探索者が英雄へと至るまで 作:名もなき探索者
「あらら、マスコミが大量やね。火伊那ちゃん」
「そうね。どうせ、オールマイトの話を聞きつけたハイエナでしょう」
「うおっ、辛辣」
「あんなの、ゴミに集る蠅と同じよ。いるだけで邪魔」
「というか、車はどうしたん?昨日の朝まであったやないか」
「ん、あぁ。車検よ、車検。1週間くらい返ってこないから」
「そっか」
「あのっ、すみません!!レディ・ナガンさんですよね!?プロヒーローの」
不意に隣から声が聞こえた。
見ると1人の女性記者がメモ帳片手でインタビューをしようとしている。それも、玲と談笑している火伊那に対して。
火伊那はそんなマスコミに一瞬だけ嫌そうな顔をするも、すぐにもとの無表情寄りの笑顔に戻して答える。
「まあ、そうですね」
「そうですよね!?それじゃあ、レディ・ナガンさんも教師として?」
「一応そんな感じですねー」
「それじゃあ、レディ・ナガンさんから見てオールマイトはどう言う感じですか?」
「そうです。オールマイトはどんな授業をしていますか?」
「オールマイトは!!」
「オールマイトは?」
突如として他の登校中の生徒に集っていたマスコミが集合してくる。玲達の道を占領して取り囲みマイクやカメラを向ける。人の予定なんて気にしていない様子。
何一つ面白くない。
みんな口を開けばオールマイト、オールマイト。馬鹿の一つ覚えのように褒め称える。有象無象のヒーローよりもたった1人の最高のヒーローであるオールマイトを求めるのはわかるが、それでも、今目の前にはちゃんとヒーローがいるだろう?
「火伊那ちゃん。さっさと行こうよ。こんな火伊那ちゃんの凄さを知らない蛆虫なんて放っておいてさ」
「あ、えっ。そうだね?」
「と、言うことでさ。……邪魔なんだよね。退いてくんない?」
酷く冷え切った声色だった。笑顔を振りまいているも、その瞳は冷ややかで周りを蔑んでいる。見れば見るほど飲み込まれてしまいそうな深淵にマスコミは一歩、また一歩と退いてしまう。
「ありがとー。じゃ、行こっか」
「あ、あぁ」
静寂が辺りを支配する。玲は火伊那の手を取るとゆっくりとマスコミのいなくなった道を歩く。周りのマスコミは誰も声すら出せず、ただただ玲が歩くのを見ていることしかできなかった。
◇
あれから数日。学級委員長を決めたり、校門が何者かによって粉々に粉砕されたりと色々なことがあったが割愛しよう。
今日の実習は敷地内だが少し離れた施設を使うらしくバスで移動している。
玲の今日の装備は模造刀である。刃はついていないが何故か抜刀威力を出すために鯉口部分にブースターがついている。これによって抜刀する際の力を楽にし、威力を上げることで模造刀であっても岩すら斬れるそうだ。オンオフも可能でこういった訓練ではオフにすることが推奨されている。何を食べればこんなことを思いつくのだろうか。しかし、玲は模造刀であってもその類稀なる筋力を使うことで岩、いや鋼鉄くらいなら簡単に断ち斬れる。実質、無用の長物だ。玲は模造刀を上着の背中部分のベルトで横に固定している。
「ふーん。初めて触ったけど、すごいロマン武器だな」
模造刀の鯉口部分には特定の人物しか抜けないように指紋認証機能までもがついている。どれだけ無駄な技術力を込められたかが一目でわかってしまう。こんなものに注力するより全く新しい武器を作ったほうが効率がいいのではないかと疑問に思ってしまう。
バスの中では全て抜くことができないため、少しだけ抜いて刃を見る。ちゃんと刃は取られているが強度を上げるためなのか刀を作るのと同じ玉鋼が使われているようだ。ただの模造刀を要望したはずだがこんなものが送られてくるとは、サポート科は頭がおかしいのだろう。
「お前ら、そろそろ着くから準備しとけ」
「「「はーい」」」
相澤先生が言う通り、向こうにはそれらしき施設が見えてきていた。
玲は模造刀をしまい、上着に仕込んでいる小物の点検をする。発煙筒から閃光手榴弾、催涙スプレーにスタンガン。暗器の類からメリケンサックなど数えるだけで数十はあるだろう小物。どれもこれも戦闘時の手数を強化してくれる大切な武器である。銃火器も一通りは使えるが今回はデザートイーグルで妥協した。しかも、1マガジンしか用意していないのでほぼ使う機会はないだろう。ジャコとスライドを引き、問題ないことを確認すると太もものホルスターにしまう。暗器の類も元のポケットやホルスターにしまい準備を終える。
◇
いつか怒られるんじゃないか。いや、怒られてほしい。
そんな版権ガン無視の施設の前には全身宇宙服のような防護服のようなコスチュームを身に纏ったヒーローがいる。
13号先生だ。名前だけはジジイから聞いたことがあったが実際に目にしたのはこれが初めてだ。ジジイや火伊那ちゃんが前に共闘した時の話だと女性のようだが、この外見や声からは想像もつかない。全身を覆う服と中性的な声は男性と言われても違和感がない。
13号先生の誘導の下、USJ内部に入るとそこは名前を体現するかのような施設だった。中央には大きな広場、それを中心に四方にはそれぞれ水害や火災、地震による倒壊など数多くの災害をもした建造物が建ち並んでいた。それらが一望できる入り口付近で説明が始まる。
「えー、始める前にお小言を一つ、二つ、三つ、四つ……」
そこからは彼女の個性や体験による個性の危険性についての話が出た。個性を持たない玲であるが、彼女の声は気迫に満ちており耳を傾けてしまうものだった。
「…人を簡単に殺すことができる力です。皆さんの中にもそう言う個性の人がいるでしょう。僕もそうです」
人を殺す。それは真理だった。
誰もが個性を持つ現代。個性によって炎を出したり異常なまでの筋力を得たり人を塵に変えたり、それは個性と謳っているが他者に向ければ危険な兵器そのもの。個性がでる以前より銃刀法が緩和されているのもそれの影響だ。武器と同じ、使い方を誤れば意図も容易く人を殺すことができる。彼女はその危険性をヒーロー目指して浮かれ切っている雄英生に伝えたいのだろう。
「この授業では、自身の個性を人命の為にどう生かすかを学びます。君達の力は人を傷つけるためにあるのではない、救けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな」
彼女は最後にそう締め括った。
「と言うわけで、ご清聴ありがとうございました!!」
クラスメイトから拍手が溢れる。玲も同様、拍手をしていた。個性を持たない彼だが人を殺すことへの覚悟は人一倍持っている。これまでの事件でとても身に染みている。故に、彼女の言葉は彼にも刺さるところがあった。
「それじゃあ、」
相澤先生が13号先生の後に説明をしようとした瞬間。
広場に黒いモヤが溢れる。
「ッ、一塊になって動くな!!」
「なんだ!?もう始まってるパターンか!?」
「違う!!あれは───────」
結果:敵だ
「
◯
「ハァ、せっかく大勢引き連れてきたってのに。オールマイトはいねぇなんて………」
全身に手をつけた青年が現れる。
「─────子供を殺せば、来るか?」
殺気が溢れる。
一般人よりも上等な殺気。それは瞬く間にクラスメイトを不安に、混乱に陥れる。
「馬鹿だろ!?ヴィランがヒーローの巣窟に乗り込んでくるなんて自殺行為だろ!?」
「13号!!侵入者用のセンサーは!?」
「ありますが、機能していないようです!」
センサーが機能していないとなると、センサーが壊れていたかヴィラン側に何かしらのセンサーの妨害ができるものがあるかのどちらかだろう。こんなに手の込んだ施設がある雄英が前者をするとは思えないため、十中八九後者。もっと言えば、電磁波系の個性がいるのだろう。
「電気ちゃん。電波使ったらセンサーって妨害できるよね?」
「あ、あぁ。できるはずだ」
「はぁ。てことは、こっちからは連絡できないようになってるかな。ほらこんな感じに」
玲がポケットからスマホを取り出すとそこには圏外と映し出される。
これにより、雄英敷地内であるはずのこの施設だけが外部と遮断された陸の孤島と化したのだった。
「13号!!生徒を避難させろ!!俺が足止めする」
「はいっ!!みんな、行きますよ!」
相澤先生はゴーグルを装着するとマフラーに手をかける。
相澤先生の個性は「消失」。見た者の個性を一時的に消し去る個性。
ヴィランの群れに飛び込んだ相澤先生はその捕縛布と体術を操り、ヴィランの群れを掃討していく。
ヴィランにとって個性が一番の攻撃手段。それを消されて仕舞えばただのチンピラと同義となるだろう。
「す、すごい。相澤先生は多対一こそが得意分野だったんだ」
「急ぎますよ!!」
相澤の戦闘に身惚れている緑谷の意識を引き戻すかのような13号の声が響く。玲含むクラスメイトは13号の指示に従って施設の脱出を目指す。
玲は腰の刀に手をかけいつでも抜けるように準備している。これは彼の癖のようなものであった。
「逃しませんよ」
目の前にモヤの体をしたヴィランが立ちはだかる。広場で見せたのと同じならワープ系の個性だろう。
「初めまして。私は黒霧。そして私たちは
「オールマイトに息絶えて頂こうと言うわけです」
生徒の間に動揺が走る。
しかし、恐怖をものともせずに立ち向かうものがいた。
「合わせろ!!クソボケどもが!!」
「了、解!!」
「おうっ!!」
殺せ
脳内に言葉が反射する。いつもの感覚が溢れる。そうだ、敵だ。邪魔するものは潰す。殺す。はっ倒す。いつもそうしてきただろう。そして、これからもそうするだろう?
爆豪の爆破が、切島の切り裂きが、そして玲の斬撃がヴィランに入る。
「ちっ、避けたか」
「生徒といえども金の卵ですか……少しばかり軽視していました」
「それでは───────────散らして、嬲り殺す」
辺り一面に黒いモヤが溢れ出る。これがヴィランの攻撃だと気付いた時にはもう遅かった。
クラスメイトの殆どがモヤに飲み込まれ全く別のところへと転送されたから。そして、玲も同様に黒いモヤに飲み込まれた。
◇
「チッ」
玲がいるのは辺り一面炎に包まれている火災ゾーン。そして玲を取り囲むように大勢のヴィランが立っている。
「1人だけか。まあいい、雄英生徒をボコボコにできる機会なんてもう回ってこねぇからな!!」
「リンチみたいで申し訳ないが、これも俺たちの仕事なんだよ」
「未来ある雄英生徒だけど、ここで死んでもらう」
これから起きることを思ってヴィラン達は高揚感で溢れている。1人だけの雄英生徒に対してヴィラン側は十数人。負ける道理がない。
だが、ヴィラン達は知る由もなかった。目の前にいるのがいかに化け物かと言うことを。
「うるせぇ。……ノーデンス、力貸せ」
「なんじゃ?いいところだったんじゃが」
突如、空間に穴が開く。黒霧のような個性だがそれ以上に何か禍々しいものを感じる。
「俺とお前で契約したんだ。さっさとこい」
「はぁ、何のようなんじゃ?儂は今、いいところなんじゃよ。片手間でしか手伝わんぞ」
「この施設内の俺のクラスメイトと教師を全員、雄英校舎に送ってくれ。出来るだろ?あと、俺を広場に飛ばせ」
「それくらいならいいぞ」
門から顔を出していた老人は姿を引っ込める。開きっぱなしの門に玲は足を踏み入れる。
「おい!!待ちやがれ!!」
「黙れ。お前らに関わってる暇がねぇんだよ」
怒気を孕ませた視線。殺意にも見えるそれによってヴィランは足踏みしてしまう。
その間にも玲は門の中に入っていき、門は閉じた。
◇
広場。
辺り一体にいたヴィランを難なく倒し、相澤先生は主犯のヴィランと相対していた。
ぶつかり合う拳と捕縛布。全身に手をつけたヴィランの横に侍っていた黒光りのヴィランと戦っているのだ。
「対平和の象徴、改人『脳無』。例えあんたの個性が人の個性を消せると言っても、絶大な暴力の前では意味ないね」
脳みそがむき出しのヴィラン。異形系のようなそれは瞬く間に相澤先生に強襲する。
スピードもパワーもそこらの増強系の比じゃないほどの高威力。敵を捕縛するための捕縛布は合金でできているはずだが、最も容易く破られる。
「ちっ、面倒くさい」
「ほらほら、どうした?ヒーロー?俺の脳無に手も足も出ないだろう?」
「がぁっ!?」
脳無が相澤先生の腕を掴む。メキメキと音を立てて腕が軋み、ポキッと小気味いい音と共に折れる。
顔にまで手が張り付いていて表情はわからないものの、主犯のヴィランは酷く嬉しそうな声色で喋る。
「ヒーローが脳無に簡単に敗北するなんてねぇ。さて、ここで1人くらいヒーローを殺してから行こうか」
「死柄木弔」
「あ゙、黒霧か。13号はやったのか?」
「すみません、弔。生徒に逃げられました」
「はぁ!?お前がいてなんで逃げられるんだ!?」
「それは─────────」
「こう言うことだよ。クソ野郎」
結果:対象は回避不可
突如、死柄木弔の背後に門が開かれる。
勢いよく門から飛び出した玲はその無防備な背中に模造刀を叩きつける。
「がぁぁぁあああ!?!?なんなんだよ、クソがぁ!!!」
「弔!?」
「あぁ、くそ。そう言えばこれ模造刀か」
玲は背中を押さえて悶えうつ死柄木をよそに相澤先生の元へと駆け寄る。
「篠宮、おまえ」
「大丈夫です、先生。寝ててください」
「な、に」
「ノーデンス、頼んだ。あと武器」
相澤先生の足元に門が出現する。吸い込まれるように消えていく相澤先生と対照に、門から一振りの日本刀が現れる。なんの変哲もないただの日本刀。しかし、彼にとってはこの上ないほどの相棒となる。
日本刀を腰のベルトに差し、眼前を見る。その眼は普段のおちゃらけたものではなく、人を殺すと言う確固たる意志を持った眼。目の前の死柄木らを見据え、静かに呟く。
「ここには俺とお前らしかいない。こいよ。殺し合いの時間だ」
「やれぇ!!脳無!!あいつをぐしゃぐしゃに殺してやれ!!」
火蓋は切られた
◯
《技能》日本刀・武道【抜刀術】・武道【居合術】複合ロール:成功
「抜刀」
腰を落とし日本刀に手をかける。彼の紡がれる言葉と共に刀が勢いよく引き抜かれる。
彼が抜刀と共に高速で移動し、瞬時に脳無の背後に回る。チンと刀が鞘に収められると同時に脳無の右腕が落ちる。皮一枚だけ残ったのか地面に落ちることはない。脳無はその剥き出しの目を向けて驚いている様子だが、それとは正反対に腕は当たり前かのように再生していた。
「─────────ッ!?」
「ちっ。一閃」
再生を見た玲はすぐさま次の攻撃を与える。今度は居合術などではなく普通の袈裟斬り。いつもなら鋼鉄くらいは簡単に切り捨てられる攻撃だが、脳無の体は両断されることなく、深く切り込まれるだけであった。更にはその傷もものの数秒で元通りになり、全くの無意味となる。
「はぁ、再生するのかよ。めんどくせぇな」
「はははっ!!!どうだ!?再生にショック吸収、オールマイト専用脳無だからな!!お前程度にどうしようもできないんだよッ!!」
「弔。敵に情報を送るのはどうかと」
「どうせここで死ぬやつに教えても問題ないだろ!!」
「再生、ショック吸収ねぇ………ノーデンス、武器」
ガゴンと空中から武器が落ちてくる。それは黒く鈍く輝き、6つの銃身がひとまとまりになっている。そう、ミニガン。
「これならどうだ?」
《技能》マシンガン*6000:成功(3057回)
ズガガガガガガガガガガガガガ!!!!!
毎分6000発。毎秒100発の銃弾が脳無を襲う。全弾ヒットすることはないがそれでも半分以上は脳無の全身に襲いかかる。
弾が尽きるまで1分。脳無はなす術なくその弾幕に体を晒した。
1分後。脳無の肉体には無数の風穴が開いていた。それでも尚生命力は高く微に動いている。
その後方には死柄木と呼ばれた敵がいたはずだが、彼らの無傷のようだ。恐らく、ワープ持ちが阻止したのだろう。
「これでもダメか」
脳無の肉体が蠢き、傷を埋めるように続々と動き回る。数秒経つとその肉体は元から傷がなかったかのように綺麗なものになっていた。
「次。シュッ、ぽーい」
上着の中から赤い包装のアイテムを取り出すと包装を剥いで火をつける。フィリピン爆竹だ。その威力は動画を視聴の読者は知っているだろう。それを勢いよく投げつける。
ドガンッと音を立てて脳無諸共爆発する。その辺の一般的な神話生物であれば軽々と葬れる威力であり、最も容易く脳無の上半身が削れる。しかし、再生はそれをも上回り、数分後には元通りだ。
「どうしたものか」
「────────────ッガァァァ!!!」
思考に時間を割いてしまったためか、脳無に動く時間を与えてしまう。無我夢中に飛び出し、その拳を玲に振り下ろす。脳無に思考力は殆どない。基本的に指示に従い、その指示の範疇で思考を行う。それでも、酷く強い感情に後押しされて自らの意思で攻撃を行なった。
「危ないなぁ。連続攻撃だったら死んでたよ」
玲には当たらない。我武者羅に振るったためか、はたまた玲の技量か。脳無の攻撃はただ空を切るのみ。即死でもなければ連続攻撃でもない、受ければ気絶するかもしれない程度の攻撃。幾度と神話生物、神格と相対した玲にとってこれほど温いものはない。
「死ねぇええ!!」
脳無から距離を取るように軽々とジャンプをする。着地して一度体制と考えを纏めてから戦おうとした時、唐突に虚空から現れた手に右腕を掴まれる。
咄嗟に下手人から手を振り解き足を打ち込む。
「はっ?」
右腕が触られた部分を起点にボロボロと崩れ始める。
これは一度過去に見たことがある光景だ。とある村に行った際に出会った神格の能力。クァチル・ウタウス。ミイラのような風貌の神格はその大きな手で触れたモノを最も容易く塵にする。触られたら最期、例え《延長》を使っていたとしても死ぬだろう。そんな神格と同じ能力。幸いにこちらの方が進行が遅い。
「ちっ!!!」
ザシュッ!!
咄嗟に左手で日本刀を持ち二の腕から右腕を斬り捨てる。
《システム》欠損を確認。体力上限を削ります
「───ッ!……《治癒》ッ!!」
《呪文》治癒:欠損の修復。体力上限を戻します
一文節で唱えられる呪文を紡ぐ。腕やら足を自ら切り落とすのは過去にもあった。それでもいまだに慣れず、目の前がチカチカと点滅する。それでもすぐに行える治療行為を行う。初めて覚えることとなった《治癒》という呪文。傷や病気であれば治すことのできる呪文。玲はその傷の認識を変えて欠損程度であれば治せるようにまでなっている。
ジクジクと傷口が蠢き新たな腕を作ろうとする。数ヶ月ぶりの感覚に少し気持ち悪いものがある。それでも止血が始まっており動ける程度には意識も戻ってきたので問題ない。左手で日本刀を持ち正面を見据える。
《技能》アイデアロール:成功
「……なんだ?個性だとして、崩壊ってところか」
「はぁ!?なんで死なねぇんだよ!!」
「いや、久々に死にそうで恐怖したよ。もっと誇れよ」
「あ゙あ゙!!!!何してんだよ!!早く殺せよ!脳無!!黒霧も見てないであいつを殺せ!!」
「──しかし、それでは弔の警護が」
「そんなもんよりあいつを殺せ!!」
まるで子供の癇癪のように死柄木は喚き散らす。黒霧はそれに押されるように戦闘に参加し出す。
「それでは弔のためにも、早く死んでもらいます」
「物理無効の即死ってほんとうざいなぁ!!」
黒霧が個性を使うたびに玲を飲み込むかのようにワープゲートが生成される。玲は瞬時にその意図を理解してすぐさま回避する。黒霧が今したのはは玲がワープゲートに入った途端に個性を解除し無理やり肉体を分割するという、ワープゲートを持つものなら誰しも一度は思いつくであろう即死技だ。
玲自身何度か構想していたため咄嗟の判断で回避できたのだ。
「ちっ、だりぃ。消し飛ばすか。……ノーデンス、武器」
「面倒臭いのう。お前ならあの程度簡単に消し飛ばせるじゃろ?」
「運に左右されるんだよ。ちょっと待て」
ノーデンスが一振りの刀を差し出す。それは一層無骨で華美な装飾もない。しかし、それには人の足を止めるほどに威圧感があった。綺麗に治った右手で刀を手に取る。
「これを抜くのは久々だ」
刀は意志を持っているようにカタカタと動く。神代に鍛造されたこの武器は明確に意志を持っている。ある一定の種族にしか抜くことのできない刀。天候すらも操る権能を持つ刀。とある村で出会ったこの刀、それ以降これは玲の切り札とも言える存在になった。
「抜刀:天叢雲剣」
本来、天叢雲剣の原典は消失しており、レプリカのみが国家によって厳重に管理されている。しかし、ここにあるのはその原典。時代によって持ち主の求める形に変化してきており、レプリカとは一切合切形状が異なる。故に、見つかることなく玲の手元に存在している。
「なっ、なんなんだよ!!それは!!」
天叢雲剣を腰にあてがい構えをとる。それは酷く隙だらけでいつでも殺せる筈だ。しかし、刀の威圧感に縛られて誰も動くことができない。
「──────死ね」
《技能》日本刀・居合術・抜刀術・武道【我流居合術】・武道【無外流居合兵道】・武道【神道無念流】・武道【無雙神傳英信流】etc.複合ロール:クリティカル
ダイスは彼に味方した。
玲にとって数十秒にも思える一瞬の間。モノクロで音の消えた世界が彼の目に映る。玲は無心で刀を引き抜く。
その一太刀は空をも切り裂き、天叢雲剣固有の風をぶつけるという能力とも相まって空間を切り裂きながら脳無へと到達する。一つの音もなく、ただ当たり前のように脳無を両断し、その威力は止まることなく建物自体を切り裂く。龍が裂いたかのような爪痕を天井に残し、そこから光が差し込む。チンッと納刀する音が辺りに響くと同時に色が取り戻される。脳無は動かない。これまでなら肉が蠢き復活する筈が、今度はその兆候も見せない。確実に命を奪ったのだ。
「…な、ななな!!??なんなんだよお前はぁ!!!」
脳無を殺され酷く狼狽えた死柄木が指を指しながら喚き散らす。黒霧はそんな死柄木の横に立ち玲の動きを見ている。いつでも逃げられるようにしているのだろう。玲はその刀身を死柄木に突きつけながら呟く。
「俺は、そうだな。……探索者だ。探索者、篠宮玲。さて、まだやるか?」
「あ゙ぁ、くそっ!!くそくそくそっ!!!!………………あ゙あ゙、今回は負けだ。帰るぞ黒霧」
「はっ。ですが、彼は」
「いい。俺だって大人だ。引き際くらい見分けるさ。だがな!!絶対に!絶対にお前を殺す。覚悟してろ、篠宮玲」
死柄木は先ほどまでの癇癪が嘘のように冷静になると黒霧の個性を用いて撤退する。残ったのは玲1人。玲は天叢雲剣を鞘にしまい門に戻す。そして、一つ息を吐くと地面に崩れ落ちる。
「あ゙ぁ、くそ。やっぱりキツイわ。今度は別の武器でいいな」
玲の右腕は先ほど綺麗に治ったはずが、もう既にボロボロになり血に塗れている。血管が破けているのか血がドクドクと流れ落ち地面を染める。これは天叢雲剣を抜いた代償。天孫族(天皇の家系)かムー大陸の王族にしか抜くことのできない刀を玲は半ば無理矢理抜いて使っている。本来ならば死んでしまうほどのことだが、刀が彼を認めたのかこの程度で済んでいる。それでも尚、使った際には右腕が使い物にならなくなってしまう。
「《治癒》」
玲が呪文を唱えると徐々に腕の傷が癒えていく。玲はそれを眺めると足に力をこめて立ち上がる。
「帰るか」
死した脳無に背を向け、玲は入口に向けて歩き出す。みんなを心配させているはずだ。謝らないとな。などと考えながら玲の足は着実に入口に近づく。
入口まであと数mといったところで唐突に扉がぶち破られる。
「篠宮くん!!!遅れてすまない!!──────私が来た!!!」
オールマイトだ。その劇画チックの表情、そして筋骨隆々な肉体を持ってやってきた。そして、目の前に立っている玲を見て戸惑う。
「あれ?
「えっとぉ。あれ、ですかね」
玲は広場で真っ二つになっている脳無を指差す。
「むむっ!!篠宮くんが倒したのかい!?」
「え、まぁ」
「篠宮くんに怪我がなくてよかっ、んっ!?」
「玲!!あんた、また危険なことして!!」
「げっ、火伊那ちゃん」
入口に立っていたオールマイトを押し除けるようにして火伊那が入ってくる。その額には青筋が出ており、相当ご立腹のようだ。
「いつも言ってるよね?その利他的な行動はいいけど、最低限の報連相はしようって。何回勝手に動いて瀕死になったと思ってるの?現場であった医者とか大学生とかに助けて貰ってたらしいけど、今回は1人だったんでしょ?」
「うん、まぁ。そうなんだけど。…ほら、怪我してないし」
「嘘つくな。その袖のない服は?どうせ腕吹っ飛んだから治したとかでしょ」
「これは、その」
「ほら、なんか言うことは?」
「…………1人で突っ走ってごめんなさい」
「よろしい。じゃあ、クラスメイトに無事なこと言いにいくよ」
火伊那は玲の首根っこを掴むとズルズルと引っ張っていく。
先ほどまでいきいきと戦闘していた玲であったが、ここばかりは死んだ目で火伊那に引き摺られていくのであった。