転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「ここがトリニティかー……」
「いかにもお嬢様学校って感じ……」
この日、ゲーム開発部の面々はトリニティの自治区を訪れていた。トリニティは文字通りのお嬢様学校、ミレニアムのような近未来的で科学的なあれこれが見える地域とは異なり、歴史と気品を感じさせるお上品な街並みが広がっている。
「説明しましょう!トリニティ総合学園とは規律と伝統を重んじるお嬢様学校と言われています!その校風故か真面目で善良な人も多く、治安維持組織として正義実現委員会が存在しているだけでなく、なんと自主的に治安維持活動を行う生徒までいるとのこと!そんなトリニティですがティーパーティーと呼ばれる組織が生徒会の役割を果たしており、他にも様々な派閥や組織が存在しているようですね!」
「へー……あれ?ところでモルフォちゃんは?」
「それならヒビキと一緒に……」
そしてこの場に来ていたのはゲーム開発部だけではない。エンジニア部のコトリとヒビキ、そしてヴェリタスのマキも一緒だった。その理由は、
「そろそろ脱いでいいー?暑い……」
「あ、うんもう大丈夫」
一人大きめのコートと帽子を身に着けていたモルフォの姿に関係がある。モルフォが皆に確認を取ると、ヒビキがそれに許可を出す。それを受けてコートと帽子を外すと、そこには一人の少年となっていたモルフォがいた。
「モルフォ、似合ってます!」
「ヒビキの衣装が合ってますね!これはどこからどう見ても男の子ですよ!」
「そうでしょうか?顔は変わっていないのでモルフォはモルフォですが……」
「あ、はは……でも知らない人から見たら男の子だよ?髪型も弄ってるし」
「ヒビキちゃん、マキちゃん、ありがとうね協力してくれて。モルフォちゃんは平気?」
「いやまぁ男装自体は別にいいんだけど」
ヒビキが男装用のコスプレ衣装として作り上げた学ランを着用し、ミドリ、マキの協力も得て髪型アクセサリーその他をバッチリ決められて完全に一人の少年にしか見えない姿になっているモルフォ。普段からミレニアムの制服に長ズボンという恰好だったこともあって違和感も少なく、髪型も相まって中性的な顔つきの少年を演出していた。そして、何故モルフォが男装した状態でここにきているのかというと。
「それじゃあ写真撮影始めようか!」
「男の子の仕草とかの資料は必要だもんね……先生に協力してもらってもいいけど先生は大人だし」
「モルフォも女の子では……?」
「いや、そうなんだけど……ちょっと言語化しにくいんだけど、実際に誰がこういう動きをやってるっていうのを写真で撮っておくのって多分大事だと思うんだよ。それに背景がトリニティならなんかこう……雰囲気もそれっぽいし。ヒビキちゃん達も協力してくれたし!」
この写真撮影のためだった。ゲーム制作で男の子のキャラを作るにあたり、なんかいい感じの資料が欲しいとなったゲーム開発部がヒビキ達の協力を経てコスプレ撮影会をすることになったのだ。
「まあ私もモルフォが思った以上の逸材で驚いたから。仕草とか凄いそれっぽいし」
「それっぽい言うな」
今の今まですっかり忘れていたがこれでも前世は男である。もうすっかり女として生きることを受け入れていたが、だからといって男装して男の子っぽい仕草をやってもそれっぽいと言われると若干の悲しさを感じる。
「あ、はは……でも、似合ってると思うけどね」
「まあ、今日限りってことで頑張って!」
「はいはい」
皆から指示をされ、ポーズをしたりしながら写真を撮っていく。折角ならと銃を構えている姿が欲しい、ということでショットガン以外にもアリス以外の皆から銃を借り受けてポーズを取ったりとやっていたのだが。
「……今日は君を、帰したくない……」
「おぉ……」
「……待って?何やってんの私?」
「いや、そこは俺って言おうよ、もっと声も低めにしてさ」
「写真撮影どこいった?」
途中から何故か女の子を口説くシーンの撮影が始まっていた。これは違くね?とモルフォが抗議するが、何故かモモイから改善点を言われる始末。
「まあまあ、案外ノリノリじゃないですかモルフォも」
「マキは私に口説かれて嬉しいの?」
「楽しかったよ!」
「そう……」
「え、えっと、いい絵だったよ?」
ミドリからフォローになっているのかどうかわからないフォローを入れられ呆れた表情を見せる。
「もう撮影は十分?」
「そうだね……とりあえず大丈夫そうかな?ついでにトリニティの雰囲気とかも知れたし」
「こういう高潔な所も搦めて何か作りたいところだけど……一歩間違えるとドロドロしそうなんだよね。さすがにトリニティがそうってわけじゃないんだけどさ」
「それはわかる」
もうビンタで張り倒してバカゲーみたいにしたら面白そうだな……と思いつつも、改めてトリニティの校舎を見る。そういえばスズミやヒフミは元気に過ごしているだろうか。そんなことをぼんやりと考えていると。
「あ、それよりさ……これ見てよ」
「マキ?このチラシは?」
「たまたま貰ってさ。トリニティに最近できたスイーツ屋なんだよね。最初はわざわざ行くのもなーって思ってたんだけど、皆行くなら折角だし?って思ってさ」
「へー、美味しそうじゃん」
「あ、そのお店なら私も聞いたことありますよ!」
マキがチラシを取り出す。中々に手が込んでいてケーキよりもチラシのデザインの方に目がいくが、マキが今回の撮影に同行したのはモルフォの男装の仕込みを手伝ったから、だけではないらしい。他の面々も面白そうに見ている様子を見るに、スイーツ屋へ行くのは確定といっていいだろう。
「……あ、ごめんちょっとトイレ!皆先行ってて!」
「あ、気を付けてね」
ここでモルフォがトイレに行くため移動する。店の名前はチラシを見て覚えていたため、一人でも問題ないだろう。トイレから出たところで、制服に着替えるのに忘れていたことに気付くが、別にいいかと切り替えて公園を出ようとした時だった。
「……!?」
目の前に桃色の長髪に緑色の瞳を持つ、スク水の少女がいた。そう、公園のど真ん中にスク水だ。
(うぁぁぁ、す……スク水が公園を練り歩いてる!)
思わず口から出そうになった言葉を呑み込んだのはファインプレーだろう。一人に対して練り歩いてるとは言わなくねえか?と後から気付いたのは内緒。
「おや……?」
向こうもこちらに気付いた。どこか嬉しそうにこちらに近づいてきたそのスク水の少女は、モルフォの恰好を見つめると、
「ふふ、あなたも中々の嗜好をお持ちのようですね」
「?」
「大丈夫ですよ。私は理解していますから」
嗜好?何を言っているんだと困惑してしまう。と、周りを見ると、こちらを見てざわついている。やはり、水着で徘徊している彼女が異常なのだろう。露出癖がある存在との未知との遭遇に自分だって困惑していたのだ。正直アリスがいなくて大正解だったとほっとしている。
「……えっと、その恰好で大丈夫なんですか?」
「大丈夫とは……ふふ。おかしなことをおっしゃるんですね。私の格好におかしな部分があると?」
「いや、本人が納得してるならまぁいいんじゃないです?周りがどう思うかは別ですけど……?」
「……あら、正義実現委員会の皆さんですね?」
ふと、モルフォの視線が遠くから走ってくる少女達を捉える。水着の少女も後ろを振り向くと、正義実現委員会のメンバーが走っている姿があった。おそらく彼女を公然わいせつ罪の現行犯として捕まえようとしているのだろう。そうなった場合、自分も参考人として拘束されるのではないか。別にやましい部分などないといえばないのだが、そうなったら他の皆に対して申し訳ない。となれば、
「とりあえずこれ着てください!」
「あら?」
急いで自分の学ランを彼女に無理やり着せる。されるがままに水着の上に学ランを着せられた少女は、キョトンとした様子で自分の恰好を見ていたが、その顔に笑みを浮かべる。
「ふふ、水着の上から学ランだなんて……これはこれで……」
「とりあえず離れましょう。その恰好なら多少は誤魔化せるでしょうけど捕まったらあなたも困るんじゃないです?……拘束されて一番面倒くさいのはこちらなんですが」
「あら……男の子に手を引かれてどこかへ連れていかれるなんて……」
笑みを浮かべる少女の手を握り、走り出すモルフォ。モルフォにされるがままの少女が誘うように声をかけるが。彼女とて自分の手を握るモルフォの手の感覚からこれが少女のものだとは当然理解していた。そのうえで、どこへ連れていかれるのか、期待するような表情を浮かべるのだった。
★
「……ここなら、大丈夫か……」
「ふふ、ネットカフェに連れ込んじゃうなんて……私、もう逃げられませんね」
スク水少女を連れてモルフォが逃げ込んできたのは、ネットカフェであった。そこで向かい合うように座り、ジュースを飲みながらニコニコと何かを期待する少女、浦和ハナコと移動途中で自己紹介を終えたモルフォは、走ってきたせいで上がった体温に耐えかねるように汗を拭いながらネクタイを外し、Yシャツの一番上から二つ目のボタンを外す。その様子をガン見しながら、もう逃げられないと呟くハナコに、モルフォは呆れてしまう。私は獣か何かだと思われているのだろうかと。
「……まあ、こうなった以上迂闊に外に出れませんが……」
ユズにモモトークでハナコが露出していたという事実は隠したまま、「不良達に襲われて衣服をはぎ取られて仕方なく水着でいた女の子を保護してネットカフェにいるから代わりの服を用意してほしい」と伝えている。巻き込まれ事故で捕まって皆に迷惑をかけるのもなとここまで連れてきてしまった以上は面倒を見なければ寝覚めが悪くなりそうだった。だがそれ以上に、ハナコという名前を聞いてしまったのも大きい。その名はここに来る前にある人物から聞いた名だからだ。しかし、ここでじっとしているのも味気ない。となれば、彼女には。
「私に付き合ってもらいますよ」
「あら、モルフォちゃんは私に何をしちゃうんでしょうか?それとも、オモチャで私をぐちゃぐちゃに……?」
くすくすと笑いながら、髪を掻き揚げ、不敵な笑みを浮かべるモルフォを見る。だが、妖美に誘ってくるハナコの挑発には一切乗らないと言わんばかりにモルフォはカバンの中からデッキケースを取り出す。
「ただの玩具じゃありませんよ。何故ならこれは……バトルスピリッツですから!!」
「……バトルスピリッツ?」
そして二つのデッキケースを突きつけられ、さしものハナコも困惑したような表情を浮かべるのだった。
★
バトルスピリッツ。それは、40枚以上のカードでデッキを組み、カードの使用に必要なコアと呼ばれるアイテムを巧みに操り先に相手のライフを0にするか、相手のデッキを0にした状態で相手のターンを迎えさせることで勝利することができるカードゲーム。カードには場に出て戦闘を行ったりするスピリットとアルティメット、スピリットとしての状態にもなりながら、カードに合体することで効果を発揮するブレイヴ、コストを支払って使用し、様々な効果でゲームを動かしていくマジック、盤面に残り、その効果でバトルをサポートしていくネクサスといった様々なカードを使用し、戦略性のあるバトルを展開していく。
「……ふふ、いきなり渡された時は戸惑いましたが……これはこれで、楽しいものですね」
「でしょう?ハナコさん筋がいいですね。正直最初はコアの管理とか結構戸惑う人も多いんですが」
ルールを教えてもらったハナコはそれをすぐに呑み込み、渡されたデッキの内容も理解していた。そして、モルフォから受け取った編集用のカードも使い、ある程度独自の改良もしたうえでバトルするまでその実力は上達していた。
「では、改めて始めていきましょう」
「ええ、どうぞ。先行はお譲りしますよ」
「いきますよ、スタートステップ!」
バトルスピリッツは、スタートステップというターンの最初に迎えるステップ、コアステップと呼ばれる使用できるコアを増やすステップ、ドローステップ、リフレッシュステップと呼ばれる、横向きのカードを縦向きに戻す回復と言う行動や、使用済みのコアをもう一度使えるようにするステップを経てメインステップへと入る。そして、
「ブレイドラXを召喚!さらに光導創神アポローンを配置!」
メインステップで、スピリットとネクサスを繰り出し、その上に維持コストであるコアを乗せる。カードには左上にコストの数字が書かれており、そこに応じたコアを支払う。だがブレイドラXのコストは0。そしてもう一つ。数字の右にはカードに存在するシンボルと呼ばれるものと同じマークがあり、それが軽減シンボルとなり、場に対応するシンボルがあれば軽減シンボルの数だけコストを減らすことが可能となる。
「マジック、サジタリアスドローを使用し、2枚ドロー!その後、デッキを上から4枚オープンし……該当カードがなかったのでデッキの下に戻します。ターンエンドです」
さらにマジックを使い、手札を増強してターンを終える。そして、ハナコもまた、少しこなれた様子でカードを使っていき、バトルは進行していく。そして、終盤に差し掛かってきたタイミングで。
「やりますねハナコさん……何とかこのターンはブリザードウォールで凌げましたが……」
「……赤だけではなく、白のカードも入れているのですね。ふふ、いろんな色を混ぜられるのも面白いです。そして、カードを触ってみれば確かに奥深いものだとは思います。ですが……」
このゲームが楽しいのは事実だ。だが、ハナコの表情には、一瞬だが「こんなものですか……」と言いたげな暗い影が現れていた。その顔と言葉を聞きながら、モルフォはお互いの状況を見る。5もあった初期ライフは、モルフォは1、ハナコは2まで減っている。モルフォの場には創界神ネクサスと呼ばれるネクサスの一種である光導創神アポローンが2枚配置されており、片方にはブレイヴ、銀河星剣グランシャリオが合体している。そして手札は4枚。対してハナコは手札は2枚だが、場にはネクサス、創界神アルテミス。そして強力なスピリット、黒皇機獣ダークネス・グリフォンXと、バーストと呼ばれる場にセットされるカードが存在していた。
「確かに、面白いと思いますよ。モルフォちゃんの使っているデッキ……ビートダウン、と言いましたか。ひたすらに真正面から攻めていくデッキ……単純ですが、確かにそういう力と力のぶつかり合いができるデッキはいいと思います。ですが……現実はそうじゃありません」
「……」
「結局のところ……策を弄して、相手を蹴落として……正面から想いを伝えあうこともせず、仮面をつけて、自分はいかに傷つかず、相手を貶めるか。そんなものでしょうね」
「……そうとは限りませんよ」
「?」
ハナコの言葉を聞いたモルフォは、ふっと笑う。その様子にハナコは一瞬怪訝な表情を浮かべる。
「確かに作戦や戦術は強力です。戦いの中で使える手を全て使おうとするのは、全然悪いことじゃないと私は思っています。実際、私は絶体絶命ですからね。でも……ここに来るまでにハナコさんも色々見せすぎましたね」
「!」
ハナコのデッキは、その性質上デッキの上からカードを公開したり、トラッシュと呼ばれる使用後や破壊されたカードが移動する領域に破棄するギミックが多い。加えて、ここに至るまでの攻撃で、モルフォは着実に情報を得ていたのだ。勝利に繋がる要素を。
「そのデッキに主なアタックステップ、ライフダメージに干渉する防御マジックは二種類しか入っていない。その内の一種、白晶防壁は全てトラッシュ……手札の一枚は先ほど公開して手札に加えた、アタックステップ終了系マジック、アルテミックシールド。そして残る一枚も……このターンで攻撃に使わなかったことはおそらくマジック、アルテミックレイン」
「!」
驚きをどうにか表情に浮かべないようにしながら、ハナコは手札を見る。完全にモルフォには自分の手札が読まれていたからだ。創界神というカードは配置時にデッキの上から3枚を破棄するという効果があり、それだけでなく、ゴッドシーカーと呼ばれるカードでデッキを捲ることが多い。そのせいで、モルフォにはデッキ内容が筒抜けになっていたのだ。
「ふふ……まるで、私の中身を見透かされているみたいじゃないですか」
「デッキを見る、という意味ではそうかもしれませんね。嫌でした?」
「まさか。案外悪くない気分ですよ?自分を曝け出すっていうのは」
「わかりますよ。ずっと隠してた秘密を皆に共有できて、本当の意味で友達と一緒に遊んだり楽しんだりできるって、凄い楽しいですから」
「……そうですか。モルフォちゃんにはたくさんの友達がいるんですね」
「ええ、でもハナコさんとも友達になりたいなって今は思ってます」
「……え?」
突然、友達になりたいと言われてハナコの表情に明らかな動揺が浮かぶ。モルフォの顔を見たハナコは、彼女が凄く楽しそうな表情をしていることに気付く。その恰好や仕草も相まって、カードゲームを心の底から楽しんでいる少年にしか見えない彼女は、このバトスピを通じて乗ってきたのか、ぐっと右手を強く握る。
「ハナコさんのカスタマイズしたデッキが、あの手この手で相手の攻め手を、行動を潰し、圧倒的な守りの力でシャットアウトしてくる……でも、ゴッドシーカーやアルテミスの効果でデッキを見せ続けていたのは、本当は自分を見てほしい。そう思っていたからじゃないですか?」
「……ふふ、どうでしょう?それに、自分を見せたところで、相手が応えてくれなければ何の意味もないと思いますが……」
「ならそれを、証明してみせますよ。このドローで!」
そう言うと、モルフォはデッキに手をかける。各ステップの処理を行いながらカードをドローし、カードを展開していくメインステップへと突入する。そして、先ほどドローしたカードを繰り出す。
「マジック、コズミックリターン!月紅龍ストライク・ジークヴルム・サジッタをトラッシュから回収し、そのままLv3で召喚!」
トラッシュからスピリットを回収するカードを使い、一体の機械のドラゴンのカードを召喚する。
「銀河星剣グランシャリオを合体し、アタックステップ!ジークヴルム・サジッタでアタック!アタック時効果で、相手スピリット、ネクサスの効果を受けません!さらにグランシャリオの効果でバーストを破棄!」
「アバランシュ・バイソンType-0が……仕方ありません。マジック、アルテミックレインです。その効果でジークヴルム・サジッタにはデッキの下に戻ってもらいましょう」
スピリットのアタックでハナコが防御用に残していたバーストを取り除くも、モルフォの読み通り、手札に握っていたマジック、アルテミックレインによってデッキの下に戻されてしまう。スピリットのアタック後、発生するフラッシュタイミングでこうしたマジックは使用でき、そこでもまた駆け引きが発生するのだが、スピリットが消えてもそのフラッシュタイミングは続く。
「まだですよ、フラッシュタイミング、アドベントスター!手札から2枚目のジークヴルム・サジッタを召喚!」
「だとしても遅いですね。私はアルテミックシールドを使用します。これでバトル終了時、アタックステップは終了……モルフォちゃんのターンは終わりです」
後続のスピリットを出し、果敢に攻めようとするモルフォ。だがその出鼻を挫くように、ハナコは最後のカードを切る。既にアタックしているスピリットがいない以上、一旦このバトルを終了させなければ二体目のジークヴルム・サジッタはアタックできない。しかしバトルを終えればアルテミックシールドの効果でターンは終わってしまう。絶体絶命の状況、だがモルフォは笑っていた。
「!」
「言ったはずですよ、応えてみせるって!超神光龍サジットヴルム・ノヴァ!ストライク・ジークヴルム・サジッタに煌臨!その効果でダークネス・グリフォンXを破壊!」
バトルスピリッツには、様々なギミックがある。この煌臨もまたその一つであり、ソウルコアと呼ばれるプレイヤーが一つだけ使える特殊なコアを使い、カードの上にカードを重ねる形で呼び出される。そして呼び出されたカードは強力な力を発揮するのだ。
「あら……こちらもカードが残らなくなってしまいました。ですが、次のターンでいいカードを引けばわかりませんし……アタックだけならアルテミスの効果で十分止められますね。さすがにこれで―――」
「まだ、最後の一枚が残っていますよ」
「……え?」
「これがこのデッキの切り札!超龍騎神グラン・サジット・ノヴァ!超煌臨!」
「使用済みのソウルコアを使った煌臨!?」
既に存在していた煌臨スピリットが、金色の鎧をまとった荘厳なる紅蓮の龍へと進化する。まさかの一枚に驚愕するハナコに、モルフォはその効果を突きつける。
「グラン・サジット・ノヴァが煌臨した時―――条件を満たしていれば相手のライフを2個破壊する!これで、私の勝ちです!」
「……ふぅ」
グラン・サジット・ノヴァの効果宣言を聞き、ハナコが大きくため息を吐きながらライフのコアを動かす。全てのライフを奪われたハナコは、脱力したように椅子に深く座り込む。と、彼女に向かって、手が差し伸べられる。
「?」
「ありがとうございました、いいバトルでした」
「……あ……ふふ、そうですね。面白いバトルでした」
互いの健闘を称え合うように握手をする二人。まさかあの状況をひっくり返してみせるとは思わなかったと同時に、カードゲームであったとはいえ、その想いに応えてみせたモルフォの姿に、ハナコは嬉しさを感じていた。
「それにしても、凄く饒舌なんですね、モルフォちゃんは。普段からあんな感じなんですか?」
「今回はバトスピでちょっと場の勢いとかもあったと思いますが……まあ、あそこまでべらべらじゃないですけど大体自然体でやってると思いますよ?」
「そうですか。ふふ、饒舌なモルフォちゃんを知っているのは私だけなんですね」
「そうかもしれませんね?……あ、皆着いたみたい。迎えにいかないと……」
ハナコと楽しく話をしていると、モモトークに通知が入る。どうやら、皆がここに着いたようだ。一旦店の外に出て、皆から着替えを受け取ろうと席から立ち上がり、ドアに手をかける。それと同時にハナコの方を見ると、
「そうですハナコさん。実はトリニティの知り合いからある言付けを頼まれてまして」
「トリニティの知り合い……ですか?」
「ええ……「私も運命に立ち向かうことに決めたよ」とのことです」
「は?……え!?ま、待ってください!それって―――」
「じゃあちょっと、皆の所に行ってきますね」
部屋を出ていくモルフォの背中を呆然と見ていたハナコ。しかし、すぐに、くすくすと笑い始めるのだった。
「ふふ……どうやってモルフォちゃんと会ったのかはわかりませんが……ふふ、そうですか……」