ど、どうしたの?今日何かあった?」
「前、ノア先輩が言ってなかった?部長会議のこと。だからてっきりモモイはいないと思ってたけど……モモイがいるからユズが行ったのかなって……さっきまで思ってたんだけど」
「「……あっ!?」」
モルフォが口にした内容を聞いて、ミドリとユズが冷や汗を流しながら顔を見合わせる。そうだ、そういえばノアがそんなことを言っていた。慌ててユズがスマホを覗くと、ちゃんとセミナーから部長会議のメールが以前届いていたことが確認できた。
「ど、どうしよう、後十分で始まっちゃう……!」
「お、お姉ちゃん!?部長会議の事忘れちゃったの!?ユズちゃんの代わりにお姉ちゃんが出るはずだったよね!?」
「え?……え?」
ミドリがモモイに詰め寄ると、モモイは一瞬虚を突かれたような表情を見せる。そしてすぐに冷や汗をダラダラと流し始める。完全に忘れていたであろうことは容易に想像できる。
「……や、やば……」
「何が報酬二倍さ!?部活の存続について話があるってノア先輩言ってたじゃん!」
「い、いやぁう、うっかり……」
「いや早く行ってきなよ」
「で、でも報酬が……」
「行けや!後八分!」
この状況で何渋ってんだお前!ときつく怒りの声を上げて部室からモモイを追い出す。どたどたとモモイが走っていく音が聞こえてきたので、ちゃんと部長会議に向かってるだろう。
「……あ、ありがとうモルフォ……」
「いや、まさか素で忘れてるとは驚いた……」
「め、面目ない……」
部室に残ったミドリとユズは、ゲーム開発部が何も知らないまま廃部になってしまうのではないかという嫌な予感を感じてしまい、モモイがちゃんと会議に向かったことで安心したようにその場に座り込む。
「お姉ちゃんが戻ってくるまでどうする?」
「そうだなぁ……ん?あれは……」
ふと、モルフォの目が部屋の隅に折り畳まれて置かれていた、緑、黄、青、赤の四つの円の模様が六個ずつ並んだマットへと向けられる。過去に単純にマットとして使うために持ってきたことを思い出したモルフォは、そういえばあのマットって元々は……と、そのアナログゲームの存在を思い出す。
「ツイスターゲームやってみる?」
「「ツイスターゲーム?」」
ツイスターゲーム、それは審判一人とプレイヤー二人以上によって行われるゲームだ。審判がスピナーによって指示された左右の手足と色を読み上げる。手足と色を読み上げられたプレイヤーは、指定された色に指定された部位を当てる。この時、手と足以外の部分をマットにつけてはいけない上に、さらに一度円の上に置いた部位は次の指示があるまで向きを変えたり、上げたりすることができない。ただし、相手の手足を動かす邪魔になる場合に限り、審判の判断によって動かしていいかどうかを判断し、動かした場合は相手が行動を終えたら速やかに元通りの位置に戻さなければならない。
そして、六つある同じ色の円が塞がれた状態でその色が出た場合は別の色が出るまで審判はスピナーを回すことになり、仮に右手の赤の指示が出た後にそのプレイヤーが再び右手の赤という指示を受けた場合、既に置いている赤の円とは別の円に右手を移動させることになる。
「面白そうだけど、誰が審判やるの?」
「じゃあ、私がやろうかな……どんな感じかわからないし」
「オッケー、えーと……今スピナー……まあルーレットはないから……2D4のダイスでいっか」
ネットでダイスツールのサイトを開く。そこにあるカスタムダイスで2D4という、四面ダイスを二回振るダイスを作ると、スマホをユズに手渡す。最初の番号が色、次の番号が部位と定め、番号によってどの色、部位かを纏めると、モルフォとミドリがマップの上に立つ。
「あれ、そういえばこれ、順番とかあるの?」
「ないよ?だからユズが選択したら私達が同時に動く感じかな」
「あ、そういう感じなんだ。じゃあユズちゃん、お願いね」
「わかった。えーと、まずは……赤の右足」
最初の一歩は何事もなく、お互いそれぞれ端っこにある赤い円へと右足を乗せる。
「次は……緑の左足」
「ここまではまあ……」
「次が……緑の右手」
「え?」
二回目までの指示はよかったが、三回目の指示で今、左足を乗っけている緑の部分に体をよじって右手を乗せろという指示が来てしまい、ミドリの顔に少し焦りが浮かぶ。モルフォが体を曲げて手を置いたのを見て、ミドリもゆっくりと左手を置く。だがここで、最初に赤と緑に足を乗せた位置が端っこであることが響いてきていた。
「ちょ、ちょっと待ってこれきついかも……!」
モルフォから見た場合、自分の視線の先、正面に他のマスやミドリが確認できる状態にあった。そのため、体を前の方に倒しつつ、右手を乗せる、ということができていたが、ミドリの場合はそうではない。体を前に曲げつつ、股を通して自分の後ろの緑の円を触りにいくという中々厳しい体勢になってしまったのだ。
「い、いやでもここで右手が……いや左手以外なら楽になる……」
「そ、そっか!こんなところで赤の左手なんてこなきゃ……」
「……ごめん、赤の左手来ちゃった……」
「ユズちゃん!!」
本当に出す奴があるか!そう叫びたい程にミドリの体が震える。だがユズが見せてくれた画面に表示された二つの数字が間違いなく赤と左手を指示している。それはつまり、二人とも両腕をクロスさせて限界まで伸ばさないといけないうえに、ミドリはそれを後ろに持っていくという地獄みたいな状況が待っているわけで。
「あっ、あっ、ああああああ……!」
「こ、これやばい……やばいって……!」
「ユズちゃ……つ、次ぃ……は、はやく、はやくぅ!」
「え、えっと、青の左足!」
肩が悲鳴をあげ、ミドリの全身が震える。腕をクロスさせた状態では長さが足りず、膝を曲げてどうにか距離を稼いで耐えているのだ。しかし、無茶な体勢に悲鳴を上げ始めている体がこれ以上は持たない。そんなミドリと、ミドリよりは楽とはいえそれでも苦しそうなモルフォの懇願を聞き、このままじゃ洒落にならないと慌ててユズが次を指示する。それは、赤の隣にある青の円へ左足を移動するという指示。それが出るな否やミドリが左足を後ろに回して腕のロックと絡み合っていた足を片方外す。モルフォも両脚の隙間を少しだけ縮めたことで楽になる。
「ふぅ、ふぅ……楽になった……」
「うぅ……ちょっと股と肩が痛い……」
「つ、次行くね……?次は青の右足」
次は右足の移動。これによってミドリは足のロックを完全に外すことができた。続けて黄の左手が来たことで二人は腕のロックを完全に外すことができ、漸く一息つけるようになる。
「た、助かった……」
「もう肩がきついんだけど……ねえモルフォちゃん、どうやれば勝ちになるの……?」
「どっちかが手足以外を付けたらかな……」
「あ、やっぱりそうなんだ……」
「次は……」
★
「あのー、ミドリさん?近くない?」
「ふ、不可抗力だから……!」
それからもツイスターゲームは続き。肉体が悲鳴を上げながらもなんとかユズの出す指示をクリアしていった二人だったが、ここで異変が起こる。最初に痛みに耐えかねた肉体が限界を迎え、元々少し無理のあるポーズをしていたのもあってモルフォの体勢が崩れてしまう。それをリカバリーするように動いた結果、ブリッジをするような体勢になる。これだけならまだ良かったのだが、同時に次の色に動こうとしていたミドリもモルフォの突然の変化に驚いてバランスを崩し、丁度モルフォの上に倒れ込んだような状態になってしまう。
「も、モルフォ、大丈夫?」
「きつい……」
「嘘だ!?私そんな重くないよ!?」
「ブリッジがきついんだよ!」
ミドリの体重については彼女の名誉のために触れないでおくが、それはそれとしてこの体勢がきついのは明白だ。ちょうどミドリが上に乗っている状態で、彼女も頑張って円から両手両足を離さないように必死に下に押してくるため、その力もモルフォの肘と膝にかかってくる。
「で、でもこうしないと私が触れないし……」
「……あ、そっか……こうすれば……」
「え!?いやいやそれなし!ちょっと!?」
ここで最低な閃きをしたモルフォが逆に、両肘両膝に力を込め始める。ミドリを上に押し上げるように動き出す。即ち、先にミドリの手足を離してしまえばこのゲームには勝つだろうというまさかの戦術である。モルフォのやろうとしていることにすぐさま気付き、モルフォに体重をかけて自分の手足が離れないように抵抗し始める。
「うぐぐぐ……!」
「み、ミドリ、抵抗するのかい……!?」
「するでしょ!?いやこんな邪道みたいなやり方をモルフォちゃんがするの!?フェアプレイの精神は!?」
「リアリストだ」
「え、えっと……次、言うよ?」
プルプルとお互い力を込め始めて揺れる体。今のまま放置すると大変なことになりそうなので、ユズも次の指示を出そうとしたその時だった。
「皆、ただい……ま……」
扉が開き、モモイがプリントを手に帰ってきた……のだが。
「え、えっと、ミドリ?モルフォ?な、なにやってるの……?」
目の前の光景を見て、質問する。するのだがその声が段々恥ずかしそうに小さくなっていく。信じられないものを見たかのような声音にミドリが慌てて姉の顔を見ると、顔が真っ赤になっている。その隣で、モモイが誤解していることに気付いたユズも気まずそうに、だが少し頬を赤く染めながらミドリから目を逸らす。
「……その、ね?いやさ?やっぱり、自由だとは思うよ?思うけどもその……お姉ちゃんとしてはさ、そこは節度を持ってやるべきで……ね?ほら、ユズに見せつけるのは何か、違くない……?」
「いや違うからああああああ!?」
ブリッジしているモルフォに倒れ込むミドリ。そして指示された場所の都合上、二人の顔はかなり近い状態にある。先ほどまでツイスターゲームに熱中していたため、二人はもちろん、ユズすらも気付かなかったが、何も知らず入ってきたモモイから見たら、なんかそういう現場にしか見えなくなっていたのだ。そのことに気付き、涙目で顔を赤くしながらブンブンと首を横に振るミドリ。
「ほら、モルフォちゃんからも何か言ってよ!このままだと私達……私達……」
「……モモイ」
縋るようにモルフォの顔を覗き込む。いや一層絵面がアウトになってきてない?とユズが思わず考える中、深呼吸をするとモルフォはモモイの顔を見る。その真剣な表情に、思わずモモイが息を呑んでしまう中、モルフォもまたミドリの援護をするため―――
「私達は真剣にやってるんだよ!!」
「モルフォちゃあああああん!?」
盛大に爆弾を投下した。これにはたまらずモルフォの胸倉をミドリが掴む。いや、わかってはいるのだ。ミドリもユズも、モルフォのそれがツイスターゲームの事を言っていて、決してモモイの言ってるようなことではないとわかってはいるのだ。いるのだが、既にブリッジで肉体的に限界にきているモルフォにそこまで伝える余裕はなく、頑張って絞り出した言葉がこれだった。そして心も精神も体に引っ張られたとはいえモルフォに女心はまだわからないのだ。
「違うよね!?そういうことじゃないよね!?」
「み、ミドリ?わ、私はその、祝福を」
「違うのモモイ!これはツイスターゲームっていうアナログゲームなの!たまたま事故でこんなポーズになってるだけで……」
「え?ゲーム?」
ここで漸く、ユズに言われて自分が誤解していることに気付く。モモイが少し唖然とした様子でモルフォとミドリを見ると、二人ともユズの言葉に同調するようにうんうんと頷く。
「……はあああ、よ、よかった……もし本当だったら私、これからどう二人と接していいかわからなくなってたよ……」
「そ、そんなことないからね!?確かにモルフォちゃんは大切な友達だけど……ああもう手離しちゃった……いいやもう……」
肉体的にはもちろんだが、精神的にも一気に疲労が来たのか、モルフォの上からマットの上に滑り落ちて座り込むミドリ。彼女が体から落ちたのを見て、モルフォもやっと安心したように仰向けでマットの上に寝転がる。
「た、助かった……ごめん、ミドリ……とにかく体きつくて……」
「まあ、しょうがないよ……あれは私も悪いし……それで?お姉ちゃん、会議どうだったの?」
「……あ!?そ、そうだった……その……やばくなっちゃった」
「「「え?」」」
そこで部長会議の事を思い出したモモイが、プリントを皆に見せる。そこには、
「えっと……部活動の存続条件変更!?部員数最低四名以上と、何らかの成果を収めること!?」
「い、今まで片方だけだったのに……!?」
「やばいじゃん。で、何でモモイは冷静なの?」
変更になった部活動の規約が記されていた。そしてそれは、ゲーム開発部にとってあまりに大きなものであり、両方満たしていない以上、絶望的なはず……なのだが、何故かモモイは笑っていた。
「だって、アテがあるからね」
「「アテ?」」
「そう……私達を助けてもらうんだよ!シャーレの先生にね!!」
そして、ゲーム開発部の未来を預ける相手の名を口にするのだった。
遊戯王5D's編が終わったので同時投稿です(次回から通常の投稿間隔に戻ります)