転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする   作:popoponpon

81 / 210
調月リオと桐藤ナギサ

「……そういえば、テスト、完全にすっぽかしちゃったわね……」

「「「あっ」」」」

 

ミレニアムに戻ってきた時には既に日付が変わっており、全員が疲労も凄かったため、そのまま休息を取ることになった補習授業部。初めてくる場所ではあっても、消耗があまりにもひどく、すぐに眠りにつくことができたのだが、その翌日。トリニティとは毛色が違うミレニアムでの朝食を食べている中で、ふとコハルが思い出したように呟いた言葉に、ヒフミ達が固まっていた。

 

「……か、完全に忘れていました」

「まあ、仕方ないことですが……」

 

冷や汗を流しながら、テストをすっぽかしてしまったことに震えるヒフミ。かつて、ペロロのためにテストをすっぽかした時とはさすがに状況が違うのだ。無論、ハナコの言うように友達の危機であったために致し方のないことだと割り切ってはいるし、アリスとKEYを助けられたのだからまだ三回目のあるテストなんてどうとでもなると思えば全く悪いわけではない。が、それはそれとしてテストを捨てたという事実に何も思わずにはいられない程度には学生であった。

 

「ごめんね……四人には退学がかかっているテストがあったのに……」

「いえ、先生は気にしなくてもいいですよ。それに、テストの直前に突然ゲヘナにテストの場所を移すわ、合格点数を60点から90点に増やされるわ、挙句の果てにはテスト範囲をいきなり三倍に拡大するわ……ナギサさんが私達を絶対に退学させるためにこんなことをした以上、一日二日でどうにかなる部分ではなかったので」

 

ハナコの説明に、うんうんと頷く三人。昨日はかなりドタバタしていたために完全に思考の隅に追いやっていたが、改めて冷静に考えるとこんなのどうしようもないだろう。この条件下で合格点数を叩きだせる人物などこの中ではハナコだけだ。

 

「え、それってどういうこと?」

「「「「!」」」」

 

と、ここで困惑したような声が聞こえてきて、ヒフミ達が驚いたように跳ね上がる。視線を声の主へと向けると、そこにはユウカとノアの姿があった。

 

「あら……ユウカさん、ノアさん、おはようございます」

「おはよう……って、今の話はどういう?退学がかかったテストって……」

「あー、えっと……」

「バレちゃいましたね先生……こうなったらもう、説明するしかありませんね?」

 

にやにやと、どこか楽しそうにハナコが言う。その表情には、まるで自分達をハメようとしていたナギサに対する反抗心のようなものが見え隠れしている。先生も、この件を説明するべきかどうか少し迷うも、ここまで言ってしまった以上、もう黙っているわけにはいかないと、ユウカとノアに彼女たちの事情について説明していく。とはいえ、エデン条約に関するナギサの思惑もあるため、ある程度事情はぼかしながら話していくと、

 

「……いやそれおかしいじゃないですか?なんで留年を飛ばして退学になるんですか?その……もしかして四人は何度か留年を?」

「いや、していないが……」

「だとするとおかしいですね……おそらくそういう複雑な手続きをシャーレの力を借りることで直接退学に、という措置を可能にしているとは思うんですが……先生、この条件を本当に受けてしまったんですか?四人のことを考えたら間違いなく抗議するべきだと思うんですが……」

「う、うん……」

 

当然、ユウカもノアも困惑した様子で先生を見る。こんな暴挙をよく許しましたね?と暗に語る二人の表情に先生も肩を竦めて小さくなるしかない。

 

「……ま、まあ、テストの内容自体は私達から口を出すことはできませんけど……とりあえず、そのテストの機会についてはミレニアムのせいで潰してしまったのでこちらからトリニティの方に進言して改めて機会を設けさせましょうか?」

「いいんですか!?」

「まだもう一回テストがあるとはいえ、さすがにこれが原因で皆さんが退学に一歩近づいた、となってはこちらもあまりいい気分じゃありませんし……その遠因にミレニアムが、ってなるとそれこそ問題になりますし」

 

今のトリニティについてはピリピリしているからあまり触れたくない。だからこそ、こういった過失のある出来事に関しては誠意ある謝罪を見せなければならないだろう。少なくとも変な起爆装置になるより十分マシだ。

 

「……となると……リオ会長にも言った方がいいわね……ティーパーティーにこの事をってなると私達よりも会長の方がいいし……」

「そうですね……」

「で、あれば私も一緒に説明しますよ。当事者がいた方がいいでしょうし」

「お願いします」

 

リオにこの事は伝えた方がいいだろうと考える二人に、ハナコも一緒に説明すると言う。ユウカ達にとってもありがたい申し出であるため、それを拒否する理由はない。

 

「そういえば、リオは今どこに?」

「今はエンジニア部の部室の方に行っていますね。アリスちゃんとKEYちゃんの体をエンジニア部とヴェリタスが検査していましたから」

 

そしてエンジニア部とヴェリタスは、アリスの体を調べていた。KEYがその命を断つ必要性がなくなったため、アリスに関する一件こそ解決したものの、最後のスーパーノヴァの攻撃による損傷や、KEYの存在によって開示されたブラックボックスの調査などを行うためだ。ちなみにエリドゥの修復などについてはAMASを動員して行っているらしい。

 

「アリスちゃんの事も気になりますし、リオ会長もいるならそっちに向かいませんか?」

 

ヒフミの発言に全員頷き、その場から移動を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

機材に繋がれていたアリスが、赤い瞳を開く。拘束されているわけではなく、本当にただ、バンドやヘルムなどを取り付けられているだけで、害のある行動をされているわけではない。自分達の力や情報などを知っても、処分しようといった反応を一片たりとも見せてこなかったため、彼女たちのことは一応信用していいのかもしれないと考えながら、視線を部屋の中に向ける。簡易的な寝床を作り、そこに倒れたように眠るエンジニア部。コーヒーやエナドリの缶をぶち込んだ袋の近くで力尽きたように眠るヴェリタス。そして、二人の身を案じ、ずっとこの部屋に残っていた、壁を背にして体を寄せ合うようにして眠るゲーム開発部。

 

「ん……」

 

モルフォの体が揺れ、寄りかかっていたユズとミドリ、そしてミドリに寄りかかっていたモモイがまとめて倒れる。その感覚で目を覚ましたモルフォがあくびをしながら顔を上げると、KEYと目が合う。

 

「あ……おはよう。えっと……KEYの方でいいのかな?」

「……ええ」

「……KEY……KEY……」

 

ぎこちなくモルフォに言葉を返すKEY。目的があったとはいえ、皆を攻撃したのは事実だ。その負い目はどうしても残っているようだが、アリスが受け入れて彼女も新たな未来を進むことを決め、そしてその決意を皆が尊重した以上、モルフォも過去にしたことについて問うつもりはない。少しずつ時間をかけて解消していくしかないため、アリスの為にもゆっくり歩み寄ってあげようと考えていると、倒れた衝撃で目を覚まし、KEYを見ていたモモイが悩みながらその名を呟いていた。だがやがて、

 

「そうだ!名前を考えよう!!」

「?」

「お姉ちゃん?」

「な、名前って……」

 

突然、KEYに新たな名前を与えようと言い始めるモモイ。その声に一番困惑していたのはKEYの方である。

 

「……既に識別のための名称が存在していますが」

「だって、KEYってプログラムの名前であってあなたの名前じゃないでしょ!これから一緒にゲーム開発部として頑張る友達として生まれ変わったんだもん、新しい名前を貰って転生しなきゃ!」

「……私自身はゲーム開発部なるものに入るつもりはありませんが」

「アリスと一緒だよ?」

「それは……」

 

アリスが所属している以上、お前もゲーム開発部だ。そのロジックは否定できないが、だとしてもモモイの言葉にはなんか素直に従いたくはなかった。それは仕方なかったとはいえゲーム機何かに保存されるしかなかったり、モルフォの部屋に勝手に置き去りにされたりとしたからかもしれない。

 

「……えっと、KEYはどうなの?新しい名前については……」

「……興味は、ない……わけではありません……ただ、新しく名前を定義されることの必要性がありません。KEYという名前は発言可能な言語です」

「これから生徒として一緒に過ごすなら必要なの!それに、興味があるならいいじゃん!」

「いやモモイ、そういう問題では……」

「アリスも、それに賛成です!」

『アリス!?』

 

いつの間にか起きていたアリスが体の主導権を奪い取り、モモイに肯定する。その声にアリスにしか聞こえない声で驚愕の声を漏らすKEYだったが、アリスが肯定したことを受けて、それ以上は追及しないようにする。

 

「……わかりました。受け入れましょう……ですが、変な名前を付けるのであれば……」

「だ、大丈夫!そんな変な名前なんてつけないから!……ケイとかどう?」

 

KEYから許可をもらったことで、ずっと考えていたであろうケイという名前を示す。単純にKEYという名前を文字っただけ……というよりモモイ自身は最初読み間違えたというのが真相だが、一文字書き換えればケイになるのでそれなりに遠いわけではない。

 

「ケイ……K、E、i……成程。まあいいでしょう……」

「やった!ほら、気に入ってくれたみたいだよ!」

 

モモイに対しては本当に大丈夫かと考えていたが、その名前を聞いて少し考え、ちょっとだけ嬉しそうに受け止めながらその意識を引っ込めていく。代わりに、その瞳が青くなり、アリスの意識が表面に出てくる。

 

「はい!ケイも嬉しそうです!パンパカパーン!ケイが改めて仲間になりました!!」

「よろしくね、ケイ。少しずつでいいから、仲良くなっていこう」

 

そしてファンファーレを口にし、喜ぶアリス。その様子を見て、モルフォ達も笑顔を浮かべて頷き合っていると、エンジニア部の部室の扉が開き、トキを除いたC&Cと対策委員会が入ってくる。

 

「おう、朝から騒いでんな」

「あ、皆さんおはようございます」

「おはよう~、アリスちゃんはどう?」

「ああ……もう大丈夫だよ……とはいえ、新たな体を、っていうのは現状難しいかな……一応別の媒体に人格だけを移動することはできるとはいえ……ああ、ロケットパンチに自爆装置搭載のボディが……」

「そんなもの作られるぐらいなら今のままでいいです」

 

アリスについてどうなったのか確認しに来たようだ。ここで、目を覚ましたウタハが体を怠そうに起こしながらネル達に説明する。その言葉を聞いて、十人もほっとした様子で胸を撫でおろす。

 

「じゃあ、これで一応は解決ということですか?」

「もう少ししたら、私達も帰る準備だねぇ」

 

これ以上は自分達の仕事ではないだろうというホシノの発言を聞き、頷く後輩達。その後、KEYにケイという名前が与えられたことなどを話しながら、起きてきた他のエンジニア部やヴェリタスが最後に念のための検査を行い、アリスの体に付けられていた装置を外していく。

 

「ウタハ、チヒロ、アリスの事は……あら」

「おう、お前も来たのかリオ」

「皆来ていたのね」

 

そこに、トキを伴ったリオが現れる。そして、ウタハ達から説明を聞いていると、今度はそこに先生と補習授業部、そしてユウカとノアが現れる。

 

「皆、おはよう」

「先生、おはよう。体は大丈夫かしら?」

「うん、なんとかね。アリスも大丈夫かい?」

「はい!アリスもケイも大丈夫です!」

 

アリスの様子を確かめたところで、リオに早速今回の用件について伝える。話を聞いたリオは難しい顔を浮かべ、

 

「ええ、わかったわ。そこはこちらの不手際、こちらからトリニティに一報入れましょう。先生、仲介をお願いしてもいいかしら?ミレニアムが直接トリニティにとなると今は角が立つわ」

「うん、わかったよ」

『で、あるなら。一つ、興味深い話を皆さんに伝えてあげましょうか』

 

先生に仲介を頼む。先生としてもこれは望むところであるし、すぐにナギサに連絡を取ろうとしたところで、ヒマリがホログラムと共に現れ、にやにやと笑みを浮かべる。

 

「ヒマリ先輩、おはようございます。何かあったんですか?」

『いえ、実は先程聞こえたゲヘナのテストを行う場所……その住所を調べてみたんですよ。そしたら面白いことがわかりまして』

『……そこ、ゲヘナに温泉開発部っているじゃん。キヴォトス中で温泉を掘ってるテロリスト』

「一回ミレニアムにも来てたね」

『そいつらが深夜の三時ぐらいに爆破してるんだよね、その場所をピンポイントで』

「え?」

 

ヒマリが出し渋りそうな雰囲気を感じたのか、エイミがその言葉を引き継いで手短に報告する。しかし、それを聞いて困惑したのは補習授業部達だ。ちょうどテストが始まる時間を狙い撃ちしたかのような爆発。これではまるで、テストを受けさせる気が最初からないのと同じである。

 

「……けど、これだけでは正直偶然の可能性もまだ否定できないのでは?」

「そ、そうですよね……」

 

アカネの指摘にヒフミもその通りだと頷く。なんてことを……とは他の面々も思うも、作為的なものかと言われると首を傾げてしまう部分も正直あった。

 

「ゲヘナはアクが強いし……正直狙って私達のテストを台無しに来るものなのかしら……接点すらないし……」

「温泉開発部とやらに確認すればいいだろう」

「アズサちゃん、それができたらいいんですがね……」

「じゃあ聞いてみますか」

「「「「え?」」」」

 

しかし温泉開発部が意図的にやったか?というとどうしても疑問は残ってしまう。その疑問を解消するため、なんとモルフォはその場でカスミに電話をかけ始める。ハナコたちが信じられないものを見るような目でモルフォを見ている中、カスミから話を聞き終えたモルフォは溜息を吐きながらその内容を告げる。

 

「ティーパーティーの生徒から温泉の情報を受け取ってその時間に爆破したようです。カスミさん自身は何か裏がありそうだと気付いてはいたけど温泉が掘れるならとりあえずいい、ということで受けたようで……音声データの方ももらえました」

「いやちょっと待ちなさいよ!?なんでテロリストとモモトーク交換してんの!?」

「なんでって一緒に遊んだから……」

「拉致された後に遊べるのはちょっとおかしいと思うんだが……」

「拉致ですか。潰しますか?」

「やめとけトキ、ああいうのは反省しても後悔しないタイプだ」

 

音声データを若干表情を引き攣らせつつあるコタマに渡しながら、カスミから聞いた内容を告げるモルフォ。コタマは音声データを受け取るとすぐに解析を始める。

 

「うーん……この声のトーンとかは確かにトリニティっぽい傾向がありますね。もっと詳しく調べれば個人も特定できますが、とりあえずトリニティの人が温泉開発部に依頼したのは間違いないかと」

「……よくわからなくなってきたわ……それにこの補習授業部自体も気になる部分が色々と……なんでこんなことに……とりあえず、先生。場所を移しましょう。さすがにここでやるようなことじゃないわ」

「うん、そうだね」

 

コタマの解析を終え、リオは先生にそう告げ、セミナー室に補習授業部の面々とユウカ達を連れて移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミレニアムサイエンススクール、セミナー会長、調月リオよ。急な連絡、ごめんなさい。どうしても謝罪したいことがあって、シャーレに仲介してもらったのだけど……」

『トリニティ総合学園、ティーパーティーホスト、桐藤ナギサです。ミレニアムのビッグシスターから直々の連絡、それほど重要な内容なのでしょう。連絡にも配慮していただきありがとうございます』

 

セミナー室に移動し、先生の仲介を経て、リオとナギサは通話を始めていた。その様子を固唾を飲んで見守っている中、リオが話を切り出す。

 

「昨日、ミレニアムの方で少し問題が起こってしまって……その救援を、先生に求めたの。その結果、先生はシャーレの部員としてそちらの補習授業部の四名を伴って駆けつけてくれた。そのおかげで問題は解決したのだけれど……その結果、補習授業部の四名は本来受けるべきテストを受けることができなくなってしまうという事態を招いてしまったの。そこで、謝罪をするとともに、こちらの不手際によって失われた機会をこちらで用意したいと考えているのだけれど……」

『…………な、成程…………?』

 

なんでゲヘナじゃなくてミレニアムに向かってるの?と本気で困惑している様子が電話の向こう側から伝わってくる。数秒後、落ち着いたナギサが、リオに返事を返す。

 

『こほん。で、あればそれには及びません。確かにそちらのお気持ちはありがたいのですが……受けるべきテストを放棄したのは四人の意思でしょう。無論、そちらの問題解決のために尽力してくださったことは喜ばしいことですが……これ以上、そちらのお手を煩わせるわけにはいきません』

 

ナギサから告げられた内容は、自らテストを放棄した者に受けさせるテストなどない、というもの。その様子から、エリドゥでの一件はトリニティは把握しないで済んだようだ。そして、ナギサの方もリオは気付いていないが、四人がテストに失敗しただけで十分な成果と捉えている。その両方の思惑が見えたのだろう、面白くない顔をハナコは浮かべる。

 

「確かに、その意見も一理あるけれど……こちらとしては何かしらの補填をしなければならないと考えているわ」

『……ふむ。であれば、知りたいことがあれば、私にできる範囲で教えましょうか。ミレニアムとしても、エデン条約の事は気になっているでしょう?』

 

とはいえ、はいそうですかと受け入れて終わりにできるような状況ではないのは、リオもナギサも理解していた。再度の試験の機会を与えるのは理に適っているが、それはナギサとしても困る。それ故に、ナギサはリオも警戒しているが故に知りたがっているであろうエデン条約を材料に出していく。無論、その内容はおそらく碌に説明する気も伝える気もなく、なあなあで煙に巻くつもりであったが、この情報を与えるからこの話は終わりにさせてもらいたい、という意思表示である。

 

「いえ、エデン条約については聞かないことにするわ。それより……これはあくまでセミナーの会長ではなく、調月リオ個人として後学の為に質問したいのだけれど」

『……ふむ?よろしいですよ』

「今回の補習授業部の活動内容について、個人的に非合理的な部分が散見されているからその点について確認を。今後、ミレニアムとしても補修対象者に対し、活かせる内容があると思うの」

『非合理的と言っていますが……とても活かせる内容があるとは』

「あくまで私自身の感性でそう言っているだけよ。でも、実際にはそうじゃない、本当の合理的で、効率的な選択は別の所にあるのも決して珍しくないわ。だから確認したいの」

『まあ、いいでしょう……どうぞ』

 

てっきりここらの情勢を踏まえてエデン条約のことを聞くと思っていたばっかりに、意外そうな声を漏らしながら、考える。とはいえ、あくまで参考にするという質問であればもう問題はないと考えて承諾する。問題点を突かれたのなら次回以降はこちらも訂正すると言えばいいのだから。すると、待ってましたとばかりにリオはその疑問点を口にしていく。

 

「まず、留年を取らずに一回で退学になる措置を取ったのは何故なのかしら?」

『ああ、そのことですか……留年、という形でセーフティを作ってしまうと、まだ大丈夫と思われてはいけないからです。彼女達を追いこみ、火を点けるため、このような措置を取りました。無論、彼女達には酷な事だと思っていますが……』

「成程……次に、テスト範囲を、テストを実施する前日に三倍に拡大し、点数を1.5倍に増やしたことだけれど……」

『申し訳ありません。それについては完全にこちらのミスです。ティーパーティーとしても中々忙しく、当初誤った範囲と点数を載せてしまっていたのです。そのため、本来のテスト範囲と合格に必要な点数を掲示できたのはそのタイミングになってしまいました。四人には不便をおかけしてしまったことは私自身心を痛めています』

「成程……」

 

のらりくらりと躱しながら疑問点に回答を述べていく。多少強引だし、理不尽な気はしなくもないが一応は理屈が通らなくもない、そんなラインだ。納得はできなくとも、理解はしていきながら、続く最大の疑問点に着手する。

 

「次に、今回の本来のテスト会場がトリニティではなくゲヘナになっていたとのことだけれど……これはどうしてなのかしら?治安の面でも、現在のそちらの事情を踏まえるとトリニティの自治区内で行うべきだと思うのだけれど……」

『…………諸々の事情を考慮した結果です。その内容については色々と複雑なため、ご容赦を』

「その内容というのは、温泉開発部と関係が?」

『!?』

 

カチャン、とティーカップを置く音が聞こえてくる。どうにか、取り繕おうとするナギサに畳みかけるように、リオは疑問を続けていく。

 

「温泉開発部の部長から今回、ティーパーティーのメンバーから依頼を受けて、テストが始まる時間にその会場を爆発したと聞いたのだけれど……」

『そんなのデタラメですよ……』

「その時の会話の音声データもあるし、念のため解析してもらったのだけれど、トリニティの生徒のものだという結果が出たわ」

『……だ、だとすると、不埒な生徒もいたものですね。まさかティーパーティーを騙ってこのような愚行を……』

「ええ、全く許せないわ。まるで四人をわざと退学にさせようとしているかのような行動……それにこれは、他人事ではないわ。学園の垣根を越え、補習の特別学力テストを受けようとする生徒を妨害するなんて、許される事ではないのだから。ここは、きちんと対応するべきよ。そのためにミレニアムはシャーレの仲介を経て協力させてもらうわ。まず音声を解析、その後、そちらからトリニティの生徒達の名簿と音声のサンプルファイルを提供してもらってその照合を……」

『そんなことしていただかなくても結構です!?』

 

向こうで顔面蒼白になりながら声を張り上げるナギサ。なんでミレニアムと温泉開発部にパイプがあるんだと叫びそうになってるその様子がありありと浮かび上がり、ハナコは完全に笑いを隠し切れない様子を他の三人に見られていた。

 

「えっと、てっきりこれはトリニティ生徒の四人をわざと退学にさせようと企んでいる存在がいることだと思うのだけれど……そんな存在は許していいわけがないわ。いくら他の学園と言えど、他人事で済ませていい事件じゃないのだから。この方法が知れ渡ればミレニアムでも似た事件が引き起こされる可能性がある」

『そ、そうですね!ですが、それこそ我々で解決します!こちらにも面子というものがありますから!』

「……えっと、ティーパーティーとは無関係でいいのよね?その……正直私は、不合格なら退学という制度やテスト範囲をいきなり拡大したり、合格点数を引き上げたり、挙句の果てにテスト会場を別の自治区に移動したばかりか時間を合わせて爆破なんて、まるでティーパーティーが生徒を無理やり退学にしたくてやっているように見えていたのだけれど……」

『そのような事実はありません!!……ですが、そうですね。少々……ええ、少々厳しい対応を取ってしまったことは認めざるを得ません』

 

ミレニアムの技術力とシャーレの協力で解析されて、温泉開発部との繋がりを暴かれたらまずい。それでなくても、そういう噂が流れる時点で問題なのだ。そうなればゲヘナの万魔殿の議長やらゴシップ大好きなクロノスが何をし出すかわかったものではない。そう悟ったナギサは強引にこの話題を終わらせることにする。

 

「そうよね……?正しいテスト範囲と点数を後に掲示したということだけれど、それってつまり、以前までのテスト勉強で触れることのできなかった範囲が出てくるのは明らかにテストを受ける人にとっては不利な内容であるし、点数についてもいきなり引き上げて難易度を上げるのはあまりにナンセンスだと思うのだけれど。この仕組みでやるなら最初からやるべきであって、途中から変えるのは認められるべきものではないわ。先生もそう思わないかしら?」

「……そうだね。確かにこの事を昨日まで知らなかったのは私も悪いけど……でも、さすがにこれはやりすぎだよナギサ」

『……こほん、ええ、そうですね……こちらのチェック不足などが重なった結果です。テスト範囲については、当初のものに戻し、点数も60点以上を合格。そして二回目の学力テストも、ミレニアムで受けても良いものとします。もう少ししたら答案用紙のデータを送らせますので、それを使用してください。ただし、テスト中はこちらに生中継で映像を送ること。遠隔ではありますが不正がないようにティーパーティーの方で監視させてもらいます』

 

致命傷を避けるために補習授業部の合格難易度を元に戻すことを宣言し、それ以上のリオの追及を止めさせる。ばれてはいけない情報を隠し通さねばならないナギサの自業自得にも近い苦労がやっと報われそうになる中、その発言を聞いてヒフミたちは嬉しそうに顔を見合わせるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。