ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第九話 それぞれの決意

 テルグム公の説得が成功に終わり、刻限の日没となった。ゼルギウスの天幕へと戻り、テルグム公との会談について報告する。もちろん話せない所はぼかしつつ、である。

 

「――という訳で、テルグム公は私に軍勢を任せることを条件に、軍の拠出をお認めくださいました」

 

 俺の報告に、ゼルギウスは鼻を鳴らした。

 

「フッ……ずいぶんと嫌われたものだ」

「この……!帝国が、一丸となって連合と立ち向かわねばならぬ時に!」

 

 ゼルギウスに尊敬の念を抱くルベールの方が怒っている有様だ。要約すれば「ただしゼルギウス、テメーはダメだ」なんで、そりゃ怒るよね。

 

「申し訳ありません。本来なら無条件での拠出を引き出すべき所であったものを――」

「いや、構わない。というよりもこの件に関して、私には君に何か言う権利はない」

「……それはつまり」

 

「……セリオラ公は最後まで首を縦に振らなかった」

 

 ……えぇ。失敗してんじゃん、ゼルギウス将軍……

 

「ただセリオラ公爵の将とは会談し、連携して作戦を執り行うことを確認した」

 

 ……つまり友軍としてですね。いや、まぁ、無いよりマシかもしれませんね。

 

「よってセリオラ公爵軍を除いた28500をベグニオン軍戦力として、防衛計画を策定する」

 

 そう言って始まったのが、リバン河をどう防衛するか。どこにどの部隊を配置するか。といっても草案はある程度出来ていて、追加要素は俺が連れてきたアムニス公私兵団の1000弱、中央軍3000弱、テルグム公の3500……しめて7500だ。俺が頑張らなかったらこれが0だったんだ。怖いわぁ。

 

 リバン河の防衛計画だが、まず獣牙族が渡河できる水深、流れの速さの範囲に軍を駐留することは決まっていた。それ以外の場所から渡河しようとする動きは、中央軍の聖天馬騎士や聖竜騎士が見張り、逐次対応するという。

 

 防衛範囲のうち、上流は俺が率いるフェニキス作戦参加兵+テルグム公傘下の7500。中央が中央軍中心の12000。兵数に差はあるが、上流は守備範囲が狭いのと、近くに布陣する中央軍と高密度の連携を取りつつ対応することを漕ぎ着けた。まぁ、テルグム公爵軍が勝手に戦うよりは1億倍マシな布陣になっているだろう。

 

「馬防柵の敷設はどうなっていますか?」

「現在3割ほどといった所です。モンテ殿の配下の者にはよく助けて頂きました」

「いえいえ。元はと言えば私の発案です。やらねばならぬ事が他になければ、手伝いたかったほどです」

「ただ一つ問題があるとすれば、セリオラ公爵軍の陣に我々は入れてもらえず……柵を設置出来なかったことでしょうか」

 

 ただ一つの問題がデカすぎんだろ!加減しろおバカ!!!

 

 下流はセリオラ公爵軍5000が陣取っている。無論このままだと、どうぞセリオラ公爵軍を蹴散らしてお通りくださいと言っているようなものなので、予備兵力9000は下流側に即展開可能なように配備される。

 

「……ちなみにセリオラ公が、下流に展開した理由は?」

「ちょうど彼らが展開した後方に、公の拠点であるセリオラ城へ続く街道がある。城を自ら防衛したいのだろう、先方は頑として譲らない姿勢だ」

 

 ゼルギウスの回答。直前まで交渉していたゼルギウスの認識がこれなので、もう絶対揺るがないんだろうなというのは分かる。ただね……

 

「ちなみにもう一つ、いいですか?」

「なんだ」

 

「セリオラ城に続く街道とはそれ即ち、帝国軍全体の退却路でもあると思うのですが」

 

「……そうだ」

 

 ゼルギウスが首肯する。

 

 ちなみにセリオラ城、原作では渡河作戦後にナレ死している。うん。原作はここぶち抜かれてそうですね。今回も無事ぶち抜かれそうです。よかったー原作ブレイクしなさそうでー

 

 原作負け戦舐めてた。これ、どうやって生き残ろう。

 

「……流石に今公爵様を叩き起こして説得は分が悪いので、明日朝一でかけあってみます」

「すまない。どうも私は、交渉ごとには不向きなようだ」

 

 ゼルギウス将軍。知勇兼備との評だが、それはマトモな将が出てこないベグニオン基準であって、本質はアイクみたいに剣と背中で語るタイプだろうからね……

 

「他に、なにか気になることはあるか」

 

 会議の終盤。ゼルギウスが振ってくれたので、原作の霧の事を話そう。あまりセネリオの策をバラすと原作ブレイクになるかもしれないが、これはほったらかしにすると帝国軍が大敗しすぎる。未来視で見たうちの供回りたち、どうやってこの戦を生き抜いたんだよ。あるいは参戦が遅れてたか?

 

「この一帯ですが、濃霧が発生することはあるでしょうか」

「この地を治めるセリオラ公が言うには、リバン河は未明から朝方にかけて濃霧が出ることがある」

「……朝方」

 

 もしかして、タイムリミット今夜いっぱいですか?まぁ、間に合ったとポジティブに考えよう。

 

「……鳥翼族は夜目は効きませんが、聴力と嗅覚には優れています。渡河中の獣牙族と歩調を合わせるくらい造作もないでしょう。獣牙族も同様です」

「つまり敵は、濃霧の時にこそ攻めてくる可能性があるということだな。全軍に警戒するよう伝えておく」

「助かります」

 

 そんな感じで作戦会議は終了した。さて、どうしようかな。思案のしどころだ。

 

 ……ひとまず、俺の手元の人間を集めて作戦を展開しておくか。今は帝国軍指揮下だが、元はうちの部下だ。多少寝ぼけてても叩き起こして回ろう。

 

 皆が生き残る確率を、少しでも上げなければならない。

 

 

◇◇◇

 

 

 時は少々遡り、昼下がりのリバン河河岸には、少なくない数の兵士が集っていた。

 

「何やってんの、あれ」

「半獣用の馬防柵だってよ」

「へぇ~。効果あるんなら、ありがたいな」

「あんなの数日で流されちゃうんじゃねーの?」

「それもそうか」

 

 呑気な野次馬も見物する中、ルベールの指揮下、柵の建設が行われている。流れの速さを見たり、通常の敷設より深く穴を掘ったりなど、気にするべきことが多い工事を粛々とこなしていく。

 

 本日は快晴なり。河の水量もさして多くなく、少なくとも今日いっぱい、柵が流される心配はなさそうだった。明日以降は知れないが、一日あればまた別の策を講ずる事が出来る。

 

 そんな馬防柵工事の現場に、一際目立つ毛むくじゃらの男……ゼングがいた。ゼングは建設現場の上流に大盾を持って立ち、流れを逸らしている。

 

「せーのぉっ!」

 

 そうしている内に、深く掘られた穴へと木が突き刺されていく。穴をしっかりと固めたことを確認し、ゼングが深く頷いた。

 

「よし!上出来である!」

 

 兵たちが岸に上がったのを確認し、ゼングが最後に岸に上がる。岸ではシェリーが杖を携え、水を用意していた。

 

「は〜い、ライブ振りま〜す。水分補給もしっかりしましょ〜」

 

 シェリーは治癒の杖を振り、疲労を取りつつ兵士たちに水袋を渡していく。そして時折、さも水分補給をしているかのように、自分の腰に下げた水袋に口を付けていた。

 

「ご苦労。君たちの隊はそろそろ小休止を取ってくれ」

 

 様子を監督していたルベールがそう言うと、作業員たちは各々楽にし始める。ルベールは休息を取り始めたゼングとシェリーに声をかけた。

 

「君たちはモンテ将軍の供回りを務めているそうだな」

「然り!」

「そうで〜す」

「……よければモンテ将軍の人柄について教えてくれないか。私は今朝会ったばかりだから、人となりを知っておきたいんだ」

 

 ルベールの視点から見たモンテは、決して全幅の信頼を置ける相手ではなかった。

 

 今日この日まで面識がなかったこともあるが、モンテがアニムス公の私兵を率いている身であることがまず気にかかった。自分とて人のことを言える立場にはないが、元老院側の可能性がある人物と考えるのは不思議ではない。

 

 それでもモンテはゼルギウスに任され、フェニキス島侵攻を成功させた人物だ。だからこの問いは、信じるに値する将と判断するための問いだ。

 

 最初に答えたのはゼングだった。

 

「うむ……平時は穏やかで、自由を重んじる人柄ですな。しかしいざ戦となれば、自ら率先して先陣に立ち、配下に号令する猛将の一面を見せまする」

「意外だな……そうは見えなかった」

 

「そうそう!鷹どもの城に突入するときも、『豚に真珠、半獣どもに城だ!』って啖呵切ってました!うおおお!って感じで」

 

 近くで話を聞いていた兵士も同調する。

 

「反ラグズ思想が強い人物なのか……?」

 

 反ラグズということで真っ先に思い浮かんだのは、北方領の諸侯たちだった。疑念を抱くルベールに、シェリーが語りかける。

 

「ん〜。でも将軍は結構策士かも?ラグズが相手だからって侮ったりはしないし、土壇場で考えながら喋るのも得意だから〜、あ〜んまり言葉通りのこと考えてないんじゃないですか〜?」

「な、そうなのか?」

「そうですね~たぶん〜」

「た、たぶん?」

「ハッハッハ、その酔いどれ女の言は話半分に聞くがよいですぞ!」

 

 ゼングの言葉を証明するように、腰の水袋に口を付け、喉を鳴らすシェリー。

 

「なんで勤務中に飲んで許されているんだ……?」

「主家の親戚筋ですからね〜……あと私、誰にも負けない必殺技があるんですよ〜?」

「ひ、必殺技……?なんだそれは」

「それはもう、スから始まって〜……」

 

「皆さーん!トラヴィーユ、戻りました!!!」

 

 空からの声と共に、大きな影を地上に落とす若き竜騎士。その鞍には大量の縄が吊り下げられている。馬防柵の材料として使うためのものだ。

 

「隣町でありったけ縄を買ってきました!これ、お釣りです!」

「ずいぶん余ったな……」

「お店の人たちに『頑張って半獣を追いやってくれ』って、おまけしてくれました!」

 

 ルベールの見立てでは、縄はどう見積もっても支払額の倍ほども渡されている。これだけの期待をベグニオン帝国軍はきちんと受けているのだ。その事実は、貴族たちとの政争に疲れ果てた騎士の心を奮い立たせるに足るものだった。

 

「……そうだな、絶対に勝とう!民のためにも!」

 

 ルベールはそう、固く誓うのだった。

 

 

◇◇◇

 

 時は同日夜半。ちょうどゼルギウスの天幕にて、モンテが途方に暮れている頃。リバン河の対岸には、ラグズ連合の野営地がある。

 

 野営地でもっとも大きな天幕の中。机の前で目を閉じ、思索を巡らす黒髪の少年がいた。

 

 額に印を持つその少年の名はセネリオ。ラグズ連合に協力するグレイル傭兵団の参謀だ。ラグズ連合にも既に様々な献策を行っており、もはや連合の頭脳と称しても過言ではない。

 

「あら。今日はセネリオが一番乗りなのね」

 

 天幕に入ってきた赤髪の女性に声をかけられ、セネリオは視線を返した。

 

 赤髪の女性はティアマトという名で、グレイル傭兵団の副団長を務める。

 

 そしてその傍らにいる青髪の青年こそがグレイル傭兵団団長にして、クリミア救国の英雄。アイクだ。

 

「どうかしたか?」

 

 声をかけるアイク。セネリオが向き直って答えた。

 

「……昼間の策に修正が必要になりました」

「そうか」

 

「軍師殿。ご注文通り鷹王を連れてきた」

「やれやれ。こんな夜更けに一体何が変わったって?」

 

 アイクたちに続き、鷹王を伴って天幕へと入ってくる、水色の毛色をした猫のラグズ。彼はライ。ガリア王国の獣牙族を率いるスクリミル将軍の副官を務める者だ。

 

「スクリミルについては察してくれ」

 

 スクリミルは未だベオクの策を認めきっておらず、副官であるライに丸投げしていた。ライは副官として、セネリオに対し頭を下げる。

 

「構いません。スクリミル将軍の役割には変更がないので」

「……助かる」

 

「早速ですが、この地図を見てください」

 

 そう言ってセネリオは地図を広げる。

 

 彼が広げたのは、リバン河周辺の簡略図。西岸側にはラグズ側の将軍の名と、それを囲む凸記号。東側には上流、中流、下流にそれぞれ凸記号が書き込まれている。

 

「昼にお話した時点では、上流にテルグム公、下流にセリオラ公の私兵団が布陣。中流にその他諸侯をまとめた中央軍が布陣し、上流下流それぞれを援護する形を取っていました」

「俺たちフェニキス兵が中央軍を強襲、撹乱してる間にグレイル傭兵団が敵の野営地を攻撃し、両翼の公爵連中をガリアが倒すって策だったな」

「はい。最終的には公爵軍を食い破ったガリア軍を主体に、中央軍を両翼包囲する策でした。無論こちらが寡兵ですので、無理に殲滅は狙わず、士気を喪失させての潰走を狙う……この予定だったのですが」

 

 セネリオが地図上に指を突き立てる。白くしなやかな指先は、リバン河上流の帝国軍のマークを指していた。

 

「……まず一点。上流のテルグム公が中央軍に兵を預けたようで、軍団の編成が大きく変わりました。これは僕の見立て違いです」

 

 当初セネリオは、テルグム領での聞き込み等から、セフェランに対抗意識を燃やし、断固とした半獣嫌いであるとの情報を得ていた。ゼルギウスに協力しない理由としては十分であり、なんならセリオラ公爵よりも協力の可能性は低いと見積もっていたまである。

 

 そのテルグム公が、予想をひっくり返した。なにか裏があると勘ぐるのは勝手だが、推察だけに時間を費やす余裕は、ラグズ連合にはない。

 

「テルグム公の軍勢には、昨晩から朝にかけて合流した追加の兵力が追加されたようです。恐らくフェニキス王国を侵攻した別働隊だと思われます」

 

 セネリオの言葉に反応したのは、意外にもライだった。

 

「これだけの期間でフェニキス島に行って帰ってきたって?ベオクにしちゃ足が早すぎるだろ」

 

 ライは驚いているが、実態は小細工なしの強行軍である。

 

「地形と距離を考えて、正攻法でも不可能ではないとだけ。どう行軍してきたかは今回あまり重要ではないので、一旦置いておきましょう」

「あ、すまない軍師殿。続けてくれ」

「ともかく重要なのは、両翼の片方が精強になってしまったことです。包囲を行う場合、セリオラ公爵軍を予定より早く打通し、片翼包囲に持っていく必要があります。が、これは難しいでしょう」

「包囲が出来なくなると何が問題なんだ?」

 

 アイクが疑問を投げかけた。

 

「この戦いで兵数差を縮めることが難しくなります。仮にここで勝っても、帝国軍の優勢が変わりません」

「なるほどな」

「一応次善の策として、中央軍に渡河攻撃をかける部隊と連携した二正面作戦も考えていましたが……ここで二点目。敵が河岸に馬防柵を設置し始めています」

 

 セネリオが筆を取り出すと、ベグニオン方の河岸にバツマークを付けていく。上流、中流にいくつかのマークが書き加えられた。

 

「これを発案した敵は、よほど獣牙族に精通していると思っていいでしょう」

「ヤバいな……つまりは柵をどかすために、水の中で化身を切らされるってことか」

 

 獣牙族当人であるライには、その状況の難しさが理解できた。

 

「もしくは柵のない場所に殺到し、敵に与える負荷や進軍速度に多大な悪影響を与えるか、です。救いは今回の要であるセリオラ公爵軍の陣には、これらの処置は取られなかったことでしょう」

「河岸に馬防柵だ?そんなもん、そのうち流されるんじゃねぇのか」

 

 今度はティバーンが疑問を口にした。

 

「我々に"そのうち"なんて悠長なことを言っている暇はありません。テルグム公爵軍と同様に、セリオラ公爵軍が帝国に編入され、同等の措置が取られればそれこそ一巻の終わり。付け入る隙はなくなります」

「ならどうする?」

「……テルグム公爵の変わり身の早さを考えると、敵に一刻の猶予も与えられない。明日未明、渡河を開始しましょう。当初は濃霧に姿を隠す想定でいましたが、最悪霧が出ずとも開始するしかありません」 

 

「セネリオ。勝算はどのくらいだ」

 

 アイクの質問に、セネリオが目を閉じつつ答えた。

 

「……濃霧ありで4割、無しで1割といったところです」

 

 天幕内に沈黙が広がる。セネリオの表情を見れば、このような博打に打って出たくなどないことは自明だ。それでもこの献策をしたということは、今ここでしなければ更に不利な状況に追い込まれるため。

 

「……元より帝国相手に正面切って、常に有利に戦えるとは思ってねぇ。あとは俺たちの働き次第で、勝算上げてくしかねぇだろう」

 

 そう口にしたティバーンの眼差しは、ギラギラと燃え滾っているようだった。

 

 

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