ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第十話 リバン河攻防戦(1)

 未明。大きめの天幕を借り、部隊長クラスを集める。目的は今回のリバン河攻防におけるベグニオン軍全体の状況の周知と、ベグニオン上流防衛部隊としての作戦の展開だ。

 

 前回と同じく、開始時間より少し早めに到着する。半数ほどが既に着席している様子だった。指揮下は別だが実戦では連携を取る、配置の近い中央軍の部隊長にも何人か声をかけたが、そちらは全員集まっている。

 

 少々意外だったのは、今回新たに加わったテルグム公傘下の元北方軍の出席率が悪くないこと。既に7割が出席している。開始時間直前に来ても問題ないと知らないことを差し引いても、夜半に声をかけて未明招集というのに、だ。

 

 上の腐敗と下のやる気というのは連動するときもあるのかもだが、そうじゃないこともあるんだろうな。

 

「モンテ将軍、お疲れ様です!」

「開始時間まで、好きにしていて構わない」

「はっ!」

 

 俺の席を見ると、隣席のゼングと、更にその隣のトラヴィーユが既に来ていた。

 

「モンテ殿!おはようございますぞ!」

「おはようゼング、今日も頑張ろう……トラヴィーユもよく起きられたな」

「練兵所は起床時間は大体これくらいだから、あんまりしんどくないです!」

「ほう、気合い入ってるじゃないか」

「……まぁ貴族家の子とかは特別扱いで、日の出まで寝ててよかったり、昼寝時間があったりするんだけど」

「昼寝って……託児所じゃないんだからさ」

 

 ……もっともうちも、主家の親戚筋だからで酒解禁させてるし、あんまり他人事じゃないな。うちのアレはほぼ無給だけど。そんな世知辛い世間話をしているうちにも、続々と参加者が入ってくる。

 

「おはようございます、将軍」

「おはようフォレ。今日は遅刻したって慌ててくれないのか」

「もう。前回大丈夫だって言ってくれたじゃないですか」

 

 何が怖いって、前回のフェニキス攻略戦の会議から、全然日が経っていないことだ。一ヶ月くらいは経っている気分でいた。

 

 供回りたちと雑談しているうちに、参加者が続々と集ってくる。そのうちの一人に、ノーズ将軍の姿もあった。

 

 ノーズ将軍は頼りなさの極致のような男だが、今回任せる任はうってつけだと思う。

 

「ノーズ将軍。どうぞこちらに」

「あ、あぁ……」

 

「どうも大将」

「へへへ〜、おっはよ〜ございま〜す」

 

 ジャンクは会議のとき、いつも直前でやってくる組。その徹底したスタンスは逆に好ましいくらいだ。シェリーについてはこんな感じなので、いつもは自由参加としているが、今回は事態が事態なので呼んだ。

 

 

「これより軍議を始める!」

 

 俺の宣言で雑談が止まり、視線が一斉にこちらを向く。

 

「はじめて顔を合わせる者もいるだろうから、自己紹介から入らさせてもらう。今回ゼルギウス将軍より、リバン河上流の防衛を任じられたモンテだ。以前はフェニキス島攻略を行い、これを成功させてきた」

 

 新しく合流した北方軍は負け続きだ。配属された上司の実績を聞いて、気休め程度にでも安心してもらう。

 

「この度皆に集まってもらったのは、現在のベグニオン軍、ラグズ連合の状況周知。並びにリバン河上流防衛部隊としての作戦の展開だ。まず始めに、ベグニオン軍の状況を伝える」

 

 背後に貼り出した、お手製の地図を棒切れにて指し示す。地図の精度だが、リバン河のみならず、セリオラ城、更にその東に位置するガドゥス城までをも範囲に含んだものだ。

 

「ベグニオン軍は現在、ガリアの半獣どもが渡河可能な流域を全て押さえている。このうち下流域をセリオラ公爵軍、中流域を中央軍、そして上流域を我々が担当している。上流軍はテルグム公の軍と、フェニキス攻略戦に参加した者たちだ。今回もよろしく頼む。

 セリオラ公爵だが、結局軍を拠出しなかった。口では連携を取るとは言っているが、事実上独立軍と思って相違ない」

 

「セリオラめ……」

 

 セリオラ公爵軍と一度戦列を共にしたテルグム公の軍勢は、彼らに対し思う所があるのか険しい表情をしている。まぁ渡河作戦前……原作では終始、北方軍は五十歩百歩なんだけどね。

 

「それと皆昼間に見ただろうが、我が軍と中央軍の陣地には、少ないが馬防柵が敷設されている。獣牙の半獣の勢いを削ぐのに使えるはずだ。各部隊長は現場の兵に、上手く使うよう通達しておくこと。

 そして対するラグズ連合だが、先日鷹の民の合流が確認されている。フェニキス島に残っていた守備隊ではなく、鷹王と戦列を並べてきた一線級の戦士だ。むしろフェニキス攻略に参加した兵こそ、侮らないように」

「「はい!」」

「ラグズ連合の視点から見れば、セリオラがテルグム公と同じように軍を拠出し、馬防柵の設置が更に進めば万事休す。そう遠くないタイミングで仕掛けてくる。この辺りは朝方に霧が出るようだが、奴らは鼻も耳も利くから完全な障害とはならない。夜明け以降、霧には特に注意してくれ」

 

 全体の概要はこんな所でいいだろう。

 

「で、ここからが本番だ。我々上流守備隊の作戦内容について。といっても基本やることは単純。河岸での水際防衛だ。歩兵で壁を作り、魔道士で削る。化身が解けた敵は弓隊で刈り取る。騎兵は戦列後方で待機し、前線が乱れたら騎馬突撃で押し戻す」

 

 口にはしないが、敵の負荷はなんならうちが一番軽いだろう。中央軍合流済み、馬防柵あり、今回もっとも脆弱なセリオラ勢がもっとも遠く、戦略的優先度が低い。

 

 もちろん敵は来るだろうが、それは他の戦線への支援を阻止するための攻撃だろうと予測している。こちらの内情を読み違え、テルグム公の軍が弱い前提の策を放置していた場合はこの限りでないが、そこは敵方の軍師セネリオを信用しよう。

 

「ここからは他言無用だが……問題はこの戦、我々がいくら奮起してもセリオラのせいで負ける可能性がある。そしてセリオラが潰走すると、そのまま我々の退路も失われる……そこでだ。ノーズ将軍」

「はははははいぃっ!?」

「セリオラ城を経由せず、その奥のガドゥス領まで退ける退却路がほしい。私の見立てでは、この林道が使えれば、セリオラ〜ガドゥス間を繋ぐ街道に合流出来るはずだ。将軍の元部下を中心に100を与えるから、ここを調査、確保してくれ」

「た、退路の確保にございますか……!」

 

 まずそもそも、退路が定まってない戦とは死戦とか死守とかいう性質の戦だ。個人的感情抜きに、ここをベグニオン中央軍の死に場所とするのは早計である。俺の予想ではセリオラが早期にぶち抜かれ、中央軍は渡河勢と下流側からくるガリア兵との二正面作戦になるだろう。もっと有利に戦える戦場はいくらでもある。

 

 とはいえ騎士がどうこうって価値観のある世界で、負ける前から退路の確保など、普通の軍人ならやりたがらないだろう。真っ当に任務をこなしても、その後の立場が悪くなるかもしれない。

 

 その点ノーズ将軍は極めて臆病で、退路の確保という仕事に対してのモチベーションは比較的高い。おまけに敵前逃亡の前科があるから、これ以上株が下がらないというのもある。

 

「林を抜ける所まで確認が出来たら、上流と中流にそれぞれ伝令を送ってくれ」

「か、かしこまりました!このノーズ、汚名挽回のため、この任完璧に果たしてみせます!!」

 

 ……いや、敵前逃亡の名誉を回復できる任務かは分からないが。

 

 ただこの件は中流を守る部隊にも伝令を送る。ゼルギウスが退路の情報を得て、感謝するようであれば覚えは良くなるかもしれない。

 

 セリオラには送らないのかって?たぶん伝令を送る前に負けてるだろ。なんならアイツらが勝てたらこの退路は使わなくていいんだから。

 

「トラヴィーユ。上流への伝令は君に任せていいな」

「わかった!」

「中流へは……」

「私の隊にいる、聖天馬騎士団の者を推薦します」

 

 申し出をくれたのは、中流側所属の部隊長だった。最悪馬で林道を突っ切る想定でいたから、使える飛行兵を割いてくれるのは助かる。霧中を飛行する点に関しては……技量を信じる他ない。

 

「ありがとう。ではノーズ将軍はもう出発してくれ。伝令として付くものもこの場で抜けてくれていい」

 

 さて、一番大事なことは決められた。後は細々とした所を詰めていこう。

 

「次に戦闘中の注意なんだが、フェニキス兵による急降下攻撃がくるだろう。何人かは弓兵を待機させ、万一に備えてくれ……もっとも、あまり良い策ではないんだが」

 

 フェニキス兵が来るかもしれないというだけで、こちらは全ての弓兵を稼働させることが出来ない。仕事はされているということになる。

 

「……それなんですけど」

 

 珍しく、ジャンクが手を挙げる。

 

「なにか案があるか?」

「弓兵の標的を切り替えられるよう、短文の指示を用意しておけばどうです?例として挙げるなら、一部待機させながらガリア兵を撃つときは『撃て』、フェニキス兵が乱入してきたら『備え』、待機中の弓兵もガリア兵に向ける時は『斉射』みたいに」

 

「それはいい案だ、覚えやすい!」

「撃て撃て撃て!みたいな指示を連中が聞いたら、撃ち切ったと思って降ってくるかもしれませんな」

 

 弓兵を率いているであろう部隊長も同調を示す。確かにシンプルでいい案だ。ある隊が奇襲してきた鷹の民に『備え』の指示で対応しているから、自分の隊は『斉射』に切り替えるといった連携も出来るだろう。

 

「では弓兵の運用については、ジャンク案を採用する。とにかく奇襲に混乱しないことが大事だ。本拠地を焼いた以上、敵はそう多くない。しっかり捌いていくぞ」

「「はい!」」

 

 さて次は……と思った所で、天幕の中に衛兵が入ってくる。渡河が始まったか、霧が出てきたら教えてくれと言っておいたのだが……

 

「報告します!霧が出てまいりました!」

 

 天はラグズ連合に味方した。こちらの陣営トップである元老院の所業を考えれば、当然なのかもしれない。が、そんなものは国を守るために戦う一兵士には関係ない。

 

「軍議は中止とする。各員持ち場についてくれ。霧が晴れたタイミングで、敵に動きがなければ再開するとしよう」

 

 絶対そんなことは起こらないだろうと思いつつ、部隊長らを持ち場に移動させる。

 

 さて。原作ではベグニオンがボロカスに負けた渡河作戦。どれだけ損失を抑えられるだろうか。

 

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