ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第十二話 リバン河攻防戦(3)

 トラヴィーユの報告により、退路の確保が完了したことが分かった。だからといってゲームのように、はい全員で背中を見せて一目散、離脱地点に着けばもう安心……という訳にはいかない。

 

「水際防衛は引き続き継続!兵を集め、後方に第二陣を形成する!」

 

 最低限水際防衛に必要な兵を残し、後方に部隊を集める。河川敷であるため見晴らしもよく、敵の攻撃を食い止めるような備えもない。兵の装備と杖による回復に頼った陣地になる。

 

「トラヴィーユ!上空から中流の様子を確認。撤退が始まっているか、どれくらい陣形が崩れているかを見てくれ!」

「はいっ!」

 

 トラヴィーユはすぐさま上空へと飛翔すると、すぐに戻ってきた。

 

「中央軍は俺たちが確認した林道に向かって撤退を始めてます!陣形は、下流側は完全に乱戦!ここに近い部隊はまだ原型が残ってますが、下流方面にも歩兵の列を作ってます!」

 

 撤退が無事、俺の渡した情報を元に始まったのはまず良かった。しかしそれまでにだいぶ手酷くやられたようだ。これは俺たちが殿を買って出る他ない。

 

「うちの会議に参加してた部隊長、覚えてるな!そいつらに伝令頼む。『うちが第二陣を築いたら撤退を開始してくれ。完成したら連絡する』と!」

「わかった、いってきます!」

 

 トラヴィーユは、勢いよく飛び立っていく。

 

 しかしやはり飛行兵、飛行兵が全てを解決する!一人でもいいから飛行兵がほしいと、理屈をこねてトラヴィーユを引っ張ってきた甲斐があった。中世ファンタジーに、監視カメラ付きドローンを持ち込んだが如きイカれ具合だ。しかも自衛能力まである。

 

「フォレ、俺たちも下がるぞ。第二陣の確認をする」

「はい!」

「ゼングも騎兵隊を率いて第二陣の後方まで下がれ!騎兵突撃は後で使う、回復も済ませろ!」

「おう!」

 

 ジャンクは水際の防衛に専念してもらう。霧が晴れて以降はクロスボウを使い、猫や化身が解けたラグズなどの、比較的防御力の低い敵を確実に仕留めていっていた。

 

 猫と安易に言うが、ベオクと同程度の背丈の化け猫が俊敏に動き回るのだ。歩兵が槍や斧で倒そうとするとそこそこ仕損じる。そこを仕留めてくれるクロスボウ兵は、前線に安心感を与えるだろう。

 

 

 

 その後の戦況は、少なくともうちの担当区域では終始帝国軍優勢を貫いていた。水際防衛が破れる前に第二陣も完成し、中流側からの撤退兵を少しずつ受け入れ、後方の林道へと送り出している。

 

 水際での攻防は主にラグズ側の士気喪失が酷いのか、開戦直後に比べて明らかに散漫だ。俺たちは入れ替わり立ち替わりで対応しているが、連中は早朝からずっと川の中で釘付けにされている。

 

 秋の未明から朝にかけて、凍えるような水に数時間ほども浸かっているのだ。多少は堪えているだろう。頃合いだ。

 

「……水際防衛部隊、後退開始ッ!第二陣まで撤退せよ!」

 

 号令と共に、兵たちは川に背を向け走り出す。敵に背を見せるということだ。ラグズは鎧を纏うベオクに比べて遥かに機動力がある。何の援護もしなければ、兵たちが第二陣に辿り着くまでに多くの犠牲が出る。

 

「騎兵隊突撃!半獣どもを追い落とせ!」

「我輩に続けェ!突撃ィィイッ!!!」

 

 号令と共に、ゼングを先頭とした騎兵隊が上陸をしようとするラグズの一団へと襲いかかる。ラグズ側はどうもこちらの撤退に合わせて上陸を急いでいた様子で、最前列の兵は我先にと上陸しようとする後続に押されて過密になり、身動きが取れていなかった。

 

 騎兵突撃。歴史上、長らく戦場の花形を飾ったそれの恐ろしさを目の当たりにした気がした。蹄を打ち鳴らしながら高速で迫る質量の暴力が、盾すら構えない無防備な一団を蹂躙する。

 

「騎兵隊反転、自陣に戻れ!」

 

 騎兵隊の衝力を活かせるのは一度だけ。目的であった、撤退する歩兵の援護という仕事は既に完遂しているため、即座に引かせる。あとはこの騎兵を、第二陣の弓兵や魔法兵で援護すれば後退完了だ。

 

 と、考えていたのだが、少々予想外の事態が起こった。

 

「……ん?」

「上がってきませんね、敵……」

 

 フォレも訝しんでいる。てっきりすぐに追撃してくると思っていたラグズ達が、一向に水の中から上がってこない。死体が邪魔で上がってこれないという訳でもなさそうだが……?

 

 挙げ句、ラグズの中から一人、顔を青くした男が化身を解いて先頭に現れる。ご丁寧に両手を上げ、敵意がないポーズまで示して。

 

「こ、ここは見逃す!モウ追いかけないから、地上に上がらせてクレ!」

 

 震える声でそう告げる、恐らく指揮官と思わしきラグズ。どうも怖がらせすぎてしまったらしい。でもしょうがないよ。俺もこの転生先は外れだなと思うけど、君らの立場よりは数千倍マシだ。

 

 それはそうと、この申し出自体は悪い話ではない。戦意がほぼ潰えているとはいえ、敵はまだまだ数が多い。ここで吹っかけようものなら、今度こそ敵は死に物狂いで抵抗してくるだろう。こちらの損害も増える。

 

「……約束を違えるようなら必ず舞い戻り、貴様ら全員騎兵突撃で轢き殺す!いいな!」

「あ、あぁ!約束スル!助ケテくれ!!」

「我々は他の兵士が撤退してから退く!それまで水の中にいろ!一歩でも上がってくるようなら根絶やしだ!!!」

 

 大声で恫喝すると、彼らは大人しく川に浸りながら待機していた。

 

 獣牙族は誇り高き戦士。ニンゲンの脅しに屈した彼らに、今後軍内で立つ瀬はないだろう。それでも一兵卒に至るまで命令を無視する気配はない。

 

 恐怖は時に無益な犠牲を避けるのに役立つ。そんなことを思った。

 

「モンテ将軍、助かりました……なんですかこの状況は」

 

 中流から合流してきた部隊長が驚きの声を上げる。

 

「貴方の隊で最後ですか?」

「そうです。こちらに迫っていた敵は、上陸時点で進軍を停止しましたので、そのまま引き上げてきました」

「承知しました。では先行してください、我々が殿をします」

「何から何までかたじけない……お前ら退くぞ!」

 

 部隊長率いる兵たちの退却を確認し、俺たちも背後には警戒しつつ撤退を開始する。

 

 局地的には優勢を保ったまま戦線を離れられたが、肝心の中流はそうはいかない。追撃している兵もいるだろう。気の抜けない戦いはまだまだ続く。

 

 

 

 

 

 林道は一本道という訳ではなく、リバン河に沿って何箇所か合流出来る入り口がある。林を通りながら、セリオラ城を北に迂回する格好だ。

 

 入り口を少し進み、本道へと合流する。既に組織的な撤退は完了しているようで、林道はしっかりと踏みならされていた。たまに個人や小隊単位の撤退兵を見かける程度である。

 

「しかし道が細いな……」

 

 当然と言えば当然なのだが、林道はかなり道幅が狭い。武器を持った人間が、精々二、三人戦うのが限界だろう。となると大人数を維持する利点は少ない。

 

「……テルグム公の軍勢を先頭に林道を抜けてくれ。俺と供回りで殿を務めよう」

 

 河川敷では優勢だったからよかったが、撤退戦は本来強固な士気と練度を必要とする。どちらも北方軍にはあまり期待出来ない要素だ。さっさと戦場を離脱してもらう。

 

 テルグム公、中央軍、アニムス公私兵と順々に送り出し、いよいよ俺たちの番が回ってきた。

 

「よし。進むぞ」

 

 そう指示した矢先。背後に気配を感じ、咄嗟に振り返る。

 

 巨大な牙を持つ灰色の獣牙族。虎だ。どちらかと言うとサーベルタイガーのような外見をしているが、虎と呼称される。

 

 牙を剥いて襲い来る虎を盾でいなす。鷹の攻撃と比べて、かなり重い一撃だ。いなし際に槍を一撃見舞うが、それだけでは絶命たらしめることは出来ない。

 

 直後、虎の全身が燃え盛る炎に包まれる。フォレの炎魔法だ。獣牙族はその種の特徴として、炎魔法が弱点となっている。火だるまになってひとしきりのたうち回り、やがて事切れた虎を確認して、フォレを褒める。

 

「よくやったフォレ……中流側からだな。追討兵か?」

「休息を挟んで残党狩り……ということでしょうか」

「なら早いうちに突破しないとな」

 

 そう話しているうちにも、まばらにだが続々とラグズ兵が詰め寄せてくる。俺とフォレの後退を、機動力のあるゼングやトラヴィーユが援護。騎兵の後退をフォレ、ジャンクで援護し、シェリーが杖で回復を行う。ちょうど河川敷で行った後退の縮小版を繰り返しながら、少しずつ林道を進んでいく。

 

「ちっ、キリがないな」

 

 槍を振るい、迫ってくる猫を弾き飛ばす。ただそれも一撃で仕留めるには至らない。ジャンクが放ったクロスボウの矢が眉間を撃ち抜き、ようやく倒れた。

 

 このレベルの敵を一撃で屠れないことに、力不足を痛感する。戦術ではともかく、個人としての力量はどこまでいってもモブ将だ。虎の一撃はキチンと効くし、猫にはたまに攻撃をかわされる。ゲームの味方ユニットみたいに、単身無双することは出来ない。

 

 ……今度は面倒な相手がきた。虎が三体、徒党を組んでこちらに迫っている。

 

 三体に袋叩きにされれば、俺も少なからずダメージを負う。ならゼングかジャンクに一体受け持ってもらうか?いや、二人傷つくと回復の手が回らなくなる可能性もある。一人で受けるか――

 

 

 

 俺の脇を通り、俺たちとラグズの間に"誰か"が割って入る。"誰か"を認識するよりも早く、身の丈ほどの大剣が軽々と振るわれ、一刀の下にラグズたちが斬り伏せられていった。

 

 こんな事が出来る人物は、ベグニオン帝国軍に一人しかいない。赤い重装に大剣。マントをたなびかせる後ろ姿。

 

「無事か」

 

 難局を一瞬で打開したその人……ゼルギウスがこちらに振り返った。

 

「ゼルギウス将軍、どうしてこんな所に!?」

「貴殿を救いに来た。今貴殿に死なれては困るからな」

 

 そりゃ困るでしょうね!無事に生かしたテルグム公の軍とか、今後セリオラと話付けるときとか!なんだ割と現金な理由だったわ!

 

 こんな所にいる理由はさておき。ゼルギウスが"ここに来れる理由"は分かる。

 

 リワープの杖というものが作中に登場しており、どこへでも自由にワープ出来るという効果だ。ゼルギウスは次章でこれを使って、敵将であるスクリミルの下へ向かう。

 

 なんでたぶん、ゼルギウスはわざわざ林道を逆走して来た訳ではない。すれ違った部隊はどうだったとか、そういう話はここで聞いても分からないだろう。

 

「……ゼルギウス将軍に加勢して頂けるとは。ひとまず撤退しましょう」

「そうだな……その前に、新手だ」

 

 すぐさま押し寄せた複数のラグズは、ゼルギウスの姿を見るとその足を止める。歴然とした実力差が分かるのだろう。なんせこの人は漆黒の騎士だ、能力的には数段違う。

 

「身の程をわきまえよ」

 

 ゼルギウスが剣をかざし、ラグズ達を威圧する。ラグズ達は迂闊に飛び出す訳にもいかず、両者睨み合いだ。このまま待つのも時間の無駄だし、割り込んでもいいな、と思ったその時。

 

 遠くから響く獣の咆哮。今まで相手にした虎でも猫でもない、獅子のそれだ。

 

 三部の獅子といえば他でもない。ラグズ連合のスクリミル将軍だ。咆哮がなにかの合図だったのだろう。ラグズ達はそそくさと来た道を引き返し始める。なんにせよ、無駄な殺しをしなくて済んだ。

 

「ゼルギウス将軍、急ぎましょう」

「あぁ」

 

 その後、後ろからラグズが追ってくることはなかった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 ラグズ連合の渡河作戦。この作戦は渡河を達成することは勿論だが、その先にあるセリオラ城を電撃的に占拠することも不可欠だった。セリオラ城が帝国軍の拠点として機能する限り、たとえ渡河に成功しても背水の陣を強いられることになる。

 

 セネリオの策は、まずスクリミル将軍率いる最も破壊力の高い部隊で下流のセリオラ公爵軍を一蹴。中流以上の戦線はグレイル傭兵団による野営地の攪乱、鷹の民の急降下を用いた奇襲攻撃、陽動の上陸部隊を展開して動きを封じつつ、スクリミル将軍の部隊を二つに分ける。片方はスクリミル将軍が直々に率い、上陸部隊と連携して中流域を守る帝国軍を二正面で攻撃。もう片方はセリオラ公爵軍を追討しつつ城に通じる街道を進軍し、ベオクであるグレイル傭兵団と合流して、守備隊が崩壊したセリオラ城を攻略。

 

 結果的にセネリオの策はほとんど成功したといってもよかった。渡河は成功し、セリオラ城もその日のうちに陥落させた。作戦目標は達成している。あとはリバン河でどれだけ敵兵を減らせるかが焦点だったのだが……

 

 

 

「俺たちは勝った!今回も快勝だ!渡河すら成し遂げた俺たちは、最強だ!!!」

 

 夜半、セリオラ城に集ったラグズ兵に演説をする、燃えるような赤い髪の男がスクリミル将軍。ガリア王カイネギスの甥であり、次期ガリア王だ。ラグズらしく猪突猛進で血気盛んで、兵からの人望はとても厚い。

 

 スクリミルの演説に、地鳴りのような歓声を上げるラグズ兵たち。その様子をセリオラ城の窓から見つめるのが、彼の副官であるライだった。

 

「……ま、あれは士気を維持するためでもあるしさ。大目に見てやってくれないか、軍師殿」

 

 同室にいるセネリオに対しそう語るライ。アイクの隣にいるセネリオは、苦い顔をしていた。

 

 この場に同席しているのは、アイク、セネリオ、ティアマト、ライ、そしてティバーン。奇しくも渡河作戦前の軍議に参加していたメンバーだった。

 

「……先の戦いでの結果を報告します」

 

 そう切り出したセネリオの口から、今回の被害状況が語られていく。

 

 まずセネリオが指摘したのは、今回作戦に参加した鷹の民の被害状況だった。中流以下では機能したものの、上流で作戦に当たったフェニキス兵1000のうち、その半数が死亡したこと。目論見ではある程度ヒットアンドアウェイが出来る想定であったが、一部の弓兵を常に待機させておくことで、急降下と同時に処理されてしまったことが原因だった。

 

 そして敵に与えた損害についても触れる。本来はセリオラ城への街道を占領することで退路を断つ手筈だった。それが林道を通り、セリオラ城を迂回してガドゥス城へと撤退してしまったことで、十分に敵兵を撃破できなかったこと。

 

「――結論ですが、今回の作戦で渡河には成功しました。橋頭保も確保し、少なくとも即座にリバン河に叩き落される可能性は低いでしょう。ですが帝国の兵数が依然として多く残存しており、こちらの劣勢は続いています」

 

 それがセネリオの本作戦についての総括だった。

 

「それと、もう鷹の民を用いた奇襲作戦は用いない方がいいでしょう。敵が有効な手立てを見出しています」

「……」

 

 ティバーンの表情は固い。彼と共に戦ったフェニキス兵は、つまり帝国の中央軍とも一度は正面から戦ったことのある歴戦揃い。それが対策されてしまったことは、少なからず衝撃だった。

 

「……僕はこの作戦が成功した暁には、帝国への和平交渉を試みるべきだと考えていました。ですがこの状況ですと、もう一戦必要になるでしょう」

 

 セネリオの言葉に、ライが頭を抱えた。

 

「フェニキス兵も封じられながら、もう一戦か」

「何も絶対にフェニキス兵を用いられないという訳ではありませんが、使い所は考えなければなりません。そして敵が万全の状態で備えているガドゥス城に特攻をかけるのも自殺行為です。なんとかして野戦に持ち込む必要があります」

 

 原作では鷹王が別動隊を率い、帝国軍をソゼ峠へと釣りだすという策を講じていたセネリオ。今回は同様の手を使えなかったが……

 

「……次の策がまとまりました」

 

 セネリオはそう宣言した。

 

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