転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「えーと、これとこれはここで……」
休日の朝。前々から考えてはいたが、やはりこういうのはやろうと思って気合を入れないとやる機会が訪れない。なので、気合を入れるため、今日は朝から部屋の中を整理することにしたモルフォ。彼女の部屋には色々なものが置いてあるので、その整理も大変だ。
「……まずい。やっぱりプラモが一番かさばる……!」
あるところからABS等を融通してもらえることもあってか、プラモデルを作るハードルはそこまで高いわけではない。だが、プラモを作るにあたっての最大の問題点。それは、スペースを取る、ということである。特に組立が終わったプラモを収納するアクリルケースの大きさは一個二個ならともかく何個もあると問題だ。
ゲームであればゲーム機本体さえ確保できればソフトは基本的にかさばるわけではないし、大体のものはPCに入っているので、意外と部屋はまだスペースは残っている。ホビーについてはよっぽど変なものを作ろうとトチ狂わない限りはプラモよりも場所がかさばるというわけではないし、そっちのようなアクリルケースを使用する必要もないため、意外と余裕はある。つまりはプラモである。プラモが生み出す問題が大変であった。
「……残す奴と残さない奴を決める必要が出てきちゃったなぁ……オーディーンとサイカチスとアースリィと……アーマーは残しておきたいよね。後はバルバトスに……ドットブラスライザーも捨てられない……」
いつか部屋の中が大変なことになるからよっぽど作りたいもの以外は基本的に作らないようにしとけ、とは常々思ってはいる。思ってはいるのだ。しかし、憧れは止められないのだ。気付けば増える。この前はゲッターアークも生まれた。
「……でも、捨てるしかないよねぇ……」
ひたすら作り続けた弊害だ。しかし、どこかで処分しなければならない。意を決して、捨てる機体と捨てない機体を分けていく。そして玄関に今回処分することを決定したアクリルケースとプラモを纏めると、愛銃を背負う。これから彼らには適当な空き地へと運ばれていき、そこでモルフォの手によって破壊されることになる。ハンマーで粉々にすることで元となったプラモの情報を残さないようにし、そこから改めて袋詰めにして処分するのだ。部屋の中で割ると音が響くし、何より砕け散ったプラモの破片がいつか牙を剥くし、曲がりなりにもキヴォトスの人間であるモルフォのパワーで吹き飛んだ破片が何かを破壊するとも限らないのだ。
「……よーし」
自分で作ったものを自分で砕く。正直心地がいいものではない。しかし、そうしなければならないと心を鬼にして扉を開ける。と、
「「……」」
そこに、インターホンを鳴らそうとしていた赤髪の少女が立っていた。二人の視線が重なり、モルフォは無言のまま固まってしまう。少女はというと、モルフォを呼ぼうとしてたところで出てきたからか、インターホンから指を離す。
「えーと……どちら様で……?」
ミレニアムの制服を着た、小柄な少女。鋭い真っ赤な瞳をこちらへ向けてくる、赤みが強い桃色の髪の少女は、ともすれば相手を威圧しかねない程の視線を向けていた。と、その顔を見て、モルフォは何となく見覚えがあることに気付く。学校でもたまーに見る人物。服装は明らかにそれとは違っているが、背丈と顔だけなら似ている人物を知っている。
「もしかして……美甘ネル先輩ですか?」
「おう。お前がアスナが言っていたモルフォってやつか。アスナから話は聞いてんだろ?」
「あー……はい。誰が、とまではアスナ先輩は言ってませんでしたけど、何となく予想はしてました。ただ、てっきりアスナ先輩が一緒に来るか、事前に連絡が来るものかと」
「……急用ができたからあたし一人で行けってよ。行っても大丈夫っつうから来てみたが……」
どうせ二人きりにさせた方が面白そうとかそんなところだろ、と呆れたように言う目の前の少女、ネル。ミレニアムの中ではメイド部とも評されるC&Cの一員であり、その服装であるメイド服の姿の印象が強い。とはいえ、表向きはメイド集団であってもC&Cの実態が凄腕のエージェントたちによって構成された武力集団である……ということは最早公然の秘密である。冥土部かな?なんて半分冗談でモルフォが考えた時期もあった。
「モモトーク、あいつしか知らねえからせめて一報ぐらい入れろっての……で?掃除でもしてたのか?」
ネルの視線がモルフォの格好に向けられている。現在のモルフォは掃除の為にジャージを着用している。他にも頭にバンダナを巻いてるし、開かれた扉から見える所にアクリルケースが積まれているのを見るに、彼女が何をしていたのかは予想がついたのだろう。
「あー、そうですね。ただ大体終わったので、後はこれを処分するだけ、ですね。まあそれぐらいならいつでもできるんで大丈夫です。少し待っててもらえますか?ちょっと着替えさせてもらいたいので」
「悪いな、そうさせてもらう。正直、あたしもよくわかってないんだよ。アスナの奴に、少しお前の事聞いて、それでお前の所に行けば面白いものがいっぱいある、あたしなら気に入るはずって言われただけだからな」
しかし、掃除のタイミングで鉢合わせるとは思わなかった。そう思っていたのはネルも同様だったようだ。アスナが行こうと言い出したタイミングなら大丈夫だと彼女も思っていたのだろう。モルフォに部屋の中に通されたネルの目に、玄関に積まれたアクリルケースとその中に入れられたプラモの数々が映る。
「……!?これは……!」
数分後。ミレニアムの制服に着替え直して部屋の扉を開け、玄関へと入ってきたモルフォは、捨てる予定だったプラモデルに齧りつくように見入っているネルの姿を見つけることになる。
「……ネル先輩?どうしたんですか?」
「……お、お前……これ、どうする気だったんだ?まさか、捨てる気だったのか……?」
先程の掃除と、処分するだけ、という発言からこれがそれなのだとネルも気付いたようだ。ここにある様々なコッテコテの格好いいロボットたちをまさか本当に捨ててしまうというのか。信じられないものを見るかのような目でネルはモルフォを見る。しかし、モルフォだって已むを得ない事情はある。
「残念ながら、置き場所が……これでも厳選したんですよ!」
「お、おお……」
誰が好き好んで自分で組み立てたプラモを捨てたいものか!そう言わんばかりに悔しそうに拳を握りしめるモルフォ。その姿を見せられるとネルとしても強くは言えなかった。
(……待てよ?厳選したってことは……)
と、ふとネルは厳選したという言葉に反応する。つまり、ここにあるものは、残念ながら彼女に選ばれなかったものなのだ。正直、こういったものに対して目が肥えている、というわけでもないネルでもただただ格好いいと思える逸品ばかりだったのだ。それを上回るものとなるとどんなものなのか。
「……見せてもらってもいいか?」
「いいですよ。今は整理のために残してるものは全部出してますから」
「……確かにタイミングはぴったりだな……」
アスナの直感が示すものはこれだったのかと気付き、納得する。わくわくする感情を抱きながら、部屋の中に案内されたネルが見たもの。それは、
「うおっ……すっげ」
「説明した方がいいですか?」
「お、おう……大筋ぐらいは頼む」
机の上に積まれたプラモデルの数々だった。オーディーンと呼ばれる青、白、黄のトリコロールカラーから成り立つ機体や、サイカチスと呼ばれる、頭部がカブトムシのようなミサイルの発射口になっている黄色と白で彩られた機体。他にも、ドットブラスライザーというかなりゴテゴテしたいかつい機体に、一見シンプルなように見えるが、周囲に置かれた戦闘機のようなパーツ、アーマーと組み合わせることを前提としたコアガンダムなど、色々な機体の名前と軽い概要を真剣そのものな感じで聞いていたネルは、ごくりと生唾を呑み込んでいた。
「お前……すげぇな……!?」
「ちなみにオーディーンはこんな感じで変形が……」
「う……あ……」
ネルの前に持ってきたオーディーンを人型から戦闘機へと変形させる。この再現度の高い変形機構はモルフォも大好物である。そして、それを見せられていたネルも完全に固まっており、震える目でオーディーンを見て言葉を失っていた。
「か……カッケェ……」
ぽつりと呟かれたネルの言葉。それを聞いたモルフォはオーディーンを棚に戻すと、テレビの横に飾っていたガンプラをしまっているアクリルケースをネルの下へと運んでくる。
「そしてこれが、ダブルオースカイメビウスです」
「!へぇ……ダブルオー……ねぇ。アスナから何となく聞いちゃいるが、本当なら凄い偶然もあるもんだ」
アスナの選んだ人だったので自分の持つ異能めいた能力についても予想はしていたが、やはり知っているようだ。C&Cでダブルオーのコールサインを持つ彼女としては名前も、そして見た目も全てが刺さっていたようだ。特にこの機体に対する食いつきっぷりは半端ではない。
「……」
ちら、ちらとネルの視線がこちらに向けられる。何となく、ネルの言いたいことはわかる。このプラモが欲しい、ということなのだろう。しかし他人の所有物を貰うわけには当然いかないので、なんとか我慢している、というところだろうか。
「……折角ですし、組んでみますか?」
「え?いいのか?」
「と、いうよりアスナ先輩から話を聞いて用意はしておいたんですよね。ダブルオーガンダムのプラモ」
そう言い、ポンと置かれるダブルオーガンダムのプラモキット。ダブルオースカイメビウスと比べればかなりシンプルな造形をしているが、この二つを見比べてみれば、ダブルオーガンダムが色々な経緯を経てこの姿になったのだろう、というところはネルにも予想がつく。
「アスナ先輩が呼んだ相手なら大丈夫だと思ったので、もし気に入ったのであれば持ち帰ってもらっても……」
「い、いいのか!?」
「ええ、構いませんよ。こういうのはいろんな人と楽しくやるのが一番ですから」
「そ、そうかそうか……!」
自分でプラモを組んで、それを持ち帰ることができる。そう聞いたネルの表情は凄く嬉しそうだった。早速キットを空けて、ランナーを取り出し、そこからパーツを取り出して組み立て始める。キヴォトスにもプラモデル自体はあるが、あまり馴染があるわけではない。モルフォからプラモデルの作り方を教わりながら、少しずつ作っていく。
「……結構小さいな……」
「プラモデルってそういうものですからね。大きいのは本当に大きいんですけど。でも、段々形ができてくると楽しいですよ」
「そうだな」
たどたどしくプラモを組み立てていくネル。しかし、こうして教わっていて思うのだが、モルフォは意外と教えるのがうまい。まるで、他人を沼に沈めようとする強い思いが感じられるほどに。そして、その甲斐あってか、ネルもコツを掴むのがだいぶ早く、途中からガンプラについての話ではなく、モルフォの異能についての話も混ざり始めていた。
「……こ、こうか?」
「はい、そうですよ。これでダブルオーガンダムの完成ですね……どうでした?」
そしてネルの目の前に、青と白、そしてワンポイントに赤を加えたガンダムが完成した。両肩にはGNドライヴと呼ばれる可動式のバインダーが装着されており、それがダブルオーガンダムらしさを演出していた。
「……いや、すっげぇ楽しかった。しかもこれがダブルオーか……へへ」
にやけ顔を隠せていないネル。やはり自分の手で何かを作る、という経験は代えがたいものなのだろう。彼女の顔からは達成感が感じられていた。
「ふぅ……プラモデルって面白いな……しかし、これを捨てちまうなんて……」
それと同時に、これを捨ててしまうのかとちょっと残念そうな声が漏れる。いや、ネルも頭の中ではわかっているのだ。捨てざるを得ないということは。だからこそ、玄関に積まれている処分待ちのプラモデルをそのままにするのはどうかという思いについ駆られてしまう。
「……なあ。あれ……捨てちまうなら私がもらってもいいか?」
気付けば、そんな言葉がネルの口から飛び出していた。モルフォは一瞬驚いていたが、すぐに笑顔を浮かべる。本音を言えば壊したくなんてなかったのだ。彼らをちゃんと引き取ってくれる相手がいるなら、そちらの方が何倍もいい。
「もちろん。そっちの方があの子達も喜びますよ!」
そして、こう答えるのだった。