転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
天童アリスとミレニアムサイエンススクール
「えー、それでは、次回作開発に向けての会議を始めます」
「え?次回作ってもう作ってなかった?さすがにテイルズ・サガ・クロニクル2程は鳴かず飛ばずだったけど……」
「それ本当の意味は将来に備えて行動を控える様子らしいよ」
「えっそうなの」
「お姉ちゃん……シナリオライターなんだからちゃんと覚えておこうよ?」
ゲーム開発部の部室。折り畳み式の机やホワイトボードを出して、それっぽく会議っぽい雰囲気を作ってゲーム開発を進めていた。今回の議題は大作ゲーム。これまで、定期的に短編ゲームをいくつか出したりして少しずつ実績を積み重ねていたが、ゲーム開発部の本命としてはやはりこの大作ゲームだろう。
「ミレニアムプライスで一気に注目されて、そこからいくつかゲームを出していったり……他の学校の生徒ともコラボしたりとかしてたから、知名度もそこそこ上がってるはず。今のペースを続けていって、満を持して次回作を出せば……初動については約束されてる、と思うんだけど……」
ユズの口から、これまでの事を踏まえた現在のゲーム開発部の実績と状況が語られる。短編をいくつか出し、それが小さいながらも跳ねた実績もあり、次回作に期待を向けてくれるユーザーもそこそこ増えているといっていい。今なら初動もある程度確保できるだろう。が、だからこそ次に出すゲームはもっと洗練したものに仕上げなければならない。
「じゃあさ、次回作はこれにしよう!まったりスローライフ系ダンジョン探索型RPG!」
「……拠点ではスローライフ、本筋はダンジョン探索に切り替える形式か……いいんじゃない?うまくやれば拠点と探索でメリハリがつきそうだし」
「ちなみにここに音ゲーや格ゲーを組み合わせてみようかと……」
「……まあ、今はいいか……」
モモイが提案したのは「まったりスローライフ系ダンジョン探索型RPG」。そこに様々なゲームの要素を詰め込もうとするモモイの意見もとりあえずホワイトボードに書き込んでいくと、それを見た他の二人からも意見が飛び出してくる。
「主人公パーティ以外の育成要素も欲しいよね」
「ダンジョン探索はアクションRPGでもいいかも?」
「勇者の剣のような伝説の武器があるといいです!」
「じゃあ鍛冶要素があってもいいのかな?うーん、いっそスローライフと言う名のハイスピードライフになってもいいかもしれない」
「農業とか?めっちゃ専門的な感じにしようよ!畑作って種蒔いて少しずつ世話してって感じで……」
「それはやることを農業一本にしないとプレイヤーがパンクする……まあ農業自体はいいと思うけどね」
要素の闇鍋はほどほどにしないと大変な事になるぞと忠告しながら、あれこれ皆が提案してくれた要素を書き込んでいく。そしてそれらを纏めていると、ふとモモイが先生の事に気付く。
「そういえば、折角会議するなら先生も呼んだ方がいいんじゃない?まあ今回は無理だけど」
「今回……っていうか、先生は今、トリニティの方に出張してるから無理だよ」
「補習授業部の皆さんですね!一緒にゲームをして楽しかったです!」
ミレニアムプライスでは先生にも協力してもらったし、今となってはゲーム開発部もシャーレの部員だ。その伝手で呼んだ方がいいかもしれないとモモイは思ったようだが、現在先生はトリニティで仕事中。補習授業部はここで踏ん張らないと退学の危機なのだ、まだ猶予自体がある自分達とは違い、そちらに全力で打ち込んでもらわないとむしろ困る。
「まあ、しょうがないよねー」
「先生には後で言おうか、それじゃあ……」
モモイの疑問も解消された所で、モルフォ達は会議を進めるのだった。
★
「……モルフォと一緒に冒険です!」
「あはは……やっぱりこうなったか……」
ミレニアムのキャンパスを歩くモルフォとアリス。先ほどまで部室で会議をしていたのだが、案が一通り出揃ったところでどう煮詰めていくか、というところで意外性や斬新さを追求し、限界を超えようとするモモイと、そういった挑戦は程々にして、ここはクリエイターとして実現可能なラインを見極めていくのが大事だとするミドリで衝突。どちらの意見を採用するかという事態に陥ったため、二人は雌雄を決するべくゲームによる対戦を実施。ゲーム開発部故の解決策が行われ、先に十勝した方が勝ちという中々に時間がかかりそうな状況になったため、折角ならと二人をユズに任せ、モルフォとアリスはアイデア探しも兼ねて外を散策することにしたのだった。
「今日のクエストを開始します!見習い勇者アリスとパラディンモルフォの冒険はここから始まります!」
「あ、今日は見習いの設定なんだ……」
「今までは、冒険の時に伝説の勇者から始めたりもしましたが……先日、モモイが言ってました。伝説の勇者がレベル1のスライムを倒す冒険って、少し変じゃない?と」
「あー、そんなこと言ってたっけ」
「なので、最初から冒険が始まる町の周辺に伝説のドラゴンを配置する!と言ってました」
「あったあった」
そう。最初の町のすぐそばに伝説のドラゴンが住まうラスダンを配置しよう!というモモイの発言にミドリとユズが全力で止めていたあの時の出来事だろう。あの時は確か、最初の町のすぐ近くにラスダンを設置すること自体はユーザーの判断で攻略時期を設定できるので悪いことではないということであくまでラスダンはラスダン、通常の道筋はそのままに、という方向性で話を進めていたのだが、やはりいつでも攻略できるダンジョン、とすると普通のプレイヤーならどれくらいのレベルでクリアできるのか?の見極めが難しく、難航している。いつか、コユキなどを巻き込んでその調査を行うことになっており、その間に別の案件を動かそうとしていたのが、先ほどの会議である。
「最初の敵が本当に伝説のドラゴンだったら恐ろしく買い手を選ぶだろうからね……あれで正解だったよ」
「あの時の話を全て理解できたわけではありませんが……ゲームを最初からやる、というのは大事だと思います。そうすることで新たな気付きを得られるかもしれませんから!なので今日はレベル1から始めます!少しずつモンスターを倒し、レベルアップして……伝説の勇者を目指します!」
「そっか、いいんじゃないかな?」
とどのつまり、最初からの気分でミレニアムを散策することでいいアイデアを見つけたい、ということなのだろう。
「それじゃあ、どこへ行こうか?」
「うーん……決めました!まずはあっちの方に行きましょう!」
「あっちは……確かトラックがあったような」
アリスの指差した目的地へ向かう。そこには、準備運動を行うスミレの姿があった。
「おや、アリスさんとモルフォさん。こんにちは。今日も良い運動日和ですね」
「こんにちは、邪魔しちゃいましたか?」
「いえ、そんなことはありませんよ。ああ、モルフォさん、先日はありがとうございました」
「お役に立てたようで何よりです」
この後ジョギングでもしようとしているのだろう。準備運動の邪魔をしたのではないかと気にするモルフォにスミレは笑うと、以前カラダウォーを紹介してもらった事の礼を言う。
「何かあったんですか?」
「トレーニングとカードを組み合わせたカードゲームの最終進化形……カラダウォーからは良いインスピレーションを得ることができました」
本気でトレーニングをする、ということであれば一心不乱に打ち込んだ方がいいのだろうが、理系が多く集まりがちなミレニアムでスミレが求めるハードなトレーニングについていける人は残念ながらほとんどおらず、結果的に辛いトレーニングに部員が逃げ出したという負の噂が付きまとうようになっていたのだが。先日紹介したカラダウォーにヒントを得て、ゲーム形式でトレーニングをすることを考案してみたところ、部員たちからの反応も上々であり、部員勧誘にもこの方向性でいけないかと思案しているのだそうだ。
「それで、お二人は冒険運動中ですか?」
「はい!スミレ先輩が運動冒険をしているように、私達も冒険運動中です!」
「せめてワードは統一しない?」
今日はモルフォと一緒だが、アリス一人でミレニアムを歩いているときにスミレはよく会っている一人なのだろう。仲良く話す様子を見ていると、アリスも色々な人と接点を持っているんだなと安心する。
「スミレ先輩はアリスとよく会うんですか?」
「ええ、アリスさんとはジョギングをしているときによく」
「運動冒険するアリスの仲間です!」
運動して体を鍛えるスミレの姿は、レベルを上げてステータスを上げる勇者のそれと似通っている部分があるのだろう。アリスもそういった姿勢に共感を覚えたのかもしれない。
「ふふ、それでは私はこれからジョギングに参りますね。お二人とも、運動冒険。頑張ってくださいね」
「はい!アリスもスミレ先輩に負けないように頑張ってレベルを上げます!」
「スミレ先輩も頑張ってくださいね」
そしてスミレは、二人に手を振るとジョギングを開始する。瞬く間にその背中が見えなくなったところで、モルフォとアリスはトラックを後にするのだった。
★
「……あれ?ここミレニアムの郊外だけど」
「はい!ミレニアムの中でもイベントはいっぱいありますが……外では予想もつかないようなランダムエンカウントがいっぱいあります!モルフォが教えてくれたことです!」
(そうだっけ?いや、そうなのかな?)
思い出せば忍術研究部や補習授業部、そして美食研究会といった面々との出会いも、ミレニアムの外だった。そう考えると、アリスの外の方が予想できないイベントがあるという理論も納得いくのかもしれない。とはいえ、アリスが期待するようなイベントが今回もあるかどうかはわからないのだが、
「あっ!モルフォちゃんとアリスちゃんだ!やっほー、こんにちは!」
「あれ?アスナ先輩とカリン先輩?」
何と、制服姿のアスナとカリンと遭遇していた。そんな二人を見ていると普段のメイド服姿とはまた違った印象を受ける。
「これは……いつもと違う服装……新ジョブへの転職……気が付きました!二人はメイドから新しいジョブ……女子高生に転職したんですね!」
「いや……私達も生徒だから、これが普段の格好というか……」
「まあ、見慣れてるといえばそうですけどメイド服ってC&Cの仕事服ですからね……」
アリスからすれば制服姿の二人は見慣れていないのだろうが、そもそもミレニアムの生徒なのだから普通に制服を着る機会はあるのだ。休みの日とかは。
「今日はオフですか?」
「ん?ああ、違うよ。今秘密の任務遂行中!」
「秘密のクエストですか!?」
「そうそう、最近ゲヘナとトリニティがエデン条約でピリついてるでしょ?変な動きをしてないか調べてほしいってリオ会長が言ってたんだ!」
「アスナ先輩、ちょっと……」
秘密の任務なのに言っちゃうんだ……とモルフォが困惑していたが、カリンも同じことを思ったようだ。慌ててアスナを止める。
「エデン条約って何ですか?」
「ゲヘナとトリニティの間で結ばれる条約だよ。まあざっくりいうと犬猿の仲だった二つの学園で有事に協力しようっていう条約、かな……」
「成程、仲の悪い人たちが手を取り合って平和を作るんですね!」
「……まあ、そううまくいかないからこんな任務が出てるわけだけど……」
エデン条約について初めて聞くアリスだったが、その内容を聞いて目を輝かせる。確かにアリスの言う通り、本当にエデン条約が成立するなら良いこととなるだろう。しかしそうは問屋が卸さないのがエデン条約。条約を推し進める裏で何が起こっているかわからないし、もしかしたら無関係のミレニアムがその影響を被る可能性もある。そのため、二人は一見ミレニアム生とは見えないようにしつつ、聞き込みをしていたようだ。
「成程、つまりアスナ先輩もクエストを受けて冒険しているのですね!アリスと同じです!」
「あ、本当だね!お揃いだ!」
「えっと、だからアスナ先輩、アカネがそれは秘密だって……」
「やっぱり秘密じゃないですか」
「あはは、そうだった!ごめんごめん、今の内緒ね!」
「まあ、この二人なら……いっか」
そしてやっぱり他人に言ってはいけない任務だったようだ。とはいえアスナが普通に話してしまったことと、この二人なら別にいいかとカリンも開き直ることにした。
「はい!アリス、秘密は守ります!ゲームでも、秘密を漏らすと呪いを受けたりしますから!」
「そうそう!アリスちゃんはいつも元気だね!モルフォちゃんも楽しそうでよかった!」
「まあ、面白いですし飽きはしませんね」
「……そういえば、二人は何を?クエストって言ってたけど」
「はい!アリス達は冒険をしていました!」
ふと、アリス達が郊外に出ている理由が気になり、カリンが質問すると、アリスがクエストの事を明かす。それを聞いたアスナが面白そうに目を輝かせる。
「ええ、冒険!面白そう!それ、私もやりたい!」
「あの、任務は……?」
「パーティーメンバーが増えるのはいつでも歓迎です!メンバーが増えたら、使える戦術の幅が広がりますから!パンパカパーン!アスナ先輩も、カリン先輩も!次の冒険では仲間です!」
「わぁい!パーティーに入ったー!」
「わ、私も……そ、そっか。よろしくね」
そして、今回は無理とはいえ、次回は一緒にというアリスの言葉にアスナとカリンも嬉しそうに頷く。
「じゃあ、私達はこれで……あ、そういえば。ネル先輩がアリスのことを探してた」
「え?ネル先輩が?」
「どうしたんですか?」
「何か用事があるそうだけど……」
ふと、ネルのことを思い出したのか、カリンが二人に伝える。それを聞いたモルフォは怪訝そうに首を傾げながらモモトークを確認する。アリスに何か用事があるようだが、メッセージが来ている様子はない。
「心当たりある?」
「いえ……」
「とはいえ、重要な用事じゃなさそうだから……まあ、会ったらよろしくね。アリスもだけど……モルフォの事も先輩、本当に気に入ってるみたいだから」
「それじゃ、バイバイ!また面白いゲームとかあったら教えてねー」
アスナとカリンと別れた二人は顔を見合わせる。ネルの用事が気になるところではあるが、今は別に気にしなくてもいいだろうと判断した二人は再び移動を始める。もしネルと会うとするなら外にいるより中の方がまだエンカウントしやすいだろうという理由で、その足をミレニアムへと再び向けるのだった。
★
「あ、アリスちゃんだー」
「モルフォちゃんも一緒なんだー、この前の新作プレイしたよー」
「あ、本当に?ありがとう」
ミレニアムの建物の中に戻ってきたアリスとモルフォを見つけたミレニアムの生徒から挨拶される。ミレニアムプライスで台風の目になったゲーム開発部の注目度はミレニアムの中でも高まっていたこともあるが、アリス自身がミレニアムの中を出歩いて多くの生徒達と交流しているのもあってか、意外と顔が広い。
「ゲーム開発部って正直名前も聞いたことなかったけど、アリスちゃんとモルフォちゃんが来てから変わったよね」
「以前は他の部活に襲撃かけてたとかなんとか聞いたけど……」
「でも今は今で凄いよね。エンジニア部やヴェリタスはまだわかるけど、メイド部やセミナー、はたまたトレーニング部にも顔が利くんだって?」
「後……ほら、オカルト?だかの部活……」
「特異現象捜査部?」
「そうそれ、そことも繋がりなかった?」
そしてモルフォもまた、色んな部活や組織に明るい。元はモルフォ個人の趣味や私生活間における個人との繋がりだったのだが、アリスと共にゲーム開発部に入ったことで、その個人の繋がりがそのまま組織同士の繋がりにいつの間にか昇華されていた。無論、アリスに由来する表沙汰にできない理由もあるにはあるのだが、部内の役割的にいつの間にかモルフォが顔役としてミレニアム生達から認識されていたようだ。
「今や学外でもコラボとかやってるし……ほんと凄いよね。疲れてるならちゃんと休みなよ?」
「あ、それは大丈夫だから安心していいよ」
「そっかー、アリスちゃんは今日も冒険かな?頑張ってねー」
「はい!アリス、応援を受けて充電しました!」
軽く話をして、生徒達と別れる。その後も色々な生徒と出会い、アリスはクエストという名目で頼み事を引き受け、クエスト報酬と称してお菓子をプレゼントされたりしながら、散策を続けていると。
「話には聞いてたけど本当に人気者だね、アリス」
「はい!皆、アリスの事を応援してくれています!……って、あれは!」
「ん?あ、ウタハ先輩達だ」
「?ああ、モルフォとアリスか」
建物から出たところで、今度はエンジニア部の三人と遭遇する。見れば、三人の前にはビニール袋をかけられた大きな膨らみがあった。
「何かあったんですか?」
「ああ、資材の補充でね」
「成程」
どうやらエンジニア部で使う材料を取りにきたようだ。その様子を見て目を輝かせるアリス。彼女からすれば、エンジニア部はスーパーノヴァを作ってくれた恩人たちである。これらの道具を使ってどんなものが生まれるか、それを考えると、アリスの期待はどんどん膨らんでいったようだ。
「光の剣を作ってくれた皆さんが次に何を作り出すのか楽しみです!」
「ふふ、お褒めの言葉として受け取っておこうかな」
とはいえ、アリスが満足するようなものが生まれるかどうかはまた別の問題ではあるが、楽しみにしてもらえるのは悪いことではない。
「ああ、そうだ。二人とも武器の調子はどうだい?」
「バッチリです!アリスにとって、光の剣は宝物ですから!モルフォの音の鉄槌も同じです!」
「いつの間にか鉄槌にされてる……って、音?」
「はい!モルフォの武器もウタハ先輩たちが作り上げたものです!ならばそれに相応しい二つ名が必要なはずです!」
「……だってさ。どうする?」
「……いや、今更変えなくてもショットガンハンマーの方がシンプルで無骨な感じがしていいかなって」
いつの間にか流れで改名されそうになるが、アリスには悪いがとやんわりと却下させてもらうことにする。なんだかんだでこの名前には愛着が湧いているのだ。
「そうですか……モルフォはその武器を愛しているのですね!」
「愛し……まあ、そうか……命は預けてるし愛着はあるよね。もちろんこっちも」
「そちらもエンジニア部特製の逸品ですからね!」
そしてそれはもちろん、このシールドもだ。これがなければどうなっていたかわからない場面は数知れず。今の自分やアリスがいるのはエンジニア部の皆のおかげでもあるだろう。足を向けて眠れる相手ではない。
「あ、そういえばモルフォ」
「どうしたのコトリ」
「先日、偶然真ん中でへし折れたシャーシを修復しようとした際に、中々ユニークなものができまして……空気抵抗などによって二つに折れるシャーシというものを作ったのですが―――」
「……今度ビートマグナムもってくね……」
それはそれとして。先日モルフォが見せた新たなミニ四駆の話題に花を咲かせるのだった。