転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする   作:popoponpon

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聖園ミカと桐藤ナギサ

 

「……ナギちゃん?大丈夫?」

「ミカさん……え、ええ……大丈夫です。く……これもおそらくは……ハナコさんですね……よもやミレニアムまで巻き込むなんて……ゲヘナとのエデン条約が控えている今、外交問題はデリケートだというのに……!」

「お、おう……」

 

ティーパーティーのテラス。紅茶を狂ったように胃に流し込むナギサを見ながら、ミカは遠い目をすることしかできずにいた。何があったかまではわからないが、三大校の一つであるミレニアムとの問題なんてまっぴらごめんである。仮に同じ立場にいたらエデン条約云々を抜きにしてもミカもこうなっていてもおかしくないだろうと考えると他人事とは思えなかった。

 

「しかし、やはりビッグシスターの名は伊達ではありませんね……なんて恐ろしい……よもやゲヘナのテロリストから情報を手に入れていたなんて……この情報が漏れようものなら、ゲヘナもクロノスを始めとしたメディアも反応する……そうなればエデン条約の締結にも支障が……!」

「そ、そっか……」

 

リオとの対談を思い出し、胃が痛くなってきたのかそれを誤魔化すように紅茶を飲み続ける。しかしこればっかりは痛い脛を見せつけているナギサの方に非があったとしか言えないのだが……

 

「と、とりあえずそのことは後にしない?もう終わったことでしょ?」

「……そ、そうですね……それよりも問題は、補習授業部です」

「いや、そうじゃなくて……」

「範囲も点数も元に戻してしまった以上、今回で合格する可能性は高いでしょう……模試の時点で既にそれが可能なラインに来ていますし、今回仮に不合格だったとしても最後のテストでは確実に合格すると見ていい……となると、補習授業部は解散になってしまう」

 

ミカに言われ、少し落ち着いたナギサは補習授業部の今後について考え始める。補習授業部が解散となれば、裏切り者候補たちが放たれることになる。そうなれば、エデン条約の締結にも支障をきたしかねない。

 

「……とはいえ裏切り者がハナコさんである可能性は……今回の一件でおそらくないと考えていいでしょう。もしそういう目的があったとするならこの程度では済まないでしょうし……エデン条約を確実に不成立させる動きだって取れたはずです。となると、残るのはアズサさんと……ヒフミさんになってしまいますね……」

 

元々、コハルは単純に成績が悪いのもあるが、彼女が所属していた正義実現委員会を牽制する目的も兼ねて補習授業部に入れていた。そのため、裏切り者候補からは最初から含まれていないも同然であったのだ。

 

「……もう一度、アズサさんの書類などを洗い直して……」

「ナギちゃん?ちょっといい?」

「今考え事をしているんですが?ミカさん」

「裏切り者のことなんだけどさ……」

「そのことを考えているんです、あんまり言うとロールケーキを……」

 

ミカがナギサに声をかけるが、ナギサはその声を聞かない。あんまりにもしつこいと感じたのか、遂にはロールケーキを口にぶち込もうとしたのだが。

 

「その裏切り者、私だよ」

「……は?」

 

まさかの発言に、ナギサが紅茶を飲みかけた状態のまま固まる。数秒間、固まったままでいたのだが、

 

「……ごふっ」

「ナギちゃん!?誰か!?誰かー!!」

 

白目を剥き、口の中に含んでいた紅茶を吐き出しながら、机に倒れ伏して意識を失ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……や、やった……!」

 

場所は変わってミレニアムの教室を借りて行われたテスト。その結果は、なんと全員合格という素晴らしい成果を叩きだしていた。

 

「これで、退学を免れますね!」

「はい、これで補習授業部は解散ですね」

「……あ……」

 

つまり、補習授業部はこれで解散。もうこの四人で集まることもない。そのことに気付き、少し寂しそうな顔をするコハル。なんだかんだで、この四人で過ごした濃密な時間は、代えがたいものとなっていたのだろう。それは決して、コハルだけの話ではない。ヒフミも、ハナコも、そしてアズサもだ。

 

「……で、でも、いつでも集まろうと思えばまた集まれますよ!だって私達、皆同じ学校にいるんですから!トリニティに戻っても、また皆で集まって、色んな所に遊びに行ったり、一緒に過ごしたりしましょう!」

「……そうですね……」

「……そうだな……」

 

ヒフミの言葉に対し呟きを漏らすハナコとアズサ。何かあったのだろうかと思っていると、先生が手を叩いて皆の注目を集める。

 

「皆、おめでとう。これで退学の危機は去ったね」

「はい!先生もありがとうございます!」

 

先生の言葉にすぐに気持ちを切り替えてお礼を言うヒフミ。それに倣って他の三人もそれぞれ感謝の気持ちを伝えていると、教室の扉が開かれ、アリスが跳び込んでくる。

 

「アリス、聞きました!皆さんが退学しないで済むと!」

「アリスちゃん、さすがにはしゃぎすぎだよ……」

「いいんじゃない?めでたいじゃん!」

「あはは……なんか騒がしくしちゃってすみません」

「気にしてないので大丈夫ですよ」

 

アリスに続いてゲーム開発部、そしてホシノを筆頭に様子を確認しに来ていた対策委員会の面々が入ってくる。他のミレニアムの人達は、エリドゥの損傷具合の調査や実験都市としてどう運用していくかの会議などを行っており、忙しくなっている。そのため、手が空いていたアリス達はテストが終わり、合格が決まったことを知った段階で祝おうとこうして駆け付けたのだ。

 

「ヒフミちゃんも、変な所に行かないでちゃんと勉強はした方がいいよ~」

「は、はい……今回の件は本当に反省しています……」

「ん、ヒフミが退学になったら私達も悲し……いや?退学になったらアビドスに来ればいいのでは」

「え?」

「ふふ、そうですね。そうすれば全員揃いますし☆」

「そ、揃うって……いや、そのぅ……あれは……」

 

ヒフミに話しかける対策委員会。何やらヒフミにだけ通じる謎の単語をノノミが告げると、それだけはばらさないでくれと言わんばかりに肩を竦めて苦笑する。

 

「だ、大丈夫ですよ。私達もあのことは言いませんから」

「あ、はは……ありがとうございます」

「でも、本当にそっちは大変だったわね……」

 

セリカから話を振られ、コハルも溜息を吐きながら疲れた様子を見せる。

 

「本当にそうよ……でも、これで私もめでたく正義実現委員会に復帰よ!やっとエリートが……えっと、えっと」

「かんせん?」

「そう、かんせん!エリートのかんせんよ!」

「凱旋って言いたいの?」

「「……」」

「シナリオライターとエリートの姿か?これが……」

 

モルフォの指摘にモモイとコハルが気まずそうに顔を逸らす。今回のテストが受かったというだけでコハルはまだ受難が続きそうだな……とモルフォが考えながらアリスを見ていると、アズサが近づいてくる。

 

「アリス、ケイは大丈夫なのか?」

「はい!大丈夫です!アリスが生まれたテイルズ・サガ・クロニクルをプレイしてもらったらちょっと不機嫌になってふて寝してしまいましたが……」

「……それ、確かく……いや、結構初見殺しが凄いゲームじゃ……なんでやらせたの……?」

「アリスがプレイしたゲームを知ってみませんかって聞いてみたら是非と言ってくれたので、アリスが一番最初にやったゲームをやってもらったんですが……」

 

制作者の手前、クソゲーと言いかけたところで何とか呑み込み、滅茶苦茶にオブラートに包むセリカ。ちらとゲーム開発部の面々の顔を見るが、モモイ達はコハルを筆頭に皆と談笑している様子であり、どうやら気にしていないようだ。

 

「……私にも、あるんだろうか。そういう居場所が」

「?トリニティに、コハル達の所にあるのでは?」

「……そうだな、今は……でも……」

「でも、仲間が、友達がいる場所がアズサさんの居場所ではないのですか?」

「友達……だけど、私の事……いや……そう、かもしれないな」

「はい!」

 

何かを言いかけていたが、アリスの姿を見て納得したように、微笑みを浮かべる。何に納得したのかはわからないが、何か解決したのであればアリスも嬉しいと笑う。そんな、学生達の交流している様子を楽しそうに見ていた先生のスマホに着信が届く。

 

「……ん?これは……」

 

そこについていた名前は、なんとミカの名前。一体何事かと、皆から距離を取って通話に出ると、

 

『先生!?ごめんいきなり電話かけちゃって!でも大変なの!』

「ミカ?ど、どうしたの?何かあったの?」

『ナギちゃんが倒れた!!』

「ええ!?」

 

ミカから衝撃の発言を聞くことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミカ。ナギサは大丈夫なの?」

 

ナギサが倒れたという話を聞き、急いでトリニティに戻った先生と補習授業部。そこでミカに出迎えられ、彼女と共に人払いのされた部屋に入る。

 

「うーん、一応大丈夫と言えば大丈夫、なのかな?結構胃を痛めてたっぽいし……まあ、トドメを刺したの私なんだけどね……」

「そ、そうなの?」

「うん……補習授業部の皆は私達が振り回しちゃったわけだからさ。こういうのって発案したナギちゃんが言った方がいいんだろうけど、そのナギちゃんがダウンしちゃってるから、私がちゃんと全部言うね」

 

ミカの言葉に五人は頷く。それからミカは、補習授業部はナギサがトリニティの裏切り者の候補を集めて入れられたということを告げた上で、色々な事を説明していく。そしてその上で、

 

「……それでね。ナギちゃんの話していた本当の裏切り者は……私なんだ」

「「「……え?」」」

 

突然のミカの告白に、先生、ヒフミ、コハルの三人が大困惑してしまう。一方、アズサとハナコは特段驚いた様子を見せていない。ハナコは何となく、そうなのだろうと予想していた部分があったのかもしれないが、アズサは。

 

「ナギちゃんはエデン条約の設立を目指してるっていうのは周知の事実だと思うけど。それを阻もうとしていたのが私。アリウスと協力して、ね……」

「……」

 

ミカの言葉に、アズサがぎゅっと拳を握りしめる。その様子を見れば、ヒフミもコハルも、アズサがそのアリウスなのだと察する。しかし、

 

「……アリウスって何?」

「アリウスというのは……」

 

当然、コハルやヒフミはアリウス分校の存在を知らない。ハナコとミカがその説明をし、二人が理解できたところで、ミカが続けて口を開く。

 

「……私はそのアリウスに、セイアちゃんを襲わせた」

「え!?」

「じゃ、じゃあセイア様が入院したのって……!」

「……私がやった」

「「「!?」」」

 

そこで割って入って行われたアズサの突然の告白に、再び動揺が走る。これにはハナコも動揺を隠しきれない様子だが、ミカは溜息を吐きながらアズサの説明を引き継ぐ。

 

「でもアズサちゃんはセイアちゃんのヘイローを破壊しなかった。その代わり、セイアちゃんはミネちゃんと一緒にどこかに身を隠している……セイアちゃんから、メッセージが届いて、私はセイアちゃんが生きてることを知ったんだ。だからね……正直、安心したんだ。もう止まれない、って思わなくて済むんだって」

「ミカ……」

 

戦争が引き起こす凄惨な現実。戦争がもたらす、表に見えないもの。それらをセイアに見せつけられたようなものだった。そのダイレクトメッセージと共に知ったセイア生存の吉報は、ミカの心に大きな余裕を与えていた。

 

「でも、やったことは許されないからさ。セイアちゃんが戻ってきたら……ちゃんと謝るよ。だけどね……アリウスと和解したい、っていうのは本当の事。アズサちゃんも、そのためにトリニティに編入させたんだから」

「……でも私は、そのアリウスを裏切ろうとしている。アリウスを裏切って、ナギサを襲おうとする皆を……」

「え!?な、ナギサ様を!?アリウスが!?」

「……エデン条約の成立を阻止するのが目的なら、手っ取り早い方法はナギサさんを襲うことでしょうね。セイアちゃんを襲うことに成功している以上、アリウスがそれを躊躇する理由はありませんし」

 

ミカの言葉に、アズサがずっと黙っていたことを口にする。それは、ナギサ襲撃計画の存在。それを聞き、息を呑む一行。しかし、冷静にハナコはアズサの言葉を確認していく。

 

「でも、アズサちゃんは……アリウスを裏切って、ナギサさんを守ろうとしていたんですよね?」

「ああ……でも、正直私は……そうすることで、このトリニティからも、補習授業部からも、そしてアリウスからも居場所がなくなることが……いつしか怖くなってしまった。トリニティの敵からアリウスの敵にもなって……もう、戻れる場所なんてないって……でも。もし許されるなら……」

 

アズサの脳裏に、アリスとケイの姿が思い浮かぶ。彼女だって、自分の居場所を得ることができたのだ。だとするなら、自分にだって。そう、希望を抱くように口を開く。

 

「私はここにいたい」

「当たり前です!!」

「!」

 

アズサがそう口にした瞬間、ヒフミがアズサの手を掴んでそう宣言する。思わず、アズサの体がびくっと震えるのも構わず、ヒフミは語り続ける。

 

「アズサちゃんは居たいところにいていいんです!そこに居たい、一緒に過ごしたい!そう思った場所がアズサちゃんの居場所で……私はアズサちゃんと一緒にいたいです!この四人で……ずっと一緒にいたいです!」

「ヒフミ……」

「一緒に出掛けたり、買い物したり、戦ったり、友達を助けたりしたいです!謎のロボット達の群れとも戦い抜いた私達の友情は、決して砕けることはありません!」

「……皆」

 

ヒフミの言葉を聞き、アズサがハナコとコハルを見る。二人とも、アズサを見て、笑うだけ。それは、アズサの事を受け入れるという無言の意思表示であり、それを見たアズサは嬉しそうに微笑む。

 

「……えっと、この雰囲気に口出すのもあれなんだけど、本題に戻ってもいい?」

「あ……す、すみません」

「ううん、いいんだよヒフミちゃん。アズサちゃんも、友達ができて本当によかったね」

「……ああ。皆と出会えて、よかった」

 

アズサの言葉に心底安心した様子を見せるミカ。その様子から、やはりアリウスと和解したいと言ったあの言葉は事実なのだろう。ただ、その上で出力がおかしくなってしまっただけで。そして、それを止められず、加速しかけていたのも全部、セイアが暗殺されたと思い込んでいたから。既に一人死んでしまった以上、もう止まれない。止まれば、その罪をずっと抱えて後悔することになるからこそ、これまでのミカは行きつくところまで行くしかなかったのだ。だが、セイアが生きている。そしてお前のやろうとしている戦争なんて碌なものじゃないぞと釘を刺されたことで、こうして立ち止まる余裕ができていたのだ。

 

「私は、ナギちゃんにアリウスとのことを話そうと思う……というか話そうとしたら倒れちゃったんだけど。アズサちゃんには迷惑がかからないようにするつもりだけど、それでも、もしかしたらがあるから皆には伝えておこうと思って。さすがに私もこんなこと言っちゃったらティーパーティーは確実にクビになるだろうし身動きも取れるかわからないからさ。アズサちゃんを庇うっていうのは正直期待しないでもらいたいんだ」

 

それから、彼女なりに色々考えたのだろう。自分がすべきことを。これからアリウスがやろうとしているナギサ襲撃と、セイア襲撃事件の真相を明かし、自分がその責任を償おうと。しかし、それによって生じるアズサへの余波まではおそらく守り切れないからこそ、事実を知った上でハナコたちに庇ってもらおうと。

 

「……わかりました。アズサちゃんは私達の友達ですから」

「そっか。なんかハナコちゃん、前よりいい顔するようになった?」

「そのままお返ししますよ」

「ふふ、ありがとう。私から言いたいことはこれだけ。多分、アリウスはナギちゃんを襲えないってわかったらすぐにカタコンベの奥のアリウス分校に戻っちゃうだろうね。私が裏切ったってすぐにわかっちゃうだろうし……はは、アリウスとの和解も最初からだね」

「でも、これからは本当に正しいやり方で付き合い方を探せるんじゃないかな。私は、今のミカの行動を尊重したいと思う。ナギサと話すときは私も一緒に行くよ」

 

ミカの話を聞いたうえで、先生はそう伝える。アリウスの生徒達に会い、話をして、トリニティと和解させたい。それは先生も同じ気持ちだ。だが、そのためにはナギサの襲撃を止める必要がある。しかし、そうすればアリウスの面々は消えてしまうだろう。しかし、アリウスと和解するためには、一つずつ確実に進めるしかない。少なくともこれは、トリニティの各種面々とも協力する必要があるのだ。そうなれば、エデン条約が落ち着いた後にゆっくりやるしかないだろう。ゲヘナと和解し、協力する。その上で、アリウスとも和解する。それが、先生が目指すべき未来だと。

 

「……ちょっとごめんね……先生。ナギちゃんが起きたって」

「わかった。皆は待ってて、行ってくるから」

「先生、頑張ってくださいね」

「ふふ、楽しみですね」

「ハナコは何を楽しみにしてるのよ……」

「風が吹こうとしているんですよ?ワクワクするじゃないですか」

「風?ここでは別に吹いていないが……」

 

そして、補習授業部と別れ、先生とミカはナギサの下へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ……はぁ……ふぅ……」

 

ベッドから起き上がり、落ち着いてきたところでミカと先生から諸々の事を聞いたナギサ。少しの間深呼吸をしていたが、一緒にテーブルを囲む先生とミカの心配そうな表情を見ながら、声を絞り出す。

 

「ミカさん……今言ったこと、全部本当に……本当、なんですね?」

「うん、そうだよ。ごめんね、ナギちゃん」

「だとしたら……私は何のために補習授業部を……それに、ミカさん……まさか、あなたがセイアさんを……」

「セイアちゃんは生きてるよ。今、ミネちゃんが匿ってるんだ。場所は知らないけどね」

「は……はあ!?な、な……」

「ナギサ、深呼吸!落ち着いて!?」

 

くらくらした様子でまた倒れそうになるナギサを慌てて先生が支える。背中を擦り、過呼吸になりかける彼女に深呼吸を促す。数分間、たっぷり深呼吸をしてやっと落ち着けた彼女は、改めてミカを、色々な思いが込められた目で睨みつける。

 

「ミカさん……あなた、なんてことを……!」

「うん、そうだね。その責任は全て取るつもりだよ。ティーパーティーを降ろされても文句は言わないし、いっそパテル派を辞めてもしょうがないことかな。だけどね、アリウスと本気で和解したかった。その気持ちだけは嘘じゃないって事はナギちゃんにも知っておいてもらいたいの」

「……今の状況っで、そんなこと公にできるわけっないでしょうが!!」

 

バン!と勢いよく机を叩きながら言葉を荒げるナギサ。その様子にミカも、先生も思わずびくっと体を震わせる。

 

「エデン条約の締結が近い今、ティーパーティーのメンバーが元ホストを襲わせ、さらに現ホストまで襲おうとし、クーデターを目論んだ、なんて……!とても外部に言えません!!少なくとも、今は何もなかったことにします!!その、アリウスの襲撃計画とやらは未然に防がせてもらいますが、ミカさん……あなたはエデン条約が終わり、事態が落ち着くまで処分は保留です!いいですね!?」

「あ、う、うん……」

「先生!あなたには多大なご迷惑をおかけしたことは謝罪します、ですが今は……今は……!どうか、ミカさんの事は任せたいのです……今は……その、休ませて……」

「う、うん。わかったよ。ナギサも、ゆっくり休んで、少しずつでいいから考えて落ち着いていってね」

 

完全にキャパオーバーしている。そう言わんばかりの形相だ。それだけ伝え、ナギサは再びベッドへと潜り込んでいく。これは暫く放置しておいた方がいいだろうと先生とミカは顔を見合わせ、部屋を出ようとした、その時だった。ナギサの声が聞こえ、ミカが振り返る。

 

「……言ってくれて、ありがとうございます、ミカさん……私は、大事なものが見えなくなっていたのでしょうね」

「……うん、ごめんね、ナギちゃん。ずっと黙っていて」

「……アリウスにかけるあなたの思いは、わかりました。ですが……今は無理です」

「うん、わかってる。その時が来るまで、本当に頑張るから」

 

こちらに背を向けたまま、ミカと話を交わすナギサ。そしてミカは、先生と共に部屋を後にする。そして一人残った部屋で、ナギサはほっとした様子で呟くのだった。

 

「セイアさん……生きていてよかったです。そしてミカさんも……そのためにも、絶対にエデン条約を成し遂げなければ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふふ、面白いものだね。あのミカがこんなに変わるなんて。ナギサは……まぁ、倒れた事については同情しておこう。先にミカをどうにかする必要があった……」

「セイアさん、嬉しそうですね。後ナギサさんって一応ティーパーティーの友達では……?」

「……上に立つ者は往々にして苦労するものさ……私みたいに暗殺されかけたりね」

「すみません、さすがにそれは洒落になってないんです」

 

夢の中のティーパーティーが使うテラス。そこに同席していたセイアの言葉に、相手が自分ならいいが、このブラックジョークをその二人にぶつけたりしないだろうかと思わずにはいられないモルフォがやんわりと戒めるように声を出す。

 

「……だが、ひとまずトリニティはアリウスの襲撃から脱したと言っていいだろう」

「見てきたんですか?」

「ほんの少し先の未来だがね。最近は予知夢の範囲も狭まってきていてね、過去に至ってはほとんど見ることがなくなってしまったよ」

 

セイアが語り始めた顛末によると、ナギサを襲撃しようとしたアリウスは、その襲撃計画がミカの裏切りによってバレていることを察したことで既にトリニティから撤退してしまったという。しかし、アリウスは今もそのチャンスを伺っていることが考えられ、まだトリニティの上層部は予断を許さない。そのため正義実現委員会を始め、警備が今後は厳しくなっていくだろうとのことだ。

 

「おそらくだが、アリウスの事は正義実現委員会やシスターフッドのトップも知らされているだろう。そのせいで警備を固めることにしたのがバレたきっかけだろうね。とはいえナギサに万が一があったら大変だったのもあって、ナギサを囮に……ということもできなかったのだろう」

「今更ですけど私、がっつりトリニティの裏事情聞いてるんですけど大丈夫ですか?」

「私が動けないんだから仕方ないさ。君には本当にいろんな部分で感謝しているよ。ところで、君の方はどうかな?今回の一件で君の能力について色々言われたんじゃないかい?」

 

予断を許さない、というのは本当だ。そして、セイアは未来について黙っている部分が一つだけある。だがそれは、いかにこちらから手を打ったところで解決することができず、仮に今回のアリウスの襲撃を止め、その実行犯を全て捕らえたとしても覆すことはできないもの。唯一の方法は、まさに死中に活を求めるというものでしかない。だが、それをモルフォが知る必要はないと、話題を切り替える。もしこれを伝えれば、友達の為にとモルフォも何かしらできることを探し始め、何らかの形で関わってしまうかもしれないからだ。

 

「あー、それなんですけど……あくまで精神を修復中だったからこそ影響を強く受けたケイが特殊すぎるだけだということになりました。他にも色々触れてる人とかはいますが特にやばい風に変わったりとかそういうこともないので、あくまで未知の刺激以上の影響はないだろうということで」

「だろうね。ミカの場合はどちらかというと私が生きていることが前提にあるようなものだから……ああそうだ。多分先生から私のことについて言及されるだろうが……調印式が終わるまでは詮索しないでほしいと伝えてもらっていいだろうか?」

「わかりました」

 

エリドゥでの戦いが終わった後、ケイが今回の行動に出た理由がモルフォの能力にもあるということでそれについての再考察が行われていた。しかし、リオ達が下した結論は、ケイが特殊すぎるだけであり、モルフォの今の能力自体を危険と判断するにはあまりに早計過ぎる、というものであった。

 

(……我ながら中々悪辣なものだ。未来を知り、でも避けられない出来事を乗り越えるために悲劇を起こさせようとしている、でも、だからこそ……モルフォには巻き込まれてほしくない。もし、アリウスが彼女の異能を知れば……私と同様、本当に殺しに来てしまうかもしれない……トリニティとゲヘナとアリウスのその問題に、君は関わるべきじゃない)

 

モルフォが安心しているのを他所に、セイアは近い将来の事を考えていた。もし、これを伝えればモルフォは動いてくれるかもしれない。だが、伝えておかなければ、彼女がエデン条約のその現場に関わることもないだろうし、関わる導線もないだろう。後は彼女が関わる未来が万が一見えたらその時に対応しようと考えながら、夢から目覚めるため、消えていく彼女の姿を見送るのだった。

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