転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
眠る少女とゲーム開発部
「痛い痛い痛い痛い!やめてええええ!」
「……う……?」
女の子の悲鳴が上がる。その悲鳴を聞いて、痛む頭部を擦りながら目を開いた男性が声の主を確認すると、そこには、
「……モモイと、モルフォ?こ、これってどういう……」
「あ、先生、気が付いたんですね……よかったです」
「あのまま起きなかったらどうしようかと思った……」
何故かプロレス技をかけられて悲鳴を上げるモモイとモルフォの姿があった。マッスルリベンジャーじゃないだけ慈悲深いと思え、と口走るモルフォに対してモモイはただ悲鳴を上げることしかできない。先生はどういう状況なのか全く理解できない様子で困惑していると、ミドリとユズが説明を始める。
「えっと、実はお姉ちゃんが窓の外にプライステーションを放り投げて、それが先生の頭に当たって気絶してしまって……」
「それを聞いたモルフォちゃんがゲーム機を人に叩きつけるなって怒って……それでこういう状態に……大丈夫ですか?先生」
「お姉ちゃんがあんな状態なので後で謝らせますので……ごめんなさい、先生」
ゲームを大事にするゲーム開発部がこんな真似をするな、先生に何かあったらどうするんだというモルフォの真っ当な怒りをミドリもユズも否定することは一切せず、モモイも言われてることは完全に正論なため、加減をしてくれとしか言うことができていないようだった。
「えーと、うん。状況はわかったよ。モルフォもその辺にしておいてあげて。私なら無事だから」
「……あ、先生、目が覚めたんですか?頭は大丈夫ですか?意識を失う程の衝撃ってやばそうですけど」
「あはは、大丈夫だよ」
「ならいいんですけど……」
モルフォも先生の無事を確かめて漸く、ギブアップを宣言するかのように床をバンバンと叩くモモイを解放する。全身をぴくぴくと痙攣させながらやっと難を逃れたモモイは、顔だけを先生に向ける。
「あ、えーと……ごめんなさい、先生……ミレニアムに来てくれたってことは私達の手紙、読んできてくれたのに……」
「うん、部活の存続の危機なんだよね?えっと、それでミレニアムに来たら……」
「むしゃくしゃしてたお姉ちゃんが勢い余ってプライステーションを窓の外に放り投げて先生に命中、慌てて皆で先生を運んで介抱しながらお姉ちゃんがお仕置きされてました」
先生は元々、ゲーム開発部が廃部になるかもしれないという話を聞いてやってきたのだ。しかしそこでモモイからのダイレクトアタックが命中、そして今に至る。モモイは締まらない表情で、
「えーと、こ、こほん!改めて先生、ゲーム開発部にようこそ!それじゃあ早速廃墟に行こう!……私が回復してから!」
「は、廃墟?」
「ミドリ」
先生の歓迎と共に本題へと切り出し始める。だが、先生からすれば廃部と廃墟が繋がらない。まずは話を最初から話せとミドリにモルフォが合図を出す。ミドリは溜息を吐くと、説明を始める。
「実は……先日、セミナーから事実上の最後通牒を叩きつけられてしまったんです。元々ミレニアムの部活動は部員が四人以上いるか、ミレニアムの部活動として見合う成果を出しているか。そのどちらかを満たしている必要があるんですが……」
「あれ?四人いない?」
「あー……モルフォってまだ部員じゃないんだよねぇ……」
「そういえばそうだったね」
「私を逃げに使うな、ゲーム作れって言われててさ」
「私が悪いみたいに言うのは違くない?……まあ、一生懸命やって駄目だったら頭数に入ってもいいとは思うけどさ……ゲーム開発部なんだから開発してからにしようよ?」
モルフォにジト目で見られモモイがバツが悪そうに肩を竦める。無論、本当にやばいとなればモルフォも頭数に入るぐらいの落としどころはあるが、それはそれとして、ということだ。と、ここで先生は今の話の流れでおかしいところに気付く。
「あれ?だとすると……もしモルフォが入るなら廃部の心配はないんじゃ?」
「そうです。以前までなら……ただ、部活動の存続条件が変わったんです。部員最低四名以上、成果を出す。この二点をクリアしないと、ゲーム開発部は部活動として存続できなくなりました」
だが、先生が気付いたおかしな点は昔の話だと訂正する。つまり、モルフォの一生懸命やれというのはゲーム作りだけでなく部員集めもなのだろう。モルフォがゲーム開発の方に関わろうとしないのは彼女の異能の影響なのだとユズと先生も理解しているため、そちらについては今は何ともいえない。
「この前、部長会議でモモイがユズの代わりに出席して聞いてきたことでしょ……」
「モルフォちゃんが部長会議の事をお姉ちゃんに言ってなかったら、私達今もこの話知らないままだったんだよお姉ちゃん!?何が報酬二倍さ!モルフォちゃんにはよいけって言われてたじゃん!」
「うぅ……」
「むしろ部外者の私が予定を把握して口出ししてるのがおかしいのでは?」
「み、未来の部員だから……」
「……なるほどね。部活動が存続するには必要な条件が二つあるのはわかったけど……廃墟に行くのはどうして?」
「廃墟にG.Bibleがあるからだよ!」
そして、ゲーム開発部は廃墟にあるG.Bibleに希望を見出した。だが廃墟は連邦生徒会が立ち入り禁止にしていた危険な場所だ。かつては連邦生徒会も廃墟に人が迂闊に入らないように警備などをしていたようなのだが、連邦生徒会長の失踪に伴い、そこにいた戦力も撤収されてしまい、今や入ろうとすれば簡単に入れる状態になっているらしい。
「G.Bibleは神ゲーを作るために必要なものなんだよ。ヴェリタスにも協力してもらって、G.Bibleが廃墟にあることは突き止めてあるんだ!ヒマリ先輩も言ってたよ!廃墟は「キヴォトスから消えて忘れられたものが集まる、時代の下水道みたいな場所かもしれない」って!座標も教えてもらった!」
「ああ、マキがモモがどうこうって言ってたのってこれか……って、ヒマリ先輩がわざわざ?」
ここでふと、モルフォが怪訝な表情を見せる。今まで、モモイ達とつるんでいたが、その中でG.Bibleのフレーズは一切聞いたことがない。つまり、その情報はヒマリからもたらされた可能性が高いということだ。
「ヒマリ先輩もゲーム開発部が無くなると嫌だから協力しようとしてくれてるのかな?」
「きっとそうだよモルフォ!なんせG.Bibleはかつてミレニアムに在学していたゲームクリエイターが在学中に作り、廃墟に封印した聖書!最高のゲームを作れる秘密の方法が入った素晴らしいお宝なんだよ!これを読むことで、私達の新作、最高の神ゲー、テイルズ・サガ・クロニクル2が生まれる!それでミレニアムプライスは私達のものだ!」
「ミレニアムプライス?」
「ミレニアムの部活でそれぞれ成果を持ち寄るコンテストのようなものです。一ヶ月後のミレニアムプライスしか、ゲーム開発部が実績を示す機会はありません」
「……つまり……」
モモイとミドリの話を要約し、何故呼ばれたのかを先生は理解する。ゲーム開発部は、部員を四名以上集め、なおかつゲームを作って実績を残さなければならない。部員の方は最悪どうにでもなるので、ゲーム作りの為に必要なG.Bibleを手に入れるため、廃墟に向かう必要があるのだ。その指揮を先生に執ってほしい、ということなのだろう。
「うん、わかったよ。ゲーム開発部を廃部にさせないためにも、協力させてもらうよ」
「やったー!」
「ありがとうございます!これで廃墟に行ける!」
「廃墟……封印されたロボットとかいそう……!」
「いるのかな……?G.Bibleは本みたいだけど……まあ、皆で廃墟に行くだけじゃ怖いし、私も付き合うよ。友達を放っておくわけにはいかないし」
「ありがとうモルフォ!いよっ、名誉ゲーム開発部員!」
「調子良いやつ!でも持ち物とかはちゃんと用意してから行くよ?何があるかわかんないんだから」
先生の協力も得て、全員で廃墟に行くことが決まり、喜ぶモモイにモルフォは呆れながら声をかけるのだった。
★
廃墟。そこにはアビドスで戦ったオートマタ達とは違ったロボットたちが巡回しており、警備の目を搔い潜りながらモルフォたちは目的地へ向かって移動していた。しかし、完全に見つからずに目的地へ向かうことは不可能だったようで、発見されてしまったモルフォたちはロボットたちからの攻撃を受けていた。
「ミドリ!モルフォの脇を抜けようとしてる奴を!」
「わかりました!」
モルフォがガードを固める脇から抜けて後方にいるミドリ達を攻撃しようとするロボット。その頭部にミドリのスナイパーライフルから放たれた一撃が叩き込まれ、ロボットが倒れる。
「モルフォ、下がって!ユズ、攻撃!」
「「はい!」」
先生の指示に従い、モルフォが距離を取る。ロボットたちが空いた距離を詰めようとするも、ユズの放ったグレネードがロボットたちを吹き飛ばす。その爆発の衝撃によってロボットたちの動きが一瞬止まったタイミングを狙い、
「今だよモモイ!」
「オッケー!」
モモイがアサルトライフルをマガジン毎撃ち込んでいく。ロボットたちが倒れ、第一陣は蹴散らせたように見えるも、この戦闘を聞きつけたのか、後方から更なるロボットたちが現れる。
「第二ウェーブ!?」
「このままじゃジリ貧だよ、モモイ!弾が尽きたらどうしようもなくなる!」
「工場だ!このまま工場の中に逃げ込んで隠れるんだ!」
その数を見て、これ以上の交戦は危険だと判断し、先生は近くにあった大きな工場の中に避難することを呼びかける。モルフォを殿にしつつ工場の中へと逃げ込む五人。すぐに物陰に隠れ、ロボットたちの様子を注意深く確認していたのだが、
「……あ、あれ?」
「追ってこない……?」
何故かロボットたちは工場の中に入ろうとはせず、暫くその場をうろついていたものの、次第にそれぞれの元の位置に戻るかのように散って行ってしまった。
「……とにかくラッキ~、ってことでいいのかな?」
「良くないよ!?もう、なんで廃墟にロボットたちがいるの!?」
「……あいつらがいたから連邦生徒会は立ち入り禁止に?」
「わかんないけど……ここ、工場かと思ってたけど中に入ってみたらそういう施設じゃなさそうだし、一体……」
『接近を確認』
理由はわからないが、これで落ち着けると四人がほっとしていると。突然機械音声が響いてくる。
「何の声!?」
『対象の身元を確認します。才羽モモイ、資格がありません。才羽ミドリ、資格がありません。花岡ユズ、資格がありません。夢見モルフォ、資格がありません。先生……』
「?」
『資格を確認しました。入室権限を付与します』
「……え?」
この施設のセキュリティだろうか。次々と生徒達が資格なしと判断される中、その声は先生にだけ、肯定の反応を見せる。だが、当の先生本人も訳がわからない状態だ。一行が頭の中にはてなマークを浮かべている間も、音声は続く。
『才羽モモイ、才羽ミドリ、花岡ユズ、夢見モルフォの四名を、先生の「生徒」として認定、同行者である「生徒」にも資格を与えます。承認しました。下部の扉を開放します』
「……下部?」
「へ?目の前じゃなくて……きゃあああああ!?」
「きゃああああ!!」
「うわああああ!!」
「―――!?」
「!?」
続けて四人にもその資格が付与された……その次の瞬間。突然床に穴が開き、五人は真っ逆さまに落下してしまうのだった。
★
「あいたたた……皆大丈夫?」
「大丈夫……」
「お尻痛いよぉ……」
「うう……でも、そんなに高くはなかったのかな……?」
多少の落下時間の後、五人は下の階層へと落ちてしまっていた。幸い高さは大したことがなかったのもあり、派手に尻もちをついたモモイと体が弱めな先生を除けば多少痛い程度で済んだようだ。先生も、着地の衝撃が大きかったのか痛そうに膝や足を擦っているようだがとりあえず怪我はなさそうだ。
「ところでこの部屋……ってえ!?」
「どうしたの?ユズ……ユズ?」
部屋の中を見渡していたユズが、ある一点を見て目を見開く。どこか、目をキラキラさせている彼女の様子に気付いたモルフォたちが困惑しながらユズの視線の先を見ると。
「まさか……本当に……!?」
「ユズ?何言ってるの?」
「いやそれよりも……あれって、女の子!?」
そこには椅子があって。一人の全裸の少女が眠っていた。まさかの存在に、驚く五人。何故この子はここで、しかも裸で寝ているのかわからず、恐る恐るといった様子でモルフォたち四人は近づいていく。先生も近づこうと思ったが、さすがに全裸の女の子に男が近づくのはどうかという思いがあったのだろう。ひとまず女子たちに任せることにしたようだ。
「寝ているのかな……?」
「何だろう……怪我とかしてる感じじゃなさそうだけど……」
「この子もロボットなのかな……?」
「あ……確かにマネキンっぽいね……?」
眠っているこの少女の綺麗すぎる肌や、この不思議な場所で眠っていたという状態から、とても人間のようには思えなかった。まず色々調べようと、肌を触ってみたりしていると、モモイがある文字を見つける。
「……AL-IS?……アリス?」
「……AL-1Sじゃないのこれ?」
「この子もだけどこの場所って何なの……?」
「うーん……この子を起こしたらわかるかも……記憶喪失って言われちゃったらどうしようもないけど……」
「ユズ?」
状況が状況過ぎて明らかに過去にやらせたゲームのシチュエーションに引っ張られてるユズを見て思わずモルフォが制する。確かにゼロを思い浮かべたけどさ、とはとても言えない。
「とりあえず服を着せてあげよう」
「え、ミドリ予備の服持ってきてたの?」
「何日廃墟に入るかわからなかったから……モルフォちゃんも結構準備良かったけど」
「大体食料だからねこれの場合は……」
ひとまずミドリの提案通り、少女に予備の制服などを着せていく。これで裸で目を覚ます、なんてことにはならないはずだと安堵していると。突然警報音が鳴り始める。
「何、今の音!?」
「この子から聞こえてきたような……?」
「じゃあ、もしかして目を覚ます……!?」
「ユズちゃん、なんか嬉しそうじゃない!?」
『状態の変化、及び接触許可対象を感知。休眠状態を解除します』
「!」
そして機械音声と共に、少女が目を覚ます。先端が薄緑色のグラデーションになっている黒い長髪に、青い目の少女が目を開くとともに、彼女の頭の上にヘイローが出現する。
「封印が、解けた……!」
ユズがその姿を見て、ぽつりと呟く。彼女は興奮しているようだが、他の面々にとっては驚きと困惑の方が強い。少女は、そんな周囲の状況を理解しているのかいないのか、淡々と呟き始める。
「状況把握、難航。会話を試みます……説明をお願いできますか」
「せ、説明?」
「いやそれ欲しいのこっちだよ!?あなたは何者!?ここは一体なんなの!?」
「本機の自我、記憶、目的は消失状態であることを確認。データがありません」
「つまり、記憶喪失ってこと?」
「肯定」
やっぱり……!と言いたげなユズの表情を思わずジト目で見つめるモルフォ。その視線に気付いたのだろう、ユズは咳ばらいをして思考をフラットに戻すと、改めて少女の全身を見てみる。こうしてミレニアムの制服を着ているところを見るとロボットの市民というよりも生徒の一人だ。同じことをモモイも思ったのか嬉しそうに言う。
「でも凄い私達にそっくりだよね。ロボットの市民はよくいるけど、私達に似ているロボットは初めてだよ」
「先生、どうしましょうか?」
「……うーん……」
とはいえ、この子をどうしようかと言われるとその考えは先生にも咄嗟には出てこない。まずはシャーレで保護するべきなのか。連邦生徒会やヴァルキューレに伝えてみるか。そういうことを考えていると、モモイが妙案を思い付いたとばかりに満面の笑みを浮かべる。
「謎の工場のような施設の地下……全裸の女の子、そして記憶喪失……ふっふっふ!良いこと思い付いちゃった!」
「モモイ?」
「嫌な予感しかしない……」
「モルフォがギリギリまで部員になってくれなくてもノープロブレムってこと!この子を……アリスをゲーム開発部の四番目の部員にするんだ!!」
突然飛び出したモモイの宣言。それを聞いたミドリとユズは唖然となってしまい、アリスと呼ばれた少女は言葉の意味を理解できず、首をコテンと可愛らしく傾げるのだった。