ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第十一話 リバン河攻防戦(2)

 各員が配置について半刻ほどが過ぎた頃、状況は動いた。

 

「撃て撃て撃てぇーッ!!!」

 

 弓兵隊の怒号と、恐らく獣牙族の断末魔が霧中に響く。開戦の合図だ。

 

 今回俺は、全体の中ほどに陣を構えている。FEのボス将軍らしく最後方に構えてもいいが、そうすると霧の影響で、前線の様子が何も分からないためだ。お前が負けたらマズイんだから、後ろでドンと構えてろよと言われるとぐうの音も出ないんだが。

 

「フォレは下がってもいいけどな」

「そんなこと言わないで下さい。私もお傍で戦います」

 

 俺の隣にはフォレが、炎の魔道書を構えて立っている。

 

 合流に向けて進軍してる最中、自身の胸の内を吐露してくれた彼女だが、その後は精神的に安定している。補給物資の受領手続きやら何やら、割り振られた仕事をしっかりとこなしてくれる。その内、俺の副官のような立ち位置になるかもしれない。親御さんに話したら「うちの娘になに雑用させてんじゃワレ」と怒られそうだが。

 

「炎魔法は次の戦で使うって言ったじゃないですか」

「よく覚えているな……俺から離れるな。庇いきれん距離にいたら、責任持てんぞ」

「分かってます……!」

 

 今更ゲームの仕様みたいなのに思いを馳せるのはなんだが、守護スキルと支援ってどうなってるんだろうね。彼女と戦友としての絆を育めているんだろうか。

 

 ま……いざという時は庇えばいい。スキルとかは関係なしに。

 

 で、他の供回りたちが何をしているかと言うとだ。ゼングは俺の後方で、100騎の騎兵部隊を従えて待機している。いざというときは俺が号令を出す手筈だ。

 

 シェリーは更に後方で負傷兵の手当てに当たってもらっている。彼女の必殺技はこの天候では使えないため温存だ。

 

 そしてジャンクだが、何か知らんがシューター……専用の矢を遠距離まで飛ばす設置兵器の傍にいた。シューターを操る弓兵に指示を出し、射角や方角を変えているが……なんか滅茶苦茶山なりに撃とうとしている。

 

「方位よし角度よし……発射!」

 

 ジャンクの指示に従い、弓兵がシューターを発射する。弾は霧の中へと消えていったが、少しして霧の向こうから、何かが暴れたような水音がした。

 

「ジャンクさん、なんかビシャビシャ言ってますよ向こう」

「当たったっぽいすね」

「ヤバいですね……」

 

 実際にシューターを撃った弓兵も唖然としている。

 

「で、お前は何してるの」

「ん~、シューターって出力足りないんで、化身した獣牙族には今ひとつ使いたくないじゃないですか。隊列の癖を見ながら後続の位置をある程度割り出して、見えない化身前の敵を撃ってみたんですが難しいですね。今回は弾の軌道もズレてたんでマグレです。今んとこ遊びの域を出ないっすね」

 

 え、なにファンタジー世界で間接射撃の真似事やろうとしてんの。というか遊びってお前な……

 

「お前自身はシューターを使えないのか」

「なんか弓使うライセンスがいるらしいです。僕はクロスボウ専業なんで」

「……まぁいい。一発目は良い威嚇になったろう。二発目からは真面目に使え」

「了解です」

 

 緊張感がないのは、自分がまだ接敵していないからか。前線でゆらゆらと蠢く松明の動きは今のところ落ち着いている。たまに何人かが後方へと離脱するが、その穴はすぐに後続が埋める。

 

 馬防柵は、全然ラグズが寄って来る様子がない。避けられている。いや正しくは馬防柵越しに化身前のラグズを撃ち殺すシーンは最初こそ見られたが、接敵から10分もしないうちに敵が全く寄りつかなくなった。敵の指揮官が不毛と判断した可能性はある。

 

 代わりに馬防柵がない場所では、重装兵との熾烈な攻防が繰り広げられている……訳でもなく、殺到する獣牙兵は渋滞を作り、後退の余地がなくなっている。

 

 対するこちらは後方に余裕があるため、傷ついた兵は第二陣と交代し、後方へと下がることが出来た。こうなると兵数の差よりも、杖の回復による継戦能力の有無が勝敗を分ける。だが前線が馬防柵で縮小しているために、実際に戦闘している兵の数が抑えられ、回復が間に合っていた。

 

 結論として対ガリア兵に限れば、綺麗に抑え込みに成功していた。もっともガリア兵はそもそも渡河が苦手な訳だし、これ単体に負けるようならそれはもう用兵が悪いとしか言いようがない。

 

「備えッ!備えッ!」

 

 後方から声が上がると、すぐさま鷹の悲鳴が聞こえてきた。回復役の杖使いを狙ってきたか。即時対応出来なければ危なかったな。

 

 その後も何度かフェニキス兵の急降下を防ぎつつ、目前のガリア兵を返り討ちにする。さて。このままつつがなく終わってくれたら嬉しいが……ここで勝てると原作ブレイクは必至だけど。

 

 

「モンテ将軍!」

 

 川下の方から騎兵が一騎、こちらへとやってくる。どうやら要らぬ心配をしていたようだった。騎兵は俺の前で下馬し、耳打ちしてくる。

 

「セリオラ公爵軍、敗走を始めました」

 

 ……2時間持たんかったか。まぁ、ナイスファイト。セリオラの後方には、9000の即応軍が控えている。まだ戦線は維持されているはずだ。

 

「上流軍はこのまま戦線を維持。退路の情報を待つ。中流で我々と連携する部隊長にも伝えて、終わったらまた川下に向かってくれ」

「はっ!」

 

「将軍!川上から獣牙族です!」

 

 次から次へと……!あとあんまりその情報は大声で報告しないでほしいかな。兵が動揺する。

 

「戦線は突破されていない!大方、濃霧に紛れた鷹が輸送したんだろう。少数のはずだ!」

 

 フォローは入れておきつつ、対処を考える。逐次投入されるのであれば、予備の歩兵を投じて戦線を築いたほうがいいが……いや。一旦騎兵を入れて様子を見るか。

 

「ゼング、少数なら蹴散らしてすぐ帰ってこい」

「おうよ!騎馬隊突撃!一人たりとも逃すでないぞ!」

「「応!!」」

 

 ゼングの号令の下、騎兵たちが続々と川上へと向かっていく。

 

 そうしている内、戦場にも少しずつ変化が起きつつある。僅かにだが、俺たちにとって有利な変化だ。

 

「……霧が、晴れてきたな」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「よいしょぉーッ!」

 

 トラヴィーユの掛け声と、飛竜の嘶きが共鳴する。竜の鞍に括り付けられた縄で、道を塞いでいた倒木をどかしたのだった。

 

 この林道を通過する内、何度かあった光景である。セリオラ城をあえて経由せず、隣国ガドゥス領まで通過したいなどというニーズが平時に一般的であるはずもなく、林道は長らく整備されていない状態だった。

 

 もし事前調査が行われずに、この道を退路として軍全体が通過しようとすれば、間違いなく目詰まりを起こしていただろう。そうなれば兵たちは散り散りに逃げなければならなかった。人並みの知能を持つ獣相手に、である。

 

「おおお、終わったか!終わったな、ヨシ!行くぞ皆!」

 

 ノーズ将軍は鎧をがちゃがちゃと打ち鳴らし、ほとんど疾走するようなペースで走り出す。彼らは決して道がいいとは言えない林道を、驚くべきペースで進んでいた。

 

「何見てヨシって言ったんですか!トラヴィーユくんの縄を……って、もうあんなとこまで走ってるし!」

 

 そう叫びながらトラヴィーユの騎竜に括り付けられた縄を解くのは、ノーズ将軍お付きの兵だ。彼女は手際よく縄を解く。が、既にノーズとその部下たちは、彼らから見て小さく映るくらい遠くまで進んでいた。

 

「追います。騎竜の背に乗ってください」

 

 トラヴィーユが兵を乗せ、騎竜を駆って後を追う。

 

「ごめんね。あの人、ベオク相手ならちょっと臆病くらいで済むんだけど……」

「そうなんですか?」

「うん。この前、クリミア王国で革命騒ぎがあったときは、そこそこしっかりしてたんだけどね……」

 

 ベグニオンの北西に位置するクリミア王国で、フェリーレ公ルドベックが反乱を起こしたのは、つい数カ月の話だ。

 

 発端は、デイン駐屯軍を破って独立を果たしたデイン王国に慶賀の使者として、親エリンシア派の有力貴族であるフェール伯ユリシーズを送ったことだった。

 

 ルドベックは今が好機と軍を起こし、一時は女王の籠もるアルピ砦を包囲するまで至った。その後は女王率いる手勢や合流した王宮騎士団の活躍によりルドベックは捕らえられ、加担した者は王宮騎士団に掃討されることとなった。

 

 すべては自身が王都を離れることで、反乱分子を炙り出すユリシーズの策だった。が、そんなことは国境に近いフラゲル、ムギルといった都市には関係がない。

 

「あの時は大変だったねー。王宮騎士団の掃討から逃げてきた人たちを追い返すために、国境沿いの警備隊を用意したり」

「……別人にすり替わってません?」

「あはは……」

 

 トラヴィーユの率直な問いに、兵士は力ない笑いを返すだけだった。

 

 

 

「着いた!着いた着いた着いた!着いたぞ!!!」

 

 トラヴィーユがノーズに追いつくとほぼ同時、視界が一気に開けた。林道を抜けたのだ。平野の遠くにセリオラ城が、セリオラ城からぐんと伸びる街道の先には、小高い山々が見えた。あの山脈地帯を越えれば、ガドゥス領である。

 

「と、とりあえず伝令を送らねば。ほら、いってきなさい」

「は、はい」

 

 急かされながら空に飛び上がるトラヴィーユ。彼が目にしたのは、セリオラ城の更に向こうから上がる黒煙だった。

 

「燃えてるの……野営地か?」

 

 だとすれば敵はかなり深くまで侵入している。なお伝令を急がなければと少年は奮起する。

 

 彼は知る由もないが、実態は野営地には渡河に先んじて、グレイル傭兵団が鷹の民の手によって運ばれており、当地の守備隊を撃破し、積荷を焼いて回って帝国軍本隊の混乱を誘ったのだった。原作のマップである。

 

 全速力で空を滑る飛竜だったが、ひとつだけ不運だったのは、その光景を野営地から目撃されていたことだった。

 

「……!?」

 

 予想外の出来事に、トラヴィーユは驚愕した。

 

 燃え盛る野営地の方角から、一騎の竜騎士が迫ってきていた。黒竜に跨った黒鎧の男。右目には眼帯をしている。

 

 彼の名はハール。蒼炎の軌跡、暁の女神を跨いで登場する古強者だ。特に暁の女神では高い攻撃力と守備力、移動能力から、『ハールの動く城』などと呼ばれる指折りの強キャラである。

 

「ひっ……!」

 

 実力差など、トラヴィーユ程度の実力でもすぐに分かった。速度を落とすことなく前進する。

 

 竜の羽音が後方から迫る。彼我の距離が確実に縮まっていることは、少年にもすぐ把握できた。コース取りなどの技量もそうだが、単に能力で大きく負けているのが要因だ。

 

 このままだと追いつかれる。そう感じた少年の眼下に、霧が晴れたリバン河が、そしてラグズ連合と戦う帝国軍が映った。

 

 水際防衛には完全に失敗し、川下と渡河勢による二正面からの攻撃を受けている。布陣も盤石でなく、後方まで浸透するラグズ兵も少なくない。乱戦状態へと突入しつつある。

 

 様相を一目見て、トラヴィーユはここが中流部隊の陣と確信した。彼が生き残る道は一つ。雇い主たるモンテの言を信じる他なかった。

 

 トラヴィーユは中流部隊に向かって急降下を開始する。そして――

 

「た゛す゛け゛て゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛え゛え゛え゛!!!伝゛令゛な゛ん゛て゛す゛!!!た゛す゛け゛て゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!」

 

 あらん限りの声で、涙ながらに絶叫した。

 

 戦場に響き渡る少年の絶叫。あまりにも迫真だったために、敵方であるはずのラグズ兵すら空を見上げる始末だった。

 

 そうしている間にも、ハールはぐんぐんと距離を詰めていた。間合いを見切り、投げ斧を構えた瞬間。トラヴィーユと彼の間に、幾重にも束ねられた稲妻が迸る。

 

「早く行け、ガキ!お前ら!雷魔法はあの黒い竜騎士に集めろ!」

 

 地上のどこかから上がる声と、何度も響き渡る雷魔法の轟音。いくら凄腕の竜騎士といえ、竜が苦手とする雷魔道士複数に狙われるのは少々面倒な事態だ。それでもハールの腕前であれば、降り注ぐ雷魔法の全てを回避して投げ斧で反撃することもできる。だがそれは任務の範疇外であった。

 

 追跡をやめ、引き返す羽音を耳にしたトラヴィーユは、どこの誰とも分からない同胞に深く感謝し、自分の主の下へと向かった。

 

 

 

 上流は中流と比較すると、かなり状態が良かった。水際の防衛線は未だ機能しており、河岸にはどす黒い血溜まりが生まれていた。見れば陣地のあちこちに、フェニキス兵の死体が転がっている。

 

 お目当てのモンテ将軍はすぐに見つかった。赤髪の女魔道士……フォレを傍に置いている、それっぽい槍武将というのがトラヴィーユの覚え方だった。悲しいかな、人相を見ればさすがに分かるものの、戦場ではモンテは兜を付ける都合、覚えやすい特徴がないのであった。

 

「モンテ将軍!林道の退路確保完了です!」

 

 トラヴィーユのその一言が、モンテにとってなにより待ち望んだ一言だった。

 

「でかしたぞトラヴィーユ!」

 

 モンテは大きな声で称賛の言葉を投げかけ、号令を下す。

 

「これより撤退戦を開始する!中央軍と連携し、少しずつ戦場を離脱するぞ!!」

 

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