探索者が英雄へと至るまで 作:名もなき探索者
CCB<=1 【始まりは白い部屋】
目が覚めると見知らぬ白い部屋にいた。
服装はボロ切れのような白いローブ一つ。持ち物はない。
───おかしい。昨日はホテルで寝た筈だ。明日の受験のために雄英近くのホテルを借りて結構早く眠った筈だ。それが気づいたら白い部屋にいる。
《技能》目星ロール:成功
辺りを見渡すと同じく白いローブを着た男女が数人倒れている。察するに青年が一番初めに起きたのだ。
彼らは1つの机を中心にして倒れているようで、起き上がって見てみると机の上には一枚の羊皮紙が置いてある。
羊皮紙には短い文章が一つ。
〝1時間以内に生贄を捧げないと帰れない。帰れなければお迎えが来る〟
真っ赤な血のようなもので書かれた文字。いつもなら何も思わないが今回ばかりは呆然としてしまう。
青年にとってこの光景は何十回何百回と見なれた景色であったから。毎度毎度白い部屋に机とその上に羊皮紙が置かれた部屋。当たり前のように部屋の四方には扉がある。どうせ、暇になった邪神が暇つぶしで起こしたことなのだろう。
だが、
───何で、よりにもよって雄英受験前にくるのかなぁ!!
青年は必死に怒りを堪える。心の中はひどく荒れているものの手は慣れた動きで羊皮紙を裏返す。地図が書かれていた。天井の豆電球を見る。中に小瓶が入っていた。次に自分は全力で四方の扉に向かう。自分の心の中では悪態がとめどなく溢れるにも関わらず、行動はベテランのそれになってしまった。
彼はこっちで言う熟練探索者と同程度の
◯
生贄を捧げた。
生贄は儀式の部屋に陣取っていた駆り立てる恐怖でよかった。安心した。人を使わなくて済んだから。羊皮紙には人間を使えと言う記載は全くない。つまり、人間を使うことを決めて殺し合いでも発生させて愉しむつもりだったのだろう。用意周到に一つの部屋には少女が監禁されていた。
突如、視界一杯に光が溢れる。体全体に謎の浮遊感を感じる。これは何度も体験していて知っている。転移とかその辺の感覚だ。自分は目を瞑り、沈み行く意識を自分の意思で手放した。
◇
目が覚めるとホテルの天井が見える。枕元のスマホをつけるとロック画面に6:25と表示される。
カーテンの隙間から朝日が入ってくる。詰まるところ朝だ。
少し前の出来事をよくある事と一蹴し、のそりとベッドから這い出る。
今日は雄英高校の受験当日。雄英高校といえば驚異の倍率300倍、偏差値79を誇る超進学校。何故進学校にも関わらずギャグと捉えた方がいいんじゃないかと思われる倍率を誇るのかは至極簡単、日本に数少ないヒーロー養成高校だからである。
そんな高校の実技試験当日。体調管理は当然、問題ない。強いていえば夢(だろう)での出来事が足を引っ張るかもしれないが問題なし。
雄英高校ヒーロー科の試験は筆記以外に実技も存在する。──筆記は先日行ったが、偏差値79に違わぬ難易度だったが自己採点で9割取れたため安心していいだろう──この辺りは体育科のある高校と似たようなものだ。内容は何一つわからないが、在校生、卒業生を見た感じ戦闘向きではない〝個性〟の人でも入れるのだ。まぁなんとかなるだろう。
◯
気がついたらぼうっとしていた。いけないいけない。時計を見ると7:25を示していた。
雄英には8:00までに入場する。道路の渋滞、歩道の急な変更なども鑑みて30分ほど前には出ておきたい。例えこのホテルが雄英まで徒歩10分だとしてもだ。それなのに出発まで後5分しかない。30分前に出る理由もないが、自分の取り決めに反するのはなんか癪だ。
自分はハンガーにかけてあった中学校の制服に腕を通し、鞄を背負い、机の上の10秒チャージを手に取る。移動しながらも摂取でき、変なものも入っていないことがわかる市販の食べ物。何度これに助けられたことか。蓋を開け口をつけると一息で飲み干す。ペラペラになった容器をゴミ箱に入れるとこの部屋に用は無くなった。部屋を一面見渡し、忘れ物がないかを確認する。「よし」と呟く。そして自分は首に提げている一つに小さなペンダントと鍵を握り、一度瞑目するとそのまま部屋を後にする。
フロントでチェックアウトの手続きを済ませるとホテルを出る。人工ではない自然の光を浴びて青年は雄英へ続く歩道を歩く。
◇
雄英高校は小高い丘の上に存在している。その敷地は広く、幾つかの施設は向かうためにバスを使うほどだという。
自分が到着する頃には数多くの生徒で入口は溢れかえっていた。敷地への入り口の門も十分に大きい筈だがそれすら霞むほどの人数。ざっと見た感じ100人200人ほどの多種多様な制服の生徒がいる。先日の筆記でも同じように多かったがその時は単語帳や本に夢中だったためあまり周りを見ていられなかった。
敷地内の案内に従ってヒーロー科実技試験説明会場へと赴く。内部は講堂のような作りだがなにぶん広い。500人以上が入れるほどの室内の広さ。〝個性〟のせいで図体が大きい人にも配慮した大きさの椅子。青年は自分の受験票を確認し対応した椅子に座る。ガヤガヤと周りが騒がしい中、暇を持て余し本でも読んでいようかと考え始めた頃、いきなり室内の照明が落ちる。同時に前方のステージにスポットライトが照射される。
「受験生のリスナー!今日は俺のライブへとようこそ!エヴリバディセイ!ヘイ!!」
金髪の奇抜な髪型をしたプロヒーローがライブさながらのコールをするも、誰1人レスポンスせずにただひたすらに静かな時間が続いた。プロヒーロー、プレゼントマイク。ラジオ番組を持っており殆どこのテンションで突き通していた筈だ。プレゼントマイクはすぐさま切り替えて冷静な口調で実技試験の説明を始める。ここまで簡単に切り替わるところを見るに何度か経験があるのだろう。
受験生はそれぞれ割り当てられた別々の会場で模擬市街地演習の試験を行う。事前に知らされてはいたが、武器等の持ち込みは自由とのことだ。これは戦闘向きではない〝個性〟の人に対する温情だろう。青年も何を持っていくか家の穀潰しと選んでいたが、出発時間が近づいていたためか青年のジジイに無手で追い出された。武器がなくてもなんとかなりそうだが、そこは試験の内容によりけりってところだ。的破壊とかの試験であれば嬉しいことだ。
プレゼントマイクの説明に合わせて背後のスクリーンが点灯し、そこに3つのロボットのイラストが現れる。それぞれ見やすい部分に数字が1から3まで書かれている。
「演習には仮想
「質問よろしいでしょうか!?」
説明が一区切りされるが否や受験生側の席からひどく大きな声と共に手が上がる。プレゼントマイクの許可と共にその受験生はバッと勢いよく立ち上がる。
「プリントには四種の敵が記載されています!誤載であれば、日本最高峰たる雄英に於いて恥ずべき痴態!我々受験者は、規範となるヒーローのご指導を求め!この場に座しているのです!……ついでにそこの縮れ毛の君!先程からボソボソと…気が散る!物見遊山のつもりなら即刻、ここから去り給え!」
簡潔に質問をした眼鏡の受験生はついでと言わんばかりに他の受験生を非難する。わかりやすいようになのか彼は指すら突きつけているためこの場の全員の視線がその非難されている受験生に注がれる。その受験生は視線を注がれたからかそもそもの気質なのかその身体を縮こまらせている。その様子が滑稽だったのか一部の受験生の集団からはクスクスと笑い声が響く。滑稽なのは滑稽だが、こんな人の多いところで全員に注目が行くように指摘することやその様子を見て笑うのは些か拙い。そんな受験生に目をつけられてしまったもじゃもじゃ頭の受験生は運がない。可哀想に。と心の中で同情する。
「オーケーオーケー受験番号7111君、ナイスお便りサンキューな。それでこの4種目だが、この仮想
ほう、破壊せずに逃げるのが吉、か。お邪魔虫であり1体だけということから考えうるにその躯体は巨大なのだろう。そうでなければ1体だけにする理由がない。
───壊してみたい。
刀で一刀両断したい。槍で穿ち風穴を開けたい。蹴りで凹ませたい。拳で一切合切粉砕したい。
……………ああ、楽しみだ。
◇
場面は転じて会場である。受験票に書かれていたのはD会場。自身の他に同じ学校から受験していた生徒とは別会場のようだ。会場を分けたのはこう言った学校ごとでの協力を防ぐためなのだろう。
まだ、規定時間まで5分ほどあるため最低限の準備運動をする。服装はジャージが良かったのだが持ってきていなかったため制服だ。服装なんぞ走って蹴りを入れればそれでいいから何ら問題ない。普段から事件に巻き込まれるからかどんな服装でも動けるように慣れてしまった。
「あぁ、手持ち無沙汰だなぁ」
知らず知らずのうちにぼやきが出てしまった。普段は何かしらの獲物を持っていたため、手に何もないのはひどく物寂しい。キックも使うことがあるが威力を考えると武器があった方が嬉しい。しかし、彼の家のジジイは無手で鉄板を切り捨てるのだから意味がわからない。鍛錬の賜物と言っていたが、本当だろうかも怪しい。無個性というのは嘘なのではないか?と日々思ってしまう。
そろそろ規定時刻に差し掛かったため、青年は会場の入り口間近に位置取る。入り口はすでに開け放たれており、会場内部は実際の街並みを再現したものになっている。みたところ仮想
「はい、よーいスタート」
《技能》聞き耳ロール:クリティカル
瞬間、足に力が籠る。勢いよく地面を蹴り上げ真っ先に前方へと飛び出す。
完全に本能のままに動いてしまった。幾分か走った頃に背後を見てみるとモタモタと走り始める自分以外の受験生の姿を見る。教師であろう人物に急かされると漸く始まったことに気がついたらしい。
そんな事はさておき、目の前の仮想
「さて、どのくらいの硬さかな」
『目標ホソク、ブッ潰ス!!』
1P
《技能》キック・跳躍複合ロール:両方成功
「まあ、そこそこか」
この音を聞いたのか何体もの1P
それらは自分をカメラに収めると機械的な声で戦闘体制に入る。はじめに先頭にいた1P敵が拳を振り上げる。その拳は自分の目でも捉えることができ、そこまで速くないことがわかる。それなら簡単だ。
サバットの動きを使い先頭の1P
後方の1P敵は倒しきれなかったのか動き始めている。自分はそれのメインカメラがあるであろう隻眼の部分に蹴りを入れ確実に戦闘不能にしていく。時折、2P敵や3P敵が混じっているが問答無用で潰していく。3分後、自分の周りには30体以上の残骸が転がっていた。
「大体30体か」
敵の残骸を確認しながら使えそうな装甲を拾うと中央の激戦区に向けて足を運ぶ。
中央では多くの受験生が〝個性〟を使って仮想敵と戦闘を繰り広げている。炎が水が辺りを舞い、凄まじい膂力で仮想敵が吹き飛ぶ。その被害は仮想敵以外に辺りの建造物にも及ぶ。窓ガラスが割れ、塀が砕け、地面が陥没する。
「うぅ……」
「大丈夫か?」
その被害に巻き込まれたのか瓦礫に足を挟まれた受験生を見つける。放っておくこともできず、近づき安否を確認する。呻き声が聞こえるためまだ大事に至ってはいないだろう。それはそれとして急いで瓦礫を撤去しなければ足が使い物にならなくなるかもしれない。
「ちょっと待ってろ。今助ける」
瓦礫に手をかける。瓦礫は人の大きさほどあるが難なく持ち上げることができた。自分が持ち上げている間に受験生は這いずりながら脱出する。幸い足は少し打撲した程度だった。だが、彼はここで敗退だろう。この足では動くこともままならない。
「…ありがと」
「いや、困った時はお互い様だろ」
ちょうど持っていた超簡易的な救急セットから包帯を取り出し、近場の木材を添木にして応急手当をする。そこまでスムーズに終えると自分ももう少し点数を稼ぎたかったため、足早にその場を離れる。助けるところまでは手伝った。あとは彼自身がどうにかするだろう。いや、しろ。
◯
「いねぇ」
あれから5分。走り回れど見つかるのは残骸のみ。それ以外には先ほどの彼のように怪我をしていたり1人では行動不可能な受験生が見つかる程度。それらを助けながらだとあまり広くは移動できなかったが行ける範囲は全て見た。路地裏、建物内、屋上。ありとあらゆるところを見たが残骸しか見つからない。
《技能》目星ロール:失敗
「チッ」
脳裏に響く無機質な言葉に苛立ちが募りつつ辺りを見渡す。
残り時間は約2分。20ポイント程度では合格できるか怪しいラインなためできるだけ仮想敵を倒しておきたい。刻一刻と迫るタイムリミットが思考を侵食する。時間が迫れば迫るほどに思考が鈍ってしまうのが手に取るようにわかる。
無理なら無理で諦めるか?
《技能》アイデアロール・苛立ちによるマイナス補正:ファンブル
「考えてても埒が開かねぇ。今はとりあえず動くしかないか」
何かアイデアが浮かびそうだったが、それは最も容易く引っ込んだ。考えても意味がないのなら時間ギリギリまで行動するだけだ。
そのためにも一歩踏み出そうとした瞬間、違和感が彼の心を撫でる。
情報:異音、瓦礫の揺れ
考察:地震若しくは巨大な物体の行動
その無機質な言葉を機に彼は体を身構える。受験生の中で彼だけがその小さな異変に気がついた。その異変は徐々に大きくなり辺りを揺らし始める。
ソレはビルを倒壊させながら登場した。無骨でロボット然とした風貌はこれまで戦ってきた仮想敵のそれ。しかし、体躯は5階建ビルを易々と超える程大きい。少し動くだけで接触した建物が軋み、時には崩れる。動く災害と称することができる存在。
───0P敵。
脳裏に先ほどの説明がよぎる。倒しても意味のないお邪魔虫。逃げることをお勧めするほどのものとはどういうものか気になっていたが、ここまでとは思いもしなかった。ただ巨大。しかし、それは矮小な人間にとっては逃げるべき大きさ。戦闘になれた人物ですら倒すよりも逃げることを選択するだろう。鼠が猫から逃げるように。
辺りからは逃げ惑う受験生の声が聞こえる。我先にと他の受験生を押し除け逃げる人を見る。青年はその逃げ惑う道の流れの中に立っている。
体が震える。視線がその0P敵に向かう。いつの日か戦った化け物よりは威圧感がない。それでも、無尽蔵に辺りを破壊するそれに少しばかり恐怖を抱く。
「は、はは…」
「!?あんた、何してんの!?早く逃げなきゃ」
誰かが青年の体に触れる。必死の形相で彼に逃げるように促す。
しかし、彼の足は反して一歩また一歩と前に向かう。手は首から下げられたペンダントを握っている。
「…ありがとう。でも、大丈夫」
「ちょっと!!」
青年はペンダントをしまうと駆け出す。地を踏み締め、0P敵を見据えてただ走る。背後から少女の声が聞こえたが彼はそれで止まるほど冷静ではなかった。
思い出すは過去の戦闘。血湧き肉躍るあの戦い。死という概念そのもののような、神との戦闘経験が思い起こされる。
彼は今、酷く興奮していた。あの時の神ほど強くはないだろうがそれと同じほどの大きさの敵。それを打倒することに彼の意識は奪われていた。
瓦礫が辺りに降り注ぐ。仮想敵の残骸を潰し、青年すらも潰しにかかろうと落ちてくる。それをすんでのところで躱しさらに足を早める。
残るは1分。
「ちょっとあんた!!」
青年の耳に先ほどの少女の声が聞こえる。声の方向を見ると少女が追走してきている。時折、瓦礫に躓きそうになるも必死に青年の速度に合わせて走っている。
「アレを倒す」
「はぁ!?無理でしょ!早く逃げなきゃやられるよ!?」
「大丈夫だ。俺1人でできる」
少女の目の色が変わる。不安そうな色から必死なもの、ありとあらゆる色を経て一つの色に変化する。
「あれを倒す算段があるのね?うちに手伝えることはない?」
「個性は?」
「イヤホンジャック。耳朶のプラグを通して音を増幅させる。ちょっとしたものなら砕ける」
「了解。いつでもいい、アレの足元を砕けるか?」
「わかった。やってみる」
それは覚悟を持った瞳。青年の瞳と同じ色を持っていた。
端的に情報を交換し合った2人は、目的のために走る。
◯
残り30秒。
0P敵から約10mほどの地点に到達した。下から見上げるほどにそれは巨体で、隣に立つ少女は恐怖からか震えている。かと思うと、少女は自らの頬を叩きキッと正面の0P敵を見据える。
「やるよ!」
「…了解!」
少女のイヤホンジャックを模した耳朶が伸びる。プラグ部分は地面に簡単に突き刺さる。
少女の掛け声に合わせて青年は走り出す。
残り20秒。
「砕…けろ!!」
少女の心音が増幅され地面に罅が入る。それは連鎖的に0P敵の足元までもを砕く。
不安定になった足元のせいで0P敵の姿勢が前のめりによろめく。
残り10秒。
青年は0P敵の目の前に来た瞬間、勢いをつけて跳び立つ。砕け空を舞う瓦礫を足場に2度目の跳躍。ビルの外壁を足場に3度目の跳躍。その後も4度目、5度目と跳躍を繰り返し、遂に0P敵の頭上に到達する。
「ははっ!!さァて、強度を検証してやろう」
《技能》跳躍*5・マーシャルアーツ・キック複合ロール:クリティカル
残り5秒。
青年の放つライダーキックは的確に0P敵の頭部を捉える。
瞬間、0P敵の装甲が破れる。それだけで収まらず、頭部を粉々に砕く。
残り1秒。
頭部を失った0P敵は重力を受け、前方に崩れ落ちた。
青年はその崩れ落ちた0P敵の上に降り立つ。
残り0秒。
試験終了を告げるブザーが鳴った。
◯
「大丈夫!?」
少女が青年の元に駆け寄る。青年は0P敵の上で空を見上げて横たわっていた。
「ねぇ!君!!」
「ん、あぁ。あんたか。……やったな」
青年は拳を突き出す。
「あ、……うん!」
少女はその拳に自分の拳を当てる。
「くはっ、ははははははっ」
「ふふっ」
どこかむず痒かったのか喉の奥から笑い声が溢れた。
一頻り笑った後、青年が切り出す。
「あぁ、ええっと」
「あ…うちは耳郎響香。よろしく」
「俺は『篠宮玲』だ。じゃあ、お互い受かってることを祈るよ」
◇
雄英高校会議室。
机が楕円を描くように配置されており、全ての席に教師が着席している。今日、ここには全雄英教師が試験記録を見るために集まっているのだ。
「まさか、2会場で0P敵が倒されるとはな」
「過去にも立ち向かった者はいたけど、倒されるのは久々ね」
彼らが見ているのは試験にて上位の成績を残した人物。再確認も含めてこうして大勢で一人一人の行動を見る。
画面は10個に分割され、それぞれ上位10人の行動が映し出されている。
「それにしても救助ポイント0で同率1位とはな!!」
「後半他の受験生に疲れが見える中、変わらず倒し続けたのはタフネスの賜物だな」
「対照的に敵ポイント0で8位。最後に0P敵を倒したがそれと引き換えに負傷したみたいだな」
「これじゃあまるで、個性の使い方を知らない子供のようだ」
教師が発言するたびに画面内の人物に視線が向く。
「そして、こいつか」
「敵ポイント35に救助ポイント40。救助も手慣れた様子だったな。受験生が自前の応急キットを取り出すとは思いもしなかった」
「で、最後に他の受験生と共同で0P敵の破壊。あれで無個性だなんて、誰も思いもしないだろう」
「それで、どうする?」
「本来なら問答無用で合格だ。というか、これで合格じゃなけりゃ、こいつともう1人以外全員不合格だ。それほどだぞ。…だが、無個性なのがな。……ヒーロー科は個性ありきで授業を組んでる。それについて行けるのか」
彼の話題となるが、教師は皆消極的だ。
無個性。それが、彼の足を引っ張っていた。現代、誰もが何かしらの個性を発現する世の中だが無個性はさほど珍しくはない。だが、そういった無個性がヒーローになろうとするのは非常に難しかった。拳銃を持っている犯罪者に丸腰で挑むようなもの。どれだけ武装しようがその前提は変わらない。
「HAHA!!うちは誰にでも門戸を開く校風さ!彼が個性がなくてもヒーローになりたくて来たのに個性がないことを理由に却下するなんて言語道断さ!!それに、無個性でもヒーローをやっている人だっているじゃないか!」
「わかりました。それじゃあ、篠宮玲を次席として合格させることにする」
◇
ところは変わって篠宮邸。
古風な日本家屋で敷地面積も周りの家の数倍はある。建物や庭を囲むように白い漆喰の塀が並び、入り口は重厚な木製の門である。庭には鯉の泳ぐ溜池や丁寧に剪定された松や楓が立ち並ぶ。建物は昔ながらの木製の二階建て。瓦の屋根が古風さをさらに引き立てる。
「ただいま」
玲は建物に入り、いつも誰かしらがいる居間に顔を出す。
「くそっ、なんでそこで抜かれるんだ!!……あ、おかえり」
「お邪魔してま〜す」
居間にはテレビで競馬を見ながら馬券を握りしめている老人と何故か囲炉裏で魚を焼きながらお櫃から直接米を食っている美男子がいた。
《技能》クトゥルフ神話:成功
「……おい、穀潰し。なんでこいつ入れてんだよ」
「はぁ?いや、儂に言われても知らんし」
「飯うまいでーす」
「ちっ。おい、ただ飯喰らい。出てけ。てかそのお櫃、うちのだろ」
「ふっ、取り返してみせろよ」
《技能》拳・マーシャルアーツ・武道【古武術】・その他武道複合ロール:成功
「テメェに食わせる飯なんてねぇんだよ!!」
美男子の顔面に拳が炸裂した。
名前:篠宮玲
職業:学生
年齢:15
性別:男
身長/体重:175cm/65kg
出身:日本
特徴:《寄せ餌》《不屈の精神力》
入試スコア:敵P35、救助P40、合計75P、2位
個性:暫定無し(無個性)
現代では珍しくなってしまった〝個性〟を持たない存在。彼自身は幼少期に頭の中に声が聞こえると話していたが、個性因子を持たず他者が見てわかるものでもなかったため幼少期特有の妄想の類と推測。以降、妄想の類を話さなくなったため無個性と断定。
世界との対抗ロール:成功
《天の声》
天からの声が聞こえる。それは当人にしかわからない。声は無機質にシステムを伝える。彼の行動はシステムによって決められる。しかし、それは彼の味方だ。それは彼の動きを阻害することはあるがそれ以上に彼の手助けをするものである。
これは〝個性〟ではない。もっと異常な概念的事象である。