転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「お先に失礼します」
「おう、元気でな」
少しくたびれた様子で、服を着て二足歩行する犬という、前世の自分が見たら突っ込みたくなるような人物が店長を務めるカフェから出てくるモルフォ。彼女は先ほどまでこの店でバイトをしており、今日はそのバイトの日であった。
「ふぅ、疲れたなぁ……帰ったら何しよう……」
ピクミンとかシレンとかもいいなぁ、そんなことを考えつつ、道を歩いていく。周囲には他の学生たちも思い思いの話をしながら歩いており、一見すると平和そのものにしか見えない。実際、喧嘩とかが起こらなければここら辺はかなり治安がいい方だろう。
「……ん?」
ふと、モルフォの足が止まる。街角の一角。裏通りではないが、それでも表通りでも隅の方にひっそりと建てられた、レトロチックな建物。知っている店ではない。ただ、他の小奇麗なカフェやレストランだったり、アクセサリーショップだのと比べて、そこだけが異質さを放っているような気がして足をつい止めただけだ。
「この店は……」
若干色褪せた赤い看板。そこに書き込まれた達筆な漢字。おそらくこれが店名だろう。一階は無人となっているが、二階で経営されているらしいその店の名前を打ち込んでみる。
「……雀荘か」
出てきたのは雀荘であった。このキヴォトスにも当然、トランプや麻雀、オセロといったメジャーどころはあるし、ネトゲでそういうのを嗜むことはちょくちょくある。だが、ドンジャラはないようだった。
「……皆って麻雀できるのかな?」
ふと、ゲーム開発部の面々は麻雀ができるのだろうかという純粋な疑問が湧いてくる。ミドリとユズは何となくやっててもおかしくないイメージはあるのだが、モモイは少し想像できなかった。
「……」
この店に全員で……と、考えて一瞬で止めた。こういう店は大体大人たちが入り浸っていてアルコールとタバコの臭いが凄いという偏見があるのだ。キヴォトスではロボットと獣人、後は不良達が入り浸っているような場所だ、普通のミレニアム生が足を踏み入れるべき場所ではないだろう。
「……明日、聞いてみるか……」
★
「……ってわけなんだけど、麻雀できる?」
「あんまりやらないけど触ったことはあるよ?麻雀ゲーム」
「マジで?」
翌日のゲーム開発部。スマホの麻雀アプリを探しながらモモイに聞いたモルフォは、実は経験していたというモモイの発言に驚く。
「ちょっとだけ触ってはいたんだけどね」
「お姉ちゃん、よく振り込むからね。私もルールは知ってるけど今はあんまりやってないかな?ユズちゃんは?」
「私もそこまでやってないかな……ルールは知ってるけど、あれ自動処理してくれるからできてるところはあるかも」
モモイだけでなく、ミドリとユズも経験はあるらしい。そして牌を実際に買ってこなくてよかったとモルフォは安堵する。やはりゲームは勝手に牌を積んでくれるし点数計算もやってくれるしテンパイ処理も鳴きの可否もやってくれる。卓で相手と向かい合ってやりたい人達も当然いるだろうし、モルフォも憧れはするが、ゲームから入る人にとってはどうしてもハードルが高いのだ。
「大丈夫大丈夫。私がやりたいのはゲームの話だから。折角四人いるし、やってみない?」
「この四人で……いいよ!やろう!」
「そういえばローカルで麻雀やるの初めてかも。オンラインでしかやったことないし、部屋を作る場合はお姉ちゃんとじゃ残り二人がいなかったし……」
「楽しみ……」
モルフォの提案に三人も楽しみな様子で頷き、モルフォが見つけた麻雀アプリをインストールする。そしてモルフォが部屋を建て、そのパスワードを全員で打ち込んで部屋に入ると、四人は部屋の中で割り振られたそれぞれの席に対応した位置に移動して、まるで卓を囲むように座ってスマホを覗き込む。
「じゃあ始めていきますか」
「改めてやると役とか全然覚えてないや」
「役一覧とか載ってた気がする」
「あ、ほんとだ……混老頭なんてあったんだ……」
麻雀は四人、もしくは三人で行うゲームだ。三十四種類の牌を各種四枚用いて遊ぶものであり、十四枚の牌で役を作り、アガる。基本的に三枚一セットの面子を四つ、そして雀頭と呼ばれる二枚一組のセットを一つずつ揃えることでアガることが可能であり、その役に応じた点数をやり取りして最終的に一番点数の高い人が勝利する、というゲームである。
自分の手番が来たら山から牌を一つ取り、手牌の中から一つ牌を河へと捨てていく。相手が捨てた牌を鳴くという行為によって奪い、それを面子として使用することも可能であり、鳴いて相手に何の役を作ろうとしているのかばれるリスクを込みで動くか、鳴かず、相手に悟られないように役を作っていくかの戦術も大事になってくるのだ。
「最初は……モモイが親か」
「八連荘目指してやるぞー!」
「このゲーム八連荘あるの?」
「わかんないけど、あってもまずならないでしょ」
意気込むモモイを尻目にミドリと掛け合いをしながら、自分の番を迎えたモルフォは画面をタップして河に牌を置いていく。実際に牌を手で持って置いていく感覚や光景はそれはそれで憧れるが、自分達はこれの方が性に合っているのかもしれない。
「……ふむ?」
ある程度河に牌が溜まっていったところで、モルフォは他の三人を見る。不自然なまでにドラを抱えてそうな染め方をしているのが分かるモモイ。最初に字牌を吐き出し、使えない牌を捨てて着実に手を整えていくミドリ。ユズは……まだ不要な牌を捨てている、というぐらいしかわからない。だが、満遍なく牌を捨てているところを見るに、手はほぼ仕上がっているのかもしれない。テンパイと呼ばれる後一牌、もしくはイーシャンテンと呼ばれる後二牌で上れる状態にあると見ていいだろう。となると。
「あ、モモイそれもらうね。ポン」
「うげっ」
「……これは……」
「まさか安上がりで流そうとしてる?」
丁度よく、モモイが白を流してきたのでそれを鳴く。字牌を捨てるということは混色ではなく一色なのか、それともモモイも手が揃いかけていそうなのか。とはいえ、モモイの性格上揃いそうなら即リーチをかけそうなものだが、一旦その可能性は置いといた方がいいだろう。
「やった来た!リーチだ!これで親は続行だよ!」
「む……でもお姉ちゃんの河なら……」
と思ってたら、手が整ったようでリーチを仕掛けるモモイ。これで後は最後の一牌を手に入れるだけだ。とはいえ、モモイの河を見れば何がアウトかどうかはわかりやすい。最初の一巡は適当に安牌を捨てて流すと、ミドリは自分の手牌を見る。
(……正直悪いな……流しちゃお)
「……この河なら……多分……」
ここから揃えにいって振り込む危険性を考えれば下りる方がいいだろう。そう判断したミドリに対し、モルフォも既にテンパイに入っていたこともあり、とりあえず捨てる牌と相談しつつ、今はまだアガるのを諦めないでいこうと考える。一方ユズはじっとモルフォの河を見ていたが、ここでふと、ある牌を出す。
「えっ、ユズちゃんそれ出すの?」
「ロン」
「嘘!?」
ユズの出した牌を使い、モルフォがアガってしまう。ユズがこんなミスをするとは。うっかりしていたのだろうか?そんな考えが一瞬過ったが、
「白だけかー、せめてドラは乗せたかったけど、まぁモモイがアガる方が傷は大きいからいいか」
「一色ドラ3でリーチだったのにぃ!裏も乗れば宇宙が見えてたはず……」
「でももうアガってしまったんだ、終わったことはしょうがないんだ」
「ひぃん!」
モモイの抱えていた手と、アガったモルフォの安手を見て、わざとアガらせてモモイが大量得点をするのを阻止したのだと気付く。多分、モルフォの河からそこまで高くない手だと予想していたのだろう、現にユズは限りなく軽傷でこの局を乗り切ってみせた。
「ユズちゃん……やるね……」
「賭けではあったけどね……実はでかい手を抱え込んでたら、ってパターンが一番怖いし」
「つ、次こそはアガって見せるんだから!」
気を取り直して、次の局に入るモモイ。相変わらず、高い手を狙おうとするモモイに、堅実に打っていくミドリ。臨機応変に立ち回るユズに対し、モルフォはというと。
「よし、それもーらい」
「ま、また鳴かれた!?」
「ゆ、ユズちゃんの番がまた飛んだ……お姉ちゃん、モルフォちゃんに牌を与えすぎだよ!?」
「モモイは染めてるから狙い撃ちされやすいんだよね……」
鳴いて速攻で上がろうとしていた。しかも、対面にいるモモイが染めている手に対応した面子を用意するように立ち回るせいで、二人に挟まれたユズの下に回ってくる牌が減ってくる。最初のわざと行われた振り込みのせいでモルフォがユズを警戒するようになっているのも大きいだろう。
「ポン」
「ユズちゃん!?」
ではどうするか。ユズも動き、ミドリの牌を貰っていく。無理やり自分の手番を引き寄せて手を作っていくユズの行動を前にしたミドリは、選択を迫られる。そして選んだ手は。
「チー!」
「ミドリ!?え、なんで皆鳴いてるの!?」
「モモイ、それチー」
「ちょっとぉ!?」
「ユズちゃん、それポンだから」
ミドリもまた鳴き始める。それによって瞬く間にモモイを包囲する三人。三人の目が明らかに自分に向けられている。獲物を狩ろうとする、そんな目だ。
「待って!待ってよ!皆速いって!皆テンパイしてるでしょ!?」
「まだわからないよモモイ!まだ揃ってないかもしれないよ!」
「嘘だ!三回鳴いてるモルフォは絶対嘘だ!」
慌てながら、牌を河に出すモモイ。とりあえず確実にテンパイしてるであろうモルフォに仕留められるわけにはいかない。そう思って牌を出したのだが―――
「お姉ちゃん、それロンだよ」
「ミドリィ!?」
刺してきたのは妹だった。鳴いていたのが祟って、取られた点数こそ少なかったものの、モルフォだけでなくこの戦法に味を占めたミドリとユズもまた、モモイから点数をむしり取り始める。途中、手牌のせいで避け切れない振込は何度かあったものの、基本的に点数を奪われていくモモイの点棒は既に風前の灯火であった。
(残りは二局……やばいよヤバ……!?)
初期手牌を見たモモイの表情が固まる。これは……いけるのでは?いや、いけるはずだ。このビッグウェーブ、乗らないわけにはいかない。
(さすがにお姉ちゃんも苦しくなってきたかな……?)
「初手リーチだー!!」
「「「!?」」」
今度は三人の表情が固まる。ここにきて、モモイの手に革命が起こっている。ちょっと欲を出して高い手に整えてからリーチしよう、とかそういう気配ではない。これを当てられたら順位が一気に凹むことが確定してるとしか思えない手牌なのは確実だ。
「と、とりあえず安牌……」
「私も安牌……」
(安牌ないんだけど……えーと……東三枚あるし引っかからないでしょ……?)
最初の一巡は一発回避のために全員逃げる。そしてモモイの手番、牌を引いた瞬間にモモイの手番が止まる。その瞬間に三人は察した。ゲームである以上、一度リーチをかければ勝手にツモ切りを始めるのだ。そのため、その手が止まるとすればカンするかツモるかのどっちかしかない。
「一発ツモだー!おぉ!?しかも裏ドラ3!立直も乗ってウハウハだー!」
「ファッ!?」
「嘘!?」
「え、ここで当ててくるの!?」
これまでジャブでじゃれていたところにいきなりストレートを叩き込まれて唖然となる三人。そのままラス親がミドリに回るのだが、モモイの点数は完全に回復しており、まだ三人には及ばないものの、十分上を狙えるところまで来ていた。
「これは……流れが来ている!」
「まーじでその可能性があるから困る……」
「テーブルゲームって一回波に乗るとそのまま最後までいくからね……」
ここが正念場だ。ここで一位になるだけの点数を確保しつつ早く上がるにはどうすればいいのか。そう、四人が同時に考えながら、手牌を見る。
(((……んん!?)))
六巡ぐらいは動きなし。そんな中、モモイは次の一手を着実に整えていた。
(お……きたきた。これならダマテンでも十分一位取れるし、もうここはこいつで攻めちゃおうっと)
自分の中の勝利の道筋をしっかりと描きながら、中の牌を取る。途中でもう一枚が来たらな、なんて抱えていたが、ここまで来れば勝利のためには不要な牌だ。これで勝利は私のもの。嬉々として、モモイはその牌を繰り出す。
「よっしゃ!」
『『『ロン!』』』
「!?」
次の瞬間。画面の中からロンのボイスが三連続で飛び出してくる。
『大三元』
『四暗刻単騎』
『国士無双』
「……!??!?!?!?」
「「「…………」」」
モモイの表情が引き攣っていく。しかし、表情が引き攣っているのは彼女だけではない。こんなことある!?と言わんばかりに他の三人も引き攣っていた。だが、画面の中では無情にもモモイの点数はマイナスを超えて搾り取られていく。シンと静まり返るゲーム開発部の部室で、モルフォたちの視線がモモイへと向けられる。
「うわああああん!こんなのないよぉおおおお!!」
そして、理不尽すぎる負け方に涙目になるモモイを前に、三人はひたすら慰め続けるのだった。