転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「このゲームも遂に回収かぁ」
「まあ、もう製品版出しちゃったからね。元々意見とか欲しくて置いてただけだし、次の奴ができたらそっちの体験版を置かせてもらおう」
シャーレのビル。そのドアの前に、モルフォとモモイの姿があった。今日は当番としてではなく、ある用事のためにシャーレを訪れていた。それは、以前からシャーレに置かせてもらっていたゲーム開発部の新作ゲームの体験版と、ついでにゲーム機なども回収するという作業だ。ちなみに回収には当初、モルフォだけで来る予定だったのだがユウカから、
『ゲーム開発部の用事とかで行くなら積極的にモモイを連れ回して仕事させてあげなさい。外回りほとんどあなたがやってるでしょってチヒロ先輩も言ってたわよ?』
と言われたこともあり、こうして引っ張り出してきていた。モモイとしてもシャーレに行くこと自体はやぶさかではなかったのもあり、ここに来るまでは楽しそうに談笑していた。そしてシャーレの中に入ると、
「先生こんにちはー」
「こんにちは!」
「あ、モルフォちゃんと、モモイちゃんだー!どうしたの?」
「あれ、アスナ先輩が今日の当番だったんですか?」
「そうだよ!」
「へー、なんかC&Cが当番に来てるのって新鮮かも」
オフィスに入ると、先生と今日の当番である、黒い制服に身を包んだ、長い黒髪と巨大な黒翼を持つ長身の少女とアスナがいた。エリドゥでの一件の後、C&Cらもシャーレの部員として登録しており、こうしてタイミングが合えば当番としてくるようになっていた。とはいえ任務と被ることも多く、そのピンチヒッターとして代わりに他のミレニアム生が駆り出されることも少なくはないのだが。
「あ、今日は以前から置いていた体験版を回収しに来ました」
「ああ、そういえばゲーム置いてるんだっけ!」
「後輩ですか?」
「そうだよ、ゲーム開発部という部活動に所属してるんだー」
「ゲーム開発部……ああ、ヒフミさん達が言っていた……」
黒髪の少女はモルフォ達を見ながら疑問を確認していたが、二人がゲーム開発部の所属だと聞いて納得したような表情を見せる。ヒフミの知人であるらしく、彼女がその存在を伝えていたようだ。
「ヒフミさんのこと知ってるんですか?」
「ええ、彼女には先日助けてもらいましたから。ああ、自己紹介がまだでしたね。私は羽川ハスミ、トリニティで正義実現委員会に所属しています」
「夢見モルフォです」
「才羽モモイだよ!」
黒髪の少女はハスミと名乗る。正義実現委員会といえばトリニティに存在する治安維持組織のはずだ。そういえばヒフミたちがその正義実現委員会のメンバーと海に遊びに行ったり、こうしてハスミも当番としてシャーレに訪れているあたり、アリウス関連の問題はトリニティの中では今はある程度落ち着いているということなのだろう。
「で、二人ともゲームはいいの?」
「あ、そうだったそうだった!」
モモイが立ち上がり、シャーレの中にある部屋の中へと入っていく。ソフトを回収するだけなら別にモモイでも十分だろう。ふと、先生を見ると椅子から立ち上がり、背中を伸ばしている姿が見えた。長い間座っていただけにやはり体に色々キているようである。
「先生、体の方がやばかったり?」
「あはは……まあ、デクスワークが多くなるとね。ただ、こういう時はやっぱりエクササイズゲームが結構……」
「……エクササイズゲーム?」
「あれフィットネスゲームでは」
「フィットネスゲーム?」
そういう時は例のあれを……と先生が口にしたところで、ハスミがピクリと反応する。エクササイズゲームにフィットネスゲーム。その言葉を聞いたハスミが先生とモルフォを見つめる。
「すみません、今気になる言葉が聞こえたのですが」
「え?」
「いえ、エクササイズだのフィットネスだの……つまりその、運動系の?」
「あ、ああうん……キヴォトスの外にそういうゲームがあってね。興味ある?」
「そ、そうですね……体を動かすゲームとは中々聞かないもので……」
どこか食い気味にこちらを見てくるハスミに、先生が思わず苦笑しながら聞いてみると、我に返ったのか少し遠慮気味になりながら返事を返す。とはいえやはり興味はあるのだろう、確かに体を動かすゲームはないわけではないがそれでも珍しい部類なのだから。
「よーし、仕事終わり!先生、この後任務あるんだけどさ、戻っちゃっても大丈夫?」
「あ、お疲れ様アスナ。うん、大丈夫だよ」
「ではアスナ先輩、また後で」
「またねー!ハスミちゃんもバイバイ!」
「ええ、今日はご一緒していただきありがとうございました」
と、ハスミと先生が話をしている間にも書類仕事を進めていたアスナが本日最後の分を終えたようで、帰る身支度を整えるとそのままシャーレを出ていく。そしてアスナが終わったこともあり、今日の分の仕事がなくなったハスミは、先生を見つめる。
「せ、先生、そのゲームって……」
「やってみる?」
「あ、是非……どのようなゲームなんですか?」
「あー、それは……リングフィットアドベンチャーですね」
「リングフィットアドベンチャー?」
そして、モルフォの告げたゲームの名前に、ハスミは思わず困惑してしまうのだった。
★
リングフィットアドベンチャー。フィットネスゲームであり、switchのコントローラーをレッグバンドと輪の形をしたコントローラー、リングコンに入れて行うゲームであり、画面の中の主人公とプレイヤーの動きを連動する形でアクションRPGのようなストーリーを進めていくのだ。
「……あの、これ本当にゲームのコントローラーなんですか?」
「コントローラーですよ」
レッグバンドを取り付け、リングコンを手に持ちながら、思わず疑問の声を出すハスミ。確かにリングコンはコントローラーとしてはかなり異質である。しかし、このゲームでは、このリングコンを引っ張ったり押し込んだり、或いはコントローラーを振ったりして攻撃や防御などを行うのだ。
「先生はこれを?」
「たまにやっていると聞きました。肩こりとかに良く効くと」
「ほう……」
「ちなみにデータは……これでいいんじゃないでしょうか」
「あの、途中からでは……?ゲームということはストーリーとか……」
「あ、このゲームのストーリー、大体パートナーとボスの痴話喧嘩が延々続くだけでメインはほとんどフィットネスなので」
「そ、そうなんですか」
一応アクションRPGなのでストーリーがあるにはある。あるのだが、リングフィットアドベンチャーのストーリーは主人公のパートナーであるリングコンに付いた顔、リングと共にステージをクリアしエリアの最後にいる黒い巨大なドラゴン、ドラゴ(ステージによってはドラゴ以外がボスを務めることもある)とフィットネスバトルを行うことになる。その際に少し会話をするのだが、本当にそれだけで本筋に関わることは正直なく、ストーリーの内容だけで判断してしまうと薄いと言っていい。うるせぇ、そんなことよりフィットネスだ!大体こんな感じである。
「やれるフィットネスがレベルとかで解放されていくタイプなので、ただフィットネスとして触れるだけなら全部のスキルが解放されているデータからやった方が都合がいいんですよ」
「成程……」
「では、私は別室にいるモモイの方を見てくるので、何かあったらまた呼んでください」
「わかりました。ありがとうございます、モルフォさん」
準備を終え、ハスミがゲームをできるようにすると、モモイが作業をしている別室へと移動する。体験版のデータを回収し終えており、次にまた体験版を置く時のために機材を持ち帰ることになっているため、今頃モモイは梱包などを行っている事だろう。その後も掃除などがあるため、それを手伝う必要もあるのだ。
「さて……ダイナミックストレッチ?」
リングフィットアドベンチャーはそのままゲーム本編に入ることもできるのだが、その前にダイナミックストレッチという、本格的に運動を行う前のストレッチを行うこともできる。リングコンを上から下に降ろし、膝や足をつけるストレッチに、前に一歩踏み出して深く膝を落とすストレッチ、後は体側を伸ばすストレッチなどを一通り行うことでダイナミックストレッチは完了する。
「ま、まさか……くぅ……やっぱり、体を動かすべきなのでしょうか……」
うまく膝や足を付けられず苦戦してしまい、あまりに下半身が貧弱だと思い知らされたハスミはただのダイナミックストレッチだというのに悲しみのあまり膝をついてしまう。実際の所は別に下半身が貧弱というわけでもないのだが。
「……これも、スイーツを食べ過ぎているせい……!?く、そうなればその分体を動かさなければ……しかし、どういうストレッチが……ふむ?」
スクワットやプランク、マウンテンクライマーのようにハスミも知っている動きも当然ある。しかし中には、
「スワイショウ……ロシアンツイスト……グルグルアーム?なんていうか……色々ありますね。船のポーズって……なんでしょうか?」
とりあえず知っているものを含めて色々使用するスキルとしてセットしていく。戦闘になった際にはこれらのスキルの中から選んでそのフィットネスを行うのだ。
「えーと、ステージに入ると……こういう感じですか」
ステージ選択画面に入り、ステージをプレイする。プレイヤーが移動するには、ジョギングをするか、サイレントスクワットという、膝を上下に動かす動きのどちらかを設定でする必要がある。設定上はサイレントスクワットになっていたので、ハスミも画面に表示された動きの例を見ながら、ステージを進めていく。途中でリングコンを押し込むことで空気砲を発射し、それによってステージ上に存在する箱などを破壊する、リングコンを左右に広げることで空気を吸収し、食材やハート、コインを回収するという行動を取ることになる。
「はっ、はっ、はっ……」
サイレントスクワットを行いながらキャラを動かしていく。普段やらない動きなせいか、これだけでも意外と効いているような気がする。これはもしや、思ったより効果があるのでは?痩せられるのでは?とハスミが若干手応えを感じながら景色を見る余裕も楽しみながら走っていると、変な煙のようなシルエットを見つける。
「……これも壊せるのでしょうか」
空気砲を当てて破壊しようとするのだが、空気砲が当たると、なんとシルエットが大きくなってしまい、それに主人公が激突してしまう。すると、画面が切り替わり戦闘が開始してしまう。
「……ああ、あれは敵だったんですか……」
このゲームには属性があり、赤、青、黄、緑、黒の五属性が存在する。そしてスキルにも赤、青、黄、緑のどれかの色が振り分けられており、同じ色で攻撃するとダメージが上がるという仕様が存在する。そのため黒は事実上弱点がない属性といえるだろう。そして色は基本的にどの部位で行うストレッチかで割り振られており、赤は腕、黄は腹、青は脚、そして緑はヨガといった感じになっている。
「……なんていうか……っ、独特な攻撃方法です……ねっ」
とりあえずスクワットから入る。リングコンを持った両腕を前に突き出し、腰を落として膝を曲げ、元の位置に戻る。単純明快、シンプルだが、だからこそ効果が期待できるスキルだ。大腿四頭筋や大殿筋を鍛えられる動きを繰り返していると、何故か攻撃する敵の上に青い足のようなシルエットが浮かび上がり、スクワットを一回やるごとにそれが相手を踏みつけるという謎の攻撃方法が展開される。実に30回を越えるスクワットを終えると、膝を軽く曲げ、お腹にリングコンを押し込むという腹筋ガードが行われる。
「こ、このガード方法も何か変ですね……しかし、確かに体を使って戦ってる感じは……あるんですが」
やはりフィットネスで戦うというのがどうしても慣れない。そう言うゲームだと割り切らないといけないのはわかってはいるのだが。スクワット自体は、普段から正義実現委員会として動いていることもあってか普段から鍛えられているため、そこまで苦しい、辛いといった感じはなかった。これなら他のもそこまで厳しいものでもないのだろうと、次に選んだのはプランク。両肘を床に付けた状態で体をまっすぐになるような姿勢を取るのだが。
「……?なんで始まらないんですか?」
困惑した様子で画面を見る。スキルを使う前に、それが可能になる体勢になったことをコントローラーが認識してから実際にフィットネスが始まるのだが、何故かプランクの体勢になっているのに認識してくれない。
「……コントローラーが認識してくれない……?これ、不良品では!?」
「どうしましたー?」
「す、すみません!この……プランクという姿勢をコントローラーが認識してくれないんです!」
「あー。多分ですけど、膝が止まってないんじゃないでしょうか?」
別室、とはいえ実際に作業しているのは隣の部屋なため、ハスミが大声を上げればモルフォにも聞こえてくる。プランクが始まらないと聞いて、モルフォはすぐにその原因に思い至り、膝が静止していないからだと指摘する。
「ひ、膝ですか?」
「ええ、コントローラーが微弱にでも振動してると認識してくれなくて始まらないんですよ。プランク以外の……スクワットとかの別のスキルに切り替えたらどうですか?」
「な、成程……」
もし、直接ハスミの姿を見ていればそもそもレッグバンドの中のコントローラーがプランクを始めるにあたって適した角度などになっていないことに気付けただろう。しかし、結局モルフォはその姿を別室に居て見ることができず、そちらでモモイとリングフィットアドベンチャーとはどういうものなのか話していたために気付くことができなかった。
「まあいいでしょう……では、スワイショウを……あ、これは……腰が気持ちいい……」
スワイショウは、目の前に横に構えたリングコンを左右に勢いよく振る動きだ。この時、顔は前方に向けたまま動作を行うことで、腰に効くフィットネスが行えるのだ。リングフィットをするまでデクスワークとして作業していたこともあり、一回横に動くと共にバキバキと心地のいい音が鳴り、快感が生まれる。素早く左右に勢いよく体を動かし、筋肉を伸ばしながら気持ちよさを感じていく、たったこれだけの動きで気持ちよくなって運動もできるなんて、こんな素晴らしい動きがあったとは思わなかった。
「他は……ああ、これもかなり良い感じに効きそうですね……」
味を占めたのか、今度はグルグルアームというスキルを選ぶ。グルグルアームは両腕を上に掲げ、リングコンを持ったまま天井に円を描くように動かしていくスキルだ。それを始めると、肩からゴリッ、ゴリッと気持ちのいい音が鳴り始める。
「おっ、ほぉっ……ふぅ……これは……やば……」
音が鳴り、肩がほぐれていくと同時に快感が奔る。ただ腕を回転させるだけと最初は少しだけ思うところもあったが、実際に動かしてみるとこれがまた凄い。これだけで体が軽くなるレベルだ。
「あ、ああ……ふふ、これで痩せながら気持ちよくなれるというのであれば、言うことはないのでは……?この動きは、もっとやって覚えておいた方がいいですね……」
もっとこの感覚を、グルグルアームやスワイショウ、他にも、軽く膝を曲げた状態で座り、リングコンを左右に振るロシアンツイストといった、様々な、比較的体に負担をかけにくい、だが辛さや痛さよりも気持ちよさなどが大きくくる、そんなフィットネスばかりに自然と選ぶスキルが偏っていく。ストーリーも薄味だったが故に、その意識もストーリーより戦闘の方に、運動の方に自然と向くようになっているおかげで、次は何をやるか、次はどのスキルをやるかなどを考えていくのが楽しくなっていく。そして気付けば、
「あの、大丈夫ですか?ハスミさん?」
「へ!?」
隣の部屋で作業を終えたモルフォとモモイが顔を出してみると、そこには汗をダラダラに流したハスミの姿があった。気付けば、それだけ多くの時間をゲームに費やしていたらしい。
「あ、汗凄いですけど……」
「え、えっと……水分補給とかやってるんですか?」
「……え、えっと……も、もうこ、こんな時間ですか……!?」
二人に言われ、近くに置いていたスポーツドリンクを飲み干しながら、時間を確認して驚愕する。まさかここまで時間が経過していたとは思わなかった。
「……このゲームってこんなにやばいの?」
「やる?」
「え、遠慮しとく……」
さすがに目の前のハスミの様子を見て、リングフィットをやる勇気はモモイにはなかったようだ。ここでもしやろうものなら翌日筋肉痛でダウンするのは確定だろう。しかし、一つだけ気になるのは、
(ハスミさん……結構激しく動いていたみたいだけど、明日筋肉痛とか大丈夫なんだろうか……)
ハスミが翌日、筋肉痛になるかどうかという心配であった。
★
「……はうっ!?」
前日はあまりの疲労からぐっすりと眠ってしまっていたハスミ。しかし、翌朝、目を覚ました彼女の腰と背中と肩に襲い掛かってきたのは、紛れもない筋肉痛の痛みであった。
「そ、そんな……や、やりすぎ……!?」
軽く起き上がるだけで、肩を動かすだけで襲い来る筋肉痛の痛み。軽く体を伸ばすだけでも、腰を優しく手で押すだけでも奔る痛みに、彼女はある確信をするかのように痛みに顔を顰めるのだった。
「リングフィットアドベンチャー……なんて恐ろしいゲームなんでしょう……!」