ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第一章 フェニキス攻略戦
序話 転生したら鷹王の敵でした。


 前世の記憶を思い出す系の作品、なぜか前世の人格の方が表に来がちだよな。

 

 そんな事を思う自分もご多分に漏れず。前世は山田博という名の一般日本人だった。今世では、ベグニオン帝国のモンテという名の将軍である。作中にはそんな名前の将軍はいなかったので、おそらくモブであろう。

 

 ベグニオン帝国というのは、ファイアーエムブレム蒼炎の軌跡、暁の女神に登場する国家の一つ。ベオクという、ファンタジーもので言うところの人族が暮らす国が三つあるのだが、ベグニオンは残る二国の宗主国という立ち位置だ。

 

 原作知識がなければ、そこの将軍ともなればまぁ悪くない転生先だと思うだろう。ただ素直に喜べないのが、このモンテという将軍、元老院側なのだ。

 

 ベグニオン帝国は元老院という組織がある。神使と呼ばれる皇帝の政を補佐する存在なのだが、そこの副議長であるガドゥス公ルカンというのがコッテコテの悪徳貴族で、元老院派という派閥を事実上率いている。

 

 シリーズ一作目の蒼炎の軌跡では空気だったが、続編の暁の女神では彼とその一派が、作中序盤から中盤にかけてメイン悪党を張った。

 

 だが終盤で、突然世界中のほとんどの人が石になるという元老院の所業とは全く無関係の大事件が起こる。石にならなかった主人公たちは事件の主犯であるアスタルテを倒すため進軍するのだが、アスタルテはなぜか元老院とその配下の兵を石から復活させ、主人公と戦わせる。結果として元老院は世界を救うついでに討伐され、アスタルテも倒されてラブ&ピースエンド……というのが、暁の女神という作品の顛末だ。

 

 要はこのモンテ将軍、なにもしなかった場合、主人公たちに殺されるポジションだ。それだけでも気が重いのに、このモンテ将軍には追加でオプションまでついている。

 

「前世知るタイミング悪すぎだよなぁ」

 

 前世を知ったのはつい先日。時系列的には暁の女神の3部、戦争相手であるラグズ連合がうちの北方軍を撃破した頃だ。もう少し早ければ、せめて開戦直前であれば、目下の悩みの種は回避できたかもしれない。

 

 このモンテ将軍だが、ベグニオン中央軍からとある指令を受け、中央軍とは離れて動いている。指令とは――

 

 コンコンと、扉が叩かれて意識が引き戻される。

 

「モンテ将軍。フォレ様がご到着されました」

 

 執務室の前に立たせていた衛兵の声。フォレというのは、今回の作戦に従軍する公爵家の娘だ。作中には登場しない。士官志望らしく、親御さんから戦場に参加させるよう配慮を求められている。まぁ言っても配慮なので、使えそうなら使って、ダメそうなら後方に置いとくくらいの気持ちでいよう……というのはモンテ将軍の考え。存外強かな人だ。

 

「どうぞ」

 

 ちなみにモンテ将軍は、フォレの姿を見たことがないらしい。よって風体は扉を開けるまで分からない。

 

「失礼します」

 

 入室してきたのは、赤いロングヘアが特徴的な若い女性だ。10代20代といったぐらいか。装いは魔道士のそれだ。しかし驚くほど端正な顔立ちをしている。まじまじと眺めていたら惚れてしまいそうだ。

 

「本日付けで配属になりましたフォレです。よろしくお願いします」

「モンテです。以後よろしく……どうぞお掛けください」

 

 めちゃくちゃ美人の部下が出来てうきうきな心情は表に出さず、執務室のソファに掛けさせて自分も対面に座る。

 

「……それで今回の作戦、フェニキス王国襲撃の件ですが」

「あぁ……」

 

 気持ちが一気に萎えた。

 

 死亡ルート内定済みのモンテ将軍の追加オプション。それは彼が、フェニキス王国を襲撃するという任を受けていることだ。暁の女神という作品で最強の味方ユニットは?とプレイヤー10人に聞けば、10人中7,8人は名前を挙げるだろう鷹王ティバーンの治める国である。

 

 この世界、テリウス大陸にはいわゆる人族のベオクの他に、ラグズという種族が住んでいる。見た目は普通の人にケモミミや尻尾、翼など、自身が属する種族の特徴が追加されたようなものだ。彼らは戦闘時には変身し、巨大な獣や猛禽そのものの外見になって戦う。この変身を化身という。

 

 現代のラグズはベオクに差別されており、半獣と呼称されたり、奴隷としてラグズを所有するベオクもいる。ラグズ側の態度も固く、ニンゲンと呼んで蔑むシーンがある。蒼炎の軌跡、暁の女神の二部作は、同じ大陸に住まうベオクとラグズの融和の物語でもある。

 

 それはそれとしてだ。今回俺たちが襲うことになるフェニキス王国というのは、ラグズの中でも鳥翼族・鷹の民が住まう島国である。

 

 このフェニキス侵攻イベント。原作にも有るのだが、その詳細は語られることがなかった。分かっているのは鷹王と彼が率いる一軍がベグニオン帝国軍の本隊と衝突しているうちに、誰かがフェニキスに侵攻。女子供は生かされたものの住処は荒らされ、歯向かった守備隊は壊滅したことくらいだ。

 

 つまり原作は上手くやったのだ、なら今回もやれるだろう。俺がしくじらなければ。

 

「……モンテ将軍?」

「あぁ、問題ない。続けてくれ」

「……フェニキス侵攻について、いくつか確認したいことがあるのですが、まず一点。どうやって断崖絶壁のフェニキス島に上陸するのですか?」

 

 フェニキス島は切り立った崖に囲まれているため、船での揚陸は容易ではない。なのでてっきり聖竜騎士団か聖天馬騎士団が中心なのだと思っていたのだが、この世界では別の方法が用意されていた。

 

「キルヴァスの鴉の民から、船を付けられる岸の情報を受け取っている。実際の侵攻時も先導してくれるそうだ」

 

 俺がそう答えると、フォレの目つきが厳しいものに変わった。

 

 キルヴァス王国の鴉の民といえば、金目当てに海賊行為を行い、蒼炎の軌跡の時代には隣国に侵攻した狂王アシュナードの下で傭兵をやったかと思えばあっさり裏切ったり、暁の女神……つまり未来の話だが、同じ鳥翼族の鷹の民を帝国軍本隊にぶつけたり。

 

 そんな感じなので、現地人からの評価が低いのは仕方がないだろう。実は最後の鷹の民を裏切った件については事情があり、それは今回の作戦で鴉の民をある程度信用していい理由にも繋がる。

 

「……信用できるんです?その情報」

 

 事情を知らないフォレは怪訝な顔をしている。

 

「今回は信用に足る。キルヴァスはベグニオンには逆らえない」

「……?」

 

 さて原作履修特権。キルヴァスとベグニオンの血の誓約の件だが、この情報はどこでどう使うべきか。

 

 というより、この後自分が何を目標にするべきか。それが問題だ。ぶっちゃけここで全てを投げうってとんずらカマして、世界が平和になってからノコノコ出てきても生き残るだけなら可能だろう。物語としては0点だけど。

 

 ……そういえばフォレも、元老院派のモンテ将軍と従軍するということは、介入しなければ死んでしまうのだろうか。

 

 

 

 そんなことを考えながら、彼女の顔を見た途端――視界がジャックされる。

 

 割れるような怒号、悲鳴。崖上から繰り出される落石、矢の雨が、血塗られた視界に映る。周りにいる赤い鎧を着た兵や、白い鎧の兵が次々と地に伏していく。

 

 刹那、巨大な影が降ってきた。視界の主が反射的にそちらを見る。影は落石ではなく、黒い飛竜に跨った黒鎧の騎士。竜騎士は降下の勢いそのままに、戦斧を振り下ろした。

 

 弾き飛ばされるように倒れた視界の主。立ち上がることも出来ない。手は自分の血で染まっていた。景色が朦朧とし、瞼が閉じられる。

 

 

 

 

「――軍!モンテ将軍!」

 

 差し出されていた手は、あの血に染まった手と同じだった。すらっとした指、滑らかで、武器など触ったこともないだろう、普通の女の子の手だ。

 

「……あぁ、よかった。気がついたんですね」

 

 顔を見ると、フォレが安堵の表情を浮かべていた。

 

 ……先ほどの映像は、まさか彼女の死に様だとでも言うのだろうか。

 

 いや、まずは状況確認だ。いつまでも黙りこくっていては、彼女にまた心配をかける。

 

「……俺はどうなっていた?」

「どうって……突然椅子から崩れ落ちて、頭を抱えていらっしゃいました」

「あぁ、なら寝不足かな。寝不足は怖いぞ。君も気を付けなよ」

「まずは将軍が気を付けてください!!全くもう……」

 

 よし、場を和ませることには成功したな。

 

「フォレの顔合わせも兼ねて、夕刻軍議を開こう。詳しい話はそちらで」

「分かりました……ちゃんとそれまでに休んでおいてくださいね!」

 

 

 

 その後はフォレを退出させ、衛兵に軍議の件について伝言を頼んで、ようやく一息吐ける状態になった。そして思い出すのは、あのフラッシュバックだ。

 

 あの戦闘は、恐らく暁の女神の原作にあった戦いのそれだ。一応、そこまでの流れをおさらいしておこう。

 

 ベグニオンは今、ラグズ連合と戦っている。ラグズ連合は獣牙族が住むガリア王国、先に出てきた鷹のフェニキス王国、鴉のキルヴァス王国の連合軍だ。

 

 なんで戦争になったのかと言うと、一昔前に起こった鷺の民の虐殺に元老院が関与していたことが分かったからだ。ラグズの国々は釈明を求めるも、ベグニオンは知らぬ存ぜぬを貫き、最終的には使者を斬殺するまでに至る。戦争開始だ。

 

 ベグニオンは途中まではラグズ連合の侵攻を許すも、キルヴァスの裏切りや、中央軍総司令官ゼルギウスの活躍によりなんやかんやで逆転。撤退するラグズ連合を追撃する。

 

 そこでクリミア王国という、ベオクの国の領土を通過する必要に迫られる。あの光景に出てきた白鎧はかの国の兵士だ。クリミア王国はラグズとも友好関係にあったため領土の通行を拒んだ。

 

 そんなタイミングで中央軍の下に皇帝が現れる。皇帝サナキは元々ラグズ側に誠意を持って対応しようとしたが、元老院の策略で幽閉されていたのだった。

 

 サナキはラグズ連合、クリミア軍、そして中央軍を手勢として、首都シエネに向かうことになるのだが、クリミアの東にあるデイン王国というベオクの国が突如神使の身柄を要求し、拒否するならクリミアへの侵攻も辞さないと声明を出す。軍はやむなくデインを撃破し、デイン領を打通してのベグニオン入りを目指すことになった。

 

 ……さっき垣間見た惨状はその一幕。ベグニオン軍とクリミア騎士が、デイン領内で奇襲にあった戦いだろう。

 

 ゲームでは攻め手であるデイン軍視点での戦いで、ゲームだから投石のダメージも大したことはないし、崖上からの弓は射程が足りない。ただマップ終了後、皇帝側の軍師が"ベグニオン中央軍とクリミア騎士が、動ける騎がほとんど残らないレベルで壊滅した"と言う一幕がある。それを現実ナイズドすれば、まぁこれくらいの惨状にはなるのだろう。

 

 これの意味するところは、フェニキス侵攻を無事に完遂した俺たちは中央軍に合流し、最終的にデインでほとんどが戦死する。皇帝に付いても死ぬ。元老院に付いても死ぬ。どう足掻いても俺もあの子も、戦場で無残に死ぬ。

 

 

 

 本当に、どう足掻いても?

 

 デインの奇襲については、未来を知っていれば回避できる死にポイントではないか?

 

 無論、皇帝軍という巨大連合の中で、元老院側である一介の将軍が発言権を持つのは不可能だ。権力が要る。将軍の権力とはすなわち、支持してくれる兵士の数だ。

 

 幸いベグニオン軍は一枚岩ではない。中央軍総司令官ゼルギウスはその武勇からくる圧倒的なカリスマを誇るが、ラグズに融和的だ。ベグニオンの大部分は未だに差別感情が根強い中では少数派にあたる。おまけに皇帝到着後、彼は自分の主君であり、皇帝と同時に幽閉された宰相セフェランを救出するために単身軍を離れる。付け入る隙はある。

 

 おまけに作中では、しょうもない理由で出撃して主人公たちに返り討ちにあった一派や、懲罰的に捨て駒として使われた軍勢も描かれた。なんとかしてそれらも救出し、勢力下に置ければベグニオン兵士の過半は掌握できるだろう。

 

 それでも足りなければキルヴァスを使う。キルヴァス王国はベグニオン帝国と血の誓約という呪いを結ばされているため、ベグニオンには逆らえない。が、この誓約には抜け道がある。それをキルヴァスに早期に流し、皇帝軍に合流させるのはどうだ。恩を売るという視点では、誓約無しの彼らは信用できないので望み薄としても、キルヴァス王国の加入で皇帝軍が強くなるのは俺たちにも利する。

 

 

 

 正直、俺一人なら別に原作通りに進んでも問題はない。暁の女神のシナリオはざっくり言ってしまえば、世界を救う過程で悪党が全員死んでいたからこそハッピーエンド感を出せたとも言える。今俺が考えていることは、そんな大団円の世界に異分子を残すような試みでもある。褒められたことじゃない。

 

 でも俺が何もしなかったら、戦もろくに知らない可憐な少女があんな凄惨な最期を迎える。痛かっただろう。怖かっただろう。苦しかっただろう。そんな結末を知ってしまっては、黙って見過ごすなんて選択肢は取れない。

 

 世界が完全に平和にならないことで、諍いもあるだろう。でも今は、目の前のたった一つの命の方が大事に感じられる。そういえば本編にも、そんな話があったな。

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