転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「―――よぉ、見つけたぜ」
「あ!野生のネル先輩と遭遇しました!」
「野生ってなんだよ!?」
「……多分ゲームのエンカウント的な言い回しですね……そういえば、ネル先輩が用があるってカリン先輩が言ってましたけど」
場所が変わり、ミレニアムの中にあるモノレール駅。そこに至るまで、様々な出会いや別れを繰り返してきた中で、二人が出会ったのはネルだった。
「ああ、そうだ。ちょいと付き合ってくれよ」
「え!?でも、アリスはまだ冒険の途中で……」
「ほら、さっさと行くぞ」
「う、うわあああん……アリスが盗賊に捕まりました……!」
「人聞きの悪いこと言ってんじゃねえ!?」
有無を言わさずアリスの手を掴んで引っ張っていくネル。その様子を見ながら、用事は何なのか疑問に思い、首を傾げる。
「えっと、アリスへの用事って何なんですか?ここじゃできないんですか?」
「ああ、無理だぞ?なんせ今から行くのは……ゲーセンだからな」
「アッハイ」
そしてその目的地がゲーセンだと知り、気が抜けながらモルフォはアリスを連行するネルと共にゲーセンへと移動していくことになる。そしてそこで行われたのは―――
「だああ!?また負けた!?てめえ、ハメ技使うのかよ!?」
「ユズはハメ技もゲーム要素の一つだと言っていました!」
「モルフォはなんて言ってた?」
「バランスが世紀末なら許すって言ってました!」
「それどういうバランスだよ!?」
アーケードを使った格ゲーだった。聞けば、アリスとネルは以前にもゲーセンで対戦したことがあり、そこでネルはアリスにぼこぼこに負かされたという。実はネルも度々ゲーム開発部の部室に来ることがあり、色々対戦しているのだ。モルフォの持つゲームをやるのは少々知らない人にばれないようにしたりといくつかクリアしなければならない点もあり、その点、対戦ゲームをするだけならゲーム開発部に行けばこの世界の楽しいゲームも一緒にやれる。その中でも特に格ゲーに力を入れている。単純にネル自身が格ゲーを好んでいるというのもあるのだろうが、
「そういえばネル先輩格ゲーのランクマとか好きなんですか?ちょっと前からやたら上を目指そうとしてますけど」
「んあ?まあ否定はしねえけど……ランクマはそこまで意識してねえな。まあ上に行けば強いやつと戦えっからやってるってのがでかいけどな……つーか、正直強くならねえと結構危ないところが出てきてんだよ……この前なんてホシノに勝った時結構ギリギリだったし」
「へぇ、ホシノさんゲーム初心者でしたけどもうネル先輩に勝ちかけるところまで来たんですね」
度々格ゲーなどで遊んでいるらしいホシノに黒星を付けられかけたのが一番堪えていたようだ。ゲーム開発部ではゲームのエキスパートとも言うべき部員達にぼこぼこにされることも多いネルだが、そのネルよりも初心者のホシノであれば普通にネルの方が強い……のだが、ホシノはめきめきと実力を上げていったらしく、今やネルに匹敵するところまで来ていたらしい。正直ここまで這い上がってきた相手と全力で戦って負けるならそれはそれで別にいい、という部分はあるのだが、それはそれとして負けるのは嫌なのがネルとしての心情だ。
「まあネル先輩、格ゲーの方はわりかし苦手というか直情的な部分がありますし」
「な、なんだとぉ……!?」
「アリス知ってます!ネル先輩はモルフォにリンクを使われると勝負にならないと!」
「うるせえな!?懐入ればこっちのもんだってのに……!」
「いやそれ、キヴォトスの住人に銃も爆弾も捨ててかかってこいって言ってるようなものでは……」
二人がアーケードをやっている傍でクレーンゲームを動かしながら質問に答える。何となく取れそうな感じがするぬいぐるみがあったから取ろうとしてみたが、クレーンのアームが弱すぎて死んでいたので諦める。
「それで、ネル先輩の用事ってアリスへのリベンジだったんですね」
「ああ、こいつに負けっぱなしじゃいられねえからな。言っておくがモルフォ、お前もだからな?……ここじゃできねえけど。いいか?今日のあたしは一味違うんだ、コンボの練習だってやってきたんだからな!」
「……その言葉を先週も聞いた覚えがあります」
「んだとゴルァ!?」
顔を真っ赤にしながらアリスに詰め寄るネル。とはいえ、傍から見ると完全にじゃれ合っているようにしか見えず、楽しそうに格闘ゲームに興じている様子を見て、まぁ問題ないかと判断し、モルフォはメダルゲームを始めることにする。
「……思ったより溜まってしまった……」
大体一時間ぐらいだろうか。適当にメダルを使い切るまで遊んでからアリスとネルの様子を見ようと思っていたモルフォだったが、一向に減る様子を見せず、それどころか収支が大幅にプラスになってしまい、八分目ぐらいまで溜まってしまったメダルを入れるカップを見て、そろそろ切り上げることにしたのだが。
「ふふ、楽しんでいますね」
「あれ?アカネ先輩?どうしてここに?」
「ええ、サボってる部長を迎えに……」
「……あー、それなら、あそこに……っていうかアリスが来てからそういうこと増えてません?」
「……ええ、頭の痛い話ですね」
視線を横に動かすと、そこにはアカネの姿が。間近にいたアカネの姿に思わず驚き、カップの中のメダルがジャラジャラと鳴っていく。アカネは笑っているが、その目が笑っていない。彼女の威圧感に負けるように、アリスからコンボをレクチャーされているネルを指差すと、アカネは音も立てずに近づいていく。
「うわぁん!ね、ネル先輩のコンボが繋がりません……このままではアリスの空腹ゲージがゼロになってしまいます……」
「くそっ、もっかい最初からだ!この!繋がれ!これで―――」
「……あ」
アカネがネルのすぐ隣に立つ。横のネルに師事をしていたアリスの視界にはばっちりアカネの姿が映っていたが、ネルは未だに気付いていない。
「あ、の……ネル先輩……」
「あぁ!?画面から目を離すな!あたしの華麗なコンボを……」
「……どこでサボっているのかと思ったら……こんなところにいたんですね、部長」
「……うわっ!?あ、アカネ!?い、いつの間に!?」
ネルの耳元で、アカネが囁く。その囁きを聞いた途端にネルの体がビクンと大きく跳ね上がり、冷や汗をダラダラに流しながらアカネの方を見る。
「私、言いましたよね?今日は会長から任務の通達があるから、準備しておいてください、と……」
「……あ」
「……ネル先輩、予定忘れてたんです?」
「いや、違うんだって、これが終わったら準備しようと―――」
『KO!!』
「……は!?」
言い訳を始めるネルの耳に、試合終了の音声が聞こえてくる。慌てた様子でアーケードの画面を覗き込むと、そこでは倒されたネルの操作キャラと、勝利ポーズを取るアリスの操作キャラの姿があった。
「アリスの完璧な勝利です!」
「いや今のは反則だろ!?」
「いえ、勝負の世界は冷酷なもの。常に最高の状態で勝負しなければならないのです。それとも、ネル先輩は戦闘中によそ見してやられても、今のは無効だと言うのですか?」
「ぐ、ぬぬぬ……!」
「アリス!ゲームで必要以上に煽らない!そういうのは気心の知れた相手とだけやるプロレスに留めないとただ不快なだけだよ!」
ぴくぴくと青筋を浮かべるネルの様子を見て、稼いだメダルを店員に預けてカードを更新し終わったモルフォが慌ててアリスの両脇を抱えて席から持ち上げてネルから距離を離す。それと同時に、ネルのスカジャンにアカネの手がかけられ、彼女の体が引きずられていく。
「全くもう……部長の精神年齢段々幼くなってきてませんか?」
「んなわけねえだろ!?」
「最近の部長見てると悪い意味で童心に返ってる気がしますよ?ちゃんとお二人に良い先輩を見せてあげてください……さ、任務に戻りますよ」
「お、覚えてろ!次はぜってー勝つからなー!?」
「それではお先に失礼いたします、アリスちゃん、モルフォちゃん。また、機会があったらご一緒させてくださいね」
「あはは……楽しめるものを用意しておきますよ」
段々遠くなっていくネルと、彼女を引きずりながら笑いかけるアカネにモルフォは苦笑を返す。そして二人がいなくなったところで、時間を確認すると、既に夕暮れ時になってしまっていたため、ゲームセンターから出ることにする。
「そろそろ帰ろうか?色々あったけど……どうだった?今日は」
「そうですね……色々あって、とっても楽しかったです!それに、モルフォとミレニアムの中を冒険したことで、モルフォが皆にどう思われているかも知ることができました!」
「ん?そう?」
「はい!皆、モルフォと一緒に遊んで、絆を、繋がりを結んでいます!モルフォはパラディンとして皆を守ってくれていますが、皆の絆を守っているんです!」
「そ、そっか」
もう今日の散策はここまでだろう。そう思い、アリスに統括してもらおうとすると、まさかの台詞に少し恥ずかしさが出てきてしまう。絆を結ぶとは随分大きく出たものだが、アリスにとってはそう見えているのだろう。それをやんわりとでも否定するのは気が引けた。
「とはいえ、今日はユズのクエストを残念ながら進められませんでしたが……それでもアリスは勇者です。勇者は諦めないものです!まだ見習いですが、これからもクエストをこなし、たくさんレベルアップして……いつかは、この光の剣で世界を脅かす魔王を倒します!」
「……うん、そうなるといいね。でも、魔王を倒したからって旅は終わらないんじゃない?」
「え?」
いずれは魔王を討伐し、エンディングへ。だが、まだまだ終わらない物語があってもいいじゃないか。そう、モルフォは笑ってみせる。
「だって、魔王を倒した後の世界っていうエンディング後の世界もいっぱいあるじゃない」
「……はい!その通りです!アリスとモルフォ、そしてモモイもミドリもユズも、ミレニアムの皆も!皆パーティです!!」
そんなモルフォの笑顔に、アリスもまた満面の笑みを返すのだった。
★
「……これを見てちょうだい」
「……なんだこりゃ?」
「どこかの企業が作った……兵器?」
夕暮れ時。セミナー室に集められたC&Cの四人は、リオからある写真や動画を見せられていた。そこには球体のボディに不気味な触手のようなものを伸ばした奇妙なロボットが映っていた、それらが群れを成してどこかへ向かって移動しており、それが何者かによって破壊されている。
「……いや、ここは廃墟だ。つーことは、廃墟で作られたのか?」
「でも、廃墟でこれまで確認されていたロボットとは……」
「……Divi:Sion systemが生み出した兵器よ。行き先は……おそらくミレニアム」
「それって……ミレニアムを攻撃しようとしている、ということでしょうか?」
アカネの指摘にリオは答えない。いや、まだ答えるには情報が不十分なのだろう。しかし、Divi:Sion systemというワードを聞いたことで、ネルも嫌な予感を感じ取っていた。
「……あのチビに関係してるってのか?Divi:Sion systemっていやあ……」
「ゲーム開発部がG.Bible?を受け取ったシステム……そして、アリスに何らかの接触をしようとしていた……でも、私達が調べたあの施設は……」
「ええ、だけど、Divi:Sion systemがあそこだけのものとは限らなかった。その調査を進めていたわ」
「……誰がだ?」
ネルの鋭い視線がリオに向けられる。この映像、そして写真を撮ったのは誰なのか。もっと言えば、かつてDivi:Sion systemを一度捜査した後、自分達の後を引き継いだのは誰なのか。このミレニアムでそれが可能な人物など限られている。それこそ、廃墟探索の経験があるゲーム開発部がその有力株になるレベルだ。しかし、アリスへの影響を考えれば、そんなことはさせられないはず。となれば、
「……いずれ、紹介しようと考えてはいたわ。ただ、こんな状況だったからすぐにとはいかなかったことは謝るわ」
「……噂には聞いていましたが、実在していたんですね。幻のコールサイン、04」
アカネがその答えを口にする。リオはそれに無言で頷くことで肯定するのだが、その様子を見たネルは大きな溜息を吐く。
「……どうしたの?」
「……おい、リオ。お前どこまで知ってる?」
「どこまでって……」
「どうせお前とヒマリしか知らないことがあるんだろ?それをさっさと言えって言ってるんだよ」
「……全部を知ってるわけではないわ。むしろわからないことの方が多いのだけれど……憶測や予想で物事を語るのは危険よ」
「こっちはそれすらもわかんねえんだよ!?」
知ってることを吐けと詰め寄るネルに、戸惑うリオ。言わんとしていることはわかるが、だからといって何も話さないのはどうなのだ。
「ったく、少しは改善したかと思ったらまだこれか!確定したんだったら都度言い直せばいいだけだろうが!」
「り、リーダー落ち着いて……」
「そ、それを知るためにこれから解析するのよ……」
「あ?」
「……奴らを、おそらくは無名の守護者達を鹵獲したわ。これまではどうすれば機能停止になるか判断できず、破壊するしかなかったけど……」
怒りを見せるネルをカリンが宥める。その様子を見ながら、リオは告げる。たまたま、完全に破壊されておらず、その機能を停止した個体。それをミレニアムに持ち帰ってきたのだということを。
「チヒロが戻り次第、ウタハやヒマリを呼んで解析を始める予定にしているわ。その情報を踏まえて詳細を伝えようと思っていたのだけれど……ちょっと待って」
リオのスマホが鳴り、それに出る。どうやら相手はチヒロのようだが、チヒロからある報せを受け取ったリオは着信を切ると、溜息を吐きながらネルに視線を戻す。
「チヒロからよ。トラブルが起こって帰るのは明日の朝になるから、その時に解析を始めるわ。C&Cには解析の際に万が一奴らが動いたりした時のために待機しておいてほしいの」
「今は大丈夫なのかよ?」
「AMASに監視させているわ」
AMAS。それはリオの私兵とも言うべきロボット軍団である。それが見張っているのなら大丈夫だろう、そう思ったその時だった。
「……何ですって?ええ、わかったわ……」
「何かあったの?」
「……ゲーム開発部がDivi:Sionを見つけてしまったわ。もしかしたら奴らがアリスに反応する可能性があるかもしれない。ネル、何かあったら止めてきてもらいたいのだけれど」
「しゃーねーな。なんでバレたんだ?」
「ヴェリタスが気付いたようね……可能な限りバレないように注意したつもりなのだけれど」
「……」
おそらく、件の04も見張っていたのだろう。すぐにネル達も動けるようにしつつ、リオは何が起きてもすぐに対応できるように準備を整え始めるのだった。
★
「……確かに見たことないデザインだね」
「でしょー?」
「これはリオ会長のAMASだね。そんなのが見張ってるようだけど……でもこれ、動いてないしどうして見張ってるんだろ?」
「っていうか鍵開いてたんだ」
「開けたよ」
「……大丈夫なんです?」
陽が落ちた時間帯、ミレニアムタワーの中にある建物の隅に存在する一室。厳重に電子ロックがかけられたその部屋の中には、ゲーム開発部、ヴェリタス、エンジニア部の姿があった。ただしそこにはチヒロだけではなく、ウタハの姿もなかった。当然、鍵はちゃんとかかっていたはずなのだが、電子ロックであったために普通にヴェリタスに開錠されていた。
「ウタハ先輩は何か知らないの?」
「急に用事ができたとかで出て行っちゃったっきり」
「コタマ先輩、お願いします!」
「こんな時だけ最年長扱いしてもらっても困るのですが……まあいいでしょう」
ハレとコタマを除き一年生しかいないこの場では当然、コタマが最年長となり、事実上彼女達を率いる存在となる。そんな柄ではないんですがね、と呟きながら、先陣を切るようにAMASの前に立つ。恐る恐るといった様子でひらひらと手を振る彼女の姿をAMAS達はじっと見つめるが敵対行動はとらない。
「動きませんね」
「あれはきっと敵対していないNPCですね!」
「ミレニアムの生徒に敵対してもらっても困るけど……」
「コタマ先輩!タッチ!タッチ!」
「マキ!?」
「完全に停止しているみたいだし、触るぐらいなら大丈夫な気が……」
何故か度胸試しみたいな構図になり、後輩達から煽られるコタマ。ええいままよと、意を決して一輪の巨大な車輪の上に上半身を乗せたような姿をしているAMAS達をすり抜け、奥にいる謎の球体形のロボット達に触れて、素早く身を翻して皆の下に戻る。そして全員がAMAS達の姿を見るが、何も起こらない。
「……セーフですね」
「じゃあ近づいても問題ないのでは?」
「よし、調べよう」
「あ、二人とも待ってよー!」
人柱となったコタマの活躍によって安全性を確認したことで、コトリとヒビキとマキが謎の機械に近づく。AMAS達は三人の様子をじっと見つめているが、やはり反応はない。じゃあ一体何のためにこのロボット達はいるのか?とモルフォは首を傾げながらハレに視線を向ける。
「そういえばハレ先輩、この部屋の事よく気付きましたね。こんな端っこなんて全く気にしませんよ?」
「監視カメラをハッキングして映像見てたら偶然。見たことないロボットをこんなところに入れようなんて怪しいでしょ?」
「それはまぁ……猶更ここ入っちゃって大丈夫なんです?」
「でもダメなら私達攻撃されてるだろうし……」
「……確かに……?」
「……」
「アリスちゃん?どうしたの?」
あーでもない、こーでもない、よくわからないと話しながらロボット達を調べる三人の下に、アリスが無言で近づいていく。その様子に何かおかしなものを感じたのかユズが声をかけるも、アリスはユズの言葉に反応することなくロボットに近づく。そしてロボットに手を当てる。
「……アリスちゃん?どうかしたの?」
「…………あれ?」
次の瞬間、アリスは突然首を傾げる。ペタペタと手を何回もそのロボット達につけるのだが、そんなことをしたところでロボット達が動くわけがない。困惑した表情を浮かべるアリスにゲーム開発部が集まっていく。
「どうしたの?なんか気付いた?」
「あ、いえ……見覚えがある気がして……こうしなければならない、ような気がしたのですが……よくわかりません。何かフラグを見落としているのでしょうか?」
「ええー、ちょっと怖いよアリスー」
「でも、変なものではなさそうだねこれ」
「アリスも特に問題はなさそうだけども。廃墟で見つかったのかなこれ」
アリスの身に何か起こったというわけでもなさそうだ。アリスの顔を覗き込んだり、頭を撫でたりしながら変な感じになってないか確かめるモルフォ。ゲーム開発部の興味がすっかりロボットからアリスに向けられていく中、何の成果も得られなかったエンジニア部と、途中からハレとコタマも調査に加わったヴェリタスが一旦諦めたように立ち上がる。
「やっぱり調べるには足りないものが多すぎますね」
「一旦部室に戻って色々持ってきてからにしよう」
「じゃあ、また少ししたらここに集合しま―――」
コタマの声に頷きながら部屋を出る一行。しかし、
「……よぉ。準備中にいきなり入って色々調べてたみたいだけどよ、なんかいい報せはあるのか?」
「え、えっと……」
そこにC&Cの姿があったのを見て、コタマ達は表情を引き攣らせるのだった。
★
「……ここは?」
見覚えのある部屋に立っていたアリス。いつ、どうやってここに来たのかもわからず、他のゲーム開発部の面々を探すようにその視線を動かしながら、部屋を見渡す。だが、そこには自分以外誰もおらず、部屋の中央にはぽつんと、椅子型のベッドが置かれているだけだった。
「……ここは、アリスがモルフォと、モモイと、ミドリと、ユズと、先生と会った場所です。アリスはこの部屋から、外の世界へと導かれました……」
当時の事を思い出し、懐かしみながら椅子に手を置く。あの時の自分は何も知らず、何も持っていなかった。ゲームも知らず、アリスという名前すら、知らなかったのだ。いろんなものをくれた皆の事を考えると、嬉しさがこみあげてくる。
「……?」
ふと、何かの気配を感じ取る。アリスが後ろを振り向くと、そこにはアリスがいた。
「……え、アリスがもう一人?」
驚きの声がアリスの口から漏れる。だが、よくよく見れば、そこにいるアリスは微妙に異なっていた。アリス自身には認識できないが、緑色であったアリスのヘイローは赤く染まっており、アリスにも認識できる違いとして、青い瞳は赤い瞳になっていた。
「あなたは……誰ですか?」
「……あなたには、この世界を自由にできる権利があります」
「え?」
赤目のアリスが閉ざしていた口を開く。一体、彼女は何を言おうとしているのか。その意味がわからず、アリスは困惑した様子を見せてしまう。
「あなたには、この世界を滅ぼしうる力がある」
「な、何を言っているんですか!?アリスは勇者です!世界を滅ぼす力なんてありません!」
びっくりしたように叫ぶアリス。勇者である自分に世界を滅ぼす力がある、だなんて赤目のアリスが言おうとしていることが尚の事理解できないといったように。その声を聞いた赤目のアリスは一旦目を閉じると、ゆっくりと口を開く。
「ではあなたは、世界を手にする気はないと……」
「当然です!アリスは勇者です!むしろ、世界を自らのものにしようとする魔王と戦う存在なんです!!」
「…………そうですか」
少し残念そうに赤目のアリスが呟く。その不穏な様子を見ながら、アリスは警戒した様子で赤目のアリスを見る。ここまでの会話で、目の前の存在が、自分に望まぬ道を歩ませようとしている存在であることは推測できるからだ。
「あなたは何者ですか!?」
「―――名も無き神々の王女」
「名も無き神々の王女……?」
「この世界を滅ぼす役目を担う者」
名も無き神々の王女と名乗った赤目のアリスが手を翳す。次の瞬間、アリスの背後にワームホールが開かれ、アリスを吸い込み始めていく。
「!?」
慌ててそれに逆らおうとするもワームホールの吸引力の方が凄まじく耐えられない。スーパーノヴァを重しにするように地面に打ち立てるも、そのスーパーノヴァごと持っていかれていく。まるで抵抗ができない。アリスが王女の顔を見ると、
「AL-1S。あなたにはこの身体と力をここまで守ってくれた恩がありました。それ故、慈悲を与えようと思ったのですが……残念です。あなたには消えてもらいます」
「なっ」
「ではさようなら。もう二度と、会うことはないでしょう」
王女によって生み出されたワームホールに、抵抗できずに吸い込まれ、消えていくアリス。その光景を見届け、王女はどこか寂しそうに、部屋の中にあったアリスが眠っていた椅子を見るのだった。