転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「ねえ、コユキいるかしら……あら?」
ある日のゲーム開発部の部室。コユキを探して部室に入ってきたユウカとノアの目の前に広がっていたのは、脱力した様子で座るゲーム開発部とコユキやマキの姿だった。
「あ、ユウカとノア先輩だ」
「あれ?どうしたんです?」
「どうしたってコユキ、あなたを探しに来たのよ……一昨日からセミナーに顔を出していないじゃない」
「そうでしたっけ?」
呆れた様子のユウカに首を傾げるコユキ。だがやがてユウカの発言の方が正しいことに気付くと、
「にはは……ま、まぁ暇だからいいじゃないですか!」
「確かに今はあなたの仕事はなかったけど、いつ入るかわからないんだから一回は確認しにきなさいよ」
誤魔化すように笑う。その様子を見て、顔に手を当ててやれやれと首を横に振るユウカをノアが宥める。
「まあまあ、ユウカちゃん。それで、コユキちゃんは何をしていたんですか?」
「……あー、それは……」
「あ、アニメ観てたんだようん……で、でもそれだけだから」
まあゲーム開発部でやることなんてゲームだろう、そう思っていたユウカだったが、コユキはアニメと言っただけでそれ以上を語ろうとしない。他の面々を見てみると、マキやモモイ達も同様に言いにくい様子をしていた。
「……何を見ていたんですか?」
「いや、えっとその……書こうよ系の異世界転移もののシナリオを試しに書こうとしてて……」
「ああ、小説、書こうよ!ですか……モモイちゃんも読んでるんですね」
「まあ、たまには……?ただ、大分香ばしいのを見ちゃってね……異世界に行ったら怪談家になって超レベルアップした件……いやなんかこう……」
小説、書こうよ!とは小説投稿サイトである。投稿されている内容はピンキリであり、香ばしいものも中々に多いのだが、異世界転移系のシナリオを書こうと思ったモモイがそういったものを読んだのだが。
『これをゲームに落とし込むのきついよぉ……チートでパワーアップはいいけど無双シーンが多すぎるとプレイヤーダレるし……じゃあ苦戦したらそれはそれでなんか違う感あるし……というかその媒体用に作ったシナリオを別媒体に置き換えるの自体結構厳しいんだよ!』
こうして諦めることとなったのだ。とはいえ、書こうよ系をそこそこ読んでいたこともあって、どうせなら何かしら異世界転移系の作品を、ということになり、ゲーム開発部と途中から合流してきたマキやコユキと一緒にアニメを鑑賞していたのだが。
「まあ……面白かったけど重かったよね……」
「いや……爽やかな終わりですっきりはしたけど二周目はいいかな……」
「……そう言われると気になりますね。そうですね、もしよければ見せてもらっても―――」
「いやいやいや!?ノア先輩が見たら駄目ですって!」
「え?」
ノアが興味を抱いたその瞬間、コユキが慌ててノアが見てはいけないと声を上げ始める。見ると、他の面々もコユキに同意するように頷いており、これにはノアも困惑してしまう。
「でも……ただのアニメですよね?確かに容赦のない展開とかはあるかもしれませんが……そこまで言う程ですか?」
「まあ、その……作中でノア先輩と同じ名前のキャラが出てくるんですが色々とあれな目に遭って……終わり方はほろ苦い感じはするけど割と爽やかなんですがね」
「ああ……成程……ですが大丈夫ですよ」
モルフォの力で出てきた異世界のアニメ。それが原因でケイが事件を引き起こしたのは記憶に新しいが、それもまたあくまで特殊すぎる経緯によるものであり、普通に観賞したりする分には問題ない、という結論が出ていた。それとして作品が重いかどうかなどについては全く別の問題であり、その点が気がかりだったのだが。
「それに、ただのアニメですから」
「まあ、そこまで言われると確かに気にはなるわね……どういうアニメなの?」
「……まあ、そこまで言うなら……ただ、途中でやめたら後味が悪くなるだけなのでそこは注意してくださいね」
ノアと、逆に興味が湧いたユウカに押される形でモルフォがBDを渡すのだった。
★
「「……」」
二人が見ていたアニメ、そのタイトルは牙-KIBA-。所謂異世界転移系アニメであり、風の吹かない空気の汚れた工場が立ち並ぶ世界に住む少年、ゼッドを主人公とする作品である。
魔法などが存在しない普通の世界。そこでゼッドは不思議な魔法のような力を使う、教師だった謎の人物に襲われる。だが、そこに現れたのは廃人となり精神病院に入院しているはずの母。母をシャードキャスターと呼んだ男は逃げだすが、母は超人的な動きでそれを追いかけてしまう。そしてその場に残されたゼッドは、母と教師の戦闘によって発生した破壊騒動の犯人として警察に連行されようとしていたのだが、体も弱く先も短い友人、ノアが大怪我を負いながらゼッドを助けると、ゼッドは風と共に現れた白い翼を両手から生やした謎の水色の巨人に導かれるように、異世界へのゲートと思われる場所へと入ってしまう。その先に広がっていたのは、綺麗な青空。これまでの世界とは全く異なる自然の景色、そして吹いている風にゼッドはただ圧倒されるだけだった。
『風だ……!風が、吹いてる……!?』
「……ここで一話が終わるのね……ノア、大丈夫?」
「え、ええ……まあ、びっくりはしましたが……こういうことですか」
作中に登場するノアが男なのも驚いたが、初っ端から病弱であることを示唆され、あまつさえ主人公を助けるために重傷を負って退場するとは。これは確かに皆も止めるはずだと納得してしまう。
「ですがまあ、平気ですよ。それにここで退場ということでしょうし……続きを見ていきませんか?」
「まあ、確かに気にはなるわね。そういえば、その小説を書こうよ、だっけ?そういうのとは違うの?」
「どうでしょう……確かにそういうのとは毛色が違うという印象はありますが、ああいうのも基本的に序盤は主人公にとって苦しい展開が多かったりするのでまだなんとも。ただ異世界に転移するまでの時点で割と尖ってる印象はありますね。まああのサイト自体作品はたくさんあるのでちゃんと面白いものもいっぱいあるんですが」
とはいえ、これぐらいならまあと続きを視聴し始める。一年生たちも心配性だと微笑ましく思いながら、テンプラーと呼ばれる異世界にやってきたゼッドは、早速シャードキャスターと呼ばれる、シャードと呼ばれる魔法を操る戦士たちの戦いに巻き込まれてしまう様子を見る。ジーモットと呼ばれる世界の兵と戦う老師ジーコ、そしてその弟子のロイアに助けられたゼッドはシャードの力を与えられることになる。
「……このスピリットってのもシャードなのね」
「召喚獣みたいな感じですかね」
シャードは小さな球のような形状をしているが炎や水など多くの属性もあり、それを武器に装着することで剣にしたり、シャードを盾にする、相手を拘束するロープにするなど、様々な用途で使われる。さらに、シャードの中にはスピリット・シャードと呼ばれる生き物に変化する大き目の球体もあり、シャードキャスターはこれらを駆使して戦うのだ。
そしてゼッドにはアミル・ガウルと呼ばれる強力なスピリットが存在しているのだが、ゼッドはその力を制御できてはいない。その様子を見て、ジーコはシャードチャンピオンであるデュマスにゼッドを預けることになり、彼の下でデュマスに反発し、時に騒動に巻き込まれながらもシャードキャスターとして成長していくことになる……といったところで場面はネオトピアと呼ばれる別の領域に流れ着いたノアへと移る。
「……彼も異世界に来ていたんですね」
「ゼッドの方は彼自身結構問題児みたいな所あったけど……こっちは平和そうね、田舎っぽいし」
ノアはその世界のある夫婦に助けられており、シャードによってすっかり回復したノアは新たな暮らしを始めていた。しかし、そんな時だった。軍人として働いていた夫婦の息子であるゲイルが現れたことで状況は一変。ノアを保護したことは素晴らしいことであると言いつつも、それを国に報告しなかったことを重罪であると自分の親を処刑することを決定してしまう。当然ノアはそれはおかしいと言うのだが、夫婦はノアに笑うばかりで、他の村の住人達も誰も夫婦を助けようとはしない。悪いのは報告しなかった夫婦だと言わんばかりに。そして、夫婦はゲイルの手によって処刑されてしまう。シーンこそ描かれなかったものの、状況から完全に首を切り落とされたことは簡単に想像でき、
「「……」」
それを見終えた二人は完全に沈黙していた。ゼッドもゼッドで苦労してはいたが、苦労とか辛いのベクトルが完全に違う。恩人が目の前で処刑される様を見せられてしまえば色々思う所だって出てくる。
「……ノア、大丈夫?」
「え?あ、はい」
心配そうなユウカの声に、慌ててノアが取り繕うが、予想以上にショックを受けているのは間違いなかった。とはいえ、途中で視聴を止めてしまえば確かに後味が悪くなってしまうだろう。今日はここで中断するとして、
「……ただちょっとこれは胃もたれしそうね……なら」
ユウカはあることを考えるのだった。
★
「……それで、私達を連れてきた、と」
「えっと……ノアは大丈夫なんですか?既になんかしかめっ面ですが」
「大丈夫ですよ。中々ヘビーな作品だったので気合を入れてるだけですので」
「……私達何を見せられようとしてるの?」
翌日。ユウカが考えていた人柱をさらに増やして視聴に耐えるという巻き添え作戦に巻き込まれたのはカリン、アカネ、ハレの三人であった。ネルらも巻き込もうとしていたのだが、アスナが用事でいない、ネルも休日でホシノと遊びに春葉原に行っている、ヴェリタスも丁度三年生がおらず、マキもゲーム開発部でトキらも連れて遊んでいるため誘えなかった。そのため、結果的に二年生だけでの視聴になったのだが、
「……なんかエグいことになってません?」
「……まあ、ノアがダメージ受けてるのはわかった。っていうか異世界転移……?あれこんなやばかったっけ?」
「……結構やばかったのよ。まあ、まだまだ序盤だし……続き見ていくわよ」
「まだ序盤なのか……」
簡単なこれまでの流れを伝えられ、続きの視聴を開始する。夫婦を処刑された後、ネオトピアの絶対規律主義に反発する村の若者たちとネオトピアの兵士との戦いが起こってしまう。そんな中、失意のノアは友人を失いながらも別の世界へと転移させられてしまい、再び舞台はテンプラーへ。そこでは、いくつかの騒動を経てデュマスがジーモットという世界から来たスパイであることが判明、デュマスはゼッドを襲い奪い取ったアミル・ガウルを使うも、その強大な拒絶反応に苦しみ、手放してしまう。しかしゼッドがその力を使うと、拒絶反応は起こらず、その圧倒的な力でデュマスと共にテンプラーを攻撃するジーモットの兵達を撃退してみせる。
「……テンプラーの方は大分マシだね……いやネオトピアが明らかにやばいんだけど」
「そのテンプラーも攻撃されているんだがな……」
「しかしゼッドが持っているスピリットも大分厄ネタじゃない?師匠だったはずのデュマスの裏切りもだけど明らかに反応がやばいし」
アミル・ガウルの力を見ていた、ジーモットから逃げのびた王族最後の生き残りの少女レベッカ。彼女と出会ったゼッドは共にジーモットへと行き、テンプラーもデュマスを追うために戦士たちを募り、ジーモットへと送り込む。ジーモットへと向かったロイアとゼッドはそれぞれ災難に見舞われることになるのだが、その中でエルダと呼ばれるレベッカの配下の女性に連れられ、ゼッドは現状制御できないアミル・ガウルに代わる制御可能な力として、ランボスと呼ばれる強力な炎のスピリットを手に入れるのだが。
「……うわあ……」
カリンの口からぞっとしたような声が漏れる。鳥肌が立ったようで腕を擦る彼女だったがそれも無理もないだろう。現在、ジーモットを統べている男、ヒューの策略によってレベッカに封印されていたスピリット、プロニモを奪われた後は国を放逐されてしまう。そんな中、レベッカを助けるためにジーモットの城に乗り込んだゼッドは、アミル・ガウルの拒絶反応によって豹変し、本性を露わとしたデュマスと対峙。彼に打ち勝つも、デュマスは負けたことでジーモットから殺されてしまい、レベッカも行方を晦ませてしまう。結果的に、テンプラーの情報を持つデュマスを殺すことはできたものの、レベッカの目的は達成できず、情勢としてはヒューだけが一人勝ちしたような図になってしまい、ゼッド達はレベッカを救えなかった未練を抱きながらもテンプラーへと戻ることになってしまう。
「……すっきりしない終わり方だね」
「師匠だった男は死んで、レベッカもスピリットだけ奪われて放り出されて……え、容赦なさすぎる……」
その後、レベッカが辿り着いたカルブ・フーからグスマという男がテンプラーに現れたことで事態は動く。ジーモットの迫害が強まっていくカルブ・フーで指揮を執っているのはレベッカだと聞き、ゼッドとロイアはレベッカの下へ向かうのだが、そこにいたのは大切なものを次々と失いヒューへの復讐心に取り付かれたレベッカの姿であった。
「「「「「あ……」」」」」
カルブ・フーでの戦いは、ヒューがキースピリットと呼ばれる特別なスピリットであるプロニモを完全な姿にするためのものであった。さらにその戦いでレベッカやカルブ・フーの多くの民が死んでしまい、またしてもヒューとジーモットの勝利で戦いは終わってしまう。しかし、そんなことがどうでもよくなってしまうぐらい、ユウカ達の脳裏に焼き付いていたのはあるシーンであった。
「いや、これは……」
「ちょっと……いや、ちょっと……」
それは、カルブ・フーが卵生の生態をしていることに由来する。彼らは卵から産まれるのだが、なんとジーモットはその卵を次々と割り出したのだ。その結果、発狂した母親たちの絶叫に呼応するようにカルブ・フーの守護神であるスピリット、ギルメが目覚め、それをプロニモが取り込んで完全体になるという展開を見せるのだが、カリン達にとって一番きつかったのは、遠回しに赤子殺しを見せつけられているという状況であった。それは一旦、温かい飲み物を飲みながら休憩を設けざるを得ない程である。
「爽やかって言った?爽やかとは完全にかけ離れてるけど?」
「で、でも、まだ中盤だし……」
テンプラーに戻ったゼッドとロイアだったが、彼らにテンプラーと同盟を組んでいるネオトピアからの脱獄犯を護送する任務が与えられる。それを受けネオトピアへシフティングと呼ばれる別世界への転移を行おうとしたのだが、ヒューの妨害でタスクという領域へと辿り着いてしまう。そこで獣人達に襲われ、ゼッドとロイアは散り散りになってしまう。
「そういえばタスクって最初にゼッドを襲った人を見て母親がタスクって言っていたような」
「あ、じゃあこの世界の人ってこと……?」
さらにゼッドの持つ、プロニモと同じキースピリットという特別なスピリット、アミル・ガウルを狙ってヒューが現れ、対峙することに。加えて、キースピリットの一体であるサチュラを携え、参戦してきたのはなんとノアであった。ネオトピアからジーモットへ転移し、そこで放浪の民達に保護されたのは良いものの、そこで彼らが運んでいたスピリット、サチュラがノアに反応して暴走したことで放浪の民たちは死んでしまう。唯一残った少女、サギリも大怪我を負ってしまい、自分の手で皆を傷つけてしまったことに混乱したノアはそこに現れたネオトピアの住人、ダイアナによってネオトピアへ連れ去られ、絶対規律の理念に洗脳された戦士になってしまったのだ。だが、変わってもゼッドとノアの友情は健在であり、二人は危機を乗り切ると、また落ち着いたらもう一度会うことを約束してゼッドとロイアはテンプラーへ帰還。そして、ノアは脱獄犯である、ノアが保護された村で彼とも仲が良かった少年をネオトピアへ連れ帰ることになる……はずだったが。
「「「あ……」」」
数人の口から呆気に取られたような呟きが漏れてしまう。そこには、脱獄犯をネオトピアに連れ帰るのではなく、タスクでその場で殺してしまうノアの姿があったのだ。その表情には冷酷さすら見えており、完全にネオトピアに洗脳されてしまったことを証明していた。
「……ノア?」
「だ、大丈夫ですよ……?ま、まぁ立ち直ってはいますし」
「その方向性が大分やばいけど?」
「宗教落ちはちょっと……」
「……ま、まぁまだ中盤ですから」
「……さっきも聞いたけど」
溜息を吐きながらハレが呟く。とはいえ、容赦のない展開続きとはいえ先が気になる作品なのは言うまでもなく、ハレ達も続きを流していく。それは、ネオトピアへの招待であった。テンプラー、ネオトピアだけでなくジーモット、タスクなど全領域から代表となるシャードキャスターを集めた大会、ジャウストを開催することが決まり、ゼッドとロイアはジャウストに参加するためにネオトピアに行くことになる。しかし、ジャウストが終わった後、事態は急変。タスク・ジーモットの連合軍がネオトピアに攻め入り始めたのだ。それによって始まる戦争。ネオトピアの同盟国であるテンプラーは本来戦力を出すべきなのだが、上層部は及び腰で傍観を気取ろうとする。
「……酷いですね」
「戦争か……洒落にならないな」
「ええ……これはアニメだから良いけど、というかかなりやばいわねこれ……ネオトピアがどんどん落とされていくじゃない……」
戦争の最中、それに巻き込まれたゼッドもまた己の意思のため、傷つく人々を見て戦争を止めるために力を使うことを決意する。その想いに呼応するように、アミル・ガウルは金色の鎧を纏った真の姿へと進化。さらにジーコとロイアも、ジーコの知人でありネオトピアのトップであるハイラムを助けに来たのだが、遂にネオトピアは町はずれの建物に立て籠もるほどに追い詰められてしまう。そんな中、ハイラムはヒューから人質達か自分の命のどちらかを選ぶように迫られてしまう。しかし、ヒューの卑劣な策によって人質達はスピリットに食われ、ハイラム自身も殺されてしまう。が、そこで戦いに参戦してきたのはテンプラーのシャードキャスター達。さらに、これまでの戦いで成長し、真の姿となったアミル・ガウルの力は遂にヒューを打ち破ってみせる。それによって、タスク・ジーモット兵達は元の領域に戻り、戦争は終わった……のだが、残されたのは壊滅したネオトピアであった。
「……酷いわね……」
「ここから、どうなるのか逆に予想できないんだけど……」
「……ノア、まだ大丈夫?」
「ま、まだ大丈夫ですよ」
震え声で答えるものの、作中のノアは心の拠り所でもあったネオトピアと、そこに住む人々を失ったことで放心状態となり行方不明になってしまっていた。続きはまだ気になるものの、丁度区切りがいいということもあり、五人は心を休めるためにも一旦解散することにする。そして翌日、時間を作り集まった五人は、さらに続きを見始めることにする。
「……ねえこの爺さんとんでもない邪悪では?」
「割ととんでもないことやってますよね……」
伝説のキースピリットを六体揃えることで呼び出されるタスカーと呼ばれる存在が明らかになったりする中、プロニモと新たなキースピリット、モナディを奪い現れたのはなんとゼッドの母、サラであった。だが彼女が求めていたのはアミル・ガウルであり、それを操る快楽に酔い痴れていたのだ。彼女がこのような状態になってしまった原因は、かつてアミル・ガウルに選ばれた存在としてジーコに元の世界から拉致され、シャードキャスターとして厳しい訓練を受けさせられていたからだった。しかし、本当に選ばれていたのは自分ではなく当時妊娠中の彼女のお腹の中にいたゼッドであり、アミル・ガウルに選ばれた存在ではなかったことを悟ったジーコによって元の世界に帰らされたことで精神を病んで入院してしまっていたのだ。
「というか妊婦さんにあれはないでしょう……」
「……もうこの爺さんを見る目が完全に変わったんだが……」
言うまでもなくただのクソジジイである。完全に女性陣からの、飄々としてはいるが強いしちゃんとしてる老師という評価は完全に地に落ちてしまう。そして、戦いの舞台は最後の地、タスクへと移っていく。そこには、絶対的な力を求めるようになり、ドルガー卿と名乗るようになったノアの姿があった。
「……あの?なんでこんなことになってるんです?」
「精神を三回ぐらい壊されてるのよねこの子……」
「ゼッド以上に波乱万丈な人生を送っているな……というか振り回されすぎているというか」
「そうなったのも全部この爺さんのせいなんだけどね……この人がゼッドのお母さんを連れてこなきゃ何も始まらなかっただろうに」
ハレの言葉にうんうんと全員が頷く中、タスクに六体全てのキースピリットが揃い、ゼッド、ドルガー、タスクが入り混じったキースピリットの争奪戦が始まる。その中で、アミル・ガウル以外の全てのスピリットをドルガーが入手することになる。その後、最後の戦いを控える中、サラとゼッドが再会、アミル・ガウルを手に入れるためなら息子すら毒殺しようとするほどに変わり果ててしまった彼女にゼッドは初めて涙を流し、諦めるようにアミル・ガウルを彼女に渡してしまう。その後、タスクまで追いかけてきたジーコをアミル・ガウルの力で追い詰めようとするサラだったが、最終的にその拒絶反応によって彼女は死んでしまう。だが、死の間際に息子への愛を取り戻せたのは、不幸中の幸いと言えるのかもしれない。
「……遂にサラも死んじゃった……」
「しかも、タスカーも復活しちゃいましたね……」
そして、ゼッドとドルガーの戦いが始まるも、キースピリット五体を従えるドルガーが相手ではゼッドはあまりにも分が悪い。いかにアミル・ガウルが強力無比なスピリットでもこの数が相手では主人を庇いきれずに負けてしまい、ドルガーの下に全てのスピリットが集ったことでタスカーが復活。だが、タスカーに乗っ取られていた友をゼッドが助け、代わりに自分がその生贄となって取り込まれたことで、タスカーは完全な存在へと覚醒。世界中のスピリットを掌握し、人々を抹殺しようとする。その影響で、ロイアを庇ってジーコも致命傷を受けてしまう中、タスカーの中でジーコに語り掛けられたゼッドは、ジーコへの怒りによって我を取り戻す。
『お袋をダメにしちまったのは、てめぇのせいじゃねえか!!』
そもそもの発端がジーコにあることへの怒りを叫び、ブチギレたことで意識を取り戻したゼッドは、アミル・ガウルの名を呼びタスカーから分離。アミル・ガウルと共に最後の戦いに臨む。タスカーも抵抗するものの、キースピリットでも最大の力を誇るアミル・ガウルと依代であったゼッドが分離したことでその力は大きく落ちており、キースピリットたちの力を駆使して戦うも二人には勝てずに敗北。五体のキースピリットは世界中に散っていく。そして、遂にキースピリットに纏わる一連の戦いは幕を下ろすことになるのだった。
それぞれの領域が、新たな明日を歩もうとする中、ノアの姿はテンプラーにあった。そこで車椅子に座り、テンプラーの景色を見つめる彼は、シャードを使うことを止めており、それによってかつて自由に動けるほどまで強化されていた肉体も元に戻っていた。しかし、元の世界とは違い、空気も綺麗な環境で、治療しようと思えばいつでもシャードの力で動けるようになる以上、彼にとっては悪いことばかりではない。辛いことばかりではあったが、最後にはゼッドとの確かな友情も、そして自分がどういう思いで力を欲していたかなど、それらに決着を付けられたことは大きく、景色を見守る彼の表情は柔らかく、安らかなものであった。
そしてゼッドは、元の世界に似た場所にいた。だがそこは、風が吹いており、ビルの屋上で座っていたゼッドが目を開くと、その目はアミル・ガウルと同じものとなっていた。そして彼が屋上から降りると、その背中から白い翼が生え、彼は空へと羽ばたいていく。後に聞こえてくるのは風の音。ただ、風の音だけが響いていくシーンで、牙-KIBA-の話は終わりを告げるのだった。
「「「「「……」」」」」
アニメを最後まで見終えた五人は無言であった。とにかく、満足感は凄かったのはわかる。そして、終わり方も内容の重さやきつさに対し、主人公のゼッドが良い意味でサバサバしているのもあって気にならず、最後の最後で大切なものを取り戻し、前を向いて再び生きていけるようになったノアの姿もあり、確かに爽やかさすら感じる不思議なアニメだと言えるだろう。とはいえ、
「……凄く面白かったけど私二周目嫌だよ」
「同じ意見ですね……」
「仮に見返すとしてもカルブ・フーの後からじゃないと私は絶対観ないな……」
「……何でしょう。凄くこのアニメの中のノア君はかなり酷い目に遭ってるのに見終わったらそこら辺が良い意味で気にならないのは……確かに最後まで見て正解ではありましたねこれは……」
「……本当になんてものを観せてくれたのかしら……ちょっと小説、書こうよ!ってサイト、話には出てたからちょっとだけ気にはなってたんだけど……する気がなくてもこれと比較するようになっちゃうわよ……」
このアニメが刻んだものは色々深かったと思わざるを得ない五人であった。