転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「先生、昨日はありがとうございました。おかげで問題なくコユキを連れ戻せました」
「気にしないでよ。それより……コユキはこれからどうなるの?」
無事、ゴールデンフリース号から戻ってきた先生達。翌日、セミナー室に赴いた先生は、コユキのあれからの顛末について問いかけると、ユウカは額に手を当てて溜息を吐く。
「反省部屋に戻ってもらっています。今回、ネル先輩らに絞められたのが効いたようで今は外に出ようという気はなさそうですが……それもいつまでか」
「えっと……これまでも問題を起こしてるって言ってたけど」
「そうなんですよね……はぁ」
コユキは現在、大人しくしているようだが、残念ながら横領してカジノに赴いたことを反省しているというよりはネルたちにまたボコボコにされるのが嫌だから引き籠っているという状態。つまり根本的な解決にならないということだ。
「コユキにはきつく言っておきますが……はあ。ノアのことは怖がってるのに……」
「うーん……そういえば、横領されたお金の方は大丈夫だったの?」
「ああ……そちらは補填しました。それよりも、問題なのはモルフォ達が稼いできた方ですね……」
先生も少し悩んだ様子で、一旦コユキの事は後にして、まだ顛末もわかりやすいお金の方に話題を移す。セミナーから無断で発行された債権の方はユウカがどうにかしたそうなのだが、ユウカがそれよりも気にしているのはコユキを捕まえるためにモルフォ達が荒稼ぎした金額の方にある。
「そういえば、そのお金って結構スレスレの方法で稼いでいたんじゃ……」
「いえ、オデュッセイアからは特に何も言われてません。まあ、スロットが人力じゃ不可能とはいえ目押しできたとか、運がありすぎるアスナ先輩とかはもう来ないでくれって暗に言われたようなものですが……」
下手に問題を突くよりも、ただの運が良すぎた客として終わらせたい、というのが向こうの本音なのだろう。稼いだ金額などはそのまま渡す代わりにゲーム開発部とC&Cどころかミレニアムの生徒はもう来ないでくれ、という意思表示だった。実際、ヴェリタスに調べてもらうとミレニアムの生徒は揃ってゴールデンフリース号のブラックリストに入れられていた。
「まあ、もうゴールデンフリース号と関係を持つことはないのでそこはいいんです。問題は、この稼ぎ分も含めて全部私に返すって言ってるんです。そりゃあコユキを捕まえるために軍資金として渡したのは事実ですが、勝ってきたのはあの子達なんだから懐に入れてもらっても……」
「うーん、でもモルフォ達はいらないって言ってたんだよね?」
「はい、モモイはちょっと怪しかったですが……とはいえこれも私が稼いだ金でもないのでちょっと素直に受け取れなくて……」
「じゃあ、一旦ユウカが預かってモルフォ達が何か使いたいときにそのお金が必要になったら使うって事でいいんじゃないかな?」
「そうですね……そういう形なら……」
とりあえずユウカにお金を受け取ってもらうためにそれらしい理由を挙げる。ゲーム開発部に何かあって、急なお金が必要になったら。そういった理由でとりあえず預かることに納得したユウカが頷いたことで、こちらも片がついた。これで残るのは、一旦横道に逸れて後回しになってしまったコユキだけだ。
「話はちょっと戻るけど……コユキについてだけど、怒られても懲りない、ってことでいいのかな?」
「まあ、端的に言ってしまうとそうなりますね……一時はその能力を買われてセミナーに入ったんですけど、今やクビですからね……何か策が?」
「うん……ただ、ちょっと私だけだと難しいから、ゲーム開発部の力を借りようと思うんだ」
「と、いうと……?」
コユキの更生のためにゲーム開発部に協力してもらいたいという先生。それ自体は別に構わないのだが、ゲーム開発部からすればコユキは少々因縁のある相手だ。だからこそ、ゲーム開発部もゴールデンフリース号に乗り込んできたし、モルフォからダブルアーム・スープレックスを叩き込まれるに至ったわけなのだが。
「まあ、皆が協力してくれるのが大前提になるけど……」
「わかりました、先生にお任せします。ただ、あの子達が難色を示すようでしたら……」
「わかってる。無理強いはしないよ」
先生はそれでもゲーム開発部の協力を得たいと言う。で、あればその策に託してみようというユウカも先生の案を受け入れるのだった。
★
「……え?何ですかこれ?全然別物では……」
「そりゃあの時のは大体できてたけど未完成品だったからね、デバッグとかもやってなかったし、あの時は進行不可の致命的なバグとかもあったし」
「あー、ここ通れるようになってますね確かに」
反省部屋から先生に連れ出されたコユキはそのままゲーム開発部に連れられることになった。服装が気に入っていたのか反省部屋でバニー服でくつろいでおり、そのまま外に出たところをノアに見つかり強制的に制服に着替えさせられ、ゲーム開発部に連れていかれた彼女だったが、事前に先生から話を聞いていたとはいえやはりピリピリした雰囲気は拭えずにいた。だが、
「……ふむ、ここはこうすればいけますね」
「えっ、もう解いたの!?」
先生にコユキにゲームのテストプレイヤーをやってもらったらどうかと言われ、実際にやらせてみるとコユキはスラスラと解いていく。今回のゲームは謎解きゲーであり、操作はシンプルに1ボタンで行えるようにしつつ、フロア毎に分けられたアクションを駆使して謎を解き、扉を開くためのパスワードを手に入れて先へ進むという、ストーリーらしいストーリーがないタイプのプレイヤーが謎解きに集中できるように仕上げている。また、そういった演出等の要素を控えめにして謎解きを全面に押し出している都合上安価で売り出すことも決めており、そういう意味でリーズナブルな価格設定にしているのも魅力の一つだ。
「まあ、何となくわかるんですよね」
「それって第六感みたいな……?」
「アスナ先輩みたい……」
「まあ、近いっちゃ近いのかも?まあ、そういうわけで全然こういうのは難しくもなんともありませんね」
コユキの返答でどうしてセキュリティが破られたのかの謎も明らかになる。おそらく、こういうセキュリティや錠前といったものに対する開錠能力がやたら高いのだ。それも、本人の自覚のないパターンで。かつてリオが自分の異能に対し、同じく異能を持つ存在としてコユキを挙げていたことを思い出したが、どうやらこれがそれらしい。しかも、モルフォのように本人が、そして周りがストップをかけているわけではなく本人がもう自由に使っているという状態だが。
「……謎解きゲーをやらせちゃいけない存在すぎる……」
「いやまぁそりゃ総当たりで突破できるようにはどうしてもなっちゃうけど、一発で解答出してるのも推理したりとかじゃないってこと?」
「にはは、そういうことですね。こりゃエンディングまで楽勝ですよ!」
「あわわ、どうしましょう!」
能力の暴力で、答えの入力だけをやってフロアをクリアし、謎が謎じゃなくなることでサクサクと進んでいくコユキ。あくまで能力の範疇は謎解きだけに及ぶのか、アイテムを見つけたりとかは自力でやる必要があり、その点では捜索などを手探りでやっているところはあるものの、アイテムそのものは謎解きに必要なのもあって、入手そのものは難しいわけではない。強いて言うなら謎解きでアイテムを見つけるパターンだが、それはむしろコユキにとっては逆に簡単に手に入るという有様だ。コユキのプレイする様を見て、モモイ達も大丈夫かと慌て始める中、モルフォだけが冷静にその様子を見ていた。
「さーて、これで……あ、あれ?」
大きな謎を解き、いよいよエンディングへ。しかし、ここでコユキが詰まってしまう。最後の謎を解いたはず、そして画面が揺れ、振動する効果音と共に、画面には『どこかで何かが動いたようだ』というメッセージが表示されたのだ。コユキが解いたこの謎解きも、これが最後のはずだ。ここまでの流れからしてそれは間違いない。だというのに、どこにも次への通路が出現しない。
「これはバグでは?」
「いや違うよ?」
「正常な動きのはずだけど……あ、そっか。事実上の総当たりでやってきたから」
「ええ!?なんか変な事やってました!?普通に謎解きやってただけじゃないですか!」
「ふっふっふ……コユキは大切な事を見落としてるよ!今回のこの謎解きには、ある大きな仕掛けがあるんだ!」
「……仕掛け?」
混乱し、バグかと疑うコユキにそれはないと言うモモイ達。ポンポンと謎を事実上のスキップで解いていくコユキだったが、ここでモモイがしてやったりと言った表情を見せる。
「正直ネタバレになっちゃうからあんまり言っちゃいけないんだけど……まあここまで来てるしいっか。このゲームを作るにあたって総当たりで強引にクリアしてくる人の対策をどうしようかっていう話になったの」
「総当たり自体もある意味攻略法だから残しておいた方がいいんじゃないかっていう話も出たんだけど……どうせ総当たりする人は苦労しても全部やるだろうから、ちゃんと謎を解いた人だけがわかるパスワードを謎を解く過程で見えるようにしておこうってことになったの」
「誰がそんなことを!?」
「モルフォです!」
「なんでそんなことを!?」
「風景はね……パズルなんだよ」
能力でズルして突破してきたコユキの最大の落とし穴。そして、コユキの異能を以てしてもここから先は答えが出ない。つまり、もう解くべき問題も謎も存在しないということだ。どこかにエンディングへの出口自体は出ているはずなのに、それがわからない。となれば、その場所を知るためには、
「く、うぅ……さ、最初から解き直しなんて……!」
コユキがスルーしていた謎解きを戻ってちゃんとクリアしていくことにする。と、ここで、コユキはあることに気付く。
「あれ……普通に楽しい」
「フロア毎に方向性の違った謎解きを、1ボタンで簡単に、をテーマに作ったからね。謎解きが苦手だったり飽きっぽい人でも続けられるようにしてるんだよ」
箱を指定の位置に押すだけのよくあるフロア。また別のフロアでは線と線を直線に繋いでいき、ゲートを開く。それだけでなくフロアに入ると自動的に松明を取り出し、それで火を灯しながらギミックを動かしていくフロアなど、無視してきた謎解きをやってみると確かに多種多様で考えられているように見える。とはいえ、ここでは能力が作用するのか謎解きの方向は特に詰まることはなく、あくまでアクション要素の方を楽しんでいたが、やがて全てのフロアをクリアすることに成功する。
「さて、と。これで全部クリアしましたが……ん、んん!?」
そして、最後のフロアに戻ってきて後ろを振り向く。ここで初めて気付いたのだが、最後のフロアからは他のフロアを見れるようになっている。そこで後ろを見ると、丁度、自分が解いて来た謎が、それぞれ文字を作り出していることに気付く。
「S、T、A、R、T……スタート……?あ!?」
そこでコユキも意味に気付き、スタート地点に戻っていく。そこには、最初にはなかったはずの出入り口があった。そう、道中の謎をきちんと解いておけば最後の謎解きをした時に出現したメッセージが、スタート地点に出口が出てくることを示唆しているのだと気付くことができるようになっていたのだ。
「にはは、クリアしましたー!!」
「おー、おめでとう!」
「いやー、面白いですねこのゲーム!てっきりただの謎解きかと思ってましたけど、こんな落とし穴があったなんて!いやぁ爽快ですよ!」
ウキウキで感想を言うコユキ。ゲームに集中し、真剣に取り組むコユキが無事にゲームをクリアした姿を見て、ゲーム開発部の面々も祝福する。その様子を見ながら先生も、どうにかコユキとゲーム開発部が打ち解けられていたようだと安心する。
「やっぱりゲームは未完成の奴より完成した奴をやった方がずっと楽しいよね」
「ええそうですね!……あ」
モルフォの言葉に笑顔で答えたコユキだったが、ここで自分が未完成のゲームを割ったことを思い出す。わざわざ割らずとも、ちゃんと完成したゲームをやれば楽しめたというのに、わざわざ未完成のゲームをやったせいでバグで痛い目を見たのだ。
「……えーと、あれはその……すみません。このゲームの面白さを誤解していました」
「うんうん、わかればよろしい!」
「まあ、取り返しのつかない被害は出てないからね」
「それにちゃんとゲームを楽しんでくれたから……とりあえずいいかな」
「はい!ゲームを楽しんでくれるならアリス達の仲間です!」
裏で謝るところ違うでしょう!?とイヤホン越しにコユキとゲーム開発部の話を聞いていたユウカが激しく頭を机に打ち付ける。その様子をノアと、コユキが万が一を起こした時にすぐに制圧するべくアカネとカリンが見ているのだが、残念ながらその様子はこちらにはわからない。先生も、ずれてるけどちゃんと謝れてるなら前進してるな……ととりあえず成果が出てきたことに安心していた。
(ひとまず、皆からすれば悪いことだけど楽しいってことよりも悪いことをしなくても楽しいことはたくさんある、むしろ皆から怒られたりしない分こっちの方がいいって思ってくれるようになれば……)
これまでユウカ達からも絞られても反省しなかったコユキ。しかし、逆に悪いことをせずとも楽しいことがあるし、わざわざ他の人の精神を逆撫でするような必要もないのだと思うようになれば、少しは改善するかもしれない。そう思って今回の作戦を仕組んだのだ。
「じゃあ折角だし、このパズルもやってみようか。The_Witnessって言うんだけど……」
「ふむ?」
パソコンを取り出し、ゲーム画面を見せる。全員が聞いたことのないタイトルだったのでこれもモルフォの能力から生まれたものなのだろう。実際にゲームをコユキがプレイし始めてみると、一人称視点でのオープンワールドが広がる。だが、そこでやることは単純なパズル。そのルールは単純明快、丸をスタート地点として線をなぞり、ゴールへと辿り着くというだけ。ただし、そこにパズル毎に特殊ルールとして白と黒のマスが一緒にならないようにしたり、三角の数だけその周囲の辺を通らなければならないなどの追加も加わるというもの。
「……?」
ルール自体は直感的でわかりやすいのもあり、ストーリーらしいストーリーもないためただひたすらパズルを解くのに没頭できる。パズルが大好きな人からすればまさに天国のような作品だろう。ただ、コユキはチュートリアル代わりの最初のパズルを解き、扉を開けてから後ろを振り向くと、ある違和感を感じ取る。第六感的な何かが解けと言っているような、そんな感じだった。
「……うーん、よくわからないですしまあいいですか」
「結構面白そうなゲームだね」
「でも頭使いそー」
「アリスも後でやってみたいです!」
「……丸と、棒……?」
最初ということもあり、単純なパズルを順調に解いていくコユキの様子を見ながら、ゲーム開発部もワイワイと話をしていく。その中でユズだけが何かに気付いてしまったような表情をモルフォに向けるのだが、今は黙っておこうかと言うかのようにモルフォはニッコリと笑う。そんな中、パズルは背景も取り入れたものに変わっていく。
「ここそんな感じになって……ええ……?」
「うわあ、もうわかんなくなってきちゃったよ」
「さっきからなーんか嫌な予感がするんですよね、ただのパズルのはずなのに……このゲームホラーとかあるんです?」
「いやホラーはないかな……でもある意味ホラーかも」
パズル自体は悩まずサクサクと進めていくコユキ。光の当て具合やパズルの開始地点などの調整を手動でやるせいで手間取ったりするところもあるものの、能力で解答を見つけて、どうやってそれに至るのか途中を考えるというコユキならではの攻略法で進めていく。というよりも、一つのパズルをクリアしてもそれが別のパズルに繋がる、パズルが別のパズルになるみたいな、一つ一つの解答を越えた謎の連携具合を見つけるせいでかなり四苦八苦するようになっていた。
「この砂漠ステージおかしいじゃないですか!陽射しの当て具合で答えがわかるって、これ自体はノーヒントですよ!?」
「歩き回ればそのうちわかるから……」
「わ、私はもう無理かも……いや頭の柔軟さが凄いなぁ」
「どうしよう私も全然わからない……」
『せ、先生……』
それを後ろから見ていた先生も半分匙を投げ始めていた。ちなみについでに見学していたアロナは早々にギブアップしている。
「いや、しかし時々本当に嫌な予感がするんですよね」
「もしかしてつまらない?」
「いやそんなことはないんですが……むしろ解けるのは進んでる感じがして楽しいんですがね……う、うーん」
エリアも移動し、パズルもクリアしていき、順調に見えたコユキの旅路。しかし、あるパズルを解いている途中で遂にそれに気付いてしまう。
「うあぁああああ──―!?」
「え?ど、どうしたのコユキ!?」
「なんか気付いたの?」
「……はっ、ここ、パズルがあります!!」
「「え?」」
何のことはない、ただの風景のはずだ。しかし、そこに丸と、それに繋がった棒を見つけてしまった。それを見つけてしまった瞬間、今までコユキの能力が告げていた解き方と、コユキがパズルだと認知していなかった現実が交差し、一つになってしまう。
「風景がパズルになってる―――!!!」
「「ええええええ!?」」
「き、気付いちゃった……」
「え、これめっちゃ見逃してますよね!?この背景パズル……いやでも、完全クリアするってわけでもなければ全部クリアしないと駄目ってわけでもないだろうし、まぁ大丈夫でしょ!」
「風景パズルから逃げるな」
思わず震え声になるコユキ。改めて考えてみると色々見逃してる気がするのがもったいない。しかし、血眼になって風景パズルを探し始めていたらいつまで経ってもこのゲームは終わらない気がする。そうなるぐらいならクリアできる範囲でやってそれで色々考えたり考察したりした方がずっと楽しい。それに、
「もしかしてあそこって風景パズルじゃ」
「いや、お姉ちゃんそれは見間違いだよ」
「うぅ……一回気付くと全部そう見えてくる……」
「あそこにパズルがありました!」
「風パだぁ」
「……にはは」
こうしてギャーギャー騒がしく何かをするのも悪くない。楽しそうに皆でゲームに興じるその様子を見て、先生も楽しそうに笑顔を浮かべるのだった。