探索者が英雄へと至るまで 作:名もなき探索者
次の日は臨時休校となった。
◇
さらに次の日。
なんの問題もなく授業は開始され、朝のホームルームが始まる。
「それじゃあ、ホームルームだが。その前にこのクラスの副担任を紹介する」
「あのー。篠宮は?」
「あいつならもう少しで来るから気にすんな」
上鳴の質問もそこまでに相澤は1人の教師を教室に招き入れる。
「初めまして。このクラスの副担の筒美火伊那。ヒーロー名はレディ・ナガン。そして、これがうちの甥の篠宮玲。こいつの行動が目に余るので副担に押し込まれたの。よろしくね」
「みんなー、おはよ。あと助けて」
玲は火伊那に首根っこを掴まれてズルズルと引き摺られている。先ほどまで色々と心配していたのに当の本人はこの調子。
クラスメイトの心は一つになった。あ、こいつ心配するだけ無駄だ。
そして、火伊那に放り投げられいそいそと自分の席に着席する玲を尻目に相澤は黒板に画像を映し出す。
そこにはデカデカと頭の悪いフォントで『雄英体育祭』と書かれている。
「と言うことで、雄英体育祭が目前に迫っています」
「「「学校っぽいの来たー!!!!」」」
雄英体育祭。何故か一高校の催しの癖に全国放送されるというアレ。何故か数多くのスポンサーが付き、当日の観戦倍率はW杯以上というアレ。はたまた、当日になると敷地内には数多くの出店が立ち並ぶというアレ。本当に一高校の催しなのか?何かしら利権が蔓延っていると言われても納得できるレベル。
相澤先生がいうには、もうそろそろで雄英体育祭が迫っているから頑張れよ。とのことだった。やる種目も当日に判明するためやることと言ったら普段通りのトレーニングくらいだ。
◯
放課後。
玲が教室を出ようとすると、教室の前には大勢の人だかりがいた。放課後のチャイムが鳴ってから5分しか経っていないのに何故ここまで多くの人がいるんだろうか。不思議に思うのも束の間、その人だかりが騒めきだす。
《技能》聞き耳ロール:成功
敵情視察、雄英体育祭、1年A組。多種多様な声が聞こえるが統計するとこんな感じ。
もう少しで開催される雄英体育祭に向けて最大の障害であるA組を視察しに来たということだろう。暇人かな。
「邪魔なんだけど」
「どけ、モブ共」
玲は当たり前のように、爆豪は苛立つように人だかりに言葉をかける。
「どんなもんかと見に来たが、随分と偉そうだな。ヒーロー科に在籍するのは皆こうなのか? こういうの見ると幻滅するなぁ、普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴、結構いるんだ。あ、体育祭のリザルトの結果によっちゃヒーロー科編入も検討してくれるんだってさ。その逆もまた然りらしいよ。だから少なくとも俺たちは、調子に乗ってると足元全部すくっちゃうぞって宣戦布告しに来たつもりだけど」
「そっか、よかったね。じゃ、帰りたいから避けて」
普通科だろうか、の生徒が前に出てきて高説を垂れる。
玲は当たり障りないように答える。心底どうでもよかった。本当に。見知らぬ奴らの進退より、自分の帰宅時間のほうが重要。
めんどくさいなという感情が全面に出た棘のある言葉にその青年は声を荒らげる。
「お前、あれだろ?襲撃の時、1人だけ残ってヴィランを殺したやつ」
どこから漏れたんだか。面倒臭い。本当に面倒臭い。
人だかりにどよめきが生まれる。背後のクラスメイトにも同様に起きる。
「そんなわけないだろ?逃げてたんだってあの時は。どこからそんな噂が流れたんだよ」
「俺の友達が聞いてたんだよ。いいよなぁ、強い個性で。恵まれた個性だからそんなに高みにいけるんだろ?」
「え、玲くんは」
「まった、透。……そうなんだよ。個性には恵まれたんだけどね」
「はっ、今だけいい気になってろよ。いつか足元から全て掬ってやる」
普通科の青年はそれだけ話すと他の生徒を連れて戻っていく。後にはA組の生徒のみが残された。
玲は頬をあげて悪辣な笑みを浮かべる。
「ねぇ、勝己ちゃん!!一緒に悪巧みしようぜ!!」
「あ゙あ゙!?うるせぇ」
「いいじゃんいいじゃん。ちょっと、体育祭当日に勝己ちゃんの選手宣誓の後にちょろっと俺が話すだけだからさ。勝己ちゃんには一切迷惑かけないぜ」
「あ゙?……はっ、俺に影響なけりゃどうでもいい」
「よっしゃ。当日が楽しみだな」
その顔は悪魔のように笑顔で歪んでいた。
◇
体育祭当日。
1年生は一つのスタジアムに集められていた。全校生徒が多すぎるためか、学年ごとに分けてやるらしい。
1年A組の控室では既にジャージに着替えたクラスメイトが談笑している。玲はチュッパチャップスを舐めながらスマホをいじっている。
「ふーん。掲示板じゃあ、誰が勝つかで賭けられてるぜ。おっ、オッズもあるじゃん」
「なに見てんだよ。てか、いいのか?あの普通科の噂。学校全体に蔓延してるらしいぞ。幸運に校外に出ることはないけど。教師が火消しに奔走してるみたいだけど、それがさらに煽ってるってよ」
「まぁ、うん。いいんじゃない。校外に出ないのはうちのジジイが公安に睨み聞かせてるからだし。あとはもう、事実だし」
「じじ、はぁ!?お前、事実ってどういうことだよ!?」
「ついに日本語も理解できなくなったのかよ葡萄頭。事実って言ったらそりゃあ、俺が脳みそむき出しの化け物を殺したことだよ」
「おま、ヒーローが殺しとかダメだろ」
「は?……なに言ってんだよ葡萄頭。ヒーローが殺しダメとか、ヒーローならヴィランを捕まえろとか甘えたこと言ってんじゃねぇぞ。お前、自分より強いヴィランとあってもそんなこと言えんのかよ。それで殺さないように力セーブして戦えば、ヴィラン側が勝つぞ。なんてったって、ヴィランは殺しにくるからな。だから、俺はヴィランを殺した。あそこで殺さなかったら俺が、そしてお前らが死んでたかもしれないからな。後悔していない」
「そんなこと言ったって」
「いいんだよ、これで。教師だって正当防衛って言ってるし。殺されそうだから殺したじゃあ、俺が苦しむだろうから身内で処理しようとしてるんだよ。それを無駄に掘り起こして人の人生傷つけようとしたあいつは許せないけど。まあ、いいんだよ」
放送が鳴る。1年生は控え室から出て入場ゲートに集まるようにしろとのことだ。
玲は入場ゲートに向かうために立ち上がる。それに合わせるように続々とクラスメイトも控え室から出ていく。
「ねぇ、玲。うち本当に心配したからね!あんたがいなくてめっちゃ心細かった。助けてくれたのは有難うだけど、危険なことしないでほしい」
「……ん、あぁ。ごめんね」
「うちも、こんな時にこんな話してごめん。それじゃあ体育祭楽しもうよ!!」
入場ゲート。1年生でごった返している中、轟が玲と爆豪と緑谷に話しかけにいく。
「俺は、お前たちよりも強い」
「あ゙あ゙!?」
「は?俺の方が強いが?」
「まぁまぁ」
「それで、だ。緑谷はオールマイトに目をかけられてるだろ?爆豪は俺並に強え。篠宮は俺と戦って互角だった。……だから、俺はお前たちに宣戦布告する。この体育祭、優勝するのは俺だ」
宣戦布告。堂々と言ってのける轟に玲は笑顔で答えた。
「いいね。まあ、俺が優勝するんだけどね」
「あ゙あ゙!?俺だが!?舐めんじゃねぇ!!」
士気が高まった。誰もが目に信念を燃やして優勝を目指している。学級委員長である飯田が先頭で入場するためにゲートの前に立つ。
「さぁ、みんな!!入場の時間だ!!頑張っていこう!!」
「「「おう!!!」」」
◯
『さーて、お前ら待ってたんだろう!?本命の1年A組だぁぁあ!!!!』
会場に入るとマイク先生のアナウンスが鳴り響く。そして、それに負けず劣らずに会場の観客の声援が響く。
クラスメイトはこの雰囲気に萎縮しているものも目立つが、玲は全くもって違った。
「いやぁ、最高の気分だね!!みんなの視線を集めるこの感覚。何度やっても興奮するよ」
「え、玲くん。緊張してないの!?私、めっちゃ緊張するんだけど」
「そりゃ、慣れてますしおすし」
「えぇぇ!?」
『選手宣誓。1年A組爆豪勝己くん、篠宮玲くん。てかなんで篠宮くんもなの?』
「ちょっと呼ばれたわ。じゃ」
「ちょっと待ってよ!!」
葉隠が何か言っているが聞こえないふりして壇上に上がる。壇上には既に爆豪が立っており、玲が来たことで選手宣誓が始まる。
「「せんせー」」
「俺が一位になる」
爆豪が合わせることなく自分の勝利を謳う。
おっと、これは考え付かなかったな。まぁいい。俺がここから軌道修正してやろう。
「爆豪に変わって続き言いまーす。…………えっと、俺は無個性です。でも私は次席です!!つまり、隣の首席や戦ってすらいない推薦以外の奴らは俺以下です。個性ある癖に無個性の俺以下です。そこんとこちゃんと頭に入れて戦ってください。あ、ヒーロー科に落ちて普通科に行った癖に俺に突っかかってきたやつ!!!俺!!無個性だけど!!お前以上だから!!!無個性だけど!!!ということで、みんな!!体育祭がんばろー!!!どれだけ頑張っても首席と推薦以外、無個性に負けた雑魚というレッテルは剥がれないけどね!!!」
うん、我ながら最高の選手宣誓だ。自分のことすらダシにして他者を煽る。最高の瞬間だね。
「降りてこいこの野郎!!ぶっ殺してやる!!」
「クソ無個性がぁ!!!」
「二度とそのツラ見せんな!!!」
んんー、罵倒が気持ちいい。誰も彼も実力がないから悪口を言うしかないなんて哀れだね。
「いやー、無個性以下の羽虫の音がうるさいなぁ」
会場でこの調子なら掲示板はやばいくらい熱狂してるだろう。ただでさえ無個性が次席なのに、それがこんな大舞台で周りを煽るんだからな。
壇上を降りてクラスメイトのところに行くと呆れた顔の響香と透、他のクラスメイトがいた。
「はぁ、爆豪と結託した時点で嫌な予感してたけどさぁ」
「流石にやりすぎじゃない?」
「なぁ、篠宮!!あの、前の普通科のやつの顔見たか?赤くなったり青くなったりですげぇ面白かった」
「は?まじで?見たかったなぁ。写真ないの?葡萄頭」
「お前、おいらの通称葡萄頭でいいのか?」
「すまんな。峰田・グレープヘッド・実」
「本当にそれでいいのか!?」
『それじゃあ、最初の種目は!!障害物競走!!』
ミッドナイト先生のアナウンスにより、第一種目の概要が明らかになる。
障害物競走。外周4kmのレーンに数多の障害物が置かれているらしい。基本的には障害物競走と同じ、ただ障害が派手になり距離が伸びただけ。レーンの外を走れば失格と普通のもの。そして、最もたるところは雄英高校なので当たり前だが個性の使用あり。俺には関係ないことか。
◇
1学年全員がスタート位置に集まったためか酷く狭い。一応最前列を確保して走り出しは順調になるだろうが、一歩間違えれば後続に押し潰されるだろう。更にはクラスメイト以外で玲を見る目が酷く多いことだ。選手宣誓での煽りがここで効いてきたようだ。
『位置に着いて、よーい』
『ドン!!』
《技能》聞き耳ロール:1クリティカル
合図と共に玲は爆発的なスタートダッシュを決めた。それはまるで元から合図を知っていたかのように速く、そこにいる誰もが追いつくことができないほどに綺麗だった。
なっ!?と、クラスメイト以外の生徒はその姿に目を向けてしまう。その隙を見逃すクラスメイトはいなかった。
始めにスタート地点が氷漬けになる。轟が個性によって他選手の妨害をしたのだ。そして、足元から氷をだすことで素早いスピードでスタートを切る。他のクラスメイトは事前にそれを予測していたためか、壁を蹴ったり空中を舞ったりと各々の行動でスタートを切る。1年A組全員がスタートを切ってから数秒後、ようやく事態を理解した生徒が手間取りながらもスタートを切っていく。
「うへー、壮観やなぁ」
玲の目に映るのは行き先を塞ぐように立ち並ぶ仮想
「んー。追いつかれそうだし、さっさとやるか」
玲は体をほぐすと地面を踏み、0P敵の足元を目指して走り出す。途中にいくつもの仮想敵が邪魔するもその一切合切を無視して0P敵のみを目指す。
「砕けやがれ!!!」
《技能》マーシャルアーツ・キック・武術【近接格闘術】・跳躍複合ロール:成功
玲の蹴りが0P敵の脚部と胴体部を繋ぐ結合部に突き刺さる。そして、その足は金属を抉り取るように振り抜かれた。
「倒れろ!!!」
玲はもうひと押しとばかりに0P敵に蹴りを喰らわせる。玲の蹴りにより0P敵は体制を崩し、彼の望む方向へと倒れる。それは後方から追従する他選手の妨害であり、0P敵は後方選手の道を塞ぐように倒れ込む。
「ちっ。凍れ!!」
しかし、それは途中で止まる。追従していた轟の個性により0P敵は空中で一つの氷像へと変化する。その足元を轟は滑るように移動してくる。
「あー、マジか」
玲はその様子を一瞥すると追い抜かれないように走り出した。
『うおぉぉ!!!早くも第一関門が酷い有様だ!!!先行していた篠宮が妨害のために倒した0P敵がすぐに凍ってしまったぞ!!!』
『篠宮も轟も両方うまいな。篠宮なんてもうすでに走り去った。合理的だ』
『本当だぁ!!!さぁ、第二関門!!ザ・フォォーール!!!!崖の綱渡りだ!!さぁどうする1年!!』
「マジかよ」
なんて事のない綱渡り。されど、玲にとってはこの上なく面倒臭いものであった。
《疑問》綱渡りは何の技能《?》
いや、しらねぇよ。てか、自我出してんじゃねぇ。
玲は脳内に響く声に辟易しながら綱に向けて走り出す。結局は渡りきればいい。例え50mほど綱が続き、落ちれば数十m下のネットに引っかかるだけだが渡りきれば勝ちだ。
故に走る。運がいいことに綱は弛むことなくピント張られている。これならちょっとしたことでは揺れることはないであろう。
《提案》:《技能》DEX*5により判定
《認証》DEX*3でならOK
おい、誰だお前。新キャラ増えてんぞ。
《技能》DEX*3:失敗
失敗してんじゃねぇか。何してんだ俺。
綱の中ほどで綱から足を踏み外した玲はそのまま崖下へと落ちる。しかし、ここで諦めることなく玲は咄嗟に手を綱へと伸ばす。
《嘆願》:《追加判定》《技能》拳で綱を掴むことは可能?
《許可》やってみせろよ
《追加判定》《技能》拳:成功
玲はすんでの所で綱を掴む。そして、持ち前の膂力によって綱を掴みながらオランウータンの要領で移動する。ようやく対岸に辿り着いた時にはすでに順位は中盤付近にまで落ちてしまっていた。
「なんてこった、パンナコッタ」
玲は走る。あぁ、走るしかないのだ。てか、走る以外に何をすればいいと言うのか。
玲は走った。あのメロスをも凌駕する勢いで走ろうと思った。いや、無理だ。あれには勝てない。それでも、太陽よりも速く走ろうと頑張った。まぁ、頑張ったところで出目次第のところはあるが。クソがっ!!
『おおっと!!!第二関門で大きく勢いを落とした篠宮も漸く第三関門に到達だぁ!!!』
『第三関門は見ての通り!!一面地雷だらけだぁっ!!!その名も怒りのアフガン!!!』
アフガンに謝れ。
さて、それはそうと玲は地雷原の目の前で立ち止まる。
どうしたものか。地雷なんぞ、アメリカに行った時以来だぞ。あの時は知り合いが丁度持っていたフィリピン爆竹でなんとかなったが、今回はそんなものは持っていない。持ち込み禁止だった。
「まあいいや。行こう」
丁度、氷の道もあることだし。この上を通れば難なくゴールできるだろう。目の前では同じく考えたのか、他の選手も氷も道を走るもツルツルと滑って思うように進めていない。対して、玲は以前着の身着のままで南極に行ったことがあり、氷も道程度簡単に進める。こいつはどれほど濃い人生を歩んでいるのか。
玲は走った。そして、先に進んでいる奴らを蹴落とす。邪魔だと言わんばかりに氷も道から叩き落とす。落とした先が地雷だったのか時折、玲の後方でどでかい爆発が鳴り響く。その光景はさながら、地雷原を走る伝令兵の様。これがマラソンの起源になるとは誰も知らない(大嘘)。
誰もがその光景に目を奪われることはなく、玲はギリギリ上位に入った。おめでとう(エ◯ァ並感)。
と言うわけで、昼休みだ。
ん?騎馬戦?あぁ、そんな競技もいたね。ただ、なんの面白みもなく終わったから省くよ。そんなに騎馬戦が見たいなら他の二次創作を漁るといいよ。この二次創作では作者の手間的に騎馬戦を省くんだ。なんでって?そんなの本編とほぼ同じ構図になってオリジナル性を出せないからに決まってるじゃないか。二次創作の時点でオリジナルじゃあないけどね。