転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「……名も無き神々の王女」
セミナー室。リオとトキの二人だけがいる空間で、リオがぽつりとその名を呟く。二人以外、誰も聞いていないはずのその言葉。しかしそれに反応する声が流れてくる。
『間違いなく、確定でしょうね。ですが、目覚める兆候はないと言えるでしょう』
それは、ホログラムと共に出現したヒマリの声だった。彼女とリオが持つタブレットには、それぞれ、ゲーム開発部が廃墟からアリスを連れ帰った経緯、そしてエンジニア部とヴェリタスが解析したデータが記載されていた。それらを総合的に判断し、二人はアリスの正体を名も無き神々の王女であると結論付けていた。そして、リオは次のページへと進める。そこには、廃墟で遭遇したDivi:Sion Systemから受け取ったG.Bibleについての情報が記載されていた。
『G.Bibleにも不審な要素はなし。本当にただのテキストデータですね』
「それよりも問題なのは、アリスが反応したDivi:Sion System」
二人が次に注目したのはDivi:Sion Systemだ。ゲーム開発部の調査の後、C&Cにも改めて調べてもらったのだが、やはりそこにはゲーム開発部が確認したように完全に沈黙した端末があるだけであった。念のため、メモリなども持ち帰ってもらったのだが、そちらは完全にデータが消滅してしまったことが確認されている。電力、そしてハードの限界でデータが消滅してしまった。そう言い切るのは簡単だが。
「あれは名も無き神々の王女をサポートするシステム……今回沈黙したのはただの一端末に過ぎない。廃墟の中にはおそらく、他にも名も無き神々の王女をサポートするための設備や端末があってもおかしくはない……ネル達にはC&Cの任務もあるでしょうし、この後はトキには調べてもらう必要があるわね」
『引き続き調査を行うべきという点は同意しておきましょう。ですが、これでよくわかったでしょう?アリスが危険な存在ではないと』
気になるものは大勢ある。廃墟はまだ、未知数だ。今回のアリスの一件をきっかけに、調査を進めておくべきだろうと。その点には同意しつつも、ヒマリは勝ち誇ったような笑みをリオへと向ける。
「そうね」
『……そうですか』
しかし即答するかのように飛び出してきた言葉に、少しつまらなさそうに言う。リオは、ヴェリタスが解析しきれなかったアリスのブラックボックスのデータを見る。このデータはG.Bibleの解析を行った際についでに鏡を用いて解析もしてみたのだが、それでもわからなかった。とはいえ、鍵さえなければアリスのブラックボックスが開かれることはないのも事実。廃墟からミレニアムへとアリスが移った以上、差し当たって名も無き神々の王女に変わる可能性はないと言っていいだろう。
『……しかし、これでは当初の予定が滅茶苦茶ですね』
「アリスがミレニアムの脅威足り得るか。その実力を確かめるため、G.Bibleのセキュリティを突破するために、セミナーが持つ鏡を賭けてゲーム開発部達とセミナー、C&Cの衝突を演じる……それが当初の予定だった。それをする必要がなくなったとはいえ、今のアリス……いえ、ゲーム開発部がネル達を相手にどこまで戦えるかを検証する必要はあるわ。モルフォの事もあるのだから」
実のところ、確証こそないもののアリスの正体が名も無き神々の王女であるという見当はついていた。その検証のため、いくつかチャートの用意をしていたのだが、それはモルフォの来訪によって見事なまでに粉砕されてしまっていた。
「……本当に合理的な手段とは、彼女のような事をいうものかもしれないわね」
『……あなたに同意するのは癪ですが。良くも悪くも……モルフォのような子こそ、このミレニアムに必要だったのかもしれませんね』
総合的に、現在のアリスに危険性はないと立証された。とはいえ、アリスの常人ならざる能力、そして未解析のブラックボックスにアリスが反応した廃墟の謎のシステム等、懸念材料もまだ残っており、いつ、どういった反応を起こすことでアリスが危険な存在へと変貌するかもわからない。だが、それらの危険性は、関わる者全員に共有され、その危険性を承知の上で今後はアリスについても調べていくことになるだろう。結果として、両者のそれぞれの間ともいえる落としどころに収まるのだった。
★
無事、テイルズ・サガ・クロニクル2の特別賞受賞が決まり、軽く打ち上げもやって、諸々の手続きも済んでやっと落ち着いた頃。書類関係を部長であるユズに必要な部分はやってもらいながら一緒に片づけたモルフォは、そろそろ大丈夫かと、モモイ達を自分の部屋に誘うことにした。
「ここがモルフォの部屋かぁ」
「来るの初めて……」
「アリス、モルフォの部屋が楽しみです!」
ずっと隠していたというモルフォの秘密を知れるとあって、三人のテンションは高い。モルフォはというと少し部屋の中を掃除しているから待ってと四人を待たせており、彼女が扉を開ける時を今か今かと待っていた。
「そういえば……ユズちゃんは知っているの?モルフォちゃんの秘密って」
「うん……だから、モルフォがゲーム開発部に入らなくても仕方ないかなって思ってたんだけど」
「ど、どういう秘密なの?」
「わかりました!きっとモルフォは、過去に戦った勇者なんです!」
「それは……違うかな」
アリスの予想を苦笑しながら否定するユズ。しかし、ぼんやりとモルフォが何をやろうとしているのかを考えて、一つのゲームが思い浮かぶ。確かあれでモルフォが使っていたキャラは別のゲームに出てくる勇者だったはずだ。ある意味間違ってないのかもしれない、そんな事を考えていると、モルフォが部屋の扉を開ける。
「皆、お待たせ。もう大丈夫だから上がっていいよ」
「「「「おじゃましまーす」」」」
モルフォの部屋に入っていく四人。五人で遊ぶことを考えて掃除した影響か、以前ユズが来た時に置いてあったものはいくらか片づけられており、すっきりした印象を受ける。置いてあるのはテレビとゲームガールズアドバンスSPに似たゲーム機……switchと、五個のGCコンだけ。棚とかも布がかけられて見えなくなっており、とりあえずこのゲーム一本で通すつもりらしい。
「ここがモルフォちゃんの部屋かあ」
「ゲームガールズアドバンスSPがあるけど……このコントローラーはなんだろ?部室に置いてあるのに似てるけど……あれは何のゲーム機のコントローラーだったかな……」
「?いえ、モモイ、あれはゲームガールズアドバンスSPとは違いますよ?ドックにswitchと書かれています」
「あ、本当だ……じゃあこれ何?」
モルフォがお菓子やジュースを用意している中、部屋の中に敷かれた座布団に座り込みながら、四人は目の前の謎のゲーム機について話を始める。途中、ミドリがユズに答えを求めるように視線を向けるが、モルフォ本人が言うのを待とうと無言で頷いたのを見て、それ以上は聞かないことにする。そしてモルフォが準備を終えて、一旦五人で机を囲むと、漸くモルフォは口を開く。
「……なんか、モモイ達に言うのは緊張するね」
「え?そ、そんなに言いにくいこと?それならやっぱり……」
「いや、別に嫌とかいうわけじゃないからね。いつか話したいとはずっと思ってたし……」
「「!?」」
「?」
そう言いながら、モルフォは一つのパッケージを机の上に出す。それは大乱闘スマッシュブラザーズSPECIALというゲームのパッケージであり、それを見たモモイとミドリが驚いたように覗き込む。アリスはいまいちピンと来てないのか疑問そうに首を傾げる。
「え、なにこれ……?」
「ゲームのパッケージ?でもこんなの見た事……それに、switchって……こんなハード見たこと……モルフォちゃん、これをどこで……」
「この世界にはないよ。別の世界のゲームだから」
「「「え?」」」
困惑する三人に、モルフォは自分の能力について説明を始める。
「これが、モモイの誘いを断ってた原因かな」
「「……」」
「えっと……ユズは、知っていたんですか?」
「うん、知ってる。だから、モルフォちゃんの意思を尊重しようって思って……」
そして、モルフォの話を聞き終えたモモイとミドリは言葉を失っていた。別の世界のゲームを、夢を通して形を与える。その能力があれば、ゲーム開発部はまさに無敵だっただろう。しかし、ゲーム開発部存続に躍起になっているモモイがそれを知ったら飛びつきかねない。その危惧も当然のものだと言えるし、実際、テイルズ・サガ・クロニクル2開発におけるバタバタ具合を思い出せば、あの時の自分達はそれを知ったら流されかねない危うさがあった。
「……その、ごめん」
「気にしないでよ。もう隠す必要もないって先生や皆のおかげでわかったから」
「モルフォちゃん……」
それを理解して申し訳なさそうな表情をするモモイとミドリに苦笑いを見せる。モルフォだって、能力という制約のせいで断念せざるを得ないと思っていただけで、自分もゲーム開発部に入りたいと思っていた気持ちもまた本物なのだ。先生のおかげでゲームを直接作らなくともゲーム開発部の一員として過ごせるようになったのは、モルフォにとってまさに光明だった。そういう意味では、先生には感謝してもしきれないだろう。
「……あ、あの!アリス、このゲームをやりたいです!別の世界のゲーム……すっごく楽しみです!」
「……ああ、そうだね。そろそろ始めようか」
そんな雰囲気を打ち破るように、アリスが声を張り上げる。そうだ、元々ここには自分の事を話すのもそうだが、それ以上にゲームをやりに来たのだ。モルフォは皆にコントローラーを一つずつ渡していく。
「……そういえば気付いたんだけど、コントローラー五個?大体こういうのって四人までしかできなさそうだけど」
「オンラインゲーならもっと人数増えるパターンはあるけど……」
「ああ、大丈夫。このゲーム八人までやれるから」
「「嘘!?」」
大乱闘スマッシュブラザーズSP。過去にC&CがやっていたDXと同じスマブラシリーズの最新作である。全87体のキャラという恐ろしいキャラ数を誇り、多種多様なアイテムやステージで大乱闘を繰り広げる、文句なしの神ゲーである。
「きゃ……キャラが多い!」
「こ、これは逆に悩んじゃうな……」
「!アリス決めました、このサムスというキャラにします!」
とはいえ、様々なゲームを触っているゲーム開発部。時間制限付き、ストック3、ランダムステージの設定を行っていく様子と、大量のキャラを見て、乱闘系の格闘ゲームなのだと理解してそれぞれキャラを選んでいく。モルフォとユズも、まずは三人に操作を慣れてもらう必要があるため、持ちキャラを外してモルフォは苦手なキャラを、ユズもまだ触れたことのないキャラを選択していく。
「ユズはやったことあるの?持ちキャラは?」
「まだ全部のキャラを触ってないからこれ、ってのはまだ断言できないけど……使ってる中だとリュウやケン、テリーとかは使いやすかったかな」
「モルフォちゃんだったら何を使うの?」
「本気だったらリンクかな……トゥーンリンクとこどもリンクも使うけど。まあ、本気でとか考えずにとりあえず使ってみたいキャラを選んでいきなよ」
どれを選ぼうか悩んでいたモモイは、これだけキャラがいるなら自分の要望するキャラだっているだろうと考えてモルフォに聞いてみることにする。
「うーん、なんか一発が凄いみたいなキャラはいないの?」
「となると、キャプテンファルコンやガノン、ベレトベレス……ポケモントレーナーのリザードンもだったかな……大技が一番使いやすいのはベレトベレスだった気がする」
「オッケー」
「私は……このインクリングでいってみようかな」
モモイがベレスという、ファイアーエムブレム風花雪月の主人公である女性ファイターを、ミドリがオレンジ色のツインテールに水鉄砲のような銃を持つ少女、インクリングを、アリスがサムスを、モルフォがフォックス、ユズが丸い一頭身のキャラ、プリンを選び、大乱闘が始まる。最初の間はそれぞれキャラ性能を確かめるように動きや技を確かめていく。そして一通りの挙動を確かめていく。三人がキャラの動きを確かめている中、モルフォとユズは本気でやり合わないようにアイテムを投げ合ったり小競り合いをしながら三人を待つことにする。
「……あ、そうだった。アリス」
「何ですか?」
「今思い出したけどこのゲーム、勇者っていうキャラがいたよ」
「本当ですか!?」
「切り替える?」
「えっと……これの次にします!」
勇者が使えることに興奮するアリスだったが、さすがにここまで使っておいて変えると皆との差が開きそうな気がしたのだろう。今回はサムスを使って対戦するようだ。やがて三人の確認が終わると、一旦対戦を仕切り直して、改めて試合を開始する。
「いけいけー!」
「ちょっとお姉ちゃん、いきなりこっちくるの!?この!」
「電力充電開始です!光よ―――うわあああん!?反射されましたー!!」
「あ、ここなら入る」
「何今の音!?ってか威力高すぎぃ!アイムールより強いじゃん!!」
試合開始と共にミドリに仕掛けるモモイ。ミドリも慌てて迎撃し、モモイも遠距離攻撃であるフェイルノートでインクリングを狙い撃つ。その近くではサムスのチャージショットをフォックスのリフレクトで反射されて吹き飛ばされるサムスがおり、一瞬モモイがそっちに意識が向いているとベレスに密着したプリンがプリンの最大単発火力を誇る必殺技、ねむるを発動してしまう。ねむるはカキーン!という甲高い金属音と共に大きなダメージをベレスに与え、吹き飛ばしてしまう。
「うわわ、凄いわちゃわちゃしてきた……えっと、アイテムを」
「このフォックスというキャラが強すぎます!チクチクダメージが溜まっていきます!」
「うおおおお!なんとかなれー!!」
「モモイの攻撃がでかすぎる!!」
「え?これゼロ……あっ!」
フォックスのブラスターでダメージを刻まれていくアリス。アイテムを拾ってどうにか戦いを有利にしようとするミドリ、思考停止の大斧アイムールを偶然フォックスに命中させるモモイ、アリスを狙っていたらアイムールへの一撃で吹き飛ばされてしまうモルフォ。そしてユズはミドリが援軍のNPCを召喚するアイテム、アシストフィギュアを拾ったことに警戒していたのだが、そこからゼロというキャラが出てきたのを見て固まってしまったところを切り刻まれてしまう。
「今はミドリが軽い!なら狙うのはミドリ!」
「うわわ、やば!今弾がない!」
「リロードなんてさせないんだから!」
「今なら当たります!光よ!」
「あっ、なんかバッジ落ちてる」
「光が反射しましたあああ!!」
「ユズもこっちで一緒に遊ぼうよー」
「いいよ?でもプリンってかなり軽いからちょっと不安だな……あ、メタル化ブロックある。これでいこう」
弾もといインクの補充が戦闘に必要となるインクリングに群がる他のファイターたち。まさに大乱闘としか言いようのない空間で全員のダメージがどんどん蓄積していく。後一発で誰が吹き飛んでもおかしくない、そんなタイミングで、大量のアイテムが入っているくす玉というアイテムが出たのを見て、ミドリがそれを起動させる。
「まずい!」
「ミドリにアイテムは渡しません!」
「今のダメージでモンボとかフィギュア使われたらきついし、ここは叩くか……」
「……今!」
「わ!?」
ここでミドリが強力なアイテムを拾ったら、ミドリが有利に立ってしまう。ミドリの駆るインクリングを止めるため、三人が迫り、ユズもプリンの必殺技であるころがるを発動させる。くす玉が丁度開かれたタイミングで高速で転がり、インクリングにぶつかろうとするプリン。慌ててミドリが緊急回避を発動させ、ころがるを回避するも、そこでユズは気付く。くす玉が落とした大量のアイテム。それが全てボム兵だということを。そしてそこに、全員が固まっていることを。
「「あっ」」
「「「えええええええ!?」」」
モルフォとユズの二人が間の抜けた声を出した直後。ボム兵達がプリンの攻撃で起動して大爆発を引き起こし、五人はまとめて空の星へとなってしまう。
「何今の!?ねえ、何が起こったの!?」
「……あはは、やっちゃった」
「あそこでよりにもよってボム兵が出てくるとは……」
「え、エラい目に遭った……」
「アリスの残機が一つ減ってしまいましたー!……って、あれなんです?」
「あれはスマッシュボールであれを壊した人が最後の切り札を使えるよ」
全員まとめて残機を仲良く散らしたところで、今度は十字の模様が入った球体が出現し、地面を転がる。その説明を聞いたアリス、モモイ、ミドリの目の色が変わる。
「!!アリスは切り札を手に入れます!!」
「いいや、これは私がもらうよ!」
「そんなやばそうなの使わせたらまずいよね!?」
ワーワーとアイテムを奪い合うようにはしゃぐ五人。ミレニアムの寮は、自室で作業をする生徒もいたりする都合上、防音対策がしっかりされている。玄関のドアからなら注意深く聞けば多少は中の声が聞こえたりもするが、壁越しに、となればそれはほぼないといっていい。誰かに邪魔されることもなく、モルフォは、やっと秘密を打ち明けることができた四人と一緒に心行くまで楽しむのだった。