転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
謎のロボット少女、アリスを保護し、モモイの提案によって部室にまで連れてきたゲーム開発部とモルフォ。すっかり外は夜になってしまっており、先生は廃墟の探索が終わったこと、アリスのことは任せてというモモイの言葉を受けて一旦シャーレの方に戻っている。そしてモモイ達はアリスをどうにかしてゲーム開発部の仲間にするための方法を話し合っていたのだが。
「……いやまぁ、私を逃げ道にする前にちゃんと部員も頑張って探してねとは言ったけども。これはどうなの?アリスって生徒ですらないし……苗字は?」
「苗字は考えてるよ!天童!これからこの子は天童アリスだよ!」
「肯定。自機を「天童アリス」と呼称します」
「……いやいやいや!これまずいって!こんな口調じゃ絶対だめだよ!」
「それに、学生証と武器もないし……」
それには問題が山積みだった。まずは口調。こんなAIらしさ全開の口調ではどう足掻いたってロボットだとばれてしまうだろう。そうなると変な問題が起こる可能性もある。そしてもう一つの問題は武器。銃を持たない人間の方が圧倒的に珍しいキヴォトスにおいては致命的な問題……といってもこれは最悪安価なハンドガンを持たせる、といった最終手段もあるのでまだマシではある。そして最大の問題、それは学生証だ。今のアリスはミレニアムの生徒ですらない。ゲーム開発部の部員になる以前の問題なのだ。
「学生証、ね……まあ、どのみち今はこんな時間だしどうしようもないよね」
「となると……話し方だね。でもどうやって違和感のない喋り方を教えよう……」
「こういうのって、動画を見たりとか、周りの言葉を真似たりって感じだと思うんだけど……子供用の教育プログラムってインターネットに落ちてるかな……?」
「うーん、微妙」
あーでもない、こーでもないと話し合う四人。そんな中、部屋を見渡していたアリスが、ある冊子を見つける。
「正体不明の物を発見、確認を行います」
「あ、そ、それは……」
「?」
それを手に取ったアリスを制止しようとするミドリ。思わず首を傾げるアリスに、少し言いづらそうな表情をモルフォ以外の三人は浮かべる。
「えっと、その……実はその中に、私達が作ったゲームが載ってるの。凄い酷評されちゃったけどね……」
「うぅ……」
「ユズ……そうだ。折角だしアリスにやってみてもらったら?ゲームならテキストも会話もあるし丁度いいと思うんだけど」
「でも、クソゲーランキング一位だよ……?テイルズ・サガ・クロニクル……」
「自分達で言ったらおしまいだよユズ?少なくとも私は普通に面白いって思ってたし……」
テイルズ・サガ・クロニクル。それはこのゲーム開発部唯一の功績であり、クソゲーランキング一位を取ったある意味伝説のゲームである。モルフォもプレイしたことがあるが、モルフォの感想としては「初見殺しとわからん殺しと理不尽が同居した狂気」である。終ぞ自分でプレイすることはなかったが前世で見てきたクソゲーたちと比べたら、クソがいろんなパターンで襲ってくるだけ飽きが来ないのは唯一の評価点かもしれない。とはいえ、ファイナルソードみたいな、製作者の想いは伝わると感じたからこそ、モルフォはなんだかんだで楽しんでいたし、身近にこういうのを作った人がいるならどんな人なのだろうと気になって、このゲーム開発部を訪れるようになったのだが。
「モルフォ……!」
「ゲームは楽しみ方を見つけてからが本番だよ」
ユズが嬉しそうな視線をモルフォに向けている中、モモイはテイルズ・サガ・クロニクルの準備を始める。その意図が掴めないのかアリスは疑問そうに首を傾げていたが、とりあえずゲームをプレイすることにしたようで、テイルズ・サガ・クロニクルをプレイするのだった。
★
「こ、ろ、し、て……」
「凄いよアリス!開発者と完全クリアしたプレイヤーが一緒とはいえ、二時間でトゥルーエンドなんて!」
「アリス……」
ゲームをクリアして飛び出した涙目のアリスの言葉に思わずモルフォが頭を撫でて落ち着かせる。今のアリスの様子を見てみると生まれて初めてプレイするゲームがクソゲーなのは間違いだったかもしれない。とはいえ自分だって小さい頃にやっていたゲームは今見てみるとゲームシステムとかテンポとか割とあれでは?と言われると否定できないものもいくつかあったりするので、結局一番最初にやるゲームは何だって楽しめるはずだとゴーサインを出してしまったことを後悔し始めている。
「ご、ごめんねアリスちゃん……」
「で、でも!ゲームをやればやるほどアリスちゃんの喋り方のパターンが、どんどん多彩になってきてない……!?」
「勇者よ、汝が同意を求めるならば、私はそれを肯定しよう」
ユズも心が少し痛んできたのか、アリスを気遣う。そんな中、ミドリがアリスの言語能力に大きな変化があることを指摘する。確かに、ゲームテイストな所はあるが、それでも最初の機械的なパターンと比べると前進しているのは間違いない。
「ち、ちなみにだけど……アリスちゃん、その……ど、どう……だった?私達の作った、ゲーム……」
と、ユズからアリスへと質問が投げかけられる。このゲームの開発者としては、気になるものなのだろう。それを問われたアリスは少し黙っていたが、
「……説明不可」
「えっ」
「類似表現を検索……ロード中……」
「も、もしかして悪口探してる……?そ、そんなことはないよね……?」
不穏な言葉がアリスの口から漏れ、三人が固まる。やがて、言葉を導き出したアリスが、その感想を紡いでいく。
「……面白さ、それは明確に存在……」
「お?」
「プレイを進めれば進めるほど……まるで別世界を旅しているような……夢を見ているような、そんな気分……もう一度……」
「「「「!」」」」
だがその言葉が最後まで紡がれることはなく、途中でアリスの目から涙が零れ落ちてしまう。
「ええ!?」
「あ、アリスちゃん!?どうして泣いてるの!?」
「決まってるじゃん!それだけ私達のゲームが感動的だったんだよ!!」
「ギャグ寄りのシナリオじゃなかったっけこれ……?アリス、泣かないで」
ハンカチでアリスの涙を拭いてあげながら、アリスの表情を覗き込む。しかしその顔は、悲しんでいる、というよりも感動している、という様子に見える。あの時、最後まで言えなかった言葉は、おそらく……
「でも、評論家気取りの連中よりもずっと嬉しいよ!ねえ、ユズ!」
「うん……ありがとう。面白いって言ってくれて……もう一度、やりたいって言ってくれて、泣いてくれて、本当にありがとう。そういう言葉を言ってくれる人って、ほとんどいないから……」
そう言い、ユズは嬉しそうに笑う。その表情を見て、アリスはにっこりと笑うと、
「アリスは勇者です。アリスはこのテイルズ・サガ・クロニクルによって理解しました。モルフォ、モモイ、ミドリ、ユズ。四人はアリスの仲間です!」
そう答えるのだった。
★
翌朝。モルフォはセミナー室へと向かっていた。昨日は夜もそこそこに、朝からアリスの為にやることがあると言って帰宅したのだ。しかし、モルフォが帰ろうとしていた直前にも、アリスは部室内に置かれていた、本当の意味で神ゲーの数々をプレイしまくっていた。ゲーミング学習がどれくらい効果があるのかはわからないが、昨日よりいい感じになっているといいなと思いながら、モルフォがセミナー室のドアをノックする。
「開いているわ」
「失礼します」
モルフォが中に入ると、そこにはリオが一人だけいた。扉を閉めるために一瞬だけ後ろを振り向いてからリオの方を見ると、リオの傍にはトキの姿があった。おそらく、モルフォ以外の客であればトキは姿を見せることはなかったのだろう。
「さて……あなたのお願いということだけど……」
「はい。実はミレニアムに一人、転入させてほしい生徒がいるんです」
「……?それならちゃんと手続きを取ればいいと思うのだけど。私にわざわざ言う必要はないのではないかしら」
直接会って話をしたいというモルフォの連絡を受けたはいいが、それによって聞かされたのが知り合いの転入の話なら、わざわざ自分を通すことではないだろうとリオは言う。無論、最終的に会長であるリオがその件について触れるのではあるが、それなら最初から正規の手続きを取ればいいだけの事だ。しかし、そう言われたモルフォはバツが悪そうな表情を見せる。
「えっと、実は……昨日、廃墟でロボットの女の子を見つけまして……その子をミレニアムの生徒として転入させられないかなと……」
「…………え?」
モルフォの言葉を聞いて、心当たりがあるのか、驚いた声がリオの口から漏れる。トキも、ロボットの女の子と聞いて疑問そうな表情を浮かべている。
「……ふぅ、例のロボットね……」
「知っていたんですか?」
「……ええ。でも彼女は未知数の存在なの。廃墟という、連邦生徒会が立ち入りを制限する程の危険地帯で発見された存在……私達の知らない未知のテクノロジーが使われているの。もしその力がミレニアムに、生徒達に向けられたら大変なことになるわ。正直なことを言うと、彼女をあなた……は無所属だったわね。ゲーム開発部に任せるのは良いこととは思わないわ。万が一暴走でも起こしたら、他の生徒達に危害が及んでしまう」
「ロボット三原則みたいなの……いやあるわけないかこのキヴォトスに……」
リオの言葉の意味を考える。廃墟でロボットたちに追われながら見つけたアリスの昨日の様子を見ただけなら無害な存在にしか見えないのだが、廃墟自体が曰く付きであることを考えると、自分達が知らないだけでアリスに何かあると言われても否定はできず、リオが危惧していることもわからないでもないが。
『……はぁ。相変わらずですね。あなたは』
「……ヒマリ先輩?」
モルフォが考えていると、どこからかヒマリの声が聞こえてくる。セミナー室にヒマリのホログラムが現れると、彼女はリオを睨み付ける。
『彼女……天童アリスと名付けられた少女は決して、あなたが考えるような最悪の事態を起こすことはないでしょう』
「最悪の事態?というかヒマリ先輩も知ってるんですか?」
『まだ確証があるわけではありませんがね。だからこそ、今はまだ私もリオも様子見、といったところですが、既に彼女はある程度の人間性を会得しています。今はまだ幼く、拙い部分はありますが、それも時間の問題でしょう。目覚めてすぐ、悪意のある者によって育てられ思考を歪められるならまだしも、今の彼女にそれは不可能でしょう』
「まあ、あの様子を見ると善性に大分傾いているとは思いますが……」
ヒマリの説明もまた、リオと同じく理解できる。しかし、リオとしてもその言葉を完全に受け入れるわけにはいかないという様子で毅然とした態度でヒマリに言葉を返す。
「そう結論を出すのは早すぎるわ。彼女がミレニアムの危機足り得る存在なのか、それを確かめる必要があるわ」
『確かめるという点については同意しますが、あんな可愛い子を危険と言い切るのはあまりにナンセンスですね。尤も、下水道を流れる水のようなあなたではこの澄み切った純正のミネラルウォーターである私の考えなど……』
「……」
そうなってしまえば止まらない。決壊したダムのようにヒマリはどんどん言葉を浴びせ始め、リオもまた自分の意見を譲らない。どうしてこうなったのかと言いたくなるような言い争いが目の前で起こっていた。
「……というかミレニアム全体の問題ならここだけで語る問題にしなければいいのでは……」
「『え?』」
しかしそれでは話が始まらない。そもそもの問題としてここに来たのはアリスを転入させるための手続きをリオに頼むため。リオとヒマリの議論を聞きに来たわけではないのだ。
「アリスがロボットで危険かどうかわからないなら皆に見てもらえばいいんじゃないですか?エンジニア部ならハードの扱いはお手の物ですし、ヴェリタスならAIやソフトの専門家じゃないですか。本当にリオ会長の言う通り危険であるならウタハ先輩やマキ達がわからないわけがないでしょうし、ヒマリ先輩が言うようにアリスが安全だっていうのならこれで証明できるじゃないですか」
「『……』」
二人の議論は完全に止まり、モルフォの言葉を真面目に考えていた。実際、この選択肢は二人としてもかなりアリではある。あるのだが、いまいち踏み切れない様子が窺えた。他の人を巻き込むべきか否か、といった感情が渦巻いているようにも見える。だがそこに助け舟を出したのは、トキだった。
「リオ会長。私はモルフォの意見を受け入れるべきだと思います」
「トキ?」
『……驚きましたね。あなたがそのようなことを言うとは』
トキの進言に二人とも虚を突かれたような表情を見せる。そして、トキの言葉を聞いて少し考えたリオは、納得したように頷く。
「わかったわ。天童アリス、彼女をミレニアムに転入させる条件として、その身体検査を行うことにしましょう。ただし、今回の一件についてはネルにも伝えておくわ。検査中、万が一のことがあったら彼女に取り押さえてもらう。それが条件よ」
『……解析に反応する防衛プログラムがある可能性はまだ捨てきれませんからね。そこはよいかと』
「まずは天童アリスの学籍を……?これは……」
『……』
アリスの転入手続きを取ろうとするリオ。しかしそこで、あることに気付くのだが、途端にヒマリが視線を泳がし始める。
「アリスの学籍が既にある……いえ、偽装されているわ」
「え?」
「……ヒマリ、あなた何か」
『私は関係ありませんとも。それでは用事を思い出しましたので』
「ヒマリ―――」
追及から逃れるようにヒマリはホログラムと通信を消してしまう。唖然となっているモルフォだったが、学籍が偽装されている、という話を思い出して、何が起こったのかを理解する。
「……ヴェリタスに頼んで学籍を偽装した……?」
「……偽装された学籍は削除して新たに作ることにするわ。天童アリスの件はまた連絡させてもらうから、学生証を受け取りに来てもらえるかしら」
「あーと、わかりました……すみません、お手数をかけさせて」
「別に構わないわ。彼女がヒマリの言う通り、安全な存在だというのなら、私が笑いものになるだけだから」
アリスの学籍についての問題が解決したところで、リオが零した言葉にうーん、と少し不満そうな表情を浮かべる。
「いや……最悪を備えるのって別に悪くないと思いますけども……備えて駄目なものなんてないのでは?まあある程度は楽観視するのも精神衛生上大事だと思いますけど」
「……そうかもしれないわね」
「じゃあ、私は皆の所に戻ります。アリスの件、対応してくれてありがとうございました」
「ええ、こちらでもやるべきことをやらせてもらうわ」
そして、アリスの学籍を作ってもらったことに礼を言い、モルフォはセミナー室を出ていく。そしてトキと二人残ったリオは、ある場所に連絡を取る。
「チヒロかしら」
『……リオ?一体何の……』
「おそらくヴェリタスが行った可能性が高いであろう天童アリスの学籍偽造の件についてなのだけど」
『……は?』
リオからその話を聞いた瞬間。スマホの向こう側からその連絡を受け取ったチヒロがスマホをミシミシと握りつぶそうとする音がリオの耳に聞こえてくるのだった。